豆腐の日
今日10月2日は語呂合わせで「豆腐の日」。1993年に日本豆腐協会が制定したらしい。しかし同時に「毎月12日も豆腐の日」としたのは余計だった。この手の記念日は年に一回くらいでないと意味を為さない。
いまでこそ日本全国、どこでもよく似た豆腐が売られている。しかし豆腐が一般に普及した江戸時代には、関東の豆腐は関西に比べ硬くて色黒だった。京都の豆腐はまるで雪のように白く美味しいと評判だったらしく、江戸で「京豆腐」を看板に商いを始めた者もいたという。食通で知られた北大路魯山人も「美味い豆腐はどこで求めたらいいか? ズバリ、京都である」と著書の中で断言している。豆腐は約8割が水。京都の井戸水は美味い。
江戸中期の大坂では「豆腐百珍」が出版されてベストセラーとなった。家庭料理としてのレシピから、手間の限りを尽くした調理法まで掲載されており、当時の関西で豆腐料理がいかに研究されていたのかをうかがい知ることができる。以後、「豆腐百珍続編」「鯛百珍」「玉子百珍」と次々と追従書が発刊され、江戸の世に一大グルメブームをもたらした。その先陣を切った「豆腐」こそ、身近で美味いものの代表格だったに違いない。
湯豆腐は南禅寺の精進料理が庶民に広まった。しかしこの料理は簡単そうに見えて意外と奥が深い。豆腐を温めるだけなら簡単だが、火の通し過ぎは禁物。豆腐は冷たいときよりも温めたほうが軟らかくなる。だからほどよく温めてつるりとした食感を楽しみたい。だが70度を超えると、今度はたんぱく質が急激に固くなる。いわゆる「スが立った」状態。こうなるとボソボソした口当たりになり味気もなくなる。
大阪の湯豆腐は京都とはまた異なるから不思議。初めて見た時は驚いた。鍋で出てくるのかと思ったらそうではない。大ぶりの器に温めた豆腐を1丁まるごとドン。おぼろ昆布やネギや削り節を散らした上から、たっぷりの出汁をかけてある。モミジおろしやタレはない。食べる時はレンゲを使って豆腐を削るようにすくう。京都の料亭で食べるようなエレガントさはない。豆腐だってそこら辺で売ってそうなやつ。でも、これはこれで美味い。豆腐というより出汁の美味さ。さすが大阪。なにせ「肉うどんのうどん抜き」が名物メニューとして成立するお土地柄である。
大阪の居酒屋で出される湯豆腐は基本このスタイル。というか京風の湯豆腐に出会ったことはない。今宵は天満の昼飲み天国「天満酒蔵」で湯豆腐で日本酒を傾けた。湯豆腐200円。日本酒270円。計470円。安い。それでもこの湯豆腐に合わせると、安酒がたちまち吟醸酒のごとき深い味わいに変化するから不思議だ。ちなみに昨日10月1日は「日本酒の日」だった。記念日にかこつけて飲むのも悪くない。
***** 2023/10/2 *****
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