2023年10月 2日 (月)

豆腐の日

今日10月2日は語呂合わせで「豆腐の日」。1993年に日本豆腐協会が制定したらしい。しかし同時に「毎月12日も豆腐の日」としたのは余計だった。この手の記念日は年に一回くらいでないと意味を為さない。

いまでこそ日本全国、どこでもよく似た豆腐が売られている。しかし豆腐が一般に普及した江戸時代には、関東の豆腐は関西に比べ硬くて色黒だった。京都の豆腐はまるで雪のように白く美味しいと評判だったらしく、江戸で「京豆腐」を看板に商いを始めた者もいたという。食通で知られた北大路魯山人も「美味い豆腐はどこで求めたらいいか? ズバリ、京都である」と著書の中で断言している。豆腐は約8割が水。京都の井戸水は美味い。

江戸中期の大坂では「豆腐百珍」が出版されてベストセラーとなった。家庭料理としてのレシピから、手間の限りを尽くした調理法まで掲載されており、当時の関西で豆腐料理がいかに研究されていたのかをうかがい知ることができる。以後、「豆腐百珍続編」「鯛百珍」「玉子百珍」と次々と追従書が発刊され、江戸の世に一大グルメブームをもたらした。その先陣を切った「豆腐」こそ、身近で美味いものの代表格だったに違いない。

湯豆腐は南禅寺の精進料理が庶民に広まった。しかしこの料理は簡単そうに見えて意外と奥が深い。豆腐を温めるだけなら簡単だが、火の通し過ぎは禁物。豆腐は冷たいときよりも温めたほうが軟らかくなる。だからほどよく温めてつるりとした食感を楽しみたい。だが70度を超えると、今度はたんぱく質が急激に固くなる。いわゆる「スが立った」状態。こうなるとボソボソした口当たりになり味気もなくなる。

大阪の湯豆腐は京都とはまた異なるから不思議。初めて見た時は驚いた。鍋で出てくるのかと思ったらそうではない。大ぶりの器に温めた豆腐を1丁まるごとドン。おぼろ昆布やネギや削り節を散らした上から、たっぷりの出汁をかけてある。モミジおろしやタレはない。食べる時はレンゲを使って豆腐を削るようにすくう。京都の料亭で食べるようなエレガントさはない。豆腐だってそこら辺で売ってそうなやつ。でも、これはこれで美味い。豆腐というより出汁の美味さ。さすが大阪。なにせ「肉うどんのうどん抜き」が名物メニューとして成立するお土地柄である。

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大阪の居酒屋で出される湯豆腐は基本このスタイル。というか京風の湯豆腐に出会ったことはない。今宵は天満の昼飲み天国「天満酒蔵」で湯豆腐で日本酒を傾けた。湯豆腐200円。日本酒270円。計470円。安い。それでもこの湯豆腐に合わせると、安酒がたちまち吟醸酒のごとき深い味わいに変化するから不思議だ。ちなみに昨日10月1日は「日本酒の日」だった。記念日にかこつけて飲むのも悪くない。

 

 

***** 2023/10/2 *****

 

 

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2023年10月 1日 (日)

夕霧と野風

大阪駅からほど近く、近松門左衛門の「曽根崎心中」で有名なお初天神の境内を抜けた裏路地にその店はひっそりと佇んでいる。

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「夕霧そば 瓢亭」。1952年創業の老舗だ。

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名物は店の名前にもなっている「夕霧そば」。柚子皮を練り込んだいわゆる「柚子切り」だが、関西では柚子を「ゆう」と呼ぶことから、「柚子切り」が「ゆうぎり」に変化したという。同じく近松門左衛門の原作で上方歌舞伎の代表演目でもある「吉田屋」に登場する遊女のヒロイン「夕霧」を意識したネーミングだそうだ。

つい最近も、米国からユウギリに関する話題が飛び込んできたばかり。9月16日、米国チャーチルダウンズ競馬場で行われたオープンマインドS(リステッド・ダート1200m)を「Yuugiri」という馬が勝った。父 Shackleford、母 Yuzuru、母の父 Medaglia d'Oro という血統の持ち主で、オーナーは「エア」の冠名でお馴染みの吉原毎文氏である。「柚子」を母に持つ「夕霧」だから、まさにこの蕎麦のような一頭ではないか。

母 Yuzuru の1歳上の姉に Nokaze というエンパイアメーカーの牝馬がいる。2011年の大ヒットドラマ「JIN-仁-」で中谷美紀さんが演じた遊女「野風」からのネーミングかもしれない。

Nisinomiya

昨日行われた西宮Sでは、Nokaze産駒のエアサージュ(牡5・父Point of Entry)が7番人気の評価を覆してアタマ差の2着。そして今日のポートアイランドSではエアファンディタ(牡6・父ハットトリック)が別定の60キロを背負いながらも3着に好走した。Nokaze一族の運気は上がっている。水曜の大井・東京盃に出走を予定している長男エアアルマス(牡8・父マジェスティックウォリアー)にとっては良い流れかもしれない。

Portisland

Nokaze の産駒としてはエアアネモイ(牡4・父Point of Entry)やエアメテオラ(牡3・父Goldencents)もJRAで2勝を挙げており、繁殖牝馬としての活躍は目覚ましいものがある。エアファンディタもまだまだタフに活躍できるだろう。60キロを承知でポートアイランドSに出走してきた裏には何か思惑があったはず。酷量を背負いながら稍重馬場で33秒1の末脚を繰り出したあたり、6歳秋でもその能力に衰えは見られない。父ハットトリックにJRA初の重賞タイトルを送るチャンスはあるはずだ。今後の走りに注目しよう。

 

 

***** 2023/10/1 *****

 

 

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2023年9月30日 (土)

シリウスに向かって飛べ

関西地区のJRA重賞をすべて生観戦することを目標に掲げてきたが、今日のシリウスSでリーチが掛かる。あとは京都金杯を残すのみ。平日に行われる上、この3年間は中京開催だからおいそれと観に行くことができなかった。京都開催に戻る次回こそコンプリートのグランドフィナーレとしたい。

ともあれシリウスSを観るのは初めてだ。ハンデGⅢとはいえJRAで行われるもっとも距離の長いダート重賞である。といってもその距離は2000mでしかない。いや、厳密には「芝78m+ダート1922m」である。

国内外を問わずダートのチャンピオンディスタンスは2000mが常識となっているのに、JRAにダート2000mの重賞がこのレースひとつだけというのは違和感を感じるかもしれない。ただ、芝コースの距離設定を優先して設計されているJRAの競馬場で、芝とダートの両方で2000mを設定することは難しい。自然とダート2000mの舞台は地方の領域となる。

ともあれ、オメガパフュームやアウォーディー、ワンダーアキュートといったチャンピオンホースも、このシリウスSでダート2000mをこなし、やがて東京大賞典やJBCクラシックを制するまでになった。

今年のシリウスSは1番人気ハギノアレグリアスが4角6番手から直線だけであっさり前を捉えると、58.5キロのトップハンデをものともせず名古屋大賞典以来の重賞2勝目を挙げた。

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キズナ産駒の6歳牡馬で、祖母がタニノクリスタルだからタニノギムレットは叔父ということになる。それ以外にもタニノエポレット、プリュムドール、プリュムドールといったステイヤーが名を連ねる母系を見れば距離延長は望むところ。JRA最長距離ダート重賞のタイトルは譲れない。たとえJRA重賞未勝利でも、たとえトップハンデでも、そしてたとえ大外枠であっても、今日は負けるわけにはいかなかった。

四位調教師は意外にも重賞初勝利だそうだ。騎手としては2001年のシリウスSを勝っている。優勝馬は直線一気でお馴染みブロードアピール。当時のシリウスSはダート1400mの短距離重賞だった。

首尾よく賞金加算に成功したハギノアレグリアスの展望は明るい。6歳とはいえ、まだキャリア15戦。馬体は若い。3歳秋に3連勝でオープン入りを果たすも、直後に屈腱炎の憂き目を見た苦労人(馬)である。1年8か月の長期休養の間にそれまでの松田国厩舎から四位厩舎に転厩。それでも今日のレースぶりを観れば完全復活と言って良かろう。初めて生観戦したシリウスSが、名馬物語のターニングポイントとなるよう、ハギノアレグリアスを応援し続けよう。

 

 

***** 2023/9/30 *****

 

 

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2023年9月29日 (金)

秋風にたなびく雲の絶え間より

今日は中秋の名月。大阪市内でも大きくて真ん丸な月を眺めることができた。

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秋は月が美しい季節。俳句で単に「月」といえば秋の月を指す。競馬でもムーンライトハンデキャップと聞けば秋を思い浮かべる人も少なくあるまい。アドマイヤムーンは当時秋に行われていた札幌2歳Sで重賞初制覇を飾り4歳秋のジャパンカップで有終の美を飾った。その子ハクサンムーンも通算7勝のうち9~11月に重賞2勝を含む4勝を挙げている。その名に「月」を抱く馬たちが輝くのも、決まって秋だったような気がしてならない。

今年もファストフード業界を中心に月見商戦が過熱している。日本マクドナルドが目玉焼きを挟んだ「月見バーガー」を発売して32年。近年はモスバーガーやケンタッキー・フライド・チキン、牛丼や持ち帰りピザのチェーンまで参戦してマクドナルドの牙城を崩しにかかっている。

コメダ珈琲では昨年から発売開始している「フルムーンバーガー」を今年も発売。満月に見立てたオムレツと肉厚のハンバーグを使ってボリューム感をアピールしている。また、すき家は「月見旨辛すきやき牛丼」を投入。満月思わせる卵黄を崩すことで、すき焼きの味の変化を楽しむことができる。

これらの月見商品に共通しているのは、どれも卵を使っていることだ。現代の月見において団子の肩身は狭い。

とはいえ「月見」の嚆矢はうどんである。ご飯に卵を載せれば「タマゴかけごはん」なのに、うどんに落として「月見うどん」と呼んだのは日本人ならではの感性であろう。もちろん黄身が満月。そして熱々のツユで温められて白さを増した白身は雲を表す。

目玉焼きを挟んだハンバーガーはたしかに美味いが、月見の要素を感じることは存外少ない。食べる前にバンズを剥がさない限り「月」が姿を現さないからである。窓のない部屋で月見をしているようなもの。視覚に訴えるものがない。

卵黄だけの「月見旨辛すきやき牛丼」も同様。雲は月見を決して邪魔するものではない。むしろ月明りの美しさ、ありがたさを引き立てる重要な要素である。黄身と白身が揃うことで美しい月見の絵が成立する月見うどんの感性を軽んじてはいけない。

「秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ」

そう詠んだ左京大夫顕輔の気持ちに思いを馳せながら、今宵は梅田食道街の人気店「潮屋」で月見うどんを食べて、のんびり月を眺めながら帰宅した。

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釜玉はしょっちゅう食べるのに、月見うどんとなると案外食べる機会が少ない。振り返れば温玉や卵天に走っていた自分に気付くことになる。黄身によってまろやかさを増したツユの味が懐かしく感じられるのは、きっとそのせいに違いない。月あかりの有難味が薄れつつあることと、根っこは同じであろう。

明日の中山5レースにムーンライトデイという2歳牝馬を見つけた。ニューイヤーズデイ産駒で母はルナリア、その母はムーンライトダンスという血統。管理する田島俊明調教師の名前にも「月」の文字が入っている。秋に輝く月の、その「さやけき」走りを見届けたい。

 

 

***** 2023/9/29 *****

 

 

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2023年9月28日 (木)

短距離も逃げ馬

過去10年のスプリンターズSの優勝馬10頭を性別で分けると、牡馬8頭に対し牝馬が2頭。さらにその前の10年間では牡馬7頭、牝馬3頭となっている。グレード制が導入される以前のスプリンターズSでは牝馬が9勝8敗と牡馬を抑えていたが、近年は牡馬優勢の傾向が強い。

背景には距離に対する考え方の変化がある。日本ダービーや天皇賞春といった中長距離が重視されていた当時、スプリント路線を目指す強豪牡馬などいなかった。強い牝馬と弱い牡馬がぶつかれば、牝馬優勢になるのも無理はない。

1979年などは上位6着までを牝馬が独占している。この年のスプリンターズSを勝ったのはサニーフラワー。その勝ち時計は1分12秒8とかかった。むろんこの年のスプリンターズSがダート変更になったわけではない。当時の芝コースは、ひとたび雨が降ればたちまち泥田と化した。ゆえに状況によってはダートの方が時計が出ることもある。1977~78年のスプリンターズSを連覇した快速牝馬メイワキミコは芝とダートのそれぞれで1200mのレコードをマークしたが、芝が1分9秒3であるのに対し、ダートは1分9秒2と芝より早い。そもそも勝ち時計すら、当時はさほど重視されなかった。

中山の1200mで1分8秒の壁が初めて破られたのは、1990年のスプリンターズS。バンブーメモリーが1分7秒8で優勝し、それまでのレコードをコンマ3秒縮めてみせた。実はスプリンターズSはこの年からGⅠに昇格したばかり。そういう意味ではレースの格がタイムに現れやすい条件ともいえる。翌年はダイイチルビーが1分7秒6で優勝。以後、スプリンターズSでは1分7秒台の決着が珍しくなくなる。そしてついに2012年にロードカナロアが1分6秒台での優勝を果たした。スプリンターズSで1分5秒台が叩き出され日も、そう遠くはあるまい。

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高速化はスプリンターズSにはもうひとつの変化をもたらした。逃げ馬の台頭である。

スプリンターズSが秋に行われるようになってからというもの、ダイタクヤマト、カルストンライトオ、テイクオーバーターゲット、アストンマーチャン、ローレルゲレイロ、ウルトラファンタジーが逃げ切り、メジロダーリング、ハクサンムーン、ミッキーアイル、モズスーパーフレアが逃げて2着に粘っている。距離体系の整備によってスプリンターの血統選別が進んだ今、スピード能力にあふれる馬がマイペースの逃げに持ち込めば、そう簡単には止まらない。俗に言う「長距離の逃げ馬、短距離の差し馬」も、ことスプリンターズSに限ればそうとも言い切れなくなる可能性を秘めている。

そも6ハロン戦自体が戦後なってから行われるようになった比較的新しい距離。1946年のレコードタイムはヤスヒサの1分15秒4/5(当時は1/5秒単位の計時)だった。それが現在ではテイエムスパーダが昨年マークした1分05秒8だから、ちょうど10秒を縮めるのに76年かかったことになる。つまり歴史的に見れば今なお変遷の最中であってもおかしくはない。

スプリンターズSは今年も7秒台の決着となるのか、それとも11年ぶりに6秒台が出るのか。日本レコードホルダーのテイエムスパーダの参戦もあって、時計にも注目の一戦となりそうだ。

 

 

***** 2023/9/28 *****

 

 

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2023年9月27日 (水)

京都から神戸へ

先週日曜に行われた神戸新聞杯をサトノグランツが勝った。帰京していたので写真はない。しかし、その勝ちっぷりは鮮烈のひと言である。普通なら負けの流れ。オワタと思わせるシーンは一度や二度ではない。それでも最後の数完歩だけで一気の形勢逆転。川田将雅騎手の手綱さばきを賞賛する声が溢れるが、それに応えた馬も凄い。

サトノグランツはこれで京都新聞杯と神戸新聞杯の両方を制したことになる。この2レースは1999年まで秋に行われる菊花賞トライアルだった。9月に神戸新聞杯、10月に京都新聞杯、そして11月に本番の菊花賞。ゆえに神戸と京都の両方を制した馬はたくさんいる。1963年コウライ6オー、1966年ハードイツト、1971年ニホンピロムーテー、1972年タイテエム、1974年キタノカチドキ、1976年トウショウボーイ、1986タケノコマヨシ、1994スターマン、そして1997マチカネフクキタル。トライアル連勝はさほど珍しくない。

ただ、2000年を境に京都・神戸の関西ブロック紙2冠を果たす馬はパッタリいなくなった。この年から京都新聞杯が春に移動してダービートライアルとして生まれ変わったため。それを初めてクリアしたのがサトノグランツということになる。

名門新聞として関西だけでなく競馬界にもその名を轟かせる京都新聞と神戸新聞は、様々な面で協力関係にある。有名なところでは阪神大震災で神戸新聞社が被災した際に、京都新聞社で紙面を制作して発行を続けたという話。その後2007年にも神戸新聞社の紙面制作システムが障害を起こした際、京都新聞社で紙面制作を代行している。今で言うBCPの走り。時代遅れの紙媒体とはいえ、発行が途切れることでアーカイブとしての存在価値すら失う恐れがあることから、新聞各社はどんなことがあっても発行を止めることが無いようなスキームを構築している。

競馬新聞はどうだろうか。

Shinbun

たとえば日刊競馬さんは自前の組版システムと印刷システムを持っており、JRAと南関東4場開催の年間365日発行をこなしている。専門紙業界の中ではかなり充実した設備であることは間違いない。一口にに専門紙と言ってもその規模はさまざまで、「輪転機なんていちいち持ってないよ」というところも多く、大半の専門紙は他社の工場に印刷を委託している。有名な全国紙の工場で印刷している競馬専門紙もなくはない。

そもそも、輪転機などなくとも、印刷は委託しまえば済むことである。インターネットで紙面のデータをびょろろ~っと送ってしまえば、それでおしまい。あとは委託先が、印刷して、裁断して、折り込んで、梱包までしてくれる。それでも、組版システムの方は自前で持ってなきゃならんので、万一そのシステムが動かんとなれば、その日の新聞発行を諦めるほかはない。そこは新聞社も競馬専門紙も立場は同じ。

とはいえ、競馬ファンにしてみれば、さほどの影響は無いのかもしれませんな。「競馬エイトが手に入らないなら今日は馬券は買わねぇ!」とか「競馬ブック以外の新聞は見方が分からない」なんてファンはごく少数だと思う。

ちなみに在京の競馬専門紙各社は、システムトラブルや災害などで新聞発行ができなくなった場合に備えて、お互いの組版システムの互換性を高めている。阪神大震災や2007年の神戸新聞社のシステムトラブルが、その流れを加速した。でも、例えば「日刊競馬」の組版システムで「競馬ブック」を作ることになったら、馬柱はタテ組になるんだろか? タテ組のブックなんて有り得ないですよね。見てみたい気もするけど。

超巨大地震で首都圏が壊滅したりしない限り競馬専門紙は常に発行されます。なので競馬ファンは安心してください。まあ、そんな細かい心配せんでも、東京が壊滅状態になったらさすがに競馬は中止ですな、でも、少なくともシステムトラブル程度なら乗り越えられると思う。たぶん。

 

 

***** 2023/9/27 *****

 

 

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2023年9月26日 (火)

牛肉バンザイ

母の生家が鰻屋や鮮魚店を営んでいたせいで子供の頃の食卓に鰻やマグロが踊ることはあっても、肉が並べられることはほとんど無かった。たまの「焼き肉」も当然のごとく豚肉。ゆえに、私にとっての「ご馳走」とは、鰻でも鮨でもなく牛肉なのである。

そんな私であるから思わず取り乱したのも無理はない。先日、神奈川の自宅に届けられたクール便の箱には、まごうことなく「和牛」と記されていた。

「わー、わ、わ……わぎゅう!?」

家族4人と犬1匹が荷箱をぐるりと取り囲み、家長たる私が恭しく包装を解いてフタを開けると、「わあっ!」という歓喜の声が沸き起こった。鮮やかなピンク色の牛肉たちが、箱いっぱいに詰め込まれているではないか! 妻は言葉を無くし、娘二人は万歳を繰り返し、犬は歓喜のあまりウレションを漏らした。きっと私の目にも涙が浮かんでいたことであろう。

Wagyu

―――なんて、多少の誇張はあるにせよ、牛肉には人の心を弾ませる何かがある。いくら豚肉が美味しくて、ヘルシーで、ビタミンBが豊富であっても、ここまで人を高揚させることはなかろう。

赤身の多い外国産牛肉ならシンプルなアメリカンステーキだが、サシの豊富な和牛はやはりすき焼きかしゃぶしゃぶで頂きたい。某漫画の影響かしらんが、食通ぶるような人ほど「すき焼きは牛肉の旨さを分かってない奴の食い方だ」と言ったりするものだけど、決してそんなことはない。不味いのだとしたら、それは作り方(鍋だから「食べ方」というべきか)に問題があるのであろう。そういう人は試しに和牛と長ネギだけですき焼きをやってみるとよい。すき焼きの奥深さが分かるはずだ。

すき焼きのルーツはいくつかあるが、そのひとつに横浜で生まれた牛鍋がある。

幕末当時、わざわざ母国から牛肉を取り寄せていたほど牛肉好きな居留外国人たちが、こぞって絶賛したという牛鍋が「牛肉の美味さを知らぬ」調理法であるとは考えにくい。この牛鍋をかなり早い時期に食べていたのが、かの福沢諭吉である。彼は当時としては珍しい肉食論者でもあった。

ちなみに、牛肉以外の具材を俗に「ざく」と呼ぶが、本来これはネギのみを指す言葉。つまり、黎明期は牛肉と長ネギだけの鍋だったのである。明治初期に整腸剤としてシラタキが加わり、さらに戦後の食材不足の折に焼き豆腐と春菊も鍋に入れられるようになった。そういう意味でも、やはりすき焼きは和牛と長ネギを味わう鍋と思えるのである。

 

 

***** 2023/9/26 *****

 

 

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2023年9月25日 (月)

カレーの街

彼岸を過ぎてようやく都内は9月らしくなってきた。「涼しい」とまでは言い切れないが、少なくとも30度には届かない。神田近くまで来たついでに、ちょっと歩いてカレーでも食べに行こうかという気にもなる。

カレーは暑い夏に食べてこそ美味しいということは承知しているが、これまでの暑さではまず外に出ようという気にならない。神田の街を歩いてカレー屋巡りをするなら今日くらいがベストであろう。

Kyouei

「ボンディ」「ガヴィアル」「共栄堂」「トプカ」「まんてん」……。名店と呼ばれる神田のカレー専門店を挙げれば十指に余る。さらに「キッチン南海」や「ルー・ド・メール』」のようにカレー専門の看板を掲げていなくても、美味いカレーを出す店を探せばきりがない。

なぜ神田にカレー店が多いのか?

「神保町の交差点近くにインドセンターの建物があってインド人が多くいたから」という説と、「古本を買った人が本を読みながらスプーン片手に食べられるから」という二つの説があるようだが、真相は明らかではない。まあ、我々とすれば美味しいカレーが食べられれば文句はないわけだが、「ボンディ神保町本店」を訪れるたび、後者の説を信じたくなる。

Bondy

なにせこの店、古本屋の中にある。以前は靖国通りから「神田古書センター」に入ると、「ボンディへご来店のお客様は書店を通り抜けてお越し下さいませ」の看板が目に飛び込んできたものだ。ちなみに今では書店を通り抜けるのはご法度。逆に「通り抜けるな」という張り紙がある。こんな騒ぎになるのも、カレーの味わいが傑出している証拠。さすがは、激戦区神田の「カレーグランプリ」の初代王者。その味について、ここでくどくどと書きたてる必要はあるまい。

Gavial

その「ボンディ」から独立した店主が営む「ガヴィアル」のカレーも捨てがたい。ボイルして潰したタマネギに牛肉と野菜のスープを混ぜて、バターと生クリームで仕上げるルーは完成まで3日もかかるという。どちらかと言えば、私は「ボンディ」よりこちらが好み。今は神保町駅に移転しているが、15年ほど前に神田駅前で営業していた当時は、近隣にオフィスを構える一口愛馬クラブ関係者が、カレーを食べながら調教師の悪口を言っていたものだ。テーブルが隣り合わせになったりすると、そちらの会話が気になってカレーの味どころではない。ナニナニ、あの調教師とあの騎手の仲が悪いという噂は本当だったのか……。

かつて神田の街には一口馬主クラブの事務所が多くあった。神田だけでもセゾンレースホース、ヒダカブリーダーズユニオン、ゴールドレーシング、友駿ホースクラブの4法人が。さらに神田の隣町である日本橋や三崎町にはローレルクラブやウインレーシングクラブが軒を連ねていたのである。神田は古本の街であり、カレーの街であり、そして一口馬主クラブの街でもあったわけだ。

 

 

***** 2023/9/25 *****

 

 

 

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2023年9月24日 (日)

東西つるまる食べ比べ

先週金曜日の話。運転免許証の更新のため、初めて門真の免許試験場を訪れた。地元の警察署でも手続きは可能だが、講習や交付の日程が自由に選べないという。今月来月は何かと忙しくて、上手いことスケジュールが合うかどうかは分からない。それでヤキモキするくらいならと、多少時間はかかっても即日交付される試験場を選んだ。

神奈川県だと1時間以上かけて二俣川まで行って、駅前からさらにバスに揺られて、大混雑のセンターで長い行列に耐え抜いてようやく新しい免許証を手にすることができる。その経験からざっと5時間を覚悟していた。それが驚くことに、家を出てから新しい免許証を手にするまでわずか2時間である。大阪府警は素晴らしい。試験場は近いし、事前予約制で並ぶこともない。受付機を操作するだけで、必要事項が印字された申請書がプリントアウトされる。あとは、手数料を払って、視力検査をして、顔写真を撮るだけ。講習の開始を待つ40分間がいちばん長かったくらいだ。

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気を良くして駅まで歩く途中、派手な黄色い看板が目に入った。どんな店かと近づいてみれば、お馴染み鶴丸のチェーン店である。ちと早いが昼メシにしようとわかめうどんを注文。安定の鶴丸の味がする。気持ちに余裕があるから、なおさら美味い。

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そのまま新幹線で東京に向かう。

この日は都内で人と会うことになっていた。しかし、免許更新があっと言う間に終わったせいで約束の時間にはまだ早い。どこかで2時間ほど潰せないか。

そうなりゃ、ココしかあるまい。

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もちろん大井競馬場ですな。

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4レースの新馬戦を勝ったのはノーザンF生産のマスターオブライフ。御神本訓史騎手の手綱で圧倒的1番人気に応えた。最後まで食らいついた2着のミチノアンジュの名前も覚えておきたい。なにせ3着以下は3秒も離している。

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久しぶりに大井の鶴丸を食べてみたくなった。敢えてわかめうどんにして味の比較をしてみよう。

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結論から言えば、やはり門真で食べた一杯と味は違った。門真は「鶴丸饂飩本舗」とで大井は「つるまる饂飩」。ブランドの違いもあるかもしれないが、大井の方が麺が細くて、わかめが若干少なくて、価格が高い。まあ、価格に関しては競馬場内の店舗だと思えば仕方ない面もある。いずれにしても同じ日に500キロ離れた土地で、同じ鶴丸のうどんを食べるのは貴重な経験だった。

 

 

*****2023/9/24 *****

 

 

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2023年9月23日 (土)

眠れぬ日々

せっかく自宅に帰ってきているのに、関東は昨夜からの雨が上がりきらない。

本当は中山3R新馬戦のライトピラーを観に行くつもりだった。ついでに秋冬の服を買って帰ろうという腹づもり。ボチボチ散髪にも行っておきたい。だが、朝起きてカーテンを開けた途端に外に出るのが億劫になった。レースはグリーンチャンネルで十分。髪だってひと晩で5センチ伸びるわけでもなかろう。そう割り切って今日は一日寝て過ごすことに決めた。そもそも神奈川の我が家から中山は遠過ぎる。大阪から中京に行くのと感覚的には変わらない。

ここのところ睡眠のことばかり考えている。ラグビーワールドカップの影響もなくはない。端的に言えば寝不足なのである。正確に言えば寝不足だと思っている自分がいるのである。

昔は睡眠時間なんて気にしなかった。なのに最近では「昨日は3時間しか寝られなかったから、今日は4時間余計に眠って取り戻そう」などと考えてしまう。それでも睡眠負債は膨らむ一方。なぜか。眠ろう眠ろうと焦るあまり、眠ることができないのである。トシをとれはそうなると聞いてはいたが、これほどひどいとは思わなかった。

「眠れない」と嘆くのは、人は眠れて当然だと思えばこそであろう。戦争になると特定の病気が減ると何かで読んだ。“増える”の誤りではない。その病気とは、胃潰瘍とか自律神経失調症の類だったと思う。おそらく不眠症もそこに含まれるはずだ。

競走馬が胃潰瘍になる話はよく知られている。その原因は「苛酷なトレーニングによるストレス」と一括りにされることが多いが、実は動物園に飼われている動物もしばしば胃潰瘍になるらしい。動物園でも「過酷なトレーニング」が行われているのだろうか。そんなはずはないから、原因を他に考えてみる。そこで前述の「戦争で胃潰瘍が減る」の話を思い出した。緊張感のない環境に置かれて変調をきたすのは、何も人間に限った話ではあるまい。私が寝不足を感じるのも、私の周囲が平和であることの裏付け。ならば悪い話でもない。

Sleep

馬は立ったまま眠ることができる。ベテランになれば馬せん棒を枕がわりに眠るなんてこともザラ。人間だって、どうしようもない状況に陥れば寸暇を惜しんで眠る術を備えているはず。寝不足を過度に心配することはあるまい。ウクライナの人が聞いたら呆れるだろう。それは分かっている。分かっているのだが、今日も深い眠りを得るには至らなかった。明日は眠れるだろうか。

 

 

***** 2023/9/23 *****

 

 

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