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2023年10月30日 (月)

異色のレジェンドジョッキー

JRA随一の二刀流ジョッキーが鞭を置くことになった。熊沢重文騎手が11月11日付で騎手免許を取り消すことになったという。

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昨年2月の落馬で頸椎を骨折。一時は再起不能とも言われた絶望的な状況にありながら、今年2月に奇跡の復活を遂げたことはまだ記憶に新しい。3月5日には今年の初勝利もマーク。「これからも泥臭く頑張っていきます」と笑顔で声援に応えていたが、結果的にこれが最後の勝利となってしまった。引退の理由はドクターストップによるもの。実際には、あの頸椎骨折は完治していなかったらしい。普通の生活でも命の危険を伴う状態だと聞けば、突然の引退発表も頷ける。

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平地と障害のレースで100勝を挙げている騎手は熊沢騎手を含め史上3人しかいない。ほかは横山富雄元騎手と田中剛調教師。中でも熊沢騎手は平地と障害の両方でGⅠを制しているという点で群を抜いている。しかも障害通算257勝は歴代最多記録。通算でも1051勝。控えめに言っても立派なレジェンドであろう。

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重賞初勝利がクラシックだったという点も彼の伝説に独特の色を添えている。1988年のオークス。10番人気だった。しかし彼の伝説を探すなら91年の有馬記念をおいてほかにあるまい。長い歴史を誇る有馬記念の歴史の中でも最高の単勝配当、その額なんと13790円。誰もが驚いたダイユウサクの大駆けだったが、熊沢騎手は心中深く期するものがあったという。

「どんな距離でも終いは切れる馬。それを生かす乗り方をすれば」

内と外との違いはあったが、最終コーナーを回って直線を向いた時は大本命メジロマックイーンとほぼ同じ位置取り。最後についた1馬身余りの差は、熊沢が信じた瞬発力がマックイーンのそれを上回っていたことを物語る。

勝ち時計は2分30秒6。日本レコードの快走をフロックとは言えまい。熊沢騎手は終始マックイーンをマークする位置をキープし続け、直線でも内を狙って一気に抜け出した。敢えて言葉を探すなら、馬の持ち味を生かした熊沢騎手一世一代の好騎乗であろう。

あの有馬記念でメジロマックイーンの手綱を取った武豊騎手は熊沢騎手のひとつ年下にあたる。JRA随一のレジェンドも気がつけば54歳。天皇賞当日はヒヤリとする出来事もあった。武豊騎手だけではない。柴田善臣騎手、横山典弘騎手、小牧太騎手。彼らにもいつか鞭を置くときが来る。我々はそれをもっと深刻に受け止め、彼の一鞍一鞍をもっと真剣に観るべきなのだろう。

 

 

***** 20223/10/30 *****

 

 

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2023年10月29日 (日)

天覧競馬

皇室と競馬は縁(えにし)が深い。天皇杯が授与されるスポーツは少なくないが「天皇賞」は競馬だけ。競馬に携わる人のささやかな誇りでもある。

競馬に初めて天皇杯が下賜されたのは明治時代の1905年のこと。天皇賞こそ最高の名誉と考える競馬人の気持ちは、この伝統に根ざしている。天皇賞の前身でもある帝室御賞典の優勝馬には、賜杯だけで賞金など出なかった。

明治天皇は56回も競馬を御覧になったとの記録も残る。当時の競馬は軍馬の資質向上という側面を持っていたにせよ、その回数の多さに驚かされやしないか。戦前に行われたダービー馬13頭のうち6頭は、御料牧場、すなわち皇室の生産馬だった。さらに現在では天皇賞に加えて高松宮記念というGⅠもある。

Equinox2

「競馬ファンは天皇陛下が好き」

今日のレース後にクリストフ・ルメール騎手が発した言葉は、外国人の視点であることを含めてたいへん興味深い。今日も天皇皇后両陛下がバルコニーにお出ましになると、スタンドを埋め尽くした7万人から大歓声と割れんばかりの拍手が沸き上がった。さらに国歌斉唱が告げられると、スタンドに座っていた客はみな当然とばかりに起立する。天覧競馬も今回が三度目。競馬ファンもすっかり心得ている。

Winningrun

現在の上皇さまは皇太子時代に2回、天皇として2回、つごう4回東京競馬場にお見えになられた。観戦されたレースは1986年のエジンバラ公御来場記念と、87年、05年、12年の天皇賞。そのたびにファンは拍手でお迎えし、優勝騎手は深々と礼をした。しかし残念なことに日本ダービーをご覧になられたことはない。皇太子時代にエプソムで英国ダービーをご覧になったことがあるとはいえ、我が国のダービーをご覧いただけていないことには、幾分複雑な思いもよぎる。

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今上天皇陛下は皇太子時代の2007年の日本ダービーをご覧になっている。したがって今日の天皇賞とあわせて史上初めてダービーと天皇賞をご覧になった天皇となられた。その優勝馬はウオッカとイクイノックス。いずれも我が国の競馬史に名を刻む名馬であることは、一ファンの立場からすれば羨ましい。世界ランキングトップの馬がレコードタイムで後続を引き離して勝つ。ご覧になった陛下は「すごいレースでしたね」とお話されたそうだが、まさにその通り。毎週競馬場に通うファンでも、なかなか観ることができるものではない。

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先頭に躍り出て後続を一気に突き放した1800mの通過タイムは1分43秒5。この時点で昨年の毎日王冠でサリオスが記録した東京芝1800mのレコードタイムをコンマ6秒も上回っている。そこからさらに200mを11秒7で駆けるとは俄かに信じがたい。吉田勝己氏は「常識から外れている」と表現した。そういえばウオッカのダービーも常識が破られた瞬間だったように思えてならない。陛下がお見えになると常識を超える出来事が起きる。これも競馬ファンが陛下を好きになる理由のひとつかもしれない。次回の行幸啓が楽しみだ。

 

 

***** 2023/10/29 *****

 

 

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2023年10月28日 (土)

結論は半年後

天皇賞前日の東京メインは2歳牝馬によるアルテミスS。2012年創設の若い重賞だが、早くもクラシックへの登竜門になりつつある。過去11回の連対馬だけでも、アユサン、レッツゴードンキ、メジャーエンブレム、リスグラシュー、ラッキーライラック、ソダシ、サークルオブライフ、リバティアイランド。錚々たる名前が並ぶ。来年のクラシックに必要なスピード能力と底力が求められる東京マイルに、敢えて挑まんと思わせるだけの素質を備えたメンバーが揃うせいだろう。今年も過去に負けない高素質馬が揃った。

1番人気は未勝利戦を6馬身差でぶっちぎってきたチェルヴィニア(父ハービンジャー)。それが直線坂下の勝負どころで前も左右も馬がいて身動きが取れない状況に追い込まれた。場内がザワついたのも無理はない。なにせ単勝1.5倍の一本被りである。しかしC.ルメール騎手は慌てない。前を塞いでいた馬がわずかに内にササった瞬間を見逃さず一気に仕掛けた。あとは独壇場。上がり33秒0。後続との1馬身3/4差は、仕掛けたタイミングを考えれば決定的と言えよう。

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チェルヴィニアのお母さんチェッキーノも、ルメール騎手の手綱でフローラSを勝っている。しかしアネモネSを勝って切符を掴んだ桜花賞は体調不良で泣く泣く断念。フローラSを勝って臨んだオークスはシンハライトにクビだけ及ばなかった。さらにその母ハッピーパスも桜花賞4着、オークス7着とクラシックにあと一歩届いてない。孫娘チェルヴィニアはクラシックを勝って母と祖母の無念を晴らしたい。

Cecchino

そのクラシックに関して木村哲也調教師が「ここを勝つしかなかったので勝ち切れて良かった」と意味深長な発言をしている。ここを勝つしかなかったということは、阪神JFはそもそも頭に無かったということか。

続けて「しっかり仕込んでここに臨んだので、あまり次は決めつけず、状態を見極めながらですね。来年の4月にいい状態でもっていけるようにしていきたい」とコメント。ひょっとしたらぶっつけで桜花賞という青写真を描いているのではあるまいか。リバティアイランドやグランアレグリアが結果を出しているように、3歳緒戦が桜花賞というローテはもはや珍しいものではない。それでも彼女らは暮れのレースには走っていたのだから実質4か月間の休み明けである。それがもし6か月間の休養明けで桜花賞を勝つとなれば前代未聞。だがしかし、東スポ杯以来5か月ぶりの皐月賞で2着したイクイノックスと同じ木村師とルメール騎手のコンビならそれくらやってのけても不思議ではない。さあ、明日はそのイクイノックスの登場だ。

 

 

***** 2023/10/28 *****

 

 

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2023年10月23日 (月)

変わりゆく景色

先週は土日とも京都競馬場に足を運んだ。土曜はゴールサイド3階のスマートシートプラス。日曜日はステーションサイド6階にこの秋新設されたばかりのプライベートシート。春開催から運用が変更になったポイントがあったので、備忘のために書き記しておく。

まず、ゴールサイドの方だが春まではスタンド3階以上の全フロアが「指定席エリア」として制限区域となっていたのだが、この秋から制限区域が縮小されたようだ。具体的にはスタンド3階以上のコース側、馬券発売エリアと座席エリアのみが制限区域。なので3階スマートシートプラスの利用者は、トイレに立つにもいちいちスマホのQRコードを読み取り機にかざす必要がある。これはたいへん面倒くさい。

またこれによって、春開催では指定席利用者しか入れなかった「カレーハウスCoCo壱番屋」「餃子飯店こがね」「肉処だるま」といったレストランは、一般入場者でも利用可能となった。もちろんパドックを一望するテラスも同様。一般入場者にとってはありがたい話だが、指定席利用者にとっては、これまでゆったり使えていた施設が混雑することになるのだからサービスダウンに違いない。ちなみに昨日のA指定席はGⅠ特別料金で1席8000円。これは春と変更がない。

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さらにもうひとつ。春開催では指定席利用者はゴールサイドとステーションサイド双方の指定席エリアに自由に行き来できた。それがこの開催からできなくなっている。ステーションサイドの指定席エリアがこの秋からどのようにリニューアルされたのか見に行ってやろうと土曜日のスマートシートプラスのQRコードをステーションサイドの読み取り機にかざしたら、ビョンビョンビョンというこれまで聞いたことのないアラート音が鳴って入場を拒まれた。昨日はその逆にトライしてみるも同じ結果に。スタンドをまたいだ指定席エリアへの入場は不可。友人に会いに行ったりする場合には注意が必要であろう。

ちなみにリニューアルされたばかりのステーションサイド「プライベート席」はこんな感じでした。

Private

春までのラウンジシートであるが、たしかにプライベート感は半端ない。コンセントは2口あるが、逆にマークカード入れがなくなった。このあたりはJRAの方針の現れであろう。その証拠に券売機もUMACA専用が増え、現金対応機は数を減らした上、遥か彼方に追いやられていた。これも不便なことこの上ない。これで4000円(GⅠ料金)はちょっと……という気もするが、満席である以上は文句を言うこともできない。

土曜の午前にはスマートシートと知らずに席に座っていたベテランファンがスタッフと揉めるシーンを見かけた。スマートシート導入から2年以上が経つというのに、この手のトラブルは未だ無くならない。彼らにとって屋外席は「自由席」。何十年と通い詰めていれば、それが身体に染み付いていたとしても不思議ではない。

かつてGⅠ当日の競馬場では、先着順発売の指定席を求めるファンが前夜から場外に長い行列を作り、一般席には場所取りのゴミが散乱していた。JRAがそういう光景をヨシとしていたはずはない。その思いがコロナ禍という機会を得たことで、瞬く間に一般席は「スマートシート」と名を変え、場所取りはなくなり、徹夜組は姿を消した。徐々に変わる景色もあるが、こういうものは何かをきっかけに大きく変わることの方が多い。今日はウインズの指定席もQR方式になると発表があった。紙の馬券もいずれ無くなる運命にある。

 

 

***** 2023/10/23 *****

 

 

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2023年10月22日 (日)

皐月賞馬か、ダービー馬か、それとも

菊花賞は歴史を重ねて今年が84回目。しかし今年のような皐月賞馬VSダービー馬の構図が実現したのが23年ぶりだと聞けば意外にも感じる。前回はエアシャカールとアグネスフライトが2冠を争って、前者が制した。今年2冠を制するのはソールオリエンスか、タスティエーラか。ほかの15頭を忘れてはいけないが、皐月賞でもダービーでもこの2頭が1・2着を分け合っていると思えば、両者が3冠目でついに雌雄を決するシーンを期待したくなるのも無理はない。

菊花賞で皐月賞馬とダービー馬の対決は、過去16回を数えるが、その結果は皐月賞馬の12勝4敗。かつ、皐月賞と菊花賞の2冠馬は史上8頭もいるのに対し、牝馬変則3冠のクリフジを除けば、ダービーと菊花賞の2冠牡馬は1973年のタケホープたった1頭しかいない。長いクラシックの歴史は、ダービー馬より皐月賞馬の方がチャンピオンになる可能性が高いことを如実に示している。

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聡明な日本の競馬ファンは、特に意識はしていなくとも、こうした事実を予想の下地に据えているのであろう。単勝オッズは1番人気ソールオリエンス2.7倍に対し、タスティエーラは4.7倍と思いのほか差が開いた。しかし個人的にはタスティエーラにダービー馬の意地を期待する。タケホープ以来の快挙を目の前で観てみたい。なにせこちらは50年ぶりである。

Tasty

スタート後、大外枠から飛び出したドゥレッツァとC.ルメール騎手がハナを奪うと、スタンドから大きなどよめきが起きた。私も驚く。ルメールがハナを奪ったことにではない。この馬には出遅れ癖があったはず。実際デビューから3戦続けて出遅れた。それでも直線に向けば最速32秒台の脚で追い込んで4連勝。大外枠を引いた今回は、当然後ろからの競馬になると思い込んでいたのだが……。あれ? おかしい。話が違うぞ。

思い返せばエアシャカールが勝った翌年から昨年までの22回の菊花賞では、その半分にあたる11回で春のニ冠ともに未出走だった馬が勝っている。無理をして春のクラシックに間に合わせる馬が減り、無理をして3000mの菊花賞に挑む馬も減っている。そのせいか今年の菊花賞は22年ぶりのフルゲートに届かなかった。長い歴史の中で変らない部分もあれば、変わってゆくものもある。

ともあれ、皐月賞もダービー馬も追い付けない圧倒的な脚を披露したドゥレッツァが、そのまま押し切って最後の1冠を制してしまった。

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重賞初挑戦での菊花賞制覇はメジロマックイーン以来だから33年ぶりということになる。タスティエーラは2着で50年ぶりの快挙まであと一歩だった。それでも33年ぶりの出来事を観れたのなら文句はない。なにせダービーの時点では2勝クラスの条件馬に過ぎなかった。ダービー翌週のホンコンJTでルメール騎手を背に走った彼のことを、私は忘れてはいない。それが5か月後にそのダービー馬に3馬身半もの差を付けて勝ってしまう。これこそが長い歴史を誇る菊花賞の醍醐味であろう。


 

 

***** 2023/10/22 *****

 

 

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2023年10月19日 (木)

王侯馬、現る

「週1回、日曜日のみ」の禁を破って投稿してしまった―――。

なんて厳しい掟を自らに突き付けたつもりもないので、日曜日ではないけど書くことにする。と言うのも、昨日の英国ウェザビー競馬場7レースに王侯馬が現れたというのだ。

「王侯馬」とは1頭立て、すなわち単走レースのこと。ただし少頭数競馬が珍しくない英国では一昨年3月20日のケンプトンパーク競馬場や、昨年11月19日のアスコット競馬場でも記録されているから、我々日本のファンが思うほど珍しいものではない。

むろん単走でも1勝は1勝。賞金だってもらえる。とはいえ検量手続きの不備や落馬などで失格の可能性もなくなはい。18戦全勝の名馬エクリプスも、実はそのうち8勝までが実は単走だった。

我が国における最後の単走競走は、1943年11月6日の京都まで遡る。勝ったのはマルフミ。楽勝だった。この眼で見た訳ではないが断言できる。なにしろ一頭で走ったのだから負けるわけがない。

昨日のウェザビーのレースを勝ったエニーニュースも楽勝だった。「歩いてゴールした」とレーシングポスト紙が伝えている。英語では単走で勝つことを walk over と呼ぶから、レーシングポスト紙の表現はあながち間違いでもなかろう。

競馬黎明期の日本の競馬場で walk over の発音を「オーコーバ」と聞きとった日本人が、やがて「王侯馬」という日本語を生み出した。しかし、この当て字のセンスには舌を巻く。音訳した外国語が、そのものズバリの日本語として通用したのは奇跡としか言いようがない。

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ちなみに、現在の日本でも単走競走実現の可能性は残されている。JRAもレース施行規定において単走の可能性を否定していない。例えば6頭で出馬確定したあさって土曜東京のアイビーSで、発走までに5頭が取り消せば良いだけのこと。そうなれば80年ぶりの王侯馬復活だ。だが、その可能性は限りなくゼロに近いと考えて良いだろう。

 

 

***** 2023/10/19 *****

 

 

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2023年10月15日 (日)

週刊「競馬茶論」へ

異変に気付いたのは昨日の夕方、府中牝馬Sの観戦を終えて帰宅した直後だった。激しい腹痛。次いで吐き気と倦怠感が襲ってくる。トイレでそれらをやり過ごしたのち、朝から食べたものを思い出すべく記憶を手繰った。

たまたま帰省中である。朝は自宅でトーストと柿とコーヒー。競馬場に到着してから内馬場で開催されていたグルメイベントでモツ焼きとガーリックライスをアテに生ビール1杯だけを飲んだ。いずれにせよ家族も同じものを口にしている。食あたりのセンは薄かろう。生ビールで1杯でここまで悪酔いするとも思えぬ。

夕食を口にすることもできぬまま布団に入った。一晩寝れば治るだろう。しかし熟睡もままらない。いったい何が原因だろうか。朦朧としながら布団の中で考ていると、今度は突然両脚のふくらはぎが攣った。

はっきり言って激痛である。それでも悲鳴をあげなかったのは寝静まる家族のため……ではなく、あまりの痛みに声さえ出なかったというのが正解。片脚の痙攣であれば、もう片方の脚を使って筋肉を伸ばすことができるが、いっぺんに両脚となると、それもできない。無理を承知で手で足首を掴まえて伸ばそうとしたら、今度は背中が攣りそうになったので、それも諦めた。

症状としては私がかつて日本ダービーの翌日に発症していた謎の病に似ている。あの当時はオークス終了と同時に「さあ今年もダービーだ!」とばかりに連日深酒を続けていた。それで弱った胃腸がダービー終了と同時に不満を爆発させていたのだろう。それもダービーというレースが特別であればこそ。だとしたら今日のコレはなんだ? 府中牝馬Sでそこまで盛り上がったつもりはない。

ただ最近になって酒席が続いているのは確かだ。気づけばスプリンターズSの夜から休みなく飲み続けている。今日も秋華賞もソコソコに飲み会が始まった。明日以降もすべての夜が埋まっている。これでは胃腸が文句を言いたくなるのも分かる。

酒席が増えたのはそれなりの理由があるから。健康に気を付けなければならないのは分かるが、私としても断りたくはない。じゃあどうするか。せめて帰宅後はすぐに布団に入ることにしよう。

なので当面の間、このブログは日曜日のみの投稿に縮小させていただきます。毎日欠かさず更新することを旨としてきた身としては忸怩たる思いもありますが、この先さらに忙しくなる見込みなのでどうかご容赦ください。次回更新は菊花賞当日の夜。週刊「競馬茶論」も引き続きご愛顧願います。

 

 

***** 2023/10/15 *****

 

 

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2023年10月14日 (土)

ヴィルシーナの娘

2013-14年ヴィクトリアマイル連覇のヴィルシーナは、桜花賞、オークス、ローズS、秋華賞、エリザベス女王杯と5戦続けて2着に敗れた。

ヴィルシーナのオーナーは、横浜ベイスターズやマリナーズで活躍した元プロ野球選手の佐々木主浩氏。日米を通じて愛し続けた背番号「22」は、佐々木氏自身が2月22日午後2時22分生まれであることに由来するといわれる。自主トレの開始日や渡米するにも22日を選ぶなど、「2」という数字に徹底的にこだわることで彼は数々の栄光を手にしてきた。

そのせいでヴィルシーナが2着ばかり続けていると揶揄する声もあった。しかし「ヴィルシーナ(Verxina)」とはロシア語で「頂点」の意。佐々木氏本人が愛馬の2着を望んでいることなど、あろうはずがない。

2013年のヴィクトリアマイルで念願のGⅠ制覇を果たすと、ヴィルシーナは一転してスランプに陥る。6戦連続で掲示板を逃し、GⅢでも11着に敗れる有様。牝馬はいったん調子を落とすとそれを戻すのは難しい。迎えたヴィクトリアマイルで鞍上の内田博幸騎手はアッと驚く奇手を繰り出した。逃げると思われたクロフネサプライズのハナを叩いて、逃げの手に打って出たのである。

ディフェンディングチャンピオンでありながら11番人気。マークが緩んでいたことは確かだろう。直線に入っても後続の追撃を凌いで、渾身の逃げ切り勝ち。前年に続くこのレース連覇を果たした。

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「最近はあまり成績が出せなかったけど、もしかしたらこれを勝つために温存していたのかもしれませんね」

レース後のインタビューで内田博幸騎手の口から発せられた言葉を聞いて思わずドキッとした覚えがある。ヴィルシーナに向けた言葉であると同時に、彼自身に向けた言葉でもあるように聞こえたからだ。このとき内田博幸騎手もヴィルシーナと同じようにスランプに喘いでいた。

今日の府中牝馬Sを勝ったディヴィーナは、そのヴィルシーナの娘である。中京記念、関屋記念とここ2戦は連続2着。重賞のタイトルになかなか手が届かない。2着の呪縛に苦しんだ母の姿がダブって見えてくる。

しかし今日のディヴィーナは違った。2014年ヴィクトリアマイルの母の姿を彷彿とさせる意表を突いた逃げの手に場内がドッと沸く。直線に向いてルージュエヴァイユが迫ってきた。勢いはルージュエヴァイユ。しかし抜かせない。結果ハナ差凌ぎ切ってディヴィーナが念願の初タイトルを手にした。

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最近はミルコ・デムーロ騎手にもかつての勢いがない。東京競馬場の重賞勝利はサークルオブライフのアルテミスS以来だから2年ぶりということになる。馬にとっても騎手にとっても大きなハナ差。両者にとって今後へのターニングポイントになりそうな競馬だった。

 

 

***** 2023/10/14 *****

 

 

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2023年10月13日 (金)

藤井聡太「八冠」で考える

将棋の藤井聡太竜王が王座を獲得。将棋界の全8タイトルを独占する前人未踏の「八冠」を達成した。それを聞いて「おお、ついにルドルフを超えたか」と思ったのはほかならぬ私。この手のニュースを聞いて競馬と結び付けたがるのは競馬ファンの性(さが)であろう。

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競馬界には長らく「八冠の壁」が存在していた。シンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクト、そしてウオッカさえもが越えられなかったGⅠ8勝目の壁をついに突き破ったのは令和の女傑・アーモンドアイである。2020年秋の天皇賞を勝って、GⅠ8勝目を挙げると、返す刀でジャパンカップをも制して「九冠馬」となった。

もちろん競馬と将棋とでは「冠」の位置付けは異なる。競馬は同じレースを複数回勝てば、そのぶんだけ「冠」にカウントされるが、将棋ではそうはいかない。しかもJRAだけでも26のGⅠが行われ、最近では海外のレースも「冠」に加えがちな競馬に対し、将棋のタイトルはそもそも8つのみ。将棋のタイトル戦には距離や斤量のバリエーションはないが、8つしかないタイトルをすべて同時に保持する難しさそのものは、たしかに号外に値するだろう。

私が競馬を始めた頃は「八大競走」という言葉が普通に使われていた。3歳クラシック5冠に春秋の天皇賞、それに有馬記念を加えた8つのレースこそがチャンピオン決定戦であり、それ以外のすべてのレースは、その8つのタイトルへのステップレースに過ぎなかったのである。

もともと「○冠馬」と呼ばれるのは3歳クラシックレースの優勝馬に限られていた。ゆえに五冠の可能性があるのは牝馬に限られるが、レース日程を考えれば三冠が事実上の上限となることは言うまでもない。しかし、三冠に加えて天皇賞と有馬記念を勝ったシンザンに一部メディアが「五冠馬」の称号を与えると、シンボリルドルフは「七冠馬」と呼ばれるようになる。それでもこのケースで冠の数に加えるのは、かつて八大競走と呼ばれたレースとジャパンカップに限るという暗黙の了解があった。同じGⅠ格付けだからと言って同列に扱うことはできない。ゆえにアーモンドアイの秋華賞やヴィクトリアマイルを「冠」に加えることへの異論も根強くある。

八大競走をすべて勝った馬はいない。春シーズンの3歳クラシック日程が変更にならない限り、今後も現れることはないだろう。しかし人なら話は別だ。騎手として保田隆芳、武豊、クリストフ・ルメールが、調教師として尾形藤吉、武田文吾が八大競走完全制覇の偉業を達成している。完全制覇というギミックが加わるという意味で、むしろこちらの方が将棋の「八冠」に近い。

いいかげん競馬の「冠馬」の称号は複数回の出走ができないクラシックのみに限定してはどうか。クラシック以外に門戸を広げるなら、せめて同一GⅠをカウントする慣習はやめた方が良い。いずれにせよGⅠのタイトル数については別の名称を考える時期にきているような気がする。そういう意味では将棋の「冠」はすっきりして馴染みやすい。

 

 

***** 2023/10/13 *****

 

 

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2023年10月12日 (木)

休刊日の悲劇

おととい火曜日の話。いつものように朝食を食べようといつもの喫茶店の扉をカランコロンと開けた。

反射的に新聞ラックに目をやる。この喫茶店に来る目的の半分はスポーツ紙である。しかしそこにいつものスポーツ紙がない。さては並べ忘れか。仕方ないなーとばかりに「マスター、新聞ないで」と指摘すると、「なに言うてんねん。休刊日やないか」と返された。まれに第2月曜が祝日だったりすると翌火曜の新聞がお休みになるのである。そうだった。すっかり油断していた。

こちらのモーニングサービスは、コーヒーとトーストとゆで卵のセットで420円。私はそれを店のスポーツ紙を読みながら毎朝食べている。スポーツ紙は一部160円だから実質260円で食べているわけだ。これは安い。しかしそれがないと途端に高く感じるから我ながら勝手だ。日によって損をした気分にさせる休刊日という仕組みはいかがなものか。そんなトラップが仕掛けられる日が、年間で12日間もあるというのはどこか間違っているように思えてならない。

ともあれ、プラダリアの快走やレモンポップの圧勝劇が振り返られることのないまま、競馬は次の週末に向かって進んでいく。それが嫌なら最寄りの駅かコンビニに走るしかない。スポーツ紙に限れば新聞休刊日でも駅売りがある。

とはいえスポーツ紙も完全休刊する日が年に1日だけあるから注意が必要だ。それが1月2日。この日に限ってはコンビニや駅の売店からさえもスポーツ紙が姿を消す。ちなみに、かつては1月2日以外にもスポーツ紙が休刊となることはあった。一般紙のように各社が申し合わせて一斉に休むのではなく、「今日は報知以外は休刊」とか「サンスポ以外は休刊」なんていう具合に、ちゃんと各社が調整して、世の中からスポーツ紙が全滅しないような配慮がなされていたのである。

そんな業界の慣例が崩壊したきっかけとなったのは、かの「オウム真理教事件」。若い人はこの未曽有の大事件をもはや知らないかもしれない。なにせあれから28年になる。

それまでのスポーツ紙各社は、締切時刻や休刊日などについて各社間で協定を結んでいた。そこへ国家を揺るがすオウム事件が勃発する。「休刊日だから」などと言って新聞発行を休んでいる場合ではない。それで各社協定は一時的に失効の措置がとられた。だが、その「一時的」であるはずの失効状態が今も続いており、スポーツ紙各社は休刊日の設定が出来ないでいる。

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いち読者の立場としては休刊日などない方が嬉しい。喫茶店のマガジンラックからスポーツ紙が消えて落胆するのは私ひとりではあるまい。そうでなければ、スポーツ紙なんて無くてもよいということになってしまう。駅売りがあるとはいえ、最近では新聞を取り扱っていない売店やコンビニもある。だからと言ってネットニュースで満足できるほど若くもない。ちょっと話が飛躍するが、ネットでの馬券購入と同じではないか。「手に取る」という行為は、私の世代にはとても大事な要素なのである。

 

 

***** 2023/10/12 *****

 

 

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2023年10月11日 (水)

Mr.鎌倉記念を偲ぶ

川崎競馬場で行われた鎌倉記念の中継映像を見るうち、昨年のこのレースを思い出した。昨年の優勝馬は、のちに雲取賞、黒潮盃、戸塚記念を勝ち、東京ダービーや羽田盃でも2着するヒーローコール。この夏はマンダリンヒーローとの「ヒーロー対決」が話題となった。その鞍上にいたのが、騎手引退間近の左海誠二ジョッキーだったのである。

鎌倉記念は南関東勢と道営勢がぶつかる最初の一戦。ファンもそうだが、騎手にとっても力関係を計ることが難しい。ヒーローコールは1番人気。騎手としては、ハナを切って軽快に飛ばす道営のスペシャルエックスの手応えを見極めつつ、もう一頭の道営馬もマークしなければならない。それでもスペシャルエックスを相手に絞ると早めのスパート。結果2馬身差を付ける好騎乗だった。そこは左海誠二騎手。ダービー2勝にJRA重賞3勝の実績はダテではない。鎌倉記念もこれが4勝目で歴代最多勝。きっと得意にしていたのだろう。

昨年限りで現役を引退。調教師に転身した左海誠二調教師の訃報が報じられたのは、8月21日だった。

急性心筋梗塞だったという。6月19日に調教師としての初出走を果たしてからわずか2か月。48歳はあまりに若い。悲しみよりも悔しさが先に立つ。

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左海誠二騎手が初めてダービーを勝ったのは2013年。4番人気のインサイドザパークでゴール寸前差し切る名騎乗だった。9度目の挑戦でのダービー制覇は、既に南関東の重賞をいくつも勝ってた彼からすると遅かったと言えるかもしれない。でも、それこそがダービーの魔力。アランバローズで挑んだ一昨年のダービーでは、1番人気に応えて2度目の栄誉を掴んだ。

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しかし個人的にはマキバスナイパーとのコンビが印象深い。重賞11勝を含む通算21勝。珍しいペキンリュウエンの産駒としても話題になった。キャリアのハイライトとなる帝王賞こそケント・デザーモ騎手に手綱を譲ったものの、それ以外の勝利はすべて左海騎手とのコンビで挙げたもの。24歳の若者が高橋三郎、石崎隆之、的場文男といったベテランを相手に次々と南関東の重賞を勝つ姿を観るのは、痛快であり、頼もしくもあり、そして清々しい思いがしたものだ。

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写真は2008年の鎌倉記念。勝ったのはノーステイオー。道営のロマに2秒1差もの大差をつける圧倒的な逃げ切りだった。

 

 

***** 2023/10/11 *****

 

 

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2023年10月10日 (火)

知らんけど

秋華賞は今年が数えて28回目。3歳牝馬の秋の目標としてすっかり定着した感がある。エアグルーヴを追い掛けて京都へ飛んだあの当時、私もまだ若かった。

Airgroove

私のスマホの漢字変換でも「しゅうかしょう」と打てば「秋華賞」とただちに表示されるのだから凄い。でもガラケーの頃はこうはならなかった。「あき(変換」)、「はな(変換)」、「しょう(変換)」と、一文字ずつの変換を余儀なくされていた記憶がある。なにせ28年前までは、「秋華」という言葉を大半の日本人は耳にする機会がなかった。

中国の詩人・杜甫の「泰州雑詩」の中に「秋華危石底 晩景臥鍾邉」と登場する―――。

JRAの最初の説明はそうだった。が、そう言われて、「ああ、あれか!」と膝を打った日本人が、果たしてどれだけいただろうか。たしかに格調は高そうに聞こえるが、いかんせん普通の競馬ファンには馴染みが薄すぎた。今でも世間一般には、「秋華」という言葉は競馬のレース名でしかない。

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今日は道頓堀に暖簾を掲げる人気の焼き鳥屋店「山正」を訪問。予約ができない店なので開店前から並ぶしかない。並ぶ間、後ろの客はずっと秋華賞の話をしていた。ついに女王リバティアイランドが出てくる。オークス以来の実戦である。買うか、買うまいか。悩むファンは多い。なにせ荒れるレースである。ソダシは単勝1.9倍で飛んだ。単勝1.5のヌーヴォレコルトですら敗れた。エアグルーヴ、ウオッカ、ブエナビスタ。歴史に名を残す女傑も秋華賞は勝ててない。ならばリバティアイランドで絶対ということもないんじゃないか。知らんけど。

本来「秋華」は文字通り「秋の花」の意味を持つ。だが、京都に色づく秋の華と言えば普通モミジを連想する。実際「秋華」という品種のモミジもあるそうだ。20年程前に発見された新種だというから、ひょっとしたら競馬の秋華賞からその名を取ったの可能性がある。知らんけど。

Hanafuda

花札のモミジに描かれる鹿はそっぽを向いて「知らん顔」をしている。ならば秋華賞はシランケドで大穴を狙うのも一興ではないか。

猿丸太夫は

「奥山に紅葉踏み分けなく鹿の 声聞くときぞ秋は悲しき」

と詠んだ。鹿肉は「モミジ」とも呼ばれる。モミジと鹿の組み合わせは、古くから好まれている日本の秋のイメージそのもの。焼き鳥屋さんに並んでいた男性も「シランケドが気になる」と繰り返していた。いや、あると思いますよ。知らんけど。

 

 

***** 2023/10/10 *****

 

 

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2023年10月 9日 (月)

再びのリニューアル

3日間開催の最終日も京都は昨日からの雨が上がり切らずに重馬場。それでもお客さんはかなり入っている印象が強い。なにせ5か月ぶりの京都開催。ステーションサイド・スタンドはリニューアルされて、新しい飲食店も入ったらしい。それが目当てのお客さんもいたようだ。まあ、私もその一人かもしれない。

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1階のフードコートには、新しいうどん屋さんが入っていた。京都ではお馴染みの「つくもうどん」。ただし、人気の鶏卵カレーうどんはメニューにない。競馬場内の店舗ではさすがに難しいか。屋号に「EXPRESS」が付いているから厳密には「つくもうどん」とは異なる。ともあれ鶏天うどんを注文。

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しかし、メニューの写真に比べると鶏天は小さく、数も少ない。そもそも麺の量も少なめ。これで680円は正直ガッカリだが、原材料費や人件費の上昇を考えればこうせざるを得ない世か。かつてここにあった「レジャーフーズ」さんの肉うどんが懐かしい。

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4階には「珉珉」が新規出店。安くお腹いっぱいになる中華屋さんとして大阪では知らぬ人がいない有名店だが、こちらも我々の感覚ほど「安く」というわけにはいかないようだ。食券制だが、その前に店内に入って自分で空席を確保する必要がある。それでないと食券を売ってもらえない。満席なら諦める。外に並ぶのもNGらしい。

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餃子は6個で500円。街中の店舗だと7個で430円だから、高いと言っても良心的な方かもしれない。しかし困ったのはその後。食券を買って席に座ったのが7レースのパドックの最中。そして、ようやく食券の番号を呼ばれたときには9レースの馬が本馬場に入ろうとしていた。それくらい料理が出てくるのが遅い。開店3日目だから慣れぬところもあろうが、途中で豆腐が無くなったとかて、麻婆豆腐を注文した客を呼んで、別のメニューに変えるようお願いするなど、混乱ぶりばかりが目立った。まあ、これは街中の「珉珉」でもたまに見かける光景ではある。

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ともあれお腹いっぱいになったところで京都大賞典を観る。レースは4コーナー。逃げるアフリカンゴールドと坂の下りで勢いを付けたプラダリアの間をボッケリーニが割って先頭に出ようとするが、ボッケリーニに交わされたプラダリアがもうひと踏ん張りして直線半ばで差し返した。しかしボッケリーニも食い下がる。プラダリアの脚色も鈍らない。結果、プラダリアがクビ差のリードを保ったまま2頭がゴール板を駆け抜けた。

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3着は後方から追い込んだディープボンド。結局、宝塚記念の5、6、7着がそのまま表彰台を占めたことになる。そこは伝統と格式の京都大賞典。実力馬が格の違いを見せた格好か。それでも着順と人気順が微妙に入れ替わって3連単は万馬券になった。プラダリアにとってはしてやったりであろう。京都は初めてだったが、もともとトップスピードに入るまでにもたつくところがあるだけに、坂の下りで勢いを付けて勝負に出た池添騎手の手綱さばきも光った。やはり京都大賞典は京都に限る。

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***** 2023/10/9 *****

 

 

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2023年10月 8日 (日)

奇跡を願って

大阪は冷たい雨の一日。先週から一気に10度も気温が下がっては外に出る気も失せる。あのしつこい暑さはいったいどこへ行ったのか。一日中、家に閉じこもって昼は毎日王冠、夜はラグビーワールドカップの中継に齧りついた。いやあニッポン、残念でしたねぇ。大量の得点で競うラグビーやバスケは、競馬やサッカーのような番狂わせは起きにくい。だからこそキセキを祈った80分間だった。

日本で行われた前回のラグビーワールドカップはスタジアムでナマ観戦の機会に恵まれた。ニュージーランド対イングランドの準決勝。目の前で見た本物のラグビーには、純粋な感動を禁じ得なかった覚えがある。昭和の人間だからラグビーといえば大学ラグビーを思い浮かべるクチ。実際、秩父宮には何度も足を運んでいる。だが、それとはまるで次元が違った。思い出したのは1987年の富士Sを勝った英国の女傑・トリプティク。当時の日本の馬ではまず届かないであろう位置から猛然と追い込んで、逆に5馬身の差をつけた。なんによらず本物には、人の心を揺さぶるものがある。

いま現在の女傑は誰か? クロノジェネシスとグランアレグリア。この2頭の引退から2年近く女傑不在の期間が続いている。リバティアイランドは間違いなく有資格者だが、女傑とは「男勝り」の意味であるから牝馬同士で頂点に立っても女傑とは呼べない。そういう意味では安田記念連覇のソングラインがいちばん近いところにいるように思える。

しかしそのソングラインが毎日王冠でハナ差負けを喫してしまった。ウオッカが2年連続で2着に敗れたレースだから、気にすることは無いのかもしれないが、3歳馬に負けたことが引っかかる。先週のスプリンターズSは重賞初勝利の4歳馬ママコチャが勝った。その前週のオールカマーも4歳馬ローシャムパークが5歳のタイトルホルダーやジェラルディーナを破っている。世代交代はそれと気付かぬうちに進んでいるものだ。

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明日の京都大賞典では、人気上位5頭のうちディープボンド、ヴェラアズール、ボッケリーニ、ヒートオンビートの4頭が6歳以上。ここまで中長距離路線を引っ張ってきたベテランの活躍は頼もしい限りだが、この路線でも密かに世代交代が進んでいる可能性がある。となれば狙うべきは4頭しかいない4~5歳馬か。中でも個人的な注目はビッグリボン。キセキの全妹が女傑への第一歩を踏み出す瞬間を観てみたい。

 

 

***** 2023/10/8 *****

 

 

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2023年10月 7日 (土)

最古を味わう

奈良・山の辺の道を歩いたことを書いた昨日付けで、そうめんの話に触れられなかったのであらためて書くことにする。

かの地は「三輪そうめん」の産地として名高い。伝承によれば、三輪山をご神体とする大神神社の周辺でそうめん作りが始まったのは約1200年前とされる。この技術が、やがて播州や瀬戸内海の小豆島などに伝えられた。つまり、最古の天皇、最古の道、最古の神社と並び、そうめんも最古ということになる。

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二の鳥居前に暖簾を掲げるそうめん店「森正」は、築百年という民家の庭に、どっしりした松材のテーブルが並ぶ雰囲気のある一軒。お店自体は40年ほど前に始めたらしい。こだわりは蔵で2年間寝かせた「古物(ひねもの)」のそうめんを使うこと。このあたりではそうめんは一年中食べるものなので、温かい「にゅう麺」で食べるのが一般的らしい。なにせすき焼きにもそうめんを入れるお土地柄。しかし、歴史を考えれば、むしろこれが本来の常識である。

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とはいえ、こちとら2時間近く山道を歩いてきたばかり。暑さに負けて、冷やしにしてしまった。面目ない。昆布とカツオで取ったダシが香るツユに付けて一気に啜る。喉越しは爽快至極。1200年の歴史を舌と喉で感じた……ような気がする。

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山の辺の道は、奈良盆地の東側の山裾を南北に結ぶ文献に登場する我が国最古の道。これは昨日も書いた。これまた最古の市場とされる桜井市の海石榴市跡から始まり、三輪山の麓を通り、物部氏と関連深い石上神宮までを結ぶ約11キロの道程だ。その道は狭く、かつ自然の地形そのままなので、いたるところで曲がりくねり、アップダウンも激しい。決して「険しい」ということはないのだが、畑のあぜ道を進み、民家と民家の間をすり抜けて、階段を昇り降りする。すべての分かれ道に案内板が設置されているわけでもないから、すぐ道に迷って引き返すことも一度や二度では済まない。

Road1

いにしえの人々は日の出前にこの道を歩いて出仕していたという。歩きながら、暗闇の中、この道を歩くことを想像してみた。今でも街灯がないのに当時にあったはずもない。足もとを照らすスマホもあろうはずがない。実際に歩いてみることで考えることがたくさんある。

おそらく三輪山の山頂あたりから昇る朝日を、彼らは毎朝見ていたのだろう。黄金色に輝きを増していくその神々しさに、きっと圧倒されたに違いない。彼らがこの山そのものを崇め、日本初の神社のご神体として祀ったのも分かる気がする。

Kaki

途中、天照大神を祭る桧原神社を参拝してから、しばし山の辺の道を外れて、坂を下ってみた。JR桜井線の線路の向こうに、一か所こんもりとした大きな森があるのが見える。それが有名な「箸墓」。三輪山の神と結婚した倭迹迹日百襲姫命(やまとととひももそひめのみこと)の墓―――宮内庁はそう指定しているが、考古学的には卑弥呼の墓だとの説も根強い。箸墓の周囲には纏向遺跡が発見されている。弥生時代末期から古墳時代初めに形成された「都市」の跡だという。これが邪馬台国論争に繋がらぬはずがない。やはり畿内説が正しいのか。中津競馬場で開催されていた「卑弥呼杯」の扱いはどうなる。

Susuki

邪馬台国であるなしに関わらず、かつてこの界隈は都市として賑わいをみせていた。そして今なお考古学界は興奮冷めやらない。しかし、現在の山の辺の道はそんな喧騒を一切感じさせぬ静寂に包まれていた。

 

 

***** 2023/10/7 *****

 

 

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2023年10月 6日 (金)

歴史を追いかけた先に

朝9時過ぎ、JR桜井線の柳本駅で2両編成の電車を降りた。私以外の下車客は1人だけ。年配の女性で地元の方とお見受けする。京都や大阪に溢れるインバウンドの皆さんも、どうやらここまでは来ないらしい。

Suijin

無人駅を後にして歩くこと10分。崇神天皇陵がその姿を現した。堀に囲まれたおっきな前方後円墳に眠る崇神天皇は、かつてこの地に我が国初の国家基盤「ヤマト王権」を築いた人物。神話では第10代天皇とされるものの、実在した可能性のある最初の天皇とする声が強い。治世時期は3世紀後半から4世紀前半とされるから、ざっと1700年前の話だ。

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崇神天皇陵の背後に連なる山裾を南北に結ぶ「山の辺の道」と呼ばれる古道を歩く。こちらはこちらで史実に登場する日本最古の道。古事記には崇神天皇について「御陵は山の辺の道の勾岡の上にある」と記されている。古代は重要な道だったのだろうが、今は柿やススキ、シャクナゲを眺めながら歩くだけの道。観光客もいない。たまに犬の散歩をしている地元の人と出会う。道幅が狭いからすれ違うのも一苦労。文字通り山の辺の地形のまま自然発生的に造られた道なので、めっちゃ曲がりくねって、めっちゃアップダウンがある。まあ、歩く分にはその方が楽しい。

Batta

崇神天皇陵から1時間半ほど歩いて大神神社に到着。大神と書いて「おおみわ」と読む。こちらは日本最古の神社を謳うがもちろん諸説はあろう。ともあれ崇神天皇の時代には国造りの神として篤く祀られたらしい。ここまでくると、ある程度観光客らしき人の姿があって、ちょっと安心したりもする。

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三輪そうめんを啜って近鉄特急に乗ること40分。やって来た先は

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遷都1229年目の京都ですね。崇神天皇の時代は平安遷都からさらに500年を遡る。そういう意味では新しい都ではないか。ちなみにこちらの東本願寺がもとの本願寺から分裂したのが1602年。つい最近の出来事のように思える。

そこからさらに歩いて歩いてようやくたどり着いた今日の最終目的地はコチラ。

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平安神宮です。こちらは京都遷都1100年を記念して1895年の創建だから、さらに歴史は浅い。ともあれ、朝から歩いて歩いて日本の歴史を追いかけてきた。そのゴールで待ち受けていたのは驚くなかれ馬である。来週は秋華賞。そして再来週は菊花賞。3年ぶりに秋の京都でGⅠが行われるのを記念して、JRAと平安神宮がコラボした。今日はその初日。ちなみにこのお馬さんはさすがに模型です。

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平安神宮の応天門から大極殿までのエリアをライトアップ。そして大極殿の建物全体を使ったプロジェクションマッピングを投影するという。初日ということもあってインバウンドの皆さんや立派なカメラをぶら下げたおじさんたちで賑わったが、まだ空が明るくてプロジェクションマッピングがほとんど見えないことには笑った。やっぱ17時半はちと早いですよ。インバウンドの人たちも苦笑い。カメラのおじさんたちは話が違うと怒っていた。プロジェクションマッピングも良いですが、ぜひ競馬場を訪れて、本物のウマも観てください。それにしても歩いた。

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***** 2023/10/6 *****

 

 

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2023年10月 5日 (木)

出世レース

秋の東京開幕を告げるのはサウジアラビアロイヤルカップ。今年が9回目と若い重賞だが、過去8回の優勝馬のうち5頭がのちにGⅠウイナーとなっているのだから凄い。

ただ、この時期に東京マイルで2歳戦をやれば素質馬が集まるのは自然の成り行きだ。なにせ前身は2歳オープン特別の「いちょうS」である。ベテランならこちらの方が通りは良かろう。ヤマニンパラダイス、エアグルーヴ、メジロドーベルの名牝が3年連続して勝利。のちの皐月賞馬イスラボニータも勝っていた。「いちょう特別」時代も含めれば、マルゼンスキー、シンボリルドルフ、メリーナイスと錚々たる名前が連なる。いわば出世レースである。

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「出世レース」と呼ばれるレースは他にいくつもあって、タヤスツヨシやアドマイヤベガ、クロフネらを送り出したエリカ賞や、ジェニュイン、オフサイドトラップ、そしてドゥラメンテのセントポーリア賞あたりが代表例。最近では宝塚記念当日の阪神で行われる芝1800mの新馬戦をそう呼ぶ人もいるらしい。

ちなみに某スポーツ紙は、やたらと中京2歳Sを出世レースと煽りたがる。たしかにメイショウサムソン(2005年)、ダイワスカーレット(2006年)、アドマイヤマーズ(2018年)は申し分ないけど、4年前にスプリント戦へと模様替えしてからはGⅠ馬を送り出せてはいない。「報知杯」の副題が付いているのに、実際に賞を寄贈しているのは読売新聞というあたりも気になる。

いちょうSと同様、出世レースとして知られた府中3歳Sが重賞に格上げされたのは1996年のこと。翌97年には「東京スポーツ杯3歳S」と改称された。重賞昇格後の27頭の勝ち馬のうち、半数を超える15頭がGⅠホースとなっている(ゴッドスピードのJGⅠを含む)事実は見逃せない。しかも、イクイノックス(21年)、コントレイル(19年)と中身も伴っている。GⅡ昇格は当然であろう。

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しかしこれをいまだに「出世レース」と呼ぶ風潮に私は同意しきれない。誰もが注目するであろう重賞レースは、それを勝った時点で実力が証明され、注目を浴びることで既に出世を果たしたと考えるべきであろう。GⅡに昇格した東京スポ―ツ杯ならなおさら。札幌記念や毎日王冠を出世レースと呼んだりはしない。出世レースとはその勝ち馬に将来の台頭を予感させるレースのこと。出世とは無縁の筆者が思うことではあるが、少なくともメインレースであっては欲しくない。

 

 

***** 2023/10/5 *****

 

 

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2023年10月 4日 (水)

下駄を履くまで

中国・杭州で開催されているアジア大会で珍しいハプニングがあった。男子3000mローラースケート・リレー決勝、勝利を確信した韓国チームのアンカーがゴール直前にスピードを緩めて派手なガッツポーズ。しかし、猛然とスパートしてきた台湾のアンカーの左足が先にゴールラインに届いていた。その差はわずか0.01秒。韓国選手はアジア大会で金メダルを取ると2年間の兵役が免除されることもあり、韓国国内でも大きな話題を集めているらしい。

こうしたシーンは競馬でもたまに目にする。俗に言う油断騎乗。最近では2021年12月25日中山5Rの新馬戦で、1番人気ヴァンガーズハートに騎乗した横山武史騎手が先頭でゴールに入る手前で追う動作を緩めた。すると内から猛追したルージュエヴァイユに差されてハナ差の2着に敗れてしまったのである。翌日の有馬記念をエフフォーリアで制しながら、ガッツポーズはもちろん笑顔すら見せなかったのは、この一件が尾を引いていたからに違いない。騎手の場合は兵役ではなく騎乗停止処分が待ち受けている。

しかし、こうした油断騎乗のほとんどは、馬に余計な負担をかけまいという配慮が裏目に出たケースがほとんどだ。

【日本中央競馬会競馬施行規程 111条】
騎手は、競走において、馬の全能力を発揮させなくてはならない

そんな規程は重々理解しているはず。しかし次のレースのことを考えることも大事だし、無理に追って故障してしまったら元も子もない。ムチを入れることは本来は叱咤激励なのだが、逆に精神的な部分に悪影響を残してしまうこともある。つまるところ動物愛護である。そう考えれば不注意を意味する「油断」という言葉はふさわしくない。細心の注意を払ったゆえの結果ではないか。

しかし、そうした配慮も、一歩間違えれば騎手の自己満足と捉えられかねないから厄介だ。ファンはお金を賭けている。一方で馬主も莫大なお金をかけている。そのはざまに立つ騎手という職業はつくづく難儀だ。ローラースケート選手の「油断」とは比較にならない。

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そもそもアジア大会にローラースケート種目があること自体を私は知らなかった。しかも、アイススケートやスキーよろしく「スピード」「フィギュア」「フリースタイル」といった3競技が行わるらしい。スピードの日本代表は加藤勝己選手。我々日本人には「勝負は下駄を履くまでわからない」というありがたい教えがある。これはもともと賭場用語。途中で勝っていようが負けていようが関係ない。帰り支度をするまで、すなわち下駄を履くまで勝敗は分からないという戒めの言葉だ。今回の件に当て嵌めれば「スケートシューズを脱ぐまでわからない」といったところであろう。

 

 

***** 2023/10/4 *****

 

 

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2023年10月 3日 (火)

19年連続JRA重賞勝利の快挙

おとといの阪神ポートアイランドSは2番手から直線で早めに抜け出したドーブネが1番人気に応えて快勝。これが種牡馬ディープインパクトのJRA通算2749勝目となり、サンデーサイレンスの最多勝記録に並んだ。

その10分後、今度は中山で行われたスプリンターズSを3番人気ママコチャがハナ差で勝利。父クロフネにとっては産駒が19年連続でJRA重賞を勝ったことになり、歴代1位のパーソロンとついに肩を並べた。西と東で種牡馬の大記録が達成されたわけだが、そのどちらも金子真人氏の所有馬である事実は驚嘆に値する。ディープインパクトによる産駒最多勝記録の更新は確実。ソダシが引退したとはいえ、来年もママコチャが現役を続行すれば、クロフネの20年連続重賞勝利記録の可能性だって高い。

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ママコチャのスプリンターズS制覇はクロフネ産駒によるJRA通算1486勝目の勝ち鞍でもあった。これは歴代8位の記録。1500勝の節目も近い。JRA1486勝の内訳は芝397勝に対してダートはその2.5倍以上にも及ぶ1028勝。残る61勝は障害である。

ほとんどの勝ち星をダートで稼いでいるクロフネなのに「ダート向き種牡馬」というイメージが湧かないのは、ママコチャをはじめ、ソダシ、アエロリット、ホエールキャプチャ、カレンチャン、スリープレスナイトといった代表産駒が、みな芝のチャンピオンだからであろう。「エースは芝」。この言葉が馬主ゴコロを微妙にくすぐる。

もうひとつ。クロフネには「エースは牝馬」のキャッチフレーズがあることも忘れてはならない。クラリティスカイやアップトゥデイトの活躍で、この評価も一過性のものになるかと思われたが、ソダシとママコチャという疾風怒濤の姉妹の活躍によって完全に上書かれた。そうなれば当然、母の父としての成績にも繋がってくる。

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昨年、BMSとしてのクロフネはJRA重賞を10勝と勝ちまくった。通算では38勝。自身の産駒での勝利は現時点で51勝だから、BMSとしての重賞勝利数が追い付き、やがて追い越す日も近い。

父のフレンチデピュティ、さらにその父のデピュティミニスターと同じように、クロフネも牝系に入って影響力を発揮するタイプであると思われる。そう考えたとき、母の父として送った平地GⅠ馬5頭のうちクロノジェネシス、ノームコア、レイパパレ、スタニングローズの4頭までが牝馬である点は興味深い。凱旋門賞で4着に大健闘した牝馬スルーセブンシーズの母の父もクロフネだし、スプリンターズSで復活の予兆を見せた牝馬メイケイエールの母の母の父もクロフネではないか。

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今週の京都大賞典に出走予定馬の中では、ヴェラアズールとプラダリアの2頭が母の父にクロフネを持っている。クロフネが亡くなって2年半余り。なのに、まだまだクロフネの血から目が離せそうもない。

 

 

***** 2023/10/3 *****

 

 

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2023年10月 2日 (月)

豆腐の日

今日10月2日は語呂合わせで「豆腐の日」。1993年に日本豆腐協会が制定したらしい。しかし同時に「毎月12日も豆腐の日」としたのは余計だった。この手の記念日は年に一回くらいでないと意味を為さない。

いまでこそ日本全国、どこでもよく似た豆腐が売られている。しかし豆腐が一般に普及した江戸時代には、関東の豆腐は関西に比べ硬くて色黒だった。京都の豆腐はまるで雪のように白く美味しいと評判だったらしく、江戸で「京豆腐」を看板に商いを始めた者もいたという。食通で知られた北大路魯山人も「美味い豆腐はどこで求めたらいいか? ズバリ、京都である」と著書の中で断言している。豆腐は約8割が水。京都の井戸水は美味い。

江戸中期の大坂では「豆腐百珍」が出版されてベストセラーとなった。家庭料理としてのレシピから、手間の限りを尽くした調理法まで掲載されており、当時の関西で豆腐料理がいかに研究されていたのかをうかがい知ることができる。以後、「豆腐百珍続編」「鯛百珍」「玉子百珍」と次々と追従書が発刊され、江戸の世に一大グルメブームをもたらした。その先陣を切った「豆腐」こそ、身近で美味いものの代表格だったに違いない。

湯豆腐は南禅寺の精進料理が庶民に広まった。しかしこの料理は簡単そうに見えて意外と奥が深い。豆腐を温めるだけなら簡単だが、火の通し過ぎは禁物。豆腐は冷たいときよりも温めたほうが軟らかくなる。だからほどよく温めてつるりとした食感を楽しみたい。だが70度を超えると、今度はたんぱく質が急激に固くなる。いわゆる「スが立った」状態。こうなるとボソボソした口当たりになり味気もなくなる。

大阪の湯豆腐は京都とはまた異なるから不思議。初めて見た時は驚いた。鍋で出てくるのかと思ったらそうではない。大ぶりの器に温めた豆腐を1丁まるごとドン。おぼろ昆布やネギや削り節を散らした上から、たっぷりの出汁をかけてある。モミジおろしやタレはない。食べる時はレンゲを使って豆腐を削るようにすくう。京都の料亭で食べるようなエレガントさはない。豆腐だってそこら辺で売ってそうなやつ。でも、これはこれで美味い。豆腐というより出汁の美味さ。さすが大阪。なにせ「肉うどんのうどん抜き」が名物メニューとして成立するお土地柄である。

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大阪の居酒屋で出される湯豆腐は基本このスタイル。というか京風の湯豆腐に出会ったことはない。今宵は天満の昼飲み天国「天満酒蔵」で湯豆腐で日本酒を傾けた。湯豆腐200円。日本酒270円。計470円。安い。それでもこの湯豆腐に合わせると、安酒がたちまち吟醸酒のごとき深い味わいに変化するから不思議だ。ちなみに昨日10月1日は「日本酒の日」だった。記念日にかこつけて飲むのも悪くない。

 

 

***** 2023/10/2 *****

 

 

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2023年10月 1日 (日)

夕霧と野風

大阪駅からほど近く、近松門左衛門の「曽根崎心中」で有名なお初天神の境内を抜けた裏路地にその店はひっそりと佇んでいる。

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「夕霧そば 瓢亭」。1952年創業の老舗だ。

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名物は店の名前にもなっている「夕霧そば」。柚子皮を練り込んだいわゆる「柚子切り」だが、関西では柚子を「ゆう」と呼ぶことから、「柚子切り」が「ゆうぎり」に変化したという。同じく近松門左衛門の原作で上方歌舞伎の代表演目でもある「吉田屋」に登場する遊女のヒロイン「夕霧」を意識したネーミングだそうだ。

つい最近も、米国からユウギリに関する話題が飛び込んできたばかり。9月16日、米国チャーチルダウンズ競馬場で行われたオープンマインドS(リステッド・ダート1200m)を「Yuugiri」という馬が勝った。父 Shackleford、母 Yuzuru、母の父 Medaglia d'Oro という血統の持ち主で、オーナーは「エア」の冠名でお馴染みの吉原毎文氏である。「柚子」を母に持つ「夕霧」だから、まさにこの蕎麦のような一頭ではないか。

母 Yuzuru の1歳上の姉に Nokaze というエンパイアメーカーの牝馬がいる。2011年の大ヒットドラマ「JIN-仁-」で中谷美紀さんが演じた遊女「野風」からのネーミングかもしれない。

Nisinomiya

昨日行われた西宮Sでは、Nokaze産駒のエアサージュ(牡5・父Point of Entry)が7番人気の評価を覆してアタマ差の2着。そして今日のポートアイランドSではエアファンディタ(牡6・父ハットトリック)が別定の60キロを背負いながらも3着に好走した。Nokaze一族の運気は上がっている。水曜の大井・東京盃に出走を予定している長男エアアルマス(牡8・父マジェスティックウォリアー)にとっては良い流れかもしれない。

Portisland

Nokaze の産駒としてはエアアネモイ(牡4・父Point of Entry)やエアメテオラ(牡3・父Goldencents)もJRAで2勝を挙げており、繁殖牝馬としての活躍は目覚ましいものがある。エアファンディタもまだまだタフに活躍できるだろう。60キロを承知でポートアイランドSに出走してきた裏には何か思惑があったはず。酷量を背負いながら稍重馬場で33秒1の末脚を繰り出したあたり、6歳秋でもその能力に衰えは見られない。父ハットトリックにJRA初の重賞タイトルを送るチャンスはあるはずだ。今後の走りに注目しよう。

 

 

***** 2023/10/1 *****

 

 

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