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2023年9月 6日 (水)

あれから5年

北海道を襲った胆振東部地震から今日でまる5年になる。

Shindo

安平、厚真、むかわ、日高、新冠。テレビから馴染みの地名が繰り返し聞こえてきて不安が増した。厚真町で発生した大規模土砂崩れの空撮映像には言葉を失った覚えがある。平取からノーザンに向かう際によく使うルートのすぐそば。遥か向こうの山並みまで、およそみえる範囲の山という山は、斜面が崩れて茶色い山肌を晒していた。

地震発生の1か月後、グランアレグリアのサウジアラビアRCを見届けたその足で北海道入りした。本当は地震発生直後に駆け付けたかったが、それはかえって迷惑になると考えたのである。

安平町内にあるとある牧場のスタッフに話を聞いた。地震発生は午前3時過ぎ。あの日はたまたま夜勤で、定時見回りの最中に突然大きな揺れに襲われた。それは「尋常じゃない揺れ」であり、かつ「嫌ぁ~な揺れ」であったという。

駆け付けた別のスタッフに異常がないことを報告すると、彼は隣町にある自宅へと車を走らせた。「隣町」というのは地震の震源となった厚真町。ただ、この時点で彼は地震の震源が厚真であることを知らない。

「真っ暗闇の中をぶっ飛ばしていたら、先の道が無くなってたんです」

渾身の急ブレーキにサイドブレーキまで引いてどうにか落下を免れた。状況が分かったのは明るくなってから。山から崩れた土砂が道路を削り流していたのである。自宅はとても住める状況ではなかったが、もしそこで寝ていたらどうなっていたか。命があったことだけでもヨシとしなければなるまい。

Dosha

日高町のとある牧場では、放牧地の出入り口にある開閉扉が、蝶番から外れて2メートルほど離れた場所に倒れていた。重さ百キロ以上はあろうかという鉄製の扉で、取り外すは垂直方向に30センチほど持ち上げる必要がある。それが外れただけでなく、2メートルも飛んだ。「尋常じゃない揺れ」という表現は間違っていまい。

そこから続いた停電と断水の日々。マスコミが地震後にいちばん困ったことを札幌で尋ねたところ、大規模停電でスマホの充電ができないという声がもっと多かったというが、この牧場のある界隈では、基地局が死んでしまい、仮に充電ができたとしても通話もネット閲覧もできない状況だった。驚いたことに、翌日まで震源が厚真だということさえ知らなかったという。その間、日高町が設置した防災無線の装置はウンともスンとも言わなかった。

だからスマホの充電より困ったのは、給水情報が得られなかったこと。馬も水を使うけど、牛の牧場は馬よりもたくさんの水を使う。とある牛の牧場関係者は「最後は川の水を飲ませるしかなかった」と辛い胸の内を明かしてくれた。そうやってどうにか繋いだ命も、最終的には乳房炎で多くが失われてしまったという。

とある飼料業者さんは地震の当日も飼料をトラックに積んで日高管内を走り回った。馬や牛は生きている。地震を理由に飼料の配達を止めるわけにはいかない。唯一の心配はガソリン。静内や浦河では、電源喪失の渦中にも関わらず、タンクの底から人力でガソリンを汲み上げて営業していたのに、日高町内に入った途端、ほとんどのスタンドが営業を取りやめたので愕然としたそうだ。あれから5年。今の日高町は地震への備えが万全であると信じたい。

 

 

***** 2023/9/6 *****

 

 

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