【訃報】カワカミプリンセス
2006年のオークスと秋華賞を無敗で制したカワカミプリンセスが亡くなったという。繁殖生活から卒業し、新ひだか町の三石川上牧場で余生を過ごしていたが、起立不能となったらしい。20歳。キングヘイロー産駒として唯一のクラシックホースだった。
5つあるクラシックレースで、もっとも消耗度が激しいレースはオークスで間違いあるまい。
まだ体が完成しきっていない3歳春の牝馬が、府中の2400mで競うGⅠとなれば、その厳しさは我々の想像を遥かに超える。本家英国とは異なり、我が国では当初秋のレースとして施行されていたのも、3歳の牝馬にとって春の長距離レースは過酷という配慮があったからだ。
それを史上最少キャリアとなる4戦目で勝ってみせたのが2006年のカワカミプリンセス。3歳2月のデビューは9番人気の伏兵扱い。低評価を嘲笑うかのような逃げ切り勝ちを見せたその85日後には、一気に頂点へと駆け上がっていた。これはシャダイアイバーの78日に次ぐ、史上2位の早さでもある。
秋はぶっつけの秋華賞を勝って5連勝。続くエリザベス女王杯も後続を突き放し、無キズの6連勝と見えながら12着に降着となったあの一戦を境に、一転不振に陥ってしまった。6歳のエリザベス女王杯まで走り続けて12連敗。古馬となってからはひとつ下のウオッカ&ダイワスカーレットという競馬史に残る名牝2頭の影に隠れる格好になってしまったのは、残念というほかはない。
やはりあのエリザベス女王杯が悔やまれる。初めての古馬対戦のせいか、あるいは荒れた馬場に脚を取られたせいか、それまでに比べて道中の手応えはたしかに悪かった。それが鞍上の焦りに繋がったのかもしれない。3コーナーあたりから早くも鞭が入る苦しい展開。直線に向いてから再び左鞭が2発飛ぶ。その直後、横っ跳びをするかのように2頭分ほど内に切れ込んだ。内から伸びてきていたヤマニンシュクルの進路を完全に塞いで、外傷まで負わせてしまったのだから、降着の裁定に異論を挟む余地は無い。
カワカミプリンセスに代わって優勝を手にしたのはフサイチパンドラ。オークス2着、秋華賞3着だから雪辱を果たした格好ではある。とはいえ心の底から喜べる勝利ではあるまい。それでもこの勝利を片手に繁殖入りし、アーモンドアイを世に送り出したことも、今回の訃報を機にあらためて思い出した。フサイチパンドラも既にこの世を去っている。2頭のライバルは天国で再会を果たしているのだろうか。合掌。
***** 2023/9/12 *****
| 固定リンク
最近のコメント