忘却の彼方
最近、物忘れがひどい。忘れ物はもっとひどい。
ハンカチやスマホを忘れて出かけてしまうことは日常茶飯事。メシを食べてから会計になって財布が無いことに気づいて青覚めたことも一度や二度ではない。ついに先週はズボンのベルトを忘れて出かけてしまった。デニムならまだしもスーツである。
出先では基本的に机に座っているだけ。上手いことごまかせないか―――?
そうは思ったものの、長考の末に引き返すことにした。急に人に会うことになったりしたらと思うと、やはり怖い。
私も来月で55歳。ひと昔前の会社員なら定年のトシだと思えば「老い」を実感せずにはいられない。同年代の輩と飲めば、物忘れの話で座が盛り上がるようになった。
「自宅の電話番号が覚えらんなくってさぁ……」
「やべぇ! いばらき(茨城)ってどう書くんだっけ?!」
「昨日の昼メシに何食ったかも思い出せないもんなぁ」
「物忘れあるある」の話題は尽きるところがないが、漢字や電話番号を忘れるというのは、スマホやパソコンの普及によるところもあろう。私自身いちばん身に染みて「最近物忘れがひどいなぁ」と思うのは、馬の名前が出てこない時である。
つい最近も、「あれ、今年の安田記念を勝ったのって誰だっけ?」という状況に陥った。
手元のスマホを使えば調べることはできる。だが、それをやったら敗北のような気がしてならない。だから必死に記憶の糸を手繰った。わずか3ヶ月前の出来事。しかも私は東京競馬場で、そのレースを直接見ているはずなのである。なのに、そのレースの映像というものが、まったく頭の中に浮かんでこない。これはいったいどうしたことか?!
まぁ、トシだということです(笑)
私の友人に競馬場では決して座らない主義の競馬ファンがいる。どれだけ場内が空いていても、彼は常に立ってパドックを眺め、立ってオッズモニタをチェックし、立ったままレースを観戦する。もちろん、昼食も立ったままだ。「人間の脳が発達したのは直立歩行したからだろう。脳を活性化させるためには、立っていた方が良いんだよ」と彼は主張する。
言われてみれば思い当たるフシもある。私が馬の名前を思い出せないのはこの10年か20年程度のことで、それ以前のレースは今でも事細かに思い出すことができる。勝ち馬だけでなく、2着馬も、3着馬も、4着馬も、5着馬もたいていは覚えている。その当時と今とで何が違っているかと言えば、当時はウインズであれ競馬場であれ、常に立ってレースを見ていたという点が挙げられる。
スタンド上階の椅子に座って安穏とレースを眺めているのと、人込みに揉まれながら立ってレースを見るのとでは、その記憶の脳への刻まれ方もきっと違うのであろう。決してソングラインと戸崎圭太騎手の印象が薄いわけではない。すべての責任は私にある。だからせめてレースだけは、これからは立って見ることにしてみるか―――。
なんて無理なことを言っても始まらない。まあ、できる範囲で頑張ってみよう。
***** 2023/9/13 *****
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