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2023年9月 2日 (土)

【個体識別を考える③】過信は禁物

先週のサマーセールでは5日間で1368頭もの1歳馬が上場された。1日あたりではおよそ260余頭が一か所に集結することになる。バイヤーが個体識別の便りとするのが、臀部に貼ってあるこのヒップナンバー。数字が書かれた単なるシールだが、これが間違っているとエラいことになる。実際、マイクロチップ導入前に日高で行われたとあるセールで、このシール絡みちょっとした騒ぎが起きた。

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その日に上場する2頭を連れてきたとある牧場主が、午前の事前展示が終わったところで2頭がそれぞれ入れ替わってしまっていることに気付いた。そこであろうことか、2頭のヒップナンバーシールを貼り替えてしまったのである。

騒ぎはその後に起きた。セリが始まってセリ会場に引かれてきた馬を見て、午前の展示でその馬を見ていたバイヤーから「さっきのと違うぞ!」と声があがったのである。当の牧場主にしてみれば「単純な間違い」かもしれないが、市場全体としてみればセールの信頼性を揺るがしかねない大問題であることに違いはない。

そんな中、2007年より競走馬を個体識別するマイクロチップの馬体への埋め込みが義務付けられ、そのための競馬施行規定も改正された。今年は2023年だから、既に16年が経過したことになる。マイクロチップが埋め込まれていない現役競走馬は、もはや日本にはいないはずだ。

マイクロチップによる個体識別はヨーロッパ、アジア、オセアニアなどの競馬主要国において、移動や種付け、血統登録、セリ等で既に広く活用されており、専門知識と熟練が要求されていた個体識別作業はマイクロチップ導入により飛躍的に省力化されている。しかし、そんな夢のようなマイクロチップも導入当初は様々な問題を引き起こした。

2008年のセレクションセール1歳は、マイクロチップによる個体識別作業が本格的に実施される初めての機会だった。ところが、いざ読み取り機をかざしてみてもウンともスンとも言わない。ごくたまに反応があるのだが、そのコツもはっきりせず、近づけたり、遠ざけたり、角度を変えたりしながら、「手作業の倍かかった」という悪戦苦闘の末にようやく個体識別作業を終えたのである。この一件を受け、その後行われたサマーセールからは従来の目視による確認に戻されたというからよほどキビしかったのだろう。

さらに騒ぎは続く。マイクロチップは個体識別の他に体温測定もできるという優れものとして導入されたのだが、いざ読み取り機で表示させてみるとほとんどの馬が39度前後の体温を示したのだ。前年の夏、競馬界を揺るがした馬インフルエンザの再流行かとセール開場は騒然となったが、実はこの体温センサーが通常より1度ほど高く検温してしまうという不具合があることが判明。あっさり騒ぎは収まった。

何ごとも最初はドタバタがつきもの。とはいえ、この体温測定機能付きのマイクロチップは海外において読み取り率が経年低下することが既に指摘されていたとされ、そういう意味では、認識不足や拙速行動の誹りを受けても仕方あるまい。

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ともあれ、その後は体温測定機能がなく、また読み取り率も高い別のタイプのマイクロチップが使われている。ちなみに初期のマイクロチップを埋め込まれた馬はそのまま。いちいち体内から古いチップを取り出して、新しいのを埋め直すなんてコトもしていられまい。しかし役に立たない機械を身体に埋め込まれたまま生きてくというのも、気の毒な話だ。

 

 

***** 2023/9/2 *****

 

 

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