ニクを食う
阪神競馬場の楽しみは東スタンド2階「ホルモン人」。2か月半ぶりの味を待ちわびていたファンで朝から行列ができていた。
まず「和牛すじ肉 赤ワイン煮 バゲットで」で腹ごしらえ。競馬場のメニューでこのネーミングセンスは秀逸だ。しかもそれが飛ぶように売れている。競馬オヤジが「赤ワイン煮」を「バゲットで」食べてるんですよ。まるでロンシャン競馬場とみまごうばかりの光景。300円という価格も素晴らしい。
ちょいと早い昼メシに「チャーシューライス」を選択。「チャーシュー丼」ではないところがミソ。カレー皿に盛り付けたご飯の上にチャーシューとサラダを載せて甘辛いタレをかけてある。多めに添えられたマヨネーズがポイント。たしかに丼とは違う。これも300円。とにかくこの店は安い。
トドメはお馴染みの「ホルモン丼」。こちらは650円だがクオリティからすればこれでも安い。これを食わずに帰れるかという気さえする。
そして今宵は梅田のビアダイニング「ケラケラクランツ」でイチボステーキとリブロースステーキをビールで流し込むという暴挙に出た。文字通りの牛飲。しかし旨い肉であれば、これしきのことで味は損なわれない。
テレビ番組でステーキの味を紹介するレポーターの第一声は決まっている。「うわー、やわらかーい!」。しかるのちに「ぜんぜん臭みとかないですー」と続く。よほど臭い肉を普段食べているのであろう。まあ、これは同じ「肉」でも皮肉の方。
ともあれ、日本人の味覚評価が食感に頼り過ぎる風潮があることは否めない。「コリコリして美味しい」「サクサクして美味しい」「アツアツで美味しい」という舌触りや温度などの食感を“美味しい”と判断するのである。逆に嗅覚、すなわち匂いに関する表現はとても少なく、たまに使われても前述のように邪魔なモノとして扱われることが多い。
もちろん食感を重視するのは我が国食文化の特徴のひとつ。でなければカマボコやはんぺん、あるいは和菓子の「葛桜」のような料理は生まれまい。刺身にしても、その弾力が味を左右することを日本人の舌はよく知っている。
だからといってステーキの美味い不味いが肉の柔らさだけで決まるのはおかしい。味わいに嗅覚が大きなウェイトを占めることは、鼻をつまんでモノを食べてみればわかること。なのにレポーターは香りに関する言及を避けたがる。加えて、たいていの肉は臭いものであると決めつけているフシさえある。肉に対して無礼千万な話ではないか。これでは牛も豚も浮かばれない。
牛肉には桃やココナッツに似た独特の甘い香りがあって、それが旨味のもととなっている。さらに飼料由来の香りやその土地ごとの土の香りまでもが混ざり合うことで、独特の芳香を醸し出す。それがいわゆるコクのもと。阪神競馬場「ホルモン人」の旨さの正体もこれに違いない。さあ、明日も肉を食べよう。
***** 2023/9/11 *****
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