カレーの街
彼岸を過ぎてようやく都内は9月らしくなってきた。「涼しい」とまでは言い切れないが、少なくとも30度には届かない。神田近くまで来たついでに、ちょっと歩いてカレーでも食べに行こうかという気にもなる。
カレーは暑い夏に食べてこそ美味しいということは承知しているが、これまでの暑さではまず外に出ようという気にならない。神田の街を歩いてカレー屋巡りをするなら今日くらいがベストであろう。
「ボンディ」「ガヴィアル」「共栄堂」「トプカ」「まんてん」……。名店と呼ばれる神田のカレー専門店を挙げれば十指に余る。さらに「キッチン南海」や「ルー・ド・メール』」のようにカレー専門の看板を掲げていなくても、美味いカレーを出す店を探せばきりがない。
なぜ神田にカレー店が多いのか?
「神保町の交差点近くにインドセンターの建物があってインド人が多くいたから」という説と、「古本を買った人が本を読みながらスプーン片手に食べられるから」という二つの説があるようだが、真相は明らかではない。まあ、我々とすれば美味しいカレーが食べられれば文句はないわけだが、「ボンディ神保町本店」を訪れるたび、後者の説を信じたくなる。
なにせこの店、古本屋の中にある。以前は靖国通りから「神田古書センター」に入ると、「ボンディへご来店のお客様は書店を通り抜けてお越し下さいませ」の看板が目に飛び込んできたものだ。ちなみに今では書店を通り抜けるのはご法度。逆に「通り抜けるな」という張り紙がある。こんな騒ぎになるのも、カレーの味わいが傑出している証拠。さすがは、激戦区神田の「カレーグランプリ」の初代王者。その味について、ここでくどくどと書きたてる必要はあるまい。
その「ボンディ」から独立した店主が営む「ガヴィアル」のカレーも捨てがたい。ボイルして潰したタマネギに牛肉と野菜のスープを混ぜて、バターと生クリームで仕上げるルーは完成まで3日もかかるという。どちらかと言えば、私は「ボンディ」よりこちらが好み。今は神保町駅に移転しているが、15年ほど前に神田駅前で営業していた当時は、近隣にオフィスを構える一口愛馬クラブ関係者が、カレーを食べながら調教師の悪口を言っていたものだ。テーブルが隣り合わせになったりすると、そちらの会話が気になってカレーの味どころではない。ナニナニ、あの調教師とあの騎手の仲が悪いという噂は本当だったのか……。
かつて神田の街には一口馬主クラブの事務所が多くあった。神田だけでもセゾンレースホース、ヒダカブリーダーズユニオン、ゴールドレーシング、友駿ホースクラブの4法人が。さらに神田の隣町である日本橋や三崎町にはローレルクラブやウインレーシングクラブが軒を連ねていたのである。神田は古本の街であり、カレーの街であり、そして一口馬主クラブの街でもあったわけだ。
***** 2023/9/25 *****
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