真夏の秋桜
名古屋競馬場の重賞・秋桜賞に金沢の女王ハクサンアマゾネスがやって来た。しかし場内は閑古鳥が鳴いている。平日の昼間開催。しかも9月だというのに、最高気温午前35度超えの猛暑日となれば、空いているのも当然か。それでも地元の常連に混じって、ハクサンアマゾネスの圧勝劇を期待する追っかけファンの姿もけっこう目立つ。そんな彼らの会話を聞いていると、今日のメインレースを「コスモス賞」と呼んでいる。あれ? コスモス賞は札幌で行われる2歳オープンじゃないのか?
「秋桜」を「コスモス」と読む風習は古くからあったように思われがちだが、実は1977年秋に大ヒットした山口百恵さんの曲のおかげで一躍世間に広まったとされる。言語学的には比較的最近のことだ。
「秋桜(コスモス)」。
その一風変わったタイトル表記を考え出したのは、楽曲を提供したさだまさしさんでなければ、歌った山口百恵さんでもない。それは伝説的音楽プロデューサーの酒井政利さん。多くの日本人は桜が好きで、さらに秋という季節への移り変わりがもたらす春とは真逆の情感も知っている。「秋」と「桜」の2文字が織り成す新たなニュアンスはテレビの電波に乗って日本中を駆け巡り、すっかり日本語の地中深くに根を伸ばした。今ではスマホでも「こすもす」と打てば「秋桜」と変換されるし、国語辞書も載っている。
しかし今日ここで行われる「秋桜賞」は「あきざくらしょう」と読むのが正解。1番人気はもちろんハクサンアマゾネス。ところが外目の3番手につけながら、向こう正面でズルズルと下がっていくではないか。
代わりに後方からポジションを上げていくのは2番人気ブリーザフレスカ。外外を回りながら4コーナーで先頭に並びかけると、短い直線だけであっと言う間に後続を置き去りにした。
重賞レースで2着に2秒以上の差をつけての大差勝ちは珍しい。JRAでもグレード制導入以降は記録されていない珍しい記録だ。同じ大差でもレインボーアンバーの弥生賞は1秒7差。サイレンススズカの金鯱賞でも1秒8差である。
それでもハクサンアマゾネスが為し遂げたのなら納得できたかもしれない。実際、2走前の百万石賞では後続に2秒9もの大差をつけて勝っていた。それが今日は一転してシンガリ負けの屈辱である。そもそもパドックでも時折止まろうとするなど、明らかに様子がおかしかった。女王にいったい何が起きたのか。ひょっとしたら彼女は山口百恵さんの「秋桜」を知っていたのかもしれない。小春日和には程遠い猛暑日の秋桜に、馬の方が混乱したのだろうか。
***** 2023/9/5 *****
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