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2023年9月30日 (土)

シリウスに向かって飛べ

大阪で暮らし始めて間もなく丸3年。関西地区のJRA重賞をすべて生観戦することを目標に掲げてきたが、今日のシリウスSでリーチが掛かる。あとは京都金杯を残すのみ。平日に行われる上、この3年間は中京開催だからおいそれと観に行くことができなかった。京都開催に戻る次回こそコンプリートのグランドフィナーレとしたい。

ともあれシリウスSを観るのは初めてだ。ハンデGⅢとはいえJRAで行われるもっとも距離の長いダート重賞である。といってもその距離は2000mでしかない。いや、厳密には「芝78m+ダート1922m」である。

国内外を問わずダートのチャンピオンディスタンスは2000mが常識となっているのに、JRAにダート2000mの重賞がこのレースひとつだけというのは違和感を感じるかもしれない。ただ、芝コースの距離設定を優先して設計されているJRAの競馬場で、芝とダートの両方で2000mを設定することは難しい。自然とダート2000mの舞台は地方の領域となる。

ともあれ、オメガパフュームやアウォーディー、ワンダーアキュートといったチャンピオンホースも、このシリウスSでダート2000mをこなし、やがて東京大賞典やJBCクラシックを制するまでになった。

今年のシリウスSは1番人気ハギノアレグリアスが4角6番手から直線だけであっさり前を捉えると、58.5キロのトップハンデをものともせず名古屋大賞典以来の重賞2勝目を挙げた。

Sirius

キズナ産駒の6歳牡馬で、祖母がタニノクリスタルだからタニノギムレットは叔父ということになる。それ以外にもタニノエポレット、プリュムドール、プリュムドールといったステイヤーが名を連ねる母系を見れば距離延長は望むところ。JRA最長距離ダート重賞のタイトルは譲れない。たとえJRA重賞未勝利でも、たとえトップハンデでも、そしてたとえ大外枠であっても、今日は負けるわけにはいかなかった。

四位調教師は意外にも重賞初勝利だそうだ。騎手としては2001年のシリウスSを勝っている。優勝馬は直線一気でお馴染みブロードアピール。当時のシリウスSはダート1400mの短距離重賞だった。

首尾よく賞金加算に成功したハギノアレグリアスの展望は明るい。6歳とはいえ、まだキャリア15戦。馬体は若い。3歳秋に3連勝でオープン入りを果たすも、直後に屈腱炎の憂き目を見た苦労人(馬)である。1年8か月の長期休養の間にそれまでの松田国厩舎から四位厩舎に転厩。それでも今日のレースぶりを観れば完全復活と言って良かろう。初めて生観戦したシリウスSが、名馬物語のターニングポイントとなるよう、ハギノアレグリアスを応援し続けよう。

 

 

***** 2023/9/30 *****

 

 

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2023年9月29日 (金)

秋風にたなびく雲の絶え間より

今日は中秋の名月。大阪市内でも大きくて真ん丸な月を眺めることができた。

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秋は月が美しい季節。俳句で単に「月」といえば秋の月を指す。競馬でもムーンライトハンデキャップと聞けば秋を思い浮かべる人も少なくあるまい。アドマイヤムーンは当時秋に行われていた札幌2歳Sで重賞初制覇を飾り4歳秋のジャパンカップで有終の美を飾った。その子ハクサンムーンも通算7勝のうち9~11月に重賞2勝を含む4勝を挙げている。その名に「月」を抱く馬たちが輝くのも、決まって秋だったような気がしてならない。

今年もファストフード業界を中心に月見商戦が過熱している。日本マクドナルドが目玉焼きを挟んだ「月見バーガー」を発売して32年。近年はモスバーガーやケンタッキー・フライド・チキン、牛丼や持ち帰りピザのチェーンまで参戦してマクドナルドの牙城を崩しにかかっている。

コメダ珈琲では昨年から発売開始している「フルムーンバーガー」を今年も発売。満月に見立てたオムレツと肉厚のハンバーグを使ってボリューム感をアピールしている。また、すき家は「月見旨辛すきやき牛丼」を投入。満月思わせる卵黄を崩すことで、すき焼きの味の変化を楽しむことができる。

これらの月見商品に共通しているのは、どれも卵を使っていることだ。現代の月見において団子の肩身は狭い。

とはいえ「月見」の嚆矢はうどんである。ご飯に卵を載せれば「タマゴかけごはん」なのに、うどんに落として「月見うどん」と呼んだのは日本人ならではの感性であろう。もちろん黄身が満月。そして熱々のツユで温められて白さを増した白身は雲を表す。

目玉焼きを挟んだハンバーガーはたしかに美味いが、月見の要素を感じることは存外少ない。食べる前にバンズを剥がさない限り「月」が姿を現さないからである。窓のない部屋で月見をしているようなもの。視覚に訴えるものがない。

卵黄だけの「月見旨辛すきやき牛丼」も同様。雲は月見を決して邪魔するものではない。むしろ月明りの美しさ、ありがたさを引き立てる重要な要素である。黄身と白身が揃うことで美しい月見の絵が成立する月見うどんの感性を軽んじてはいけない。

「秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ」

そう詠んだ左京大夫顕輔の気持ちに思いを馳せながら、今宵は梅田食道街の人気店「潮屋」で月見うどんを食べて、のんびり月を眺めながら帰宅した。

Tsukimi

釜玉はしょっちゅう食べるのに、月見うどんとなると案外食べる機会が少ない。振り返れば温玉や卵天に走っていた自分に気付くことになる。黄身によってまろやかさを増したツユの味が懐かしく感じられるのは、きっとそのせいに違いない。月あかりの有難味が薄れつつあることと、根っこは同じであろう。

明日の中山5レースにムーンライトデイという2歳牝馬を見つけた。ニューイヤーズデイ産駒で母はルナリア、その母はムーンライトダンスという血統。管理する田島俊明調教師の名前にも「月」の文字が入っている。秋に輝く月の、その「さやけき」走りを見届けたい。

 

 

***** 2023/9/29 *****

 

 

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2023年9月28日 (木)

短距離も逃げ馬

過去10年のスプリンターズSの優勝馬10頭を性別で分けると、牡馬8頭に対し牝馬が2頭。さらにその前の10年間では牡馬7頭、牝馬3頭となっている。グレード制が導入される以前のスプリンターズSでは牝馬が9勝8敗と牡馬を抑えていたが、近年は牡馬優勢の傾向が強い。

背景には距離に対する考え方の変化がある。日本ダービーや天皇賞春といった中長距離が重視されていた当時、スプリント路線を目指す強豪牡馬などいなかった。強い牝馬と弱い牡馬がぶつかれば、牝馬優勢になるのも無理はない。

1979年などは上位6着までを牝馬が独占している。この年のスプリンターズSを勝ったのはサニーフラワー。その勝ち時計は1分12秒8とかかった。むろんこの年のスプリンターズSがダート変更になったわけではない。当時の芝コースは、ひとたび雨が降ればたちまち泥田と化した。ゆえに状況によってはダートの方が時計が出ることもある。1977~78年のスプリンターズSを連覇した快速牝馬メイワキミコは芝とダートのそれぞれで1200mのレコードをマークしたが、芝が1分9秒3であるのに対し、ダートは1分9秒2と芝より早い。そもそも勝ち時計すら、当時はさほど重視されなかった。

中山の1200mで1分8秒の壁が初めて破られたのは、1990年のスプリンターズS。バンブーメモリーが1分7秒8で優勝し、それまでのレコードをコンマ3秒縮めてみせた。実はスプリンターズSはこの年からGⅠに昇格したばかり。そういう意味ではレースの格がタイムに現れやすい条件ともいえる。翌年はダイイチルビーが1分7秒6で優勝。以後、スプリンターズSでは1分7秒台の決着が珍しくなくなる。そしてついに2012年にロードカナロアが1分6秒台での優勝を果たした。スプリンターズSで1分5秒台が叩き出され日も、そう遠くはあるまい。

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高速化はスプリンターズSにはもうひとつの変化をもたらした。逃げ馬の台頭である。

スプリンターズSが秋に行われるようになってからというもの、ダイタクヤマト、カルストンライトオ、テイクオーバーターゲット、アストンマーチャン、ローレルゲレイロ、ウルトラファンタジーが逃げ切り、メジロダーリング、ハクサンムーン、ミッキーアイル、モズスーパーフレアが逃げて2着に粘っている。距離体系の整備によってスプリンターの血統選別が進んだ今、スピード能力にあふれる馬がマイペースの逃げに持ち込めば、そう簡単には止まらない。俗に言う「長距離の逃げ馬、短距離の差し馬」も、ことスプリンターズSに限ればそうとも言い切れなくなる可能性を秘めている。

そも6ハロン戦自体が戦後なってから行われるようになった比較的新しい距離。1946年のレコードタイムはヤスヒサの1分15秒4/5(当時は1/5秒単位の計時)だった。それが現在ではテイエムスパーダが昨年マークした1分05秒8だから、ちょうど10秒を縮めるのに76年かかったことになる。つまり歴史的に見れば今なお変遷の最中であってもおかしくはない。

スプリンターズSは今年も7秒台の決着となるのか、それとも11年ぶりに6秒台が出るのか。日本レコードホルダーのテイエムスパーダの参戦もあって、時計にも注目の一戦となりそうだ。

 

 

***** 2023/9/28 *****

 

 

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2023年9月27日 (水)

京都から神戸へ

先週日曜に行われた神戸新聞杯をサトノグランツが勝った。帰京していたので写真はない。しかし、その勝ちっぷりは鮮烈のひと言である。普通なら負けの流れ。オワタと思わせるシーンは一度や二度ではない。それでも最後の数完歩だけで一気の形勢逆転。川田将雅騎手の手綱さばきを賞賛する声が溢れるが、それに応えた馬も凄い。

サトノグランツはこれで京都新聞杯と神戸新聞杯の両方を制したことになる。この2レースは1999年まで秋に行われる菊花賞トライアルだった。9月に神戸新聞杯、10月に京都新聞杯、そして11月に本番の菊花賞。ゆえに神戸と京都の両方を制した馬はたくさんいる。1963年コウライ6オー、1966年ハードイツト、1971年ニホンピロムーテー、1972年タイテエム、1974年キタノカチドキ、1976年トウショウボーイ、1986タケノコマヨシ、1994スターマン、そして1997マチカネフクキタル。トライアル連勝はさほど珍しくない。

ただ、2000年を境に京都・神戸の関西ブロック紙2冠を果たす馬はパッタリいなくなった。この年から京都新聞杯が春に移動してダービートライアルとして生まれ変わったため。それを初めてクリアしたのがサトノグランツということになる。

名門新聞として関西だけでなく競馬界にもその名を轟かせる京都新聞と神戸新聞は、様々な面で協力関係にある。有名なところでは阪神大震災で神戸新聞社が被災した際に、京都新聞社で紙面を制作して発行を続けたという話。その後2007年にも神戸新聞社の紙面制作システムが障害を起こした際、京都新聞社で紙面制作を代行している。今で言うBCPの走り。時代遅れの紙媒体とはいえ、発行が途切れることでアーカイブとしての存在価値すら失う恐れがあることから、新聞各社はどんなことがあっても発行を止めることが無いようなスキームを構築している。

競馬新聞はどうだろうか。

Shinbun

たとえば日刊競馬さんは自前の組版システムと印刷システムを持っており、JRAと南関東4場開催の年間365日発行をこなしている。専門紙業界の中ではかなり充実した設備であることは間違いない。一口にに専門紙と言ってもその規模はさまざまで、「輪転機なんていちいち持ってないよ」というところも多く、大半の専門紙は他社の工場に印刷を委託している。有名な全国紙の工場で印刷している競馬専門紙もなくはない。

そもそも、輪転機などなくとも、印刷は委託しまえば済むことである。インターネットで紙面のデータをびょろろ~っと送ってしまえば、それでおしまい。あとは委託先が、印刷して、裁断して、折り込んで、梱包までしてくれる。それでも、組版システムの方は自前で持ってなきゃならんので、万一そのシステムが動かんとなれば、その日の新聞発行を諦めるほかはない。そこは新聞社も競馬専門紙も立場は同じ。

とはいえ、競馬ファンにしてみれば、さほどの影響は無いのかもしれませんな。「競馬エイトが手に入らないなら今日は馬券は買わねぇ!」とか「競馬ブック以外の新聞は見方が分からない」なんてファンはごく少数だと思う。

ちなみに在京の競馬専門紙各社は、システムトラブルや災害などで新聞発行ができなくなった場合に備えて、お互いの組版システムの互換性を高めている。阪神大震災や2007年の神戸新聞社のシステムトラブルが、その流れを加速した。でも、例えば「日刊競馬」の組版システムで「競馬ブック」を作ることになったら、馬柱はタテ組になるんだろか? タテ組のブックなんて有り得ないですよね。見てみたい気もするけど。

超巨大地震で首都圏が壊滅したりしない限り競馬専門紙は常に発行されます。なので競馬ファンは安心してください。まあ、そんな細かい心配せんでも、東京が壊滅状態になったらさすがに競馬は中止ですな、でも、少なくともシステムトラブル程度なら乗り越えられると思う。たぶん。

 

 

***** 2023/9/27 *****

 

 

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2023年9月26日 (火)

牛肉バンザイ

母の生家が鰻屋や鮮魚店を営んでいたせいで子供の頃の食卓に鰻やマグロが踊ることはあっても、肉が並べられることはほとんど無かった。たまの「焼き肉」も当然のごとく豚肉。ゆえに、私にとっての「ご馳走」とは、鰻でも鮨でもなく牛肉なのである。

そんな私であるから思わず取り乱したのも無理はない。先日、神奈川の自宅に届けられたクール便の箱には、まごうことなく「和牛」と記されていた。

「わー、わ、わ……わぎゅう!?」

家族4人と犬1匹が荷箱をぐるりと取り囲み、家長たる私が恭しく包装を解いてフタを開けると、「わあっ!」という歓喜の声が沸き起こった。鮮やかなピンク色の牛肉たちが、箱いっぱいに詰め込まれているではないか! 妻は言葉を無くし、娘二人は万歳を繰り返し、犬は歓喜のあまりウレションを漏らした。きっと私の目にも涙が浮かんでいたことであろう。

Wagyu

―――なんて、多少の誇張はあるにせよ、牛肉には人の心を弾ませる何かがある。いくら豚肉が美味しくて、ヘルシーで、ビタミンBが豊富であっても、ここまで人を高揚させることはなかろう。

赤身の多い外国産牛肉ならシンプルなアメリカンステーキだが、サシの豊富な和牛はやはりすき焼きかしゃぶしゃぶで頂きたい。某漫画の影響かしらんが、食通ぶるような人ほど「すき焼きは牛肉の旨さを分かってない奴の食い方だ」と言ったりするものだけど、決してそんなことはない。不味いのだとしたら、それは作り方(鍋だから「食べ方」というべきか)に問題があるのであろう。そういう人は試しに和牛と長ネギだけですき焼きをやってみるとよい。すき焼きの奥深さが分かるはずだ。

すき焼きのルーツはいくつかあるが、そのひとつに横浜で生まれた牛鍋がある。

幕末当時、わざわざ母国から牛肉を取り寄せていたほど牛肉好きな居留外国人たちが、こぞって絶賛したという牛鍋が「牛肉の美味さを知らぬ」調理法であるとは考えにくい。この牛鍋をかなり早い時期に食べていたのが、かの福沢諭吉である。彼は当時としては珍しい肉食論者でもあった。

ちなみに、牛肉以外の具材を俗に「ざく」と呼ぶが、本来これはネギのみを指す言葉。つまり、黎明期は牛肉と長ネギだけの鍋だったのである。明治初期に整腸剤としてシラタキが加わり、さらに戦後の食材不足の折に焼き豆腐と春菊も鍋に入れられるようになった。そういう意味でも、やはりすき焼きは和牛と長ネギを味わう鍋と思えるのである。

 

 

***** 2023/9/26 *****

 

 

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2023年9月25日 (月)

カレーの街

彼岸を過ぎてようやく都内は9月らしくなってきた。「涼しい」とまでは言い切れないが、少なくとも30度には届かない。神田近くまで来たついでに、ちょっと歩いてカレーでも食べに行こうかという気にもなる。

カレーは暑い夏に食べてこそ美味しいということは承知しているが、これまでの暑さではまず外に出ようという気にならない。神田の街を歩いてカレー屋巡りをするなら今日くらいがベストであろう。

Kyouei

「ボンディ」「ガヴィアル」「共栄堂」「トプカ」「まんてん」……。名店と呼ばれる神田のカレー専門店を挙げれば十指に余る。さらに「キッチン南海」や「ルー・ド・メール』」のようにカレー専門の看板を掲げていなくても、美味いカレーを出す店を探せばきりがない。

なぜ神田にカレー店が多いのか?

「神保町の交差点近くにインドセンターの建物があってインド人が多くいたから」という説と、「古本を買った人が本を読みながらスプーン片手に食べられるから」という二つの説があるようだが、真相は明らかではない。まあ、我々とすれば美味しいカレーが食べられれば文句はないわけだが、「ボンディ神保町本店」を訪れるたび、後者の説を信じたくなる。

Bondy

なにせこの店、古本屋の中にある。以前は靖国通りから「神田古書センター」に入ると、「ボンディへご来店のお客様は書店を通り抜けてお越し下さいませ」の看板が目に飛び込んできたものだ。ちなみに今では書店を通り抜けるのはご法度。逆に「通り抜けるな」という張り紙がある。こんな騒ぎになるのも、カレーの味わいが傑出している証拠。さすがは、激戦区神田の「カレーグランプリ」の初代王者。その味について、ここでくどくどと書きたてる必要はあるまい。

Gavial

その「ボンディ」から独立した店主が営む「ガヴィアル」のカレーも捨てがたい。ボイルして潰したタマネギに牛肉と野菜のスープを混ぜて、バターと生クリームで仕上げるルーは完成まで3日もかかるという。どちらかと言えば、私は「ボンディ」よりこちらが好み。今は神保町駅に移転しているが、15年ほど前に神田駅前で営業していた当時は、近隣にオフィスを構える一口愛馬クラブ関係者が、カレーを食べながら調教師の悪口を言っていたものだ。テーブルが隣り合わせになったりすると、そちらの会話が気になってカレーの味どころではない。ナニナニ、あの調教師とあの騎手の仲が悪いという噂は本当だったのか……。

かつて神田の街には一口馬主クラブの事務所が多くあった。神田だけでもセゾンレースホース、ヒダカブリーダーズユニオン、ゴールドレーシング、友駿ホースクラブの4法人が。さらに神田の隣町である日本橋や三崎町にはローレルクラブやウインレーシングクラブが軒を連ねていたのである。神田は古本の街であり、カレーの街であり、そして一口馬主クラブの街でもあったわけだ。

 

 

***** 2023/9/25 *****

 

 

 

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2023年9月24日 (日)

東西つるまる食べ比べ

先週金曜日の話。運転免許証の更新のため、初めて門真の免許試験場を訪れた。地元の警察署でも手続きは可能だが、講習や交付の日程が自由に選べないという。今月来月は何かと忙しくて、上手いことスケジュールが合うかどうかは分からない。それでヤキモキするくらいならと、多少時間はかかっても即日交付される試験場を選んだ。

神奈川県だと1時間以上かけて二俣川まで行って、駅前からさらにバスに揺られて、大混雑のセンターで長い行列に耐え抜いてようやく新しい免許証を手にすることができる。その経験からざっと5時間を覚悟していた。それが驚くことに、家を出てから新しい免許証を手にするまでわずか2時間である。大阪府警は素晴らしい。試験場は近いし、事前予約制で並ぶこともない。受付機を操作するだけで、必要事項が印字された申請書がプリントアウトされる。あとは、手数料を払って、視力検査をして、顔写真を撮るだけ。講習の開始を待つ40分間がいちばん長かったくらいだ。

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気を良くして駅まで歩く途中、派手な黄色い看板が目に入った。どんな店かと近づいてみれば、お馴染み鶴丸のチェーン店である。ちと早いが昼メシにしようとわかめうどんを注文。安定の鶴丸の味がする。気持ちに余裕があるから、なおさら美味い。

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そのまま新幹線で東京に向かう。

この日は都内で人と会うことになっていた。しかし、免許更新があっと言う間に終わったせいで約束の時間にはまだ早い。どこかで2時間ほど潰せないか。

そうなりゃ、ココしかあるまい。

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もちろん大井競馬場ですな。

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4レースの新馬戦を勝ったのはノーザンF生産のマスターオブライフ。御神本訓史騎手の手綱で圧倒的1番人気に応えた。最後まで食らいついた2着のミチノアンジュの名前も覚えておきたい。なにせ3着以下は3秒も離している。

Ooi1

久しぶりに大井の鶴丸を食べてみたくなった。敢えてわかめうどんにして味の比較をしてみよう。

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結論から言えば、やはり門真で食べた一杯と味は違った。門真は「鶴丸饂飩本舗」とで大井は「つるまる饂飩」。ブランドの違いもあるかもしれないが、大井の方が麺が細くて、わかめが若干少なくて、価格が高い。まあ、価格に関しては競馬場内の店舗だと思えば仕方ない面もある。いずれにしても同じ日に500キロ離れた土地で、同じ鶴丸のうどんを食べるのは貴重な経験だった。

 

 

*****2023/9/24 *****

 

 

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2023年9月23日 (土)

眠れぬ日々

せっかく自宅に帰ってきているのに、関東は昨夜からの雨が上がりきらない。

本当は中山3R新馬戦のライトピラーを観に行くつもりだった。ついでに秋冬の服を買って帰ろうという腹づもり。ボチボチ散髪にも行っておきたい。だが、朝起きてカーテンを開けた途端に外に出るのが億劫になった。レースはグリーンチャンネルで十分。髪だってひと晩で5センチ伸びるわけでもなかろう。そう割り切って今日は一日寝て過ごすことに決めた。そもそも神奈川の我が家から中山は遠過ぎる。大阪から中京に行くのと感覚的には変わらない。

ここのところ睡眠のことばかり考えている。ラグビーワールドカップの影響もなくはない。端的に言えば寝不足なのである。正確に言えば寝不足だと思っている自分がいるのである。

昔は睡眠時間なんて気にしなかった。なのに最近では「昨日は3時間しか寝られなかったから、今日は4時間余計に眠って取り戻そう」などと考えてしまう。それでも睡眠負債は膨らむ一方。なぜか。眠ろう眠ろうと焦るあまり、眠ることができないのである。トシをとれはそうなると聞いてはいたが、これほどひどいとは思わなかった。

「眠れない」と嘆くのは、人は眠れて当然だと思えばこそであろう。戦争になると特定の病気が減ると何かで読んだ。“増える”の誤りではない。その病気とは、胃潰瘍とか自律神経失調症の類だったと思う。おそらく不眠症もそこに含まれるはずだ。

競走馬が胃潰瘍になる話はよく知られている。その原因は「苛酷なトレーニングによるストレス」と一括りにされることが多いが、実は動物園に飼われている動物もしばしば胃潰瘍になるらしい。動物園でも「過酷なトレーニング」が行われているのだろうか。そんなはずはないから、原因を他に考えてみる。そこで前述の「戦争で胃潰瘍が減る」の話を思い出した。緊張感のない環境に置かれて変調をきたすのは、何も人間に限った話ではあるまい。私が寝不足を感じるのも、私の周囲が平和であることの裏付け。ならば悪い話でもない。

Sleep

馬は立ったまま眠ることができる。ベテランになれば馬せん棒を枕がわりに眠るなんてこともザラ。人間だって、どうしようもない状況に陥れば寸暇を惜しんで眠る術を備えているはず。寝不足を過度に心配することはあるまい。ウクライナの人が聞いたら呆れるだろう。それは分かっている。分かっているのだが、今日も深い眠りを得るには至らなかった。明日は眠れるだろうか。

 

 

***** 2023/9/23 *****

 

 

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2023年9月22日 (金)

オールカマー、いまむかし

今週の中山メインはGⅡオールカマー。一風変わったこのレース名は、かつてこのレースが年に一度の中央・地方交流重賞だったことに端を発する―――。

そんなコトは誰もが知る競馬の常識。そう信じて疑わぬ私の周囲に、これを知らぬという競馬ファンがいてひっくり返った。

「川崎のロジータがオグリキャップに挑戦したり、大井のジョージモナークがホワイトストーンに勝ったりしただろう」

「オグリキャップは聞いたことがありますけど、ロジータって誰ですか?」

「何ぃ? ロジータを知らぬとはどういうことだ! お前、それでも競馬ファンか!」

「いや、あの……、それっていつ頃の話ですか?」

オグリキャップがロジータを負かしたのは忘れようもない。平成元年である。

「えーと、34年前だ」

「ボク、29歳なんスけど」

「………」

ともあれ、地方と中央の垣根が低くなってからのオールカマーは、天皇賞秋の前哨戦としての存在価値を高めるようになった。GⅡに格上げされ、1着馬には天皇賞秋の優先出走権が与えられるようになる。実際、2018年にはオールカマーを勝ったレイデオロが、その勢いを駆って天皇賞秋を制したこともあった。

しかし、こうした例はむしろ稀な方かもしれない。昨年はオールカマーから天皇賞秋に向かったのは1頭のみ。前哨戦としては日本ダービーと札幌記念の3頭が最多だった。天皇賞秋自体、2年連続でダービーから直行した3歳馬が制している。

オールカマーが秋天の前哨戦のひとつであることは間違いないが、2200mという距離と、レース間隔をなるべく長く空けるという昨今の潮流を重視する時、天皇賞秋よりはエリザベス女王杯を狙う牝馬向きの重賞に変化していることは否定できまい。一昨年はウインマリリン。そして昨年はジェラルディーナ。2年連続で牝馬がオールカマーを勝ち、勇躍エリザベス女王杯へと向かった。その牝馬2頭は今年もオールカマーに出走を予定している。仮に牝馬のワンツーフィニッシュという結果になれば、2021年のウインマリリン&ウインキートス以来、4回目の出来事だ。

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話は28年前に遡る。1995年のオールカマーで人気を集めたのはヒシアマゾンだった。その年の春に海外遠征を故障で断念。帰国後の高松宮杯に出走するも、まるで精彩を欠いた走りで5着に敗れている。牝馬は一度体調を崩すと立て直すのが難しい。一時は引退説も流れた。それでもファンはオールカマーに挑むヒシアマゾンを1番人気に押し上げたのある。

実はこの年のオールカマーは台風12号の影響で平日の月曜日に行われた。にも関わらず、46,888人もの観衆が中山につめかけたのは女王復活の瞬間をひと目見たいと願うファンが、それだけ多かったということであろう。前日の雨が残って馬場は稍重。アイビーシチーが先導するスローペースに業を煮やしたヒシアマゾンは、3コーナー付近で早くも先頭に立ってしまう。どよめくスタンドの大観衆。ヒシアマゾンが先頭のまま馬群が直線に向くと、猛追するアイリッシュダンスをクビ差抑えてゴールした。スタンドは大歓声。皆が待ち望んだ女王復活の瞬間である。

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ヒシアマゾンが名牝であることは論を待たないが、アイリッシュダンスにしても牡馬相手に2つの重賞を勝っただけでなく、ハーツクライという不世出の名馬の母でもある。そういう意味において、この年のオールカマーは名勝負だった。

 

 

***** 2023/9/22 *****

 

 

 

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2023年9月21日 (木)

【訃報】スティンガー

最近の若い人はカクテルをあまり飲まないと聞いた。となれば「スティンガー」と聞けば、米国がウクライナに供与した携帯式地対空ミサイルのことだと思う人が大半だろうか。しかし競馬オヤジにとっては1998年の2歳牝馬チャンピオンをおいてほかにない。名牝の訃報が続く。先週はカワカミプリンセスの訃報を聞いたばかり。今日はスティンガーの訃報が飛び込んできた。とはいえ27歳なら大往生であろう。

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この馬を語るのに1998年の阪神3歳牝馬Sを避けて通るわけにはいかない。前週の赤松賞で2勝目を挙げたばかり。連闘でのGⅠ制覇は過去に例がないわけではなかったが、キャリアの少ない2歳の、体調管理の難しい牝馬が、しかも長距離輸送を克服して頂点に立つとは思いもしなかった。それだけの能力の持ち主であると評価されていたことの裏返しでもあるが、彼女はその後も「異例」の道を歩み続ける。

阪神3歳牝馬Sから桜花賞に直行というローテはそのひとつ。今では余計な消耗を避けるため有力馬がステップレースを使わないのは当然のこと。しかし当時はそうではなかった。結果、桜花賞を大敗したことでいわれのないバッシングを浴びることになるが、時代がまだ彼女に追いついていなかっただけの話。さらに3歳秋には秋華賞やエリザベス女王杯ではなく、毎日王冠~天皇賞秋~ジャパンカップという古馬の王道ローテを選択。勝てないまでも、しっかり走り抜けた。やがて彼女の切り開いた道を通って、ブエナビスタやジェンティルドンナ、アーモンドアイといった名牝たちの時代が花開くことになる。

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阪神3歳牝馬Sを独走し、4歳牝馬特別(現在のフローラS)でフサイチエアデールを破ったスティンガーだが、その強さが際立ったのは芝7ハロンの舞台だったように思えてならない。走ったのは生涯で二度きり。どちらも京王杯スプリングカップで、二度とも圧勝だった。

1回目は2000年。4角最後方のポジションから、目の前で凌ぎを削るグラスワンダー、キングヘイロー、ブラックホーク、ウメノファイバー、シンボリインディ、ディクタットといったGⅠ馬たちをなで斬りにして豪快に突き抜けた。

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2回目はその翌年。先に抜け出したブラックホークとスカイアンドリュウを一完歩ごとに追い詰めて、最後はクビだけ前に出たところがゴール。前年のような派手さはなかったものの、1分20秒1の勝ち時計は当時のタイレコードだからレベルが低いはずもない。ただ前年は武豊騎手、そしてこの時は岡部幸雄騎手の手綱だった。騎手のスタイルの差が現れた結果とも考えられる。

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いずれにせよ京王杯の長い歴史の中で、連覇を達成しているのはスティンガーただ一頭。01年といえば馬齢表記が国際基準に合わせて満年齢に変更となった年だから、スティンガーは京王杯スプリングカップを「5歳」で二度勝つという前代未聞の記録も持っている。

ちなみに「スティンガー」とは「針」の意味。ゆえにカクテルのスティンガーはブランデーをベースに、ペパーミント・リキュールを加えて味に鋭さを加えている。口当たりは甘いが度数は強め。そういう意味では危険な毒針だ。馬のスティンガーもそんな危険な香りを感じさせる一頭だった。勝つときは豪快。そして負ける時も豪快。21戦のキャリアで2着がないのである。調教で北村宏司騎手を振り落としたこともあった。そんなおてんば娘のレースを思い起こしながら、今宵はスティンガーで献杯しよう。

 

 

***** 2023/9/21 *****

 

 

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2023年9月20日 (水)

クラブ興隆の果てに

先週の3日間開催では、やたらとクラブ馬主が活躍した感がある。東西72鞍のうち、ほぼ半数にあたる35勝がクラブの馬によるものだった。勝利を挙げたクラブの数は実に16にも及ぶ。東西の重賞もクラブの馬がそれぞれ制した。インゼルとグリーンは前週に勝ったからまだしも、ウインやユニオンの会員さんは肩を落としているかもしれない。

キャロット 11勝
シルク    7勝
社台     2勝
サンデー   2勝
G1     2勝
東サラ    1勝
ラフィアン  1勝
ロード    1勝
DMM    1勝
ノルマンディー1勝
フクキタル  1勝
ライオン   1勝
大樹     1勝
ターフ    1勝
京サラ    1勝
ローレル   1勝

特にキャロットは計23頭が出走して(11,5,1,6)の固め打ち。勝率.478は驚異的だ。月曜の中山では10レースから怒涛の3連勝。ローズS優勝でオーナーランキング2位に浮上した社台レースホースを、翌日のセントライト記念優勝であっさり抜き返したあたりは、キャロットの地肩の強さを感じる。

Carot

GⅠの成績だけを拾っても、桜花賞、ヴィクトリアマイル、オークス、安田記念をサンデーが、皐月賞を社台が、ダービーをキャロットが、そして宝塚記念をシルクが制している。いずれも社台グループ系のクラブ馬主であることは偶然ではあるまい。

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ここで言う「クラブ馬主」とは、クラブ法人所有馬に出資する出資会員を指す。JRAの正式馬主のことではない。クラブ馬主は実際には馬主ではないから、馬主席に入ることも、優勝馬の口取りに参加することも原則的には不可能。株で言えば、配当は貰えるが、議決権のないミニ株のようなものか。最近では馬主席への招待や口取り参加を認めるクラブもあるが、それはあくまでサービスの一環である。

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私自身、過去にはいくつもクラブを渡り歩いた。端緒を開いたユーワホースクラブで最初に出資したのはトウショウボーイの産駒だから隔世の感がある。以後、大樹、社台(のちにサンデーも)、シルク、ターフスポート、セゾン、ヒダカブリーダーズユニオンと節操なく手を出しまくった。だが、いまだ重賞勝ちはおろか、JRA重賞出走の経験すら持たぬとは情けない。せっかくだから過去の全出資馬の馬代金と預託費用の総額、さらに総獲得賞金を総ざらいしてみようかと思ったが、計算の途中で怖くなってやめた。おそらくクルマの1台や2台で済む赤字額ではあるまい。

私があちこちのクラブに顔を出したののにはワケがある。つまり、そこで仕事をいただいていたからに他ならない。そういう立場である以上、抽選必至の人気馬に申し込むわけにはいかず、ただひたすら残口を埋めるのみ。すくなくとも私の一口馬主ライフにおいて、残り物に福などなかった。

しかし、おかげで分かったこともある。もっとも大きな発見は、クラブは運営する側が圧倒的に有利であるということ。種牡馬入りに際しクラブ側が4割を取るなど、普通に考えたら非常識も甚だしい。牝馬の引退既定も同様。だが、その不利を承知の上で、クラブ会員の皆さんは先を争って馬に出資する。つまるところ、これこそが我が国の馬主制度の欠陥であろう。ファンサービスに力を注ぐのも構わないが、JRAの馬主冷遇には常日頃から思うことがたくさんある。

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ちなみに米国ではきわめて簡単に馬主になれるらしい。吉田直哉氏がスポーツ紙のコラムにそう書かれていた。馬主申請手続きがあまりに簡素だったので、「収入は聞かないのか?」と尋ねると「預託料を払えない人は馬主にならない」と返答されたとのこと。逆に徹底的に疑うのが日本である。その理不尽を突いてクラブ法人は勢力を拡大してきた。もちろん儲け主義一辺倒のクラブばかりではない。だがそれを思わせる新規参入もゼロではない。

クラブが興隆を極めることで不都合があるだろうか。プレイヤーの裾野を広げるというメリットはたしかにある。一方でクラブの都合が優先されることへの懸念は残る。それでなくてもいわゆる「使い分け」の議論は後を絶たない。折しもローズSで2着に入ったブレイディヴェーグの秋華賞回避が発表された。レース後の様子を見た上での判断だというが、同じクラブからリバティアイランドが出走を予定していることと無関係ではなかろう。

 

 

***** 2023/9/20 *****

 

 

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2023年9月19日 (火)

阪神パンステークス

昨日までの阪神競馬場内では珍しいイベントが行われていた。その名も「阪神パンステークス」。阪神競馬場近郊のパン屋さんが出店して、パンを片手に競馬を楽しんでもらおうという趣向であろう。梅田駅や西宮北口駅にもポスターが掲示されて、前々から気になっていた。

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しかし、9月中旬まで猛暑が続いたのは想定外だったか。気温34度の炎天下で屋外の飲食イベントは厳しい。ちょいと様子を覗きに行ったけど、炎天下のテント内でパンを売るスタッフの方があまりに気の毒になり、ちょいちょい買ってしまったことで、また太って帰る羽目になった。考え事をするにあたり、手元にパンがあるとなんとなく落ち着くのである。

パンの人気は西高東低だ。総務省の家計調査では、全国の県庁所在地と政令指定都市でパンにかける支出が多いのは、1位京都市、2位神戸市、3位堺市と関西の都市が表彰台を独占。中でも京都市の支出額は3万8915円と突出しており、全国平均を約9000円も上回っている。さすが粉もの文化のお膝元。パンだって小麦粉製品には違いない。

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驚くことに関西では「5枚切り」の食パンが売られている―――と書いたら関西の方は気を悪くするだろうか。しかし関東には4枚切りや6枚切りはあっても5枚切りはない。しかも、この5枚切りがいちばん売れるというから二度驚く。しっとり感、もっちり感が味わえて、しかもお買い得という絶妙の厚さということか。このあたりにも関西人のパンへのこだわりが垣間見える。パンひとつ取ってもこの違い。ちなみに関東で売れるあんパンの70%はこしあん、関西では逆に70%が粒あんだそうだ。

ホットドッグにも特徴がある。パンステークス会場の「ホットクロス」というお店で購入したホットドッグには、ソーセージと一緒にカレー味の千切りキャベツが挟まれていた。そういえば、関西の居酒屋で出てくるソーセージにはカレー味のキャベツが添えられていることが珍しくない。関西ではこれが「おかんの味」だと聞いた。そもそもソーセージとカレーは合う。カレーショップのトッピングでソーセージが人気上位にランキングされているのがその証拠。そんなんドイツ人でなくても分かる。

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シャキッとした歯応えのキャベツにジューシーなソーセージ。それらをふんわり包むパンの甘味。三位一体の美味しさがここにある。その中心で三者を繋ぎとめ、調和させているのはピリッと辛いカレーの存在だ。関西の人はあらゆるパンを美味しく食べる工夫に長けている。中川家さんのネタではないが、「明日のパン」というフレーズがおかんの口癖というお土地柄。そういう意味でも「パンステークス」は阪神競馬場に相応しいイベントだった。ただ、暑過ぎた。

 

 

***** 2023/9/19 *****

 

 

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2023年9月18日 (月)

甦る血

セントライト記念に皐月賞馬ソールオリエンスが出走してきた。無敗の2冠を目指したダービーはクビ差の2着。ならば単勝1.6倍のオッズも頷ける。

問題は2番人気である。もう一頭のGⅠ馬ドゥラエレーデではなく、オープン勝ち実績のあるシャザーンでもなく、ましてや3連勝中の上り馬ウィズユアドリームでもない。2番人気の支持を集めたのは春のクラシックとは無縁だったレーベンスティール。皐月賞にもダービーにも、そのトライアルにも一切顔を出してない。なのに単勝オッズは3.8倍。3番人気以下は10倍以上だから。オッズの上ではソールオリエンスとレーベンスティールの一騎打ちムードが漂っている。

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2勝クラスの条件馬でありながら、この馬が注目を集めるのにはワケがある。

昨年11月に東京芝1800mで行われた2歳新馬戦。2番人気に推されたレーベンスティールは、直線で1番人気馬と馬体を併せて長く激しいマッチレースを演じた。3番手以下は5馬身も離している。2頭の能力が抜けていたことは疑いようがない。この1番人気馬がソールオリエンス。レーベンスティールはクビ差及ばなかったが、能力の一端は示した。なにせ、この新馬戦を含めキャリア5戦連続すべて上がり3ハロンの最速タイムを叩き出している。そんなレーベンスティールにとって、あの新馬戦以来となるソールオリエンスとの直接対決。リベンジするなら今日しかない。多くのファンはそれを知っている。このオッズはそんなファンの期待の現れであろう。

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レースは揃ったスタートからレーベンスティールは枠なりに5~6番手の内目に収まった。初めての2200mだが引っ掛かる様子はない。そこはモレイラ騎手である。4コーナーのコーナーリングの勢いで外に進路を取ると得意の末脚が炸裂。モレイラ騎手のアクションに応えて一気に突き抜けた。後方馬群からようやくソールオリエンスが追いすがってきたが、脚色が違い過ぎる。ソールオリエンスに1馬身3/4の差をつけて嬉しい重賞初制覇を飾るとともに、ついにソールオリエンスへのリベンジを果たした。

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レーベンスティールが注目されるもうひとつの理由は、母の父がトウカイテイオーであることだ。

シンボリルドルフ~トウカイテイオーのみならず、メジロアサマ~メジロティターン~メジロマックイーンのラインも実質的に途絶えている。国内で父系を繋げることの難しさ。父子3代のダービー制覇が未だ達成されぬ事実はその象徴であろう。

しかし母系に入っても血は残る。メジロマックイーンはオルフェーヴルやゴールドシップによって甦った。トウカイテイオーにしても母の父として大物を残す可能性はゼロではない。

今日の勝利によってレーベンスティールはその候補に一歩近づいたことになる。バネの利いたしなやかなフォームは、リアルスティールよりもトウカイテイオーに近い。そう思っていたら、社台スタリオンのスタッフからも同じ声が届いた。そう思えたのは舞台が中山だったせいもある。

トウカイテイオーは皐月賞、有馬記念など中山で4戦3勝。さらにその父シンボリルドルフは1984年の弥生賞を手始めに1985年有馬記念まで中山は6戦全勝だった。中山で見せた圧倒的な強さはトウカイテイオーの血が騒いだのであろう。レーベンスティールとソールオリエンスとの対決はこれで1勝1敗。できることなら有馬記念での決着を観てみたい。

 

 

***** 2023/9/18 *****

 

 

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2023年9月17日 (日)

3冠に待ったをかけるのは

4年ぶりにローズSが阪神に帰ってきた。春の2冠の1~3着馬は不在だが、そのぶん下級条件を強い競馬で勝ち上がってきた素質馬が例年にも増して揃った感がある。絶対女王の3冠を阻止するような能力の片鱗を17頭の中に見出したい。

揃ったスタートから先手を奪ったのはユリーシャ。春はエルフィンSを逃げ切った実績を持つ。しかしそのペースが早過ぎた。1000m通過は57秒2。昨日のケフェウスSもそうだった。4年ぶりの阪神でみんなペース感覚が狂ってるのかもしれない。

4コーナーを回ると先行馬たちは次々と失速。代わりに馬場の真ん中から一頭が突き抜けてきた。黄、黒縦縞の勝負服。2番人気のソーダズリングかと思ったら違う。7番人気のマスクトディーヴァの方。先頭に立つのが早過ぎのような気もするが、後ろから追い掛けてくる姿もない。結果、後続とは1馬身半差だが着差以上の完勝だった。勝ち時計1分43秒0は、コースレコードをコンマ9秒、日本レコードをコンマ8秒も更新する大レコード。最後は流す余裕を見せていたが、しっかり追っていたら未踏の42秒台が出ていたかもしれない。

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それにしても、いつの間にマスクトディーヴァはこんなにも強くなったのだろうか。

なにを隠そう、この馬のキャリア3戦すべてを私は競馬場で観ているのである。デビュー戦となった1月15日の中京の芝は重馬場。多くの馬が道悪に苦労する中、6番人気ながら4角7番手から大外を豪快に突き抜けて圧勝した。

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自身が記録した上がり34秒4はメンバー中唯一の34秒台。同じ日に同じ芝2000mを勝ったシャザーンの勝ち時計も、上りタイムも上回っていた。それ観た私はマスクトディーヴァを「ものすごく道悪適性の高い馬」と決めつけてしまったのである。父がルーラーシップのせいもあろう。ともあれ今日の阪神の馬場はまず合わぬだろうとバッサリ切った。「よく知っている」が思わぬ落とし穴になることもある。こうなると明日のシャザーンが気になって仕方ない。なにせ手綱を取るのは、ローズSを勝ったばかりの岩田望来騎手である。

ともあれこれで私はマスクトディーヴァのキャリア4戦をすべて観たことになった。驚愕のレコードで溢れるスピード能力を裏付けたかと思えば、道悪をものともしないパワーも兼ね備えている。そんな彼女ならリバティアイランドにも勝てるかもしれない。ギアを入れてからグッと重心が下がった瞬間、イクイノックスやドウデュースの走りが垣間見えた気がした。カギは京都の内回りをこなせるかどうか。全部観ているからと言って必ずその馬の馬券を買うのは間違い。全部観ているからこそ切る判断もできる。たまたま今日はそれが裏目に出ただけの話。そう割り切らなければ毎週のように競馬場に通うなんてできっこない。

 

 

***** 2023/9/17 *****

 

 

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2023年9月16日 (土)

ローズSの前日に

9月も後半に入ったというのに今日も暑い。京都では最高気温が35度を超えて、観測史上もっとも遅い猛暑日が記録された。仁川界隈の最高気温は33度前後。とはいえ風が無いからとにかく蒸している。そんな阪神は3日連続開催の初日。オープンクラスの競走が3鞍も組まれた。

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まず8レースに行われるのが阪神ジャンプS。この暑さであれば、新潟や小倉のように午前中に実施しても良さそうなものだが、番組上はあくまでも秋競馬である。出走14頭にとっては、コース上に設定された12の障害に加え、暑さもクリアする必要がある。

連覇を目指すホッコーメヴィウスが大逃げを打った。それを離れた2番手から1番人気のジューンベロシティが追いかける。鞍上の西谷誠騎手に慌てるそぶりは見えない。その証拠に、障害を飛ぶたびに両者の差が徐々に縮まってゆく。直線に置かれた最終障害を飛越したところで鞍上が軽く仕掛けた。アッと言う間に前を捉えて先頭。最後は抑える余裕を見せて人気に応えた。東京ジャンプSに続く重賞2勝目。まだ5歳とジャンパーとしてはまだ若い。暮れの大一番に向けて期待が膨らむ。

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父は種牡馬ランキング首位を走るロードカナロア。3代母に1994年桜花賞でハナ差2着のツィンクルブライド。ちなみに明日はローズSが行われるが、ツィンクルブライドのローズSはヒシアマゾンの8着だった。

阪神9レースは2歳オープンのききょうS。過去の優勝馬にはヤマカツスズランやダンツフレームの名前も見える。2番人気のクイックバイオが道中3番手から直線で鋭く抜け出した。宝塚記念当日に行われるいわゆる「伝説の新馬戦」で6着に敗れてからは、1500m⇒1400mと距離を縮めながら2連勝。とはいえ、お父さんがブリックスアンドモルタルで、お母さんは2010年のローズSを勝ったアニメイトバイオとくれば、もう少し長い距離での競馬も観てみたい。

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メインは古馬オープンのケフェウスS。先日「注目」と書いたマテンロウスカイだが、逃げて前半1000mを57秒1で飛ばしては、さすがのメジロの血脈でも持つまい。勝ったエピファニーのクリストフ・ルメール騎手も、「今日はペースのおかげ」と望外の展開に助けられたことを強調した。

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それでもタイレコードで走れるのは能力の証。なにせミッキークイーンの甥という良血である。ミッキークイーンも2015年のローズSに出走。オークス以来の休み明けにもかかわらず1番人気に推されるも、タッチングスピーチの2着と敗れた。そのタッチングスピーチの手綱を取っていたのもルメール騎手。あちこちに名前が出るのはさすがと言うほかはない。

明日はローズS。前日発売で1番人気に推されているのはブレイディヴェーグだが、この馬もミッキークイーンの姪。つまり今日のケフェウスSを勝ったエピファニーとは従姉弟同士というわけ。しかも手綱を取るのはルメール騎手。ローズSは前走オークス組の好走が目立つレースだが、ここまで条件が揃うと穴党の私でも無視はできない。悩ましいことだ。

 

 

***** 2023/9/16 *****

 

 

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2023年9月15日 (金)

六甲颪に颯爽と

昨夜、大阪の繁華街は「六甲おろし」の大合唱に包まれた。阪神タイガース18年ぶりのアレに歓喜された方も多かろう。開幕4連勝とスタートを決め、5月に9連勝、8月にも10連勝を記録して後続をぐんぐん突き放すと、最後は11連勝という驚異の末脚で見事1着ゴールを果たした。テン良し、中良し、終い良し。どこにもつけ入る隙がない。武豊騎手が言う通りサイレンススズカの如き強さ。相手のことなどおかまいなしの独走だった。

かつてロッコウオロシという馬がいたのをご存知だろうか。骨折によりレースに走ることはなかったが、凱旋門賞馬ハリケーンランの直子で、おじに愛ナショナルS勝ちのベケットを持つ血統を買われて種牡馬入り。産駒アポロジョージアが新馬を勝つなどしたが、JRAでの勝ち星2勝に留まった。残念ながら成功したとは言い難い。なにせ父ハリケーンランが凱旋門賞を勝った2005年以来ずっと阪神は優勝から遠ざかっていた。ロッコウオロシも肩身が狭かったに違いない。

Aporo

冬場を中心に六甲山から吹き降ろす六甲おろしは、冷たい冷たい北風だ。これが真冬の阪神競馬場を直撃する。時に突風にもなる。例年、阪神競馬場の桜が周辺より若干遅れて開花するのは、幹の根本に氷を撒いているからではなく、この六甲おろしのせいだとも言われる。

種牡馬ロッコウオロシの産駒にはメデタイガースなんて名前の馬もいた。当初の入厩先は熱心なタイガースファンでも知られる栗東・音無秀孝調教師。しかしJRAでのデビューは叶わず、2017年に門別でデビューするも3戦未勝利のまま登録を抹消された。ちなみに、この年のセ・リーグは広島が2位阪神に10ゲームもの大差を付けて優勝している。決して、めでたくはなかった。

ともあれ音無調教師は今回の阪神優勝に気を良くしているに違いない。日曜「阪神」のローズSには管理馬ソーダズリングを送り込む。その服色はタイガースカラーの黄・黒縦縞。手綱を取るのは一足先に園田でアレを成し遂げたばかりの武豊騎手だ。

 

 

***** 2023/9/15 *****

 

 

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2023年9月14日 (木)

白と緑の勝負服

懐かしい勝負服が復活したと話題になっている。

今日、園田で行われたゴールデンジョッキーカップに出場したJRAの横山典弘騎手が着用したのは「白、緑一本輪、袖緑縦縞」の勝負服。オールドファンには懐かしいメジロ牧場の服色である。横山典騎手自身の成績は⑤着、④着、⑥着に終わったが、その鮮やかな白と緑の服色はファンの眼にしっかりと焼き付いたに違いない。

今回、横山典騎手がメジロの服色を選んだのは―――もちろんメジロライアンに対する思い入れもあるだろうが―――この7月に亡くなったばかりの奥平真治元調教師を偲ぶ思いからではあるまいか。かつてメジロラモーヌやメジロライアンを管理された名伯楽。横山典騎手にとっては伯父にあたる存在でもある。ロジユニヴァースで初めてダービーを勝ったとき、検量室に戻った横山典騎手が真っ先に駆け寄った先にいたのは、ロジユニヴァースを管理する萩原調教師ではなく奥平元調教師だった。

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メジロティターン、メジロラモーヌ、メジロマックイーン、メジロパーマー、メジロライアン、メジロブライト、そしてメジロドーベル。一時代を築いた名門牧場がその看板を下ろしてから、早いもので12年になる。

ちなみにメジロ牧場の創始者である北野豊吉氏の出自は生産者ではない。そうである前に彼はひとりの馬主であった。

競馬が好きで、そして何より馬そのものが好きでたまらなかった氏は、競馬場で勝ち馬の口取りシーンを見て一念発起。懸命に働いていつかは自分の馬を持つと心に誓い、それからは常にもまして人の何倍も働かれたという。

本業の建設業で財を成した北野氏は念願叶って馬主となり、所有馬の頭数も右肩上がりに増え続けた。やがて引退後の馬の面倒が大きな課題となると、馬が好きでたまらなかった彼は、洞爺湖の近くに引退馬を養うための牧場を開いてしまう。牧場の名前は自宅のあった東京・目白の地名にちなんだ。つまり、元来「メジロ牧場」とは引退馬の養老牧場だったのである。

ゆえに豊吉氏は、競走成績の良い馬よりも、成績の悪い馬をことのほか可愛がったと聞く。その気持ちが「苦しくなってから頑張る」タイプの馬を多く育てたように思えてならない。その特徴はメジロ牧場がなくなった今も受け継がれている。種牡馬モーリスもそんな一頭。母メジロフランシスも、祖母メジロモントレーも、奥平元調教師が管理し、横山典騎手が手綱を取ったメジロ本流の血が、その産駒にもきっと伝えられているものと信じたい。

そんなモーリスの産駒マテンロウスカイが、土曜阪神のケフェウスSに出走する。鞍上は横山典騎手。注目だ。

 

 

***** 2023/9/14 *****

 

 

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2023年9月13日 (水)

忘却の彼方

最近、物忘れがひどい。忘れ物はもっとひどい。

ハンカチやスマホを忘れて出かけてしまうことは日常茶飯事。メシを食べてから会計になって財布が無いことに気づいて青覚めたことも一度や二度ではない。ついに先週はズボンのベルトを忘れて出かけてしまった。デニムならまだしもスーツである。

出先では基本的に机に座っているだけ。上手いことごまかせないか―――?

そうは思ったものの、長考の末に引き返すことにした。急に人に会うことになったりしたらと思うと、やはり怖い。

私も来月で55歳。ひと昔前の会社員なら定年のトシだと思えば「老い」を実感せずにはいられない。同年代の輩と飲めば、物忘れの話で座が盛り上がるようになった。

「自宅の電話番号が覚えらんなくってさぁ……」

「やべぇ! いばらき(茨城)ってどう書くんだっけ?!」

「昨日の昼メシに何食ったかも思い出せないもんなぁ」

「物忘れあるある」の話題は尽きるところがないが、漢字や電話番号を忘れるというのは、スマホやパソコンの普及によるところもあろう。私自身いちばん身に染みて「最近物忘れがひどいなぁ」と思うのは、馬の名前が出てこない時である。

つい最近も、「あれ、今年の安田記念を勝ったのって誰だっけ?」という状況に陥った。

手元のスマホを使えば調べることはできる。だが、それをやったら敗北のような気がしてならない。だから必死に記憶の糸を手繰った。わずか3ヶ月前の出来事。しかも私は東京競馬場で、そのレースを直接見ているはずなのである。なのに、そのレースの映像というものが、まったく頭の中に浮かんでこない。これはいったいどうしたことか?!

まぁ、トシだということです(笑)

私の友人に競馬場では決して座らない主義の競馬ファンがいる。どれだけ場内が空いていても、彼は常に立ってパドックを眺め、立ってオッズモニタをチェックし、立ったままレースを観戦する。もちろん、昼食も立ったままだ。「人間の脳が発達したのは直立歩行したからだろう。脳を活性化させるためには、立っていた方が良いんだよ」と彼は主張する。

言われてみれば思い当たるフシもある。私が馬の名前を思い出せないのはこの10年か20年程度のことで、それ以前のレースは今でも事細かに思い出すことができる。勝ち馬だけでなく、2着馬も、3着馬も、4着馬も、5着馬もたいていは覚えている。その当時と今とで何が違っているかと言えば、当時はウインズであれ競馬場であれ、常に立ってレースを見ていたという点が挙げられる。

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スタンド上階の椅子に座って安穏とレースを眺めているのと、人込みに揉まれながら立ってレースを見るのとでは、その記憶の脳への刻まれ方もきっと違うのであろう。決してソングラインと戸崎圭太騎手の印象が薄いわけではない。すべての責任は私にある。だからせめてレースだけは、これからは立って見ることにしてみるか―――。

なんて無理なことを言っても始まらない。まあ、できる範囲で頑張ってみよう。

 

 

***** 2023/9/13 *****

 

 

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2023年9月12日 (火)

【訃報】カワカミプリンセス

2006年のオークスと秋華賞を無敗で制したカワカミプリンセスが亡くなったという。繁殖生活から卒業し、新ひだか町の三石川上牧場で余生を過ごしていたが、起立不能となったらしい。20歳。キングヘイロー産駒として唯一のクラシックホースだった。

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5つあるクラシックレースで、もっとも消耗度が激しいレースはオークスで間違いあるまい。

まだ体が完成しきっていない3歳春の牝馬が、府中の2400mで競うGⅠとなれば、その厳しさは我々の想像を遥かに超える。本家英国とは異なり、我が国では当初秋のレースとして施行されていたのも、3歳の牝馬にとって春の長距離レースは過酷という配慮があったからだ。

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それを史上最少キャリアとなる4戦目で勝ってみせたのが2006年のカワカミプリンセス。3歳2月のデビューは9番人気の伏兵扱い。低評価を嘲笑うかのような逃げ切り勝ちを見せたその85日後には、一気に頂点へと駆け上がっていた。これはシャダイアイバーの78日に次ぐ、史上2位の早さでもある。

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秋はぶっつけの秋華賞を勝って5連勝。続くエリザベス女王杯も後続を突き放し、無キズの6連勝と見えながら12着に降着となったあの一戦を境に、一転不振に陥ってしまった。6歳のエリザベス女王杯まで走り続けて12連敗。古馬となってからはひとつ下のウオッカ&ダイワスカーレットという競馬史に残る名牝2頭の影に隠れる格好になってしまったのは、残念というほかはない。

やはりあのエリザベス女王杯が悔やまれる。初めての古馬対戦のせいか、あるいは荒れた馬場に脚を取られたせいか、それまでに比べて道中の手応えはたしかに悪かった。それが鞍上の焦りに繋がったのかもしれない。3コーナーあたりから早くも鞭が入る苦しい展開。直線に向いてから再び左鞭が2発飛ぶ。その直後、横っ跳びをするかのように2頭分ほど内に切れ込んだ。内から伸びてきていたヤマニンシュクルの進路を完全に塞いで、外傷まで負わせてしまったのだから、降着の裁定に異論を挟む余地は無い。

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カワカミプリンセスに代わって優勝を手にしたのはフサイチパンドラ。オークス2着、秋華賞3着だから雪辱を果たした格好ではある。とはいえ心の底から喜べる勝利ではあるまい。それでもこの勝利を片手に繁殖入りし、アーモンドアイを世に送り出したことも、今回の訃報を機にあらためて思い出した。フサイチパンドラも既にこの世を去っている。2頭のライバルは天国で再会を果たしているのだろうか。合掌。

 

 

***** 2023/9/12 *****

 

 

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2023年9月11日 (月)

ニクを食う

阪神競馬場の楽しみは東スタンド2階「ホルモン人」。2か月半ぶりの味を待ちわびていたファンで朝から行列ができていた。

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まず「和牛すじ肉 赤ワイン煮 バゲットで」で腹ごしらえ。競馬場のメニューでこのネーミングセンスは秀逸だ。しかもそれが飛ぶように売れている。競馬オヤジが「赤ワイン煮」を「バゲットで」食べてるんですよ。まるでロンシャン競馬場とみまごうばかりの光景。300円という価格も素晴らしい。

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ちょいと早い昼メシに「チャーシューライス」を選択。「チャーシュー丼」ではないところがミソ。カレー皿に盛り付けたご飯の上にチャーシューとサラダを載せて甘辛いタレをかけてある。多めに添えられたマヨネーズがポイント。たしかに丼とは違う。これも300円。とにかくこの店は安い。

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トドメはお馴染みの「ホルモン丼」。こちらは650円だがクオリティからすればこれでも安い。これを食わずに帰れるかという気さえする。

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そして今宵は梅田のビアダイニング「ケラケラクランツ」でイチボステーキとリブロースステーキをビールで流し込むという暴挙に出た。文字通りの牛飲。しかし旨い肉であれば、これしきのことで味は損なわれない。

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テレビ番組でステーキの味を紹介するレポーターの第一声は決まっている。「うわー、やわらかーい!」。しかるのちに「ぜんぜん臭みとかないですー」と続く。よほど臭い肉を普段食べているのであろう。まあ、これは同じ「肉」でも皮肉の方。

ともあれ、日本人の味覚評価が食感に頼り過ぎる風潮があることは否めない。「コリコリして美味しい」「サクサクして美味しい」「アツアツで美味しい」という舌触りや温度などの食感を“美味しい”と判断するのである。逆に嗅覚、すなわち匂いに関する表現はとても少なく、たまに使われても前述のように邪魔なモノとして扱われることが多い。

もちろん食感を重視するのは我が国食文化の特徴のひとつ。でなければカマボコやはんぺん、あるいは和菓子の「葛桜」のような料理は生まれまい。刺身にしても、その弾力が味を左右することを日本人の舌はよく知っている。

だからといってステーキの美味い不味いが肉の柔らさだけで決まるのはおかしい。味わいに嗅覚が大きなウェイトを占めることは、鼻をつまんでモノを食べてみればわかること。なのにレポーターは香りに関する言及を避けたがる。加えて、たいていの肉は臭いものであると決めつけているフシさえある。肉に対して無礼千万な話ではないか。これでは牛も豚も浮かばれない。

牛肉には桃やココナッツに似た独特の甘い香りがあって、それが旨味のもととなっている。さらに飼料由来の香りやその土地ごとの土の香りまでもが混ざり合うことで、独特の芳香を醸し出す。それがいわゆるコクのもと。阪神競馬場「ホルモン人」の旨さの正体もこれに違いない。さあ、明日も肉を食べよう。

 

 

***** 2023/9/11 *****

 

 

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2023年9月10日 (日)

覚醒、富田暁騎手

ムーンライトHCに京成杯オータムハンデ。競馬の暦は秋競馬に突入したというのに、今日の宝塚市の最高気温は33.8度と暑さが続いている。とはいえサマーマイルシリーズとサマースプリントシリーズの最終日なのだから、夏であっても別におかしくはない。どちらのスタンスで競馬に向き合えばよいのか。買う側としては迷うところではある。そもそも久しぶりの阪神開催とあって、傾向が掴み切れないまま終盤の特別戦を迎えてしまった。

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するとここまで騎乗馬のなかった富田暁騎手が登場。能勢特別をアレグロモデラートで勝つと、返す刀でオークランドRTをもメイショウミツヤスで差し切ってしまったのである。人気ならまだしも5番人気と9番人気なのだから気にせずにはいられない。

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セントウルSで富田騎手はテイエムスパーダの手綱を取る。今村聖奈騎手が乗って昨年のCBC賞を勝った馬だ。しかし近走は精彩を欠いており、今日は14番人気。前走13着ではそれも仕方あるまい。さすがに富田騎手が特別を全部勝つなんてことはないか。

とはいえ、休み明けの有力馬たちがスプリンターズSを見据える一方で、夏競馬を走ってきたテイエムスパーダはスプリンターズSは使わずにひと息入れるらしい。つまりここに全力投球。近走の不振は先手を取れないレースが続いていたからだが、珍しいことに今日のメンバーに逃げ馬はいない。しかも今日の阪神の馬場は逃げ切り決着ばかりの逃げ馬天国。夏と秋とが同居するこんな日なら、理由のつかない出来事が起きても不思議ではない。

実は思うところもあった。先月20日の札幌競馬場の8レース。3連単1773万円の札幌競馬史上最高配当が記録されたあのレースを勝ったのは富田騎手だったのである。しかも今日と同じ14番人気。目の前で観たから印象は強烈だった。それで調べたのである。するとそのレースを含め富田騎手は3回の単勝万馬券を炸裂させていた。こうなりゃ今日のテイエムスパーダはむしろ買いではないか。

ヴァトレニとレジェーロが内から好スタートを切ったが、そこまで速い脚はない。外から押してテイエムスパーダがハナを奪った。あとはノーマークの一人旅。なにせ持ち時計は彼女が一番。こうなれば簡単には止まらない。後方から追い込んだアグリに1馬身のリードを保って完勝。まるで小倉のスプリント戦を観るようだった。やはりまだ夏競馬が続いていたのかもしれない。

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デビュー7年目の富田騎手は通算49回目の挑戦で嬉しい重賞初勝利。所属する木原一良調教師の管理馬で成し遂げたのだから、喜びもひとしおであろう。先月のエルムSでは1番人気ペプチドナイルでブービーに敗れる辛酸も舐めた。内心焦りもあったはず。なにせ同期には横山武史騎手がいる。この勝利を飛躍のきっかけにしたい。

テイエムスパーダは今村聖奈騎手と富田暁騎手にとって忘れ得ぬ一頭となった。その二人の関係者やファンも決して忘れることはない。そして私にとっても忘れられない一頭となった。44年間のキャリアで単勝万馬券の的中は初めてだと思う。そもそも私の買う単勝馬券はオッズに関わらず当たらないことで有名。それをして「殺し馬券」などという物騒な呼び方をされたこともあった。それでも長くやっていればこういうこともある。

 

 

***** 2023/9/10 *****

 

 

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2023年9月 9日 (土)

アマグリは美味しい

今日9月9日は「重陽の節句」。厄除けや長寿を祈願して菊の花を日本酒に浮かべて飲み、栗ご飯を食べる風習があったことから、「菊の節句」とか「栗の節句」と呼ばれることもある。江戸時代には五節句の中でも最も重視されていた節句とされるが、新暦が採用された現代では季節的に菊にも栗にもまだ早い。1月1日、3月3日、5月5日、7月7日はいまも祝う風習があるのに、9月9日だけ廃れてしまったのはそんな理由によるものだろう。

それでも今日は近所で天津甘栗を買って帰った。フライパンでコロコロ煎ってからひと口。ほくほくして美味い。「ほくほく」という表現は芋やかぼちゃにも使われるが、その最たる例はやはり栗ではあるまいか。「栗芋」や「栗かぼちゃ」の存在が何よりの証左。なんて具合に私が栗を贔屓するのは、十数年前まで栗にちなんだペンネームを名乗ってあちこちに書いたせいもある。

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競馬に携わっていると「栗」の字を目にする機会が多いような気がしないか。小栗、石栗、栗林、栗田という人名はもとより、栗東という地名。さらには馬の毛色には「栗毛」なんてのもある。だが、むろんこれは競馬に限ったことではない。古来より日本人にとって栗は重要な食料だった。青森の三内丸山遺跡には栗を栽培した形跡があるというし、競馬ファンなら誰もが知る「栗東」の地名だって、もとを辿れば今昔物語にも登場する巨大な栗の木に由来する。

以前、競馬場におやつとして甘栗を買って行き、「勝ち栗です」と言って周囲に配った。すると、ある馬主さんから「これはカチグリじゃないね」と言われてしまったことがある。

慌てて調べた。昔は乾燥させたクリの実をウスで軽くついて、殻と渋皮を取って食べていたらしい。臼でつくことを「搗(か)つ」とも言う。すなわちカチグリは「搗ち栗」というわけ。それが「勝ち」に通じることから、戦国時代には出陣の膳に欠かせなかったという。私は勝負事の前に食べる栗ならなんでも「勝ち栗」だと勘違いしていた。

栗と言えば、子供の頃は秋になると毎日のようにクリの殻と渋皮を剥く手伝いをさせられていたことを思い出す。指が痛くなるのが嫌だったが、それでもそのあとに大好きな栗の甘露煮が食べられると思えば、我慢もできた。

だが、最近ではスーパーでも殻付きの栗をあまり見かけない。顔見知りの八百屋に「なんで?」と聞けば、長時間水につけたり、皮を剥いたり、茹でたりするのが面倒だという理由で売れないそうだ。やっぱりね。なにせ甘栗だって殻が剥かれた状態で買える時代である。上手に殻に切れ目を入れられた時の、あのパキッと痛快な音や感触も含めて甘栗の味わいではないか。それを知らぬ子供たちが、どことなく気の毒に思えてならない。

 

 

***** 2023/9/9 *****

 

 

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2023年9月 8日 (金)

ここにもユタカマジック

愛用の腕時計が壊れた。

時計部分ではない。ベルトの方。ベルトにバックルを繋ぎ留めるピンが何かの拍子で外れてバックルがポロっと外れてしまった。あいにく屋外を歩いている最中で、地面をいくら探しても肝心のピンが見当たらない。そもそもバックルの締まりが悪く、外れやすくなっていたのも事実。もはやベルトごと交換してしまった方が良いのかもしれない。しかし思い入れのある時計でもある。できればこのまま使い続けたい。

もともと腕時計を身に着ける習慣はなかった。街中には時計が溢れているし、時間に追われる生活を送っていたわけでもない。指輪とかブレスレットの類は無意識のうちに外してしまうタチである。携帯やスマホを持つようになってからは、その傾向に一層拍車がかかった。

しかし、大阪に住むにあたり身に着けるようにした。別に大阪の街には時計が無いと思ってたわけではない。生活が変わることを実感するため、敢えて着けようと思い立ったのである。左腕の重みを意識するたび「ここは東京ではない」と思い直す。しかしその重みにもすっかり慣れた。逆に重みがないと、今自分がどこにいるのか分からなくなる―――ほどの影響はないけれど、左腕に目をやる習慣が着いてしまっているのでなんとなくリズムが狂う。

以前、武豊騎手と新幹線でご一緒する機会があった。隣の席でぱくぱくと弁当を食べ、柿ピーを頬張る私に対し「減量があるので……」と柿ピーにすら手をつけようとはしなかった彼だが、クルクルっと左腕の腕時計を何度か振ると、「ピーナッツ5粒くらいは大丈夫かな」と言って手を伸ばしてきたのである。腕時計のバンドの回り方や締まり具合のちょっとした変化で自身の正確な体重を計ることができるという。これぞユタカマジック。やはり天才は違う。

腕時計のベルトが壊れて途方に暮れる私の視界に「時計修理」の看板が飛び込んできた。大阪駅前第3ビルの地下2階。よくある街の修理店である。これも何かの縁であろうと修理を依頼してみた。ところが名前も電話番号も聞かれない。引き換え用の番号札を渡されただけ。大丈夫かな?と思いつつ帰宅した。なにせ古い時計でしかもマイナーなメーカーである。ネットで調べた限りでは交換部品がない可能性が高い。仮に直せたとしても相当な修理代を覚悟した方がよさそうだ。

翌日、あまり期待もせずに店を再訪。番号札を受け取った店主は、「ああ、アレね。直りましたわ」とにべもなく言った。

―――直った?

「あとね、バックルが緩かったんで締めときましたんでね。お代は550円になります」

―――550円?

その場で腕時計をはめてみた。カチッと小気味良い音を立ててバックルが締まる。まるで新品のような着け心地。キツネかタヌキに化かされたんじゃないかと思いつつ550円を渡すと、店主は「おおきに」と言っただけで、やおら別の時計の修理を始めた。

こういうお店もあるんだ。大阪の底力を思い知った気がする。そういやなんて名前のお店なんだろう。そう思って看板を見上げた途端に納得した。

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これも立派なユタカマジックであろう。やはり天才は違う。

 

 

***** 2023/9/8 *****

 

 

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2023年9月 7日 (木)

瞳を閉じて

緑内障を患う身なので毎日の点眼投薬が欠かせない。その目薬が今月から1種類増えて3種類になった。これらを朝晩欠かさず点眼するのだが、間髪入れずにピチョン、ピチョン、ピチョンとさしてはいけない。目薬と目薬との間は3分程度空ける必要がある。

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私が子供の頃は、点眼後にはまぶたをパチパチするのが目薬の作法だった。しかしどうやらそれは誤りらしい。実際には3分程度まぶたを閉じて安静にしている必要がある。しかしその間は時計を見ることができない。では3分間をどうやって計るか。とりあえず菊花賞の実況を聞くことにした。とはいえ死ぬまで毎日続く儀式である。同じレースの実況だとだんだん飽きてくる。阪神大賞典や万葉Sのお世話になる日も近い。思わぬ理由でJRAに長距離レースを増やしてほしいと考えるようになった。

緑内障は40歳以上の約5%が発症し、いったん失われた視野は決して戻らないため、早期発見がカギとなる。だが、自覚症状となるとこれがなかなか気づきにくい。私もそうだった。右眼の視野だけがこっそり狭まっていても、左眼がそれをカバーしているから、日常生活に何ら不具合がない。視力検査で片眼を閉じても、あくまでもポイントは視野の中心部分なので、何事もなく終わってしまう。気づいた時は、視野の半分が暗闇になっている。これは怖い。

だが、いま思い返せば「あの時のあれは緑内障が原因だったんだな」と思い当たるフシはいくつかある。しかも、どれも競馬場での出来事だ。

以前にも書いたがゼッケン番号の視認にやたらと難儀するようになった。まず最初に「6」と「8」の判別が難しくなる。次いで「3」と「8」も同じに見えるようになった。さすがに「3」と「6」の区別はついたが、今度は「5」と「6」の区別ができなくなる。しかもこの両者は帽色まで同じであることが多い。だが、それでも「老眼の走りかな…」程度にしか思っていなかった。

時期を同じくして、何でもない段差や階段で躓くようになる。締切間際に自席から馬券売り場に向かって階段を駆け上がった際、派手に転んだことも一度や二度ではない。その瞬間は周囲への恥ずかさばかりが先に立って、その場から逃げるようにそそくさと立ち去るのだが、いま思えば足もとが見えていなかったのであろう。その後もたびたび階段で躓くのだが、踏み外すのはことごとく右足で、この癖は今なお抜けない。

さらにカメラのファインダーの曇りが気になるようになった。おかしいなと思いつつファインダーをゴシゴシ磨いていたのだが、曇りは一向に消える気配がない。なんのことはない、曇っていたのは己の眼の方だった。

40歳を過ぎた方は、すべからく眼科専門医の検査を受けて欲しい。とくに競馬場でゼッケンが見えにくくなったと感じたり、スタンドの階段で躓くことが続いたりしたら「俺もトシだな」で済ませることなく、ぜひとも緑内障も疑ってみていただきたいと思う。

実は先月の検査が芳しくなかった。それでちょっとヘコんでいる。

目薬が増えたのはそのせいだ。言われてみれば確かに最近になって私の相馬眼もかなり低下したような気がしてならない。昔は、もっとウマが見えていたような気がするのだが―――などと書いて、オノレの馬券下手を目のせいにするのはやめておこう。

 

 

***** 2023/9/7 *****

 

 

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2023年9月 6日 (水)

あれから5年

北海道を襲った胆振東部地震から今日でまる5年になる。

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安平、厚真、むかわ、日高、新冠。テレビから馴染みの地名が繰り返し聞こえてきて不安が増した。厚真町で発生した大規模土砂崩れの空撮映像には言葉を失った覚えがある。平取からノーザンに向かう際によく使うルートのすぐそば。遥か向こうの山並みまで、およそみえる範囲の山という山は、斜面が崩れて茶色い山肌を晒していた。

地震発生の1か月後、グランアレグリアのサウジアラビアRCを見届けたその足で北海道入りした。本当は地震発生直後に駆け付けたかったが、それはかえって迷惑になると考えたのである。

安平町内にあるとある牧場のスタッフに話を聞いた。地震発生は午前3時過ぎ。あの日はたまたま夜勤で、定時見回りの最中に突然大きな揺れに襲われた。それは「尋常じゃない揺れ」であり、かつ「嫌ぁ~な揺れ」であったという。

駆け付けた別のスタッフに異常がないことを報告すると、彼は隣町にある自宅へと車を走らせた。「隣町」というのは地震の震源となった厚真町。ただ、この時点で彼は地震の震源が厚真であることを知らない。

「真っ暗闇の中をぶっ飛ばしていたら、先の道が無くなってたんです」

渾身の急ブレーキにサイドブレーキまで引いてどうにか落下を免れた。状況が分かったのは明るくなってから。山から崩れた土砂が道路を削り流していたのである。自宅はとても住める状況ではなかったが、もしそこで寝ていたらどうなっていたか。命があったことだけでもヨシとしなければなるまい。

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日高町のとある牧場では、放牧地の出入り口にある開閉扉が、蝶番から外れて2メートルほど離れた場所に倒れていた。重さ百キロ以上はあろうかという鉄製の扉で、取り外すは垂直方向に30センチほど持ち上げる必要がある。それが外れただけでなく、2メートルも飛んだ。「尋常じゃない揺れ」という表現は間違っていまい。

そこから続いた停電と断水の日々。マスコミが地震後にいちばん困ったことを札幌で尋ねたところ、大規模停電でスマホの充電ができないという声がもっと多かったというが、この牧場のある界隈では、基地局が死んでしまい、仮に充電ができたとしても通話もネット閲覧もできない状況だった。驚いたことに、翌日まで震源が厚真だということさえ知らなかったという。その間、日高町が設置した防災無線の装置はウンともスンとも言わなかった。

だからスマホの充電より困ったのは、給水情報が得られなかったこと。馬も水を使うけど、牛の牧場は馬よりもたくさんの水を使う。とある牛の牧場関係者は「最後は川の水を飲ませるしかなかった」と辛い胸の内を明かしてくれた。そうやってどうにか繋いだ命も、最終的には乳房炎で多くが失われてしまったという。

とある飼料業者さんは地震の当日も飼料をトラックに積んで日高管内を走り回った。馬や牛は生きている。地震を理由に飼料の配達を止めるわけにはいかない。唯一の心配はガソリン。静内や浦河では、電源喪失の渦中にも関わらず、タンクの底から人力でガソリンを汲み上げて営業していたのに、日高町内に入った途端、ほとんどのスタンドが営業を取りやめたので愕然としたそうだ。あれから5年。今の日高町は地震への備えが万全であると信じたい。

 

 

***** 2023/9/6 *****

 

 

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2023年9月 5日 (火)

真夏の秋桜

名古屋競馬場の重賞・秋桜賞に金沢の女王ハクサンアマゾネスがやって来た。しかし場内は閑古鳥が鳴いている。平日の昼間開催。しかも9月だというのに、最高気温午前35度超えの猛暑日となれば、空いているのも当然か。それでも地元の常連に混じって、ハクサンアマゾネスの圧勝劇を期待する追っかけファンの姿もけっこう目立つ。そんな彼らの会話を聞いていると、今日のメインレースを「コスモス賞」と呼んでいる。あれ? コスモス賞は札幌で行われる2歳オープンじゃないのか?

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「秋桜」を「コスモス」と読む風習は古くからあったように思われがちだが、実は1977年秋に大ヒットした山口百恵さんの曲のおかげで一躍世間に広まったとされる。言語学的には比較的最近のことだ。

「秋桜(コスモス)」。

その一風変わったタイトル表記を考え出したのは、楽曲を提供したさだまさしさんでなければ、歌った山口百恵さんでもない。それは伝説的音楽プロデューサーの酒井政利さん。多くの日本人は桜が好きで、さらに秋という季節への移り変わりがもたらす春とは真逆の情感も知っている。「秋」と「桜」の2文字が織り成す新たなニュアンスはテレビの電波に乗って日本中を駆け巡り、すっかり日本語の地中深くに根を伸ばした。今ではスマホでも「こすもす」と打てば「秋桜」と変換されるし、国語辞書も載っている。

しかし今日ここで行われる「秋桜賞」は「あきざくらしょう」と読むのが正解。1番人気はもちろんハクサンアマゾネス。ところが外目の3番手につけながら、向こう正面でズルズルと下がっていくではないか。

代わりに後方からポジションを上げていくのは2番人気ブリーザフレスカ。外外を回りながら4コーナーで先頭に並びかけると、短い直線だけであっと言う間に後続を置き去りにした。

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重賞レースで2着に2秒以上の差をつけての大差勝ちは珍しい。JRAでもグレード制導入以降は記録されていない珍しい記録だ。同じ大差でもレインボーアンバーの弥生賞は1秒7差。サイレンススズカの金鯱賞でも1秒8差である。

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それでもハクサンアマゾネスが為し遂げたのなら納得できたかもしれない。実際、2走前の百万石賞では後続に2秒9もの大差をつけて勝っていた。それが今日は一転してシンガリ負けの屈辱である。そもそもパドックでも時折止まろうとするなど、明らかに様子がおかしかった。女王にいったい何が起きたのか。ひょっとしたら彼女は山口百恵さんの「秋桜」を知っていたのかもしれない。小春日和には程遠い猛暑日の秋桜に、馬の方が混乱したのだろうか。

 

 

***** 2023/9/5 *****

 

 

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2023年9月 4日 (月)

66歳最後の日に

先週はベテランジョッキーの活躍が相次いだ。

31日、園田で行われた兵庫若駒賞は1番人気マミエミモモタローがマイペースの逃げで7馬身差で圧勝したが、手綱を取った川原正一騎手は
自身がジュベナイルカップで更新した最年長重賞勝ちの記録をわずか3週間で更新する快挙を為した。新記録は「64歳170日」。来月には新設重賞の「ネクストスター園田」が控えており、記録更新の可能性は高い。

その2日後にはJRA最年長の柴田善臣騎手の手綱が冴えわたった。新潟メインの古町Sを13番人気のラブリークイーンで逃げ切り勝ち。前走は福島で15頭立てのシンガリに敗れていた馬である。単勝万馬券も頷けよう。それが一転、2馬身差をつけて勝ってしまうのだから競馬は不思議。穴党を自認する私でもこれを買える要素があったかと問われれば、ベテランジョッキーの「腕」くらいしか思い浮かばない。ともあれ柴田善騎手も自身の持つJRA最年長勝利記録を57歳34日に更新した。

ちなみに私は年齢にまつわる記録は「歳+日」で表記すべきと常々訴えている。川原騎手の記録も柴田善騎手の記録も敢えてそのように書いた。計算はそれほど手間ではない。8月10日に川原騎手がジュヴェナイルカップを勝って「64歳5か月の最年長記録」と報じられたのに、8月31日に記録を更新した記事にも「64歳5か月」と書かれていたりする。「月」で書けばそうなるのだろう。それでも「歳+月」で報じるメディアはなくならない。

閑話休題。兵庫の川原騎手に破られるまで、国内の最年長重賞勝利記録を保持していたのは、もちろんこの人。

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的場文男騎手ですね。写真は2018年9月19日の東京記念。伝統の東京記念をシュテルングランツで逃げ切った大井の的場文男騎手は、このレースを勝って当時の最年長重賞勝利記録「62歳12日」を打ち立てた。今年の東京記念はあさって水曜に行われるが、的場文男騎手はウェイキーの手綱で参戦。しかも東京記念の翌日9月7日は的場文男騎手67回目の誕生日ではないか。

東京記念最多の8勝を誇るレジェンドが自身66歳最後の日に東京記念に乗る―――。

「何かをやってのけるかもしれない」と思わせるところがレジェンドのレジェンドたる所以。もし勝てば川原騎手が打ち立てたばかりの記録を更新する。その記録は「66歳364日」。これを月で書くと「66歳11か月」だろうか。よもや「66歳12か月」と書くわけにもいくまい。

 

 

***** 2023/9/4 *****

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2023年9月 3日 (日)

【個体識別を考える④】“撮り”違えも怖い

馬の取り違えにはカメラマンも神経を使う。

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といっても競馬に使う実馬のチェックではなく、もちろん写真の上での話。サンデーサイレンスだと思い込んで先方に渡した写真に写っていたのが、実はマンハッタンカフェだった――― なんてことが起きたらシャレでは済まない。でも、これは実際にあった話。なにせこの親子はそっくり。とあるドラマにサンデーサイレンス役としてマンハッタンカフェが出演したことでも知られる。

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ともあれ、ゼッケンも騎手(勝負服)も写っていない写真は、時として混乱の種となる。例えば、放牧されている種牡馬や、パドックで周回する馬の顔だけを撮るような場合ですね。

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まず、ゼッケン込みの横姿を一通り撮り、しかるのちに1号馬から順に顔を撮る。だが、1枚ずつシャッターを切るわけでもないから、前後の馬の顔にこれといった特徴がないと後の整理でとても困ることになる。頭絡の色やハミの形まで一緒だったりすると、もう泣きそうだ。出走馬の馬体照合係官はつくづく偉い。

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とはいうものの、ゼッケン、メンコ、シャドーロール、脚元のバンテージ、厩務員、そして騎手といった、個体識別に必要な要素がふんだんにある競馬場の撮影においては、さほど深刻な事態になることはない。怖いのは牧場での裸馬の撮影。そこにはゼッケンもなければ、メンコもない。同じような馬が次から次へと曳かれてきて、ただ黙々とシャッターを切るのみ。単純ゆえに事故の入り込む余地は多分にある。

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そういう仕事をする時は、私の場合はまず綿密に予定を立てていた。あらかじめ牧場を回るルートと時間を決め、撮影対象の馬をリスト化する。その上で、スケッチブックに「シャトーブランシュの19・牡」みたいに名前を1枚ずつマジックペンで書き込み、撮影現場に持参する。そして馬が曳かれてきたら、曳き手に(あるいは隣で見ている牧場主に)その馬の名前と性別を確認し、素早くスケッチブックを繰ってその馬の名前をまず撮影する。しかるのちに馬を撮る。その繰り返し。同業者はだいたい同じようなことをしているのではなかろうか。

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しかしそれでも取り違えのリスクは消えない。予定になかった馬が急に撮影対象になったりすることもあるし、そもそも牧場の関係者が馬を取り違えてたりしたらお手上げだ。だから、後日あらためて写真と馬名のリストを牧場に送って確認を求めるわけだが、それでも心の奥底に不安の欠片が残るもの。できることならば、馬本人に直接確認して回りたいくらい。それくらい“撮り”違えは怖いのである。

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【写真の馬たち】
上から、サンデーサイレンス、マンハッタンカフェ、ディープインパクト、ロードカナロア、ダイワメジャー、エピファネイア、キタサンブラック

 

 

***** 2023/9/3 *****

 

 

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2023年9月 2日 (土)

【個体識別を考える③】過信は禁物

先週のサマーセールでは5日間で1368頭もの1歳馬が上場された。1日あたりではおよそ260余頭が一か所に集結することになる。バイヤーが個体識別の便りとするのが、臀部に貼ってあるこのヒップナンバー。数字が書かれた単なるシールだが、これが間違っているとエラいことになる。実際、マイクロチップ導入前に日高で行われたとあるセールで、このシール絡みちょっとした騒ぎが起きた。

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その日に上場する2頭を連れてきたとある牧場主が、午前の事前展示が終わったところで2頭がそれぞれ入れ替わってしまっていることに気付いた。そこであろうことか、2頭のヒップナンバーシールを貼り替えてしまったのである。

騒ぎはその後に起きた。セリが始まってセリ会場に引かれてきた馬を見て、午前の展示でその馬を見ていたバイヤーから「さっきのと違うぞ!」と声があがったのである。当の牧場主にしてみれば「単純な間違い」かもしれないが、市場全体としてみればセールの信頼性を揺るがしかねない大問題であることに違いはない。

そんな中、2007年より競走馬を個体識別するマイクロチップの馬体への埋め込みが義務付けられ、そのための競馬施行規定も改正された。今年は2023年だから、既に16年が経過したことになる。マイクロチップが埋め込まれていない現役競走馬は、もはや日本にはいないはずだ。

マイクロチップによる個体識別はヨーロッパ、アジア、オセアニアなどの競馬主要国において、移動や種付け、血統登録、セリ等で既に広く活用されており、専門知識と熟練が要求されていた個体識別作業はマイクロチップ導入により飛躍的に省力化されている。しかし、そんな夢のようなマイクロチップも導入当初は様々な問題を引き起こした。

2008年のセレクションセール1歳は、マイクロチップによる個体識別作業が本格的に実施される初めての機会だった。ところが、いざ読み取り機をかざしてみてもウンともスンとも言わない。ごくたまに反応があるのだが、そのコツもはっきりせず、近づけたり、遠ざけたり、角度を変えたりしながら、「手作業の倍かかった」という悪戦苦闘の末にようやく個体識別作業を終えたのである。この一件を受け、その後行われたサマーセールからは従来の目視による確認に戻されたというからよほどキビしかったのだろう。

さらに騒ぎは続く。マイクロチップは個体識別の他に体温測定もできるという優れものとして導入されたのだが、いざ読み取り機で表示させてみるとほとんどの馬が39度前後の体温を示したのだ。前年の夏、競馬界を揺るがした馬インフルエンザの再流行かとセール開場は騒然となったが、実はこの体温センサーが通常より1度ほど高く検温してしまうという不具合があることが判明。あっさり騒ぎは収まった。

何ごとも最初はドタバタがつきもの。とはいえ、この体温測定機能付きのマイクロチップは海外において読み取り率が経年低下することが既に指摘されていたとされ、そういう意味では、認識不足や拙速行動の誹りを受けても仕方あるまい。

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ともあれ、その後は体温測定機能がなく、また読み取り率も高い別のタイプのマイクロチップが使われている。ちなみに初期のマイクロチップを埋め込まれた馬はそのまま。いちいち体内から古いチップを取り出して、新しいのを埋め直すなんてコトもしていられまい。しかし役に立たない機械を身体に埋め込まれたまま生きてくというのも、気の毒な話だ。

 

 

***** 2023/9/2 *****

 

 

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2023年9月 1日 (金)

【個体識別を考える②】旋毛はどこだ

「珠目二・髪中・波分・芭蕉上・後双門・沙流上・左後一白」

「個体識別」は競走施行において最重要テーマであると言っても差し支えない。ゼッケンに記されている馬名とは違う馬が走っていたとしたら、競馬という競技は成立しないからである。幸いなことにJRAの長い歴史の中でそういうことは今まで一度もない。8月19日の新潟3Rに「エンブレムボム」として出走を予定していた2歳馬が、実は「エコロネオ」であることがレース当日に判明するインシデントはあったが、それでも取り違えられた馬が出走するという事態には至らなかった。

冒頭に書いたのは、馬の個体識別の鍵となる外見上の特徴である。列記してあるのは毛の色や白斑などのパターンに加えて旋毛(つむじ)の場所。旋毛は人間の指紋と同様個性に富み、しかも一生不変であることから、各馬の体内にマイクロチップが埋め込まれるようになった現在においても、個体識別の補助手段として使用されている。実際、エンブレムボムの取り違えを判明させたきっかけを作ったのはマイクロチップだが、目視でも額の星や旋毛の位置、脚の白斑が異なることも確認されていた。馬体重も30キロ近く差があったという。

例えば「沙流上(さるのぼり)」とは飛節上縁より球節上縁までにある旋毛のことを指すのだが、日高峠から平取を通り富川から太平洋に注ぐあの沙流川と何か関係があるのだろか? 沙流川を昇る秋鮭のようなイメージがなくもない。

ちなみに旋毛はこんな感じ。モデルはフジヤマケンザン。

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マイクロチップ導入以前の日本ではこのような外見上の特徴を手がかりにして、レース前の装鞍所で個体識別専門の係員が肉眼で厳正な識別作業を行っていた。海外では後肢にある“夜目”を手がかりに識別していたところもあれば、生まれて間もなく上唇の内側に入れ墨をしてしまうところもある。ひと昔前は肩の部分に識別用の焼き印を入れる国も多かった。こちらは豪州生まれのキンシャサノキセキ。

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むろん今ではマイクロチップが各馬を識別してくれる。だが、マイクロチップ導入以前は、これらの手法だけでは取り違えの悪魔から逃れることはできなかった。

先ほど「ゼッケンに記されている馬名と違う馬が走ったことは、JRAでは一度もない」と書いたのは、すなわち地方公営競馬では例があるということだ。

1994年、園田所属のビクトリーグリームと荒尾所属のチクシエイカンが放牧先の牧場で取り違えられたことにより、お互いが入れ替わった格好でそれぞれの競馬場に送り戻された。すなわち、ビクトリードリームは「チクシエイカン」として荒尾へ、チクシエイカンは「ビクトリードリーム」として園田にやってきたのである。しかも始末の悪いことに、「チクシエイカン」(本来はビクトリードリーム)の方は、出走時の個体識別チェックをかいくぐって、8回ものレースに出走してしまったからただ事では済まない。

放牧に入る前のチクシエイカンの成績は7戦して未勝利だった。ところが、放牧から戻ってきた「チクシエイカン」は8戦4勝2着3回というほぼ完璧な戦績。そのあまりの変貌ぶりに「まるで別馬」という声も上がっていたというが、あながち間違いではなかったことになる。

一方のチクシエイカンは一足遅れて放牧先から園田競馬場に「ビクトリードリーム」として帰厩した。ところが、出走前の実馬照合の際、体重が非常に重く額のつむじも一つ多かったことなどから、係員が不審に思い出走させず、調教師が宮崎県の牧場に照会した。ここで、ようやく取り違えの事実が発覚したという。

最近では2010年の大井競馬で馬の取り違えがおきている。1月21日の大井4Rに出走予定のタケショウボスが、装鞍の際の馬体照合で別の馬であることが判明。「公正確保」を理由に競走除外となった。

実際に装鞍所に入っていた馬はクイックダンス。タケショウボスとクイックダンスは同じ牧場に放牧に出されていたが、帰厩させる際に牧場側が誤ってクイックダンスを輸送してしまったことにより取り違えが起きた。厩舎側でも気付かなかったという。本来なら入厩時に実施されるはずの馬体検査も、タケショウボスの休養期間が規定より短かったため免除されていた。

ちなみに両馬の馬体の特徴は、タケショウボスが鹿毛の「額刺毛・珠目正・髪中」、クイックダンスは黒鹿毛で「額刺毛・珠目上・波分・浪門・左後半白」となっている。これだけ違えば気が付きそうなものだが、そこに落とし穴が潜んでいたのかもしれない。

 

 

***** 2023/9/1 *****

 

 

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