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2023年7月15日 (土)

君たちはどの駅弁を食べるか

明日7月16日は「駅弁記念日」らしい。1885年7月16日に開業した東北本線宇都宮駅で、日本初の駅弁が発売されたことを受けて2001年に国土交通省が制定した。この手の記念日は業界団体が制定することが多い中で、お上による制定というのも珍しい。当時のメニューはゴマ塩をまぶした梅干し入りのおにぎり2個にたくあん。竹の皮に包まれ、「汽車弁当」と印刷した紙がかけられていたという。「列車内でご飯を食べる」というスタイルを提案したという点では期を画する出来事だった。

とはいえ、昨今の駅弁は必ずしも列車内で食べるものとは限らない。むしろ百貨店の催事場で目にすることの方が多いような気がする。全国の駅弁が一か所に集うイベントはたしかに便利には違いないが、やはり駅弁は列車に揺られ、前から後へと流れゆく車窓を眺めながら食べてこそ、その神髄を味わえるというものではないか。「旅情」は駅弁の味付けのひとつ。その思いを忘れぬようにと思ったわけではないが、新大阪駅で珍しく駅弁を買って新幹線の車中で食べてみた。その名も「ひょうご玉手箱弁当」。

画面左上の素麺はもちろん揖保乃糸。バジル風味というのは駅弁ならではか。左下の牛めしは但馬牛を使用しているが、それを姫路駅の名物駅そば「まねき」のだし汁で炊き上げたという。実は、この駅弁はその「まねき食品」が発売している。駅そばマニアならちょっと興味が沸くのではあるまいか。不思議な形状に切られた人参も、よくよく見れば姫路城のシルエットになっている。

Bento

ところで、JR高崎駅で「だるま弁当」などの人気駅弁を販売する「たかべん」も相当長い歴史を誇ると聞いたことがある。公式サイトには「1884年創業 上越線の開通に伴いおにぎりの販売を開始」とあった。あれ? 宇都宮駅の「汽車弁当」より1年早くないか?

実は似たような話は他にもあって、上野駅で1883年に駅弁が売られていたという資料が見つかったほか、1877年の時点で大阪梅田駅や神戸駅で駅弁が売られたという話もあるなど、「日本初の駅弁」発祥の地は諸説が飛び交っている状況らしい。

そこで、駅弁業界団体の日本鉄道構内営業中央会は1993年に4月10日を「駅弁の日」と制定した。4月10日とした根拠は弁当の「弁」の文字が4と十の組み合わせであるからだとか。「記念日」と「の日」があるのも、駅弁がそれだけ愛されている証拠であろう。

「たかべん」の公式サイトを見ていたら、かつて高崎駅で「上州の朝がゆ」という駅弁が売られていたことを思い出した。保温容器を開けると立ち上がる湯気の隙間からはエビや栗といった具材が見え隠れし、さらに漬物と練り梅が別添えで付いてくる。発売時間は朝の7時から9時まで。しかも100個限定。売れ残れば破棄される運命だが、売れ残ることは滅多になかったという。

高崎競馬場があった当時、競馬終わりにどんちゃん騒ぎを繰り広げ、そのまま高崎駅近くのホテルに泊まり、朝イチの新幹線で仕事場に向かう車中でこの「朝がゆ」を食べた。二日酔いの五臓六腑に優しく広がったあの味わいは忘れがたい。しかし「たかべん」の公式サイトに「朝がゆ」は掲載されていなかった。ということは販売停止になってしまったのか。ちょっと残念。高崎競馬の思い出と共にそっと胸にしまっておこう。

 

 

***** 2023/7/15 *****

 

 

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