36年目のサラダ記念日
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
朝から「サラダ記念日」という言葉がトレンドワードの上位にランクインされ続けた。俵万智さんのファースト歌集「サラダ記念日」が発売されてから36年が経つというのに、その影響力はいまだ色褪せない。
歌集・句集は、売れたとて2千部が関の山。しかし「サラダ記念日」の初版部数は8千部だった。短歌界ではすでに知名度が高かったとはいえ、異例の大量部数である。当時は一介の県立高校教諭に過ぎなかった俵さんは、「売れ残ったらどうしよう」と心配したという。
だが、そんな心配は杞憂に終わる。
何でもない今日が、誰かのひと言で特別な一日となる。そんな31文字のレトリックに魅せられた人たちは先を争って「サラダ記念日」を手に取った。実は私もそのひとり。その感想は「俵さん、野球好きなんだな」である。今も夏の甲子園に足を運び、早稲田大学在学中には神宮球場で場内アナウンスを担当した経験もある俵さんの作品に、野球に関するフレーズが使われることは決して珍しくない。ともあれ、今なお売れ続ける「サラダ記念日」は280万部の大ベストセラーだ。
サラダ記念日のきっかけも野球だったという。ボーイフレンドと野球を観に行くにあたり、から揚げを作って持参した。しかしいつも同じ味付けでは面白くない。それであるときカレー味のから揚げを作って持って行ったら、彼が「いいね」と言う。「やった。ウケた。今日は記念日だな」。そんなエピソードがベースになっているそうだ。
ここから創作に入る。から揚げでは重いからサラダに変えよう。そしてなんでもない日が良い。上の句を「この」と「君」のカ行で引き締めて、下の句では「七月」「サラダ」とサ行で爽やかにまとめている。実際には5月か6月のエピソードらしいが、敢えて7月としたのは「サ行」の音にこだわったから。いずれにせよ、なんでもないような相手のひと言を記念日にしたいという歌の出発点はひとつも損なわれていない。
一語一語にこだわり抜く俵さんが、もし馬の名付け親になったとしたら、いったいどんな名前を紡ぎ出すのだろうか。ありえないことは分かっているが、想像せずにはいられない。なにせ、今となっては世界を支配する「いいね」の元祖でもある。
そんなことを考えながら、今宵は珍しく自宅でサラダっぽいものを作ってみた。トッピングはもちろんから揚げ。軽くカレー粉を振ってカレー味にしてみたのだが、なるほどこれは悪くない。自分に「いいね」をあげたい気分。今日は「から揚げサラダ記念日」だ。
***** 2023/7/6 *****
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