侮れぬ駅うどん
JR松山駅の構内に朝7時30分から営業しているうどん店がある。
屋号は「かけはし」となっているが、隣で営業する「安岡蒲鉾店」というじゃこ天専門店が営業する併設店。この蒲鉾店のじゃこ天を使った「じゃこ天うどん」が名物だという。
大判のじゃこ天が1枚まるごと入ったうどんは、福岡の丸天うどんに似たビジュアル。こちらでは冷凍のすり身を一切使用せず、鮮度の良い宇和海のほたるじゃこを主原料とし、石臼で練り上げ菜種油で揚げて作るとか。これは隣の蒲鉾店で聞いた話だが、小魚の旨味がギュッと詰まってとても美味しい。こうなるとじゃこ天も買って帰らねばという気になってくる。商売も上手い。
特急しおかぜに揺られること3時間弱。瀬戸内海を渡って岡山に到着した。乗り継ぎまで10分あるので、上り新幹線ホームで営業する「倉敷うどん ぶっかけふるいち」に入る。
香川では、ぶっかけうどんの元祖は善通寺の「山下うどん」とされるが、海を挟んだ岡山では倉敷の「ふるいち」が元祖としての地位を確立している。モチモチの麺にざるうどんに使う甘くて濃いツユを直接ぶっかけて、天かす、のり、ウズラの卵、おろしショウガ、青ネギと、色とりどりの具材や薬味を混ぜる豪快で華麗な一杯が、倉敷ぶっかけうどんの特徴だ。
考案のきっかけは麻雀だったという。「ふるいち」の創業者・古市博さんは大の麻雀好き。その最中に、ざるうどんを食べる習慣があったが、ざる、猪口、薬味と3つの器で構成されるざるうどんは場所も取るし、いちいちざるから麺を取って猪口に移す動作も発生する。麻雀をする方ならお分かりいただけると思うが、これはたいそう面倒臭い。
そこで、気を利かせた2代目が、ざるうどんを丼に入れてツユも薬味もそこに全部放り込んでみた。するとこれが食べやすい上に、なかなか美味いのである。古市博さんはすぐにひらめいた。「これ、店で出そう!」と言ったのが、倉敷ぶっかけうどん誕生の瞬間。さらに改良を重ねて現在のスタイルに辿り着いたのだという。
美味しく食べるコツはしっかり混ぜること。キレイに盛り付けられているからと言って躊躇してはいけない。しっかり混ぜたら、一気に啜る。混ぜることで様々な具在が混然一体となり、新たな味わいが生まれてくる。たかが駅のうどんと侮ってはいけない。松山駅にせよ、岡山駅にせよ、そこには地元に根付いた確かな一杯が存在していた。
***** 2023/6/30 *****
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