« 2023年5月 | トップページ | 2023年7月 »

2023年6月30日 (金)

侮れぬ駅うどん

JR松山駅の構内に朝7時30分から営業しているうどん店がある。

Kakehashi1

屋号は「かけはし」となっているが、隣で営業する「安岡蒲鉾店」というじゃこ天専門店が営業する併設店。この蒲鉾店のじゃこ天を使った「じゃこ天うどん」が名物だという。

Kakehashi2

大判のじゃこ天が1枚まるごと入ったうどんは、福岡の丸天うどんに似たビジュアル。こちらでは冷凍のすり身を一切使用せず、鮮度の良い宇和海のほたるじゃこを主原料とし、石臼で練り上げ菜種油で揚げて作るとか。これは隣の蒲鉾店で聞いた話だが、小魚の旨味がギュッと詰まってとても美味しい。こうなるとじゃこ天も買って帰らねばという気になってくる。商売も上手い。

特急しおかぜに揺られること3時間弱。瀬戸内海を渡って岡山に到着した。乗り継ぎまで10分あるので、上り新幹線ホームで営業する「倉敷うどん ぶっかけふるいち」に入る。

Kurashiki1

香川では、ぶっかけうどんの元祖は善通寺の「山下うどん」とされるが、海を挟んだ岡山では倉敷の「ふるいち」が元祖としての地位を確立している。モチモチの麺にざるうどんに使う甘くて濃いツユを直接ぶっかけて、天かす、のり、ウズラの卵、おろしショウガ、青ネギと、色とりどりの具材や薬味を混ぜる豪快で華麗な一杯が、倉敷ぶっかけうどんの特徴だ。

Kurashiki2

考案のきっかけは麻雀だったという。「ふるいち」の創業者・古市博さんは大の麻雀好き。その最中に、ざるうどんを食べる習慣があったが、ざる、猪口、薬味と3つの器で構成されるざるうどんは場所も取るし、いちいちざるから麺を取って猪口に移す動作も発生する。麻雀をする方ならお分かりいただけると思うが、これはたいそう面倒臭い。

そこで、気を利かせた2代目が、ざるうどんを丼に入れてツユも薬味もそこに全部放り込んでみた。するとこれが食べやすい上に、なかなか美味いのである。古市博さんはすぐにひらめいた。「これ、店で出そう!」と言ったのが、倉敷ぶっかけうどん誕生の瞬間。さらに改良を重ねて現在のスタイルに辿り着いたのだという。

美味しく食べるコツはしっかり混ぜること。キレイに盛り付けられているからと言って躊躇してはいけない。しっかり混ぜたら、一気に啜る。混ぜることで様々な具在が混然一体となり、新たな味わいが生まれてくる。たかが駅のうどんと侮ってはいけない。松山駅にせよ、岡山駅にせよ、そこには地元に根付いた確かな一杯が存在していた。

 

 

***** 2023/6/30 *****

 

 

|

2023年6月29日 (木)

ふたつの聖地

松山市の随一の商店街「銀天街」から北へ一筋。昭和の風情を色濃く残す石畳に暖簾を掲げる一軒の前に立ち、ガラガラと引き戸を開けると独特のダシの香りが鼻を突いた。

Kotori1

1949年創業の「ことり」は松山名物鍋焼きうどんの聖地。過去二回の松山来訪で訪れることが叶わなかったが、三度目の正直でついに実現した。メニューは鍋焼きうどんといなり寿司のみ。蓋付きのアルミ鍋が使われているのは、熱の伝わりが早く冷めにくい上、割れたりしないからだそうだ。店内は創業当時の雰囲気がそのまま残されているが、鍋そのものは比較的新しい。聞けば毎年お正月に全手の鍋を買い替えているのだとか。新たな気持ちで新年を迎えるためだという。

Kotori2

蓋を開けるとダシの香りが一気に立ち上がる。ダシに使うのは伊予灘の秋獲れのいりこと北海道利尻産の一等昆布。このツユに合うように特注しているといううどんは太目の平打ち麺も、醤油も地元業者に特注しているという。素材も作り方も創業当時のまま。それが「聖地」と呼ばれる所以であろう。 

Asahi1

「ことり」のすぐ近くには、もう一軒の聖地「アサヒ」が暖簾を掲げている。こちらは1947年創業だというから、さらに歴史は深い。ガラガラと音の鳴る引き戸も、使い込まれた店内の椅子やテーブルも、先ほどの「ことり」と同じでどこか懐かしい。地元に長く愛されている様子が見て取れる。

Asahi_20230630224201

こちらも鍋はアルミ製。熱々のツユを一口すすると「ことり」に比べてはっきり甘い。ツユの味付けもさることながら、トッピングに使われている牛肉や油揚げの味付けからして違うようだ。そこから溶け出した甘みが、似たような鍋焼きうどんに個性を与えている。

「ことり」もそうだが、うどんはふんわり柔らかい。これに玉子の黄身が絡むと旨さが増す。2杯目だというのに、瞬く間にツユまで飲み干してしまった。

Inari

せっかくだからいなり寿司も注文。刻んだニンジンやシイタケが入っている。お揚げもほんのり甘い。うどんの甘さも含め、「甘さ」が貴重だった時代の名残りであろう。こうした思いは、実際に来てみなければ抱くことが無かったに違いない。そうしたこと含めて、やはり聖地なのである。

 

 

***** 2023/6/29 *****

 

 

|

2023年6月28日 (水)

守破離

北新地のそば店「守破離」を訪れた。関西風の温かいそばを味わえると評判の店で、しっかりダシを効かせたツユがてんぷらや鴨肉といった種物に絶妙にマッチする。

Noren_20230626202701

関西と言えばうどんのイメージが強い。しかし、練ったそば粉を細長く切って麺にしたのは、実は豊臣時代の大坂だったという説もある。そのせいか分からないが、生粋の大阪人にもそば好きは案外多い。東京では珍しくない「飲めるうどん屋」も、私が住まう梅田・天満界隈ではほとんど見かけないのに、「飲めるそば屋」はたくさんある。こちらもそんな一軒。そばも美味いが酒も旨い。

Kamo_20230627204001

気になるのはその変わった店名だ。人気店なのに読めない人も珍しくないらしい。

「守破離」と書いて「しゅはり」と読む。武道や芸事の道を極めるための修行の段階を表す言葉だが、もともとは茶道から出た言葉だそうだ。千利休の教えを歌にまとめた「利休百首」の最後に登場する一節

 規矩作法 守り尽くして破るとも
 離るるとても 本を忘るな

から引用されて広まったと言われる。

先代の柳家小さん師匠はこの言葉を好んで使っていた。本物の落語家になるための修行の第一歩は「守り」だという。素直な心で先輩の教えをよく守り、落語家としての基本的な態度を身につける必要がある。それができるようになったら殻や形式を破る段階がくる。つまり「破」である。そして、先輩から離れて自分自身の道を歩き出す「離」に至るというわけ。しかし離れたはずが、いつの間にかまた「守」に戻っていたりすることも。道を極めるということは守・破・離の繰り返し。それが蕎麦打ちの世界にも通じるのかもしれない。

守破離の中でもっとも重要な部分は「守」であろう。歌舞伎や能・狂言の家柄に生まれた子が、幼い頃から型を身につけるために厳しくしつけられ涙を流す場面をテレビでよく見かける。師の教える型をひたすら守り、徹底的に基本を叩き込まれるこの段階で、自分の考えをさし挟むことなど許されない。「守」にオリジナリティーは不要である。ひたすら基本動作を繰り返す時期は長くそして辛い。守破離とは時間が掛かる概念でもある。

Shuhari

JRAにシュハリという名の馬がいる。カレンブラックヒル産駒の3歳牡馬で11戦未勝利。そろそろ何とかしないと後がない。特にここ数戦は同じようなレースの繰り返し。後方追走から差して届かない競馬が続いている。先週日曜の阪神では4角16番手から13着の入線。ほとんどかわせなかった。スタイルを守ることも大事だが、そろそろ現状を打ち破らなければなるまい。でないとJRAを離れることになってしまう。

 

 

***** 2023/6/28 *****

 

 

|

2023年6月27日 (火)

新たな伝説が始まった

宝塚記念当日の阪神で行われる芝1800mの新馬戦が注目されるようになって久しい。なかには「伝説の新馬戦」と呼ぶ人までいる。「伝説」が毎年繰り返されるとなれば一大事だが、いったいいつからなのか。

宝塚当日に芝1800mの2歳新馬戦が行われるようになったのは2012年から。その後5年間は特筆すべき活躍馬を輩出することもなかったが、2017年にダノンプレミアムが優勝したあたりから風向きが変わり始めた。いずれにせよ2019年度のJRA賞馬事文化賞を受賞した「ザ・ロイヤルファミリー」(早見和真著)には既に「伝説の新馬戦」として登場しているから、その頃には既に注目を集める存在だったことは間違いない。

2017年 ダノンプレミアム
2018年 アドマイヤジャスタ、ブレイキングドーン
2019年 レッドベルジュール
2020年 ダノンザキッド
2021年 キラーアビリティ
2022年 ドゥラエレーデ、デルマソトガケ

いずれにせよ2017年から昨年までの6年間に、この新馬戦から毎年欠かすことなく重賞ウイナーが誕生している事実は注目に値しよう。うち5頭がGⅠ馬である。ここでの勝ち負けは関係ないから、負けた馬たちからも目を離さないようにしたい。

今年の出走馬は7頭。セレクトセールで高額落札された2頭のノーザンファーム生産馬が人気を集めている。

Danon

1番人気は American Pharoah 産駒のダノンスウィッチ。セレクトセールでの落札額は1億5000万(税別。以下同じ)。祖母 Switch は米GⅠ2勝の名牝。坂路で51秒台を連発。それで鞍上クリストフ・ルメールとなれば、人気になるのも当然だ。なにせここは伝説の新馬戦。この中にGⅠ馬がいるとなれば、どうしてもノーザンの高馬に目が行く。

Shonan

ノーザンの高馬ということであれば、ショウナンハウルも負けていない。こちらはセレクトで1億8000万の値が付いた。新種牡馬レイデオロの産駒。英GⅠ馬リッスンを祖母に持ち、叔母にタッチングスピーチが、叔父にサトノルークスがいるのだから、血統でも負けていない。鞍上は池添謙一騎手。

Gamble

レースはダッシュひと息のギャンブルルームが、4コーナーで馬場の良い外を狙う他馬を横目にガラ空きのインを突いてスルスル先頭に躍り出た。そのまま後続を5馬身も突き放して完勝。サンデーサラブレッドクラブの募集馬で、募集価格6000万は決して安くはないが、セレクト組に比べればそれでも安く感じてしまうのか。4番人気は4頭出しのノーザンファーム生産馬の中では一番の人気薄だった。2着に入ったブルーミンデザインは社台ファーム生産のロゴタイプ産駒。社台オーナーズの所有馬で販売価格は1200万円である。ウマの能力は取引額に比例するわけではない。それを我々は新馬戦が終わるたびに思い知らされる。

ショウナンハウルの取り引き価格はギャンブルルームのちょうど3倍。だから3倍強いのかと問われれば、決してそんなことはない。勝ち馬とは逆に外、外を回って直線で懸命に追い上げるも、半馬身差の3着が精いっぱいだった。敢えて外を選んだのは、飛びが大きい雄大な走法を考えてのことか。あるいは自信の現れか。いずれにしても、思ったほど速い脚は使えなかった。

ダノンスウィッチはさらにそこから1馬身半離された4着。こちらはスタートも決まって、3番手から絶好の手応えで直線を向いた。しかし、さあこれから、というところで伸びてこない。抜け出したギャンブルルームの背中は遠のくばかり。上がりタイムではショウナンハウルをさらに下回った。レース後のコメントでルメール騎手は「速い脚が使えないからダートの方が良い」と言い残している。それはそれで良いではないか。来年は3歳ダート路線が劇的に変わる。その初代チャンピオンになろうものなら、伝説の新馬戦の伝説度はさらに上がることになろう。新しい伝説は始まったばかり。今日の新馬を走った7頭から目を離してはならない。

 

 

***** 2023/6/27 *****

 

 

|

2023年6月26日 (月)

日本一低い山

過日、大阪港近くの天保山公園を訪ねた。平日の昼過ぎだったが意外にも人が多い。「日本一低い山」として人気のスポットだと聞いて半信半疑でやってきたのだが、どうやら人気の方は本当のようだ。

天保山は1831年に始まった安治川の浚渫工事の土砂を積んでできた人工の山。当初は20mの高さを誇ったらしいが、幕末の砲台建設と高度成長期の地盤沈下で現在の4.5mにまで標高を下げたという。中山競馬場の芝コースの高低差は5.3mもあるので、そこにすっぽり収まってしまうサイズだ。

そのせいか、一度は国土地理院の地図から山名が消されたこともあったという。しかし地元住民の強い要望で復活を果たした。地図を描き換えさせるというのは、簡単にできることではない。ともあれ、いまでは「山岳救助隊」の腕章を巻いたボランティアが巡回しながら、一見さんには見つけにくい「頂上」を案内することで「遭難」を未然に防いでいる。

Shop

天保山から歩いて4~5分、大阪港に建つ商船三井築港ビルは築90年の歴史を誇るが、そこに店を構える「築港麺工房」は7種類のカツオ節と北海道産昆布を使ったダシにこだわるうどん店だ。

Curry_20230624174101

1番人気の「薬膳鶏天カレーうどん」を食べてみた。しっかりしたダシの旨味。スパイスが醸し出すエッジの効いた辛味。そしてふんわり香る小麦のやわらかな甘味。これらが三味一体となって疲れた身体全体を駆け巡る。観光地のオシャレビルにある店舗とは思えぬ完成度。これだけ食べに来る価値はじゅうぶんにあろう。ただし土日はお休み。注意されたい。

一昨日の阪神では、その日本一低い山を冠した天保山Sが行われた。10番人気で勝ったメイイショウタジンの母の父アドマイヤマックスは、日本一高い山を冠した富士Sの優勝馬である。事前にそれに気づいていた私はメイショウタジンを含む馬連BOXを購入したが、2着のワルツフォーランを入れてなかった。ハナの3着ベルダーイメルは持っていたのにねぇ。単勝36倍なら単勝も買っておくべきだったか。嗚呼。

Baken_20230624174101

ちなみに天保山は現在では「日本一」ではない。JRAの「特別レース名解説」にも「日本一低い山」の文言は使われなくなった。近年では、仙台市の日和山が最も低いらしい。東日本大震災の津波で削られた日和山の現在の高さは、わずか3mだという。でも大阪の人はそんなことは気にしない。要は面白くなるどうか。そのあくなきラディカリズムこそが大阪人の心意気であろう。

 

 

***** 2023/6/26 *****

 

 

 

 

|

2023年6月25日 (日)

競馬は競馬場で観るもんだ

今日の阪神は上半期総決算の宝塚記念。しかもイクイノックスが関西初登場とあって、場内は午前中から大勢のお客さんで埋まっている。誰もが世界一の走りをひと目観てみたい。私もイクイノックスの走りナマで観るのは今日が初めて。有馬記念の勝ちっぷりは凄かったが、残念ながらテレビ観戦だった。有馬記念を最後に観たのはいつのことだったか。そういう意味では私もすっかり関西の競馬ファンと化している。

Stand_20230625194201

それでも今年前半は関西以外のGⅠレースにも足を運んできた。観戦しなかったGⅠは、皐月賞、天皇賞(春)、そして日本ダービーの3つだけ。あとは全部観ている。暇なのかと言われれば否定もできないが、混んでいる競馬場に出向くにはそれなりに体力を使うもの。エアコンの効いた部屋でゆっくりしていたい週末もある。そういう意味では多少なりとも頑張ってきたことも強調しておきたい。

宝塚記念の発走直前。スターターが赤旗を手にしたまさにそのタイミングで、一通のLINEが入った。

差出人は東京の競馬関係者で内容は訃報。今朝、とある馬主が亡くなったとある。

ご病気であることは聞かされていたから驚くことはなかった。このタイミングでの連絡も、宝塚記念の中継を観てたらたまたま私のことを思い出したのであろう。連絡いただいたのはありがたい。ありがたいが、唐突過ぎて目の前のレースがまったく頭に入ってこない。ユニコーンライオンがハナを奪ったものの、17頭がほぼ一団で1コーナーに飛び込んでいった。イクイノックスは最後方。それで場内がざわめく。

2007年、諸事情これありで、それまで続けていた競馬場での撮影の仕事を辞めなければならなくなった。その後しばらく競馬場から遠ざかった時期がある。そりゃあ行きたくなんかないですよ。もし知り合いに出くわしたら何て言えばいいのか。相手にも気を遣わせてしまうかもしれない。

2年間ほど塞ぎ込んでいた私を競馬場に呼んでくれたのが、亡くなった馬主である。競馬は競馬場で観るもんだ。そう言って東京、中山はもちろん、福島や新潟にも私を連れて行ってくれた。

久しぶりにスタンドから観る競馬は新鮮だったが、それよりもその馬主の競馬感に惹かれた印象が強い。馬主はちゃんと馬券に向き合う方で、前夜の予習は言うに及ばず、競馬場ではパドックと返し馬をかならずチェックし、顔見知りを見つけては情報を聞き出して、帰途の車中では反省会も忘れなかった。その反省会で馬主が披露するレース回顧は独自の視点がふんだんに盛り込まれており、何度感心させられたか分からない。それを楽しみに、いつの間にか私は毎週競馬場に通うようになっていたのである。本人にそのつもりは無いとは思うが、やはり私にとっては恩人ということになろう。

11r_20230625193401

宝塚記念はイクイノックスが大外一気の豪快な競馬で勝った。世界一の脚を間近で観ることができて嬉しい。直線は久しぶりに大歓声で耳が痛くなった。件の馬主の予想は当たっていたのだろうか。池添騎手を贔屓にしていたから、スルーセブンシーズは買えていたかもしれない。たしかドリームジャーニーの有馬記念も的中させていたと思う。いずれにせよ、この宝塚記念を観ることなく逝ってしまったことが残念でならない。

私が最後にナマで観た有馬記念は、この馬主と一緒に行った2017年だ。そのときの優勝馬キタサンブラックは、いまや世界最強馬・イクイノックスの父である。6年という歳月の重みを感じずにいられない。ともあれこれで上半期の競馬は終了した。来週からは遠くローカルでの競馬が始まる。しかしそれでも競馬場には足を運びたい。引き籠る私に「競馬は競馬場で観るもの」と誘い出してくれた馬主への、それが何よりの供養となるに違いなかろう。合掌。

 

 

***** 2023/6/25 *****

 

 

|

2023年6月24日 (土)

最終世代の3歳夏

夏の阪神開催も最終週。今日は3歳未勝利戦が4鞍組まれたが、いずれもフルゲートが埋まった。今日から2歳未勝利戦が始まって、競馬番組は2歳中心にシフトしつつある。6レースは芝1800m、牝馬限定の3歳未勝利戦。ここにエレガントギフト、メズマライジングの2頭のディープインパクト産駒が出走していることに気づいた。

Denma_20230624172201

ちょっと前なら別に驚くことでもない。しかしよくよく考えれば、現3歳世代にディープインパクト産駒はJRAに6頭しかいないはずである。そのうちの2頭が未勝利戦でぶつかる確率はそう高くはあるまい。それが起きたと思うとテンションが上がる。エレガントギフトが単勝2.1倍の1番人気、メズマライジングが単勝2.6倍でこれを追う。3番人気ルピナスが10倍だから完全なる一騎打ちムード。2頭の馬連オッズは2.8倍だ。

9

6頭しかいないディープインパクトのラストクロップは、牡が2頭で牝が4頭。牝馬からはライトクオンタムが重賞を勝って、桜花賞やオークスにも出走した。産駒の数を考えればそれだけでも奇跡に近い。それが海外では英国ダービー制覇の大快挙である。海外に渡った産駒も国内と同じ6頭のみ。それがダービー中のダービーを勝ってしまった。まさに奇跡中の奇跡。しかし、こうなると他の産駒にも奇跡を求めるようになりかねない。

7

なにせ、エレガントギフトもメズマライジングも、ディープのラストクロップということで、昨年の今頃からメディアに注目されてきた。「秋にデビューする」。「クラシックを狙う」。陣営から景気の良いコメントが飛び出したのも無理はない。なにせ当時はまだデビュー前の2歳馬。しかもディープインパクト産駒なのである。桜花賞やオークスで顔を合わせることを期待していたとしても不思議ではない。

その2頭が1年後の未勝利戦で顔を合わせるのだから競馬は残酷だ。レースは波乱の幕開けとなった。メズマライジングがゲートでトモを落とすようなスタートになってしまい、異変を感じた川田将雅騎手がすぐに馬を止めて下馬。これで早くも一騎打ちの目は消えた。

ざわめくスタンドをよそに17頭が直線を向く。すると今度はエレガントギフトの伸び脚が悪い。どうにか3着を確保したものの、2着馬からは7馬身も離された。ペースもそこそこ流れて馬場は良。不利を受けたわけでもない。力負けであろう。未勝利脱出に向け、いよいよ後が無くなってきた。

ディープインパクトの国内ラストクロップ6頭のうち、勝ち上がっているのはライトクオンタムとオープンファイアの2頭のみ。スイープトウショウの子ということで話題になったスイープアワーズは3戦連続で1番人気に推されたが、初勝利が遠い状況。チャンスドゥアスクは前走でシンガリ負けの辛酸を舐めた。未勝利脱出は簡単でないのは、どの種牡馬の産駒でも同じこと。そういう意味では、これからの季節は午前中のレースの方が見応えがある。

6r_20230624172101

競走中止したメズマライジングは馬運車で運ばれたが、現時点で骨の異常は確認されていない。ただ歩様にぎこちなさが残るので、捻った可能性はあるとのこと。期待が大きい馬だけに関係者の落胆はいかばかりか。よりによって優勝馬が同じ勝負服ということで、複雑な思いの残るレースとなった。

 

 

***** 2023/6/24 *****

 

 

|

2023年6月23日 (金)

半夏生にはタコを

ブログの設定が変わってアレコレ対応しているうちに、2日間更新が滞りました。申し訳ありません。現在は追い付いてます。ついでにコメントの受付も止めました。怪しい広告のコメントが大量に届くようになり、もはや選別不可で放置状態だったためです。合わせてご了承ください。

さて、今日の園田ではA1クラスによる1400m戦、半夏生『明石だこ』特別が行われた。出走は7頭。うち5頭が6月2日の初夏特別に出走を予定していた。しかし、近畿・東海を襲った豪雨によりレースは取り止めに。私が乗った新幹線が岐阜羽島で止まったあの日である。

5日後、あじさい特別という同じ条件の番組が急遽編成された。そのレースの3~5着馬が今日の明石だこ特別に出走してきている。重賞ではないA1の1400mという条件はちょいちょい見かけるが、とにかく同じようなメンバーが集まりやすい。コスモピオニールとガンケンの2頭に限れば、すでに今年5度目の直接対決だ。

2週間後には笠松で1400mのサマーカップが行われるが、パールプレミア、ピナサクセス、サラコナン、イナズマテーラ―。4頭の他地区選定馬は園田所属馬ですべて埋まっている。さらにその上には大横綱・イグナイターが鎮座。園田の1400m路線は層が厚い。A1特別が同じようなメンバーになるのも頷けよう。

レースは贔屓にしているハナブサの逃げ切り勝ち。レース名にちなんでたこ焼き店「会津屋」で祝杯をあげることにする。

そもそも「半夏生・明石たこ」とはいったい何のことか。夏至から数えて11日目の7月2日は、二十四節季をさらに三分割した七十二候のひとつ「半夏生」。ちょうど田植えが終わる頃合いで、讃岐ではうどんを食べて田植えを手伝った人をもてなす風習があるが、明石ではタコを食べるらしい。でも、なぜタコなのか。もちろんタコの産地であるということもあろう。しかし、実際には田植え後の早苗の根がタコの吸盤のようにしっかりと根付くようにという願いが込められているそうだ。

Akashi

なるほどね。まあ、私にとってはたこ焼きを食べる理由でしかないので、由来なんてなんでも良い。こちら「会津屋」はたこ焼き発祥の店とされる。ミシュランにも掲載され、外国人のお客さんも多い。マヨネーズはもちろん、青ノリやカツオ節、ソースすらつけないストロングスタイルは新鮮だ。シンプルだからこそ、ダシの風味とタコの旨味を存分に味わうことができる。

Tako

今宵のレースで1番人気に推されたのはコウエイアンカだった。重賞・園田チャレンジカップの覇者で、昨年の佐賀サマーチャンピオンで2着した実績からすればそれも仕方ないが、追い込み一辺倒という脚質からどうしても届かないケースも増えてくる。その反省からか、前走は珍しく先行して、結果末脚をなくした。一転、今日は徹底した後方待機。向こう正面から追い始めて、追って、追って、追い通しで追い込んむも2着に終わった。騎手は疲れるし、差し届かないリスクもある。それでもやはり彼にはこういうレーススタイルがしっかり根付いているのであろう。

 

 

 

***** 2023/6/23 *****

 

 

|

2023年6月22日 (木)

3歳馬初の栄冠を見逃すな

宝塚記念の出走馬17頭が確定した。

衆目一致の本命馬はイクイノックスで異論はないが、筆者はひそかにドゥラエレーデに注目している。ドゥラメンテ産駒の3歳牡馬。斤量差5キロのアドバンテージを活かして、1番人気でマリアライトのクビ差2着に敗れた父の雪辱を期待したい。

宝塚記念で3歳馬が勝った記録はないが、これは出走数が極めて少ないせいとも言える。現在と同じような斤量になり、かつ施行時期が7月の初旬に移って今年が28回目となるが、その間わずか9頭しか3歳馬の挑戦はなかった。

年 馬名 人気 着順 前走成績
-----------------------------------------------------------
1996年 ヒシナタリー 10人気 ④着 (白百合S⑦着)
1999年 オースミブライト 3人気 ⑥着 (日本ダービー④着)
2001年 ダービーレグノ 12人気 ⑪着 (日本ダービー⑦着)
2002年 ローエングリン 3人気 ③着 (駒草賞①着)
2003年 ネオユニヴァース 2人気 ④着 (日本ダービー①着)
2003年 サイレントディール 9人気 ⑩着 (日本ダービー④着)
2007年 ウオッカ 1人気 ⑧着 (日本ダービー①着)
2007年 アサクサキングス 11人気 ⑮着 (日本ダービー②着)
2012年 マウントシャスタ 12人気 ⑤着 (白百合S①着)

ネオユニヴァースは4着止まりだが、出遅れて、なおかつ道中接触の不利があっても0秒3差しか負けてない。ウオッカの場合は初めての道悪競馬で、ほかの馬たちが外に進路を取ったことで目の前の壁がなくなり、馬がエキサイトしてしまったことが大きな敗因となった。つまりは経験の差が出た格好。馬場発表は「稍重」だが、レース直前に滝のような雨が降って実質的には「重」である。いずれのケースでもダービー馬が敗れたからと言って、3歳馬にチャンスの芽がまったく無いと決めつけるのは早計だ。

2007

ローエングリンはゴール寸前まで逃げ粘ってあわやの3着だったし、4角先頭で直線に向いたマウントシャスタは、いったんは後続を引き離す場面もあった。3歳馬だって馬群に揉まれさえしなければ、若さと勢いが経験不足を補うこともあろう。ドゥラエレーデがホープフルSを勝った時は2番手追走からの粘り込み。今年の宝塚記念にしても先行争いが激しくなりそうなメンバー構成ではない。

さらにスピードシンボリまで遡るまでもなく、グラスワンダー、ドリームジャーニー、オルフェーヴル、ゴールドシップ、リスグラシュー、そしてクロノジェネシスと、グランプリレースを得意とする馬はたしかに存在する。シーズン末期の芝を得意とするのだと考えれば分かりやすい。ドリームジャーニーは朝日杯を含めて自身のGⅠタイトル3勝すべてがシーズン末期に挙げたものだった。ホープフルSの優勝馬ドゥラエレーデにとっては追い風だ。

1999_20230623201201

もうひとつ、宝塚記念で掲示板に載った4頭の3歳馬のうち3頭は日本ダービーに出走していなかった点も見逃せない。ドゥラエレーデは日本ダービーのゲートが開いた直後に落馬して競走中止。実際にはコースを一周しているが、これを「出走」と見なすのは無理があろう。余力のある3歳GⅠ優勝馬の宝塚記念出走は実質的に初めて。そう考えれば、この機会をみすみす見逃す手はない。

カラ馬でのゴール後、ドゥラエレーデは誰かに口を取られるわけでもなく、自ら進んで地下馬道への入り口に向かい、スンナリ検量へと戻った。その驚くべき賢さも込みで、3歳馬による初の快挙を期待せずにはいられないのである。

 

 

***** 2023/6/22 *****

 

 

|

2023年6月21日 (水)

短い夜を

水曜だというのに今週の南関東は珍しく重賞が行われない。その代わりと言ってはなんだが、今宵は短夜賞という夏至らしい名前の準重賞が行われた。その出走メンバーが凄いのである。準重賞にしておくのはもったいない。

東京ダービー馬・エメリミットを筆頭に、ジャパンダートダービー優勝のダノンファラオがいて、JRAダート重賞3勝のスワーヴアラミスもいて、ダイオライト記念とアンタレスSの覇者アナザートゥルースがいて、エルムSや大井記念を勝ち12歳の今も現役継続中のリッカルドがいて、他にも南関東ローカル重賞勝ち馬が3頭もいる。今からでもSⅢ格付けした方が良いのではあるまいか。

Jbc_20230620200801

さらに豪華なことに今宵はミューチャリーまで登場した。ご存知2021年JBCクラシックの覇者にして同年のNARグランプリホース。とはいえ走ったわけではない。なんと誘導馬として、この豪華メンバーをパドックから誘導するという大役を務めあげたのである。

「誘導馬」と聞くと、種牡馬になれぬ馬の引き取り先みたいなイメージを持たれる方もいるようだが、実際にはそう簡単に務まるものではない。彼らも厳選されたエリートだ。

まず、牡でなければならない。毛色も限定される。さらにゆったり堂々と歩けることこれだけでも、大半の馬がふるい落とされる。

これらの条件をクリアしても誘導馬になれるとは限らない。もっとも肝心なポイントは馬の気性にある。

なにせ、つい最近まで速く走ることだけを徹底して教え込まれてきたのである。かつての習性でファンファーレを聞いてイレ込むケースが少なくない。出走馬がすぐ隣をすり抜けていけば、負けじと走り出そうとするのも競走馬としての性(さが)であろう。

それをクリアするには長い訓練が必要とされる。早くて1年、遅ければ3年と言われるこの世界。ダイオライト記念からわずか3か月でのデビューは驚愕にも値する。馬の頑張りとともに、調教関係者の熱意の賜物に違いあるまい。

ミューチャリーにとっては、短夜賞出走馬の大半がつい先日まで一緒に走っていた、いわば「顔見知り」。ミューチャリー自身も走る気満々で馬場入りしていたのではあるまいか。それでもネット中継を見る限りは立派に誘導をこなしていた。NARグランプリホースが誘導馬になった例は過去にない。誘導馬としての更なる高みを期待しよう。

 

 

***** 2023/6/21 *****

 

 

|

2023年6月20日 (火)

熱中症を回避せよ

おとといの東京都府中市の最高気温は31.5度。競馬場も暑かった。すでに夏番組に入っているのだから当然だが、エアコンの効いた阪神のスタンドに慣れ切った身にはかなり堪える。とにかく無料の麦茶をガブ飲みしつつ、知り合いに貰ったアイスを必死に舐めた。水分補給とクールダウンは熱中症対策の基本である。

Ice

人は体内から3%の水分が失われると運動能力や体温調節の機能が低下し、7%を超えると危険水域に入ると言われる。馬の場合、10%の水分が失われると異常行動をきたすようになり、20%で死に至る。馬体重500キロの馬の体内水分量はざっと300リットル。だから、単純計算で60リットルの水分が失われると死んでしまうことになる。

ちなみに競走馬が一日に排泄する水分量は20~30リットルとされるから、いっさい水分を摂らなければ2~3日で危険な状態になる可能性もある。でも、万一そういう状況になれば、排泄する水分量も減らすように調整されるはず。しかし、意外にも馬が排泄する水分は尿ではなく糞に含まれるものが半分以上を占める。糞に含まれる水分が減れば、ただでさえ疝痛を起こしやすい腸になんらかの異変を来すことは想像に難しくなく、やはりどう転んでも水分補給が極めて重要であることに変わりはない。

もちろん暑さ対策も重要だ。おとといの東京パドックではミスト装置がフル稼働していた。舞台上のスモークよろしく霧が馬道を覆って、幻想的にさえ感じる。

Mist1

しかしミストも決して万能なわけではない。湿度が70%以上だったり、雨が降っているようでは効果はゼロ。ミスト装置が出回った当初は、パドックに1か所とか2か所だけという競馬場もあったが、空間全体の温度を下げるためにはこれくらい派手に噴霧する必要があるのだろう。これだけあると風向き次第でお客さんもミストを浴びることになる。カメラをお持ちの方は気になるかもしれないが、それで文句を言ったりするのは論外。何より馬と馬を曳く人の健康が第一である。

Mist2

レース直前の馬に水を飲ませてはいけないことはよく知られているが、レース直後も大量の水を一気に飲ませてはいけない。クーリングダウンの引き運動をさせてから少しの水を与え、再び引き運動を行い、また少量の水を与えるというパターンを繰り返す。大量の水が一気に体内に入ると、内側から馬体が冷やされることで疲労が抜けにくくなってしまうらしい。アイスなどもってのほかであろう。「水分補給はこまめに」というのは人であれ馬であれ変わりはないのだが、私はアイスの誘惑にはとても太刀打ちできない。

 

 

***** 2023/6/20 *****

 

 

|

2023年6月19日 (月)

たまにはラーメンも

父親に会うため埼玉の春日部へと向かった。昨日、神奈川の自宅に戻って家族と父の日を過ごすうち、自分にも父親がいたことをハタと思い出した―――というのは冗談で、もともと「来てくれ」と呼び出されていたわけだが、一日遅れの父の日を味わってもらうには丁度良い。

その前に、春日部のひとつ手前の一ノ割で下車。駅近くのラーメン店「大勝軒」を目指した。今でこそうどんばかり食べている私だが、学生の時分は毎日のようにこの一軒に通い詰めたものである。

客の少ない午後ならば、ラーメンを食べ終えてなお漫画雑誌のページをめくっていても咎められることはない。昨今のラーメンブームが到来する前であるから、客はいつも私一人だった。そのうちに友達が店にやって来る。漫画を読みつつ、彼らがラーメンを食べるのを待ってから、やおら遊びに出かけるのである。すなわちラーメン屋が我々の待ち合わせ場所だった。

Taishoken

久しぶりに暖簾をくぐると、御主人は相変わらずカウンターの中で巨大な茹で釜に対峙していた。

「最近は中学生も高校生も来ないね」

私の心境を察したかのように御主人が呟く。

「昔と違うからね。学生がラーメン一杯に850円も出せないだろ」

私は深く頷いた。私が学生の頃はラーメン一杯が350円である。いや、それよりも、ここで友達と待ち合わせする必要などないのであろう。携帯で“今どこ?”と言えば済むことだ。「待ち合わせ」という言葉自体が、もはや死語になりつつある。

「時代が変わった、ってとこかな」

Ramen_20230619210201

御主人がまだ修行中の頃、毎週土日になると早朝から生麺を東京競馬場に配達していたのだそうだ。40玉入りのトレー50枚とういから凄い。

「それでも足りなくなったりしてさぁ。大至急持って来い!なんて怒鳴られて、慌てて車を飛ばしたもんだよ。そのくせ、余ったら返品なんだから、たまんねぇよなぁ」

「それにしても2千食は凄いですね」

「昔の競馬場ったら、ラーメンとかうどんしかなかったろ。一杯200円で、たしか馬券と同じ値段だったかな?」

今は馬券は100円から買える。一方、場内のラーメンは安くて700円といったところか。ここでもラーメンは肩身が狭い。

御主人は、関係者用の通行証でスタンドに出入りしていたが、忙しくてとても馬券を買う暇はなかったそうだ。

「だけど、練習中の馬はいつも見てたよ。尻尾とかたてがみが朝日に光ってさ。芝生の緑と相まって、きれいだなぁと思ったもんだ」

こういう話を聞くと、たまには競馬場でラーメンを食べてみたくなる。今週末の阪神競馬場でのお昼はラーメンで決まりだ。

 

 

***** 2023/6/19 *****

 

 

|

2023年6月18日 (日)

父の日に

かつては父の日に「マル父」すなわち父内国産馬の馬券を買うという馬券作戦を密かに実行していた。2006年マーメイドSの1着ソリッドプラチナム(父ステイゴールド)、2着サンレイジャスパー(父ミスズシャルダン)のマル父決着の馬単135倍をズバリ的中したという誇らしい記憶もあるが、それを除けば良い思いをした覚えはほとんどない。たいていは輸入種牡馬の産駒や外国産馬の前に私のマル父馬券は紙クズと化した。

今となっては「マル父」と聞いても何のことか分からぬ方も多かろう。つまりは、その馬自身と父がともに日本生まれのサラブレッドのこと。かつては父内国産馬を明確に区別していた。いや、「保護していた」と書いた方が正しい。

Denma

マル父限定レースが行われたり、外国産馬相手のレースでマル父が掲示板に載ると奨励金をもらえる。馬主にとっては嬉しい。そうなるとマル父の購買意欲が沸く。そこが狙いである。裏を返せば、それたけ内国産種牡馬の成績は悪かった。

だが、サンデーサイレンスの産駒が次々に種牡馬入りし、内国産種牡馬のレベルが飛躍的に上がった2007年を最後に奨励賞や限定レースは廃止された。今年行われた11のGⅠレースのうち、10までを父内国産馬が制している。そんな時代にもはや特別扱いは不要であろう。しかしJRAのレーシングプログラムには、その後しばらくの間「父内国産馬」の記述が残っていたと記憶する。

一方で、今日は調教師・騎手が父子という「親子鷹出走」が3組あった。息子にしてみれば父の日に父の管理馬の手綱を取るのは特別な思いであろう。できれば勝利をプレゼントしたい。さあ、果たして結果は―――。

阪神1R イトサン 11着 小崎憲・小崎綾也

東京4R イルマコティック 16着 武藤善則・武藤雅

函館11R オードゥメール 7着 斎藤誠・斎藤新

勝負の世界は非情だ。とはいえ、父の日だからといって親子鷹が勝てるようなら苦労はない。それなら角田晃一調教師だって、大和騎手や大河騎手をばんばん乗せているはずじゃないか。

しかし過去にひとつも例がないわけではない。1987年の父の日の中京4レースを勝ったサンライズサンは武邦彦調教師の管理馬で、その手綱を取っていたのはデビューしたばかりの武豊騎手である。しかも驚くことに武邦彦調教師にとってはこれが厩舎開業初勝利だった。これほど嬉しい父の日のプレゼントなどほかにあるまい。新人でありながら、簡単ではないことをサラリとやってのけるあたり、スーパースターはやはりどこか違う。

 

 

***** 2023/6/18 *****

 

 

 

|

2023年6月17日 (土)

隻眼のダービージョッキー誕生なるか

20年ほど前から緑内障を患っており、朝晩の投薬ならびに定期的な視野検査が欠かせない。右眼の視野が若干狭いのである。

撮影という行為においてはもちろん、普通に生活する上でも不便であることは言うまでもない。しかも今日の視野検査において、左目にも視野狭窄が確認されてしまった。これはヘコむ。最近パドックでウマがよく見えないと感じた原因は、老眼だけではなかったようだ。

ぼんやりとした眼で高知競馬のネット中継を観ていたら、4レースをマクギリスが制した。JRAからの転入緒戦でこれが初勝利。手綱を取ったのは宮川実騎手である。

高知競馬の宮川実騎手が不慮の事故に遭ったのは、2009年5月2日の第1レースだった。2番人気クラウザーサンに騎乗していた彼は、3コーナー過ぎで落馬。あろうことか左眼失明の大怪我を負ってしまう。

競馬学校の入学条件にあるように、視力は騎手にとって生命線。それを一瞬にして失った本人の落胆は想像に難くない。当時の日本最多勝記録となる45勝をマークしたオリジナルステップや、通算41勝のストロングボスなどの主戦を務めたトップジョッキーのキャリアが、こんな形で終わってしまうのか。病院のベッドの上で彼は絶望の淵に立たされていたという。

だが、そんな暗闇の中に一筋の光明が差し込む。それは彼が師と仰ぐ故・打越初男調教師の一言だった。

「むかし高知には隻眼の騎手がいた」

この言葉を胸に彼は復帰を決意。片目だけで距離感をつかむ訓練を重ね、1年余りで復帰を果たしたのである。その手綱さばきは、彼が隻眼であることを微塵も感じさせない。私の右眼が多少見えにくいことなんて大したことないじゃないか。いう意味では、彼をただ凄いと思うだけではなく、彼に感謝もせねばなるまい。

Miyagawa_20230616213501

昨年は136勝を挙げ、ついに高知リーディングジョッキーの座を掴んだ。でも、彼はまだダービージョッキーの栄誉は掴めてない。明日の高知優駿ではデステージョの手綱を取る。前走の黒潮皐月賞は宿敵ユメノホノオに敗れはしたものの、アタマ差でしかない。乗り方ひとつで逆転は可能であろう。史上類を見ない隻眼のダービージョッキー誕生なるか。明日はユニコーンSやマーメイドSだけでなく、ぜひとも高知のダービーにも注目いただきたい。

 

 

***** 2023/6/17 *****

 

 

 

|

2023年6月16日 (金)

ヤレの海から

自分が撮った写真の中からダンスインザダークを探しているのだが、なかなか条件に合う一枚が見つからずに困っている。「顏のアップで、頭絡のネームプレートが見える」がその条件。これはネームプレートが見えないからダメ。Dance_20230616220901

パソコンに保存した写真にはファイル名に馬名を付けてある。「ダンスインザダーク」の名前がファイル名に含まれた数百枚。だが、あろうことかこの中に条件にものは無かった。

Principal

「おっかしいなあ…。撮った覚えがあるんだけどなぁ…」などと言いつつ、ヤレのDVDを引っ張り出してくる。

「ヤレ」とは何か。

日々大量に撮った写真のうち、たぶん必要ないんだけど、万一の場合に備えて救済手段を残しておくような写真は、ある程度の分量がまとまったところでDVDに書き込んで、段ボール箱に突っ込んでおく。これが「ヤレ」。

本来は印刷業界において「テスト印刷紙」とか「印刷に失敗した損紙」などを指して使う言葉だが、新聞社で「ヤレ」といえば「要らないけど一応取りおく写真」を指し、印刷ミスによる損紙は「黒損」と呼ぶ。ただこれは一般紙の話で、スポーツ紙や競馬専門紙においては、また別の呼び方があるのかもしれない。業界の生き字引的ベテラン氏によれば、「ヤレ」の語源は「ヤぶレれた紙」にあるのだそうだ。だとしたら、取り置き写真には相応しくないようにも思える。

ともあれ、自宅の段ボールに詰め込まれたヤレのDVDの海から、2001年に社台スタリオンで撮影した一枚を発見。額の星の模様からしてダンスインザダークに間違いなさそうだ。ネームタグも見えている。ただ、ちょっとアップに過ぎるなぁ……。

Dance01

……なんて思ってよくよく見れば、頭絡のネームプレートには「FUSAICHI CONCORDE」と刻まれているではないか!?

Dance02

ヤレ? もとい、アレ? こいつフサイチコンコルドなのか?

いや、フサイチコンコルドの顔には星はないし、だいいち毛色からして違う。となれば、間違ってフサイチコンコルド用の頭絡を付けられていたということになる。それにしても、よりによって日本ダービーで痛恨の差し切りを許した相手のものを付けられるとは、気の毒過ぎやしないか。ヤレの海には不思議な一枚が潜んでいる。

 

 

***** 2023/6/16 *****

 

 

|

2023年6月15日 (木)

生姜の日

大阪は今日も梅雨空。今日も蒸し暑かった。夏バテ気味だった体調も戻りそうで戻らない。すっきりしない日々が続く。

Pork

今宵は自宅で豚肉の生姜焼きを作って食べた。旨いし安いし簡単。私にだって作れる。しかも夏バテにも効果的ときた。豚肉には糖質をエネルギーに変えるビタミンB1が豊富で、これが疲労回復に役立つという。美味しいものを食べて疲労が消えるなら、こんな良い話はない。

Jc1999

スペシャルウィークが勝ったジャパンカップでのことだから、かれこれ四半世紀近く昔の話になる。取材で来日していた英国人女性カメラマンが、お昼の検量食堂でこう聞いてきた。

「ショウガを焼いて食べるのですか?」

ある程度日本語を理解する彼女は、壁に貼られた「しょうが焼き ¥500」というメニューを文字通り受け取ったのだろう。私は笑いながら「いやいや、あれはポークジンジャーです」と訂正した。だが彼女は納得しない。というのも、そのメニュー表記のどこにも「豚」の文字が書かれていないからだ。

本来なら「豚肉のしょうが焼き」と書くべきなのだろう。我々は暗黙のうちに「しょうが焼き」と聞けば豚肉のことだろうと判断する。だが、外国の方には到底理解できまい。

Menu

恵比寿駅の近くに暖簾を掲げる「こづち」は、昭和のたたずまいを今に残す希少な大衆食堂として知られるが、こちらのメニューに「肉生姜定食」というのがある。「豚」とも「焼き」とも断ってない。鶏肉と生姜の煮込み定食という可能性だってある。だが、もちろん実際に出てくるのは豚肉のしょうが焼き定食。「これはいったい何の肉ですか?」とか「煮込みですか、あるいは焼肉ですか?」などいちいち聞くような客はいない。こうなると、もう理屈の話ではないように思える。

「塩焼き」にしても塩のみを焼くわけではないし、「網焼き」だって網を焼いて食べるものではないが、これらは「××の塩焼き」という具合に主役と組み合わせて表現されるのが一般的。それでも「すき焼き」「目玉焼き」「どて焼き」のように、主役に関する記述のないメニューも少なくはない。逆に主役の名が含まれていたとて「鯛焼き」のような罠に嵌ることもある。なまじ日本語が理解できる外国人ほど、メニュー選びには注意を払う必要があろう。「焼いたショウガ」を期待して豚の焼き肉が出てきたら驚くに違いない。ちなみに今日6月15日は「生姜の日」だそうだ。

 

 

***** 2023/6/15 *****

 

 

 

|

2023年6月14日 (水)

決戦は水曜日

兵庫ダービーが水曜日に行われるのは珍しい。かつて4月に行われていた園田ダービーが6月に移って「兵庫ダービー」と名前を変えてから「水曜日のダービー」は今年が初めて。水曜だから南関東でも重賞が行われる。今日は関東オークス。新子雅司調教師はダービーにヒメツルイチモンジを、オークスにマルグリッドを送り込む。ファンだって忙しい。

ダービーは一騎打ちムードが漂っている。

スマイルミーシャが単勝1.8倍で1番人気。べラジオソノダラブが2.4倍で続く。両馬の馬連は1.6倍しかつかない。それでもファンはこの2頭を買うしかなさそうだ。暮れの兵庫ジュニアカップが1着スマイルミーシャ、2着べラジオソノダラブ。4月の菊水賞は1着べラジオソノダラブ、2着スマイルミーシャ。いずれも3着以下を大きく離していた。しかも両馬ともほかの園田所属馬に重賞で先着を許したことがない。つまりそれだけこの2頭の実力が抜けているということの証。牡馬と牝馬のライバル関係というところが、そこに深みを与えている。

Jr_cup

今日はスマイルミーシャの吉村智洋騎手の積極策が際立った。

スタートからハナを奪わんばかりに気合いを入れてポジションを主張。オキザリスレディーを先に行かせると2番手で折り合った。背後にはベラジオソノダラブがピタリとマークしている。だが、こちらは若干折り合いに苦労しているようだ。

2コーナーでスマイルミーシャが早くもスパート。それを見てべラジオソノダラブも動いた。2頭が後続をぐんぐん引き離して完全なマッチレースとなるが、ベラジオソノダラブはスマイルミーシャに馬体を併せることができない。むしろスマイルミーシャが突き放した。あとは独走。ユメノアトサキ以来10年ぶり4頭目となる牝馬のダービー馬誕生の瞬間だ。

Smile_20230614215001

自身2度目となるダービー制覇を果たした吉村騎手は、開口一番「悔いのないレースをしたかった」とコメントした。ベラジオソノダラブの逃げ切りを許した菊水賞が念頭にあるのだろう。のじぎく賞ほどの手応えは無かったというが、それでも2コーナーから仕掛けた勇気を讃えたい。逆にそれほどの覚悟が無ければダービーは勝てないということか。

もちろんベラジオソノダラブも素晴らしい競馬だった。もう一回やればこの馬がダービー馬になったかもしれない。でも、それができないのがクラシックでありその最たるものがダービー。「一生に一度」の重みを感じているのは、むしろ敗者の側に違いない。

帰宅して関東オークスを観戦。園田のマルグリッドが5着に頑張った。これで15ポイントを追加してグランダムジャパン3歳シーズンの優勝も決めている。2位メイドイットマムとは1ポイント差の大接戦だったのだから、この5着はとてつもなく大きい。マルグリッドは前走のじぎく賞で2着だったが、その勝ち馬は他ならぬスマイルミーシャである。このレースに出走していたほかの馬たちにも、今後注意を払っておく必要がありそうだ。

 

 

***** 2023/6/14 *****

 

 

|

2023年6月13日 (火)

競馬場の歩き方

脚が痛む。

馬ではない。自分の話。お医者の勧めで1日1万歩を目指して歩く日々を続けるうち、ついに脚部不安を発生してしまった。もとはと言えば腰痛改善のために始めたウォーキングなのに、それがために今度は脚を痛めてしまったとなれば本末転倒も甚だしい。

6月8日付「目指せ1万歩」でも書いたことだが、競馬場という場所は実によく歩く場所でもある。痛む足で競馬場を訪れてみると、それが身に染みてよくわかる。

指定席に入ったところで馬券を買うには背後の階段を昇り降りせねばならず、ちゃんとパドックを見ようと思えばパドックもしくはバルコニーまでの往復がそれに加わる。昼食時ともなれば空いている店を探して歩き回ることになるし、食後のコーヒーを飲むためにまた歩かねばならない。たばこ一本を吸うにも、遥か彼方の喫煙室まで歩かなければならないのが昨今の競馬場である。

とはいえ腰痛のみならずメタボも抱えた私などは、それを福音と捉えるべきであろう。とくだん身体を使う仕事をしているわけでもなく、スポーツやジムで身体を動かす習慣もない。競馬場に行かなければほとんど身体を動かすこともない日々。ローカル開催に突入する来月以降のことを思うと、ちょっと怖い。

ともあれ、健康法としてのウォーキングがもてはやされる昨今である。私も歩きやすいようにとシューズショップでは極力重量の軽い靴を選ぶようにしていたのだが、これは必ずしも正解ではないらしい。お店の方に聞けば、長時間を続けて歩くような場合は靴を振り子のようにして歩くので、ある程度の重量があった方が疲れが溜まりにくいのだとか。その目安は左右合わせて体重の1%。私なら片方400グラムが良いということになるが、これは歩き方やその距離によってもちろん異なる。

騎手が履くブーツは軽い方が良いに決まっている。ために一般的な乗馬用のブーツが天然皮革製であるのに対し、ジョッキーブーツは軽くて水にも強い合成皮革製。靴の底面には滑り止めのゴムを張るだけで、かかとの高さも数ミリ程度に留まる。「靴」というよりはもはや「靴下」。そこまでして軽量化にこだわる理由はフィット感だけではない。競走馬の負担重量は、騎手の体重に鞍とベストとブーツの重量を合算したもの。10グラム単位の減量に神経を擦り減らす騎手にしてみれば、ブーツの軽量化は死活問題であろう。

Boots

ちなみに東京競馬場7階の馬主席からパドックへの往還は、まさに気の遠くなるような距離がある。以前試しに歩数を計ってみたら、片道だけでなんと461歩を数えた。往復で900歩ちょい。1日12レース、律儀に往復を繰り返せばそれだけで1万歩に達してしまうのである。普段の生活で1万歩を稼ぐには相当の決意と努力を要することを思えば、競馬場とはやはり不思議な空間であると言わざるを得ない。

ところで私の脚の痛みであるが、具体的には足の裏が痛む。これを周囲に伝えたら「痛風やないか」と言われた。私の体型からして、たしかに痛風を発症してもおかしくはない。一方で、痛風は歩けないほど痛いものだと聞いた覚えがある。歩けている以上、私の症状は痛風ではない……はず。そう決め込んで明日も競馬場を歩こう。

 

 

***** 2023/6/13 *****

 

 

|

2023年6月12日 (月)

夏のうどん

月曜だというのに疲れが取れぬ。

金曜の夜は来阪客とおでんを食べたのち深夜に帰宅。倒れるように布団に入ったのもつかの間、仕事のトラブル電話に叩き起こされた。

ただちに仕事場へと急行。その際、カメラ機材を携行したのは我ながら正解である。そのまま朝を迎えて昼過ぎに阪神に行き特別3鞍を観戦したのち再び仕事場へ。なんだかんだで深夜に帰宅。郵便受けを覗くと不在票が入っている。そこでようやく社台・サンデーのカタログ一式を時間指定配達で受け取ることになっていたことに気付いた。嗚呼。

悪いのはトラブルを起こした仕事相手だが、時間指定の受け取りを忘れていたのは私の落ち度である。配達員の方に申し訳ない。それでまた気疲れする。

翌朝は雨。仕事場に立ち寄ってから、2日連続の阪神へ向かう。このあたりからごまかしようのない疲れが気になり始めた。ちょっと早いが夏バテかもしれない。ならばハモを食べてスタミナをつけよう。仁川駅に降り立つや一直線に「フランケル」へと向かい、メニューも見ずに「ハモ天ぶっかけ」をオーダー。夏の天ぷらはハモに限る。

Hamo_20230612233501

運ばれてきた丼には揚げたて熱々のハモ天が5切れ入っていた。トッピングなのに、抹茶塩と梅肉が添えられてくるのが嬉しいではないか。ツユに浸して食べるのはもちろん美味いが、抹茶塩も捨てがたい。むろん梅肉との組み合わせこそが王道であることも事実。さあ、どうやって食べようか。馬券を買う前からここまで悩まされるのは、このハモ天ぶっかけうどんが美味すぎるせいだ。

しかし、ひと晩経った今日もまだ疲れが取れないのである。珍しいことに食欲も落ちてきた。驚くことに朝メシが入らない。夏バテにはまだ早いはずだが、梅雨でも似たような症状になることはある。さすがに昼メシも抜くわけにはいかないが、うどんなら入るだろう。それで東梅田「今雪」の暖簾をくぐり、「ひやひやレモンうどん」を初めて注文してみた。

Lemon_20230612233501

麺上に張られた黄金のダシにレモンの輪切りがたくさん浮かんでいる。こりゃあ酸っぱいんじゃないか?―――そう思ってひと口啜るも意外にもそれほど酸っぱくはない。むしろダシの旨味が際立つ。ところが食べ進めるにしたがって酸っぱさが増してきた。これは時間的な現象だろう。しかし、その頃には口が酸っぱさを求めているから不思議。スダチうどんもそうだが、これを考えた人は素晴らしい。レモンに含まれるクエン酸も、ハモに含まれる豊富なミネラル分も、夏バテ対策には効果が期待できる。どちらも「夏のうどん」と呼ぶに相応しい。しかし、夏だけのメニューにしておくのはもったいない気がする。

とにかくこの週末は疲れることが多かった。函館スプリントSのカイザーメランジェ(12番人気)も、エプソムCのレクセランス(16番人気)も、クビ差の4着に負けたりするから始末が悪い。こちらは両馬の複勝にドカンと注ぎ込んでいるのである。それを知っててわざとやっているのか。なにせレクセランスの複勝は30倍もついていた。次はそうもいくまい。

 

 

***** 2023/6/12 *****

 

 

|

2023年6月11日 (日)

母の父ディープインパクト

阪神5レースは芝1200mの新馬戦。8頭立てのせいもあるが、ミルテンベルクが単勝1.8倍の圧倒的支持を集めている。

8頭すべてが競馬場でレースを経験したことなどない。パドック周回も初めて。ゲート入りや発馬だって練習とはぜんぜん違う。それなのに1.8倍は買い被り過ぎではないか。

予想紙によればミルテンベルクは祖母が独オークス馬なんだという。それは立派だ。しかしそれを言い出したら、ハナイチリンの祖母はエリザベス女王杯を勝ったリンデンリリーだし、ジャコムスビの3代母だってオークス馬エリモエクセルではないか。さらにヤマニンアラクリアの3代母ズーナクアだって米GⅠ勝ち馬だし、デアパーディタの3代母に至っては泣く子も黙るウインドインハーヘアである。日本生産馬の血統改良は著しい。母系をちょっと辿ればGⅠ馬が登場することはもはや珍しくない。そもそも芝1200mの新馬なんて発馬次第。血統がなんぼのもんじゃ!とばかりに人気薄をバラバラと購入したその結果は……、

5r_20230611195501

ミルテンベルクの圧勝でした(笑)

好発、好ダッシュのドナヴィーナスを2番手から追走。慌てて促すこともせず、むしろなだめつつの走りに見える。直線で後ろから何も来ないことを確認した上で、ジョッキーが軽く仕掛けると反応良く前を捉えて、瞬く間に突き放した。あとはリードを保ったままゴール。スピードに任せるというよりは、センスを感じさせる競馬だった。つまり私が抱く1200mの新馬戦のイメージは、もはや古いのであろう。血統も大事なのである。

反省して血統表を見返した。父モーリス、母の父ディープインパクトはジェラルディーナやルークズネストと同じ。つまりサンデーサイレンスの4×3のクロスを持つ。この組み合わせは今後ますます増えるに違いない。

6r_20230611195501

そんなことを考えていたら、続く6レースを勝ったハレアカラフラも母の父ディープインパクトではないか。こちらのお父さんはラブリーデイだが、それでもサンデーの4×3は成立する。金子真人氏の所有馬同士の配合だと、こういう組み合せがいくらでも可能なような気がしてならない。

8r_20230611195501

8レースを勝ったマスクトディーヴァも母の父がディープインパクト。お父さんはルーラーシップだからサンデーのクロスは持たないが、ディープインパクト肌にルーラーシップの組み合わせは既にニックスとして知られている。ルーラーシップ産駒のGⅠ馬はキセキとドルチェモアの2頭。そのどちらも母の父がディープインパクトだ。そのほかにもエヒトやワンダフルタウンといった重賞ウイナーも同じ配合。ドゥアイズやキングズレインも重賞を狙える逸材だ。

ディープインパクト亡きあとの種牡馬界は戦国時代に突入している。乱世を勝ち残る決め手は、ずばりディープインパクト牝馬との相性であろう。ロードカナロアやエピファネイアはこの点で意外にも伸び悩んでいる。死んでなお種牡馬ランキングに影響を及ぼし続けるディープインパクトにはただただ驚嘆するばかりだ。

 

 

***** 2023/6/11 *****

 

 

|

2023年6月10日 (土)

甲武特別のその先に

阪神9レースは甲武特別。1勝クラスとはいえ芝2400mという条件ゆえ注目に値する。前回(3年前)はヒートオンビートが5馬身差の独走。2013年にはラキシスが2馬身半で完勝した。しかもどちらも3歳馬による勝利だったことは忘れないでおきたい。つまり、ここで3歳馬が強い勝ち方をすれば、それは大物の可能性がある。

今年の人気はダイヤモンドハンズ。サトノダイヤモンド産駒で、しかも3歳馬だ。

Diamond

実はダイヤモンドハンズは現3歳世代の一番星。つまり昨年最初に行われた新馬戦の勝ち馬だったりする。しかし札幌2歳Sで3着に敗れたあと、右前膝の骨片が飛んだ。半年間の休養を挟んでの一戦でいきなり未経験の2400m。不安がないはずはない。しかし追い切りで古馬オープンのゾンニッヒをアオって、そんな不安はどこかに吹き飛んだようだ。単勝1.9倍というオッズがそれを表している。

しかし、馬場に出てきたダイヤモンドハンズは発汗で真っ白だった。スタートしてからもずっとハミを噛んで、力みが抜けない。手応えの割に伸びなかったのはそのせいであろう。しかし次はきっと良くなる。一度使って力みが取れることは珍しくない。

そんなダイヤモンドハンズを尻目に先頭ゴールを果たしたのは3歳牝馬のゴールドプリンセスだった。出遅れ癖が出世を妨げてきた感があった彼女だが、今日はちゃんとゲートを出て、無理なく追走できたことが最後の伸びにつながったのであろう。つまり距離が伸びたことが良かったのである。

9r_20230610225201

2着アイザックバローズとの着差は3馬身だから、「3歳馬が強い勝ち方をした」と言える。こうなるとゴールドプリンセスには、ヒートオンビートやラキシス並みの活躍を期待せずにはいられない。目黒記念か、あるいはエリザベス女王杯か。どちらにせよ彼女の展望は大きく広がった。

父のゴールドアクターの3歳秋は条件戦から菊花賞に挑戦して3着と健闘。4歳夏から5歳春にかけては5連勝で有馬記念と日経賞を制した。父の成績に産駒のイメージを重ねてしまうのが競馬ファンの悪い癖であることは重々承知。しかし今日のレースを観る限り、ゴールドプリンセスには秋華賞ではなく菊花賞を目指してもらいたいという思いが募った。

ゴールドアクターは現4歳世代から産駒を送り込んでいるが、産駒が特別戦を勝ったのはこれが初めて。自身の競走成績がそうだったように、種牡馬成績も奥手のようだ。しかし一頭でも大物を出せば、一気に局面が変わるのが種牡馬の世界でもある。現役時代のライバルであるサトノダイヤモンドの産駒を負かした今日のレースは、どこか象徴的に思えてならない。川崎には新馬戦を好タイムでぶっちぎったパンセという大物2歳馬もいる。各地で始まるゴールドアクター産駒の巻き返しに注目しよう。

 

 

***** 2023/6/10 *****

 

 

 

|

2023年6月 9日 (金)

夏のおでん

東京からの来客をもてなす店を選ぶのにいつも苦労する。最初はお好み。次は串カツ。ただしこのトシになると油モノが堪えるからフグにすることもある。その次はどうしようか。相手も良い大人なので、タコ焼きというわけにもいかない。最近は普通の和食にすることも増えた。名物にこだわるからいけない。その辺の居酒屋さんでも東京では見かけることのない、しかも美味しいメニューが載っていたりするあたりが関西の底力だ。

Hana_20230609230901

今日は福島の「花くじら」でおでんにした。私は東京生まれなので、おでんと言えば東京のローカルフードだと思い込んでいたフシがある。おでんと言えば紀文。紀文と言えば築地。しかも関西では「関東煮」と呼ばれているではないか。

しかし歴史的にはそうではないらしい。もともと「おでん」は串に豆腐を刺してみそ焼きにした田楽のことを指した。それを貴族の女性言葉で言ったのが語源である。

江戸時代に屋台で田楽をサトイモやコンニャクと一緒に鍋に煮込んで売るスタイルが大流行。これが全国に伝わるのだが、関西ではそこにダシ文化が加わった。その際、田楽から発生したおでんとは別物の「関東煮」と呼んだのが現在の「おでん」の起源だという。つまり関西のダシが加わって、関東に逆輸入されたものを私は食べて育ったというわけ。まあ美味しければ、西だろうが東だろうが私としてはどちらでも良い。

それでも、おでん種にははっきりとした東西差異が見て取れる。

全国的な定番は、大根、豆腐、卵、こんにゃく、ちくわといったあたりか。関東ではここに、はんぺん、つみれ、ちくわぶなどの練り物が加わることが多い。一方、関西で愛されるのはスジ、クジラ、タコとバラエティーに富む。ちなみに関東ではサメの軟骨をすり身にしたものを「スジ」と呼んでいだ。このあたりも練り物に偏りがちな関東のおでん文化の一端なのではあるまいか。

Kujira

「花くじら」にはその名に違わずクジラのメニューがある。「サエズリ」は舌、「コロ」は皮と皮下脂肪の部分。どちらも煮込めば煮込むほどスープにコクが出る。スジやタコも同じ。関西のおでん種は煮込むほど旨味が溶け出す食材が多いが、関東の練り物は煮込むほどどれもみな同じ味になりがち。そういう意味では、関西のおでん種は煮込むことにこだわっている。だてに「関東煮」を名乗ってはいない。

いやあ、それにしてもサエズリのなんと旨いことか。これは燗酒が進む。もてなすつもりが、私の方がもてなされてしまった

外は蒸し暑い季節になっても、おでんには燗酒がつきもの。茶飯も捨てがたい。真冬のアイスクリームが美味しいように、真夏のおでんと燗酒も、むしろアリだと思いつつ浪速の夜は更けてゆく。

 

 

***** 2023/6/9 *****

 

 

|

2023年6月 8日 (木)

目指せ1万歩

昨年末あたりから悪化の兆しを見せていた腰痛がここへきて無視できぬ痛みに変わってきたので、医者に診てもらったところ「毎日1万歩を歩きなさい」と説諭されたのは4月のことだった。

なんでも、この腰痛は骨盤が不安定になっていることに起因しているとのことで、歩いて腹横筋を鍛え、骨盤を安定させるのが効果的なのだという。

1日1万歩は簡単なようで難しい。仕事場までは徒歩10分。往復でも2千歩でしかない。あとはトイレに立つ、会議室に向かう、コーヒーを買いに出る、お昼ご飯を食べに行く、動くと言えばその程度。それで8千歩を稼ぐのは無理であろう。

実際のところはどうなのであろうか? スマホに歩数計機能が内臓されていることを思い出し、先月1か月間の歩数をチェックしてみた。

 1(月)  6858
 2(火)  9745
 3(水)  5105
 4(木)  2483
 5(金) 13009
 6(土) 10592
 7(日) 11583
 8(月)  5528
 9(火)  6152
10(水)  6063
11(木)  6118
12(金)  6062
13(土) 10236
14(日) 11641
15(月)  5798
16(火)  6312
17(水)  5641
18(木)  6276
19(金)  7884
20(土) 11386
21(日) 10076
22(月)  7702
23(火)  5200
24(水)  7461
25(木)  4905
26(金) 13835
27(土) 10195
28(日) 18981
29(月)  8937
30(火)  6339
31(水)  5802

日によってはクリアできている。これならもう少し頑張れば1万歩もクリアできるんじゃないか?

最初はそう思った。しかし、よくよく見れば1万歩をクリアしたのは競馬場に行った日に限られ、それ以外の日は6~8千歩とハッキリ色分けされている。土日はJRAに、さらに5日は船橋で、26日は園田に行った。一方で4日は神奈川の自宅に帰省していて、犬の散歩とコンビニ以外は一日ゴロゴロして過ごしたのだからこの歩数も当然。それ以外の日は働いたり、買い物に出たり、病院に行ってるはずなのに5千歩にすら届かぬ日があるのだから、1万歩の壁はつくづく高い。

逆に言えば競馬場というのは歩く場所だ。歩くことを意識していないのに、1万歩を軽くクリアしていることを思えば、これ以上健康的な場所はないような気さえする。ほぼ毎日ナイター開催が行われている東京暮らしであれば、1万歩の日がもっと増えていたに違いない。

Sonoda_20230530220201

それにしても、歩くことをこれほど意識する国はほかにあるのだろうか?

国土がこんなに狭いのに、鉄道の総延長も車の保有台数も世界屈指であり、そこかしこにエスカレーターや動く歩道が設置されている日本に住む我々は、おそらく世界でもっとも歩かぬ民族に違いあるまい。そう考えれば船橋法典駅から中山競馬場に伸びる動く歩道に乗ることも若干の躊躇いを覚える。

Kyoto1_20230530220201

ところで、朝から京都市内をせっせと歩き回った28日は別として、JRA開催日の歩数は概ね1万歩ちょいであるのに対し、船橋や園田では1万3千歩に達しているのは、我ながら意外な発見である。モニター設備が充実しているJRAでは、オッズからパドックから他場の中継に至るまで、様々な情報を自席にいながら確認することができる。それが微妙な歩数の減少に繋がっているのだろうか。利便性に優れることは決して良いことばかりではない。今週から関西は阪神に開催替わり。阪急電車に乗る機会も増える。それでも地下鉄梅田駅から阪急梅田駅に向かうあの長い長い動く歩道だけは、使うことを控えることにしよう。

 

 

***** 2023/6/8 *****

 

 

|

2023年6月 7日 (水)

顕彰馬・アーモンドアイ

今朝のスポーツ新聞各紙は、アーモンドアイが35頭目の顕彰馬に選出されたというニュースに大きく紙面を割いていた。

Shimbun_20230607214801

通算15戦11勝。2018年の牝馬3冠を始め、日本馬史上最多となる芝GⅠ9勝の実績からすれば当然の結果であろう。しかし昨年の投票では、アーモンドアイの祖父にあたるキングカメハメハと共に選出基準に8票足りず落選。大きな議論を引き起こした。ちなみにキングカメハメハは今年も落選。しかも昨年より票数を減らしている。登録抹消から20年以内という選考対象の規定から、残されたチャンスはあと一回。もし来年もダメとなれば、またぞろ物議を醸すに違いない。

かつてはエルコンドルパサーが同じような立場にあった。

凱旋門賞ではモンジューとの一騎打ちの末に2着と敗れたものの、国内外合わせてGⅠを3勝。特に4歳夏のサンクルー大賞制覇は、日本調教馬による唯一の欧州12ハロンGⅠレースの優勝として、その功績は四半世紀近くが経った今も日本競馬史に燦然と輝いている。

記者投票では最多得票の常連。だが、なぜかいつもほんの僅かだけ得票率が届かない。「エルコンドルパサー落選」のニュースは、この季節の風物詩になりかけた感さえあった。投票結果だけに頼る選定方法の見直しを求める声も上がったほどである。

だが、かつての選定作業は12人の有識者で構成される選定委員会の議論に委ねられていた。選定委員同士も顔見知りだから、遠慮や気遣いがないとは言えまい。選考過程がオープンにされるわけでもなく、ファンにとって分かりにくいという批判があった。

そこで2001年から、現在のような「キャリア10年以上の記者による投票で四分の三以上の得票」という基準が採用されたのである。選考過程は分かり易くなった反面、選定のハードルは高くなった。エルコンドルパサーせよアーモンドアイにせよ、かつての選定方式ならもっと早く顕彰馬に選ばれていたに違いない。

Eye

 

もちろん顕彰馬の安売りには反対だ。だが、大半のファンや関係者が選ばれるべきだと思っている馬が、長年選ばれずにいるようでは顕彰馬制度の存在価値にもかかわる。東京競馬場に行かれる方は西門近くの競馬博物館を訪れて欲しい。メモリアルホールに並ぶ34頭の殿堂馬たちは、そのまま日本競馬の歴史でもあることをあらためて実感する。

時間がある方は、ついでに博物館中庭の池も覗いてみよう。カルガモの夫婦と先週生まれたばかりのヒナたちが、馬券でささくれ立った来館者の心を、今年も和ませてくれている。長い長い東京開催も残りあと3週だ。

 

 

***** 2023/6/7 *****

 

 

|

2023年6月 6日 (火)

人生の問題

阪神が始まっていつもの週末が戻って来た―――。

Hanshin_20230606191901

先週土曜の阪神競馬場で思わずそう感じてしまったのは我ながら意外である。本当ならこの日は東京競馬の予定だったが、前日の大雨で新幹線がストップ。やむなく阪神に足を運ぶことになったわけだが、それはそれで悪い気はしない。

いつもの時間に家を出て、いつもの電車に乗り、仁川駅前でいつものうどんを食べてから競馬場に入り、いつもの新聞を買って、いつもの席に座り、いつもの景色を眺めながら馬券を買って、いつもの店で小腹を満たす。ついでにいつものように負けて帰ることも含めて、それらすべてに「やすらぎ」を覚えるようになった。大阪で暮らすようになって2年半。関西での競馬ライフがようやく身体に馴染んできたのであろう。

裏を返せば新装なった京都競馬場には、まだ馴染めていないということの現れでもある。春の開催6週12日間のうち実際に私が足を運んだのは4日間のみだったにせよ、利用した座席も食事を取った店もバラバラ。手探りのまま開催を終えてしまった。

広い競馬場の中でまる1日を過ごす「居場所」をどこに定めるかは、多くの競馬ファンひとりひとりが抱える共通の課題であろう。何年もかけてようやくココという場所を見つけた頃になって、スタンド改修が行われたりするから切ない。新スタンド完成を喜ぶ一方で、新たな居場所を探して彷徨う人たちの逡巡は今後しばらく続くことになる。

居場所と並んで大事なのが食事だ。土日続けて通っても飽きることのない安定したメニューを誇り、そこそこ安く、なおかつ競馬場ならではの店が欲しい。そういう意味で京都の新スタンドはやや期待外れだった。そもそも飲食店の数が少ない。今のところ「CoCo壱番屋」が暫定トップ。つまり「競馬場ならでは」ではない。それで競馬場外の海鮮丼のお店を覗いてみたりもしたが、それを「競馬場メシ」と呼ぶにはさすがに無理がある。京都競馬場の昼メシ事情は、今後大きな問題になりかねない。私は密かに危惧している。

Niku1

その点、阪神は良い。とくに西スタンド2階フードコートの「肉BAR HORUMON人」は、新鮮なホルモンやスジを使ったメニューが豊富な上、安くて、しかも旨い。この日はホルモン丼としたが、煮込みではなく焼いてあるところがミソ。ホルモンは様々な部位が使われており、ひとつひとつがとても美味い。これを食わないでどうするんだという気もするが、もうひとつの人気メニュー「肉吸い丼」も捨てがたいから困る。さらにショーケースには地元産の食材を使った様々なアテがずらり。泉州水なすは、まさに今が旬だ。

Niku3

居場所と食事は、競馬だけでなく人生における切実な悩みでもある。我々のような中高年ならなおさら。競馬が人生の比喩と呼ばれる理由は、案外こういうところにあるのではあるまいか―――なんて、昨日もそんなことを書いたばかり。競馬が人生の比喩たる所以は星の数ほどある。スタンド改修と聞いて寂寥感を覚えるのは、なにもノスタルジーの問題だけではない。ある意味においてそれが人生の問題だからである。

Niku2

 

 

***** 2023/6/6 *****

 

 

|

2023年6月 5日 (月)

勢いの3歳馬か歴戦の古馬か

おとといの阪神で注目が集まったのは世代最初の新馬戦となる5レースだけではない。その次に行われた6レースもある意味で注目のレースだった。たかが1勝クラスのダート1800m戦。しかし3歳馬たちにとっては、この日から年長馬相手の競馬が始まる。ダービーが終わっても彼らの競走生活が終わるわけではない。

注目の6レースは3歳馬に軍配が上がった。最後方からレースを勧めた3歳牝馬のコロンビアテソーロが直線一気の豪快な追い込みで差し切り勝ち。前走は末脚不発に終わっていたが、ペースが流れる古馬相手の方が競馬がしやすかったのかもしれない。ジャスタウェイの産駒。

6r_20230605194001

続く7レースは1勝クラスの芝マイル戦。圧倒的人気を集めたのは3歳牝馬のビヨンドザヴァレーだったが、それを後目に逃げ切ったのは3歳牡馬のフルメタルボディーだった。稍重で1分32秒9は速い。3歳馬が4着までを独占。

7r_20230605194001

続く8レースも1勝クラスだが今度はダートの1200m戦。逃げ込みを図る3歳牡馬リュウをゴール寸前で捉えたのは、やはり3歳牡馬のコパノハンプトンだった。1分10秒9とダートでも速い時計が出ている。3着ディキシーガンナーも含めて、ここでも3歳馬がメダル独占だからその勢いは止まらない。

8r_20230605194001

そして昨日の東京9レース。2勝クラスの芝2000m戦は、唯一の3歳馬ドゥレッツァが古馬を寄せ付けない圧巻の走りを見せた。このクラスで上がり32秒7の脚を使われては他はたまったものではない。

9r_20230605194001

以前であれば、この時季の条件戦は降級4歳馬の天下だった。しかし2019年に降級制度が廃止され、今では下級条件ほど勢いのある3歳馬が有利な傾向にある。フルメタルボディーの前走は毎日杯で、ドゥレッツァはサトノグランツに勝っていた。突然そんな相手と対戦しなければならない古馬たちに私は深く同情する。優秀な若手社員の突き上げを受ける中堅サラリーマンの悲哀にも似てやしないか。そもそも降級制度廃止はリストラ対策にほかならない。

しかし、そんな力関係が成立するのはあくまでも下級条件での話。安田記念に参戦した3歳馬2頭は、どちらも3歳馬同士ではチャンピオンだったのに14着と18着に沈んだ。上に行けば行くほど年長馬の壁は厚くなる。それもサラリーマンの世界と同じ。競馬が人生の比喩と呼ばれる理由は、案外こういうところかもしれない。

今週の函館スプリントSには3頭の3歳馬が出走する。GⅠでは難しくてもGⅢならば勝負になってもおかしくない。なにせ過去に行われた29回のうち5回を3歳馬が勝っているレースである。とくに昨年は3歳牝馬ナムラクレアの独走だった。

 

 

***** 2023/6/5 *****

 

 

|

2023年6月 4日 (日)

ディープインパクトと子と孫と

安田記念を前にした東京競馬場スタンドはもの凄い観衆で埋め尽くされた。あとで聞いたら、ダービーには及ばないまでも、オークスをはるかに上回る64638人が入っていたという。

16858848760600

だが10レースまではそこそこ空いていたのてある。レストランや売店の行列は土曜並み。馬券を買うために並ぶこともなかった。座席にも空席が目立つ。その原因を私は先週のダービーの影響と睨んだ。つまりベテランは燃え尽き、ライトファンは事故に怯えたのである。カレンダー的にはダービーが終われば夏競馬。ここらでひと息入れる頃合いであろう。

ところが、安田記念の出走各馬の馬場入りが始まると、スタンドは瞬く間に人で埋まった。この人たちはいったいどこにいたのか?

それはパドック。間近でソダシを見たい。メイケイエールの写真も撮りたい。写真集が発売されているアイドル2頭をひと目観たいというファンは開門と同時にパドックに陣取り、安田記念まで地蔵と化していたというわけ。その熱意には畏敬の念を禁じ得ない。

そんな向きには厳しい安田記念になってしまったかもしれない。レースする4番人気ソングラインが馬場の中央から堂々と突き抜けて優勝。GⅠ3勝目をマークした。

Song

ヴィクトリアマイルに続くGⅠ連勝も、安田記念の2連覇も、いずれもウオッカ以来の快挙。特にヴィクトリアマイルからの連勝はアパパネも、アーモンドアイも、グランアレグリアですら果たせなかったのだから凄い。それをGⅠホース10頭が顔を揃えた豪華メンバー相手に達成したのだから、なおさら価値がある。

ソングラインの父はディープインパクト直子のキズナだ。キズナは2013年仏ニエル賞を勝っているが、そのレースで2着に敗れたルーラーオブザワールドの手綱を取っていたのはR・ムーア騎手であり、管理していたのはA・オブライエン調教師である。そのコンビがエプソムダービーをオーギュストロダンで勝った。世界に12頭しかいないディープインパクト最後の産駒が世界最高峰のダービーを勝つなんて奇跡的ではあるが、ディープインパクトならさもありなんという気がしてならない。

ともあれオーギュストロダンのダービー制覇でディープインパクト産駒は13年連続でGⅠ制覇を果たした。初勝利は2011年桜花賞のマルセリーナだが、牡馬の初勝利は同年6月、リアルインパクトが勝った安田記念である。その手綱を取ったのは当時は大井所属だった戸崎圭太騎手だった。あれから12年。今度はJRA騎手として、そしてディープインパクトの孫の手綱を取って、再び安田記念を勝ったのだから感慨もひとしおに違いない。

Song2_20230604234601

ディープインパクトの話を書こうとすると、自然と海外の話題にも触れることになりがち。それだけディープインパクトが世界的存在であることの証であろう。キズナもリアルインパクトも海外で存在感を示した。ソングラインも秋には米国遠征が予定されているという。得意の左回り。偉大な祖父や父に並ぶ活躍を期待しよう。ソダシやメイケイエール推しの皆さんも、ブリーダーズカップで世界を相手に戦うソングラインをぜひとも応援してほしい。

 

 

***** 2023/6/4 *****

 

 

|

2023年6月 3日 (土)

西に輝く一番星

関西の競馬は開催替わり。今週から2歳競馬が始まり、3歳馬は古馬と対戦するようになる。すなわち夏競馬。雨上がりの仁川上空には夏の雲が浮かんでいる。

16857595077960_20230603173401

かつての夏競馬は、北海道が1週だけ先行する形をとってきた。それだけに新馬でイの一番に勝つ馬、すなわち世代の一番星も北海道組と相場が決まっていた。「北の一番星」という語感の良さも手伝って、スポーツ紙でも大きく取り上げられたものである。

2002年の夏競馬から函館、福島、阪神3場が揃って6月3週目にスタートすることになったが、それでも一番星は北の空に輝き続けた。3場とも初日の第4レースに新馬が組まれるが、発送時刻の差で函館の新馬がもっとも早くスタートするのである。枠入り不良などで発走遅れなどがない限り、イの一番が函館になるのは自明の理だった。

ところが2012年になると、ダービーの翌週から新馬がスタートすることになる。ダービーからダービーへの番組改編。この期に及んで一番星は西の空に移った。昨年、一昨年は開催カレンダーの都合で尾張の空だったが、今年は3年ぶりに一番星が仁川の空に輝くことになる。

3回阪神初日第5レースは12時15分の発走。世代のトップを切って行われた芝1600mの新馬戦を勝ったのは牝馬のテラメリタだった。勝ち時計1分36秒5は平凡だが、ペースや馬場状態を考えればやむを得まい。5頭立てとはいえ出走全馬が社台グループの生産馬というレベルの高い一戦で、後続を3馬身半突き放した内容は高く評価できる。一気呵成に逃げ切ったそのスピードに祖母エアトゥーレはもとより、さらにその母スキーパラダイスの姿まで重なって見えた。

5r_20230604234501

実は私、半世紀近いキャリアで世代最初の新馬戦を目撃したのはこれがようやく二度目。しかも阪神では初めてのこと。なにせ福島や東京では一番星を拝むことができないのである。だからと言って別に騒ぐほどのことではないかもしれない。そんな指摘はごもっとも。実際、15分後に府中に輝いた二番星の方がスケールは大きいように思える。

それでも勝負事である以上は「一番」にこだわりたい。1954年の中央競馬創立以後、一番星がクラシックホースになった例は、1982年の桜花賞馬・リーゼングロスただ一頭。しかし世代の一番星が阪神から誕生するようになってからは、レッドリヴェールやケイアイノーテックがのちにGⅠ馬の輝きを放っていることを忘れないでおきたい。さらにテラメリタは新種牡馬ブリックスアンドモルタルの一番星でもある。様々な意味で期待は大きい。西の空に光を放った一番星は、来春に同じ阪神のマイルで輝きを増すことができるだろうか。楽しみに見守りたい。

 

 

***** 2023/6/3 *****

 

 

|

2023年6月 2日 (金)

岐阜羽島探訪記

京都駅を出発して滋賀県内を走行していた「のぞみ390号・東京行き」が、彦根市付近でゆっくりスピードを緩め、完全に停車した。

駅ではない。米原駅はまだ先だ。というか、のぞみは米原駅には停まらないはず。いや、私が知らないだけで、中には停まるのぞみもあるのかもしれない。でも、とにかく停まったのは駅ではなく田んぼの真ん中。これはおかしい。

Tambo

ほどなくして社内アナウンスが流れる。三河安城〜豊橋間の雨量が規制値を超えた。それでしばらく運転を見合わせる。詳しくはJR東海のサイトを見ろという。

Jr

言われた通りにJR東海のサイトを見た。「遅れ」とは表示されているものの、「止まっている」とは書いてない。やれやれとため息をついてはみたものの、大雨を承知で新幹線に乗りこんだのはほかならぬこの私である。気の毒な車掌を責めるわけにもいかない。

のぞみ390号は岐阜羽島駅まで進行して、再び停車した。

Station_20230602223801

「岐阜羽島にのぞみが停まったゾ」

若干テンションが上がったが、扉が開いたのを見て我に返った。あらためて見れば下りホームに停車している新幹線も東京行きではないか。これはタダごとではない。つまり運転再開の見込みが立っていないということ。それで諦めて改札を出ることにした。

Ekimae

岐阜羽島駅で降りたのは初めてだ。なにせ東海道新幹線でもっとも何もないと呼ばれる駅である。一歩外に出てそれを理解した。土産物屋はおろかコンビニすらない。駅前探訪は1秒で終了。駅構内に戻るとオシャレな外観のコーヒーショップがある。その店「Artrain」は、落ち着きのある内装でありながら、これでもかとばかりにガンダムやザクの大きな模型を飾っているところが気に入った。静かな店内でザクを眺めつつコーヒーを飲んでいると、自らの置かれた状況を忘れそうになる。

Zaku

去年ならば、このまま岐阜に泊まったかもしれない。なにせ明日の鳴尾記念は中京での開催だった。しかし今年は阪神に戻る。それを「残念」と言ったらバチが当たりそうな気もするが、そう思ってしまったことは否定できない。そんなことをぼんやり考えるうちに臨時の新大阪行が出るとのアナウンスか流れた。ふんじゃぁ大阪に戻るとするか。園田のメインに出走するハナブサの応援にでも行こう

Artrain

台風2号と梅雨前線がもたらす大雨は新幹線を止めただけでなく、浦和、高知、園田の競馬開催をも流した。もちろんハナブサが出走予定していた初夏特別も取り止め。代替開催もない。不謹慎な話だが、そこに至ってようやく「被災」を実感。そう思った途端、ずしりと疲労感が押し寄せてきた。ほとんど座っていただけのはずなのに。

その後「のぞみ390号」は7時間遅れで名古屋駅に到着。そこで運転打ち切りとなったという。あのままジッと座り続けていたら果たしてどうなっていたか。車内にはまだ大勢の乗客が座ったまま運転再開を待っていた。今後は岐阜羽島駅を通するたびに、照明に照らされたあのザクを思い出すに違いない。

 

 

***** 2023/6/2 *****

 

 

|

2023年6月 1日 (木)

鳴尾競馬の記憶

プロ野球は阪神タイガースが絶好調。5月は3連勝、7連勝、9連勝と、とにかく負けなかった。これなら阪神ファンの皆さんは安心して甲子園に行くことができるのではあるまいか。6人の先発投手がいずれもエース級の活躍をしているのだから、序盤に試合が壊れることもない。

その甲子園球場から南に向かって10分ほど歩いたあたりに、武庫川女子大付属中学・高校のキャンパスが広がっている。その一角に立つ「芸術館」と名付けられたレトロな建物は、90年近く前に完成したとある建物をリノベーションしたもの。実は明治から昭和の初期まで存在した鳴尾競馬場の観覧スタンドにほかならない。

Naruo_20230601074701

この地に競馬場が造られたのは1907年。しかし、翌年には馬券禁止令が発令され、できたばかりの競馬場はいきなり試練を迎える。1917年からは全国高校野球選手権大会の試合会場としても使われた。甲子園と鳴尾競馬のつながりは実は深いのである。しかるのちに安田伊左衛門らの尽力により1923年に競馬法が成立。晴れて馬券が解禁されると競馬場はかつての賑わいを取り戻し、新スタンド建設が急務となった。

現在にその姿を残す新スタンドが完成したのは1935年のこと。芸術館は当時のコースに沿って建てられた細長いスタンドの一部で、現在と同じ5階建て。館内には豪華な貴賓室やエレベーター、水洗トイレも設置されていたという。いまで言うなら京都競馬場の新スタンドにも匹敵する先進的な建物だったに違いない。

一方、時局は戦時色をますます強めつつあった。1923年に競馬法を制定することができたのは、そもそも軍馬の振興を狙う陸軍省馬政局の後押しがあったからにほかならない。戦局の悪化に伴い、1943年に競馬場は接収され飛行場となった。豪華なスタンドは黒く塗り替えられて管制塔として使われることになる。甲子園球場も戦争継続のために球場のシンボルであった大鉄傘を供出させられた。野球ファンや競馬ファンがそれぞれの夢に熱狂した鳴尾の街に眠る大事な記憶を、我々は忘れてはならない。

新スタンド竣工の3年後には第1回オークスがこの鳴尾競馬場で行われている。当時は秋の芝2700mだった。芸術館は競馬史に残る数々のレースを観てきたことになろう。今週末の安田記念は「競馬法100周年記念」の副題が付く。その立役者となった安田伊左衛門の名を冠したレースなのだから当然と言えば当然。その一方でで、前日に行われる鳴尾記念に競馬法100年の歴史を感じるイベントが無いのは―――そのレース名に込められた意味を思えば―――少し残念な気がした。

 

 

***** 2023/6/1 *****

 

 

|

« 2023年5月 | トップページ | 2023年7月 »