« 2023年4月 | トップページ | 2023年6月 »

2023年5月31日 (水)

東京の大阪うどん

先週月曜日に田町に行ったので、駅近くのうどん店「むねひろ」に立ち寄ってみた。東京には珍しい浪速かすうどんを謳う一軒。かすうどんについてはこのブログでも何度も紹介しているし、先週の「ケンミンショー」でも取り上げられていたから知る人も多いと思うが、敢えておさらいさせていただく。

Mune

「かす」の正式名称は「油かす」。大阪の南河内地方で古くから食されていた郷土料理で、実際には牛の腸を時間をかけて、じっくり揚げたもの。揚げることで余分な油が抜け、肉の旨味が凝縮される。これが透明な関西風のうどんダシに見事にマッチする。残念ながら関東の黒いツユには合わない。これがかすうどんを関西ローカルに押し留める大きな理由のひとつであろう。

「かす」という呼び名でありながら、実は牛一頭から2キロほどしか取れない希少部位。そのため印象の割に意外と値が張る。しかし、大阪の人たちはかすを入れたダシこそ日本一と言って憚らない。ちなみにこちらの「むねひろ」の店名は鈴木紗理奈さんの本名に由来する。店内には「めちゃイケ」を連想させる貼り紙などもあって楽しい。

翌火曜日は川崎へ。昼メシに選んだのはラゾーナ川崎内に店舗を構える「釜たけうどん・めっせ熊」。いずれも大阪で行列ができる「釜たけうどん」と、お好み焼きの「めっせ熊」がここ川崎で融合した。この一軒で大阪の粉もん文化を思う存分味わうことができる。

「釜たけうどん」の代名詞がこの「ちく玉天ぶっかけ。「大阪讃岐うどん」ブームの火付け役となった一杯でもある。幅7ミリはあろうかという極太麺は弾力に富んでいながら、噛み応え抜群。この食感こそが「釜たけ」の醍醐味だ。この太さゆえ茹で時間は20分を超える。しかし行列の絶えない店で客を10分以上も待たせるわけにはいかない。たどりついたのは客の有無にかかわらず、数人分ずつをゆで続ける手法。もし客足が途切れると麺は無駄になるが、そうはならないところがこの店の凄さ。こうすることで角が半透明になる絶妙のタイミングで提供することができる。

Kamatake

大阪に住んでいながら、東京に行ってわざわざ大阪名物を食べたというのもおかしな話。でもそれが食べたかったのだから仕方ない。結局は旨いものを食べたいという単純な欲求が勝ったということだ。

 

 

***** 2023/5/31 *****

 

 

|

2023年5月30日 (火)

山盛りの美学

先日、鳥羽街道駅から藤森のうどん屋さんを目指して歩いていたところ、途中に一軒の天ぷら屋さんを見つけた。その屋号につられて思わず入ってしまったのである。

Tenei1

その名も「天えい」。競馬ファンならこれは入らぬわけにはいくまい。いつもは「しがらき」を使うはずの堀調教師なのに、タスティエーラは皐月賞2着のあと「てんえい」へと放牧に出されて結果を出した。そこにいったいどんな秘密が隠されているのか。自分の眼で(舌で?)確かめてみよう。

どうやら天丼が人気らしい。丼物は迷わず大盛を頼むクチである。それで天丼・大盛をオーダー。しかるのちに、なんとも素晴らしいビジュアルの一杯が運ばれてきた。

Tenei2

たくさんの天ぷらたちが折り重なるように山盛りに配置されているではないか。視認できるタネはエビ、大葉、カボチャ、海苔、椎茸、シシトウ、タマネギなど。これらをかき分けて進むとようやく白メシが顔を出す。ちょっとでもミスれば、天ぷらが丼からこぼれてしまう。食べるのが難しいが、これほど楽しい難しさもほかにあるまい。これが「てんえい」の秘密か。

Totoraku1

そしたら京都競馬場のお膝元。淀駅近くにも似たような丼を出す店があった。「似たような」というのは、具在がこぼれそうになるという意味。淀駅の競馬場とは反対側の改札口を出て歩くこと1分。「魚楽(ととらく)」は美味しい海鮮丼を安く食べられると評判の一軒で、土日も営業していることから開催日は競馬ファンも訪れて行列ができることもある。

Totoraku2

ポイントはタネがこぼれんばかりに山盛りされたこのビジュアル。まるで漫画に出てくるような一杯にテンションは上がるが、いざ食すとなるとこれがまた難しい。写真はトロたく丼。これにそのまま醤油をかければ丼外に流出する恐れがある。食べ方の難しさという点では、丼というよりはかき氷に近い。ともあれ「山」の崩し方さえも楽しんでしまうことが、こうした山盛り丼の醍醐味のひとつであろう。

そういえば、京都競馬場内にも美しい山盛り丼を提供する店があった。

Yoshi1

それが吉野屋の「肉増し増し最強パワー丼」。このポスターの絵ヅラにしばし見とれた。なんという美しいフォルムであろうか。まさに肉の山。その頂から丼の淵へと広がる稜線は富士山を彷彿とさせる。通常の大盛弁当700円にプラス350円でこれが食べられるなら出しても良い。さっそく注文。期待に胸を躍らせて蓋を開けたらこんな感じ。

Yoshi2

あれ?

ちょっと違うな。。。

まあ、よくよく考えたらあくまでも「持ち帰り弁当」なので、提供時に蓋をされてしまうのですよ。それで肉がギュッと押し潰されてしまうのである。そうは言っても、肉の量はポスターに比べれば明らかに少ない。この手のポスターを鵜呑みにしてはいけないという好例であろう。肉を丼メシにかける回数が増えるので、結果的に「つゆだく」になることも特記しておきたい。ともあれ「いくら肉を食べてもまったく肉が減らない」という夢のシチュエーションは堪能できた。今週から阪神開催。仁川界隈にも山盛り丼を出す店はあるだろうか。

 

 

***** 2023/5/30 *****

 

 

|

2023年5月29日 (月)

5月の梅雨入り

早くも梅雨入りでござる。

気象庁は今日午前、九州北部から東海の各地方で梅雨入りしたとみられると発表した。近畿地方としては平年と比べて8日早く、5月の梅雨入りは10年ぶりだという。だが競馬ファンの感性からすれば、キズナのダービーはさほど遠くにも感じない。

Kizuna_20230529230801

でも「ちょっと待てよ」と思った。たしか一昨年も同じようなことがあったはず。たしか5月16日に近畿地方の梅雨入りが発表されてちょっとしたニュースになった。なにせ1951年の統計開始以来、史上最も早い梅雨入りである。1951年と言えばトキノミノルがダービーを勝った年。70年間無かったことが起きた。しかし競馬ならそれも起こり得る。なにせ69年ぶりに「テン乗り」での日本ダービー制覇が起きたばかり。しかしそれが気象現象となると、ちょっと心配にはなる。

しかしこの年の梅雨が終わり、夏も盛りを過ぎた9月になって大阪管区気象台から驚きの発表があった。梅雨入りの時期を修正する発表で、近畿地方で「観測史上最も早い」とされた5月16日の梅雨入りは「幻」で、実際はおよそ1か月遅く、ほぼ平年並みの6月12日だったことが分かったという。

梅雨入りは前後の天気と、その後1週間の予測などから判断する。後に修正することはあるが、1か月もずれるのは記録の残るこの20年で初めてだそうで、気象台職員は「経験則が通じない状況が増えた」とぼやいていた。しかし競馬では20年に一度のことなど珍しくもない。ダミアン・レーン騎手は2003年のミルコ・デムーロ騎手以来20年ぶりとなる短期免許でのダービー制覇を果たしたばかりだ。

Neo

ともあれ今年は桜も早かった。全国各地で統計開始以来最も早い開花を更新。4月には東京で早くも真夏日を記録し、5月としては異例の「猛烈な」勢力にまで発達した台風2号は、ゆっくり沖縄に近づきつつある。すでに気象的には記録づくめの年なのだから、5月に梅雨入りしてもおかしくはない。

梅雨とは「春から夏に移る時期、その前後に比べて雨と曇りが多くなる季節現象」と定義される。気圧配置や降水量、気温などの基準があるわけではない。だから、梅雨入りの発表についても気象庁として「宣言」という言葉を使ったことはなく、あくまでも情報の提供という立場だが、それを受け取る側が「宣言」だと思い込んでいるフシがある。この辺の事情は「桜の開花宣言」の誤用にも近い。季節感をことさら大事にする日本人ならではであろう。

客観的な基準がないのなら、いっそ「桜の開花」とか「梅雨入り」といった発表などやめてしまってはどうか―――。

そんな意見も少なくはないが、百貨店の売り場展開やCMの差し替えなどに影響するとして、なくなっては困るという声の方が大きいらしい。梅雨入りの日は除湿グッズが、そして梅雨明けの日はビールがよく売れるというのも業界の常識になっている。

お上の声に生活感覚までコントロールされてしまう姿はいかにも日本人らしいが、それでも競馬ファンは強かだ。梅雨に入ったからと言って盲目的にステイゴールド産駒を追いかけたりはしない。信じるべきはキャリアに裏打ちされた己の記憶と感性のみ。69年ぶりの出来事が起きても、徒に驚いたり嘆いたりするのではなく、素直にそれを受け入れてただちに脳内をアップデートする。その潔さこそが、生きていく上で大事な役割を担うように思えてならないのである。

 

 

***** 2023/5/29 *****

 

 

 

 

|

2023年5月28日 (日)

初めての安土城S

朝から京都を歩いた。

インバウンドが復活して以前のような勝手気ままな街歩きは難しくなっている。京阪沿線で言うと伏見稲荷、祇園、蹴上界隈は絶望的な人だかり。そのほかのエリアでも日曜の昼間は満足に歩くこともできない。なので、早朝のマイナーエリアに狙いを定めて歩いている。その散歩の最後に藤森神社を訪れた。

Dsc_5456

名物の紫陽花の見頃はまだ先。ついでがあったわけでもない。しかし今日は泣く子も黙るダービーデー。「馬の社」を謳う藤森神社を参拝するのはむしろ自然の行動であろう。かつてはダービー当日の朝に大国魂神社に参拝することを年に一度のルーティンとしていたが、京都ならここであろう。幸い紫陽花もチラホラ咲いている。

Dsc_5447

むろん競馬の神様に祈るのは己の馬券的中などではない。それはダービーに出走18頭と18人の無事。私は基本的に神仏に頼ることはしないが、自分の力でどうにもならないことについては遠慮なく神仏にすがることにしている。ちなみにこちらの神社にはご覧のような自販機も。商品を買うと馬のいななきが聞こえる。それを知らない外国人がひとしきり驚いていた。ここは馬の神社なのですよ。

Dsc_5448

参拝を終えて淀へ移動。関西に来て3度目のダービーデーだが、当日に京都で開催があるのはこれが初めて。「裏有馬」「裏JC」はすでに経験済だが、「裏ダービー」の経験はない。それにしても安土城Sや白百合Sをナマで観る日が来るとは思わなかった。そもそも安土城Sは中継でも観たことがない。なにせ安土城Sは15時15分の発走。東京はダービー出走各馬がパドック周回中で、ぼちぼち騎乗命令がかかる頃合いである。そんなタイミングで他場の中継など観ている余裕はない。

人気はソダシの妹・ママコチャ。マイル重賞で2戦続けて人気を裏切った格好の馬が1400mでどうかと思ったら驚くほどの圧勝だった。抑えきれない手応えで最終コーナーを回ると、直線に向いて早々と先頭。そのまま一気に後続を3馬身も突き放した。勝ち時計も1分19秒0と速い。過去に同じ時計でここを勝ったウリウリは、その勢いのままCBC賞を制した。同じ勝負服のママコチャにも溢れるスプリント能力が秘められているに違いない。

10r_20230528233201

そのままターフビジョンでダービーも観戦。京都でもファンファーレの手拍子が東京と同じように沸き上がることに驚かされた。ドゥラエレーデの落馬による悲鳴で始まったレースは、直線に向いてスタンドの絶叫がピークを迎える。タスティエーラが抜け出した。内で粘るベラジオオペラ。馬群をこじ開けるソールオリエンス。でも先頭には届きそうもない。タスティエーラが勝った。どよめきが上がる。無敗の2冠は消滅。テン乗りが勝ったぞ。3着はなんだ? スローを見てまたどよめく。

スキルヴィングのことを知ったのはずいぶん後になってからだった。ターフビジョンはそこまで映してくれない。悲劇は場所と相手を選ばないものだが、よりによってダービーで有力馬にこんなことをするなんて、競馬の神様もずいぶんひどいことをなさる。私の午前の行動が逆にいけなかったのか。そんなことを考えないでもない。初めての京都でのダービー観戦は微妙な記憶を私の脳裏に刻み付けてしまった。誰もが期待するような結果が出るはずもないのが競馬。多くのファンはそれを分かっている。急性心不全を発症しながらルメール騎手を落とさなかった彼に敬意を表したい。

 

 

***** 2023/5/28 *****

 

 

|

2023年5月27日 (土)

これが私の生きる道

ゲートが開いて一拍置いたその瞬間、スタンドがドッと沸いた。

先週のオークスの話ではない。今日、京都で行われた葵Sでのこと。観客が沸いたのはモズメイメイがフライングと見紛うばかりの抜群のスタートを決めたから。スプリント路線で結果を残してきた馬が一同に介する一戦である。ほかにも速い馬はたくさんいるし、逃げ宣言をしている陣営も他に何頭かいた。それでもゲートが開いてわずか1秒で3馬身もリードされては、おとなしく控えるしかない。この瞬間モズメイメイの勝利は決まった。

葵Sは3歳馬による一戦でその距離は1200m。明日の日本ダービーの半分の距離で行われる。今日の出走馬の中には、明日のダービーを夢見た一頭もいるに違いない。それでもスプリントで生きていくと決めた18頭である。彼らにとっては、ある意味ダービーにも匹敵する舞台。逃げるモズメイメイ、迫るビッグシーザー。その2頭の間に割って入らんとするルガル。逃げ切り決着の割には、直線の攻防は見ごたえがあった。

Yutaka_20230527193001

勝ち時計1分07秒1は葵Sレコード。それどころか古馬も含めて今年行われた芝1200mでもっとも速い。しかもモズメイメイが自らが刻んだラップで記録したところに価値がある。「初めて乗ったときから、先々はスプリントだと思っていました」と言う武豊騎手は、モズメイメイがマークした4勝のうち3鞍で手綱を取っている。しかもすべて逃げ切り。モズメイメイが選んだ道は間違っていない。

厩舎と勝負服。豊かなスピードに任せた圧倒的な逃げというスタイルのおかげで、今日の勝利にかつての韋駄天女王・モズスーパーフレアを重ねたファンも多かったようだ。音無調教師の口からは「スプリンターズS」の言葉が聞かれた。時計的には足りている。逃げてしぶといレシステンシアも引退した。モズメイメイが一気に天下を取ることはあるのか。秋の大舞台が待ち遠しくなる今日の勝ちっぷりだった。

Kyoto_20230527193001

さあ、明日はいよいよ大一番。今週は東京に行く予定はないが、それでもダービー当日は体調万全で迎えたい。今日はまっすぐ帰ってさっさと寝よう。

 

 

***** 2023/5/27 *****

 

 

|

2023年5月26日 (金)

ライバルの壁を超えろ

ナイター開催の園田競馬場はまもなく9レースの発走を迎える。3歳限定の1870mということは来月の兵庫ダービーと同じ条件。ダービーを意識する陣営であれば、ここはきっちり勝っておきたいところであろう。

ビキニボーイはJRAデビュー。昨年8月20日の札幌で芝1800mを勝ち上がっている。このレースはちょっと話題になった。梅田厩舎でビキニボーイを担当していた寺田義明助手と田中一征厩務員は、もともと伊藤雄二厩舎に所属していたが、その希代の名伯楽は8月17日に亡くなったばかり。そのわずか3日後に行われた、3場開催での一番最初のレースを勝ったのだから、誰もが天国の伊藤雄二氏に思いを馳せたのも無理はない。何かしら不思議な力を感じる、と皆が口を揃えたあのレースを勝ったのがビキニボーイだった。

その後、ビキニボーイは札幌2歳Sや京都2歳Sを転戦したがJRAでの2勝目が遠く、今年2月に園田へと移籍。以後当地で3勝を上げる活躍を見せているが、重賞となるとその厚い壁に阻まれている。中でもベラジオソノダラブの壁はことのほか厚く、兵庫ユースカップで0.4差、菊水賞で0.8差。兵庫チャンピオンでは0.3差と、ことごとく跳ね返されてきた。ダービーでの逆転を狙うなら、こんなところで負けるわけにはいくまい。

B_boy

レースは圧巻だった。道中は3~4番手を追走。向こう正面で一気に仕掛けて外から先頭に立つと、このスパートについて行ける馬はいない。あとはひたすら後続を離す一方。結局は2着に「大差」を付けて先頭ゴールを果たした。重賞戦線で揉まれてきた力は一枚上だ。

2分04秒7の勝ち時計は8着に敗れた前走の兵庫チャンピオンシップの走破時計とまったく同じ。これをどう見るか。上がりは前走が40秒6で、今回は39秒9。もちろん勝った時計だから今回の方が中身は濃い。

これで園田転入後7戦4勝となったが、負けた3戦はいずれも重賞でいずれもべラジオソノダラブに敗れたもの。重賞の壁にベラジオソノダラブの壁。厚い壁を打ち破るためにダービーで特別な作戦を用意しているかもしれない。最近はそういうここ一番に賭ける大勝負がめっきり減った。高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちイイもんなのだから、まだ限界なんて認めちゃいないはずだ。そうミスチルの桜井さんは歌っている。

9r_20230526214401

もちろん競馬だから単純な時計の比較で勝ち負けが決まるわけではない。ビキニボーイにとってはもう一頭の有力馬・スマイルミーシャの出方も気になるところであろう。その答えは来月13日に出る。

 

 

***** 2023/5/26 *****

 

 

|

2023年5月25日 (木)

最終レースは目黒記念

ここ数年、目黒記念を観たという記憶がない。最後となったのは2005年のオペラシチー。手綱を取ったのは佐藤哲三騎手で、勝ち時計の2分29秒8は当時のコースレコードだったはず。そこまで覚えているのは、目黒記念が単なるGⅡに留まらぬ特別なレースだと思っているからだ。

Opera_20230523211101

だが、この翌年から目黒記念はダービー当日の最終レースに行われるようになる。2011年に被災地支援競走実施のためにダービー前日にスライドされたことを除けば、ダービー当日の最終レースという立ち位置に変わりはない。既に18年が経過したと思えば、JRAとしてはそれを変えるつもりもないのであろう。

なんてネガティブな思いを書き連ねているが、誤解のないように書いておく。私は目黒記念をダービー当日に施行することは大賛成である。ただ最終レースに行うことに違和感を感じているのである。

ダービーが終われば競馬場を後にするファンは少なくない。私もその一人。ダービーはこの一日のメイン、いやこの一年のメインと言っても過言ではなかろう。ゆえにダービー後に競馬を観る余力など残っていない。残っているのは帰宅するわずかな体力のみ。さらにダービー当日の府中本町駅の混乱ぶりは焼結を極める。入場規制が行われることもしばしば。わずかに残された体力が入場規制を前に尽きてしまう恐れもある。なにせ私はコロナが始まる数年前まで、ダービー翌日に原因不明の高熱を出して寝込むのが常だった。

私は目黒の競馬場を知る世代ではない。だが、幼少期を目黒区で過ごした私にとって、目黒記念は誇るべきレースであった。古くは野平祐二が自身の騎手引退を勝利で飾り、脚の骨にボルトを入れたヤマニングローバルが奇跡の復活を果たし、ステイゴールドが夢にまで見た初めての重賞タイトルを獲得したレースである。グレード制導入に際してはGⅠ格付けも検討された。そんな栄えあるレースが、施行時季や出走条件をころころ変えられた挙句、最終レースに固定化されつつある。目黒記念に対する敬意が足りないと言われても仕方あるまい。

最終レースには帰途につくファンの混雑緩和を図るとともに、メインで負けたファンに「最後のひと勝負」を提供するという役割がある。目黒記念をダービー当日にやるな、と言うのではない。混雑緩和や一発逆転の勝負のために使われることが、どうも納得いかないのである。

目黒記念が創設されたのは今を遡ること91年も前のこと。ダービーの前身「東京優駿大競走」と同じ年だが、月日まで比較すれば6日間だけ目黒記念の方が早い。ならば、それに倣って目黒記念をダービーの前に行えないものか。9もしくは10レースに目黒記念。そして11レースに日本ダービー。それならもっと大勢の観客が目黒記念を観るはず。前年のダービー馬が出走してきたりすれば、ファンの熱狂的ぶりは単なるGⅡのレベルに留まるまい。本来の目黒記念にはそれだけの価値がある。

 

 

***** 2023/5/25 *****

 

 

|

2023年5月24日 (水)

節目のダービー

今年、日本ダービーは90回の節目を迎える。

なんでも、10年ごとの節目のダービーではずっと1番人気が勝っているらしい。オークス当日、最終レース終了後にパドックで行われたトークショーで本郷奏多さんがそうおっしゃってた。実力派若手俳優でありながら、休日には家に籠ってダビスタをやり込み、ステイヤーズSやアイビスサマーダッシュでプレゼンターを務めるなど競馬に一家言お持ちの方である。1番人気が予想されるソールオリエンスにとってはありがたい言葉であろう。

 第10回 セントライト(3冠馬)
 第20回 ボストニアン(2冠馬)
 第30回 メイズイ(2冠馬)
 第40回 タケホープ(2冠馬)
 第50回 ミスターシービー(3冠馬)
 第60回 ウイニングチケット
 第70回 ネオユニヴァース(2冠馬)
 第80回 キズナ

さらに調べてみると、過去8回の節目のダービー馬のうち、実に6頭がクラシックのタイトルを複数獲得している。もはやソールオリエンスの2冠は決まったようなものか。

70

例外は第60回のウイニングチケットと第80回のキズナ。だが、そうかといってこの年のダービーが凡戦だったかと言うと、決してそんなことはない。

60_20230523204101

いや、むしろ逆だ。第60回は柴田政人騎手が悲願のダービー制覇を成し遂げたことで、人ばかりがクローズアップされた感のあるダービーだが、馬の方も史上稀に見るハイレベルなメンバーだった。ダービー出走18頭のうち重賞ウイナーは15頭(※ダービー後の成績を含む)。そのタイトルの合計は、GⅠ6勝を含む全31勝である。ダービー出走を果たしながら、条件馬のまま現役を終える競走馬が珍しくない中、この数字は凄い。

3歳クラシックでは「3強」の構図が形成されることも多いが、3強が皐月賞、ダービー、菊花賞のそれぞれで上位争いを繰り広げ、しかもそれぞれが1冠ずつを分け合う結果になることは滅多にない。そういう意味では、この年は「ウイニングチケット、ナリタタイシン、ビワハヤヒデの3強が3冠を制した」とも思える。

80

第80回はキズナとエピファネイア、そして武豊と福永祐一。名馬2頭、名騎手2人による歴史的な叩き合いだった。キズナもエピファネイアも種牡馬として成功していることを思えば、このダービーが持つ意義は計り知れない。いずれにせよ週末のダービーは必見。競馬場に入ることが許された方は有難味を噛み締めよう。

 

 

***** 2023/5/24 *****

 

 

|

2023年5月23日 (火)

安田伊左衛門の理念

昨日の続き。

第1回日本ダービーが行われた目黒競馬場は、その敷地わずか1万坪。しかも、その大部分は借地であり、返却の期限が迫っていた。加えて地元からは「競馬場が町の発展を妨げている」として、競馬場排除論が沸き起こる有り様。ダービー創設の当時、競馬場の移転は急務の課題であった。だが、それが一躍24万坪の大競馬場構想へと飛躍したのは、日本競馬の父とも称される安田伊左衛門の、「サラブレッドは大きな馬場で自由闊達に走らせたい」との理念の現れにほかならない。

Yasuda1_20230521213401

移転先選定に先立ち、安田は新競馬場の要件として次の6点を掲げた。

 ・土地の広大なこと
 ・交通の便利なこと
 ・良質の草が採草できること
 ・水質の良好なること
 ・物資の供給を受けられること
 ・警察署並びに役所の所在地なること

これに手を挙げた候補地は実に百箇所以上。そこから数十箇所を選定し、実地調査を行った。特に暴風雨や出水の時を選んで出掛けたのも、氏の理想に適う競馬場を造りたい一心からであろう。候補地を他人に悟られないために、家人にも行き先を明かさず、尾行にも常に気を配っていたというから、苦労のあとが偲ばれる。

その結果、東京府下北多摩群府中町・大國魂神社下の24万坪を候補地として選定した。多摩川に近く、その水質は競走馬の飲料水に最適であり、また多摩川の土手には青草が豊富に生えているなど好条件に恵まれていた。

ところが、競馬場が完成してついに競馬開催にこぎ着けると、馬場が広大過ぎて双眼鏡がないとレースが見えないと非難が起きる。むろん、安田としてもファンの気持ちが分からないでもなかったが、それ以上に競走本位の理念を貫いた。その思いが通じたのであろう。次第に沸き上がる賛美の声に、些細な非難はかき消されることとなる。

Yasuda2_20230521213401

東京競馬場内の競馬博物館では特別展「競馬法100周年記念・競馬法と安田伊左衛門」が開催中だ。こうした東京競馬場のあゆみも展示されているからぜひ足を運んでいただきたい。その東京競馬場がもっとも熱く盛り上がる日が、今年もやって来る。コロナ禍を乗り越え、多くのファンが直接その檜舞台を観ることができる幸せを噛み締めよう。その建設に心血を注いだ安田伊左衛門は、今もパドック脇から出走馬たちをそっと見守っている。

 

 

***** 202305/23 *****

 

 

|

2023年5月22日 (月)

第1回ダービーの面影

4週続けて東京競馬場に通い詰めているが、大阪暮らしをやめたわけではない。たまたま用事が重なっただけ。おとといは目黒に出向いたついでに元競馬場界隈を歩いてみた。ご存じの通り、第1回目の日本ダービー(東京優駿)が行われた由緒ある土地。いまは目黒記念にその名を残している。ダービー当日に目黒記念が行われるのは、そんな縁があればこそだ。

競馬場の跡地は既に宅地化されおり、その痕跡はほとんど残されていない。競馬場の余韻を現代に伝えるのは、不自然にカーブした路地と「元競馬場前」というバス停の名前だけだ。

Bus_20230521213401

まだ農村地帯だったこの地に、競馬場が姿を現したのは1907年のこと。コースは一周1600mの芝コースと、内馬場をクロスする障害コースがあるだけで、府中に比べるとかなり狭い。ちなみに府中とは逆回りの右回りコースだった。

Meguro_20230521213401

ダービーのスタートは向こう正面の右奥、3コーナー手前にあった。スタートして150mほどで3コーナーに飛び込むコース形態からすれば内枠の有利は動かぬであろう。第1回優勝のワカタカは最内1番枠からの逃げ切り勝ちであったという。

そのワカタカの父でもあるトウルヌソルの銅像を、現在の目黒通り元競馬場バス停の近くに見ることができる。6頭の日本ダービー優勝馬を送り出したのは、ディープインパクトの7頭に次ぐ2位タイだ。

Bronze_20230521213401

トウルヌソルの銅像から目黒通りを挟んだ反対側、大きな肉まんで有名な「目黒五十番」の奥は、かつては厩舎が並んでいた。手狭だったことから、2キロも離れた碑文谷に外厩を作ってどうにか凌いでいたが、関東大震災直後から周辺の宅地化が進むにつれて、悪臭や騒音の苦情が出るうようになったという。さらに、競馬開催日には港区魚藍坂から権之助坂を経て競馬場までびっしりと車列が連なり、鉄道もマヒしてしまうなど、競馬そのものが社会問題化し始める。競馬場の移転問題は急務だった。

府中への移転後、その跡地は戦時中の食料確保のためジャガイモ畑に転用されたという。華やかな勝負服がファンを熱狂させた競馬風景から一転、真っ白なジャガイモの花が一面に咲き誇る光景はさぞや壮観であったことだろう。

 

 

***** 2023/5/22 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月21日 (日)

美しい2秒間、衝撃の143秒間

「一瞬の静寂の中、イングランドアイズ入りました」

「態勢完了……」

「スタートしました!」

Start_20230521185101

場内実況アナウンサーのその言葉から一拍置いた次の瞬間、待ってましたとばかりに大歓声が上がった。東京競馬場に訪れた45184人のファンの多くは川田将雅騎手のメッセージをちゃんと覚えていたに違いない。ファンファーレで盛り上がったのもつかの間、嘘のような静寂が訪れた。思い返せば、ファンファーレに合わせての手拍子はいつもの光景だったのに、掛け声は無かったように思う。競馬ファンも捨てたものではない。その時点で私は少しばかり感動していたと思う。

しかし、それを上回る感動は2分23秒後に訪れた。つい先日「オークスは接戦のイメージが強い」とここで書いた我が身にとって6馬身差は衝撃でしかない。黎明期のオークスには大差決着もあったが、グレード制導入後はジェンティルドンナなどが記録した5馬身が最大着差。それを上回るのだから凄い。しかもどちらも川田騎手の手綱だ。その川田騎手は、抜け出してからも意図的にしっかりと追ったという。桜花賞のレース後よりも馬は疲れていたようだが、とはいえ無理を強いたわけではない。2400mをしっかり走り切った今回の経験が、彼女の今後に繋がるはずだという。

Oaks_20230521185101

サンデーレーシングの吉田俊介代表も、まずは秋華賞で3冠をしっかり達成したいとしながらも、来年の海外遠征についての言及も忘れなかった。騎手もオーナーもずいぶん先を見据えている。つまりそれだけの素質ということか。オークスも秋華賞も彼らの中では通過点なのだとしたら、つまらぬアクシデントには見舞われては元も子もない。川田騎手の異例の「お願い」の裏にはそんな思いもあろう。

Oaks2_20230521185101

あまりの強さに「ダービーに出てほしかった」という声もあちこちから聞こえた。それだけ観る者に衝撃を与えたという証左。私自身、ダービーに出ても好勝負になった可能性は否定しないし、ソールオリエンスとの勝負も観てみたい。しかし、それはまだ早いと考えるのが正しいようだ。関係者の皆さんは日々様々なことを考えて考えて考え尽くして馬と向き合っている。我々もそれを信じて競馬に向き合おう。ゲート入りの際の静寂はファンと関係者の信頼が紡ぎ出した美しい2秒間だった。

 

 

***** 2023/5/21 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月20日 (土)

ネオユニヴァース最後の大物へ

東京競馬場の上空は雲に覆われてはいるものの雨は降っていない。ずっと続いていた雨競馬からもどうやら解放されそうだ。土曜の競馬を楽しみつつ、明日の大一番のために芝の状態も見極めておきたい。

Tokyo_20230520215101

メインは古馬オープンのメイS。D・レーン騎手のサクラトゥジュールが好位の内ラチ沿いからするする抜け出すと、軽快に逃げる横山典弘騎手のマテンロウスカイの外から馬体を併せて、追い比べをクビ差制した。7番人気の伏兵扱いだったのは東京新聞杯の14着が響いたせいか。とはいえ、その前はリステッドで2戦続けて2着だから悪くない。なにせ堀厩舎。しかもレーン騎手。これで単勝1890円は太い。

Sakura_20230520215101

サクラトゥジュールの父は一昨年に亡くなったネオユニヴァース。初年度産駒からアンライバルドとロジユニヴァースで父子クラシック制覇を果たし、翌年はヴィクトワールピサを送った20年前のダービー馬も、最近はその産駒を目にする機会もめっきり減った。もはやJRAには14頭しか登録されていない。産駒の勝利は昨年8月の札幌以来。実はそれもサクラトゥジュールによるものだった。

メイSは来月中旬に行われるエプソムCの前哨戦という位置付けだが、過去の優勝馬にはスピルバーグ(2014年)、ショウワモダン(2010年)、ヘヴンリーロマンス(2004年)と、のちのGⅠホースが含まれる。「府中の千八展開いらず」。古い格言を持ち出すまでもない。実力がストレートに現れるこの条件で強い勝ち方をすれば、たとえオープン特別でも展望が広がる。

堀調教師は充実期に入ったとの認識を示したそうだ。1分44秒7の勝ち時計は優秀。ならばエプソムCなどではなく、一気に安田記念でショウワモダンの道を突き進むこともアリかと思ったが、オーナーによればどうやら次は札幌らしい。となればヘヴンリーロマンスの道か。いずれにせよネオユニヴァース最後の大物となり得る一頭だけに、大事に王道を目指してほしい。

 

 

***** 2023/5/20 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月19日 (金)

実況を聞き分けろ

勝ち馬の撮り逃しをいかにして防ぐかという話の続き。

たいていはターフビジョンで各馬の脚色を見極めた上で、1着になるであろう馬を撮るのだが、ターフビジョンで横一線だったり、そもそもターフビジョンにすら映らないような最後方から飛び込んでくる馬がいると、現場は大混乱となる。特に人気薄馬に飛び込んで来られてしまうと、撮る方もマークが薄いからタチが悪い。だから、カメラを構えつつ、目はファイダーの中で繰り広げられる攻防を注視し、耳は場内実況に神経を研ぎ澄ませることになる。

2003年スプリンターズS。1番人気のビリーヴが中山の急坂を駆け上がって先頭に立ち、「よし、ビリーヴだ!」と内ラチ沿いのビリーヴに狙いを定めたその瞬間、「お~おそとからデュランダル!!」という場内実況が耳に飛び込んできたら、瞬時にレンズを外に振ってデュランダルの勝負服を探すことになる。だから、アナウンサーと同じように、カメラマンもレースに出走する馬の勝負服を覚えておかなければならない。

ただし、実況アナウンサーの中には、どう転んでも届くはずがないのに、「大外からイナズマクロスがやって来た!」(1991年エリザベス女王杯)みたいなセリフを織り交ぜる人がいるので、そういった意味での注意は必要。レースが始まったら、「あ、このアナの実況は2割引で聞かなきゃダメだな」という具合に、自分なりのサジ加減が求められる。それでも「これは差し切る勢いだ!」というフレーズには弱いですね。コレ聞くと、ついそっちを撮っちゃうんだけど、あとで結果見たら半馬身も届いてないなんてことは結構ザラにある。

そもそも、場内実況アナウンサーは我々のために勝ち馬を教えてくれているワケではない。場内のファンにレースの熱気を伝えるため、多少無理があったとしても、大外から豪快に追い込んで来る馬を探し出して、聞く人にそれを伝える必要があるのだろう。

逆に、勝ち負けになりそうな脚色で追い込んで来ているにも関わらず、実況がいっさい触れてくれないケースもごく稀にある。

2003年の目黒記念は直線で最内から抜け出したメジロランバートを、大外からレディパステルが追い込む展開。

場内実況もレディパステルとメジロランバートの名前を連呼し続けたが、ゴール直前はほとんど「メジロランバート!メジロランバート!!」の繰り返し。こりゃメジロ優性だろうと、メジロランバートを厚めに撮り、念のためレディパステルも数コマ抑えた。

Lady_20230517213901

だが、実際に勝ったのは、実況が一度たりとも名前を呼ばなかったトシザブイだったのである。

しかも、メジロランバートはレディパステルにすらアタマ差及ばず3着なんですよ。

まあねぇ、単勝万馬券のメジロランバートが勝ち負けになりそうだっていうのは興奮に値するとは思う。しかし、ハナやアタマならまだしも、レディパステルをクビも差し切っていたのだから、「トシザブイ」という声を一回くらい聞きたかった。目黒記念が近づくたび、あのホロ苦い思い出がよみがえる。

一方で、昨日紹介したローブデコルテとベッラレイアのオークスでは、かなり際どい接戦だったにもかかわらず、実況アナがローブデコルテの勝利を断定的に伝えていたことを強調しておきたい。さすがプロ。実況に惑わされることより、助けられるケースの方が多いことは間違いない。

 

 

***** 2023/5/19 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月18日 (木)

勝ち馬を見極めろ

オークスにはなぜか「接戦」のイメージがつきまとう。

オークスでのハナ差決着は過去6回。ダービーが10回だから、そこまで多くはない。なのに接戦のイメージを抱いてしまうのは1983年の印象が強いせいだろうか。なにせ勝ったダイナカールから5着レインボーピットまでハナ、アタマ、ハナ、アタマの大激戦であった。さらに2010年にはアパパネとサンテミリオンが歴史に残る接戦を演じている。長いダービーの歴史でも「同着」の記録はまだない。

私がオークスに接戦のイメージを抱いてしまうのは、何度も痛い目に遭っているせいではあるまいか。と言っても馬券の話ではない。ラチ下でゴール撮影をしていた当時のこと。人気馬が完全に抜け出し、大勢決したと思わせておきながら、想像のラチ外から異次元の脚で飛んでくる伏兵に泣かされたことが、このオークスでは何度もあったのである。

たとえ内外離れていても、2頭が完全に抜け出して「これはもつれそうだぞ」と心の準備ができるような展開ならまだどうにかなる。外を撮り、しかるのちに内を撮ればいい。古くなってしまうが1995年の春の天皇賞。ライスシャワーとステージチャンプがハナ差の接戦を演じたあのレースなどがまさにそう。撮影コマ数は半減するが、撮り逃しだけは避けなければならない。

2007年のオークス。直線の坂を上ってベッラレイアが抜け出したところで、大方の観客は勝負あったと思った。クラシックの大舞台。しかも1番人気である。カメラマンの多くもそちらに目を奪われた。だが、ひと呼吸おいて大外からローブデコルテが猛然と追い込んでくる。この「ひと呼吸おいて」というのがクセモノだ。写真判定の末にローブデコルテに軍配が上がるわけだが、その差はわずか9センチであった。

Oaks2007

このオークスでは多くのカメラマンが2着のベッラレイアを撮らされている。クラシックともなればスポーツ紙などは3~4名のチームでゴール撮影を行い、もつれた場合には「内を撮る係」「外を撮る係」と役割分担することで撮り逃しを防ぐのだが、それでもこのオークスでは撮り逃しが多発した。大外強襲に屈する人気馬はつくづくカメラマン泣かせ。1999年のトゥザヴィクトリーや、2009年のレッドディザイアに泣かされたカメラマンも数知れない。涙の数だけ「接戦」のイメージは強くなる。

撮るべき馬を間違えて負けた馬を撮ってしまった時、カメラマンたちは「ハズした」と言う。レースが終わった直後に、カメラマンが「あ~、ハズしちゃったよぉ」などとこぼしていたら、それは馬券がハズれたのではなく勝ち馬を取り損ねた場合がほとんど。まあ、ホントに馬券をハズして落ち込んでいる場合もあるだろうけど、撮り間違えに比べればさほど痛くもない。

 

 

***** 2023/5/18 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月17日 (水)

川田騎手のメッセージ

オークスの共同会見に臨んだ川田将雅騎手が、競馬場で観戦するファンに向けて「お願い」を口にした。「スタートを切るまではもう少し、あと2秒ほど声援を我慢していただき、ゲートが開いてからは全力で盛り上がっていただければ(抜粋)」と、スタート前の声援の自粛を呼び掛けたのである。騎手がこういう形でファンにメッセージを送るのは珍しい。

ダービーやオークスの熱狂ぶりは他のGⅠを遥かに凌ぐ。知らぬ人がその場に身を置けば、熱狂どころではなく「狂騒」あるいは「狂乱」にも感じるのではあるまいか。2014年のダービーではそんな大歓声に驚いた誘導馬が隊列を乱した。歓声に慣れているはずの誘導馬でさえ耐えられないのだから、発走直前の出走馬にとっては地獄の如き状況であろう。とくに牝馬は繊細。しかもオークスの発走地点は、よりによってスタンドの真正面に設定されている。

Gate_20230517191701

一時はJRAもターフビジョンなどでファンに注意を促していたが、最近ではあまり見かけなくなった。むしろ発走直前に前年のレース映像を流したり、国歌斉唱を織り込んでみたりするなど、ファンの熱狂を煽る方向に傾注しているようにも思える。

実際、あれだけの人数を一か所に集めておきながら「騒ぐな」と言うのは無理がある。すし詰めのスタンドで何時間も待たされ、ようやく目当ての一戦が始まると思えば、気持ちが昂るのは当然。オークスを第1レースに組めば、もっとおとなしくなるだろうが、売上を捨ててまでJRAがそんなことをするとは思えない。

「スタンドから遠く離れた場所から本馬場入場すれば良い」とか、「発走前に流すファンファーレをやめてしまえ」など、いろいろな意見も聞こえてくるが、私個人は、「狂騒」を「12ハロンの距離」とか「直線の長い坂」などのような、オークスやダービーで人馬を待ち受ける壁のひとつと割り切るようにしている。それらをすべて克服して、1着ゴールを果たして初めて栄光が待っている。

ドバイでは発走直前にドカンドカンと花火が打ち上がる。歓声や騒音にいちいち反応しているようなヤワな精神の持ち主では、日本ダービーもワールドカップも勝てない。ブエナビスタなどは歓声にも花火にもまったく動じなかった。

とはいえ冒頭の川田騎手の言葉は正論だ。なにも声を出すなと言っているのではない。ゲートが開くまで静かに見守ってほしいと言っているのである。競馬は馬がゲートに入らなければ始まらない。ファンの歓声がそれを邪魔することが間々ある。それを避けるために協力してくださいと言っているに過ぎない。この程度ならファンの楽しみを奪うことにはならないはずだ。

元騎手の岡部幸雄氏は「発走前に大声を出すのをやめて欲しいと」ことあるごとに訴え続けてきたが、なかなか浸透しなかった。2番人気のシャイニンルビーで挑んだ2002年の秋華賞では、スタンドの歓声に舞い上がった馬がゲートに入ろうとせず、消耗の挙句に外枠発走の憂き目に。結果しんがり負けの辛酸を舐めている。。「JRAはあのバカ騒ぎをやめさせろ」と珍しく強い口調で毒づいたのは、そのレースの直後のことだ。

今回の川田騎手の訴えは極めて丁寧で、かつ論旨も明確だった。共同会見という場の選択も悪くない。その思いがファンに届くことを願おう。

 

 

***** 2023/5/17 *****

 

 

 

| | コメント (0)

2023年5月16日 (火)

ソダシ祭りの府中で

おとといの東京競馬場は雨にもかかわらず45152人の観客で賑わった。言うまでもなく「ソダシ効果」が大きい。場内はもちろん、行き帰りの電車も含めて、ソダシのぬいぐるみを持っているファンをいったい何人見かけたことか。パドック周辺は開門直後からいわゆる「ガチ勢」の皆さんで埋め尽くされていたという。

その割にあまり混んでる印象を受けなかったのは不思議としか言いようがない。もともと5万人が相場のGⅠではある。ただでさえ空いているGⅠの、それも1割減なら空いていると感じるのも無理はないが、感覚的には3万人程度に感じた。もちろん人によっては感じ方も違うだろうから、あくまで個人的な感想ではある。

Moriyama1

昼メシはフジビュースタンド1階に最近オープンしたばかりの「中津から揚げ・もり山」に並んでみることに。5レース終了後だから12時半頃だったはず。それでも行列は10人足らずで、購入まで10分とかからなかった。立食用のテーブルもしっかり空いているのだからありがたい。

Moriyama2

から揚げ4個と鶏飯おにぎり2個のセットが800円。熱々のから揚げは皮目はカリッと小気味よい歯応えながら、中はとことんジューシーだから不思議。当たり前だがホットサービスのから揚げとは比較にならない。鶏飯おにぎりは1個でじゅうぶんお腹いっぱいになるサイズ。先々週はブタカラ、先週は牛タンを堪能したので、これを以て「肉三冠」達成とする。

座席に戻る前に生ビールのおかわりを買おうとスタンド3階の「ファーストキッチン」に立ち寄った。ところがレジ前に客の姿が見当たらない。レジが閉まっているのだろうか。でもカウンターにはスタッフが立っている。近寄って「あの、生ビールなんですけど……、大丈夫ですか?」と聞いてみたら、普通に売ってくれた。つまり誰も客がいなかったというわけ。恐る恐る一口飲んでみたが、とくに怪しい感じはしない。どないなってんねん。

一方で、「バーガーキング」や「セブン・イレブン」は長蛇の列だったし、「ターフィーショップ」にもこれまで見たことないような絶望的な行列ができていた。同じ4万5千人でも普段の客層とは微妙にズレていた可能性はある。

「ファーストキッチンとバーガーキングで何が違うんだ?」

同行の娘にそう尋ねたら「ぜんぜん違うよ」と一蹴された。おじさんにはまったく理解できないが、若いファンの動向を理解することは、おじさん世代が競馬場内で快適に過ごすための近道であると信ずる。つまり共存共栄である。

しかし、それができないのが馬券売り場。こればかりは棲み分けが難しい。ヴィクトリアマイルの発走前のフジビュースタンド2階発売フロアは、立錐の余地なき混雑ぶり。一向に前に進む気配がないのでスタンド4階に走る羽目になった。

どうやらソダシの記念馬券を買うファンが多かったらしい。若い人は馬券はネットで買うものと決めつけるのは早計であろう。馬の名前が入った「馬券」を手にして応援したい―――。そう思う気持ちに年齢やキャリアは関係ない。息を切らして4階の発売窓口に向かいながら、すこしばかりホッとした気持ちになった。

 

 

***** 2023/5/16 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月15日 (月)

続・新ライバル物語

昨日の東京5レースは3歳1勝クラスの芝1800m戦に13頭。平場にも関わらず、パドックには重賞にも似た熱気が漂っている。ファンの視線を一身に集めているのはレーベンスティール(父リアルスティール)。熱気の理由は、この馬がファン注目の一頭であるからに他ならない。しかし当の馬はそんなこと知らんとばかりに、厩務員とじゃれる仕草を見せながら、落ち着きなく周回を続けている。

「止まぁ~れぇ」の声が響き渡り、キャロットの勝負服を纏ったダミアン・レーン騎手が跨ると、一斉にカメラのレンズが向けられた。もう厩務員とじゃれる仕草は見せていない。単勝オッズは1.6倍。こうなると勝ち負けよりも、むしろ勝ち方に注目すべきレベルであろう。

Reven2

たかが3歳の条件戦でありながら、この馬が注目を集めるのにはわけがある。

昨年11月に同じ東京芝1800mで行われた2歳新馬戦。2番人気に推されたレーベンスティールは、直線で1番人気馬と馬体を併せて長く激しいマッチレースを演じた。後続との着差は5馬身。2頭の能力が抜けていたことは疑いようがない。この1番人気馬がのちの皐月賞馬ソールオリエンス。レーベンスティールはクビ差及ばなかったが、上がりタイムはソールオリエンスのそれを上回った。つまり無敗の皐月賞馬と遜色ない能力の持ち主である可能性を秘めているのである。

注目されるもうひとつの理由は、この馬の母の父がトウカイテイオーである点だ。

1991年皐月賞とダービーを無敗のまま制し、GⅠ4勝を挙げたトウカイテイオーが死んでから10年。現在、母の父にトウカイテイオーを持つJRA現役競走馬は10頭しかいない。レーベンスティールのお母さんはトウカイライフ。トウカイテイオー産駒として2009年に競走馬デビューを果たすと、トウカイテイオーと同じ内村オーナーの「白、青山形一本輪、桃袖」の勝負服で4勝をマークした。写真は初勝利を挙げた川崎のJRA交流ジューンフラワー賞。手綱は今野忠成騎手である。

Life1

トウカイテイオーは最近の若いファンにとってもはや伝説の一頭。「ウマ娘」の影響もあってか、最近になって俄かに注目度が増しているらしい。パドックでもあちこちから「トウカイテイオー」という言葉が聞こえてきた。もともとファンの多い馬だったが、亡くなってから10年、現役引退から30年を経てもなお、こうして愛されている事実に驚く。と同時に、血統を残していくことの重要性と難しさも痛感する。

今日のレースは圧巻だった。いちばんの好発を決めると他馬にハナを譲って、自らは3番手のインでピタリと折り合う。直線坂下で持ったまま先頭。軽く仕掛けられると抜群の瞬発力を繰り出して後続を一気に突き放した。2着に5馬身差で上がりは33秒0。接戦なら32秒台の脚を繰り出したに違いない。

Reven1

ヴィクトリアマイルの発送直前、ターフビジョンに放映される「私は、そこにいた」の映像に、1992年のジャパンカップを勝ったトウカイテイオーが登場している。その美しい馬体にレーベンスティールの姿が重なって見えた。実際、レーベンスティールにはトウカイテイオーの面影を感じることが少なくない。とくに額に輝く流星はテイオーそのもの。体質が弱いところまで似てほしくはなかったが、しばらくは間隔を空けつつ、慎重に上を目指すことになる。その先に待つのはソールオリエンス。2頭の再戦を願うファンは少なくなかろう。

ソールオリエンスの父は菊花賞馬キタサンブラック。レーベンスティールの父は菊花賞で2着に敗れたリアルスティール。菊花賞での再戦を夢見る向きには、父同士の因縁にも思いをはせているに違いない。

1976年1月、トウショウボーイが勝った新馬戦にグリーングラスも出走していたことはよく知られる。その後、トウショウボーイが無敗のまま皐月賞を勝つのを横目に、グリーングラスは条件戦をコツコツと勝ち上がり、ついに菊花賞でトウショウボーイとの再戦を果たした。その結果は周知の通り。レーベンスティールとソールオリエンスに令和のライバル物語を期待したい。「ウマ娘」世代の多くのファンは、こういうドラマを待ち焦がれているように思えてならないのである。

 

 

***** 2023/5/15 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月14日 (日)

新ライバル物語

最近、土日のたびに雨が降ってませんか?

16840694436180

今日も、どうにか10レースまで降らずに持っていたのに、ヴィクトリアマイルのパドックが始まるタイミングになって曇り空がさらに暗くなり、堪え切れなくなったように大粒の雨が落ちてきた。向こう正面が霞むほどの激しい雨に、スタンドはたちまち傘の花が咲く。馬場発表を変えるほどではないが、昨日の雨続きで馬場は内側から傷み始めている。騎手心理にも影響を与えそうだ。

暗い場内ではソダシの馬体がことさら目立つ。はるか向こう正面の退避所に目をやれば、ソダシの姿だけが確認できた。偶然の巡り合わせなのだが、桜花賞以来ソダシのレースをほとんど観ている。観なかったのは札幌記念くらいではないか。私は決して彼女のファンではないが、おかげで調子の良し悪し(と言うか、やる気の有無)を客観的に推し量ることができるようになった。そういう目で見ると、今日の彼女は◎である。この雨も彼女にとっては恵みの雨に違いない。

ゲートにもスンナリ入って、スタートダッシュにも成功し、逃げたロータスランドを見る位置に収まった。折り合いにも問題はない。そのまま直線に向くと内で粘るロータスランドをアッサり振り切った。外からスターズオンアースも伸びてきているが脚色はソダシと変わらない。これは勝負あった。連覇だ。

そう思った瞬間、ソダシと内ラチの間を突いて、矢のように伸びてくる一頭に気付いた。赤の染め分け帽だからソングライン。D.レーン騎手も荒れた内から来るとは想定外だったかもしれない。しかしゴールではきっちりアタマだけ差し切っていた。戸崎圭太騎手はヴィクトリアマイル3勝目。先週のNHKマイルカップに続いて、大井出身のジョッキーがGⅠを勝った。大井を根城としていた私にとっても嬉しくないはずがない。

Song1

戸崎騎手によれば、直線では外に出すつもりが、他馬が壁になって仕方なく内を突いたらしい。しかし「しばらく直線の内を走らせたところ、しっかり走っていましたので、このまま内を通る選択をしました」とのこと。この選択が吉と出た。外に出していたら間に合わなかったに違いない。

ソングラインの父キズナは重馬場のニエル賞を制し、凱旋門賞でも4着と道悪はこなした。母系に目を向けても、ロジユニヴァースが不良馬場の日本ダービーを制し、ディアドラが重馬場の秋華賞を勝つなど、道悪をこなす下地はある。ソングラインにしても理想は良馬場かもしれないが、この血統は決して非力ではない。ソダシの快走が、期せずしてソングラインの秘めたる底力を引き出してしまった格好だ。

Song2

ソングラインとソダシは同い年の5歳。その割には直接対決は少なく、過去に2回しかない。それもソダシの2勝。しかし、ソングラインが一矢報いたことで、これでソダシの2勝1敗となった。こうなるとれっきとしたライバルである。両馬とも次走は安田記念と発表されている。ソングラインが勝って対戦成績を五分に戻すのか、あるいはソダシが4つ目のGⅠタイトルを手にするか。過去3回の直接対決では、いずれもソングラインかソダシのどちらかが1着になっていることは覚えておきたい。

 

 

***** 2023/5/14 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月13日 (土)

あなどれぬ複勝

今日の京都5R(3歳未勝利・芝1800m)はシンガリ11番人気のニホンピロパークスが半馬身差の2着に入る大波乱。同馬の複勝配当18020円は、2010年6月26日福島2R(3歳未勝利・芝1200m)で16頭立て最低人気のヴィヴィアンが3着に入って記録した複勝配当16110円を13年振りに更新するJRA最高複勝配当記録となった。

Baken_20230516075801

馬券の中でもっとも配当がつかないのが複勝。競馬ファンなら誰でも知っている。狙った馬が8頭立て以上なら3着以内、7頭立て以下なら2着以内に入った場合に的中となるので、当たりやすい代わりに配当も安い。1931年の福島競馬で初めて登場した。

つかないといっても、人気馬が消えれば驚くような配当になることもある。今日の京都5Rがまさにそう。圧倒的支持を集めたスイープアワーズが8着に敗れたことが大きい。それにしてもニホンピロパークスは惜しかった。直線内ラチ沿いから鋭く伸びて、わずかではあるがゴール寸前でいったんは先頭に立っている。なにせ同馬の単勝オッズは540倍だった。ちなみに単勝のJRA最高配当記録は2014年4月26日福島8Rでリバティーホールが記録した56940円である。

一方で、複勝が単勝よりつくこともまれにある。GⅠ級では過去に一度だけあって、1957年の桜花賞を勝ったミスオンワードの単勝が100円元返しだったのに対し、複勝は110円ついた。「ついた」と言っても10円だけ。この現象は圧倒的人気馬で起こりやすい。競馬ファンなら「あるある」であろう。

ところが1983年9月24日の函館1R(7頭立て)を勝ったイソスミレは、単勝が400円(3番人気)しかつかないのに、複勝は890円(5番人気)もついた。

実は、函館競馬場の複勝オッズ表示サービスが始まったのは1984年に入ってから。つまり、当時の「複勝派」たちは手探りで馬券を買っていたことになる。そこに珍事発生のタネは隠されていた。もっとも、肌寒い9月最終週の函館。土曜の1レースで天候・雨となれば参加者は少ないはず。地方競馬に目を移せば、これと似たようなケースはつい最近まで珍しくもなかった。

いずれにせよ、イソスミレの単勝だけを取ったファンは頭にきたであろう。リスクを背負いながら実入りが少ないのだからたまったものではない。とはいえファンが手にする情報量が爆発的に増えつつある昨今の状況と引き換えに、このようなエピソードは昔話となり色褪せてく運命にある。複勝の万馬券は今後もあり得る。今日の配当記録もいずれ破られるだろう。だがしかし、複勝が単勝の倍もつく珍事は二度と起こるまい。

 

 

***** 2023/5/13 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月12日 (金)

健診が終わればいつもの

今日の昼メシは東梅田の讃岐うどん「今雪」にて大盛りうどんに巨大コロッケを2個もトッピングしてやった。普段にも増して腹が減っていたからにほかならない。実は朝メシ抜きだった。なぜか。それは、あの忌まわしき健康診断を受けるため。それが終わったので、まずはこれが朝メシ。まずはこれを食べて、あらためて昼メシに走ることにする。

Udon_20230512185601

健康診断の当日の朝は自宅での採尿で幕を明ける。

だが、普段にも増して早起きを強いられた頭は完全に寝ボケており、その覚束ない手での採尿は困難を極める。私が子供の頃は、紙コップからスポイトで吸い上げていたはずだが、今は紙コップから直接試験管のような入れ物に注がねばならない。

霞む目で見つめるその指先は、間違いなく小刻みに震えている。

一度仕切り直した方が良いだろうか……。いや、ここまで来て引き返せるか。数分の葛藤ののちに、なんとか無事ミッションをクリア。意気揚々と健康診断会場へと向かった。

競馬においても、上位入線馬と人気を背負って大敗した馬は、レース終了直後の採尿を義務付けられている。むろん健康診断などではなく、公正確保のためのドーピング検査。禁止薬物は毎年のように増え続けている。

寝起きの人間の採尿も大変だが、口のきけない馬から半ば強制的に尿を取るのも大変なミッションだ。しかも発走後70分以内という制約もある。誰にでもできる仕事ではない。そこには馬を扱う特別な技術が求められる。

まず馬の体を洗ってリラックスさせ、薄暗い検体採取馬房に誘導する。採尿係員は口笛を吹いたり、馬にブリンカーを装着したり、意図をさとられないように採尿器具を寝ワラで隠したり…。あの手この手を使って採尿を試みるが、こればかりは馬の生理現象に任せるしかない。中には歩きながらしたり、体を洗っている最中にする馬もいるから、油断は禁物だ。

せっかく採取できたのに、規定量に足りず、やむなく自分の尿を付け足して大騒ぎになった―――。地方競馬では、そんな笑えない話もある。人間の尿が混入すれば、たいていカフェインが検出されるからタダでは済まない。

Sakae

ちなみに私の健康診断の結果は数日後に通達される。もちろん一点の曇りもない結果が出るとは思ってない。どうせ呼び出しを食らって、コレを食うな、アレを飲むなとアレコレ言われるに決まっている。ならばその前に好きなだけ食って飲んでやれ。そこで、あらためての昼メシは阪急三番街地下の居酒屋「おか長」の肉うどんとした。こちらは高松の名店「さか枝」の麺が使っていることで有名。梅田にいながら本場の麺が味わえるのだから有難い。こんな調子だからどんどん不健康になる。受けろと言われて仕方なく受けている健康診断にさほどの効果はなさそうだ。

 

 

***** 2023/5/12 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月11日 (木)

ふたつの「のじぎく賞」

宝塚署から「のじぎく賞」が贈られた―――。

こんなニュースを目にしたことを思い出した。GW真っただ中の5月2日のことである。

「のじぎく賞」と言えば園田競馬場で行われる3歳牝馬の重賞レースの名である。60年の歴史を誇り、全国地方交流競走としてグランダム・ジャパンの一角をも担う重要な一戦である。警察署がそれを贈るとはいったいどういうことか。さらに言えば、のじぎく賞が行われるのは今日であり、その場所も宝塚市ではなく尼崎市の園田である。

写真は昨年ののじぎく賞。ニネンビーグミがニフティスマイルとのたたき合いを制して重賞2勝目をマークした。

2b_20230511202901

秋の風に揺れる野路菊(のじぎく)の白い花は、たしかに可憐な3歳牝馬を彷彿とさせるものがある。その名付け親は、NHK朝の連続ドラマ小説「らんまん」のモデルであり、「日本植物学の父」とも言われる牧野富太郎氏。小さな花が寄り添って一つの大輪に見える菊を人生になぞらえ、助け合う大切さを学生に諭した牧野氏の講演録が残されている。特に兵庫県姫路市の植生地は牧野氏に「日本一の群落地」と評され、それが縁で野路菊は兵庫県の県花となった。兵庫県競馬の「のじぎく賞」の由来もそこにある。

しかし、もうひとつの「のじぎく賞」も誕生していたらしい。人々の心に善意のともしびを点じ、豊かな愛情と誠実の織りなす明るい郷土づくりに寄せられた善行に対して贈る兵庫県の表彰制度で、冒頭のニュースはそれを伝えるものだった。「兵庫県競馬」と「兵庫県」で、それぞれ「のじぎく賞」があるというわけ。よりによって、どちらもひらがな表記である。間違えないようにしよう。

それにしても野路菊は秋の花であるし、ゆかりの土地は同じ兵庫県内でも姫路の方である。のじぎく賞が秋の姫路で行われれば言うことは無いが、その程度の理由で半世紀の伝統をおいそれと変えられるものではない。それは分かっているが、競馬ファンの多くは季節感を伴って競馬を楽しんでいる。JRAの菊花賞が春に行われれば、やはりおかしいという声は上がるに違いない。

ともあれ本日、61回目となる兵庫県競馬の「のじぎく賞」が行われた。

地元園田のスマイルミーシャが1番人気に応えて5馬身差の圧勝。東京プリンセス賞に出ても人気を集めたであろう大井・ワイズゴールドをまったく相手にしなかったのだから、ここでは力が違ったとしか言いようがない。次走は兵庫ダービーと明言された。のじぎく賞からダービーの連勝となれば、2013年のユメノアトサキ以来10年振り。菊水賞のリベンジをかけてベラジオソノダラヴに挑む。

 

 

***** 2023/5/11 *****

 

 

 

 

| | コメント (0)

2023年5月10日 (水)

スランプを脱出せよ

プロ野球は開幕から1か月余りが経過したが、昨年の3冠王ヤクルト村上宗隆選手が極度の不振に喘いでいる。WBCから続いていると思えば2か月間になるのだからスランプのトンネルは長い。巨人の坂本勇人選手も開幕から22打席無安打の辛酸を舐めた。一流選手といえども、ひとたび調子を落とせば、普段のパフォーマンスを発揮することすら困難になる。いやむしろ一流ゆえであろう。「二流選手にスランプはない」と言ったのは南海ホークス当時の野村克也氏。一流であればあるほど、泥沼からの脱出は難しさを増す。

今からちょうど10年前。その年すでに重賞を5勝もしていた内田博幸騎手が、GWに入ってから突然パッタリと勝てなくなることがあった。

単勝1.8倍の圧倒的1番人気レッドレイヴンで11着に沈んだ青葉賞が泥沼の始まり。ゴールドシップで天皇賞史に残る敗戦を喫すると、NHKマイルカップでも1番人気エーシントップで7着。そして京王杯SCでも2番人気トウケイヘイローで8着と敗れた。迎えたヴィクトリアマイルのパドックでも“内田スランプ説”が堂々と語られる始末である。

苦しんでいたのは騎手だけではない。ヴィクトリアマイルで内田騎手が乗るヴィルシーナは、牝馬3冠レースに加えローズSを含めてジェンティルドンナに4連敗していた。ジェンティルドンナ不在のエリザベス女王杯は雨に脚元をすくわれて、また2着。直前の産経大阪杯では、デビュー以来初めて掲示板を逃す敗戦を喫し、迎えたヴィクトリアマイルでも1番人気ながら、各紙の評価は◎から無印まで様々だった。

レースは好スタートから2番手を追走し、直線半ばで先頭に立ったが、外からホエールキャプチャが猛然と詰め寄ってくる。その鞍上は天皇賞と京王杯を勝った蛯名正義騎手。このとき内田騎手は「またやられちゃうのかな」と観念したという。実際、いったんはホエールキャプチャが前に出た。だが、ゴールのその一瞬だけヴィルシーナの鼻が突き出たのは不思議というほかはない。なにせゴールを過ぎたら、やはりホエールキャプチャが前に出ているのである。「もう2着はごめんだ」というヴィルシーナの思いがその瞬間に凝縮されたに違いない。

Vm

ヴィルシーナは翌年のヴィクトリアマイルも勝って、このレース初めてとなる連覇を果たしているが、これが11番人気を覆しての勝利だった。前走、前々走と2走続けて2桁着順では仕方ない面もあるが、言っても前年のチャンピオンである。1番人気→11番人気のGⅠ連覇は前代未聞であろう。

もともと牝馬は消長が激しい。「陰りを見せた女馬には手を出すな」の金言もある。「もう終わった」という周囲の評価をよそに「こんなはずではない」と追いかけ続けるのは、牝馬に限って言えば危険な賭けだったはず。一度不調の波にのまれた牝馬を再び好調の波に乗せるのは、そう簡単なことではない。

だが、このヴィクトリアマイルに限れば、不振に苦しむ牝馬たちが突然何かを思い出したかのように激走し、そのたびに穴馬券を演出してきた。この年のヴィルシーナも、翌年のストレイトガールも、ヴィクトリアマイルを勝つまではいずれも6連敗。1年以上勝ち星から遠ざかっていた。中でも極端なのが第1回の覇者ダンスインザムード。デビューから4連勝で桜花賞を制した女王も、オークスで4着と敗れてから実に14連敗という泥沼に喘いでいたが、このレースでようやくスランプを脱出したのである。

今週末のヴィクトリアマイルに出走予定のディヴィーナはオープン昇格後5連敗中。とはいえ、あのヴィルシーナの娘でもある。騎乗予定のミルコ・デムーロ騎手もGⅠ勝利から遠ざかって久しい。人馬のスランプ脱出に期待しよう。

 

 

***** 2023/5/10 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 9日 (火)

欠かせぬもの

一昨日は早起き(と言うほど早くはなかったけど)をしてグリーンチャンネルにかじりついたという方も少なくあるまい。むろん私もその一人。ケンタッキーダービーに日本馬が2頭出走する。歴史的レースを見逃す手はない。

トランペット奏者が「Call to Post」を奏でるとスタンドから大歓声が上がった。ケンタッキーダービーでは恒例となっている本馬場入場を知らせるファンファーレ。その音色に思わず震えた。しかしスタート時のファンファーレというものはない。実は海外の競馬場ではファンファーレがないところがほとんどだ。

その8時間後、今度はNHKマイルカップの発走を知らせるGⅠのファンファーレが東京競馬場に鳴り響いた。NHKマイルカップのファンファーレを楽しみにしているファンは多いそうだ。「NHK交響楽団とその仲間たち」による生演奏が恒例となっているからで、その演奏は一音一音の輪郭がくっきりしていながらも滑らかで、高音の伸びはどこまでも心地よく、低音は腹の底に直接響いてくる。ファンファーレを「音楽」として聞ける機会はなかなかない。だが今年は荒天のため生演奏ではなく録音が使われた。雨を恨んだのは、なにもダノンタッチダウン陣営だけではない。

全てのレースで発走前にファンファーレが流れるのは日本だけ。気分を高揚させる単純明快な響きは我々ファンの耳にすっかり馴染んでいる。しかし初めて使われたのは1986年暮れの中山だから意外と歴史は浅い。そのきっかけは出走のタイミングを合わせたいというラジオ中継スタッフの要望だったという。その後1988年にはJRA全10場に広まっていた。

Brass_20230508212601

現在のバリエーションは開催場やレースの格に応じた全20種類。そのうち宝塚記念年に一度しか聞けないという点で希少感がある。

現在の宝塚記念のファンファーレが初めて流れたのは1999年。GⅠになると惜敗を繰り返すことで有名だったステイゴールドは、「GⅠのファンファーレを聞き分けている」とまことしやかに噂されていた。だが、初めてのファンファーレが流れる宝塚記念なら、GⅠレースだと気づかずにシレっと勝ってしまうのではないか―――? と一部のファンの注目を集める。

Grass_20230508212901

だが、グラスワンダーとスペシャルウィークの後方で繰り広げられた3着争いを制して、きっちり3着を確保。初めて耳にするとはいえ、その躍動感あふれる旋律を聞いて、馬自身が「これはGⅠだな」と感じ取ったのかもしれない。人間でも感じるのだから、馬が感じぬはずはない。もしそうだとすれば、これもひとつのファンファーレ効果と言える。

そしてもうひとつ。これは厳密にはJRAのファンファーレ楽曲ではないが、年に一度だけのファンファーレが流れるのが中京で行われる名鉄杯。名鉄電車の「ミュージックホーン」をアレンジした楽曲ですっかり有名になった。しかも名鉄ブラスバンド部の皆さんによる生演奏。重賞レース以外で生演奏は珍しい。名鉄杯当日のテレビ中継で、時間の都合などでファンファーレの映像が流れなかったりすると視聴者から苦情が来るんだそうだ。導入から37年を経て、発走前のファンファーレが日本の競馬に欠かせぬものになった証であろう。

 

 

***** 2023/5/9 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 8日 (月)

5月病に負けるな

連休明け早々、新社会人を相手に1時間ばかり講義をさせられる羽目になった。相手は18~22歳の男女7名。つい最近まで高校生だった子もいれば、有名な大学の卒業生もいたりして、やりにくいことこの上ない。

それにしても、どうやって1時間を持たせようか―――。

久しぶりに朝から悩んだ。私は東京に帰省はしたものの、病院と競馬場三昧のGWを過ごしたばかり。相手も社会人になって初めての長い休み明け。つまらぬ話など聞きたくなかろう。ならば1時間みっちり競馬の話題で埋めるという手もある。

羽田盃はヒーローコールで鉄板なのか。

ヴィクトリアマイルはソダシとスターズオンアースの一騎打ちなのか。

さらに京王杯SCや東京プリンセス賞までまで話を広げたら1時間ではとても足りない。ところが聞けば7人とも極めて真面目な性格だと聞く。もし私の話に呆れて会社を辞めらたりしたら、それはそれでバツが悪い。なにせ今日は「五月病」発症の特異日でもある。

もう30年以上も昔のことになる。大学を卒業して某新聞社に入社した私も1年目は辞めることばかり考えていた。仕事がつまらなかったせいもあるが、入社直後に撮った写真がいともあっさり紙面に掲載されたり、PR紙用ではあるがいきなり原稿を任されるなどして、すっかり業界全体をナメ切ってしまったのである。実際に他社からのスカウトもあったりして、すっかりその気になっていた。しかも30年を経た今もその気持ちにさほどの変わりはないのだから救いようがない。そういう意味では「初心忘るべからず」の姿勢だけはしっかり貫いている。

とはいえ、この「いつでも辞められる」という心のゆとりをバカにしてはならない。やる気に満ち溢れ、性格が真面目な人ほど五月病に陥りやすいとも聞く。私は最初にナメたことで肩の力がほどよく抜けた。今日私のつまらぬ話を聞いていた7人に、そういうゆとりはあるのだろうか。だからといって「いつでも辞められるよ」などと彼らに言うわけにもいかない。

Gate_20230508203901

一日も早く仕事を覚えたいと頑張る姿は目を見張るものがある。それは見ていても清々しい。だが、最初から無理して飛ばせば失速は免れない。いやそれどころか、ゴールまで辿り着けないこともある。厳しい流れが一瞬淀み、そこでフッと息を入れたあと、あらためてすぐに全力を出すというのは思うより難しい。若駒にはなおのこと。連休明けの今週は踏ん張りどころであろう。五月病の落とし穴は、あちこちに口を大きく開いて待ち構えているもの。乗り切ってほしい。

 

 

***** 2023/5/8 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 7日 (日)

若手ジョッキー活躍の先に

昨日は府中で今日は淀。昨日から降り続く雨のせいで、GWにもかかわらず場内は空いている。東京ではNHKマイルが行われるが、京都はリステッド2連発。とくに先々に向けては10Rの橘ステークスをしっかり見ておきたい。

Rain_20230507212101

その前に7Rは古馬1勝クラスの芝2000m戦。先週の新潟戦からの連闘となるレディベルが2番手から抜け出して完勝した。8戦連続でダートを使われて安定した成績を残していたが、今回は久しぶりの芝に戻っている。それを快勝したのだから力の要る不良馬場が合っていたと考えても不自然ではない。鞍上の古川奈穂騎手は昨日に続く勝利で今年の10勝目となった。

7r

期せずして橘ステークスも同じような結果となった。勝ったのはルガルだったが、2番手からの抜け出すそのレースぶりも、連闘であることも、初勝利がダートで芝では未勝利であることも、ことごとく同じ。ただ5馬身の着差には目を見張った。なにせ勝ったルガルは1勝クラスの身。つまり格下である。それがオープン勝ちもあるメンバーを置き去りにしたのだから、驚くのも無理はない。

10r_20230507212101

勝ち時計は1分23秒1だから、他の馬が値を上げるほどのタフな馬場だった可能性はある。であれば5馬身をそのまま評価するのはやめておこう。それでも一定の能力があることは間違いない。なにせ4代母はあのミエスク。芝・ダートを問わない活躍を期待したい。

続く鞍馬ステークスは道中後方3番手にいたはずのエイシンスポッターが直線で馬群を割って追い込むと、前を行く15頭をゴボウ抜きにしてみせた。道悪をまるで感じさせない決め脚は父譲りか。父エイシンヒカリは極悪馬場の仏イスパーン賞を10馬身差で圧勝している。

終わってみれば2連発のリステッドは角田大河騎手の連勝だった。7Rを勝った古川奈穂騎手も土日で2勝。今日は新潟で永島まなみ騎手もふたつ勝っている。若手の活躍が著しい。しかし3人とも来週から30日間もの騎乗停止が待っている。彼ら彼女らの心情はいかばかりか。一年で最も競馬が華やかな、そして長い1か月が始まろうとしている。

 

 

***** 2023/5/7 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 6日 (土)

最後の1枚

強風吹き荒れる東京競馬場ではダービーへの最後の1枚の切符を賭けてプリンシパルSが行われる。

Tan

その前に内馬場で行われる「肉バルTOKYO」のチェック。今週からブタカラの「味のイサム」に代わって牛タンの「利久」が登場している。牛タンは5切れで1500円。安くはない。でも利久の牛タンはやはり旨い。1切れ1切れ噛み締めながら食べる。ラストの1切れになったところで、ゴォーッという音と共に一陣の風が目の前の牛タンを吹き飛ばした。

あぁー-っ!

馬券を外してもここまで大きな悲鳴を上げることはなかろう。最後の楽しみにとじっくり構えていたのが裏目に出た。こういう風の日は早目の仕掛けを心掛けたい。

さて、プリンシパルS。1番人気はアヴニールドブリエ。D.レーン騎手がシルクの勝負服を着れば人気を背負わぬはずがない。しかも2代母はメジロドーベルとくれば、私とて応援したくなる。

しかし、勝ったのは2番人気のパクスオトマニカだった。ポンとゲートを出ると、そのままハナを奪って前半1000mを1分2秒4とゆったりしたペースで通過。強風のせいか、その後も12秒8、12秒4とペースが上がる気配はない。こうなれば直線でも余力十分。迫るアヴニールドブリエを1馬身振り切って余裕のゴールを果たした。

Pax

2着に敗れたアヴニールドブリエの血統表を見れば、父エピファネイア、その父シンボリクリスエス、母の父ゼンノロブロイ、さらに2代母の父メジロライアンとダービー2着馬がずらりと並ぶ。そんな血の一面が大事な一戦で発現してしまったのかもしれない。ほれぼれするような馬体の持ち主だけにダービーでの走りを見てみたかったが、その夢はここで断たれた。やはり風の日は早目の仕掛けが大事なのである。

最後の1枚を風に飛ばされた私の目の前で、最後の1枚を自らつかみ取ったパクスオトマニカの血統は、母の父がディープインパクトで2代父はネオユニヴァース。サンデーサイレンスの3×3という強いクロスもさることながら、自身に流れるダービー馬の血が騒いだ結果かもしれない。鞍上の田辺騎手にはアスクビクターモアで3着に敗れた昨年のリベンジがかかる。近年のダービーでは逃げ馬が意外に粘る傾向があるだけに、本番でも軽視は禁物だ。

 

 

***** 2023/5/6 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 5日 (金)

3頭立て

今日の船橋5Rは3頭立てで行われた。もともと5頭立てだったのに、2頭が競走除外となったため。除外理由は「事故」とだけ発表されたが、これだとファンが余計な心配をしてしまいかねない。具体的には満2歳の誕生日が来ていない馬はデビューできないというルールに抵触するから。出馬投票の際に気づきそうなものだが、そこで気づかなかったあたりが「事故」ということか。実際には「事故」には「その他」の意味でも使われている。

Paddock_20230505230401

いずれにしても3頭だけのパドックは異様のひと言に尽きる。1頭が先出しになったので、騎手が騎乗するときは2頭だけになっていた。ここからパドックを観た人は、これからマッチレースが始まるのかと思ったかもしれない。

Start_20230505230401

しかしレースは3頭立て。ポンとゲートを出たルージュノデンゴンがそのままハナを奪うと、クラングファルベ、エミノマジェスティの順で直線に向くと、ルージュノデンゴンがさらにもうひと伸び。結局ルージュノデンゴンがクラングファルベに4馬身の差をつけて1着ゴールを果たした。2着クラングファルベ、3着エミノマジェスティだからスタート直後の隊列のまま順位は変わらなかかったことになる。

Goal_20230505230401

1番人気、2番人気、3番人気での決着で、3連単の配当が140円だったのに対し、馬単は150円と3連単を上回った。実質的にはほとんど同じ馬券。ただし3連単には競走中止や失格のリスクを伴う。いずれにせよ3頭立てでは高配当を望むのは難しい。

Vision_20230505230401

しかし、JRAにはこんな記録も残されている。1953年7月22の福島9レースは4歳未勝利戦だった。

 ①枠 ワカミドリ 54 梶
 ②枠 フジタカ 54 本郷
 ③枠 オトワメイヂ 52 蛯名

人気はオトワメイヂ、ワカミドリ、フジタカの順。ところが結果は人気とは真逆のフジタカ、ワカミドリ、オトワメイヂの順に入線した。それで枠番連勝単式②→①の配当は10030円である。3頭立ての万馬券は空前にして絶後であろう。

誰もが驚いた配当の原因は、当時は事前のオッズ発表がなかったため。リアルタイムのオッズが発表される今なら、こんな美味しい配当をファンが見逃すはずがない。

ちなみに、南関東のルールでは3頭以下の場合、複勝、枠連、枠単、ワイド、3連複は発売されないことになっている。でも今回は馬券発売開始後の除外だったため、これらの馬券も発売され続けた。もちろん100円元返し。しかし損をすることも決してない。ゲン担ぎのために3連複馬券を買うファンの姿もちらほら見かけた。「確実に当たる馬券」などはあり得ないのが競馬の常識。主催者の「事故」が稀有な例外を産んだ珍しいケースとなった。

 

 

***** 2023/5/5 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 4日 (木)

ゼッケンはどこから来たのか

おとといのゼッケンの話の続き。

Okasho

よく知られているように、JRAではレースの格によってゼッケンの配色を変えている。クラシック競走では、皐月賞、菊花賞、桜花賞、オークスは紫紺地に黄色で馬番、馬名が書かれ、日本ダービーだけは伝統を重んじて白地に黒文字のまま。有馬記念やジャパンカップなどクラシック以外のGⅠ競走は紫紺地に白文字だ。秋華賞のゼッケンの配色が桜花賞と異なるのは、「牝馬三冠」のひとつでありながら秋華賞がクラシックレースではないからである。

Shukasho

現在の配色に統一されたのは1991年。それまでは各競馬場でバラバラだった。馬名入りのゼッケンは1987年11月から一部のGⅠで使われたのが嚆矢。それ以前は、パドックで周回する馬の背中に馬名を記した名札がちょこんと置かれていた。当時はありがたいサービスだなと思ったものだが、いま思い返せば違和感満載。回転寿司のレーンを周回するネタ紹介の札にも似る。

「ゼッケン」はスポーツ全般に共通する用語だが、その由来はどうやら競馬にあるらしい。

明治初期、横浜で競馬を運営していたドイツ人が番号布を騎手に渡す際、「デッケ(布)」と言ったのが「ゼッケン」と聞こえたことが始まり―――。

一般的にはこれが通説とされているが、この手の「競馬黎明期に外国人の言葉がなまって聞こえたのが始まり」エピソードは、スタートのやり直しの「カンパイ」の語源同様、どこかしら都合良さが伺えてしまい、頭から信じたくはないと考えてしまうタチである。

調べてみるとやはり異論はあった。その語感からドイツ語で小袋を表す「ゼックヘン」がなまったのではないか?という説である。この小袋には砂が詰め込まれていてハンデ戦の重量調整に使われた。ハンデは馬ごとに異なるからこの小袋に番号を書いて区別したというのである。

さらにイタリアからも新説が飛び込んできた。イタリア語で金貨を示す「ツェキーノ」が語源の可能性があるらしい。かつてベニスの街では金貨を真似た衣服の飾りが流行したことがあった。やがてこれが競走馬にも取付けられ、馬主を識別するのに役立つようになったというのである。ドイツが負担重量であるのに対し、イタリアが「飾り」というあたり、エピソードにも国民性が現れていて興味深い。

いずれの説も競馬が由来としているので楽しく読むことができる。個人的にはイタリア説を取りたいが、我が国の競馬施行においては番号を記した布だけでなく、鞍の下に敷く布なども含めて「ゼッケン」と呼ぶことから、やはり最初の「ドイツ語のデッケ(布)」説がやはり有力であろう。ちなみに英語では、競馬のゼッケンを「ナンバークロス」あるいはただ単に「ナンバー」と呼ぶ。

 

 

***** 2023/5/4 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 3日 (水)

ニッポンのルール

「渋滞」「新幹線」「東京駅」

GWらしいワードがトレンド上位を占めていたのが、突如として

「騎乗停止」「若手騎手」「今村聖菜」

といった言葉がにわかにトレンドを賑わし始めた。今が水曜のお昼であることを考えれば不自然極まりない。慌てて調べてみると大量6名もの騎乗停止が発表されてるではないか。今村聖奈、古川奈穂、永島まなみ、角田大河、河原田菜々、小林美駒。全員が30日間の騎乗停止とは穏やかではない。厳しい処分の理由は騎手控室や調整ルームでのスマホ使用。競馬の公正確保についての業務上の注意義務違反であるとのお沙汰が下った格好だ。

似たようなケースでは2011年6月に大江原圭騎手、13年6年に原田敬伍騎手、15年3月にクリストフ・ルメール騎手、そして16年10月に丸山元気騎手が、いずれも調整ルームからツイッター投稿といった外部通信をしたとして30日間の騎乗停止処分を受けている。特にルメール騎手はJRA騎手免許を取得した初日からの騎乗停止だから異例中の異例。フランスでの癖が抜けていなかったのかもしれない。今回の件でも「ルールについて誤った解釈があった」とJRAは説明している。若手騎手たちの中には、単なるインターネット閲覧や騎手同士の通話程度ならスマホを使っても問題ないという認識があったようだ。

日本の競馬においては、出場騎手はレース前日から調整ルームに入室しなければならない。目的はただひとつ。公正確保。すなわち八百長の防止である。他人との面会、電話、メール、SNS投稿はもちろん、インターネットの閲覧なども禁じられている。ちなみにこれは日本独自のシステム。だからと言って、今回騎乗停止になった6人に特別な同情を寄せるわけにはいかない。彼ら彼女らは既にプロの騎手である。プロである以上、「知らなかった」は通用しない。知らんこと自体が落ち度である

世界にも類を見ないこの調整ルーム誕生のきっかけは、今から半世紀以上も前の1965年に起きた「山岡事件」に遡る。中央競馬の騎手4人が逮捕された大掛かりな八百長事件で、競馬会は再発防止策として「厩舎地区への出入り制限」「厩舎関係者による予想行為の禁止」などと合わせて「出場騎手全員をレース前夜から合宿させる」ことを打ち上げた。この合宿施設こそが現在まで続く「調整ルーム」である。JRA管理主義の象徴のようにも扱われる調整ルームだが、その出自が競馬の存続を左右するほどの八百長事件にあったことを思えば軽々しく批判はできない。

運用当初のルールでは、レースの24時間前に調整ルームに入らなければならなかったのが、いつしかレース前日の16時となり、さらに18時になり、現在は21時までに入れば良いという具合に運用ルールは緩和傾向にある。JRAの親心を汲み取りたい。しかし一方で、調整ルームに関する違反が後を絶たないのも事実。ルメールのような大物騎手が……と驚く向きもあったが、笠松時代の安藤勝己元騎手も調整ルームからの無断外出で騎乗停止処分を受けている。

もちろん海外でこういう話を聞くことはない。1997年の凱旋門賞当日のパリの朝のこと。朝食のカフェで、「ゆうべキャバレーに行ったら、ペリエとデットーリがいて盛り上がっていた」という話し声が聞こえてきたことがある。

Peslier

そのときは「ホントかなぁ?」と思った。でも、日本でも一緒に東京ディズニーランドに行ったりする仲良し二人のことだから、あながち嘘とも言い切れない。それで「日本とはずいぶん違うなぁ」と思った。国が違えばルールも異なるのは当然。ルメール騎手も、もう間違えることはなかろう。

 

 

***** 2023/5/3 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 2日 (火)

ゼッケンに馬名を

明日は船橋で東京湾カップが行われる。過去の優勝馬にはマグニフィカやアジュディミツオー、エスプリシーズといった面々が名を連ね、東京ダービーのみならずその先のダートグレードに向けても重要な一戦だ。

写真は9年前に行われた東京湾C。有力馬の一頭、パンパカパーティー(父サイレントディール)の返し馬を捉えた一枚なのだが、ゼッケンの馬名に注目いただけるだろうか。

Pakapaka

「パカパカパーティー」

船橋競馬場の場合、馬名入りゼッケンが使用されるのは原則として重賞レースに限られる。馬番確定後に出走馬データを元に1頭ずつ馬名を型抜きし、あらかじめ馬番が付されたゼッケン生地に熱転写して完成。納入前後には番号や馬名はもちろん、濁点など文字の欠損部分がないことなども厳しくチェックされているはずなのだが、それでも人間がやっている以上こうした間違いも起きる。「ウマと言えばパカパカ」。そういう思い込みがあっても仕方ない。私はこのゼッケンを作った関係者を責める気にはなれない。

一方、先月19日の園田5レースでは、2号馬ラガーヴィーヴが誤って「4番」のゼッケンを装着してパドックに登場。約2分ほど周回したのちに間違いに気付き、本来の「2番」に着け直して再びパドックに登場するというハプニングがあった。

「4号馬」が2頭いるのだから、控えめに言っても異常事態である。もしそのまま走っていたらエラいことになっていた。園田競馬場の一般レースで使われるゼッケンには馬名は入っていない。もし馬名入りであれば装鞍時に気付いただろう。

Sonoda_20230427215601

地方競馬では唯一大井競馬場のみが全レースで馬名入りゼッケンを使用している。ゼッケンはポリエステル素材で競馬場で集められたペットボトルゴミの再利用だ。500mlのペットボトル6本でゼッケンが1枚作成できるという。一方で他の地方競馬場で使われている馬名無しゼッケンは、何度も洗って使えるよう分厚くしっかりした素材で作られている。

自分の所有馬を地方で走らせるなら、大井が良いと考える馬主さんは一定数いるようだが、その理由のひとつが「ゼッケンに名前が入るから」であるらしい。実は私もその一人。記念になるし、ゴール前の写真もゼッケンに名前が入っているのと入っていないのとでは、やはり見栄えが違う。

他の競馬場の関係者に「馬名入りのゼッケンって高いんですか?」と聞いてみたら、「そうでもないらしいね」という返事だった。「それなら馬名入りにしましょうよ。再利用だから環境にも優しいじゃないですか」と言うと、「洗って再利用できる方が環境に優しい」とピシャリ。なるほどそうかもしれない。でも、馬名入りのゼッケンも使い終われば、再び再利用に回されている。なによりファンの意識も変わるじゃないですか。いま自分が手にしているペットボトルが、あの馬のゼッケンに変わるかもしれない。そう思えば、ごみ分別への意識も高まるはずだ。前出のようなトラブルがあった以上、再発防止策のひとつとして園田競馬場さんでも、馬名入りゼッケンの導入を是非とも検討いただきたい。

 

 

***** 2023/5/2 *****

 

 

| | コメント (0)

2023年5月 1日 (月)

クールビズが始まった

今日から5月。巷では早くもクルールビズが始まる。

昔は真夏の一時期だけの特別なイベントだったクールビズも、最近では5月1日から10月31日の期間をクールビズとする企業が多い。つまり年の半分はクールビズ期間ということになる。これが定着したきっかけは東日本大震災に伴う電力不足だった。さらに環境省は「スーパークールビズ」を提唱。本格的に暑さが厳しくなる真夏にはポロシャツやアロハシャツ、スニーカーの着用を推奨している。こうなるとTシャツ、短パン、ビーサンの「ウルトラスーパークールビズ」が導入される日も近いのではないか。

競馬場ではひと足早くクールビズが始まっている。もちろん馬主席のドレスコードの話。期間は春の東京・京都開催が始まる4月22日から、秋の中山・阪神の最終日10月1日までだから、世間とは若干のズレがある。もちろんクールビズとはいえどもポロシャツやジーンズは不可。さらに天皇賞当日の京都とダービー当日の東京は「例外」となるらしい。そこはやはり特別な一日。歴史と伝統が勝るのであろう。

Titile

むかし、新潟競馬場の馬主席受付にドレスコードにうるさい女性がいた。入場者はひとりひとりその服装を厳しくチェックされる。JRA10場の中でもとびきり厳しいと評判だった。

20年くらい前の夏、とある男性二人組が馬主エリアへの入場を頑なに拒まれている光景を目撃したことがある。ひとりはポロシャツ、もうひとりはTシャツの上から麻のジャケットを羽織っている。街中では咎められるはずもない服装でも、そこは新潟競馬場の馬主席受付である。しかも彼らが馬主本人ではないことが厳しさに拍車をかけているようだ。まあ、馬主本人がいれば、そのような間違いも起きないであろう。

結局その二人は貸しネクタイを締めることで入場を認められたのだが、襟のついたポロシャツはともかく、Tシャツにネクタイを締めさせられた男性は、端から見ても相当に気の毒であり、かつ相当に笑えた。事情を知らぬ人が見たら、何かの罰ゲームだと思ったことだろう。

以前、社台グループの会報「サラブレッド」誌上にて「馬主席やウイナーズサークルでのドレスコードは必要だと思うか?」というアンケートが行われたことがある。私は特に意見を寄せはしなかったが、きっと不要派が多数を占めるであろうと思った。そも日本の文化には、ドレスコードという概念自体が馴染まないと常日頃感じているからに他ならない。

果たして結果は意外なものであった。「ドレスコードは必要」という意見が多数を占めたのである。編集者も「意外な結果」と驚きを隠さなかった。もちろんこれは一口会員と一部の馬主を対象としたアンケートだから、ファン全体や馬主全体の総意ではない。それでもドレスコードが支持されたのは、「馬主席やウイナーズサークルは特別な空間であるから」という理由が多かったからではないか。社台・サンデーの会員ともなれば、「いつかは正式な馬主に」という思いを抱いている人も多かろう。それが馬主席という領域を神聖化させ、アンケート結果に表れたのかもしれない。

 

 

***** 2023/5/1 *****

 

 

| | コメント (0)

« 2023年4月 | トップページ | 2023年6月 »