新聞の嘘
嘘の話を続ける。
朝刊を取りにマンションの集合ポストに降りると思いがけず雨が降っていた。思わず「嘘だろ!」と口に出してしまう。しかもことのほか寒い。今日から4月ということ自体も嘘なんじゃないかと思った。なにせ今日はエイプリルフールである。
新聞の天気欄に傘マークはない。じゃあ、いま空から降ってきているこれはなんだ? これも嘘に違いない。嘘をついているのは新聞か、あるいは天か。私は天の可能性を否定しない。新聞が嘘をつくようでは日本はおしまいだ。
ただ、英国の新聞は嘘をつくことがある。大衆紙「サン」紙は1991年4月1日付の一面で「1983年に牧場から誘拐され、死んだと思われていたシャーガ―が、実は生きていた」と大々的に報じた。しかもこの年のキングジョージに出走予定だという。
もちろんこれはエイプリルフールの嘘記事。4月1日になると英国の新聞各紙はユニークな嘘をつくために頭を絞る。中でも“生きていたシャーガー”はメジャーなネタのひとつ。それだけ英国民がシャーガー失踪事件に関心を寄せていることの証であろう。それ以降も、シャーガー生存の記事はエイプリルフールのたびに掲載され続けた。
一方、今日の阪神メイン・ポラリスSを扱うスポーツ新聞には
「アトム破竹3連勝だ!」
「ノイア オープン初V」
といった見出しが並んだ。しかし実際のレースでは、テイエムアトムは3連勝を逃して3着に、ディアノイアもオープン初Vを果たすことなく4着に敗れている。これはエイプリルフールの嘘か。そんなこともあるまい。そもそも同着でもない限りポラリスSを勝つ馬は1頭。すくなくとも、上記のどちらかは嘘ということになる。なのにそれを嘘だと怒る人はいない。いや、どこかにいるのかもしれないが、少なくとも私の周囲にはいない。
天気予報が外れると新聞社やNHKにクレームの電話が入る。「嘘をつくな」。「洗濯物が濡れたゾ」。「どうしてくれる!」。
なのに、外れてばかりのはずの競馬の予想に対するクレームはほとんどない。それを不思議だと私が言うと「予想」と「予報」の違いだと諭される。
しかし、予想とは「物事の成り行きや結果について、前もって想像すること」であり、予報は「立てた予想を、前もって一般に知らせること」である。ならば予想も予報も実質的に同じはず。だが実際のところ、世間が予報という言葉に抱くイメージは「予想以上、予告以下」といったあたり。予想は外れてもいいが、予報が外れるとアタマにくる。
そのことには新聞もテレビも気づいているフシがある。なぜか最近では「天気予報」という言葉を聞かなくなった。NHKは「気象情報」と呼ぶし、新聞は天気図と天気マークを何の説明もなく黙って掲載するのみ。天気ごときで嘘をつくなと言われてはたまらない。新聞が敢えて嘘をつくなら、シャーガー生存くらいのことを書くべき。ただ、日本ではエイプリルフールの嘘記事さえも禁忌とされる。新聞の嘘は例外なく許されない。
***** 2023/4/1 *****
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