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2023年4月30日 (日)

魅惑のブタカラ

GW期間中は各所で肉フェスが行われるが、東京競馬場の馬場内広場でも「肉バルTOKYO」と題して肉料理のキッチンカーが集結している。

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目当てはテレビ番組「ヒューマングルメンタリー・オモウマい店」で紹介されて一躍有名になった埼玉県羽生市の中華料理店「味のイサム」の豚肉のから揚げ。つまりブタカラ。フローラSも観戦に訪れた娘によれば、先週は早々に品切れになってしまっていたそうだ(下写真)。お店の方もGⅡだからと油断していたのかもしれない。今日は娘にとっても、お店にとってもリベンジがかかる。

Kanbai

府中本町駅に到着するなり、まっすぐ内馬場を目指した。ちょうど6レースが発走するところだが、競馬は後回し。息を切らせて馬場内に到着すると、店の前に行列は見えない。

すわ!今日も売り切れか?

しかしお店は普通に営業していた。あー、良かった。そもそも周囲を見渡しても行列ができてるお店はない。つまり空いているのである。雨予報に加えて重賞も行われないとなれば当然か。それでもブタカラにありつけることさえできれば、こちらとしては文句はない。

Butakara

豚のバラ肉を秘伝のタレに漬け込んでしっかり下味をつけてからカラッと揚げてある。サムギョプサルばりに厚切りされているから、肉々しさも申し分ない。ほんのり漂うカレーの風味がビールにジャストマッチ。ステーキや肉寿司には負けるかもしれないが、競馬場でビールのお供に選ぶならコレという気がする。

イベントとしての「肉バルTOKYO」はダービーまで続くが「味のイサム」の出店は今日までだそうだ。できることならまた近いうちに競馬場に出店してもらいたい。

スタンドに戻って9レース陣馬特別を観戦。三浦皇成騎手の5番人気・ワープスピードがまんまと逃げきった。

Jimba

この勝負服での逃げ切りを見せつけられれば、タイトルホルダーの勝利を予感せずにはいられまい。私もその一人だった。しかし天皇賞の結果は皆さんご存じの通り。淀の2マイルは厳しい。お父さんのドゥラメンテがレース中の故障で引退を余儀なくされたことを思い出す。しかも当初は「軽傷」とされながら、実は命の危機にさらされていたことを思えば、横山和生騎手の判断に間違いはなかった。

 

 

***** 2023/4/30 *****

 

 

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2023年4月29日 (土)

十三の「かすうどん」

アンタレスSが行われた日のこと。阪神競馬場に向かう途中の十三駅で電車を降りた。

「十三」と書いて「じゅうそう」と読む。関西の方には常識だろうが、関東ではほとんど馴染みが無い。乗り換えでしょっちゅう降りる駅だが、私としても改札を出たのはこの日が初めて。東口改札から商店街を歩くこと3分。11時過ぎだというのに、目当ての店「うどんバカ」の前には既に行列ができていた。

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陽気も良いので待つのは苦ではない。お店の方の対応もテキパキと小気味よく、並んでいるうちにメニューを手渡され、オーダーを取り、サクサクと列は進んで店内に通されると、すぐに注文の「かすうどん定食+鶏天トッピング」が運ばれてきた。

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細うどんがこの店のウリらしい。でも、なにより素晴らしいのはこの透き通ったダシ。かすの旨味がほどよく染み出ており、それがストレート細麺にほどよく絡む。麺は細い割に意外なほどコシが強く、口触りは滑らか至極。大盛(1.5玉)までは無料なのがありがたい。あっと言う間に麺を食べ終えて、残ったダシとかすを白飯にザっとかけて一気に掻き込む。想像通りの旨さ。定食のご飯は「かやくご飯」を選択することもできるが、このために白飯にして正解だった。

関東の人間からすれば、「十三」にも増して「かすうどん」はさらに馴染みが薄いはず。そもそも「かす」という言葉からして、食材の呼び名として相応しいとは思えない。花札にせよ「アホ、ボケ」に続けて使う場合にせよ、「かす」というのはありがたくないものの総称ではないか。

実際には牛の小腸を油で揚げたもの。「脂かす」とも言う。外はカリッとしていながら、中はホルモン特有のぷるっととした食感。しかも旨味たっぷり。なのに脂っこさやしつこさはあまり感じない。なぜだろう。理由を尋ねると「よーく揚げて油を抜いてあるから」という答えが返ってきた。でも、揚げたら余計に脂っこくなりそうですよね。まあ、私としては美味ければどうでも良い。

Kasuya

阪神競馬場内には、かすうどんをメインメニューに据えるうどん屋さんがある。その名も「KASUYA」。実はこのお店、東京競馬場や中山競馬場にもあるから関東の方でもこの味を味わうことが可能だ。新装なった京都競馬場にもしっかり店舗が入っている。さっそく先日も一杯食べてみた。かすうどんが全国の競馬場でのメジャーな地位を獲得する日も、案外近いのかもしれない。

Kasu

 

 

***** 2023/4/29 *****

 

 

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2023年4月28日 (金)

花は咲けども

「京都5社めぐり」の中で唯一手つかずだった松尾大社を訪れた。

聞けば酒造の神様らしい。ならばもっと早くにお参りすべきであった。言い伝えによれば、はるか昔、八百万の神が松尾の山に集まった際に、この地の水を使って酒をつくり神々に振舞ったとされる。境内にうず高く積み上げられた酒樽は壮観のひと言に尽きる。

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それよりも目を引くのは敷地内に群生する黄色い花たち。新緑をバックにさわやかな風に揺れる山吹は、派手さはないが目を引く花だ。

Yamabuki

競馬ファンなら春の中山で行われる3歳1勝クラスの特別戦にその名を知っているはずだ。2002年の勝ち馬はシンボリクリスエス、翌03年はゼンノロブロイ。この2年の歴史だけでも注目するに値する。写真は1998年の山吹賞を勝ったエスパシオ。このあと青葉賞で3着に入り、メジロマックイーン産駒として唯一ダービー出走を果たした一頭となった。

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遥か昔にはヤマブキオーという馬も活躍している。ハイセイコーやタケホープの同期で、中京記念、ダービー卿チャレンジトロフィー、中山記念、京王杯スプリングハンデ、金鯱賞、函館記念と重賞を6勝もした。通算20勝はJRA所属馬として勝利数の最多タイ記録。ちなみに他に20勝をマークしているのはハクチカラとオジュウチョウサンだ。

山吹に関してはこんなエピソードもある。

江戸城を造ったことで知られる太田道灌が、狩りの途中で驟雨に遭った。慌てて民家に駆け込み雨具を貸してくれと言うと、その家の少女は黙って山吹の枝を差し出したのである。その意味が理解できなかった道灌が家来に問うと、「七重八重 花は咲けども山吹のみの一つだになきぞかなしき」という古歌を教えられた。「実の」と「蓑」を掛けて、お貸しできる蓑ひとつもございませんというメッセージが込められているのである。

山吹の花に実がならないというのは、昔は常識的に知られていたらしく、万葉集の中でも「花咲きて 実はならねども 長き日に 思ほゆるかも やまぶきの花」と詠まれている。

前出のヤマブキオーは現役引退後に種牡馬となった。パーソロンの直子で、しかもこの競走実績なら当然の判断であろう。だがしかし、のちに睾丸の病気を発症して受精能力喪失という悲劇に見舞われる。名は体を表す以上、避け難い運命だったのかもしれない。

 

 

***** 2023/4/28 *****

 

 

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2023年4月27日 (木)

休み明けを狙え

約1年ぶりのレースとなる福島牝馬Sをステラリアが勝ったことで、私の頭にバイアスがかかっていた感は否めないが、翌日の京都でも休み明けの馬がやたらと活躍した印象が強い。実際に私が観戦した第6~第11レースにおける連対馬12頭のレース間隔を調べてみるとこうなっていた。

3か月未満:6頭
3か月以上:6頭

なんと半数が3か月以上の休み明け。これでは休み明けの馬が活躍した印象を受けても仕方あるまい。しかも話題のヤマニンウルスから始まって、休み明けが4連勝していた。エクセトラに至ってはプラス28キロで圧勝している。

6r

 6R ①着 ヤマニンウルス   8か月
 7R ①着 エクセトラ    10か月
 8R ①着 ホウオウフウジン  4か月
 9R ①着 サジェス      5か月
10R ②着 トウシンモンブラン 8か月
11R ②着 ガイアフォース   3か月

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今年は、桜花賞と皐月賞を揃って休み明けの馬が勝ったという点で気を画する年である。皐月賞を3か月以上の休み明けで勝ったのは史上初めて。桜花賞でも、かつては王道ローテと呼ばれたチューリップ賞組が7連敗となった。出走レースを絞る手法が定着した昨今、こうした傾向は今後ますます顕著になるに違いない。

ソールオリエンスと同じ黄黒縦縞の勝負服で2003年の皐月賞を制したネオユニヴァースは、1月の白梅賞を勝ち、2月のきさらぎ賞で重賞初制覇を飾ったあと、わざわざ3月のスプリングSにも遠征してきたのち、中3週で皐月賞に向かった。同じ年に牝馬3冠を制したスティルインラヴも、1月の紅梅Sで桜花賞出走をほぼ確実にしておきながら、チューリップ賞を使い中3週で桜花賞に臨んでいる。

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これを「20年も昔の話」とするか、あるは「たった20年前の出来事」とするかは意見の分かれるところだが、オールドファンほど後者の念を抱くのではないか。かく言う私もすでにオールドの人間。受ける印象は間違いなく後者だ。

今週日曜の谷川岳Sには1年1か月振りの競馬となるアライバルがスタンバイ。間隔を空け、使うレースを絞る現在のトレンドを生み出したノーザンファームの生産馬となれば、休み明けをマイナス材料にする必要はなかろう。同じコースでスタニングローズを寄せ付けず、セリフォスに迫った新潟2歳Sのレースぶりを振り返れば、素質の高さは疑いようがない。緒戦から注目しよう。

 

 

***** 2023/4/27 *****

 

 

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2023年4月26日 (水)

春セリ

「夏セリ」はサマーセールで「秋セリ」はオータムセールのこと。いずれもHBAが主催して静内で行われる1歳馬市場を指す。だが、仙台には「冬セリ」と「春セリ」があるらしい。それで先週の福島訪問のついでにわざわざ仙台に立ち寄った。

……なんて、勘の良い人なら「仙台」でお分かりだろう。そう、野菜の「セリ」の話。牛タン、笹カマボコに続く第三の仙台名物として「セリ鍋」がメディアで紹介されるようになって久しい。

「セリ鍋」は冬の定番だからそれに使われるセリは「冬セリ」である。「根セリ」とも呼ばれて、仙台の正月のお雑煮には欠かせないらしい。一方の「春セリ」はちょうど今が出荷の季節。春に伸びた柔らかな新芽を摘んで出荷されるため、「葉セリ」とも呼ばれる。出荷時期の短さから、東京や大阪に出回ることはあまりないらしい。

仙台駅ビルの地下に暖簾を掲げる「うどん酒場七右衛門」に春セリを使った一杯があった。その名も「宮城県産春せりとばら海苔の冷たいうどん ~刻みわさび添え~」。春セリとうどんを一緒に味わうことができる逸品に違いない。

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出てきたのは見た目に鮮やかな一杯であった。漆黒のばら海苔と春セリの明るいグリーンのコントラストが素晴らしい。ダシに浸された春セリはたしかに柔らかく、香りも華やか。えぐみなど一切ない。私が知るセリの概念は完全に覆された。冬セリより断然美味しい。

むしろ戸惑いは麺の方にある。これがけっこう硬い。春セリが柔らかいだけに、その硬さががぜん際立つ。

お店は「本場讃岐うどん」を謳ってはいるが、この硬さはむしろ武蔵野うどんに近い。讃岐の特徴はなんといってもコシの強さ。それは弾力性と粘りの共存にほかならない。すなわち口に入れた瞬間はむしろ軟らかいと感じ、しかるのちに弾力と歯応えがやってくる状態を指す。「コシが強い」イコール「硬い」ではない。

誤解の無いように付け加えるが、硬い麺がダメだと言うつもりはない。武蔵野うどんの、あの武骨なまでの硬さはむしろ好きだ。ようはそれに合う食べ方ができるかどうか。個人的にはこの上品なダシではなく、麺の強さに負けないツユでつけうどんにしたかった。でもこれも仙台の味として思い出に残しておこう。なにより春セリが美味しかったのでヨシとする。帰宅するとトレーニングセールのカタログが届いていた。ウマの方でも春セリの季節が始まる。

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***** 2023/4/26 *****

 

 

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2023年4月25日 (火)

競馬場の壁

京都競馬開催中は淀駅に快速急行が臨時停車する。ただ快速急行の6号車はプレミアムカーだから別料金を支払わなければならない。でも、メインレース終了後のホームはカオス状態。6号車の前に立つ駅員さんは「乗車券しか持たないお客様はご乗車になれませーん!」と叫び続けていた。マイラーズCでこの調子では今週の天皇賞が思いやられる。

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京都競馬場ゴールサイドの3階有料席エリアに「Coco壱番屋」が入った。東京競馬場にも出店しているが、京都は座席のあるレストランスタイル。ゆったり配置されたテーブルの多くは4人掛けだが、一人客でも相席にすることはしていないようだ。それでも4~6レースのピーク時を除けば案外空いていた。ロースカツカレー&チーズトッピングは1220円。しかし安心安定のココイチの味だ。

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4階には「肉処だるま」という肉料理専門店が入った。2000円を超えるメニューが大半を占める中、うどん類は比較的安い。こちらでは先に発券機で食券を買うスタイル。現金用と電子マネー用があるから注意しよう。窓際のカウンター席からはパドックこそ見えないものの、行き交う京阪電車を眺めることができる。肉うどんは1200円。

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新スタンドの特徴のひとつは、観覧席にせよ飲食店にせよ配置にゆとりが感じられることではないか。3階の端には上の写真のようなスペースもある。パドックを見下ろすバルコニーも広い。「スマートシート+(プラス)」エリアは座席の間にちょっとした荷物を置けるスペースがある。A指定席は二人用シートでありながら、それぞれの座席が独立しているから一人客には嬉しい。

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しかしそのぶん値は張る。なにもレストランのメニューだけではない。屋外で、しかも机もない「スマートシート+A」は1600円。A指定席は4000円。これが今週の天皇賞当日になると倍に跳ね上がる。今回の改修を経て京都競馬場の有料席エリアは16もの料金区分が細かく設定された。そのせいか知らんが、場内には通行を遮る柵や仕切りが目立つ。構造上は1階から3階に連なる屋外席でありながら、3階席から目の前の階段で1階に降りることはできない。

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英国の競馬場で言うところの「エンクロージャ」を思い出す。かの国では特別のチケットを持たぬ客はパドックを見ることも、ゴール前に立つことも許されない。これは競馬場内のエリアが柵で囲われているせい。これを16世紀の英国で領主が行った農地の囲い込みに倣って「エンクロージャ」と呼ぶ。席のみをカテゴライズすることは日本でも珍しくないが、通行すら認めぬあたり、さすが階級社会の祖という気がする。

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土曜の福島でのこと。競馬場に到着すると、自分が購入したスマートシートに見ず知らずのおじさんが座っている。どうやらそこが有料席だとは知らなかったらしい。それで事情を説明すると、そんなことがあるわけないといった表情で驚いていた。まあ、ついこないだまで自由席だったのだからその気持ちは分からないでもない。

最近、「入場券しか持たないお客様」というフレーズを競馬場でやたらと耳にするようになった。競馬場の客は「入場券しか持たないお客」と「入場券以外の何かを持っているお客」に二分化され始めているらしい。京都競馬場の姿は近い将来の東京や阪神の姿であろう。それが新型コロナがもたらしたニューノーマルの姿なのか。それに対する答えを、残念ながら私はまだ持ち合わせていない。

 

 

***** 2023/4/25 *****

 

 

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2023年4月24日 (月)

不毛な争い

「公示直後から激しいデットヒートが続いてきました」

統一地方選の後半戦投開票日となった昨夜の選挙報道報番組で、そんな表現をした記者がいた。ひょっとしたら私の聞き間違いかもしれないと思ったので注意しながら聞いていたのだが、そのあとも「デットヒート」と発言していたので、少なくとも聞き間違いではないと思う。

この記者は二つの間違いを犯している。

競馬ファンなら知る人も多かろうが、「激しい戦い」とか「息詰まる攻防」といった意味合いで使われることが多い dead heat という言葉は、元来が競馬用語で「同着」を意味する。「ヒート(heat)」は競馬におけるひとつの競走を指し、同着により勝者敗者が決しない場合はすなわち「死んだ(dead)競走(heat)」ということになる。

これを最初に日本語に訳した人が、つい字面だけを見て「死闘」としたことが間違いの始まり。誤訳も年月を積み重ねれば、正しい日本語に変貌を遂げることもあるのだろうけど、英和辞書を紐解けば、やはり「dead heat=引き分け、同着」であり、転じて「不毛な争い」や「どうでもいいこと」という意味にも使われるとは書いてあっても「接戦」とは書いてない。

Deadheat

ここでふと気づいた。ひょっとして、冒頭の記者は

「公示直後から激しい“不毛な争い”が続いてきました」

とでも言いたかったのであろうか?

だとすればタダモノではない。選挙が大事なのは一にも二にも立候補者本人である。私にとっては、まさにどうでもいいこと。それよりも競馬用語を誤用される方がずっと気になる。

しかし、だ。仮に誤用ではなかったとしても、それを言うなら「デッドヒート」であろう。それが二つ目の間違い。dead heat のスペルを知っていれば間違えることもあるまいに。「サラブレット」に「シンジゲート」。この手の間違いは、なぜか競馬関係に多いような気がする。

 

 

***** 2023/4/24 *****

 

 

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2023年4月23日 (日)

3年ぶり、春の京都

昨日の福島牝馬Sでワンツーを決めた団野大成騎手と西村淳也騎手は、今日は京都で乗る。それを追いかけたわけではないが、私も今日の河岸は京都とした。そのために昨日はマツケンサンバも観ることなく、急ぎJR福島駅へと向かったのである。

それでも福島から関西への移動はキツい。初めて体験して思い知らされた。寝ても疲れが取れてない。きっと団野騎手も西村騎手も同様であろう。それで今日は彼らを馬券から外して勝負したら、団野騎手は2勝。西村騎手もメインで2着の大活躍である。おかげで私の馬券はことごとく外れた。若いって素晴らしいですね。

ともあれ新装なった京都競馬場への記念すべき初訪問である。

淀の駅を降りて専用通路をゲートへと歩く。天気は晴天。昨日のような風もない。絶好の京都日和に気を良くしてゲートにたどり着いたのは良いが、一転して戸惑うことになった。競馬場のゲートに当然あるべきものが見当たらない。チケット売り場。そこで指定席のチケットを受け取り、リストバンドを巻いてもらわなければならない。それがどこにもないのである。

「あれ? このゲートじゃないのかなぁ」

京都競馬場にはもう一つ入場門がある。今回の改装で「三冠ゲート」と名付けられたらしい。でも、大半の入場客が利用するはずの「ステーションゲート」にチケット売り場がないのはおかしい。

戸惑う私に優しいJRAスタッフがすぐに近づいてきて教えてくれた。京都ではチケットやリストバンドは使わないらしい。代わりにスマホ画面に表示されるQRコードを、入場門や指定席エリアへのチェックポイントでかざすのだそうだ。つまりスマホがこれまで以上に重要なアイテムになる。バッテリー切れや通信障害にはくれぐれも用心したい。競馬場ではQRコードのスクショ保存を強めに推奨していた。

ともあれスマホをピッとかざして入場。その後、指定席エリアに入るときもスマホを取り出す。なかなか面倒臭い。でも慣れるしかない。注意事項はもうひとつ。指定席エリアから一般エリアに退出する際にもQRコードの提示が求められる。おそらく指定席エリアへの不正入場防止目的であろう。だから指定席を利用する場合はスマホが手放せない。特殊塗料のハンドスタンプをブラックライトで確認していたのはわずか3年前の話。しかし隔世の感がある。

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新装・京都競馬場で行われる記念すべき最初の重賞レースは読売マイラーズカップ。出走15頭はいずれも歴戦の古馬のはずだが、京都コース未経験馬が10頭もいる。それだけ京都の休止期間が長かったことの証であろう。シュネルマイスターもそんな一頭。レースでは中団後方を追走。道中はじっくり脚を溜めつつ、坂の下りからじわっと進出。直線に向いて外に持ち出すと末脚が一気に爆発した。ただ一頭32秒台の上がりで差し切ったレースぶりを観れば、やはり力が違ったと言うほかはない。

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管理する手塚調教師は「安田記念に向けて良いスタートが切れました」と安堵のひと言。折しも厩務員労組と調教師会の春闘交渉が一昨日未明に妥結したばかり。厩務員ストライキが国会でも審議される騒ぎになった春闘もこれでようやくひと段落。双方にお疲れ様と言いたい。手塚師は調教師会長として交渉と開催確保の責任を背負っていた。その心労たるや察するに余りある。私の福島からの移動の疲れの比ではあるまい。シュネルマイスターの優勝はちょっとしたご褒美になった。そういうことがあっても良いと思う。

 

 

***** 2023/4/23 *****

 

 

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2023年4月22日 (土)

4年ぶり、春の福島

春の福島競馬は、2020年から昨年まで二度の大きな地震でスタンドが被災したことに加え、新型コロナウイルスの影響で3年にわたり中止や無観客開催を余儀なくされた。つまり福島牝馬Sは4年ぶりにお客さんの前で行われることになる。京都競馬場のグランドオープンも一大事だが、こちらはこちらで見届けたい。そんなファンは存外多かったようで、11631人が福島競馬場に詰めかけた。

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福島牝馬Sの優勝馬にはヴィクトリアマイルへの優先出走権が与えられるから、阪神牝馬Sと並ぶヴィクトリアマイルの前哨戦という位置付けではある。しかし、ここにGⅠ級が出走してくることはほとんどない。勢い人気もあやふやになる。これでは荒れるのも無理はない。

今年の1番人気は中山牝馬S2着のストーリアが背負った。横山武史騎手がわざわざ来福したことも人気を後押ししたか。しかしこのレースで1番人気が勝ったのは2013年のオールザットジャズが最後。以降9連敗中とあらば手放しで喜ぶわけにもいくまい。人気と一緒に余計なモノまで背負わされることもある。なにせストーリアにとっては初コース。負担重量は前走から3キロ増。受けて立つほどの余裕はなかろう。

レースはストゥーティの逃げ。しかし、向こう正面で後方にいたストーリアが一気にマクり上がって2番手につけると、後続も次々と動き出す。仕掛けながら4コーナーを回ったステラリアが直線で先に抜け出したクリノプレミアムを捉えて先頭。ビッグリボンの大外強襲もハナ差凌ぎ切って重賞初制覇を果たした。

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エリザベス女王杯2着の実績があるステラリアは、ここでは数少ない「GⅠ級」と呼べる存在である。とはいえ繋靱帯炎の影響で、ほぼ1年ぶりの休養明けでは正直手は出しにくい。調教師も「良い頃と比べると今ひとつ」と不安を隠そうとしなかった。なにせデアリングタクトを苦しめ、ステイフーリッシュを引退に追い込んだあの繋靱帯炎である。8番人気は妥当だろう。むしろそれで勝ったことが凄い。

斉藤調教師は「脚元をよく確認してから今後のことを考えたい」とコメントされていたが、獲得したヴィクトリアマイルの優先出走権を使うことはおそらくあるまい。中2週となることに加え、現状では右回りの方が彼女のフィーリングに合っている。そう考えると、ヴィクトリアマイルの前哨戦という触れ込みにはやはり無理があるのではないか。せめて施行日を一週前倒しするなどの配慮が欲しい。

1番人気ストーリアは5着。向こう正面で仕掛けたのはプラン通りだったらしい。「ただ他に早めに来られて苦しくなった」とは横山武史騎手の弁。1番人気が動いたら他の馬だってジッとしているわけにはいかない。これで福島牝馬Sでの1番人気連敗記録は「10」に伸びた。人気も時には結果を左右するのである。

 

 

***** 2023/4/22 *****

 

 

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2023年4月21日 (金)

白石うーめん

在来線に揺られて仙台から福島に向かう途中、白石駅に降り立った。乗った電車が白石どまりだったせいもある。多くの乗客は福島行きに乗り換えるようで、改札口を出る客の姿はほとんどない。駅前には鐘楼が佇んでいる。午後5時になると、実際にゴーンゴーンと鐘の音が鳴り響くらしい。

突然だが「白石」と聞いて何を思われるだろうか――ー?

「ホワイトストーン」

私と同年代の競馬ファンならそう答えるかもしれない。

でも歴史ファン、特に幕末にうるさい方なら「白石城」と答えるはずだ。伊達政宗の右腕・片倉景綱が城主となったのは1602年。戦国の世が終わり、一国一城令が発令された後も、仙台藩は仙台城と白石城の2城が特別に許された。戊辰戦争のさなか、薩長連合に対抗するための奧羽越列藩同盟は、ここ白石城で結ばれている。白石には軍議所や奥羽越公議府も置かれ、同盟が擁立した輪王寺宮親王も入城。そんな歴史の舞台も一度は新政府によって取り壊された。現在の白石城天守は1995年に復元されたものだ。場内の桜は見頃を終えているが、今は新緑が美しい。

そしてもうひとつ、白石には名高いうどんがある。それが「うーめん」。漢字では「温麺」と書く。麺の長さはわずか9センチ。日本の伝統的な麺類の中では最も短い。2008年、吉永小百合さんがJR東日本のCMの中でこの「うーめん」を食べるシーンがあったことで、全国的に有名になった。

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JR白石駅前に暖簾を掲げる「なかじま」は、この地で半世紀以上うーめんを出し続けてきた老舗だ。

うーめんの歴史も白石城と同じように古い。1689年、地元の農民・鈴木味右衛門が、胃病の父親のために油を塗らないで作れる素麺を工夫して作ったのが始まり。麺を短くしたのは諸説あって、地元では「それも胃の負担を減らすため」とする説が有力だそうだが、私としては「馬で運ぶ際に折れにくいようにするため」に一臂票を投じたい。

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味は素朴な冷や麦という感じ。だから通常の蕎麦ツユはもちろん、ゴマダレにもクルミダレにも何ならカレーにだって合わせることができる。地元では「おくすがけ」という食べ方が昔から好まれているらしい。トロみを効かせた熱々のけんちん汁をかけて食べるのだが、季節はずれの暑さに怯んで断念。冷たいうーめんとした。

「うーめんは温かくして食べるものではないのてめすか?」

そう聞いてくるお客さんは実際多いそうだ。「温麺」のせいであろう。実はうーめんの歴史も白石城と同じように古い。1689年、地元の農民・鈴木味右衛門が、胃病の父親のために油を塗らないで作れる素麺を工夫して作ったのが始まとされる。そこエピソードは白石城のお殿様にも伝わり、その温かな思いやりを讃えて「温麺」と名付けた。だから食べ方とは関係はない。

麺を短くしたことには諸説あって、地元では「それも胃の負担を減らすため」とする説が有力だそうだが、私としては別の説「馬で運ぶ際に折れにくいようにするため」に一臂票を投じたい。でも実際に食べたら、毎回ひと啜りで口に入るこの長さは絶妙だった。

 

 

***** 2023/4/21 *****

 

 

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2023年4月20日 (木)

名は体を表す

桜花賞トライアルのフィリーズレビューとオークストライアルのフローラSは、ちょっと前まで「4歳牝馬特別」という同じレース名だった。格付けもGⅡで同じ。それぞれ「報知杯」と「サンスポ賞」という副題が付いていたから厳密な意味では異なるのだが、当時の我々はそんなことは全く気にも留めずに、どちらも「ヒントク」と呼んでいたように思う。

なにせ同じ日に東西で「金杯」が行われていた当時のことである。レース名はそれぞれ別々でなければならない―――なんていう意識はおそらく薄かった。メジロラモーヌ、ヤマヒサローレル、そしてマックスキャンドゥが3月に4歳牝馬特別を勝ち、翌月にまた4歳牝馬特別を勝っても、そのことに特別な違和感をを覚えたという記憶はない。

それにしても「4歳牝馬特別」とは、いま思えばなんとも味気のないレース名である。初めて「フィリーズレビュー」という新名称を聞いた時は「レビュー? なんじゃそりゃ?」と呆れた覚えがあるが、「フィリーズレビュー」に馴染んだ最近のファンにすれば「牝馬特別? なんじゃそりゃ?」であろう。初めて聞いた人は、重賞ではなく特別戦かと勘違いするかもしれない。

一方で「フローラS」の方は、既に3歳牝馬のオープン特別で使われていたレース名だったから、私としても比較的違和感なく受け入れることができた。オープン特別として行われた最後のフローラSを勝ったのは、2000年のラヴィエベル。鞍上は小野次郎。しっかりした末脚で中山の坂を駆け上がってきた姿が、いまなお印象に残る。

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「ラヴィエベル(LA VIE EST BELLE)」はフランス語で「人生は素晴らしい」の意。オーナー・伊達秀和氏のネーミングセンスは秀逸だった。「牡馬は力強く、牝馬は優しさを基本に」がモットー。そう伺ったことがある。「アローエクスプレス」「ファンタスト」「プリモディーネ」と聞けば、なるほどそうかと頷くしかない。「名は体を表すからね」ともおっしゃっていた。命名をおろそかにしてはいけない。

さて今週の東京メインは、そのフローラSである。「フローラ(FLORA)」はローマ神話に登場する花と春の豊穣を司る女神の名。女神の祝福を受けそうな、美しい名前を持つ一頭を選びたい。

 

 

***** 2023/4/20 *****

 

 

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2023年4月19日 (水)

競馬場の旗

洋式競馬が始まった当初、レースのスタートの合図は単に赤旗を振り下ろすだけだった。現在でもスターターが集合の合図に赤旗を振るのは、この名残とされる。

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今では競馬場では3種類の旗が「扶助用具」として使われている。スターターが集合の合図を告げる時に振る赤旗。走破タイムやラップタイムなどの測定係に馬が無事にスタート地点を通過したことを知らせる黄旗。そしてカンパイがあった際に、騎手にその旨を知らせる白旗だ。ちなみに赤旗はスタート地点から150mの地点に立つ白旗係にカンパイを知らせるときにも使われる。

昨日の大井6レースで1号馬チアリーがフライングしたため発走のやり直し、いわゆる「カンパイ」となった。珍しいことではあるが、全国レベルで見れば年に一回くらいの頻度で起きている。映像では、ゲートが開く前に馬がつんのめった拍子に鼻先でゲートを開けてしまったように見えた。フライングというと我先にと飛び出したようにも聞こえるが、むしろ「開けちゃった」というイメージに近い。

それに気づいたスターターは、ただちに手に持った赤旗をぶんぶん振りまわした。スタート地点から150m地点に立つ白旗係は、その合図を視認したら大きな白旗を振りかざしながら身を挺して全ジョッキーにカンパイであることを伝えなければならない。目の前に時速60キロで迫ってくる500キロ近い馬たちを、旗一本で止める仕事がどれだけ恐ろしいか。命掛けの仕事といっても、あながちオーバーではあるまい。

Kanpai

カンパイが報じられると、たいていその語源が話題になる。

これも洋式競馬が始まった当初の話。競馬が横浜の外国人の手によって行われていた当時、スタートのやり直しを叫ぶ「カムバック!」という声が、日本人の耳には「カンバイ!」と聞こえ、それが「カンパイ」に転じたとする説が有力とされる。文明開化の明治初期に幅を利かせた横浜英語の名残り。ただ、個人的にはそんな聞き間違いをするかな?という疑念が湧かないでもない。「乾杯」にせよ「完敗」にせよ、どうも話ができ過ぎている。

とはいえ、日本人が英語の濁音に馴染めない面があることも事実。いまだにサラブレッドを「サラブレット」と呼ぶ人がいるのは、その最たる例であろう。そういう私自身、ブロマイドを「プロマイド」だと思っていた時期があるから人のことは言えない。しかもいまだに「ブ」の方に違和感が残るのだから妙だ。

カンパイは、一度は全力で走る気になった馬に急ブレーキをかけるわけだから、馬にとっては大きな混乱の種となる。二度目の発走では気分を損ねて上手くスタートできない馬も少なくない。そういう意味ではカンパイでは逃げ馬に与える影響が大きいとされる。ファンにしてみればスタートをやり直すのであれば、馬券も買い直させてくれと言いたい気分であろう。

 

 

***** 2023/4/19 *****

 

 

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2023年4月18日 (火)

アンタレスSでの出来事

おとといの阪神競馬場は空いていた。3階スマートシートには空席も目立つ。少し離れた隣には細身で眼鏡をかけた中年男性がスーツ姿で観戦していた。

いかにも愛馬の口取りに備えて準備してきた一口会員さんといった風情。ずっと物静かに競馬を観続けている姿が印象的だ。ときおり双眼鏡を覗く以外は拳を振りかざすことも、声を上げることさえもいっさいしない。レースが終わるとやおらパドックに向かう。他場のレースを観るでもなく、ビールを買ってくることもない。ファンファーレが鳴り響く直前に席に戻ると、静かに腰を下ろして、また双眼鏡を覗く。その繰り返しである。

この日のメインはアンタレスS。4連勝中のプロミストウォリアが人気を集めている。見るのは初めてだが、お姉さんのプロミストリープは南関東のクラシックで活躍したからよく覚えている。その弟なら素質は間違いあるまい。

スタートは抜群。難なくハナを奪うと、あとはペースを上げてどんどん後続を引っ張っていく。直線に向いてもまだ先頭。後方からキングズソードが良い脚だ。さらに内ラチ沿いをするするとヴァンヤールが伸びてくる。

そのとき、である。

「そのままだぁ! 逃げろぉ!!

「鮫島ぁ! 粘れぇ! 持たせろーっ!」

「うぉっしゃーーーーーっ!!!」

Promised

ファインダーから目を上げると。さっきの男性が右手を高々と突き上げていた。

あらら? こんな人だったんだ。さっきまでの雰囲気とぜんぜん違うじゃん。

まあ、自分の出資馬が重賞で勝つとなれば半狂乱に陥るのも無理はない。この人はきっとプロミストウォリアの出資者さんで、口取りに備えてスーツを着てきたのであろう。

しかし驚いたのはここから。その人は席に座ったまま動こうとしない。普通、出資馬が勝てば真っ先にウイナーズサークルへ走るもの。ましてや口取りの申し込みをしてあれば、ただちに指定された集合場所に向かわなければならない。

出資者ではなかったのだろうか?

まあ、馬に出資していなくても、プロミストウォリアの馬券を腰を抜かすほど買っていた可能性もなくはない。

ともあれプロミストウォリアは頑張った。いよいよGⅠが見えてくる。となれば帝王賞だが2000mは果たしてどうか。私としてはアンタレスSの最後の1ハロンが13秒3と鈍ったことが気になって仕方ない。

「ハイペースも酷量も、ものともせず……」

そう評したメディアもあったが、1000mのラップ59秒4は速いとはいえ一昨年の59秒2よりは緩い。にも拘わらずテーオーケインズは12秒台で上がって勝ってみせた。58キロが定量となった今、59キロごときで騒ぐわけにもいくまい。

とはいえ、6歳ながらキャリアはわずかに8戦。皐月賞の出走馬ちたとさほど変わらないことを思えば、まだまだ成長の余地もあるに違いない。あの男性の意見を聞いておけばよかった。

 

 

***** 2023/4/18 *****

 

 

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2023年4月17日 (月)

続く因縁

仕事が忙しいとか眠いとか言っておきながら、なんだかんだフェブラリーS、高松宮記念、大阪杯、桜花賞は現場でしっかり観てきたので、昨日の皐月賞は久しぶりにモニター越しに見るGⅠレースとなった。ゴール寸前、画面の右端から突然何かが放たれた矢のように飛んでくる。何だありゃ? それがどの馬なのか理解するまでにしばらく時間が必要だった。

3戦目での皐月賞制覇は、2歳戦が実施されるようになった1946年以降での最少キャリア記録。でも3戦目でのダービー制覇が既に記録されている以上、この数字にさほどの価値は感じない。それよりも京成杯優勝馬が皐月賞を勝ったことに驚かされないか。皐月賞と同じコースで行われる重賞でありながら、その優勝馬の皐月賞成績はサンツェッペリンの2着が最高だった。1600mで行われていた1998年以前を含めても同じ。アローエクスプレスですら本番ではタニノムーティエの2着に泣いている。

1枠1番を引いた時点で、私は「ソールオリエンスは消し」と決めつけてしまった。初めての多頭数競馬の試練に加え、折からの大雨で内ラチ沿いの傷みは激しい。自身の追い込みスタイルに徹するには、いったん下げて外に出すロスを引き受ける必要がある。リバティアイランドじゃあるまいし―――。そう思っていたら、牡馬にもリバティアイランド級がいたというわけ。思い返すだに恥ずかしい。

リバティアイランドに負けず劣らず、ソールオリエンスの血統も芝2400mにこそ向いている。脚質的にも距離延長は歓迎のクチ。ただ今回も4コーナーで膨れていたように、ハンドリングに一抹の不安が残るのも事実。トライアビットハミを使っているのもそのためであろう。陣営は「緩さ」を強調している。それは同じキタサンブラック産駒のイクイノックスにも言われていたこと。イクイノックスがダービーで敗れた事実は忘れないでおきたい。

ともあれ種牡馬キタサンブラックは、この勝利で総合種牡馬ランキングの7位に躍り出た。イクイノックスのドバイシーマクラシックの賞金を含めれば、ドゥラメンテを抜いて2位になる。産駒がわずか2世代だけであることを考えれば、凄いとしか言いようがない。とにかく大器が目立つ。

Kitasan

思い返せば、お父さんのキタサンブラックも土砂降りの天皇賞・秋で最内枠からのスタート。そこで致命的な出遅れに見舞われながら、それをものともせず勝っていた。あのレースで2着に迫ったのは、昨日の皐月賞で一度は勝ったと思わせたタスティエーラの父サトノクラウンではないか。タスティエーラは悔しいが、サトノクラウンも悔しい。ダービーではタスティエーラの巻き返しにも期待しよう。なにせダービーには縁の深い弥生賞馬。因縁は続くのである。

 

 

***** 2023/4/17 *****

 

 

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2023年4月16日 (日)

逃げろ、穴子さん!

競馬場に向かう道すがら、農産物直売フェアみたいなイベントが行われてる中に穴子寿司の幟を見つけて、つい足を止めてしまった。

関西ではメジャーな穴子の押し寿司がまるまる1本。見るからにふっくら焼かれた穴子は実に美味そうだが、どこを探しても値札が無い。そう思った瞬間、「1620円です。すみません、開店したばかりで値札はこれからなんです」と店員さんらしき人が教えてくれた。

1620円は決して安くはない。でも、見た目はそれぐらいの値でもおかしくない気がする。「そうですか。思ったより安いですね」という顔を作りながら、買ってしまった。競馬場の昼食に押し寿司は悪くない。手軽につまめるうえ、しっかりボリュームもある。

関東で穴子の季節と言えば梅雨から夏と相場が決まっているが、こちらは既に始まっているらしい。特に大阪湾の穴子は美味いと有名で、北大路魯山人も認めたほど。大阪府の春を代表するプライドフィッシュにも選ばれているそうだ。そんな話まで聞かせてもらえれば1620円払っても惜しくはない。

関東との違いがもうひとつ。関東の穴子寿司は煮穴子が主流だが、関西では焼き穴子が一般的なのが面白い。大ぶりの穴子をふっくらと白焼きにしてあって、食べる前にツメをかけて食べる。この旨いこと。脂が乗っているということはないのだが、これは季節的に仕方ない。そのぶん穴子本来の味が口いっぱいに広がる。旨味は濃厚なツメが補ってくれればそれで良い。

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食べながら出馬表を見ていると10レース・立雲峡Sにアナゴサンが出てくることに気付いてしまった。ミッキーアイル産駒の5最牡馬。前走は7着と敗れたが、クラス5戦目の慣れも見込める頃合いであろう。今回は距離短縮に加え、先手が取れそうなメンバー構成とくれば、一気の押し切りがあってもおかしくない。なにせ穴子寿司は握りも良いが、関西なら「押し」に限る。馬券は単勝と③番と⑤番との組み合わせで勝負だ。つまり「穴⑤③」というわけ。

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ゲートが開くとアナゴサンがすんなり先手を奪った。そのペースは半マイル48秒1だから、稍重馬場にしてもかなり遅い。この時点で2番手以下を2馬身離しているのだから、さすがに勝負あった。勢い場内実況を楽しむ余裕も生まれる。

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「さあアナゴサンが逃げる」

「粘る粘るアナゴサン」

「アナゴサンが押し切った」

まるでアニメ番組「サザエさん」の中で、また何かやらかした穴子さんが、怖い奥さんから逃げて、サザエさん宅にかくまわれたりもしながら、最終的にサザエさんやマスオさんの計らいで無事に帰宅できたような数々のエピソードを思い出して、思わずニヤけてしまった。もちろん馬券が当たったという喜びもある。穴子の押し寿司を食べたらアナゴサンが押し切るのだからこんな痛快事はない。

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結果的に寿司代が浮いたばかりかプラスになってしまった。2着に飛び込んだ③ボルザコフスキーは偉い。あの穴子寿司を出していたお店と、アナゴサンと、ついでに穴子さんにも感謝しつつ、10週20日間続いた春の阪神開催に別れを告げよう。来週は開催替わり。関西競馬ファンが待ちに待った京都競馬が始まる。

 

 

***** 2023/4/16 *****

 

 

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2023年4月15日 (土)

春の雨

大阪は雨の一日。

歳時記では「春の雨」と「春雨」を明確に区別している。「春の雨」は冬の名残の冷たい雨をも含む春に降るすべての雨を指すのに対し、「春雨」は春の後半にしっとり降る雨を指す。月形半平太の名セリフ「春雨じゃ、濡れてゆこう」の、あの雨だ。具体的には静かな細い雨。日本人はそこに風情を感じるから特別な呼び名になる。

そういう意味では今日の雨は間違いなく春雨だった。夏に向けて木の芽を張り、草丈を伸ばす植物にとっては恵みの雨だが、一方で開催末期の競馬場の芝にとっては致命的な雨にもなりかねない。なにせ明日は皐月賞。クラシックの行方を左右する雨になる可能性も秘めている。

とはいえ雨の競馬を私はそれほど嫌いではない。観客の少ない競馬場で、傘を差しながら霞に煙る向正面の馬群を眺めるというのも、また格別な風情を感じるもの。しかし一方で私は「雨の撮影」はまるで好きではない。好きなカメラマンなどいないとは思うが、理由は言うまでもなく濡れるからだ。

とはいえ、単に身体や衣服が濡れることを厭うわけではない。撮影機材が濡れてしまうことが圧倒的に困るのである。

カメラは精密機械であるから、そもそも水や湿気に弱い。しかも、デジタルカメラの普及でカメラそのものがどんどんコンピュータ化した現代では、ますますその傾向は強くなりつつある。突然電源が落ちて、ウンともスンとも言わなくなったなんて話はザラ。なのでデジタル化と同時に雨には特別の神経を使うようになった。

一方で、「雨の中でのフィルム交換」という地獄のようなシーンがなくなったことは、デジタル化がもたらした福音であろう。結局は雨に対する神経の使い方が変わっただけで、総量的なものはあまり変わっていないのかもしれない。いずれにせよ、カメラに雨は大敵なのである。

ありがたいことに最近は屋根のあるスタンドから競馬を観ているし、重たいカメラ機材を持って競馬場に行くこともほとんどなくなった。だから気持ちはゴールドシップと変わらない。つまり「雨あめ、降れふれ」である。

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今の雨は明日の朝にいったんやむらしいが、午後からまた降り出すそうだ。しかし明日の雨は一点して夏の夕立のような激しい雨になるらしい。季節の境目ならば不思議でもないが、春雨は「はるさめ」と読むのに対し、夏雨と書いて「かう」と読ませるのは不思議。しかし訓読みだと細く柔らかいイメージであるのに、音読みだと太く豪快なイメージが湧いてこないか。こうした読みひとつをとっても、日本人がいかに季節感や自然現象を大事にしているかが伝わってくる。

 

 

***** 2023/4/15 *****

 

 

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2023年4月14日 (金)

熊本地震から7年

観測史上初めて2度の震度7を記録した熊本地震から今日で7年。先月末には仮設住宅も閉鎖され、熊本・大分両県で計276人が犠牲になった大災害の記憶も徐々に薄れつつある。しかし一方では熊本城の復旧工事はなお続いており、自宅再建が叶っていない人がいることも忘れないでおきたい。

そんなことを考えるうち思い出した。

「熊本の人たちに募金したい」

そう言って娘が千円札を渡してきたことがあったのである。7年前の地震発生から10日が過ぎたフローラS当日の午後のことだ。

当時娘は小学5年生だったはず。我が子ながらなんと見上げた心がけであろうか。月々のお小遣いの額を考えれば、彼女の千円は大金である。できれば何か物を送りたいのだが、それは難しいようだから募金したいのだという。

「なるほど。それは良い心がけだ」

私は褒めちぎりたい気持ちをグッと抑え、さも当然という口調でそう答えた。軽々しく褒めては親の威厳にかかわる。

「ならばJRAのジョッキーたちが募金活動をしているらしいから、それに協力しなさい。今から競馬場に行けば最終レースに間に合うだろう。募金は最終レースのあとだ」

そう言いながら、いざ競馬場に着いてみればしっかりメインに間に合ってしまうあたり、いかにも私らしい。フローラSの1番人気はハッピーパスの娘・チェッキーノ。せっかく間に合ったのだから彼女の単勝をちょこっと買ってみようか。万一当たったらその払戻金も募金すればいい。

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そしたらホントに勝ってしまった。しかも府中芝2000mの大外枠を克服しての3馬身差。1分59秒7の勝ち時計も速い。なにより私の単勝が当たるなんていつ以来だろうか? 

しかし冷静に考えれば「払戻金は募金する」と決めた時点で、すでに私の馬券ではなかったということであろう。なのにそれを「年に一度の絶好調の日」と勘違いした私はバカである。これならもっと募金額を増やせるかもしれない―――。

「募金」と言いながら実際には欲目丸出し。それで続く最終レースはがっつり馬連で勝負したら大ハズレに終わった。嗚呼。

とはいえ娘の千円だけを募金して帰るわけにもいかぬ。ここは親としての範を示す時。さて、いくら募金しようか。やっぱ、さっきいったん手にしたフローラSの払戻金額分かなあ……。などとゴソゴソ財布を探りつつ募金エリアにやってきたら、なんと顔見知りの騎手が目の前に立っていた。ほかにも騎手は大勢いるのに、なんでよりによって彼の前に来てしまったのか。

「おっ!●●さん(私の名前)。募金ありがとうございますっ!!」

その声に圧倒されて、思わずドーンと行ってしまったのである。良いトシして欲と見栄に勝てぬ自分が情けない。これでは娘の方がよっぽど大人ではないか。あの募金は有意義に使っていただけたのだろうか。それゆえ熊本地震のその後については、いまだに気になるのである。

 

 

***** 2023/4/14 *****

 

 

 

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2023年4月13日 (木)

中山2000トリッキー説の謎

中山競馬場には、今では使われていないスタート地点がある。

2コーナー奥に引き込まれた芝1400mのスタートポケット。1200mと1600mの2つの距離に限られていた中山競馬場の短距離戦の隙間を埋める形で、1986年暮れの開催から導入された。だが、スタートしてすぐに2コーナーを迎えることや、コースの真ん中から外側に向かって低く傾斜している形状などが指摘され、1992年12月5日を最後に使われてはいない。

そんなことを思い出したのでは、皐月賞に関する某スポーツ紙のこんな記事を読んだからだ。

「中山芝内回り2000メートルというトリッキーな舞台設定の中で行われる成長途上で戦法もまだ固まっていない馬たちの戦い。さまざまな要素が絡み合って、平穏決着の少なさにつながっているものと推測できる」

中山コースでトリッキーという言葉が使われるのは今に始まったことではない。しかしその多くは、芝1600m、芝2200m、芝2500mに対するもの。大きさが異なる複数のコーナーがあったり、スタート位置の問題で枠順の内外で有利不利が大きく分かれるといった理由によるものだが、中山2000mが「トリッキー」だと感じたことは正直これまで一度も無かった。普通の楕円形を一周とちょっと走るだけのシンプルな形状で、スタートしてから最初のコーナーまでの距離も長い。これがトリッキーなら、大半のJRA競馬場の芝2000mは「トリッキー」ということになる。

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調べてみると、過去にも中山の芝2000mを「トリッキー」と評した新聞記事はほかにもたくさんあった。元騎手のコラムにもそう書かれているのだから、やはりトリッキーなのだろう。そう受け止めるしかない。1600m、2200m、2500mに加えて2000mまでトリッキーということになれば、中山の芝はほぼトリッキーということになってしまう。マツリダゴッホやウインブライトが「中山巧者」と呼ばれること自体、中山が特別扱いされている証に違いない。

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そもそも「トリッキー(tricky)」とはどういう意味か。辞書では「①奇をてらったさま」「②罠やひっかけがあって油断ならないさま」と紹介されていることが多いが、実際の英語では「難しい」という意味で使われるらしい。だとしたら中山がトリッキーなのは馬券の話ではないか。「当たらないからトリッキー」に過ぎない。騎手や調教師の中には、敗戦の理由をトリッキーに求めるケースもある。つまり「勝てないからトリッキー」。そんな理由で難癖を付けられては中山もたまったものではない。

中山芝2000mをトリッキーと呼ぶのならそれなりの根拠が必要であろう。「当たらないから」「勝てないから」では理由にならない。中山芝1600m、2200m、2500mの「油断ならず難しい」イメージが、そのまま2000mにまで波及しているのではあるまいか。私自身、中山の芝2000mにトリッキーな要素を見出せないでいる。幻の中山芝1400mに比べれば遥かにマシではないか。言葉の使い勝手に惑わされてはいけない。

 

 

***** 2023/4/13 *****

 

 

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2023年4月12日 (水)

「初代皐月賞馬」の血

馬運車「トサミドリ」号に遭遇したと娘が写真を送ってきた。馬名入りの馬運車を見かけると気分が高揚するのは、競馬ファン共通の心理であろう。

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1948年に牝馬のヒデヒカリが勝ったという「皐月賞」は、そも名称からして「農林省賞典四歳呼馬競走」である。しかも5月の中旬の東京競馬場で行われていた。現在の皐月賞とは全然違う。そういう意味ではシンリョクカが皐月賞を勝つようなことがあれば、実質的には史上初の快挙に等しい。

3月29日付「牝馬の皐月賞」で私はそう書いた。

では、「皐月賞」という名のレースが中山で行われるようになったのは、果たしていつからなのか。それはヒデヒカリの翌年だから、1949年のこと。実はそのレースを勝ったのが冒頭のトサミドリなのである。つまり初代「皐月賞」馬。週末に迫った皐月賞に向け、なんとなく縁を感じずにはいられない。

トサミドリは、日本の3冠馬第1号セントライトの弟という良血で、自身も皐月賞と菊花賞を勝った2冠馬である。ダービーでも人気を集めたが、予想外の暴走の果てに伏兵タチカゼに単勝55430円の大穴を許した。普通に走っていれば、兄弟でクラシック3冠の偉業を成し遂げていた可能性が高いとされる。

しかもこの兄弟は種牡馬としても大成功だった。なにせ内国産種牡馬が見向きもされない時代に、2頭合わせて4頭もの菊花賞馬を送っているのだから凄い。この一族の血こそ日本のクラシックの土台ともいえる。

そんなことを考えていたら、そのトサミドリの血を受け継ぐ一頭を、今年の皐月賞出走登録馬の中に見つけてしまったのである。

それがセブンマジシャン。母の父であり自身も皐月賞馬であるメイショウサムソンの母系を遡ること4代。天皇賞や有馬記念を勝った名牝ガーネットの父がトサミドリだ。

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しかし現時点でセブンマジシャンは除外対象。新馬・特別と連勝した素質馬で、京成杯では1番人気に推された。ホープフルSでは6着とはいえ、勝ち馬とはコンマ4秒しか離されていない。なにせ今年の皐月賞は混戦。どんなレース展開になっても、上位争いに絡むセブンマジシャンが出ることになれば面白い存在になると思うのだが、こればかりは仕方ない。あとは初代皐月賞に頼るしかなさそうだ。もとはと言えば、単に馬運車に遭遇しただけの話ですからね。

 

 

***** 2023/4/12 *****

 

 

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2023年4月11日 (火)

ガッツポーズの日

今日4月11日は「ガッツポーズの日」だったらしい。日刊スポーツの紙面を見るまで知らなかった。

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そんな記念日まであるのかと驚くばかり。なんでも1974年の今日、ボクシングWBC世界ライト級タイトルマッチが行われ、ガッツ石松さんがチャンピオンのロドルフォ・ゴンザレスにKO勝ちを果たした。そのときガッツ石松さんが両手を挙げて勝利の喜びを表わした姿を、スポーツ紙が「ガッツポーズ」と表現したことで「ガッツポーズ」という言葉が広まるきっかけになったことにちなむという。

ただし注意が必要だ。あくまでも「ガッツポーズ」という言葉が「広まるきっかけ」になった日に過ぎない。これが語源であるとするのは誤りである。

拳を突き上げる「ガッツポーズ」。和製英語のこの言葉は1960年代に米軍基地内のボウリング場で、ストライクのときなどに上がった「ナイスガッツ」の声に由来する。その声を聞いた日本人が喜びの仕草を「ガッツポーズ」と名付けて、仲間に広めた。ガッツ石松氏がチャンピオンになる2年前に発行されたボウリング雑誌「週刊ガッツボウル」(1972年12月14日号)には、プロボウラーたちのガッツポーズ特集が掲載されている。つまり語源はボクシングではなくボウリングにある。

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「ガッツポーズはしてはいけなかった」

ふと、そんなコメントを思い出した。言葉の主は先日の高松宮記念を勝った直後の団野大成騎手。初のGⅠ勝利が確実となり、歓喜のあまりゴール板を迎える前に馬上に立ち上がって派手なガッツポーズしたことに対する反省の弁だ。。

【日本中央競馬会競馬施行規程 111条】
騎手は、競走において、馬の全能力を発揮させなくてはならない。

こんな条文を持ち出すまでもなく、決勝戦手前でのガッツポーズがご法度であることは良く知られている。さらに言えば高松宮記念のレース中、有力馬の一頭アグリと接触して迷惑をかけていたことも忘れてはならない。

1985年のクイーンCをタカラスチールで優勝した佐藤吉勝騎手は、ゴール直後、左手を高々と上げてガッツポーズを決めた。これが平地での重賞初制覇。しかも単勝1番人気のプレッシャーをはねのけて掴んだ勝利となれば、派手に喜ぶのも無理はない。だが、彼はレース終了後、すぐさま裁決委員に呼ばれる。

審議になったわけではない。ガッツポーズについて注意を受けたのである。

騎手のガッツポーズに関して具体的な規程があるわけではない。だが、勝ち馬の直後には後続馬が殺到している。片手を離した瞬間に馬がヨレたりした場合、事故につながりかねない。だからガッツポーズはしてはいけない―――。そんな注意だったそうだ。念のために繰り返すが「ゴール後」のことである。今となっては隔世の感がありありだ。

さすがに今ではガッツポーズをしたからといって裁決に呼び出されることもないが、あまり派手にやると負けた相手やファンの心証を逆撫でしかねない。スポーツでは礼儀も大事。体操競技のジュニアの試合では椅子に座るまでが採点対象だそうだ。着地と同時にガッツポーズなどしたら減点だから厳しい。しかし相手への思いやりの大切さを説いている。

一方で競馬はエンターテインメントでもある。勝者が無表情のままで、果たしてレースの感動がファンに伝わるだろうか。ライブの感動を伝えるという観点に立てば、ファンを煽るくらいのパフォーマンスがあっても良い。「ガッツポーズは喜びを人に伝えて分かち合うもの」。ガッツ石松さんはそうおっしゃっている。要はそのバランスをいかにして保つか。ガッツポーズの日には語源だけでなく、こうしたことについても考えを深めたい。

 

 

***** 2023/4/11 *****

 

 

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2023年4月10日 (月)

睡魔なんかに負けないぞ

神奈川の自宅で過ごした土曜の夜は、ワケあって深夜2時頃に就寝。4時間ほど睡眠を取ってから、早朝の新幹線で阪神競馬場へと向かった。

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桜花賞を見届けてから仕事場に入り、なんだかんだで翌朝5時頃まで仕事。そのまま仕事場に泊って、今日は8時から再び仕事。ようやく大阪の自宅に戻った今は19時を少し回ったところだが、これを書き終えたらすぐに寝てやろう。なにせ明日も朝から仕事である。今年55歳になるというのにこんな生活を続けていて果たして良いものか。ひと昔前なら隠居のトシじゃないか。

「眠ってない自慢」ではない。実は徹夜や夜ふかしを大の苦手としているという話である。

若い時分から徹夜で勉強をしたりTVゲームに没頭したという記憶はない。麻雀にハマった学生時代も徹マンは極力避けた。楽しく飲んでいるうち終電を逃し、仕方なく始発が動くまで飲み続けたというような素敵な経験も持たない。とはいえメディア関係の仕事をしていれば徹夜など日常茶飯事。つくづく自分に向いていない。今も後悔している。

馬産地では出産シーズンの真っただ中。昨日、うっかり競馬場から牧場に電話したら相手は競馬も観ずに寝ていたという。馬の出産は夜間であることが多いから、予定日が近づいた繁殖牝馬を牧場スタッフは徹夜で監視しなければならない。しかも予定通りに産まれてくるわけではないし、複数の繁殖牝馬がいれば数か月に渡って断続的に徹夜が続くこともある。最近では1日程度の誤差で出産日を見極める方法なども発表されているが、生き物相手のことなので簡単ではない。勢い昼寝の時間が増える。

だから牧場スタッフと「眠気覚まし論」で盛り上がることはしばしば。立ったまま居眠りしてしまうほどの睡魔に勝つにはどうしたらよいか? むろんコーヒーやガムを噛む程度で太刀打ちできる相手ではない。

オーソドックスなところではドリンク剤。「メガシャキ」や「眠眠打破」などコンビニで手に入るものもよいが、私は「オールPキング」という強力アンプルのお世話になることが多かった。ただし、これとて使い続ければたちまち効果は薄くなってしまう。

ドリンク剤以外では、メンソレータムやサロンパスを目の下に塗ったり張ったりしたこともあった。目がシバシバしてとても眠れる状態ではなくなるのだが、仕事どころでもなくなるので、実効性という点では疑問符が付くかもしれない。

仲間と一緒の徹夜というシチュエーションで「先に眠ったヤツを引っ叩いてよい」というルールで一夜を凌いだことがある。緊張感が高まる上、全員同時に落ちない限り間違いなく徹夜を完遂できる優れた手法だと喝采を叫んだのだが、いざやってみるといたずらに外傷を負う者が続出するうえ、仲間内の人間関係の悪化も甚だしく、一回限りでオジャンとなった。皆眠くてイライラしているから、加減というものができなくなるのである。

やはり人間、眠らないとダメですね。短時間で上質の眠りを得る方法を追求すべきなのであろう。では、おやすみなさい。

 

 

***** 2023/4/10 *****

 

 

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2023年4月 9日 (日)

2頭のリバティアイランド

記録的な暖かさのおかげで、大阪の桜は観測史上最早タイの3月19日に開花し、観測史上2番目に早い3月27日に満開を迎えた。それから2週間が経過した今日、阪神競馬場でようやく桜花賞が行われる。

満開開の桜の下を18頭の可憐な3歳牝馬たちが……」という美しい光景は期待薄であろう。なにせおとといの暴風雨はひどかった。ずっと定点観測してきた入場門脇の桜もすっかり葉桜に様変わり。花散らしの雨は容赦がない。

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ところが、である。スタンドに立つと、向こう正面の桜はうっすらとではあるがピンクの色合いを保っていた。もともと開花が遅い桜ゆえ、フレッシュだった分だけ一昨日の嵐を耐える体力が残っていたのかもしれない。

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フレッシュと言えば桜花賞のリバティアイランド。阪神JFからぶっつけのローテーションは昨今の桜花賞では珍しいものではないが、パドックの気配はきちんとチェックしておきたい。どんな馬でも休み明けは不安になるもの。リバティアイランド自身、3か月ぶりのアルテミスSで思わぬ苦杯を喫した前科がある。

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4か月ぶりに見るリバティアイランドは、よく言えば落ち着いているが、悪く言えば覇気が無い。ゲートが開いてもそれは同じだった。前進気勢に欠けるというほどでもないが、もっさりゲートを出たあとも追走もかったるい。桜花賞で単勝1.6倍の大本命である。「やったか……?」。スタンドに微妙な空気が流れる。

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しかし直線で外に持ち出されててからのリバティアイランドは別馬であった。前を行くⅠ5頭をまとめて交わして先頭ゴール。上がり3ハロンは脅威の32秒9。2番手追走から2着に粘ったコナコーストが34秒5だったことから、ざっと計算して直線だけで10馬身ほどを逆転したことになる。ハープスターやデアリングタクトを彷彿させる絵に描いたような直線一気。となれば当然オークスでも勝ち負けになりそうだ。父ドゥラメンテに母の父オールアメリカンはロベルト系だから距離延長に不安はない。もはやクラシック2冠に片手が掛かったようなものか。

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今日の競馬では前後半で2頭のリバティアイランドを観た感が否めない。果たして前半をどう評価すれば良いのか。川田将雅騎手一流のウマにいろいろと教えていたせいかと思ったが、どうやらそうでもなかった。道中後方3番手という位置取りは、馬が進んで行かなかったための、いわば成り行き。JRA公式You Tubeの映像で川田騎手は「進んで行かなかった」と3回も繰り返していた。インタビューではいつも通りクールだったが、内心焦ったのではないか。実際、中内田調教師はかなり焦っていたらしい。

しかし真の名馬とはそういうものだ。馬が競馬を分かっててわざとやっているのだとしたら、もはやシンボリルドルフ級。すでに人智を超えている可能性すらある。オークスで注目すべきは勝ち負けではなく、勝ち方であろう。いや、ひょっとしたらダービーかもしれない。桜花賞ではノーザンファームが掲示板を独占。これ自体はさほど驚くことでもないが、ならばそういう判断があってもおかしくない。

 

 

***** 2023/4/9 *****

 

 

 

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2023年4月 8日 (土)

100年後の競馬場

大阪は府知事と市長のダブル選挙戦の真っただ中。維新が誘致を目指す統合型リゾート(IR)の是非が争点のひとつになっており、反対陣営からの「ギャンブル反対」のシュプレヒコールがかまびすしい。ウクライナの人たちに比べればなんとも平和な光景に映るが、競馬場帰りの身には多少堪える。

我が国でお金を賭ける行為は「賭博」として刑法が禁じている。それでも競馬が行われ、馬券を買い、的中すれば配当金を受け取ることができるのは、「競馬法」という法律のおかげ。1923年に成立したこの法律により、当時の馬政は陸軍から農商務省に移管され、制限はありつつも晴れて競馬は天下に公許された。この瞬間に我が国の近代競馬が始まったと言っても過言ではない。

現在の競馬は健全なレジャーとしてすっかり市民権を得ているが、競馬黎明期はそうではなかった。競馬場はまともな人間の行く場所ではない。開催がローカルに移ると、「集まるのはノミ屋、ごろつき、競馬記者」などと揶揄されたほど。馬券発売禁止も10年以上の長きに渡って続いていた。

それを一変させたのが安田記念にその名を残す安田伊左衛門。馬券復活の一念で国会議員となり、ついに競馬法制定、馬券解禁の道筋を立てた。日本ダービーの創設も安田氏の尽力によるところが大きいとされるが、ただただ馬券復活のためを思って国政に身を投じて大願を為したことを思えば、競馬法制定こそが「日本競馬の父」と呼ばれる所以であろう。

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その後の競馬法はしばらく手つかずのまま放置され、売上不振や地方競馬の廃止といった時代があった。電車で競馬新聞を広げれば、たちまち他の乗客から白い目で見られた時代を知る身ゆえ、競馬に対する強烈な逆風の中にあってなお安田さんが見せた勇気、覚悟、そして情熱には敬服の念のほかはない。

今年はその競馬法が制定されてからちょうど百年の節目の年にあたる。それを記念して、明日の阪神では「競馬法100周年記念」というレースも行われる。好天に恵まれた大阪杯当日の阪神競馬場では、若い男女や家族連れ、職場のグループに女性の一人客まで、あらゆる客層がそれぞれに競馬を楽しんでいた。これこそが安田氏が思い描いた競馬場の姿に違いない。IR導入を目指す維新に安田氏ほどの勇気、覚悟、情熱はあるだろうか。百年先を考えることは、たしかに政治の役目に違いない。

 

 

***** 2023/4/8 *****

 

 

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2023年4月 7日 (金)

3歳春の選択肢

ダートで2勝を挙げ、明日のニュージーランドトロフィーに登録のあったミラクルティアラだが、昨日の出馬投票後にその名前が消えていた。除外の心配はなかったはず。勝った2つのレースを見届けたひとりとして、芝での走りを見てみたかった。

報道によれば来週の船橋マリーンカップを目指すらしい。しかし、そちらは現時点で補欠の2番手。このままでは除外の公算が高い。仮に除外となったら月末の端午Sに向かうという。いずれにせよ狙いはダート。やはり現状ではダートにこだわりたいということか。

マリーンカップは古馬のダートグレードレースだが3歳馬も出走が可能。3歳馬と古馬とが激突する、もっとも早い重賞でもある。3歳馬は基本重量で4キロのアドバンテージが与えられるから、ミラクルティアラは51キロで出走可能。一方、今年の登録馬ではプリティーチャンスがJpnⅡ勝ちの別定で57キロが課されることから、その差は6キロにも及ぶ。

だがしかし、それでもマリーンカップを3歳馬が勝った例はない。ようやく1勝クラスを勝った程度の3歳馬と歴戦の古馬との実力差は6キロ程度では埋まらないということであろう。今回、たとえ出走が叶ったとしてもミラクルティアラにとっては厳しい戦いが避けられそうもない。

レース選択の細分化傾向はますます顕著になりつつある。来年には南関東の3歳クラシック路線がJRAに開放されて、ダートを得意とする3歳馬は羽田盃や東京ダービーを目指すことができるようになるが、浦和桜花賞や東京プリンセス賞までJRAに開放されるという話は聞かない。マリーンカップがJRAの3歳牝馬にとって有力な選択肢のひとつである状況に変わりはない。

はじめてマリーンカップに挑んだ3歳牝馬は2003年のホワイトカーニバル。当時は4月下旬の開催で、桜花賞で11着に敗れてから中1週での参戦だった。エーデルワイスS2着の実績を買われての挑戦だったのだろうが、さすがに古馬の壁は厚く地元ラヴァリーフリッグから4秒近く離された9着に敗れている。

しかしホワイトカーニバルは母となってダートの女王サンビスタを送り出した。多くのファンにはチャンピオンズカップの印象が強いだろうが、2015年にはマリーンカップで58キロを背負いながら後続を4馬身千切る圧勝劇を演じ、母のリベンジを果たしている。

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ミラクルティアラの母ミラクルレジェンドも2012年のマリーンカップに出走。地元の女王クラーベセクレタに1馬身半差をつけるの快勝だった。ゴール前に後を振り返るこの余裕。まさに女王の風格である。

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今年で27回目を数えるマリーンカップで母娘制覇の例はまだない。出走頭数枠に加えて古馬の壁。ハードルと呼ぶには相当に高い障壁がミラクルティアラの前には立ち塞がるが、もし出走が叶うようであれば全力で応援したい。

 

 

***** 2023/4/7 *****

 

 

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2023年4月 6日 (木)

リベンジの春

兵庫3歳3冠路線の第1戦は菊水賞。レース名は南北朝時代の武将・楠木正成の家紋「菊水」にちなむ。ここ尼崎は南北朝の争乱の激戦地だった。今年は4頭の重賞勝ち馬に加え、前哨戦の兵庫ユースカップの1〜3着が揃う多士済々の好メンバーが激戦を繰り広げる。

1番人気はべラジオソノダラブ。3歳緒戦の兵庫ユースカップを快勝して2つ目の重賞タイトルを獲得した。これで通算(4,1,1,0)。負けた2戦がいずれも1700mであることが不安視されているが、負けたとはいえ園田ジュニアカップの着差はクビでしかない。成長著しい3歳春。折り合いひとつで距離はこなせる。

暮れの園田ジュニアカップを制して最優秀2歳馬にも選出されたスマイルミーシャは朝から1番人気を集めていたのに、直前になって人気を落とした。発表された馬体重がマイナス20キロ。それだけではない。パドックでは落ち着きがなくイレ込みが気になる。休み明けの牝馬としては危険信号であろう。2番人気。

キャリアではニシケンボブも負けてない。デビューから実に14戦を消化。これは大阪杯を勝った5歳馬ジャックドールと同じ。笠松の重賞ゴールドジュニアを4馬身差でぶっちぎり、全日本2歳優駿では「世界のデルマソトガケ」とも対戦した。前走の兵庫ユースカップではべラジオソノダラブに離されたが、1700mは5戦して(2,2,1,0)と馬券圏内を外してない。3番人気。

ゲートが開いて真っ先に飛び出したのはこの3頭だった。園田の1700mはスタートしてすぐコーナーを迎える。それでも外枠から被せ気味にベラジオソノダラブがハナに立った。折り合いの不安が頭のを過ぎるが、田中学騎手のアクションに迷いはない。スマイルミーシャの吉村智洋騎手は相手をベラジオソノダラブ一頭に決めたようだ。アドワンが一周目のホームストレッチで上がって行っても、グロリアドーロが向こう正面で一気に仕掛けても、スマイルミーシャに動く気配はない。

4コーナーでついにスマイルミーシャが動いた。しかしそれを待っていたかのようにベラジオソノダラブも二の脚を繰り出す。後続は千切れた。しかし二頭の馬体が合うところまではいかない。結局ベラジオソノダラブが1馬身半のリードを保ったままゴール。完勝である。

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ベラジオソノダラブは重賞3勝目をマークしただけでなく、兵庫ジュニアカップのリベンジをも果たした格好だ。来るべきダービーでは父ロゴタイプのリベンジを果たしたい。今日のレースで距離への不安はある程度払拭されたはずだ。

2着スマイルミーシャ、3着ニシケンボブ。上位人気馬が人気順にゴールした結果を見れば、この3頭がダービーでも中心となることは間違いない。ポイントはスマイルミーシャがどこまで立て直してくるか。このままでは最優秀2歳馬の看板が泣く。スマイルミーシャにとってもダービーはリベンジの舞台になりそうだ。

 

 

***** 2023/4/6 *****

 

 

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2023年4月 5日 (水)

ラインクラフトの桜花賞

桜花賞に出走予定のコナコーストの2代母がアンブロワーズだと知って少し驚いた。

2004年の函館2歳Sを勝ち、阪神JFで僅差の2着に好走すると、翌05年の桜花賞に出走した名牝である。桜花賞では14着と敗れたが、この年の桜花賞は屈指のメンバーが揃ってたことで知られる。優勝したのはラインクラフト。手綱を取ったのは若き日の福永祐一騎手だった。

競馬に携わっていると歳月の経過がことのほか早い。ラインクラフトの同期であるディープインパクトは、今年の桜花賞に8頭の「孫」を登録している。アンブロワーズの孫が桜花賞に出てきても、なんら不思議はない。

ラインクラフトが桜花賞を勝ってからもう18年になる。

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のちに日米のオークスを勝つシーザリオにアタマ差の勝利。一見辛勝にも見えるゴール前だが、中身は全然違う。ラインクラフトの刻んだラップは46秒8-46秒7。絶妙なバランスの結果、1分33秒5の桜花賞レコードが生まれた。17番枠という枠順の不利を克服してのこの時計に、サラブレッドとしての能力が凝縮されていると言っても過言ではない。

それから1年あまりが過ぎた夏、悲報は突然もたらされた。スプリンターズSを目指してノーザンファームで過ごしていたラインクラフトは、急性心不全でこの世を去る。小倉で訃報に触れた瀬戸口調教師は、驚きのあまり絶句した。なにせまだ4歳。にわかに信じられるものではない。関係者の心中は察するに余りある。

2005年の桜花賞で2着に敗れたシーザリオは、エピファネイア、リオンディーズ、サートゥルナーリアの3頭の種牡馬を輩出。3着だったデアリングハートは孫の世代に無敗の牝馬3冠馬デアリングタクトを送り出した。このデアリングタクトの父の母がシーザリオであることは忘れないでおきたい。そして4着エアメサイアも、子や孫の世代からエアスピネル、エアウインザー、エアロロノアといった活躍馬を送り出し、その牝系の裾野を着実に広げている。しかしラインクラフトにはその血を受け継ぐ産駒がいない。

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筋の通った母系にサンデーサイレンス、ノーザンテーストと続くボトムライン。きっと素晴らしい子を産んでいたに違いない。なにせ、あのシーザリオに唯一土を着けた一頭なのである。

 

 

***** 2023/4/5 *****

 

 

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2023年4月 4日 (火)

2歳チャンピオン同士の対決

今週の中山開催メインはニュージーランドトロフィー。無敗のまま朝日杯FSを制したドルチェモアが3歳緒戦を迎えるとあって、例年にも増して注目を集めている。

このレース、2000年までの名称は「ニュージーランドトロフィー4歳ステークス」だった。文字にして20文字。ぶっちゃけ長い。だから「NZT4歳S」と簡略化されて表記されることが多かったのも頷ける。

ところが、01年の馬齢表記変更に伴い「4歳ステークス」の部分が消えたことで、「NZT」となってしまった。競馬を知らぬ人が「NZT」と聞いて、これをレース名だと想像出来るだろうか。どこかのご当地アイドルグループと勘違いされるかもしれない。

ともあれ、2000年のこのレースは「NZT4歳S」として行われた最後のレース。東京から中山に移った最初の年だった。

このレースが注目を集めたのは、芝とダートの2歳チャンピオン同士の対決が実現したせいもある。朝日杯を勝ったエイシンプレストンと、全日本2歳優駿の覇者アグネスデジタル。軍配は外から追い込んだエイシンプレストンに上がった。

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日本国内のみならず、のちに香港でも大活躍することになる同期2頭の直接対決は都合7度。圧巻は香港・クイーンエリザベス2世カップのワンツーフィニッシュで異論はあるまい。2頭のライバル物語は、このNZT4歳Sから始まったのである。

今年のニュージーランドトロフィーに全日本2歳優駿を勝ったデルマソトガケは残念ながら出てこない。2歳チャンピオン同士の対決を観たかった向きには残念。とはいえケンタッキーダービーに挑むと聞けば軽々しく文句は言えまい。

代わりと言っては何だが、全日本2歳優駿でデルマソトガケの2着だったオマツリオトコが出てきた。その着差はわずかにアタマ。函館2歳Sでも3着だったのだから、芝がまるっきりダメということもあるまい。なにせ上がり3ハロンはメンバー最速だった。ダートの2歳「準」チャンピオンが芝の2歳チャンピオンに挑む。アグネスデジタルばりの二刀流開眼に期待したい。

 

 

***** 2023/4/4 *****

 

 

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2023年4月 3日 (月)

白いミートソース

我々が子供の頃のパスタといえば、ナポリタンかミートソース。どちらかだった。

ペペロンチーノもカルボナーラもペスカトーレもない。いや、そもそも「パスタ」などという洒落た呼び方をするようになったのもつい最近のことだ。当時は、太さも形も関係なく、洋麺はすべからく「スパゲティー」と呼んでいた。

ただしナポリタンに関して言えば、今でも懐古的なメニューとして支持を受けている。いわゆる「昔ながらのナポリタン」とか「喫茶店のナポリタン」というやつ。しかし私はナポリタンよりもミートソース派。理由はおそらく私の幼少期からの食卓事情にあると推測する。贅沢と言えば肉。すなわちミートなのである。

新梅田食道街にミートソース専門店があると聞いてやってきた。

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券売機のメニューにはノーマルの「赤」に加え、「白」、「スパイスミート」「黒胡椒タリアテッレ」というボタンが並んでいる。ミートソースで「白」ってなんだ。気になってラージサイズ(1.5玉)を注文してみた。

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たしかに見た目は白っぽい。アーモンドスライスがその印象を強調している。パスタは淡路島の老舗製麺所「淡路麺業」の生パスタを取り寄せているらしい。その食感はもちもち至極。だが正直、麺の美味さにソースの印象が追い付かない。そうなるとソースが余りがち。この「ミートソースあるある」への対策として、小さなバゲットが3切れ付いてきたが、ぶよぶよの茹で置き麺をフライパンで炒めてミートソースをザっとかけるだけのロメスパに馴染んだ身とすると、「美味しいだんけど……」という感じになってしまう。

あるいは、このこだわりの麺の味をストレートに味わうには、シンプルなミートソースがいちばん―――というお店側のメッセージかもしれない。それならそれで理解はできる。とはいえ「ラージ」を謳う割に麺量は少ない。普通の大盛を味わいたい方はダブル(2玉)か、赤白2種類オーダーすることをオススメする。

実は名古屋にも白いミートソースがある。噂を聞きつけて、高松宮記念当日に立ち寄ってみた。栄駅近くの生パスタ専門店「スパ金」。白いミートソースの正式名称は「名古屋のでら白ミートソース」だという。しばらく待って出された一皿に私は目を見張った。

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第一印象は「また名古屋がやりやがったか!」である。だって、どうみても生クリームですからね。ミートソースに甘くて冷たい生クリームをどっさり載せてみた―――。どうせそんなノリであろう。いくら名古屋メシの本場とはいえ、悪ふざけはいけない。

ところがこのクリームは甘くも冷たくもなかった。ほんのり塩気があって美味い。それが濃厚なミートソースと混ざることで味がマイルドになるのに、コクは増す。これがもちもちの生パスタに合わないはずがない。気付けば皿は空っぽ。見た目と味とのギャップが楽しい一品。白いミートソース対決は名古屋に軍配を上げよう。

 

 

***** 2023/4/3 *****

 

 

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2023年4月 2日 (日)

武豊たる所以

阪神の桜は満開。朝からの北風に舞って飛ぶ花びらも目立つようになってきた。桜花賞までには散ってしまうだろう。桜と馬の競演を観るなら今日しかあるまい。しかも関西では今年最初のGⅠレース・大阪杯が行われる。関西のGⅠで当日入場券が発売されるのはいつ以来だろうか。ともあれ、阪神には2万5699人の観衆が集まった。

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その大阪杯は2番人気ジャックドールが逃げ切り勝ち。昨年5着のリベンジを果たすと共に、武豊騎手は騎手として史上最年長のGⅠ勝利記録(54歳と19日)を打ち立てた。観衆が増えれば増えるほど燃えるのがスーパースターたる所以。15頭を引き連れて満開の桜をバックに優雅に駆けるその姿は絵画のようでもある。しばし見とれた。

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1000mの通過は58秒9。その数字にスタンドがドッと沸いた。あちこちから聞こえる「早い!」という声はどちらかといえば悲観的に聞こえるが、GⅠならそれほど早くもない。実際、そこからのラップは11秒7、11秒5、11秒4、11秒4とペースアップ。さすがに最後の1ハロンは12秒5と鈍ったが、絶妙なペース配分に多くの馬は自慢の末脚を封じらる結果となった。スターズオンアースが1番人気の意地でハナ差まで詰め寄るが、ギリギリでもきっちり勝ってみせるのがプロたる所以である。

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武豊騎手はGⅡ時代を含めて大阪杯8勝目となった。もちろん最多勝記録。いずれ劣らぬ名馬たちばかりとなれば、ジャックドールの展望も明るい。

1988年 フレッシュボイス
1990年 スーパークリーク
1993年 メジロマックイーン
1997年 マーベラスサンデー
1998年 エアグルーヴ
2014年 キセキ
2017年 キタサンブラック
2023年 ジャックドール

スーパークリークとのコンビでは1988年の菊花賞も勝っているが、それは史上最年少でのGⅠ勝利記録最年少(19歳7か月23日)として今も破られぬ記録。最年少記録と最年長記録の両方を保持しているアスリートもそうはいまい。そもそも54歳でGⅠに騎乗し続けていること自体が凄い。今後彼がGⅠに騎乗するたび、自身が持つ最年長記録更新への期待がかかることになる。

1988年といえば、ダノンザキッドの横山和生騎手も、マリアエレーナの浜中俊騎手も、ジェラルディーナの岩田望来騎手も、ヒシイグアスの松山弘平騎手も、ポタジェの坂井瑠星騎手も、モズベッロの西村淳也騎手も、キラーアビリティの団野大成騎手も生まれていない。時代を隔てて一流のパフォーマンスを続けるその存在そのものが、生けるレジェンドたる所以であろう。

 

 

***** 2023/4/2 *****

 

 

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2023年4月 1日 (土)

新聞の嘘

嘘の話を続ける。

朝刊を取りにマンションの集合ポストに降りると思いがけず雨が降っていた。思わず「嘘だろ!」と口に出してしまう。しかもことのほか寒い。今日から4月ということ自体も嘘なんじゃないかと思った。なにせ今日はエイプリルフールである。

新聞の天気欄に傘マークはない。じゃあ、いま空から降ってきているこれはなんだ? これも嘘に違いない。嘘をついているのは新聞か、あるいは天か。私は天の可能性を否定しない。新聞が嘘をつくようでは日本はおしまいだ。

ただ、英国の新聞は嘘をつくことがある。大衆紙「サン」紙は1991年4月1日付の一面で「1983年に牧場から誘拐され、死んだと思われていたシャーガ―が、実は生きていた」と大々的に報じた。しかもこの年のキングジョージに出走予定だという。

もちろんこれはエイプリルフールの嘘記事。4月1日になると英国の新聞各紙はユニークな嘘をつくために頭を絞る。中でも“生きていたシャーガー”はメジャーなネタのひとつ。それだけ英国民がシャーガー失踪事件に関心を寄せていることの証であろう。それ以降も、シャーガー生存の記事はエイプリルフールのたびに掲載され続けた。

一方、今日の阪神メイン・ポラリスSを扱うスポーツ新聞には

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「アトム破竹3連勝だ!」

Shimbun2

「ノイア オープン初V」

といった見出しが並んだ。しかし実際のレースでは、テイエムアトムは3連勝を逃して3着に、ディアノイアもオープン初Vを果たすことなく4着に敗れている。これはエイプリルフールの嘘か。そんなこともあるまい。そもそも同着でもない限りポラリスSを勝つ馬は1頭。すくなくとも、上記のどちらかは嘘ということになる。なのにそれを嘘だと怒る人はいない。いや、どこかにいるのかもしれないが、少なくとも私の周囲にはいない。

天気予報が外れると新聞社やNHKにクレームの電話が入る。「嘘をつくな」。「洗濯物が濡れたゾ」。「どうしてくれる!」。

なのに、外れてばかりのはずの競馬の予想に対するクレームはほとんどない。それを不思議だと私が言うと「予想」と「予報」の違いだと諭される。

しかし、予想とは「物事の成り行きや結果について、前もって想像すること」であり、予報は「立てた予想を、前もって一般に知らせること」である。ならば予想も予報も実質的に同じはず。だが実際のところ、世間が予報という言葉に抱くイメージは「予想以上、予告以下」といったあたり。予想は外れてもいいが、予報が外れるとアタマにくる。

そのことには新聞もテレビも気づいているフシがある。なぜか最近では「天気予報」という言葉を聞かなくなった。NHKは「気象情報」と呼ぶし、新聞は天気図と天気マークを何の説明もなく黙って掲載するのみ。天気ごときで嘘をつくなと言われてはたまらない。新聞が敢えて嘘をつくなら、シャーガー生存くらいのことを書くべき。ただ、日本ではエイプリルフールの嘘記事さえも禁忌とされる。新聞の嘘は例外なく許されない。

 

 

***** 2023/4/1 *****

 

 

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