幻の桜花賞馬
大阪杯で人気を集めるであろうヴェルトライゼンデは、阪神競馬場でのレース経験がない。6歳にして初めて仁川の坂に挑む。京都の改修工事に伴ってずっと阪神開催が続いていたことを考えると、ちょっと意外な感じもする。なにせ関西馬である。
逆に来週の桜花賞に出走予定のリバーラを、私はてっきり関西馬だと思い込んでいた。キャリア5戦の内訳は福島1、新潟1、阪神3。むろん単なる思い込み。最近この手の思い込みが増えた。トシのせいにして逃げたいところだが、トシというよりは忙しさに感けてちゃんと競馬を見ていないオノレに責任がある。反省せねばなるまい。
今では他場の馬券も簡単に買うことができるし、どこの競馬場で走ってもレースは中継で見ることができる。関東・関西を意識するファン自体も減っていることだろう。だが、以前はそうではなかった。今のように他場の全レースの馬券を売るわけではないし、売ってないレースは中継もない。東西有力馬の初対決の舞台となる桜花賞や皐月賞となれば、知らない馬はたくさんいた。
過去にはリバーラよりも、もっともっと関東のファンに馴染みの薄い関東馬が桜花賞を制したことがある。1974年の桜花賞馬タカエノカオリだ。
桜花賞まで6戦3勝で、その内訳は福島、新潟、中京をそれぞれ2戦ずつ。桜花賞で手綱を取ったのも、関西の武邦彦騎手という徹底ぶりである。
だが、タカエノカオリは決して適鞍を求めてローカルを回っていたわけではない。当時24頭を管理していた佐々木厩舎の馬房数は22。厩舎に居場所がなく、追い出される格好でやむなく旅に出たのであった。馬を連れていたのは、騎手や調教師の経験も持つ山内厩務員。当時66歳という年齢を考えれば、長い旅暮らしが身体に堪えぬはずはない。いや、それ以上にプライドも傷つけられたことであろう。「必ずみんなを見返して、関東に帰る」。その一心で、福島、新潟、中京、そして阪神と流れ歩いた末、ついに栄光を掴み取ったのである。
タカエノカオリの印象が関東のファンに残らなかったのは、桜花賞を勝ってそのまま引退してしまったことも影響している。オークスでその姿を披露することさえなかったタカエノカオリは、関東のファンにしてみればまさに幻の桜花賞馬だったに違いない。
関西馬でありながら初めて阪神に顔を出すヴェルトライゼンデは果たしてどんな競馬を見せるのか。阪神の重賞を4勝したドリームジャーニーの産駒なら心配ないとは思うが、阪神未経験の圧倒的人気馬が着外に沈んだ昨年の記憶が、まだ脳裏から消えていないのである。
***** 2023/3/30 *****
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