銀行馬券
「競馬に絶対はない」。
古来より幾度となく繰り返されてきた手垢にまみれたフレーズである。その一方で「銀行馬券」とか「銀行レース」という言葉を耳にする機会が少なくなったように思う。
1992年春の天皇賞は、無敗の2冠馬トウカイテイオーと春天連覇を目指すメジロマックイーンの一騎打ちが濃厚と思われた。敢えて「絶対」とまで言い切るTV解説者もいた。2頭の連勝は150円の超低配当。それでも、「銀行に預けるより儲かる」と言って2頭の連勝に大金を注ぎ込む輩が大挙窓口に押しかけたが、トウカイテイオーがよもやの5着に沈み「銀行馬券」は破綻する。のちにトウカイテイオーの骨折が報じられると、破綻被害者の中からは自らの運の悪さを呪う声も聞こえてきたが、馬がレース中に骨折を発症することはそれほど珍しいことではない。
「銀行馬券」とか「銀行レース」という呼び名は古くからある。
5戦続けて1&2着を繰り返したトキノミノルとイッセイの当時には、既にこの言葉が使われていたようだ。この2頭の最後の対戦となった日本ダービーでは、トキノミノルの永田オーナーが2頭の「銀行馬券」を100万円買って見事的中を果たした。その配当240円。日蓮宗徒でもある永田氏は、レース中ずっと「南無妙法蓮華経」と唱えていたそうだ。
ちなみに100万円という額は、当時の日本ダービーの1着賞金と同額。現在に照らし合わせれば3億を突っ込んで7億2千万の配当を得たことになる。馬券を3億円分買ったらいったい何枚になるのだろうか。
過去にもっとも騒がれた「銀行馬券」は、1970年の日本ダービー。タニノムーティエとアローエクスプレスの対決であろう。普段は馬券など買ったこともない商社マンや主婦までもが2頭の連勝馬券に群がるという社会現象を引き起こしたが、タニノムーティエが優勝を果たす一方で、アローエクスプレスは5着に敗れている。
こうした例に留まらず、社会現象になるほどの銀行馬券にはたいてい破綻が待ち受けているものだ。さらに90年代も後半になると、本物の銀行がリアルに破綻することも珍しくなくなり、「銀行馬券」という呼び名自体もどこかへ消えてしまった。
そもそも、投資にしても銀行預金だけでなく様々な商品が巷に溢れ、より投機的な商品に人気が集まる時代である。馬券にしても同じこと。今では枠連以外にも様々な種類が用意されており、一攫千金が望める3連単の人気がもっとも高い。こんな世の中にあっては、「銀行馬券」復権の日はもうやって来ないのかもしれない。
明日の日経賞はタイトルホルダーとアスクビクターモアの菊花賞馬2頭が人気を集めている。その馬連配当はおそらく3倍を割るだろう。だからと言ってこの2頭で絶対という保証はどこにもない。それが競馬だ。
***** 2023/3/24 *****
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