7歳の新星
国内のエース級が続々とドバイを目指して国内のGⅠが手薄になることが珍しくない春のGⅠシーズンだが、こと芝スプリント路線に限ればドバイ遠征馬はゼロ。おかげで高松宮記念には、昨年の1~5着馬に加え、前哨戦であるシルクロードS、阪急杯、オーシャンSの1、2着馬。さらに昨年と一昨年のスプリンターズS最先着馬が顔を揃えて、現在考え得るベストのスプリンターが集結した。これは見逃すわけにはいかない。雨にもかかわらず中京競馬場に足を運んだ2万1129人はそれを分かっている。
その雨は昨夜から27ミリの降水量を記録したという。むろん馬場は不良。これで4年連続で高松宮記念は道悪(重・不良)で行われることになる。今週から開放された内ラチ沿いの馬場は瞬く間に泥田と化した。こうなると内枠が有利ということもない。実力馬が揃ったわりに波乱のムードが漂う。雨の桶狭間で繰り広げられる電撃戦。そう考えれば、実力者よりも新進気鋭の若武者を狙うべきなのかもしれない。
筆者はそれをアグリと読んだ。破竹の4連勝で阪急杯までのし上がった勢いは若き日の信長を彷彿させるものがある。さあ、天下にその名を轟かせる時だ。
しかし勝ったのは伏兵12番人気のファストフォースだった。父ロードカナロア、母の父サクラバクシンオーという血統背景に加え、1分6秒0の持ち時計はスプリンターの素質十分。しかし最後にモノを言ったのは、7歳までタフに走り続けてきたその経験ではあるまいか。極悪馬場でベテランが台頭することは珍しくない。
ファストフォースのキャリアは決してスプリンターとしてのエリートコースと呼べるものではなかった。なにせデビュー戦は3歳の6月。しかも芝2400mである。出走可能なレースが限られていたとはいえ、勝ち負けになる舞台とは思えない。結果、勝ったメロディーレーンから5秒も離されたブービーに敗れている。
その後、月2回のペースでタフに走り続けるも、3歳8月夏までに勝利を挙げることができず地方に移籍。決してダート向きの血統とも思えぬが、彼に選択の余地はない。とはいえ、地方でのダート経験が今日のレースに活きたのかもしれないと思えば、決して無駄な回り道ではなかった。
馬が7歳にして初GⅠなら、ジョッキーもGⅠを勝つのは初めてだった。団野大成騎手は岩田望来騎手や菅原明良騎手らと同期の5年目。同期の中で最初に重賞勝ちをマークした彼だったが、GⅠ勝ちもいちばん乗り。これは嬉しい。もともと極端な追い込みを決めたり、逃げたことのない馬で逃げてみたりと、常識にとらわれないタイプ。私自身それで何度も痛い目に遭った。そういう意味では「信長」は騎手の方だったということになる。団野騎手の天下取りは始まったばかり。大阪杯ではキラーアビリティに騎乗予定だそうだ。今週も彼の手綱さばきから目が離せない。
***** 2023/3/26 *****
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