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2023年3月31日 (金)

ぬるめのうそ

先週日曜は春の中京開催の最終日だった。京都の代替開催が続いたここ数年は5月からすぐに中京開催が再開されたから名残惜しさも感じなかったが、通常の開催スケジュールに戻った今年、次の中京は7月まで行われない。そう思えば自然と名古屋の街に惜別の想いを抱いてしまう。これまで行こう行こうと思いながら訪問の機会に恵まれなかったお店を、今日のうちに訪れておきたい。

Yokoi

一軒目は名古屋駅近くの複合ビル内に店を構える「四代目横井製麺所」。看板にあるように讃岐スタイルのチェーン店で、わざわざ名古屋で行くお店ではないようにも思うのだが、ちょっと変わったメニューがあると聞いてやってきた。

Misodama

それがこちらの「味噌玉」。かけうどんのダシに名古屋名物の赤味噌が使われているのだが、こんな一杯は讃岐うどん店で見たことがない。いったいどんな味がするのか。さあ、実食。。。

意外なことに、色合いの印象ほどしょっぱいということはなかった。とんかつ屋さんで出てくる赤だしに近い。だから普通に飲み干せる。ただ、かけうどんに合うかどうかというと若干微妙。味噌で煮込むという調理法には、やはりそれなりの理由があるに違いない。

ほかにも名古屋には変ったうどんがあると聞いて別の店へ。なんでも、そのメニューは「うそ」とか「うちゅう」などと呼ばれているらしい。「うちゅう」って何だ? 宇宙のごとき広大な丼に無限の麺が漂っているのか??

んで、こちらがその「うちゅう」。

Uchu

こちらも名古屋圏でチェーン展開している「長命うどん」。種類の異なる麺をひとつの器に盛り込むミックスオーダーで人気を博している。写真の「うちゅう」は、うどんとラーメンのミックス。すなわち「うどん・中華ミックス」の略称である。うどんとそばを混ぜた一杯を食べる機会はごくたまにあるが、うどんとラーメンの融合は初めて。うどん用のツユで食べるラーメンも悪くない。

同様に「うそ」とは「うどん・そばミックス」の略。この店でミックスできるのは、うどん、そば、ラーメンにくわえてきしめんも可能だから、お好みの組み合わせを楽しみたい。しかも猫舌の方のために「ぬるめ」というオーダーも可能だそうだ。「ぬるめのうそ」なんて注文が聞こえると、驚いて噴き出しちゃうかもしれませんね。明日はエイプリルフール。

 

 

***** 2023/3/31 *****

 

 

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2023年3月30日 (木)

幻の桜花賞馬

大阪杯で人気を集めるであろうヴェルトライゼンデは、阪神競馬場でのレース経験がない。6歳にして初めて仁川の坂に挑む。京都の改修工事に伴ってずっと阪神開催が続いていたことを考えると、ちょっと意外な感じもする。なにせ関西馬である。

Velt

逆に来週の桜花賞に出走予定のリバーラを、私はてっきり関西馬だと思い込んでいた。キャリア5戦の内訳は福島1、新潟1、阪神3。むろん単なる思い込み。最近この手の思い込みが増えた。トシのせいにして逃げたいところだが、トシというよりは忙しさに感けてちゃんと競馬を見ていないオノレに責任がある。反省せねばなるまい。

今では他場の馬券も簡単に買うことができるし、どこの競馬場で走ってもレースは中継で見ることができる。関東・関西を意識するファン自体も減っていることだろう。だが、以前はそうではなかった。今のように他場の全レースの馬券を売るわけではないし、売ってないレースは中継もない。東西有力馬の初対決の舞台となる桜花賞や皐月賞となれば、知らない馬はたくさんいた。

過去にはリバーラよりも、もっともっと関東のファンに馴染みの薄い関東馬が桜花賞を制したことがある。1974年の桜花賞馬タカエノカオリだ。

桜花賞まで6戦3勝で、その内訳は福島、新潟、中京をそれぞれ2戦ずつ。桜花賞で手綱を取ったのも、関西の武邦彦騎手という徹底ぶりである。

だが、タカエノカオリは決して適鞍を求めてローカルを回っていたわけではない。当時24頭を管理していた佐々木厩舎の馬房数は22。厩舎に居場所がなく、追い出される格好でやむなく旅に出たのであった。馬を連れていたのは、騎手や調教師の経験も持つ山内厩務員。当時66歳という年齢を考えれば、長い旅暮らしが身体に堪えぬはずはない。いや、それ以上にプライドも傷つけられたことであろう。「必ずみんなを見返して、関東に帰る」。その一心で、福島、新潟、中京、そして阪神と流れ歩いた末、ついに栄光を掴み取ったのである。

タカエノカオリの印象が関東のファンに残らなかったのは、桜花賞を勝ってそのまま引退してしまったことも影響している。オークスでその姿を披露することさえなかったタカエノカオリは、関東のファンにしてみればまさに幻の桜花賞馬だったに違いない。

関西馬でありながら初めて阪神に顔を出すヴェルトライゼンデは果たしてどんな競馬を見せるのか。阪神の重賞を4勝したドリームジャーニーの産駒なら心配ないとは思うが、阪神未経験の圧倒的人気馬が着外に沈んだ昨年の記憶が、まだ脳裏から消えていないのである。

 

 

***** 2023/3/30 *****

 

 

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2023年3月29日 (水)

牝馬の皐月賞

阪神JF2着のシンリョクカが皐月賞に出走するかもしれないと話題になっている。

1700万円の収得賞金を持ちながら桜花賞は除外対象。一方の皐月賞はフルゲート割れとなる公算が高い。しかも牝馬ながら皐月賞、ダービー、菊花賞へのクラシック登録も済ませていると聞く。すなわち追加登録料は発生しない。さらに吉田豊騎手を確保済みとあらば、皐月賞出走の可能性は一定程度ありそうだ。

牝馬の皐月賞出走が実現すればファンディーナ以来6年ぶりのこと。しかし、ファンディーナは出走可能な桜花賞をソデにして、わざわざ200万円の追加登録料を支払っての皐月賞参戦だった。だからファンは彼女を皐月賞で1番人気に支持したのである。

仮に牝馬が皐月賞を勝てば1948年のヒデヒカリ以来75年ぶり―――。

出走が確実になれば、メディアはそう書いて盛り上げようとするだろう。

ヒデヒカリの当時、オークスは秋に行われていた。したがって3歳馬は牡牝を問わずダービーを目指すことになる。その前哨戦たる皐月賞に牝馬が参戦したところで、さほど驚くことではない。実際、この年の皐月賞は7頭立てで行われたのだが、うち3頭が牝馬であった。ちなみにこの前の年の皐月賞も牝馬のトキツカゼが勝っている。

ダービーの権威に比べて、当時の皐月賞の評価が今ほど高くはなかったことは否定できない。そも名称からして「農林省賞典四歳呼馬競走」である。しかも5月中旬の東京競馬場で行われていた。現在の皐月賞とは全然違う。そういう意味ではシンリョクカが皐月賞を勝つようなことがあれば、実質的には史上初の快挙に等しい。

むろんシンリョクカ陣営にしても、何の勝算もなく牡馬に挑むようなことはするまい。分かりやすいところでは距離適性が挙げられる。我が国のクラシックは英国に範を取ったと言っていながら、なぜか1冠目は牡馬と牝馬とで距離が異なる。それを「選択肢」と捉えれば、牝馬が皐月賞を選んだところでおかしくはない。シンリョクカの父はサトノダイヤモンド。距離は少しでも長い方が良かろう。

リバティアイランドの存在も無視できない。阪神JFでつけられた2馬身半の差を同じ舞台で逆転するのは至難の業。確たる中心馬が不在の牡馬路線の方が組みやすいと考えたとしても不思議ではあるまい。阪神JFのリバティアイランドに与えられたレーティングは114ポンド。牡馬に換算すれば118ポンドに相当する。これは朝日FSドルチェモア(116)やホープフルSドゥラエレーデ(114)より高い評価だ。

もちろん一回勝負の舞台でシンリョクカが勝ち切るのは正直難しいかもしれない。なにせ相手は15〜16頭。それでも、そのチャレンジは一見の価値があろう。ウオッカの快挙からもう16年になる。

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***** 2023/3/29 *****

 

 

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2023年3月28日 (火)

アフターコロナの洗礼

天気も良いことだし、早起きして京都東山界隈を歩いてみた。

Komyoin1

光明院は室町時代初頭の1391年に創建された東福寺の塔頭。枯山水の庭が有名で、淡い光が差す方丈の縁先に、深い緑をたたえたスギゴケと白砂の対比が美しい。その背後に青々とツツジが茂り、さらにその上には満開の桜が輝いている。耳に届くのは小鳥のさえずりのみ。信心とは無縁の私でさえも、自然と無念無想の境地に引き込まれる。

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この庭が好きでよく訪れるのだが、自分以外誰もいないというのは初めて。もともと秋のモミジが美しいと評判だが、こうして桜も咲いているではないか。とはいえ「秋に訪れるべき場所」というイメージが定着しているのかもしれない。視界を埋め尽くす桜並木も美しいが、こういう景色の中に溶け込む一本桜も風情がある。何より人がいないのが良い。

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次に訪れた雲龍院では庭に一本だけ咲く桜が満開を迎えていた。南北朝時代の北朝・後光厳天皇の勅願で作られたお寺で、「京都駅から一番近い奥座敷」とも呼ばれる観光スポットだが、ここにも観光客の姿はない。座敷に座ってひとり桜を眺めていると、あっと言う間に1時間が経った。遠くで鶯が鳴いている。こんな贅沢はそうそうあるまい。

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桜を眺めるうち、一昨年の桜花賞を思い出した。ソダシが勝った桜花賞。それなら相当の人数が競馬場に詰めかけそうなものだが、当日の入場者数は3137人と記録に残る。なにせ一般入場券の発売はなし。屋外席も使われず、屋内スマートシートは4席あたり1人という厳しい入場制限がかけられていた。しかも声出しは禁止である。ソダシが勝てば声も出そうなものだが、ゴール後も大声を出し続けた客が職員に囲まれる騒ぎにもなった。つまりそれだけ静かだったということ。静寂の中でひとり桜を見つめるうち、不意にあの桜花賞と何かが繋がったのである。

高台寺へ向かうと状況が一変した。

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見渡す限りの人、ひと、ヒト。先ほどまでの静寂が嘘のよう。呆然とする私の隣に大型観光バスが停まり、次々と人が降りてくる。引き返すことも考えたが、結構な坂を登ってきたことを思うとそれももったいない。ここへきて妙な貧乏根性が決断の邪魔をした。結果、一本の枝垂れ桜を観るのに人の海を泳ぐ羽目に。3年に及ぶコロナ禍は人込みに対する忌避感を増長させたが、新型コロナが5類に移行したとしても、身体に染み付いた感覚は簡単に拭えない気がする。

昨日のJRA定例会見では、新型コロナの5類移行後は「コロナ禍以前の形に戻すことを基本とする」との方針が示された。現時点で既に一般入場者に対する規制は無いに等しい。ということはスマートシートを廃止するのか。あるいは未だに続く馬主席の利用制限は撤廃されるのか。興味は尽きない。

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ソダシの快走から1年が経過した昨年の桜花賞の入場者数は8530人だった。果たして今年はどうなるか。高松宮記念が1939人⇒5931人⇒21129人と推移したことを物差しにすれば、桜花賞は3万を超えるだろう。高台寺の人込みごときに怯んでいるようでは、仁川の桜を観ることもままならない。これも時代の節目だろうか。

 

 

***** 2023/3/28 *****

 

 

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2023年3月27日 (月)

重賞をひとつ勝ったくらいでは

毎日杯を勝ったシーズンリッチは、皐月賞をパスしてダービーに向かうらしい。これに安堵しているのはオメガリッチマンとタッチウッドの陣営であろう。両馬の収得賞金はいずれも1200万円。現時点で皐月賞出走はギリギリ可能だが、仮にシーズンリッチが皐月賞に出ると言い出せば、どちらか一方が抽選除外の憂き目を見る。ひと昔前であれば重賞で2着があれば皐月賞は安泰だった。しかし、いまやそれもままならない。

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潮目が変わったのは2014年の番組改正だった。この年から朝日杯フューチュリティSが阪神へ移動。そのあとを埋める形で、有馬記念当日の名物オープン特別のホープフルSがいきなりGⅡに昇格した。ただし、これはあくまでも阪神のラジオNIKKEI賞が移動してGⅢからGⅡに格上げという扱いである。つまりは中山と阪神とで重賞レースを交換したに過ぎない。さらに、いちょうSと京都2歳Sのオープン特別がそれぞれGⅢに昇格している。

このとき議論の対象となったのは新・ホープフルSの扱いだ。当初はGⅡ格付けとされたが、GⅠ昇格が規定路線だった。つまり2歳牡馬路線に2頭のチャンピオンが誕生することになる。それを聞いて「なんだ、1990年に逆戻りか?」と感じたのは私ひとりではない。だから議論になったのである。

朝日杯3歳S(中山・GⅠ)、阪神3歳S(阪神・GⅠ)。東西の3歳チャンピオンを決定していたかつてのレース体系が改められたのは1991年のこと。「牡馬、牝馬それぞれで3歳の統一チャンピオンを決めるのが望ましい」という今思えば当然至極のコンセプトで、阪神3歳Sは牝馬限定戦の「阪神3歳牝馬S」として生まれ変わった。1991年のことだ。

改革初年度の優勝馬は、阪神3歳牝馬Sがニシノフラワーで朝日杯がミホノブルボン。翌年には、それぞれ桜花賞と皐月賞を勝って、「改革の成果がいきなり表れた」と喝采を浴びる。それを限定的とはいえ元の姿に戻そうというのだから、議論の的になるも仕方あるまい。

2014年の改正で私が気になったことはもうひとつある。それは、クラシック出走のボーダーラインが上がるなぁ……というもの。GⅢがGⅠに昇格して、さらに新規でGⅢがふたつ追加されるのだから、自然とそうなるに決まっている。

1991年に東西統一の3歳チャンピオンとなったミホノブルボンは、翌年のダービーも制して無敗の2冠馬に輝くが、そのダービーにはカミノエルフ、オースミコマンド、ウィッシュドリーム、ゴッドマウンテン、ブレイジングレッドと、収得賞金800万円の条件馬が5頭も出走していた。たとえトライアルで優先出走権を逃しても、抽選さえ通ればこれだけの頭数がダービーに出走可能だったのである。

翻って今年の桜花賞戦線では、エルフィンSの優勝馬や阪神JFの2着馬さえもが除外される可能性が高い。これまでなら考えられなかったこと。とくに桜花賞戦線におけるエルフィンSの重要性はいまさら説明の必要もなかろう。デアリングタクトやマルセリーナのように、エルフィンSからの直行で桜花賞を勝つようなシーンは、もはや過去の話になりつつある。

さらに来年には3歳ダート路線整備の一環で、南関東の3歳重賞が軒並みJRA所属馬に開放される。羽田盃から日本ダービーなんてローテも有り得ない話ではない。重賞をひとつ勝ったくらいではダービーには出られない―――。そんな時代が、もうそこまでやってきているのかもしれない。

 

 

***** 2023/3/27 *****

 

 

 

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2023年3月26日 (日)

7歳の新星

国内のエース級が続々とドバイを目指して国内のGⅠが手薄になることが珍しくない春のGⅠシーズンだが、こと芝スプリント路線に限ればドバイ遠征馬はゼロ。おかげで高松宮記念には、昨年の1~5着馬に加え、前哨戦であるシルクロードS、阪急杯、オーシャンSの1、2着馬。さらに昨年と一昨年のスプリンターズS最先着馬が顔を揃えて、現在考え得るベストのスプリンターが集結した。これは見逃すわけにはいかない。雨にもかかわらず中京競馬場に足を運んだ2万1129人はそれを分かっている。

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その雨は昨夜から27ミリの降水量を記録したという。むろん馬場は不良。これで4年連続で高松宮記念は道悪(重・不良)で行われることになる。今週から開放された内ラチ沿いの馬場は瞬く間に泥田と化した。こうなると内枠が有利ということもない。実力馬が揃ったわりに波乱のムードが漂う。雨の桶狭間で繰り広げられる電撃戦。そう考えれば、実力者よりも新進気鋭の若武者を狙うべきなのかもしれない。

筆者はそれをアグリと読んだ。破竹の4連勝で阪急杯までのし上がった勢いは若き日の信長を彷彿させるものがある。さあ、天下にその名を轟かせる時だ。

Fast

しかし勝ったのは伏兵12番人気のファストフォースだった。父ロードカナロア、母の父サクラバクシンオーという血統背景に加え、1分6秒0の持ち時計はスプリンターの素質十分。しかし最後にモノを言ったのは、7歳までタフに走り続けてきたその経験ではあるまいか。極悪馬場でベテランが台頭することは珍しくない。

ファストフォースのキャリアは決してスプリンターとしてのエリートコースと呼べるものではなかった。なにせデビュー戦は3歳の6月。しかも芝2400mである。出走可能なレースが限られていたとはいえ、勝ち負けになる舞台とは思えない。結果、勝ったメロディーレーンから5秒も離されたブービーに敗れている。

その後、月2回のペースでタフに走り続けるも、3歳8月夏までに勝利を挙げることができず地方に移籍。決してダート向きの血統とも思えぬが、彼に選択の余地はない。とはいえ、地方でのダート経験が今日のレースに活きたのかもしれないと思えば、決して無駄な回り道ではなかった。

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馬が7歳にして初GⅠなら、ジョッキーもGⅠを勝つのは初めてだった。団野大成騎手は岩田望来騎手や菅原明良騎手らと同期の5年目。同期の中で最初に重賞勝ちをマークした彼だったが、GⅠ勝ちもいちばん乗り。これは嬉しい。もともと極端な追い込みを決めたり、逃げたことのない馬で逃げてみたりと、常識にとらわれないタイプ。私自身それで何度も痛い目に遭った。そういう意味では「信長」は騎手の方だったということになる。団野騎手の天下取りは始まったばかり。大阪杯ではキラーアビリティに騎乗予定だそうだ。今週も彼の手綱さばきから目が離せない。

 

 

***** 2023/3/26 *****

 

 

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2023年3月25日 (土)

シーズン

今週からJRAは春のGⅠシーズンがスタート。来週はプロ野球のレギュラーシーズンが開幕する。春は「シーズン」という言葉をことさら耳にする季節。むろん「お花見シーズン」もそのひとつ。京都では桜が満開になったらしい。大阪は満開一歩手前。明日は雨らしいから、今日のうちにお花見を楽しんだ人も多かろう。私は阪神競馬場へ。そしたら桜はまだ咲き始めで、ほとんどが蕾だった。あらら?

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パドックの桜は美しく咲いているが、これはソメイヨシノではない。セントウルガーデンの桜も満開だが、これも近寄ってよくよく見れば違う種類のようだ。

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向こう正面の桜はほとんど蕾。来週の大阪杯で満開になるかどうかと言ったところか。頑張れば桜花賞の当日は桜吹雪かもしれない。毎年のことだが、阪神の桜の開花時期には驚かされる。

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ただし、4コーナー付近の一本だけが五分咲きだった。このあたりも不思議としか言いようがないが、おかげで阪神は桜のシーズンが他場に比べて長くて濃い。まさに「シーズンリッチ」。今日の毎日杯の勝ち馬の名前のようだ。

Season

手綱を取った角田大河騎手はデビュー2年目でこれが嬉しい初重賞制覇。直線で前が壁になりながら、慌てず騒がず馬群をこじ開けるように割って伸びてきた。外から迫ってきたノッキングポイントの脚色が優っていただけに、抜け出すタイミングも申し分ない。1年生ジョッキーに騎乗機会も奪われがちなシーズンに重賞初勝利のインパクトは小さくない。この先のシーズンをリッチにすることができるか。騎手2年目の春はある意味正念場だ。

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娘から中山6レースの写真が送られてきた。中山の桜は満開らしい。でも雨もひどいという。タイトルホルダーはそんな雨をものともしなかった。日経賞連覇は歴史の中に出てくるホワイトフォンテン以来。ライスシャワーも、フェノーメノも、ゴールドアクターも為し得なかった偉業である。しかも59キロを背負って8馬身差。タイトルホルダーにとってもこの春はリッチなシーズンになりそうだ。

 

 

***** 2023/3/25 *****

 

 

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2023年3月24日 (金)

銀行馬券

「競馬に絶対はない」。

古来より幾度となく繰り返されてきた手垢にまみれたフレーズである。その一方で「銀行馬券」とか「銀行レース」という言葉を耳にする機会が少なくなったように思う。

1992年春の天皇賞は、無敗の2冠馬トウカイテイオーと春天連覇を目指すメジロマックイーンの一騎打ちが濃厚と思われた。敢えて「絶対」とまで言い切るTV解説者もいた。2頭の連勝は150円の超低配当。それでも、「銀行に預けるより儲かる」と言って2頭の連勝に大金を注ぎ込む輩が大挙窓口に押しかけたが、トウカイテイオーがよもやの5着に沈み「銀行馬券」は破綻する。のちにトウカイテイオーの骨折が報じられると、破綻被害者の中からは自らの運の悪さを呪う声も聞こえてきたが、馬がレース中に骨折を発症することはそれほど珍しいことではない。

「銀行馬券」とか「銀行レース」という呼び名は古くからある。

5戦続けて1&2着を繰り返したトキノミノルとイッセイの当時には、既にこの言葉が使われていたようだ。この2頭の最後の対戦となった日本ダービーでは、トキノミノルの永田オーナーが2頭の「銀行馬券」を100万円買って見事的中を果たした。その配当240円。日蓮宗徒でもある永田氏は、レース中ずっと「南無妙法蓮華経」と唱えていたそうだ。

ちなみに100万円という額は、当時の日本ダービーの1着賞金と同額。現在に照らし合わせれば3億を突っ込んで7億2千万の配当を得たことになる。馬券を3億円分買ったらいったい何枚になるのだろうか。

過去にもっとも騒がれた「銀行馬券」は、1970年の日本ダービー。タニノムーティエとアローエクスプレスの対決であろう。普段は馬券など買ったこともない商社マンや主婦までもが2頭の連勝馬券に群がるという社会現象を引き起こしたが、タニノムーティエが優勝を果たす一方で、アローエクスプレスは5着に敗れている。

こうした例に留まらず、社会現象になるほどの銀行馬券にはたいてい破綻が待ち受けているものだ。さらに90年代も後半になると、本物の銀行がリアルに破綻することも珍しくなくなり、「銀行馬券」という呼び名自体もどこかへ消えてしまった。

そもそも、投資にしても銀行預金だけでなく様々な商品が巷に溢れ、より投機的な商品に人気が集まる時代である。馬券にしても同じこと。今では枠連以外にも様々な種類が用意されており、一攫千金が望める3連単の人気がもっとも高い。こんな世の中にあっては、「銀行馬券」復権の日はもうやって来ないのかもしれない。

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明日の日経賞はタイトルホルダーとアスクビクターモアの菊花賞馬2頭が人気を集めている。その馬連配当はおそらく3倍を割るだろう。だからと言ってこの2頭で絶対という保証はどこにもない。それが競馬だ。

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***** 2023/3/24 *****

 

 

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2023年3月23日 (木)

高松宮記念の注目は

高松宮記念の出走馬が確定した。注目はピクシーナイト。もし勝てば、1993年の有馬記念を勝ったトウカイテイオーの中363日を上回る中468日でのGⅠ制覇となる。競馬史に残る大復活劇を期待する向きは多かろう。

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「常識的には……」と思いつつ、常識を超えた優勝を我々はWBCで目の当たりにしたばかり。スプリンターズSの優勝インタビューで「想像を超えていた」と福永祐一騎手に言わしめたその素質に、賭けてみるのも悪くない。

もう一頭の注目はトウシンマカオ。こちらには血統的な注目が集まっている。

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長い歴史の中でも父系血脈の持続が至難であることに説明の必要はなかろう。一時代を築いた人気の主流父系も、長くて3代ぐらい経つと活力を失い、勢いを得た別のラインに屈し姿を消していく。ヒンドスタン、ネヴァービート、パーソロン、ノーザンテースト。天下無双に思えたサンデーサイレンスから続く父系とて例外ではいられない。

その中にあってテスコボーイからサクラユタカオー、サクラバクシンオーと続いて、ショウナンカンプやグランプリボス、そしてビッグアーサーへと流れゆく父系は世界的にも貴重な存在だ。1972年の皐月賞馬ランドプリンスに始まり、昨秋にトウシンマカオが勝った京阪杯までなんと41年間も重賞勝ちを記録しているのである。42年目の今年、日本が誇るこのサイアーラインから高松宮記念出走馬が出ること自体がそれだけで奇跡的。もし勝てば、内国産馬による父子4代連続GⅠ制覇の大偉業の達成だけでなく、同時に「5代連続」への期待も繋がる。

内国産馬にこだわらなければ「父子4代連続GⅠ制覇」は既に一組だけ前例がある。それを成し遂げたのが前述のピクシーナイト。一昨年のスプリンターズS勝利で、グラスワンダー、スクリーンヒーロー、モーリスと続いた父子連続GⅠ制覇の記録を「4代」にまで広げた。

その父系は必ずしも日本の主流血脈ではないが、血統の歴史を振り返れば逆にそここそが魅力であろう。グラスワンダーは有馬記念連覇のイメージが強いが、実は1400mのGⅡを2勝し、朝日杯3歳Sをレコードで優勝したスピード馬。スクリーンヒーローの祖母ダイナアクトレスからのサポートも受けて磨きがかけられたその豊かなスピード能力は、マイルGⅠ4勝のモーリスを経てピクシーナイトに余すところなく伝えられているに違いない。

ピクシーナイトもやがて種牡馬となり、父子連続GⅠ制覇の記録を「5代」にまで広げる仕事が待ち受けている。それを思えば、重度の骨折明けの競馬で決して無理はして欲しくない。期待と不安が交錯する高松宮記念。だからこそ我々ファンは注目せずにいられないのである。

 

 

***** 2023/3/23 *****

 

 

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2023年3月22日 (水)

常識を超えてゆけ

いやあ、年甲斐もなくテレビ画面に食い入ってしまいましたよ。あの時間帯、ABC朝日放送の視聴率は跳ね上がったのではあるまいか。まさかの展開の連続にトイレに立つこともままならない。その番組というのはこちら。

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昨夜放映された「千鳥の相席食堂」です。

WBCと聞いてJBCの世界版か?とボケをカマすような私でも、もちろん今日のWBCの決勝は観た。でも、それより楽しみにしていたのが昨夜の相席食堂。あのクリストフ・ルメール騎手が旅人としてロケに参加するという。先週の阪神大賞典を勝ったばかり。もちろん収録日はもっと前のはずだが、トップジョッキーがバラエティー番組に一人でロケ参加するのは異例中の異例。観ぬわけにはいかない。

結果から言うとそれほど面白いロケではなかった。ただ、それは普通の視聴者の視点の話。競馬ファンとして観れば、面白いとかつまらんとかいう次元を超えてくる。それでもトラクターを駈って「大外からルメール!」のくだりや「笑顔懸垂」などは、競馬を知らぬ大悟さんもひとまず合格点を与えていたようだし。野草採り名人の「福永」さんや、友人でモデルをしている「ペリエ」さんなどが登場すると、競馬を知る人間からすれば思わずニヤリとしてしまうのである。

それにしても、なぜルメール騎手はオファーを受けたのだろうか。

千鳥の番組だからということは考えられる。ノブさんは競馬番組も持っているし、凱旋門賞にも足繁く通う競馬通だ。しかし番組のエンディングでルメール騎手は千鳥のことを知らなかったことが発覚する。つまり千鳥は関係ない。

彼が手掛けるアパレルブランド「CL by C・ルメール」の新アイテム発表の宣伝のためかもしれない。折しもシルクレーシングとのコラボ商品がオンラインストアで発売になったばかり。4月には代官山、5月には大阪・南船場で開催されるポップアップストアでも取り扱うという。しかし、それに関する言及もテロップもいっさいなかった。

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おそらく深い理由などない。もともとこの手のオファーは断らないタイプなのではないか。昨年は京セラドームのオリックスvsロッテ戦で始球式を行ったばかりか、登板前にはオリックスベンチの円陣に参加して「さぁ、いこう!」と声出し役も買って出ている。それを聞いたときはそんなのアリなのかと驚いた。だって、この始球式が行われたのはあの劇的な優勝の10日前。オリックスは1敗も許されぬ土壇場の優勝争いを繰り広げている最中だった。

きっとアリなのだろう。騎手の副業を内規で禁止していたJRAも変わった。「これは美味しいよ」と福永さんに言われて、言われるままに野草を食べて、「まずい」と正直に言ってしまう。そんなロケの常識をも覆すルメール騎手の立ち居振る舞いに、常識に捉われがちな己を戒めなければなるまい。大谷選手の活躍ぶりなどはその最たるものであろう。泥だらけのストッパー。その姿に常識を超えた野球の姿を観た気がした。

 

 

***** 2023/3/22 *****

 

 

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2023年3月21日 (火)

そして第二章へ

休日だというのにいつも朝メシを食べる喫茶店に客がいない。商店街もガラガラ。それもそのはず、朝8時からWBCの準決勝が行われている。私とて興味がないわけではないが、朝メシには代えられない。

コーヒーを飲みつつ考えた。ということは他の店も今ならガラ空きではあるまいか。それならと難波まで散髪に行ってみたら、案の定ガラガラだった。それに気をよくして道頓堀のうどん店「いなの路」へ。いつもは行列で諦めてしまうのだが、休日の昼前だというのに行列が見えない。スッと入って肉うどんとご飯を注文した。

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かつて「なんばグランド花月」のすぐそばに暖簾を掲げ、半世紀以上も吉本芸人やスタッフに愛された「信濃そば」が突然閉店したのは5年前のこと。とくにダウンタウン浜田雅功さんのお気に入りとして知られ、名物の肉うどんはテレビ番組のロケなどで幾度となく紹介された幻の名店だった。

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しかし昨年、先代の義理の息子が新店主となり、「信濃そば」の味を再現させることに成功。「いなの路」として店を再開させた。「信濃そば」を知らぬ私にとって、この肉うどんはもちろん初めて。鰹と昆布のうま味がたっぷりで、そこに肉の甘い脂身がたっぷり溶け出したダシはたしかに癖になりそう。復活を聞いてやってきた浜田雅功さんが「これ、これ、これ」と唸った気持ちも分かる。店主によればこの肉うどんの味を再現させるのに4年の年月が必要だったのだそうだ。麺はふんわりやわらかで、ダシをたっぷり吸っている。まさに大阪うどんの王道。むろんダシをご飯にかけても美味しい。「信濃そば」と肉うどんファンの物語は、「いなの路」に舞台を移して第二章が始まった。

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店を出て5分ほど歩くと「DASH心斎橋」の看板が目に飛び込んできた。園田・姫路の場外馬券売り場だが、他の地方競馬場の馬券も売っている。今日は姫路以外に浦和、笠松、高知を併売。その浦和の出走表を眺めていたら、なんと「真島大輔」の名を見つけた。

Dash2

真島騎手は先日の調教師免許試験に合格。昨年12月31日を最後に騎乗を控えていたが、今日の浦和11レース・春光特別が今年初騎乗となる。騎乗馬ルヴァンはまったくの人気薄だが買わなければなるまい。なにせ真島騎手が騎乗するのは今月限り。大阪に住む身としては、彼の騎乗馬の馬券を買う、これが最後のチャンスになるかもしれない。調教師に活躍の舞台を移しての第二章に期待を寄せつつ、騎手・真島大輔のラストダンスを見守ろう。WBCに挑む侍ジャパンのストーリーは第三章がいよいよ大詰め。こちらの物語の行く末も、熱くも冷静な眼で見守りたい。

 

 

***** 2023/3/21 *****

 

 

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2023年3月20日 (月)

赤星

大阪に来て2年余り。東京にいる時は、ちょっと高くてもゆったり座れたり、良い魚を仕入れていたり、珍しい日本酒があるようなお店を選んでばかりいたのだが、大阪に来てまったく考えが変わった。タバコの煙が立ち込める狭い立ち飲み屋や角打ちで、隣の客と肩をぶつけ合いながら、380円の赤星大瓶を飲んでいる時間が一番楽しい。東京にいたときの私はどうかしていた。少しでも安い店を探して今宵も梅田の街を彷徨っている。

Bingo

阪急梅田駅の北側にある「ビンゴヤ」は界隈で有名な角打ち。酒屋さんの倉庫で飲ませていただくスタイルで、100人以上が入れるというから角打ちにしては広い。つまみはおでんや缶詰、乾きモノが中心。中でも醤油を垂らしたコンビーフが美味い。燗酒は松竹梅「豪快」。中山グランドジャンプ連覇の名ジャンパーに思いを馳せながら一口飲むと、これがまた美味い。千円でじゅうぶんおつりがくる。

さらに北に向かって中津まで歩くと「大阪はなび」という異世界が広がっていた。

Hanabi1

ビールケースの上に板を載せただけのテーブル。椅子もビールケース。そして頭上には裸電球と短冊メニュー。一見カオスな光景に東南アジアのどこかの街に迷い込んだような錯覚を覚える。

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ここでも赤星大瓶を注文。

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正式名は「サッポロラガービール」。通称「赤星」。いわゆる「生」とは違い、熱処理ビールならではの苦味が特徴だ。

サッポロと言えば「黒ラベル」のイメージが強う。北海道にお住まいの方なら「クラシック」であろう。どちらも非熱処理の「生」であり、どちらもラベルには金色の星が描かれている。一方の赤星はコンビニや居酒屋チェーンで見かけることはほぼない。それでもこうした大衆酒場では稀に見かける。主たる客層は中高年男性。それを「通」と呼ぶかどうかの議論はさておき、いわゆるビール好きのオジさんに好まれるビールとして、秘かに愛され続けてきた。

ところが、最近ではこれを目当てに来る若い客が増えているのだそうだ。いわゆる昭和レトロブームと無関係ではあるまい。昭和感たっぷりのラベルデザインは映えるし、クラフトビールのような感覚で味わう人もいるらしい。そこに実は我が国でもっとも古いビールブランドだといトリビアが加わる。なにせ発売開始は1877年であるから、その歴史は150年に近い。一周どころか、3~4周回ってブームが巡って来た可能性はある。

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その味は瓶で、しかも大瓶で味わいたい。この店のようなビールケースに板を乗せただけのようなテーブルには、生ビールのジョッキよりも大瓶とグラスが似合う。アテには大盛ソーセージと厚切りベーコンの炭火焼があればじゅうぶん。写真はその大盛ソーセージ。短冊に書かれた「大盛」の表記に偽りはなかった。

 

 

***** 2023/3/20 *****

 

 

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2023年3月19日 (日)

選択肢と豊かさ

娘に勧められてスマホの契約を見直すことにした。

ショップや量販店に行く必要はない。すべてネットで手続きできる。そういう意味では便利になった。半日もの貴重な時間が空費されることを覚悟した10年前を思えば、まさに隔世の感がある。

それにしても、なぜに日本の携帯電話料金はかくも分かりにくいのであろうか。世界中の通信事業に詳しい人物に言わせれば「地球上で最も複雑」だという。ここまで細分化することになんの意味があるのかと思わせるほどの膨大な種類のプランに加え、次から次へと繰り出されるオプションの数々。選択肢が多いことは豊かさの象徴―――。どこかでそんな言葉を聞いたことがあるが、その意味をはき違えた末に、誰もが袋小路に迷い込んでいるように思えてならい。

「選択肢が多いことは豊かさの象徴」という言葉は、「馬券の種類を増やせ」と主張する競馬評論家も、かつては頻繁に使っていたように思う。つい最近まで日本の馬券は、単・複・枠連の3種類しかなかった。日本が世界一の馬券売上額を誇ることになった要因のひとつが、我が国が世界に誇る「枠連」にあったことは疑いようもない。だが、1991年の馬番連勝複式導入を皮切りに、現在ではひとつのレースで買える馬券は8種類に増えた。レース確定後に発表される的中馬券は、なんと12通りもある。

Kakutei

それだけあればもっと当たってもよさそうな気がするのに、自分の買った馬券は相変わらず当たらない。なぜか。的中馬券の種類は増えても、勝つ馬は1頭だけで変わりがないからである。

自分の本命馬が見事先頭でゴールインしても、その勝負に見合うだけの配当金を得られなければ話にならない。実は多くのファンが発売締切り直前になって悩んでいるのは、本命をどの馬にするかなどではなく、どの馬券をどのように買うか。その一点であったりする。

単勝勝負か? 馬連流しか? 馬単ボックスか? 3連単1頭軸マルチか? あらゆるオッズや手元の軍資金とも相談しつつ、金額配分も決めなければならない。なにせ3連単なら買い目は数十点。百点を超えることも珍しくはない。そうこうしている間にも、発売締切は刻々と迫りつつある。

昔はそんなことで頭を悩ます必要はなかった。枠連の組み合わせ数は最大でも36通り。本命が穴馬ならば、単勝と複勝も加えておけばよい。馬単で万馬券を的中しておきながら、「3連単で買っておけば10万馬券だったのに……」などと、万馬券的中の喜びより10万馬券を逃した悔しさが勝るような、そんなおかしな感情が沸き起こることも、あの当時はなかった。

現代の馬券テクニックは、どの馬を買うかではなく、どの種類の馬券を買うかの巧拙が問われると言っても過言ではない。これが選択肢を増やした末に我々が掴んだ豊かさの姿。携帯電話の料金プランであれ馬券の種類であれ、「豊かさ」という名の不便に翻弄される我々を半世紀前の人たちが見たら、きっと笑うのではないだろうか。

 

 

***** 2023/3/19 *****

 

 

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2023年3月18日 (土)

ベストレース

2000年12月、4歳のナリタトップロードはGⅡステイヤーズSに出走してきた。

当初の狙いは一週前のジャパンカップだったが、賞金順の出走馬選定でステイゴールドやアメリカンボスにさえも及ばず、除外の憂き目を見たのである。ステイヤーズS出走は、言わばやむを得ぬ選択。それでもファンは単勝1.3倍の圧倒的1番人気に支持した。菊花賞馬の看板を背負えばそれも当然か。しかしあろうことか4着に敗れてしまう。ナリタトップロードと渡辺薫彦騎手。デビュー以来16戦に渡り続いてきたコンビだったが、有馬記念を前にして管理する沖調教師はついに乗り替わりを決断した。その鞍上に指名されたのは、前年まで有馬記念を2連勝していたベテラン・的場均騎手である。

当時、渡辺騎手は中山コースで一度しか勝ったことがなかった。それがナリタトップロードで勝った前年の弥生賞。その弥生賞の朝、渡辺騎手はひとり芝コースを歩いたという。歩いて馬場状態を確認する騎手はGⅠでは珍しくもないが、GⅡでは珍しい。つまり彼はそれだけ中山での騎乗経験が少なかった。

一方の的場均騎手は関東のトップジョッキーのひとり。中山のコースは当然熟知している。それでも当時はこの乗り替わりに驚く人が少なくなかった。ルメール騎手や川田将雅騎手でさえGⅠを前に降ろされることも珍しくない現在のご時世からすれば、ちょっと想像が難しいかもしれない。

しかし、沖師は渡辺騎手を完全に見捨てたわけではなかった。的場騎手は、既に調教師試験に合格しており、翌年2月での騎手引退が決まっている。いわば期間限定の乗り替わり。このまま渡辺騎手が手綱を取り続けても同じことの繰り返しだろうから、一度離れたところからトップロードのレースを見届けさせようという作戦だった。

ナリタトップロードは的場騎手の手綱で有馬記念9着。続く京都記念でも3着と勝つことはできなかったが、渡辺騎手に手綱が戻った阪神大賞典では後続に8馬身差をつける圧倒的なレースで優勝を果たす。ウイナーズサークルで左手を挙げた渡辺騎手の目には光るものがあった。この乗り替わりの経験は調教師となった今になって、さらに役立っているに違いない。

Toproad

3分2秒5は当時の世界レコード。今は調教師となった渡辺師は、ナリタトップロードとの数々のレースの中でもこの阪神大賞典こそがベストレースだと言い切る。そんなパフォーマンスを生み出したのは、沖調教師が下した苦渋の決断とそれに応えた渡辺騎手の揺るがぬ信頼関係のたまものであろう。今年、渡辺厩舎からは新人の河原田菜々騎手がデビューした。明日は3頭に騎乗予定。師の思い出のレースが行われるその日に初勝利を届けたい。師弟の信頼関係は受け継がれてゆく。

 

 

***** 2023/3/18 *****

 

 

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2023年3月17日 (金)

讃岐うどん界のアイドル、逝く

競馬場にいると「仕方ない」という言葉をやたらと耳にする。

「あれで差されちゃ仕方ない」

「この馬場では仕方ない」

「枠順ばかりは仕方ない」

「短距離血統だから仕方ない」

「この相手では仕方ない」

挙句の果てには、

「競馬だから仕方ない」

なんて言葉も飛び出す。競馬場は無数の「仕方ない」で埋め尽くされていると言って良い。

なにせ便利な言葉である。競馬という競技は圧倒的に負けることの方が多い。しかも、レースは一日に何度も行われる。競馬関係者にせよ馬券を買うファンにせよ、ひとつの敗戦やひとつの失敗をいちいち抱え込んで、精神的ダメージを引きずるようでは、とても戦えたものではない。だから「仕方ない」の一言で済ませる。時と場合によっては叱られるかもしれないこの言葉も、こと競馬場においては魔法の呪文のような輝きを発する。

Mise

東急東横線の白楽駅から徒歩5分。商店街を抜け、横浜上麻生道路を渡った先に「じょんならん」という名のうどん店が暖簾を掲げていた。残念ながら今は既に閉業しているが、実はこの店、あの讃岐うどん界のアイドルと称された「るみばあちゃん」の下で修業を積んだ大将が切り盛りしていたのである。麺のコシ、伸び、そして香り。あれほど生き生きした麺を私はほかに知らない。

その「るみばあちゃん」こと池上瑠美子さんがお亡くなりになったそうだ。うどん一筋65年。遠くから訪れる若い客との会話が何よりの楽しみだったという。その味に惚れたというお弟子さんは数知れない。京都伏見の名店「大河」のご主人は、その最後の弟子だと聞いた。心中お察しする。

白楽にあったお店の「じょんならん」とは、讃岐の言葉で「仕方ない」という意味だそうだ。修業時代、師匠のるみばあちゃんに「じょんならん」と言われたことがきっかけで店の名前に選んだらしい。しかし、その手から生み出されるうどんは「じょんならん」とはまるで逆だった。勝手な憶測だが、この店名は一種の戒めでだったのではあるまいか。「じょんならん」ばかりでは先はない。それに抗う姿勢が大事なのである。

競馬でも同じこと。終わったことはたしかに「仕方ない」。けれど、前に進むための努力は必要だ。それが成績の差となって表れる。私の馬券もしかり。ただ、こればかりは本当に「じょんならん」なあ……。

 

 

***** 2023/3/17 *****

 

 

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2023年3月16日 (木)

ストの封印は解かれるか

「JRA ストで24年ぶり開催中止の可能性も」

夕方、ネットにそんな見出しが並んだ。JRAの厩務員、調教助手らが加盟する主要4労組(関東労、全馬労、関西労、見駒労)と日本調教師会が2回目となる交渉を都内で行ったが妥結には至らなかった。4労組は2011年から施行されている賃金体系の廃止を求めており、すでに10日にJRAと日本調教師会に対して開催ストライキ通告を行っている。明日17日も継続して話し合いが行われるとみられるが、このまま交渉が決裂すれば今週末の競馬は行われない公算が高い。仮にそうなれば1999年4月3日以来24年ぶりとなる。

厩務員春闘において、労組側が開催を人質に取るのは常套的戦術。だが、ここ数年は比較的平穏な労使交渉が続いていただけに、不意を突かれた感がしないでもない。

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シンザンが勝った1964年の皐月賞の入場者数は3万4131人と意外に少ない。実はこれも春闘の影響だ。なにせ、この年の春闘は皐月賞当日の午前3時に妥結するという綱渡りだった。ひとつ間違えたら、シンザンの3冠は無かったかもしれない。

ストライキが皐月賞を直撃したのは1976年が最後。この年の皐月賞は、トウショウボーイとテンポイントの初対決としても注目を集めていたから、インパクトも大きかった。結果、テンポイントはトウショウボーイに敗れるわけだが、その敗因についてはストライキによるレース順延で、体調を崩したためと言われる。復調は秋まで待たねばならなかった。彼ほどの名馬でもストライキに抗う力はない。

そのトウショウボーイの子・ミスターシービーがシンザン以来の3冠を目指した1983年の皐月賞に際しても、春闘交渉は苛烈を極めた。実際、中山競馬場への足となる京成電鉄労組はストライキに突入。これは皐月賞延期もやむなしか……と思われたが、すんでのところで開催ストは回避。皐月賞は無事に開催の目を見た。

この年に関して言えば、使用者側たる調教師側の尽力が大きい。若手調教師が積極的に団交に参加して、てきぱきと事務処理をこなし、統一感を欠きがちな調教師会の意見も一本化されたことで、交渉は驚くほどスムースに進んだ。一方で組合側も、戦術としての開催ストを通告してはいたものの、「ファン心理を無視することはできない」という姿勢を、最初から打ち出していたことは見逃せない。やればできるのである。

調教師側交渉団の代表として交渉にあたった松山康久元調教師は、大本命のミスターシービーを抱えながら、だからといって安易な妥協はできない立場に置かれていた。心中察するに余りある。ともあれ皐月賞は無事に行われ、ミスターシービーは3冠の第一関門を見事突破した。

調教師側にしても、厩務員側にしても、開催中止で得るものは何もない。それは誰もが分かっている。だからこそ丁寧かつスピーディーな交渉が必要。いくらなんでも大丈夫だとは思いたいが……。

 

 

***** 2023/3/16 *****

 

 

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2023年3月15日 (水)

霞か雲か

昨日、東京でソメイヨシノの開花が発表された。3月14日の開花宣言は2020年、21年に並び観測史上最速。とはいえ直近4年のうち三度目ともなれば、いちいち驚くこともなくなった。

驚かされたのはニュース番組に流された映像である。開花宣言を待ちわびる大勢の人たちが桜の標準木を取り囲み、気象庁の職員が開花をチェックするのを見守っていた。しかるのちに職員が「開花を発表します」と手話を交えて“宣言”すると、観衆から拍手まで沸き起こったのである。

気象庁が行う「生物季節観測業務」は植物12種、動物11種の開花や初鳴きなどの現象を観測するもので、観測結果は季節の進み具合を探るための貴重な資料となっている。桜の開花観測はそのひとつに過ぎない。

観測場所は、基本的には各気象台の構内と決められているが、東京の場合、気象台がオフィス街のど真ん中にあるため、対象となる動植物が構内に見あたらない。それでやむなく桜に関しては、2キロほど離れた九段の靖国神社境内の木を標準木と定め、気象庁の職員がわざわざ出向いて観測しているわけだ。実際には開花を「宣言」しているのではなく、各気象台が気象庁に「報告」していると言うのが正しい。手話を交えての“宣言”は気象庁の粋な演出ということであろう。

桜以外の一部の対象物については、靖国神社からさらに離れた世田谷区の東京農大周辺で観測が行われている。つまり馬事公苑のお隣ですね。ここでは植物10種のほかに、動物ではウグイス、ツバメ、ヒグラシ、アブラゼミの4種が観測対象だそうだ。ちなみに、ツバメは初めて目撃された日を、そしてウグイス、ヒグラシ、アブラゼミは、初めてその鳴き声が聞こえた日を報告することになっている。

それにしても日本人の桜に対する情熱は凄い。そも「花」という言葉自体が桜を表す。花曇り、花冷え、花あらし―――。移ろいやすい春の空模様さえも、花(=桜)を使って表現するほど日本人と桜は密接な関係を築いてきた。生物季節観測業務に拍手が湧くのも分かる気がする。世界広しといえど、「花見」という文化を持つ民族も、おそらく日本人だけであろう。

ただし、である。私自身は満開の桜の下で大勢で酒盛りをするステレオタイプな花見の経験を持たない。別に嫌っているわけではないが、たまたまそういう機会に恵まれなかった。私の花見は缶ビールを片手に桜並木を散策する程度。その後、目に付いた店に入って、ゆるゆると飲むのが楽しい。

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若い時分には、「花見を兼ねて」という名目で中山に行くことも間々あった。これはレジャーシートにお弁当というスタイルではある。しかし中山では「桜の木の下で」というわけにはいかない。なにせ桜は外回りコースのさらに向こうに咲いている。遥か彼方で咲き誇る桜に「おぉ!」と感嘆の声をあげるのは、せいぜい乾杯の瞬間までで、あとは新聞と馬しか目に入らないこともしばしば。しかし、これはこれで楽しいのだから仕方ない。

それでも、たまにレースの合間にぼんやり遠くの桜を眺めてみたりもする。それで悦に入って日本酒をちびりと舐めたりするのは、やはり日本人だからであろう。遠くスタンドから眺める桜は、淡いピンクの霞にも見え、なるほど「霞か雲か」と歌われた理由が理解できたりもした。

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とはいえ、そんな風情もレースが始まればどこかに吹き飛ぶ。「そのまま」とか「差せ!」などと騒ぎ立てた挙句、オケラになって帰るのはいずこも同じ春の夕暮れ。ただ、この季節だけは競馬終わりに西船橋駅方面に向かって歩きたい。南門を出てしばらく歩くと、桜が美しいスポットを通るのである。運良く風が吹けば、圧巻の桜吹雪を見ることができるかもしれない。遠くから眺める桜も悪くないが、間近で見る桜は負けて傷ついた心を癒してくれるものだ。

 

 

***** 2023/3/15 *****

 

 

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2023年3月14日 (火)

数学の日

今日3月14日は一般には「ホワイトデー」だが「数学の日」でもある。由来は円周率のもっともメジャーな近似値「3.14」にちなむ。ゆえに海外には「円周率の日」と定めている国も。ちなみに日本では7月22日が「円周率近似値の日」であるらしい。これは7分の22(22÷7)の値が、3.1428……と円周率に比較的近いから。ちょっと無理がありそうにも思えるが、紀元前2千年頃の古代バビロニアでは、この「7分の22」が円周率の近似値として実際に使われていたことを思えばあながち的外れでもない。

円周率は3.1415……と永遠に続く。それゆえ3月14日に結婚するカップルもいるらしい。ただ、永遠に続くだけなら3月1日(3分の1=0.3333……)でも同じですけどね。でも、有理数と無理数の話をすると長くなるので、これ以上は深入りしない。ちなみに円周率は「π」とも表記されるため、米国ではアップルパイを食べて祝う習慣があるそうだ。これは楽しい。なので私もアップルパイを食べながら、数学について書くことにする。

数学とギャンブルに密接な関わりがあることは言うまでもない。ギャンブルが数学を生んだ―――とまでは言わないが、ギャンブルが数学のいち学問の「確率論」を生んだことは、まず間違いないだろう。

「一つのサイコロを続けて4回投げ、『六の目が少なくとも一度は出る』という結果に賭ける行為は、果たしてどれくらい有利なのか?」

これは賭け事が大好きなフランスの貴族メレが、数学者パスカルに問うた有名な問題である。

「サイコロを1回投げて六の目の出る確率は1/6。だから、これを4回くり返せば、確率は4/6(=0.67)になる」

当時の人たちは、このように考えていたらしい。

だが、この“少なくとも”の部分がくせ者。「少なくとも一度は六の目が出る」というのは、実は「4回とも六の目が出ない」の反対であり、そのように計算すれば、真の確率は0.52という案外拮抗した数値に収まる。

Saicoro

パスカルは、同じ数学者のフェルマーと手紙をやりとりしながら、この問題に対する解法を探った。やがてその考え方はギャンブルのみならず、保険や気象、さらには量子力学のような物理学にも必要とされ、今日の確率論にまで発展を遂げる。

昔の人はリスクを最小限にしようと頭を凝らし、様々な思考を戦わせた末に確率論という類い希な学問を生み出した。逆に、確率論は敢えてリスクを引き受けるという人間の冒険心を燃え上がらせ、結果それが社会経済の発展を生みだすことになる。そういう意味では人類史とはすなわち賭けの歴史だったのである。

パスカルは、すべての運・不運にまつわる謎を解明せしめ、あらゆる偶然を人知の及ぶ処にしようと確率論を発展させたが、そこに秘められた大きな謎を手中に収めることはついにできなかった。それどころか、晩年はギャンブルに溺れる生活を送ったのち、やはり39歳の若さでこの世を去っている。稀代の大数学者を以てしても、最終的には運には逆らえなかったということであろう。

 

 

***** 2023/3/14 *****

 

 

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2023年3月13日 (月)

東風吹かば

先週末、暖かな東風に誘われて奈良の町を歩いた。銘酒「春鹿」で知られる酒蔵「今西清兵衛商店」では500円で試飲ができる。5種類+サービス1種類の合計6銘柄。どれもラベルに鹿の絵柄が描かれていて可愛いが、どっこい最初に出てきた一杯は超辛口だった。そこは創業130年を超える老舗。安易に甘口に流されたりはしない。ラストには自家製の奈良漬けも試食してすっかり酔って店を出た。

Harushika

奈良の景色に鹿は欠かせない。奈良公園周辺にはいたるところに鹿がいて、外国人観光客に鹿せんべいをねだっている。外国の街中で馬を見かけることはよくあるが、鹿となるとかなり珍しいに違いない

Shika

かつて日本の馬は欧米の馬に比べて極めて華奢だった。ワールドスーパージョッキーシリーズ(WSJS)で来日した外国人騎手が、帰国して「日本で鹿に乗ってきた」と言い放った逸話はそれを端的に表している。それこそ「馬鹿」にされたわけだ。

しかし、今では日本の競馬をバカにする外国人騎手などほとんどいまい。サウジカップミーティングの結果を見れば一目瞭然。ドバイワールドカップに至っては出走全14頭のうち半数を超える8頭が日本馬である。親日家で知られるフィリップ・ミナリク騎手は、ミュゼエイリアンで勝った昨年の東風Sが日本でのもっとも大きなタイトルだった。バーデン大賞4勝の名手も日本ではそうそう簡単に勝たせてもらえないことの裏返しでもある。

2018kochi

漢字で「馬鹿」と書くのは当て字に過ぎない。馬はバカを代表するような愚かな動物ではないことを、我々競馬に携わる人間は知っている。まず、馬は人を見ることができる。下手な乗り手が手綱を取ったところで、決して思うように動いてはくれない。馬が人間をバカにすることもあると思えば、人が馬を一方的にバカ呼ばわりするのは本末転倒だ。

李白の詩の中に「馬耳東風」という言葉が出てくる。馬には春を告げる東風の有り難みが理解できないという意味だが、転じて他人の意見に耳を傾けないことの喩えとなった。現代でも使われる言葉として生き残っていることを思えば、馬を見下した李白の責任は重い。

もちろん馬もちゃんと人の言うことは聞いている。入厩してきたばかりの外国産馬に、厩務員が日本語で馬に命令しても言うことを聞かないのに、英語で話しかけたらサッと指示通り動いたなんて話は列挙に暇がない。

逆に私たち人間は馬の声をちゃんと聞けているのだろうか?

馬は言葉を喋らない代わりに感情を耳の動きで伝えてくれる。先週の東風Sでワンツーフィニッシュを決めた金子オーナーなどは、「目で聞き取れる」クチではなかろうか。でなければあそこまでの成績は残せまい。私も必死に馬耳に目を向けて馬の声を聞き取りたいと頑張っている。でないと馬にバカにされてしまう。

 

 

***** 2023/3/13 *****

 

 

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2023年3月12日 (日)

鍵を握る失点率

WBC一次ラウンドB組は侍ジャパンの快進撃で盛り上がっているが、台湾で行われたA組は稀に見る大激戦となった。なんと5チームが総当たりで4戦してすべて2勝2敗だから凄い。こうなると当該チームとの対戦での失点率が鍵を握る。途中から日本VSオーストラリアよりも、イタリアVSオランダの行方が気になって仕方なかった。ともあれ日本の次の相手はイタリア。しかし毎回のこととはいえ、この失点率の計算というのは分かりにくい。

関係者の間でさえ「失点率より得失点差を重視すべき」と賛否両論あるものの、失点率のルール自体は国際野球連盟の規定にのっとったものだ。失点を最小限に留めれば道は開けるというシンプルな考え方は、投手力を中心とした守りの野球を旨とする日本にも味方している。このルールのおかげで序盤で大差がついた試合に一定の緊張感を与えている点も見逃せない。同じ「1敗」でも、そこに微妙な差が生じるからだ。

それが大きくモノを言ったのは、2006年に行われた第1回WBCの2次ラウンド。4チームの対戦が終了した時点で、3戦全勝の韓国を除き、日本、米国、メキシコの3チームが1勝2敗で並んだ。結果、失点率の争いとなったのである。

まず18イニングで7失点のメキシコは失点率3.89で脱落。17イニングで5失点の米国は失点率0.29。そして日本は17回2/3を5失点だから0.28。わずか0.01差で米国を上回った日本が決勝トーナメント進出を果たし、その勢いのまま世界一へと上り詰めることとなる。

実はこの2次予選で日本は米国にサヨナラ負けを喫していたのだが、9回2アウトまで進んでいたことが大きかった。アウト一つと言えど、バカにはできない。

だが、巷間騒がれているように、このルールには欠陥がある。「延長10回で1-0勝利なら失点率で勝ち上がれる」というチームは、9回まで点を取ろうとせず故意に凡退するだろうし、「9回1失点なら試合に負けても失点率で勝ち上がれる」というチームが0-0で9回ウラの守備を迎えれば、4者連続敬遠の暴挙に出るかもしれない。

その点、競馬には「抽選」という麗しき伝統がある。明瞭簡潔であり、なおかつ故意に負けるようなルール上の抜け穴もない。必要とされるのはただひとつ。「運」のみ。そこからノーリーズン(皐月賞)、トールポピー(阪神JF)、ゴスホークケン(朝日杯)のように、頂点に上り詰めた馬もいなくはない。

Noleason

一方で、こうした抽選組の活躍は、GⅠを勝つだけの力を持ちながら抽選で涙をのんだ馬が多くいた可能性を示唆している。2013年の朝日杯ではモーリスやミッキーアイルが除外の憂き目を見た。いま思えば、JRAも思い切ったことをする。でも、公平な抽選の結果である以上、主催者が文句を言われることにはならない。そこがミソ。「麗しき」というのは精一杯の皮肉だ。分かりにくいと揶揄される失点率でも、少なくともそこには関係者の努力の跡を感じ取ることができる。ルールの欠陥を突くような真似をするようなチームは、きっとWBCの舞台にはいないのであろう。

 

 

***** 2023/3/12 *****

 

 

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2023年3月11日 (土)

変りゆく被災地・船橋

来週は船橋でダイオライト記念が行われる。例年3月中旬に行われるこのレースが、5月に行われたことがあったことを覚えておいでだろうか。スマートファルコンが勝った2011年のこと。理由は言うまでもなく、2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響である。

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地震発生直後に中止された大井10Rから、4月12日に川崎が再開されるまでのまるまる1か月間。帯広ばんえいを除き、東日本からいっさいの競馬が消えた。

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津波が街を押し流し、原発が煙を吹き、電力不足から東京の夜が暗闇と化した中で、競馬どころではなかったのは当然のこと。だが、不謹慎な告白をすれば、「ひょっとしたら、このまま東京から競馬が無くなってしまうのではないか」という不安に苛まれていたのも事実。南関東の厩舎に馬を預ける身として、競馬を心配せぬわけにはいかなかった。地震発生後に船橋の調教師と連絡が取れた時の私の第一声も、「馬たちは大丈夫ですか?」だったような気がする。我ながら恥ずかしい。まずは調教師、ご家族、スタッフの安否を尋ねるべきだが、先の見えない不安の中で私も取り乱していた。

その時、電話口から聞かされた船橋の惨状は予想を大きく上回るものだった。家族、スタッフ、そして馬たちは無事。それは良かった。だが、周囲がひどいことになっている。あちこちから泥水が噴き出して、ダートコースは水浸し。亀裂が入っている箇所もある。電信柱が傾いて停電しているし、水道も使えない。

Denchu

コースが使用不能であることは明らか。馬に断水というのも厳しい。1か月に及ぶ開催中止のうち、大井、川崎、浦和の3場は自粛の色合いが濃かったが、こと船橋に関して言えば、そこが被災地ゆえであった。いま思えば、5月に競馬が再開されたこと自体が、奇跡のようにも思えてならない。

あれから12年。船橋の通年ナイター開催は、あの震災によって大幅に落ち込んだ売上を取り戻す目的で始まった。そんな船橋競馬場は来年3月のグランドオープンに向けて大規模改修工事の真っ最中。すでに一部スタンドやパドック周辺は既にリニューアルされているらしい。さらに来年春には「ららぽーと」や「ビビットスクエア」に近い位置に入場門が移設されとのことで相乗効果も期待できる。もちろんスタンドには災害時の避難所機能を持たせるそうだ。12年目の節目に“被災地・船橋”の記憶をあらためて思い起こすと同時に、変貌を遂げる船橋競馬場の姿を早く見てみたい。

 

 

***** 2023/3/11 *****

 

 

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2023年3月10日 (金)

【訃報】ハーツクライ

ハーツクライの急死が報じられた。22歳。種牡馬としての役割は2年前に引退し、功労馬としてそのまま社台スタリオンで暮らしていた。私としては昨年会ったのが最後ということになる。種牡馬を引退しても、その眼光は輝きを失っていなかった。

Hearts1

訃報に触れてあらためてあの有馬記念を思い起こしてみる。

誰もが驚く先行策に打って出て、ディープインパクトの追い込みを封じたC.ルメール騎手の手綱捌きは、今なら「神騎乗」などともてはやされるかもしれない。実際「ある程度は前に付けよう」と考えていたことは事実。とはいえ、ルメール騎手本人にとってもタップダンスシチーとオースミハルカに次ぐ3番手という位置取りは想定外だったに違いない。

というのも、レース前の輪乗りの際にハーツクライの覇気が足りないと感じたルメール騎手は、それならとゲートを出る瞬間に軽く気合をつけたという。そしたら馬の方がしっかり反応してあのポジションになったらしい。何が幸いするか分からないのも競馬。結果的にルメール騎手にとって日本での初めてのGⅠ制覇となり、ディープインパクトにとってはデビュー以来初めての敗戦となった。

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レース中の熱気と、ゴール後の場内の異様な静けさは忘れようがない。確定を待つ間、ハーツクライの山本厩務員が馬の顔をじいっと見つめて涙を流していたことも印象に残る。

それにしてもハーツクライという馬のなんと凄いことか。

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ジャパンカップでマークした2分22秒1には度肝を抜かされた。世界でも類を見ない「極限のレース」を繰り広げたからには、それなりの代償があると考えてしまうのが普通。しかし結果はまるで逆で、有馬記念で自身初のGⅠ優勝をつかみ取ると、返す刀で海外GⅠ制覇まで勝ってしまったのだから驚かずにはいられない。

しかも、鬼門の中山、無敗の3冠馬、初の海外遠征、日本では考えられないほどの時計のかかる馬場等々、決して低くはないハードルをクリアしてのGⅠ連勝である。馬が変わったと言っても過言ではあるまい。あのジャパンカップの前に何かがあったのだろうか、とついつい考えてしまうのだが、やはり母アイリッシュダンスの血が開花してきたという結論に辿りついて着いてしまうのである。

5歳になってから重賞を2勝したアイリッシュダンスのデビューは意外に遅く、3歳夏の新潟戦だった。しかも秋の未勝利戦までに勝ち星を挙げることができず、初勝利はデビューから1年近くが過ぎた4歳夏の福島。500万の一般戦に格上挑戦しての初勝利だった。

ひとつ勝った後は順調に勝ち星を重ねて行き、さらに1年後にはデビューの地で2つの重賞タイトルを獲得している。母が初めて重賞を勝った5歳春にハーツクライが海外GⅠタイトルを手にしたことを考えるとき、母アイリッシュダンスの成長曲線とハーツクライの成長曲線がほぼ重なって見えてこないか。

アイリッシュダンスの血はハーツクライの中に脈々と生き続け、さらにジャスタウェイやスワーヴリチャード、そしてやがてはサリオスやドウデュースを通じて走り続けることになる。

Haerts4

キングジョージの最終コーナーから直線。ハリケーンランを馬なりで交わして先頭に立った時、テレビ画面に向かって思わず叫んだ。「ハーツ! 行け!」これが私の「心の叫び」。恥ずかしくも良い思い出。欧州最高峰の舞台で世界トップクラスと互角に戦ったシーンは今も忘れがたい。名馬にして名種牡馬の冥福を祈ろう。合掌。

 

 

***** 2023/3/10 *****

 

 

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2023年3月 9日 (木)

値上げの春

来月から「週刊競馬ブック」が750円から820円に値上げされる。「週刊Gallop」も800円から950円に値上げだそうだ。Gallop誌は昨年4月にも50円の値上げに踏み切ったばかり。とはいえ短期間での再値上げは、今や珍しい出来事ではない。むしろ注目は「Gallopが千円になる日はいつか?」であろう。

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4月からはJR西日本を始め、阪急電鉄、京阪電鉄が運賃を値上げする。競馬場の競馬場の入場料は1975年から200円(ローカル5場は100円)のまま半世紀近く据え置かれているが、専門誌や電車賃といった競馬に付随する料金の値上げは、ファンにしてみれば入場料値上げとさほど変わりはない。ケンタッキーフライドチキンやモスバーバーも値上げを予告。場内レストランの価格も少しずつではあるが確実に上がっている。

競馬では賞金も値上げが続いている。大阪城Sの1着賞金が2800万円であると知って驚いた。重賞とさほど変わらない。「準重賞」とはよく言ったものだ。ジャパンカップと有馬記念の1着賞金も1億増えて5億円になる。それ以外のレースでも軒並み増額。種付け料も、飼い葉代も、輸送費も、もちろん人件費だって値上げの昨今、経費に対する収入である本賞金の値上げは一概に悪いこととは言えない。

もともと競馬はオーナーが登録料を出し合い、それを賞金とする形で始まったとされる。いわゆる「ステークス」だ。この形は馬券が発売されるようになると衰退し、主催者が用意する賞金が主力になる。これは「本賞金」と呼ばれる。

しかし現在でも重賞を含めた特別レースには特別登録料を必要とする。その総額は、7:2:1の割合で上位3着までの馬に返還される。これが「付加賞」である。JRAが賞金として認めるのは本賞金と付加賞だけ。付加賞という言葉はいかにも軽く響くが、それが本賞金以上に重みを持っていた時代もあった。

例えば第1回の日本ダービーの1着本賞金は1万円だが、付加賞は1万3530円と記録に残る。当時の馬主は、各人が本賞金の2%にも相当する200円を負担していたことになる。

本賞金と付加賞が逆転を見たのは戦後になってから。その後、両者の差は開くばかり。1990年のダービーでは1着本賞金と1着付加賞の差はついに1億円を超えた。うなぎ登りの本賞金に対し1万円にほぼ固定されていたダービーの登録料が一気に30万円にまで値上げされたのは1992年、ミホノブルボンが勝ったダービー以降である。

ダービーの1着賞金は今年から1億増えて3億円になる。30万円に値上げされたとはいえ登録料は本賞金の0.1%に過ぎない。この点に関して言えば、現在の馬主は昔に比べると、ローリスク&ハイリターンの恩恵に預かっていると言えよう。

 

 

***** 2023/3/9 *****

 

 

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2023年3月 8日 (水)

3強時代

今日3月8日は「餃子の日」らしい。冷凍餃子でお馴染みの「味の素」さんが制定したそうだ。3月8日にした根拠は「みんな(3)・ハッピー(8)」とのこと。よくわからないけど、まあ餃子を食べればハッピーにはなりますよね。

先月発表された総務省の2022年の家計調査で、餃子の1世帯当たりの年間購入額は宮崎市が4053円で、2年連続で1着となった。2着は「元祖・餃子の街」として知られる宇都宮市。2008年に初めて家計調査の対象となった浜松市は、デビュー以来14戦続けていた「連対」記録がついに途絶えて3着と敗れた。

    宇都 浜松 宮崎
2008年 ①  ② 着外
2009年 ①  ② 着外
2010年 ①  ② 着外
2011年 ②  ① 着外
2012年 ②  ① 着外
2013年 ①  ② 着外
2014年 ②  ①  ③
2015年 ②  ①  ③
2016年 ②  ①  ③
2017年 ①  ② 着外
2018年 ②  ①  ③
2019年 ①  ② 着外
2020年 ②  ①  ③
2021年 ③  ②  ①
2022年 ②  ③  ①

家計調査は2人以上の世帯が対象。都道府県庁所在地と政令市のみで実施されるため、浜松市は2007年4月に政令市に昇格すると、翌08年の初登場でいきなり2着という快挙を成し遂げた。以後、2020年までの13年間は浜松市の7勝6敗。たとえ敗れてもお互い2着は死守している成績からも分かるように、トウショウボーイとテンポイントのごときライバル関係だった。

そこへ遅れてやってきた大物が肉薄する。宮崎市は2020年こそ3着だったが、2着宇都宮との差は一人当たりわずか23円。「ハナ差」にまで迫っていた。そしてついに21年にトップに躍り出ると、昨年もしっかり首位の座を確保。まさにグリーングラスの如き成長力と言うほかはない。いずれにせよ餃子における3強時代は当分続きそうだ。

Gyoza

しかし、なぜ餃子なのか。家計調査の項目には焼売やハンバーグもある。それでも餃子ばかりが注目されるのは、それだけ日本人に馴染み深いことの証左であろう。

とはいえ、この家計調査は全ての餃子の消費を表すものではない。対象になるのは、スーパーなどの小売店で購入された餃子のみ。市内の専門店で食べれば「中華外食」というカテゴリにカウントされてしまう。テイクアウトでも同じ。たとえスーパーで購入してもそれが冷凍餃子だったりすると今度は「冷凍食品」に分類されてしまうから味の素さんもちょっと悲しかろう。つまりナマか焼きの餃子を小売店で買った金額のみでの比較である。現時点ですべての餃子の消費量を完全に網羅する統計指標は存在しない。

それを作れという声も聞く。だがその場合、3強の立場がどうなるか不透明だ。外食の金額では繁華街を有する都市部が圧倒的に有利。東京23区や横浜市がトップに立つかもしれない。そうなると「餃子の街」とか「ラーメン日本一の町」というギミックそのものが消滅してしまいかねない。

ちなみに同調査による「ラーメン支出額」の調査では山形市が日本一に輝いている。昨年優勝の新潟は2着に泣いた。山形と新潟。意外な気もするが、ラーメンにはラーメンのライバル関係があるのだと思えば、それはそれで楽しいではないか。ちなみにラーメンの調査は外食のみが対象で、「焼きそば」や「皿うどん」なども含まれるとのこと。厳密にはラーメンではなく「中華そば」についての調査だかららしい。そこはお役所のこと。いろいろありますな。

 

 

***** 2023/3/8 *****

 

 

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2023年3月 7日 (火)

TKGの苦悩

丸亀製麺では、今日から「卵を使う商品が品切れになる可能性がある」とアナウンスしている。理由は猛威を振るう鳥インフルエンザに伴う供給不足。当然、価格も高騰している。物価の優等生ともてはやされたのは昔の話。そこにロシアのウクライナ侵攻に伴う飼料の高騰が追い打ちをかけた。そう聞くと玉子が食べたくなるのが小市民。こちらは大阪扇町のうどん店「今雪」のランチセット。玉子の天ぷらトッピングに加え卵かけご飯がオマケで付いてくる。高いと思うと、いつもよりもおいしく感じられるから不思議だ。

Tkg

7~8年前の話になってしまうが、千葉ゼリの会場で玉子を頂いたことがある。玉子というのはタマゴである。ふつうの生卵。セリのお土産に筆記用具やクリアケースをもらうことはあるけど、たまごというのは珍しい。

配っていたのは船橋の川島厩舎。セリで馬をお買いなられたら、ぜひウチに―――。そういうことであろう。玉子のほかにも巻き寿司の折詰や箱ティッシュ、タオルなどたくさん頂いてしまった。その時はいたく恐縮した覚えがあるけど、私の愛馬がたまたま川島厩舎にお世話になっていたことを思えば、まあそれくらい貰ってもイイか。

Tama

―――と、ここまで読んでお気付きだろうか。「たまご」「タマゴ」「玉子」「卵」。実に色々な表記がある。特に問題となるのは「玉子」と「卵」の使い分けであろう。産みたてのタマゴはたいてい「卵」と書かれる。タマゴかけご飯も、「卵かけご飯」が優勢だ。

ところが「たまごやき」となると「玉子焼き」がメジャーだし、「たまごどんぶり」も「玉子丼」となりがち。ということはナマなら「卵」で、火が通ったら「玉子」なのか。実はそうとも言い切れない。スーパーのチラシには「玉子」が特売されているし、NHKでは「卵焼き」などというテロップが使われたりする。だからと言って「タマゴ」に逃げれば、カタカナ表記乱用との誹りを免れない。たまご好きの苦悩は募る。

私の感覚では「卵」という漢字には、リアルな生々しさが感じられる。「蛙の卵」とは書いても「蛙の玉子」とは書くまい。

「玉子」という表記は江戸時代にはすでに広まっていたそうだ。生々しさを軽減させ、可愛らしささえ漂う絶妙な表記。肉食が忌み嫌われていたとしても、これなら罪悪感が薄らぐ。表記の揺れは日本人の感性が豊かであることの裏返し。そういえばタマゴカケゴハンという馬がいましたね。いま思えば希少なビワシンセイキの産駒だったが、残念ながら勝利を挙げるには至らなかった。きっと自分の名前が「卵」なのか「玉子」なのかで悩んしまい、競馬どころではなかったのであろう。

 

 

***** 2023/3/7 *****

 

 

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2023年3月 6日 (月)

ベテランの壁

昨日の阪神競馬場は穏やかな好天に恵まれたにも関わらず場内はガラガラだった。

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昼メシの「とんかつ和幸」に向かったのは昼休み前の障害未勝利が終わり、さらに払戻金を確認してからである。ちょっとのんびりし過ぎた。普段なら大出遅れ。まず行列は避けられまい。そんな覚悟を抱いていざ店前に立つと、スンナリ席に通されたから驚く。こんなことは過去に経験したことがない。あとで聞いたら、昨日の入場者数は8319人だった。ちなみに前日は18383人が入ったという。日曜の入場者数が前日土曜の半分にも届かないことなんてそうそうあるまい。

前日に何があったか。そう、それは福永祐一騎手の引退式。最終レース後にも関わらず約1万人以上のファンが競馬場に残り「福永騎手」の幕引きを見届けた。チューリップ賞の本馬場入場時には誘導馬に跨るサービスも。そのレースを勝ったのが武豊騎手とはよくできてる。来週54歳になるレジェンドの手綱さばきは、まだまだ衰えることがない。それを「福永先生」はどのように観たのだろうか。

昨日は熊沢重文騎手も477日ぶりの勝利を挙げている。昨年2月の落馬で頸椎を骨折。一時は再起不能とも言われた絶望的な状況からの復活勝利に、空いているとはいえそれでも大きな拍手がスタンドから送られた。こちらは武豊騎手よりひとつ年上の55歳。「これからも泥臭く頑張っていきます」と笑顔がはじける大ベテランの手腕も、まだまだ衰えそうにない。

ほかにもこの土日だけでも、55歳・横山典弘騎手が2勝。52歳・内田博幸騎手も2勝。勝てはしなかったものの56歳・柴田善臣騎手は13番人気で2着するなど、東西でベテランジョッキーが存在感を示した。だが本来なら、JRAの3月第1週は新人ジョッキーがスポットを浴びるはずの週である。今年は6人のルーキーが計39頭の手綱を取って初勝利を目指したが、開幕週での快挙達成はならなかった。

惜しかったのは土曜の阪神1Rで2着に食い込んだ田口貫太騎手。道中7番手でしっかり折り合い、直線で猛然と追い込んだが残念ながら前にあと一頭いた。その背中に乗っていたのはベテラン横山典弘騎手。老獪な逃げの前にまったく歯が立たなかった。

プロスポーツ界広しと言えども、デビュー戦でいきなり2910勝のベテランと勝負しなければならない騎手という職業は、かなり異質な環境に違いない。巨人の高校生ルーキー・浅野選手が開幕スタメンを勝ち取って相手のエースからホームランを打つようなもの。リーディングジョッキーとの実力差は3キロの減量得点ごときで簡単に埋まるものではない。そういう意味で、私は若き騎手たちに深く同情する。

それでもベテランの壁を破らないことには食っていけないのが騎手の世界。それを承知でこの世界に飛び込んだ以上、相当の覚悟を抱いているはずだ。むろん「とんかつ和幸」で行列に並ぶ覚悟とはわけが違う。27年前、福永祐一騎手はその壁を打ち破って一流騎手への第一歩を踏み出した。今年の新人6人は果たしてどのような道を歩むのか。長い目で見守りたい。

 

 

***** 2023/3/6 *****

 

 

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2023年3月 5日 (日)

【訃報】オリオンザサンクス

1999年の東京ダービー馬でNAR最優秀4歳馬にも選ばれたオリオンザサンクスが、おととい亡くなった。27歳。現役引退後は種牡馬となり、2008年の九州ダービー馬・オリオンザナイトなどを輩出したが、18年に種牡馬を引退してからは功労馬として過ごしていたという。

大逃げのまま大差で後続を千切り捨てた若獅子特別。影をも踏ませず逃げ切ってみせた羽田盃と東京ダービー。JRA所属馬相手でも臆することなく、スタートから猛スピードで逃げたフェブラリーSとJCダート。一見暴走にも映る大逃げはファンを大いに沸かせた。

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中でも1999年ジャパンダートダービーのレースぶりが印象深い。JRAの有力馬を差し置いて堂々の1番人気に推されて気負ったのか、前半から明らかなハイペースで飛ばしていく。4コーナーでも後続は10馬身後方に置き去りのまま。だが、そこでおつりがなくなった。「これは何かに差される」。鞍上の早田秀治騎手は負けを覚悟したらしい。それでも直線で猛然と追い込んだオペラハットをクビ差退けて1着ゴール。上がりに40秒7を要しながらゴールまで持たせた騎手の技術もさることながら、馬の頑張りも賞賛されるべきであろう。

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ジャパンダートダービーはこの年に創設されたばかり。すでにダートグレード競走は各地で行われてはいたが、JRAと地方を含めた3歳春のダートGⅠレースは初めての試みである。迎え撃つ立場の地方勢だが、JRAにまったく歯が立たないかもしれない。もしそんなことになれば「ダービー」の看板を汚すことにもなる。そんな不安と期待が交錯する中で行われたレースを、地元のダービー馬が勝った意義は小さくない。やがてジャパンダートダービーはJRA、地方各地の3歳馬が目指すべきもっとも大きなタイトルとして認知され、このレースを軸にJRAのユニコーンSや全国各地のダービーが展開される体系が整った。それはジャパンダートダービー創設の理念そのものだったように思う。

そのレース体系が来年から大幅改正されると発表されたのは昨年11月のこと。「全日本的なダート競走の体系整備について」という記者会見で、3歳ダート3冠路線が整備されることが発表された。現在は南関東ローカル重賞の羽田盃と東京ダービーがダートグレード競走となりJRA所属のまま出走が可能となり、東京ダービーの賞金を1億円に増額してこれを頂点とする。

ジャパンダートダービーは開催時期を秋に移して名前も「ジャパンダートクラシック」に改称されるらしい。創設時から観続けてきた立場からすれば若干の寂しさもあるが、創設から四半世紀を経てその役割をじゅうぶんに果たしたということであろう。その道筋を作った功労馬の一頭がオリオンザサンクスであることは忘れないでおきたい。このタイミングでの訃報は、まったくの偶然ではないような気もしてしまう。

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クラシックレースで活躍したことで、種牡馬になってからもその産駒は中距離向きと見られることが多いが、実は1200m以下では(5,1,0,2)。重賞も二つ勝っている。特に3歳(当時表記)時の栄冠賞では、その快速をいかんなく発揮。自らの持つレコードをコンマ6秒更新し、3歳馬として旭川競馬場で初めて1分の壁を破る59秒9で優勝した。私は彼の真骨頂はスピード能力にあったと思う。中距離戦で幾度となく放たれた彼の大逃げは、きっとその溢れるスピードの発露だったに違いない。20世紀の最後に現れた快速馬の冥福を祈る。合掌。

 

 

***** 2023/3/5 *****

 

 

 

 

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2023年3月 4日 (土)

トラックマン

今月に入って各社採用活動が本格化。今日は学生の相手で一日つぶれた。どの業米も慢性的な人手不足の昨今、選ぶのは学生の方であり、選ばれる側の肩身は狭い。なにせ衰退激しいメディア業界。「ウチを選んでください」。そう顔に出てしまっている可能性もある。JRAがジョッキーの体重要件を緩和するのは企業努力として正解に違いない。

そんな中にあって競馬メディアには、まだ一定程度の新卒志望者がいるそうだ。同じメディアでもこの格差はいったいどうしたことか。

昔は逆だった。大卒で競馬記者になると言い出したら、「どうした」「やめとけ」「気が触れたか」と周囲が慌てて止めたものである。「トラックマン募集」の求人広告を出したらトラックの運転手さんが採用面接に来た、なんて話題も列挙に暇がない。

「トラックマン」は我々が思うよりずっと世間に馴染みの薄い職業だった。今もそうかもしれない。大雑把に言えば競馬専門の記者のこと。野球、ゴルフ、サッカー、相撲……等々。スポーツ記者の取材対象は数あれど、競馬だけはその特殊性からか完全専門職となることが多い。

そこには「予想」という他のスポーツにはないファクターの存在がある。スタンドの記者席から声援が飛ぶというも競馬場ならではであろう。TV解説の放送中にうっかり「そのまま!」と叫んでしまったツワモノだっている。

競馬記者の予想は、本人→会社→読者と影響を広げる。だから彼らが受ける喜びや悲しみの量は、読者一人の何十倍にも膨れあがる。そんなプレッシャーに潰されそうになりながらも、ボディーブローに耐えながらラッキーパンチに望みをつなぐボクサーの如く予想を絞り出さなければならない。

しかし、これだけ情報量のあふれる現在、特にGⅠレースでは見逃されている要素などあり得ないのも事実。プロのトラックマンも、競馬を始めて1ヶ月の初心者も、手にしている情報にさほどの差はない。最終的には分析力よりも決断力がモノを言う。

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競馬は「人生の縮図」と言われる。微妙な選択が大きな明暗を分けるせいだろう。穴場で気が変わって泣きを見ることなど日常茶飯事。「満点のない試験のくり返し」とこぼす記者もいれば、「誰も自分の予想に目を向けなくなる夢ばかり見る」と打ち明けるベテラントラックマンもいる。単なる比喩ではなく、彼らはリアルな「人生」として競馬に対峙してきた。

それでも競馬記者になりたいと思う若者がいるこの業界を、いち競馬ファンとしては喜ぶべきなのだろう。ただ採用担当者としてはライバルである。福永先生の誘導姿も、引退式も、もちろんチューリップ賞のレースそのものも、観たかったなぁ。

 

 

***** 2023/3/4 *****

 

 

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2023年3月 3日 (金)

初勝利がクラシックの偉業

明日の阪神メインは桜花賞トライアルのチューリップ賞。そこになんと未勝利馬のルカン(父ハーツクライ)が登録してきた。

JRAにおいて未勝利馬が出走可能な重賞は限られている。2歳重賞と3歳春シーズンに行われるクラシックのトライアルレースのみ。とはいえ、さすがにそれを勝ったという例を私は知らない。そもそもたいていの未勝利馬は除外されてしまうもの。だが、チューリップ賞はなぜかフルゲートにならないことで知られる。今年も登録段階で17頭と全馬出走可能だった。

チューリップ賞は1~3着馬に桜花賞への優先出走権が与えられるが、クラシックレースの出走条件には「未勝利馬・未出走馬を除く」の一文があるから、ルカンに限れば3着ではダメ。でも2着ならOKというあたりが分かりにくい。JRAの定義では「未勝利馬」とは「収得賞金が0円の馬」であるから、重賞2着による収得賞金が得られる2着に入れば、桜花賞出走に障壁はない。だから明日2着となって桜花賞に向かうことになれば、ルカンには「1着を経験したことのない馬による桜花賞制覇」という空前の大記録への期待がかかる。

「空前」と書いたが、過去に惜しいケースがなかったわけではない。1939年のオークスで大差の1位入線を果たしたヒサヨシは、驚くことにこのレースが初出走。デビュー戦でのクラシック制覇という前代未聞の大記録だった。

だがしかし、レース後の薬物検査でアルコールの反応が出てしまう。ヒサヨシは失格。大差2着のホシホマレが繰り上がりで勝ちを拾った。ちなみに、この2頭はいずれも名義上は大久保房松調教師の管理馬であるが、実際に調教を課していたのはシンザンでお馴染みの武田文吾調教師である。武田師はこの裁定に納得しなかった。当時の薬物検査が現在のように完璧なものではなかったせいもある。

もちろん日本競馬会(現JRA)が武田師の抗議を認めるはずがない。当時の検査方法は帝国大学の田中博士が提唱したもので、「田中式」と呼ばれていた。競馬会は「田中式では興奮剤(アルコール)を使っていない馬からの反応はありえない」の一点張りである。その田中式による検査は、なんとこの開催だけで19頭もの1着馬を「失格」と断罪していた。

田中式そのものに疑問を抱いていた武田師は、ヒサヨシの名誉回復のために執念を燃やす。自ら大阪大学薬理学教室の今泉助手らの指導を受け、田中式の非合理性を証明する実験に成功。実験結果を農林省馬政局に提出した。

馬政局は渋々検証実験を行う。1か月間厳重に隔離した競走馬20頭で模擬レースを行い、しかるのち田中式による薬物検査を行った。するとあろうことか、数頭が陽性反応を示したのである。この馬たちがアルコールを投与される機会などあり得なかったはず。おかしい。いったいどういうことだ? 実は、田中式では馬房の汚れや正常な飼い葉に対しても反応を示してしまうことが、のちに明らかになる。

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ヒサヨシのオークスから2年後の1941年、農林省馬政局と日本競馬会は田中式の撤廃を発表。武田師の執念はついに実った。だが、それでヒサヨシのオークスの失格が取り消されたわけではない。

古馬となってからのヒサヨシは屈腱炎を抱えながら7戦するも2着が精一杯だった。記録上は「未勝利」のまま競走生活に別れを告げている。オークスでの失格が彼女の運命を狂わせてしまったことは間違いなかろう。ルカンが明日のチューリップ賞を2着になり、そして来月の桜花賞を制するようなことがあれば、ヒサヨシのオークスが再び脚光を浴びることになるかもしれない。注目しよう。

 

 

***** 2023/3/3 *****

 

 

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2023年3月 2日 (木)

梅のチカラ

時間が空いたので、梅を観に城南宮へ出かけた。知る人ぞ知る「流鏑馬」発祥の地。馬と無縁なわけでもない。

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150本の枝垂れ梅は圧巻のひと言。薄紅と白色の花をまとった枝が風に揺れると、春の訪れを実感する。桜に感動することはあっても、梅に感動するのは初めてかもしれない。それだけ齢を取ったということだ。

梅と言えば、梅を原料にした競走馬向けのサプリメント「Vitav(バイタブ)」を開発した企業が紀伊民報で紹介されていた。なんでもウマの健康維持や食欲増進に効果があるらしい。開発したのは和歌山県みなべ町の「紀州ほそ川飼料」。実はこちらの会社、先週のマーガレットSにも出走したウメムスビ(父・ファインニードル)を所有する法人馬主でもある。

もちろんウメムスビにもVitavが投与されている。馬によっては固形サプリは投与が難しい場合もあり、飼い葉に混ぜてもそれだけ残したりするが、こちらのサプリに関しては馬の嗜好性が高いという。「元気で毛ツヤが良い」「液体で与えやすく、経口投与できるのも手間が少ない」というのは、同社のホームページの宣伝文句だが、まあ我々人間からしてもドリンクの方がありがたいですものね。

記事では触れられていなかったが、こちらの会社では20年以上前から家畜飼料への梅酢活用を研究しており、地道に成果を挙げていた。「紀州南高梅」で知られる和歌山県みなべ町の梅干し生産量は、国内の4分の1を占めるが、梅干し生産の過程でできる梅酢は産業廃棄物扱いで、その処理に頭を痛めていたという。

そんなとき先代社長が「梅酢を飲ませた鶏は夏バテしない」との言い伝えを思い出し、梅酢エキスを加工して養鶏業者に頼んで餌に混ぜたところ、鶏の健康状態が良くなった。鶏たちは元気よく走り回り、足もたくましく発達し、単価の高いもも肉が多くとれるようになったという。乗馬クラブの馬にも提供して一定の効果は確認されていた。競走馬用にこぎつけるまで時間がかかったのは、いわゆるドーピング問題の壁であろう。もちろん今回の商品は競走馬理化学研究所のお墨付きを得ている。

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同社の社長は「日本の馬が強くなることに貢献したい。能力がありながら開花できていない馬を減らしたい」と将来展望を語るが、もちろん愛馬の活躍も期待せぬはずがない。マーガレットSでは8着に敗れはしたが、昨年秋のカンナSはスタートセンスの良さとスピードを生かす堂々とした競馬ぶりで楽勝だった。梅パワーの効果に注目しよう。

 

 

***** 2023/3/2 *****

 

 

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2023年3月 1日 (水)

先生と呼ばれて

JRAサイトの騎手名鑑から「福永祐一」の名前が消えた。あらためて引退を実感する。代わりに掲載された先は調教師名鑑。つまり「先生」と呼ばれるようになったわけだ。昨日も書いたけど……うーむ、馴染めませんな(笑)。

Yuichi


ふと、先日の調教師免許試験で合格した7名の年齢が気になって調べてみた。するとなんと45歳の福永騎手もとい先生が最年長ではないか。7人の平均年齢は41.5歳。30代が二人も含まれている。

小椋研介 40歳
河嶋宏樹 38歳
千葉直人 36歳
福永祐一 45歳
藤野健太 44歳
森一誠  45歳
矢嶋大樹 43歳

ひと昔前まで、私が抱く調教師のイメージは「おじいさん」だった。むろん私自身が若かったせいもある。それでも定年制導入前は70歳を超えてなお厩舎を切り盛りする調教師は珍しくなかった。弟子として所属騎手も多く抱えていたから、そういう意味では「先生」だったに違いない。

だが、昨今は事情が異なる。若手だと思っていた川田将雅騎手も気付けば37歳。千葉直人調教師は年下だ。武豊を筆頭に柴田善臣、横山典弘、岩田康誠、内田博幸といった一線級の騎手たちは、ひと回り以上も年上の存在となる。それで「先生」はさすがにマズくないか。

よくよく考えると「先生」と言う表現は意味深長である。一般的には「学校の教師」「学徳のすぐれた人物」として使われるが、字義からすれば「先に生まれる」、あるいは「先を取っている」ということであろう。だが、世間では「偉いから先生」だと思われているフシがある。これは間違いであることを意識している人は多くはあるまい。だから飲み屋のお姉さんは男性客を「先生」と呼ぶ。呼ばれたほうも喜ぶ。だが、もともとは「先生だから偉い」のである。

しかし現代はそれが成り立たなくなった。教師は生徒を殴れないし、うっかりすると父母に怒鳴り込まれる。余計なことをしない、失点を出さない教師が優れた教師。それなら子守りとなんら変わりはないではないか。こうなると「先生」は偉くもなんともない。

実際、調教師の中には「先生」と呼ばれることを極端に嫌う人がいる。共同記者会見でインタビュアーが「それでは××先生にお話を伺います」と切り出すと、「先生と呼ぶな! はい、やり直し」なんて具合に一蹴されることも。それは場を和ませるための冗談でもあるわけだが、若い調教師から「先生ではなく調教師と呼んでください」とお願いされることも最近は増えたそうだ。

私はかつて予備校で講師のバイトをしていたことがある。そのときは「先生」と呼ばれた。真剣に教員になろうかと考えたこともないではない。なんだかんだで教員免許も取得した。しかし結果的に私が「先生」と呼ばれたのはその時だけ。なんでも、そのときの教え子の一人が地元の市議会議員になったらしい。かつての教え子はいまや「先生」である。なんだか不思議な感覚だ。

 

 

***** 2023/3/1 *****

 

 

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