ぼっかけて明石
過日、姫路競馬場に向かう道中の明石駅で途中下車してみた。
目当ては明石焼きでなければ、明石城址や子午線でもない。それは「ぼっかけ」。以前「阪神競馬場でぼっかけカレーを食べた」という話を書いたが、できることならぼっかけうどんが食べたかった。でも阪神競馬場にはそれを出している店が無い。大阪市内でも「ぼっかけうどん」というメニューを稀に見かけるが、それは茹でたうどんの上から濃い味のつけツユをかけた代物であることがほとんど。讃岐で言う「ぶっかけ」である。「ぼっかけ」とは「ぶっかけ」の「ぶ」が「ぼ」に訛った呼び名であるので、ぶっかけうどんでも間違いではないのだろうが、私が食べたいと願う一杯はそれではない。
ぼっかけとは牛スジとこんにゃくを甘辛く炊いたものの俗称。そのルーツは神戸市長田区にあるらしい。彼の地のお母さん方の間で「安くて、美味しくて、一度作っておけばいつでも食べられる」と広まった。いわば長田版おふくろの味。お好み焼きや焼きそばの具として地元では長く愛されているそうだ。そしてうどんのトッピングにも使われている。
JR明石駅を降りて、隣接する山陽明石駅の改札口の近く、ちょっと分かりにくい立地に「山陽そば」の暖簾を見つけた。食券の販売機には「ぼっかけうどん」の文字がある。立ち食いのカウンター越しに食券を渡すと「ぼっかけいっちょう!」という声が狭い店内に響く。一人のおばちゃんが茹で麺をサッと湯がいて丼に投入すると、もう一人のおばちゃんがぼっかけをとネギを手早く載せてダシをかけた。このあたりのコンビネーションは見ていて楽しい。
うどんは茹で麺だから想像通りの味。ただこちらの店はダシが美味い。駅の立ち食いでこのレベルを出すとは恐れ入った。淡い色合いの優しいダシには、旨味たっぷりのぼっかけから良い感じに脂が染み出している。これは飲まずにはいられない。一杯目なので控えようと思っていたのだが、結局全部飲み干してしまった。
海に向かって5分ほど歩くと二軒目の暖簾が海風になびいている。その名も「ぼっかけ家」。焼肉屋さんも兼ねているこちらの店では、ぼっかけの材料に国産和牛を使っているそうだ。その一杯は先ほどの店よりぼっかけもネギもたっぷり入っている。
先ほどの店に比べると麺はがっしり強靭で、それに合わせるダシは麺の強さに負けぬよう醤油が効いた濃い目の味わい。そこにお好みでショウガとニンニクを入れるのがこの店の流儀らしい。大量のぼっかけもしっかりした味付けで炊かれており、ご飯のおかずとしても申し分なさそう。―――てなわけで、ご飯に載せて食べることもお店はオススメしている。まあ、これが旨くないわけがない。
明石駅に戻って今度は駅の反対側で暖簾を掲げる屋さんを覗いてみる。こちらの「スタミナうどん」というメニューが、ぼっかけうどんであるという情報を聞いてやってきた。ところが、うどんの上に載っているのが、ぼっかけというよりはただの牛スジのように見えたのでパスすることに。私が食べたいのはぼっかけうどんであって、牛スジうどんではない。
代わりに「ぼっかけ家」の近くの肉屋さんで売られていた総菜の「ぼっかけ」を買って帰ることに。これで200円。肉屋のおばちゃんは「うち自慢の味付け」と言ってた。これを「どん兵衛」の上に載せれば、「ぼっかけどん兵衛」の出来上がり。
これは久々のヒットだった。関西エリアで販売されている「どん兵衛」はもともと美味いのだが、そこにはぼっかけを受け入れる懐の深さもあったと再認識。ぼっかけの甘味が染み出たダシの美味さはカップ麺としてほかに類を見ない。おばちゃんが味付けを自慢したくなるのも分かる気がした。
***** 2023/2/27 *****
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