同着の可能性
とあるスポーツ新聞の関係者が嘆いていた。JRAからレース結果のデータを受け取って記事に変換するコンピューターシステムを昨年刷新したのだが、それが「重賞での2着同着」に対応できていなかったらしい。昨年のエリザベス女王杯でそれが明らかになった。慌てて手作業で対応して事なきを得たが、意外なことに「1着同着」には対応できていたという。
プロが使うシステムでそんなアホなことが?と耳を疑ったが、システムを作った担当者は2着以下で同着が起きるという考えそのものがなかったそうだ。ならば3頭による1着同着には対応できるのか。念のために聞いてみたら「そんなこと起きるわけがない」と言ってのけたという。そんな話を聞くとそういう事態が起きることを期待してしまうのが人間の性(さが)である。
3頭による同着は、最近では2012年10月20日の室町Sの3着争いで記録されている。ファリダット、タンジブルアセット、ワールドワイドの3頭が3着を分け合った。地方競馬に目をやれば大井、笠松、川崎、高崎で3頭による1着同着が記録されている。同着は時と場所、そして頭数を選ばない。
中でも1986年8月の川崎10R新涼特別のゴール前の争いは熾烈を極めた。このレースは、
テスコカチドキ(佐々木竹見)
アーノルドフジ(桑島孝春)
トランスワンスター(中地健夫)
の3頭が1着同着となったのだが、驚くべきは猛然と追い込んで4着となった石崎隆之騎乗のガーデスイチフジの着差はなんと「ハナ」。あわや4頭の同着という歴史的大記録の誕生まで、あとほんのわずかだった。
我が国では4頭による1着同着の記録はない。それを知っていた私は一昨日の大井9R梅見月特別で手に汗を握った。直線で内から鋭く伸びて先頭に立ったインザライフ目掛けて馬場の真ん中をカワイイが迫ってくる。そこへシトラスダルとサイキョウノオンナが猛然と追い込んで、4頭がまったく並んでゴールした。スロー映像でも見た目には分からない。「ぜんぶ同着じゃないか?」と誰かが叫んだ。たまたま訪れた大井で世紀の出来事を目撃してしまったのかもしれない―――。そう思うと背中を冷たいものが走ったのである。
しかし、結果は2頭による2着同着のみ。それ以外は「ハナ」と判定された。とはいえ「ハナ中のハナ」だったらしい。うーむ、残念。せめて3頭による同着をナマで見てみたかった。
英国では4頭による1着同着が二度も記録されている。さすが本場は歴史が深い。単勝馬券は4通りが的中。もし3連単があれば24通りが的中することになる。JRAのシステムはそういうケースまで対応しているのだろうか? 仮にJRAが対応していたとしても、それを伝えるメディア側のシステムは対応できていない。まあ、4頭が1着同着ならそれ自体がビッグニュースだから、記事を作るのも手作業であろう。
今週末の阪急杯では2007年にプリサイスマシーンとエイシンドーバーが同着で優勝を分け合った。同着と逃げ馬は忘れた頃にやってくる。競馬である以上、その可能性を排除することはできない。
***** 2023/2/22 *****
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