うどん文化とそば文化
昨日付の本稿は濃い味付けを否定するものではない。ちょっと誤解を招く書き方だったかもしれないなと反省している。私自身、濃い味は苦手ではない。生まれも育ちも関東で両親も東京の人だから、食卓にあるものには何でも醤油をかけて食べていた。
俗に「濃い味の関東」「薄味の関西」という具合に括られることが多い味付け文化であるが、文化が分かれた理由のひとつに「関東や東北は寒冷地だから」というものがあるそうだ。
ただ、これを「寒いと人は塩っ辛いものを欲する」と解釈するのは間違い。身体が塩分を欲するのはむしろ暑い場合、すなわち西日本であろう。
冷蔵庫がなかった時代、食べ物を長持ちさせるために塩漬けの技術が生まれた。すると暑い西日本の方が、塩の使用量は当然多くなる。例えば、魚の保存性を高めるためにも大量に塩をするから魚そのものが強烈に塩辛い。料理人はその魚を酢で洗ってバッテラにしたり、昆布締めにする。昆布締めした魚を醤油に直接つけたらしょっぱくて食えたもんじゃないので、醤油をダシで割って薄めて使う必要があった。これが関西の薄味文化の源流のひとつと言われる。
加えて、うどんとそばの文化の違いも味の違いを後押しした。
うどんの味を決定するのは「小麦粉」と「水」とあとひとつ。それは「塩」。特に讃岐うどんには多くの塩が含まれているから、濃い味のつけ汁を必要としない。対してそばには塩分が入っていないから、濃い味のつけ汁を絡めて旨味を補強しないと食べられない。つまり味つけの度合いは、素材に塩分が含まれているかどうかに左右されるのである。
関西でうどん文化が栄え、関東でそば文化が花開いたのは、冒頭の気候問題に帰結する。温暖な西日本は、もともと亜熱帯産の稲作に適しており、その裏作として麦の栽培が早くから行われていた。一方で、冷涼かつ山間部が多い東日本では、そばのような雑穀しか栽培できなかったというわけである。
もちろん他にも多種多様な要素が複雑に絡まりあって現在のような食文化が形成されたはずだが、わずか数百キロしか離れていない地域で、このような細かい味の違いが楽しめるといのは、ひとこと幸運であると思う。それが競馬観戦の楽しみのひとつにもなっていると思えばなおさら。東京に住んでいた当時、京都や阪神に行って私がまずやることと言えば、透き通ったダシのうどんを食べて東西の違いを実感することだった。今は毎週実感している。ありがたい。
***** 2022/12/15 *****
| 固定リンク
« 矜持 | トップページ | 明瞭簡潔なればこそ »
「競馬」カテゴリの記事
- 20年目の引っ越し(2024.01.01)
- 2023年の大トリ(2023.12.31)
- アンカツルールの20年(2023.12.29)
コメント