人生が変わる瞬間
M-1の決勝を見ながらこのエントリを書いている。
M-1を勝てば人生が変わるが、GⅠだって勝てば人生が変わるし馬は将来が変わる。テン乗りの坂井瑠星騎手は秋華賞に続くGⅠ2勝目。新馬、重賞と結果を残していた横山和生騎手からの乗り替わりには様々な憶測も飛んでいるが、プロは結果で応えればよい。前後半の800mが45.7-48.2というハイペースを3番手で追いかけながら、ダノンタッチダウンの猛追を凌ぎ切ってみせた度胸には舌を巻いた。
2歳GⅠでの乗り替わりはリスクもある。多くの馬は完成途上。新馬を勝ったばかりの馬もいる。どんな癖が隠れているか分からない。坂井瑠騎手は4週続けて追い切りに跨ってコンタクトに努めたというが、そもそも馬の完成度が他馬と違っていた。ゲートを出てみなければわからないことが多い2歳馬の中に合って、ただ一頭古馬のような堂々とした競馬ぶり。1か月以上も前に乗り替わりを決めていたことも合わせれば、この乗り替わりには不安は無かったに違いない。
お母さんのアユサンが桜花賞を勝った時も乗り替わりだった。ただしこれは直前の事故によるもの。もともと騎乗する予定だった丸山元気騎手が桜花賞前日の福島で落馬し、急遽クリスチャン・デムーロに乗り替わった。出馬投票後の乗り替わりで重賞を勝ったケースは、2007年北九州記念のキョウワロアリング(飯田⇒角田)や、2009年新潟記念のホッコーパドゥシャ(石橋脩⇒江田照)などいくつかある。だがGⅠレースとなると過去に例がなかった。そんな逆境で結果を出したクリスチャンはさすがと言うほかはない。
もともと丸山騎手にアユサンへの騎乗を依頼したのはオーナーだったという。その期待に応えるべく、2週続けて丸山騎手自ら栗東に足を運び、追い切りの手綱を取って状態を確認してきた。体調が整わずクイーンCを直前で回避。急遽立て直して挑んだチューリップ賞が体調今ひとつの状態で3着ならば「本番では…」と期するところがあったに違いない。
人気馬たちをなぎ倒すように、馬場の真ん中を堂々とアユサンが駆け抜けた桜花賞の直線。このとき丸山騎手は何を思ったのだろう。いや、丸山騎手に限らず騎手という人たちは、こういうシチュエーションでどのような心理状態に置かれるのだろうか。そこに興味がある。手塩にかけた愛馬の晴れ姿に喝采を送るのか。あるいは悔しさに打ち震えるのか。あるいは、その両方か。普段のレースならまだしも、そこは騎手なら誰もが夢見るGⅠの舞台。その心境の複雑さは計り知れない。
果たして今日の横山和騎手の心境はいかほどか。個人的には平穏ではあってほしくない。まさか今ごろM-1を見て笑っていやしないだろうな。
***** 2022/12/18 *****
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