馬場に倒れた騎手。迫る馬群
大井競馬場で東京大賞典の表彰式が行われているちょうどその頃、園田ではメインのオッズパークウインターカップがスタートしていた。
B1クラスによる11頭立て。内枠を利して1番枠ミラクルベルンが先行争いを制してハナ。2番枠タガノグランサムがそれに続く。人気のグリーンシアターも今日はちゃんとゲートを出て3番手。その時、場内実況が「グレートフォーユー落馬!」と叫んだ。先行争いばかりに注目していたので、どういう風に落ちたのかはわからない。それでもグレートフォーユーはカラ馬となりながらも猛然と馬群を追いかけて行ったから、馬の方は大丈夫なようだ。騎手はどうなった? ラチから身を乗り出して4コーナー方向に目をやると、ゴールまで150m付近、馬場のど真ん中に田村直也騎手が横たわったまま動かない。係員が走る。
馬群は向こう正面。駆け付けた係員が田村騎手の腕を取っている様子が確認できるが、田村騎手が自ら動く様子はない。そうこうする間に馬群は3コーナーに差し掛かって、残り400m。「まだ田村ジョッキーが馬場の真ん中、直線に倒れている」。場内実況が叫ぶ。
係員は田村騎手を動かすことを諦めたようだ。田村騎手の倒れている場所で、迫り来る馬群に正対する格好で立ち、そこに騎手が倒れていることを、迫りくる他馬の騎手たちに知らせる手段に打って出たのである。馬群が4コーナーを回った。
園田は一昨日に内側全周に砂を補充したばかり。そのせいか今日は馬場の中央を通った馬の好走が目立った。このレースでも馬場の真ん中を狙う騎手はいたはずだ。
しかし、なぜかそこに人が立っている。そしてよく見れば、その足元には騎手が横たわっているではないか。騎手たちは瞬時に状況を理解したはず。それでも外を狙って勢いを付けてコーナーを回ってきた馬の進路を変えるのは簡単ではない。追い込みに賭けた馬には気の毒だった。とくに2番人気のハローチュースは事故を避けるのが精一杯の競馬に見えたが、それでも2着を確保したのだから大したもの。いずれにせよ大惨事に至らなくてよかった。あの係員の勇気も凄い。
「不成立ではないのか?」
帰りのバス車内での会話やネットの投稿にもそんな声が聞こえたが、結論から言えば不成立には当たらない。最終的に不成立を決めるのは開催執務委員長。つまりヒトの判断だから、どう転ぶかはケースバイケースとしか言いようがないわけだが、ルールとしては不成立となるケースについて以下のように明文化されている。
①災害や投石等の妨害行為その他の事由により、競走または開催執務委員の職務の執行に重大な支障があったとき。競走中止馬によるもの等、当該競走の出走人馬に起因するものは不成立とはならない。(ただし、それらが走路を占拠した等の理由により、所定の走路での競走の継続が不可能となったと認めたときは、不成立とする)。
②競走が所定の走路と異なる走路で行われたとき。
つまり「競走中止馬によるもの等、当該競走の出走人馬に起因するものは不成立とはならない」のである。競馬においてカラ馬や馬場に横たわる騎手は想定されるファクターであり、他の騎手たちはそれを避けて騎乗馬の全能力を発揮することが求められる。競馬学校ではカラ馬の逆走を想定した訓練も受けているし、それで致命的な不利を受けたとしても、レース中の不可抗力として受け入れなければならない。競馬は何が起きるかわからないのである。
そんなトラブルに見舞われながら1番人気に応えたグリーンシアターは立派。これで園田転入以来無傷の6連勝となった。まだ3歳。昇級のたびに強さが増すように感じられるのは、馬自信の成長の証であろう。明けて4歳となる来年も当然ながら注目の一頭となる。
なお、田村騎手は落馬直後に一時的に気を失っていたとのこと。その後意識を取り戻し、受け答えもできたそうだ。ただちに救急搬送されたというが容態が心配される。
***** 2022/12/29 *****
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