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2022年10月31日 (月)

計るのも良いけれど

先週のJRAでは、前走からの体重変動が大きな馬の活躍が目立った。土曜東京はプラス14キロ同士の馬によるワンツーで幕を開けると8Rはプラス20キロのカトゥルスフェリスが快勝。日曜9Rを勝ったレッドモンレーヴも14キロ増だった。阪神でも土曜2Rをパラシュラーマがプラス18キロで勝つと、日曜1Rで3着したメイショウオトギはプラス20キロ。さらに9Rに至ってはベルクレスタがプラス22キロながら2着を確保するなど、馬体重をことさら重視する向きの方には辛い一日だった。

馬の仕上がりは「馬体重」という客観的な3桁の数字だけで量れるものではないということは重々承知しているが、実際に数字を見れば動揺せずにはいられない。

馬の体重は1日に10キロ以上変動する。20キロ変わることもなくはない。それを指標に馬の体調を推し量るのは無意味だという見方もある。パドックで筋肉の状態を見極め、かえし馬で心肺の状態を見極めるのがあるべき姿なのだろうが、それでも具体的な数字というものは、頭の片隅から離れないもの。だから、私は意識的に馬体重には関心を持たぬようにしている―――のだが、それでも20キロを超えるとさすがに気になる。よもや別馬じゃあるまいな。

JRAでは、通常のレースでは出走80分前に、GⅠレースでは90分前に各馬を集めて馬体重を量る。それは発育測定のためではなく、実馬検査や馬装のチェックの一環にすぎない。もし体重が前走から50キロ以上も異なっていれば、それが本当に出走登録している馬であるのかどうかを疑うべきだろう。

最近の馬体重計量の位置付けは、ファンサービスの一環へとシフトしているようだ。GⅠ出走馬の馬体重は女性の声で丁寧にアナウンスされ、上位人気馬の数字に大きな増減があれば、場内にはどよめきが起こる。これはGⅠレース当日にJRAとファンとの間で交わされる一種のセレモニーにも近い。10年ほど前から実施されている「調教後馬体重」の発表なども、ファンサービス拡充を目的に定着した。

だが、調教現場の一部はこうした方向性に懐疑的なようだ。もっとも問題視されているのは、調教後馬体重が各厩舎の自己申告に委ねられている点。出走馬体重はJRA係官立ち会いのもとで行われるが、調教後馬体重は、計測せず見た目で判断してもいいということになっている。中間と当日で体重があまりに違えば、逆にファンの混乱をきたしかねない。客観性にこそ存在価値がある馬体重という指標が、実は曖昧な面を残しているとなれば問題は大きくなる。

実際、馬体重の増減から体調を推理し、馬券購入の参考にするファンは決して少なくはない。私の周囲には「二桁増減は黙って消し」というスタイルを貫く人もいる。そんな人にとって先週の競馬は災難だった。ちなみに土曜に20キロ増で勝ったカトゥルスフェリスと、日曜に14キロ増で勝ったレッドモンレーヴは共に蛯名正義調教師のふ管理馬。偶然かもしれないが頭の片隅に置いて置きたい。

ちなみに私は馬体重だけでなく、自らの体重もさほど気にしない。それが今の我が身に繋がっているのだとすれば、もう少し体重に興味を持った方が良いのだろうが、それができないらこのザマなのである。明日11月1日は計量記念日。

  

 

***** 2022/10/31 *****

 

  

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2022年10月30日 (日)

秋天への道

天皇賞はイクイノックスが1番人気に応えて優勝。皐月賞、日本ダービーで2着に敗れた雪辱を果たした。

パンサラッサの大逃げに24年間前のサイレンススズカの姿を重ね合わせた向きも多かったかもしれない。だが筆者は42年前のプリティーキャストを思い起こしていた。4コーナーでの差はそれほど決定的。ただ今日に限れば32秒7という末脚の持ち主がいた点で異なる。パンサラッサにしてみれば相手を褒めるしかあるまい。

ダービー2着からの秋天制覇は昨年のエフフォーリアに続き2年連続。その年の日本ダービー連対馬の天皇賞(秋)の成績は以下の通りで、まず崩れることがない。

【ダービー連対馬の秋天成績】

 ジェニュイン 2着
 シンボリクリスエス 1着
 ディープスカイ 3着
 ペルーサ 2着
 フェノーメノ 2着
 イスラボニータ 3着
 エフフォーリア 1着
 イクイノックス 1着

今年は3頭もの3歳馬が出走したこと自体異例だが、いずれもダービーから直行だったことも特筆に値する。そもそも今年の出走馬15頭のうち10頭までが2か月以上の休み明けだった。

【今年の天皇賞(秋)出走馬の前走】

 日本ダービー、札幌記念 各3頭
 毎日王冠、小倉記念 各2頭
 プリンスオブウエールズS、京都大賞典、オールカマー、府中牝馬S、新潟記念 各1頭

オールカマー、毎日王冠、京都大賞典の優勝馬には天皇賞(秋)への優先出走権が与えられるが、今回その権利を行使した馬はゼロ。ジェラルディーナはエリザベス女王杯へ、サリオスはマイルチャンピオンシップへ、ヴェラアズールはジャパンカップに向かうことが既に発表されている。そもそも、その前哨戦をステップにした馬が4頭しかいない。秋天を目指すローテはここ数年で大きく変わった。優先出走権の付与についても議論が待たれる。

そもそも、もはや休み明けをマイナス材料とする時代でもあるまい。中でも天栄・しがらきの2拠点を誇るノーザンファーム関係馬に対しては「休み明け」とか「放牧」という言葉の使い方には注意を要する。「放牧」と言っても調教している場所が違うだけ。下級条件なら「10日競馬」は当たり前。GⅠ馬でも「出走21日前に帰厩してトレセンで追い切り3本」というルーチンが確立されていた。厩舎スタッフの中にはノーザンファームの勤務経験を持つ人材も少なくない。ノーザン流の「作り」を理解しているから、牧場から厩舎の仕事が一本の線になる。

キャリア5戦目での古馬GⅠ制覇はJRA最短記録らしい。これまでの記録は6戦だったわけだが、その記録を持つ6頭のうち5頭に加え今回のイクイノックスも皆ノーザンファームの関係馬であることは決して偶然ではないような気がする。3歳初戦のダービーを勝ち、秋の初戦で秋天を勝つ。そんなラムタラのようなローテも、今に驚くことではなくなるのかもしれない。

【キャリア6戦目での古馬GⅠ制覇】

 ファインモーション(エリザベス女王杯)
 リアルインパクト(安田記念)
 フィエールマン(天皇賞・春)
 クリソベリル(チャンピオンズカップ)
 エフフォーリア(天皇賞・秋)

 

 

***** 2022/10/30 *****

 

 

 

 

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2022年10月29日 (土)

競馬場のニューノーマル

東京競馬場は秋晴れ。まもなく5レースの新馬戦が始まる。

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ちなみに2歳馬たちを誘導してきたのは、こちらの4頭。右の芦毛からレンディル、マイネルラクリマ、サトノソルタス、そしてペルシアンナイト。全頭が新馬を勝ち上がりの経験を持つ。

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レースは先に抜け出した3番人気リラックスをゴール寸前に1番人気シャンパンカラーが外から鋭く伸びてデビュー勝ちを果たした。戸崎圭太騎手は節目の1300勝目。差されたリラックスに騎乗していたホリー・ドイル騎手は日本での初勝利をあと一歩のところで逃したが、目の肥えた日本のファンに「追える」という印象を与えたのではないか。初勝利は近い。

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8レースは4角最後方の6番人気カトゥルスフェリスが、直線だけで前を行く10頭を交わしただけでなく、さらに2馬身半も突き放してみせた。鞍上はやはり今日から短期免許で騎乗を開始したトム・マーカンド騎手。先ほどのドイル騎手とは夫婦だという。ちなみにこのレースにはドイル騎手もシャドウエリスに騎乗して4着。地方では名古屋(宮下瞳騎手・小山信行騎手)や高知(別府真衣騎手・宮川実騎手)で夫婦対決が実現したことはあったが、JRAでの夫婦競演は初めてだという。レース後にはドイル騎手がプラカードを持って、夫のインタビューを盛り上げていた。

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コロナ禍で長らく内馬場は閉鎖されていたが、この開催ては開放されている。久しぶりに足を踏み入れると「北海道グルメフェス」なるイベントが行われていた。

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イカ焼き、味噌ラーメン、豚丼をサッポロクラシックで流すとコロナ前の競馬場の雰囲気がリアルに甦ってきた。実際、入場券の当日発売も行われているのだから、コロナ前とほとんど変わりはない。

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ただ、明日の天皇賞は違う。入場券の当日発売は無し。かつては自由席だったエリアも入場制限が行われ、スマートシートの席章提示がないとスタンドからの立ち見観戦もできない。これが競馬観戦のニューノーマルなのか。JRAの試行錯誤は続く。

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***** 2022/10/29 *****

 

 

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2022年10月28日 (金)

鞭はほどほどに

先日開かれたJRA定例会見では、来年の京都競馬場の再開や紫苑SのGⅡ昇格などが発表されたが、その中に鞭(ムチ)の使用制限の厳格化が含まれていた。これまでは鞭の連続使用の上限は10回だったが、来年から5回に制限されるらしい。ここで注意したいのは「連続使用」の定義。2完歩以内に続けて使用すれば「連続」とされるから、2完歩を超えて使用すれば連続使用としての回数はリセットされる。レース全体における使用回数の制限ではない。

鞭の多用に対するルールの厳格化は英国が文字通り先鞭をつけた。英国ジョッキークラブが、世界に先駆けてムチの使用に制限を設けたのは1988年のこと。それまでは「過度の使用を禁止」という曖昧な努力目標に留めていたのを、いきなり「10回以上の使用を禁ずる」と使用回数明示したルールに改正された。違反すれば最高で4日間の騎乗停止を伴うため、当然ながら騎手たちは猛反発したが、そこは動物愛護精神を大事にするお国柄。その後も変更が重ねられ現在は「平地競走で7回、障害レースでは8回まで」とされ、騎乗停止期間も28日間に延長されるなど騎手への制裁も強化されている。

顧みて我が国はどうか。JRAではその施行規定で「鞭を過度に頻発して使用すること」を長らく禁止してきたが、具体的な回数に関する規定はなかった。そこに「連続する動作で10回を超えて鞭を入れた場合」という一文を加えられたのは2012年のこと。新たなルールが適用されてちょうど10年が経過したが、騎手がムチを使用する回数自体は減少傾向にあるという。また2017年には先端部分に緩衝パッドが付いたムチの使用が義務化された。これも国際調和と動物愛護の観点で導入されたルール。当初こそ厩舎関係者から「こんなんで馬が動くのかなぁ……」という声が聞こえたこともあったが、今は違和感もなくなっているようだ。

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そもそも馬をコントロールするために必要なものは、古今東西を問わずハミ(手綱)・騎座・脚の3つのみ。鞭は補助ツールに過ぎない。鞭を使い過ぎれば馬は斜めに走る。ひと昔前までは、斜行による降着処分の半数以上は鞭の使用が原因で起きていた。

世界基準のルールが日本の競馬に浸透する中で気になることもある。海外では入着の見込みがなければ、その時点でレースを諦めるのが常識。馬に無駄な負担をかける必要はない。だが、日本の競馬にはタイムオーバー制度がある。一定の制限タイムを超過した馬には、出走制限や手当カットのペナルティが課されるのである。だからバテて勝ち目のなくなった馬でも、騎手は鞭を入れなければならない。果たしてタイムオーバー制度は動物愛護の精神に沿っているのだろうか。鞭の使用制限と合わせて議論を待ちたい。

 

 

***** 2022/10/28 *****

 

 

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2022年10月27日 (木)

助六

菊花賞の当日。競馬場でスポーツ紙をペラペラとめくっていたら、歌舞伎俳優の市川海老蔵が成田山新勝寺をお参りしたという記事が目に留まった。「十三代目市川團十郎白猿」の襲名披露公演を来月に控え奉告参拝を行った、とある。

歌舞伎役者には競馬好きが多い。既に鬼籍に入ってしまったが、先代・中村勘三郎も、先代・市川団十郎も、先代・中村芝翫も大の競馬ファンとして知られた。特に中村芝翫の競馬好きは筋金入りで、幼少期から根岸競馬場に出入りし、トキノミノルのダービーも競馬場で観戦していたというから凄い。亡くなる直前まで病院のベッドから馬券を買い、見舞いに来た勘三郎に万馬券を的中したと自慢していたそうだ。

海老蔵の競馬好きもつとに有名。そんな彼が「十三代目市川團十郎白猿」襲名公演で選んだ演目は市川家の歌舞伎十八番のひとつ「助六由縁江戸桜」だという。それでふと思い立って、お昼は「助六寿司」にした。

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江戸一番の好男子・花川戸助六が、恋人でもある遊女・揚巻がいる吉原を訪れるストーリー。ちなみに、いなり寿司と巻き寿司の折詰を「助六」と呼ぶのは、遊女の「揚巻」にちなむ。すなわち「揚」がいなり寿司で「巻」が巻き寿司というわけ。手軽に食べられるという点では競馬観戦にはもってこいだ。

助六を食べながら次の阪神6レースの出馬表を眺めていると「オースミリン」という馬が目に留まった。栗東・荒川厩舎の3歳牝馬。11番人気と人気はない。市川海老蔵は「成田屋」の屋号を持つが、「オースミ」にも「ナリタ」という別屋号がある。前走5着ならそれほど負けてないと見るべきだ。なにより海老ファネイア(エピファネイア)の産駒である。これは買いであろう。それで単複で勝負したら、案の定4着であった。嗚呼……。

競馬と歌舞伎はまったく別の世界のようでありながら実は縁が深い。競馬では逃げ馬のレースを評して「けれんみのない逃げを打つ」などと言ったりするが、この「外連(けれん)」とはもともと歌舞伎から来た言葉。宙乗りや水芸など、本道から外れているのだが一般ウケする芸のことを指す。転じて「小手先の」とか「小細工」といった意味で用いられるようになった。すなわち「外連味のない逃げ」とは「小細工なしの逃げ」ということになる。逃げではなかったものの、菊花賞のアスクビクターモアもまさに外連味のない競馬だった。今週の天皇賞ではパンサラッサの外連味のない逃げに注目だ。

 

 

***** 2022/10/27 *****

 

 

 

 

 

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2022年10月26日 (水)

マカヒキ引退

2016年の日本ダービー馬マカヒキの現役引退が報じられた。3歳秋にはニエル賞を勝ち、凱旋門賞にも挑戦。古馬になってから精彩を欠くレースが続いたが、昨年の京都大賞典では約5年1か月ぶりの復活勝利を遂げ話題となった。

グレード制導入以降のダービー馬で7歳以降も現役を続けた例はない。それが9歳まで走り続けたのは立派のひと言に尽きる。今週末の天皇賞・秋への登録が無く不思議に思っていたのだが、札幌記念のしんがり負けがラストランとなってしまった。

実はダービー後も走った78頭のダービー馬のうち、19頭がしんがり負けの洗礼を受けている。ダービー馬だから無キズで引退できるとは限らない。

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最多はカブトヤマとダイゴホマレの各3回。カブトヤマは63、65キロを背負ったときが不良馬場。69キロで最下位に負けたのは2日使い(当時でいう「連闘」)だったから、同情の余地がある。

1947年のダービー馬マツミドリはラストランが最下位。ダイゴホマレもカツラシユウホウとの死闘をピークに調子を下げ、最後は連続しんがり負けで競馬場を去った。近年ではロジユニヴァース、ワグネリアン、そしてマカヒキと、しんがり負けを最後にターフに別れを告げるダービー馬が相次いでいる。つくづく引き際の見極めは難しい。

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それでもマカヒキには昨年の京都大賞典がある。あのレースには不思議な感覚を覚えた。迎えた直線。先に抜け出したキセキとアリストテレスが競り合って場内から拍手と控えめなが沸き上がる中、競馬場全体の空気が明らかに変わる瞬間があったのである。一瞬の静寂。そして「来た、来た! 来たーっ!!」という声が聞こえたかと思ったら、瞬く間に大歓声に変わり、その次の瞬間にゴールだった。あとから聞いた話では東京競馬場でも万雷の拍手が沸き起こっていたらしい。ダービー馬に対するファンの温かさが伝わってくる。

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3歳秋のニエル賞までは6戦して(5,1,0,0)。ほぼ完璧な成績を残していたマカヒキにとって14着に沈んだ凱旋門賞のショックは大きかったに違いない。帰国後の彼からはダービーまでの輝きが完全に消えていた。凱旋門賞から始まった泥沼の17連敗は体調より精神面に原因があったと思える。サトノダイヤモンド、ディーマジェスティ、リオンディーズといったかつてのライバルたちは、すでに産駒が活躍中。同期のダービー馬として負けてはいられまい。種牡馬として再び輝きを取り戻すことを期待しよう。

 

 

***** 2022/10/26 *****

 

 

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2022年10月25日 (火)

己の健康と引き換えに

先週金曜、デビュー2年目の西谷凜騎手が今月いっぱいで騎手を引退し、11月1日付で茶木厩舎の調教助手に転身することが報じられた。今年4月23日の福島1Rに騎乗した際、重量を少しでも軽くするため保護ベストのクッションを抜くなどの不正改造を行い、負担重量に関する注意義務を怠ったとして騎乗停止処分に。「体重管理が最優先になってしまい、レースにも集中し切れなくなっていた」。引退の際して寄せた本人のコメントにも体重管理の苦悩が現れている。

西谷凜騎手には申し訳ないが、筆者はと言えば今宵も西天満の和食店「ウオマチ」で好きなだけ食べて好きなだけ飲んできた。トシのせいか嗜好は自然と和食に流れるものなのだが、世間一般に流布されている「和食は太らない」という説は、こと糖分という観点で言えば真逆であろう。和食と日本酒でここまで成長したオノレの腹が何よりの証。今宵もシメに和食の象徴とも言うべき釜飯をガッツリかきこんでやった。このビジュアルを見たら、そりゃあ食いますよ。

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30年前のヤングワールドジョッキーシリーズに招待されたとある若手外国人ジョッキーが、重量超過のために初戦のオープニングカップに騎乗できないという大失態を犯したことがあった。その理由がふるっている。

「ホテルの食事が美味くて食べ過ぎた。日本食は太らないと聞いていた」

「日本食はヘルシー」という神話は今なお海外を中心に進行を集めているし、油を控えたり魚中心であることを思えばあながち間違いでもあるまいが、「太らない」は拡大解釈も甚だしい。ちなみにこのジョッキーは、英ダービーや凱旋門賞を勝ち、2011年のワールドスーパージョッキーシリーズでも総合優勝を果たしたジョニー・ムルタ騎手である。

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「1個のおにぎりは1日2回に分けて食べる」

「1日の食事はトマト一個」

「水は口をすすぐだけで絶対に飲まない」

ジョッキーと聞けばすぐに減量を想像する人もいるかと思うが、今も昔もその苦労は変わらない。運動しても体重が落ちなくなったベテラン騎手が最後に頼ったサウナルームも、最近では新人ジョッキーが占拠している有様だという。日本人の平均身長が上がるのに合わせて、若いジョッキーには背の高い人も増えてきているが、それでも体重は維持しなければならない。となれば、アスリートに必要な筋肉も付けられず、無理な減量で身体を痛める必要がある。

世界を股にかけて活躍するランフランコ・デットーリ騎手が、利尿剤を使用していた時期があると告白したのは20年ほど前だったか。「利尿剤や便通促進剤など、あらゆるものを試した。好きでやっているのではなく、体重を減らすためだ」という彼の言葉は、騎手の減量問題の根深さを訴えるのに十分過ぎるインパクトを世界に与えた。

柔道やボクシングにも減量はついて回るが、小刻みな階級が選手を救っている。しかし騎手にはそれがない。世界一の選手がプレーを続けるために健康を犠牲にせざるを得ないスポーツなど他にあるだろうか。折しもJRAは来年度から平地競走の負担重量を引き上げることを発表した。理由は騎手の健康と福祉のためだという。西谷凜騎手と同じ悩みを抱えている騎手は他にもいるに違いない。

 

 

***** 2022/10/25 *****

 

 

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2022年10月24日 (月)

変わりゆく常識

今週の天皇賞(秋)は皐月賞馬ジオグリフの参戦が大きな見どころのひとつ。同一年のクラシックレースと天皇賞の両方を勝った馬は昨年のエフフォーリアしかいない。ジオクリフが勝てば2年連続で歴史的快挙だが、もしこの先も歴史的快挙が続くようならやがて新常識となる。

3歳馬の出走が再び可能になった1987年以降、28頭の3歳馬が古馬に挑み(3,5,3,21)の成績を残している。さらにこれが単勝10倍を切る人気馬に限ると、

 88年 オグリキャップ   2着
 95年 ジェニュイン    2着
 96年 バブルガムフェロー 1着
 02年 シンボリクリスエス 1着
 06年 アドマイヤムーン  3着
 08年 ディープスカイ   3着
 10年 ペルーサ      2着
 12年 フェノーメノ    2着
 12年 カレンブラックヒル 5着
 14年 イスラボニータ   3着
 17年 ソウルスターリング 6着
 19年 サートゥルナーリア 6着
 21年 エフフォーリア   1着

という具合にまず大きく崩れない。一線級の3歳馬なら歴戦の古馬にも引けを取らぬことを、そしてファンの見る目の高さをも示している。そもそも現代競馬において3歳馬はもはや若駒ではない。それは凱旋門賞の戦績を見ても分かる。斤量の利も無視できない。この時期に「若駒」と呼ぶべきは、既に重賞戦線真っ盛りの2歳馬たちであろう。

3歳馬による秋天挑戦の歴史を考える上で、クラシック登録の無かったオグリキャップを別とすれば、ターニングポイントとなったのは1995年に違いない。明かな短距離嗜好ならまだしも、ダービーでも僅差の2着だった皐月賞馬ジェニュインの参戦である。クラシックを勝った3歳牡馬は菊花賞へ向かうのが当たり前と考えられていた当時、秋の目標を菊花賞ではなく天皇賞に据えた陣営の判断には賛否両論が渦巻いた。

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社台レースホースでジェニュインに出資する会員からの苦情もなかったわけではない。当時は付加賞を含めれば天皇賞より菊花賞の方が賞金は高かったし、関西在住の会員にしてみれば地元で愛馬の雄姿を目に焼き付けるチャンスである。いや、そんなことよりも一生に一度の舞台を棒に振るつもりか―――等々。

結果はサクラチトセオーの強襲に屈してハナの2着。だが、いま思えばこれは大きな2着だった。「4歳秋(当時表記)でも古馬に互して戦える」。それをジェニュインは自らの好走で証明してみせたのである。彼の2着がなければ、翌年のバブルガムフェローによる3歳馬の秋天制覇は為し得なかったかもしれない。

イスラボニータの場合は、セントライト記念を勝った直後、ただちに牧場サイドから菊花賞挑戦が明言された。勝ちっぷりがあまりに鮮やかだったせいもある。だが、数日後になって「やっぱり天皇賞に」と軌道修正された。その理由が「菊花賞ではなく天皇賞に」という会員の声が多かったからというのだから面白い。同じ皐月賞馬で、同じくダービー2着。勝負服まで同じ。ジェニュインの挑戦から20年近くが経過して競馬の常識も変わっていたわけだ。

今年はジオクリフだけでなく、皐月賞とダービーで2着のイクイノックス、そしてダービーで1番人気だったダノンベルーガも出走する。3歳馬3頭による上位独占も夢ではない。そうなれば常識の転換点になることは必至。いや、そもそも秋の天皇賞で最多のステップが毎日王冠でも京都大賞典でもオールカマーでもなくダービーになった時点で、すでに常識は変わっている。とはいえ競馬の世界では常識は常に変わるもの。フサイチコンコルドやウオッカの快走を見るたび、我々は思い知らされてきた。変わりゆく「3歳秋」の常識の行く末を、我々はしっかり見届けよう。

 

 

***** 2022/10/24 *****

 

 

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2022年10月23日 (日)

満員御礼菊花賞

秋華賞はお休みしたので先週がどうだったかは分からないのだが、菊花賞デーの阪神競馬場はコロナ前の活気を取り戻していた。阪急電車は臨時列車を運行し、入場ゲートには徹夜組が行列。間引き販売をやめて全席販売のスマートシートは密着感がえげつない。競馬場からの帰りは退場制限も敷かれた。当日入場券の発売は再開されていないから、以前に比べればまだ空いているのだろうけど、体感的にはコロナ前ともはや変わらない気がする。人もまばらなスタンドでソダシの快走を見届けた桜花賞が懐かしい。

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大観衆が見守る菊花賞はセイウンハーデスが飛ばして幕を開けた。1000m通過は58秒7。その数字に場内がドッと沸く。5馬身ほど離れて2番手を追走するアスクビクターモアにしても59秒5~6といったところだから、どちらにしても速い。昨年のタイトルホルダーは1分ちょうどだった。

アスクビクターモアは2週目の3~4コーナーで早くも前をかわして先頭。あと450mもある。「早いんじゃないか?」という声が聞こえたが、田辺騎手の手綱に迷いは感じられない。

思い返せばダービーもそうだった。先行馬総崩れの中、アスクビクターモアだけが2番手追走から残り450mの地点で先頭に立つと、あわやの3着に粘っている。あのレースにアスクビクターモアの無尽蔵のスタミナが凝縮されていたような気がしてならない。今回も直線でボルドグフーシュに猛然と迫られたが、結果的にあの位置から仕掛けて正解だった。競馬はゴールの瞬間に1センチでも前にいれば勝ち。馬の力を信じてスタミナ勝負に持ち込んだ田辺騎手の好騎乗が光った。

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逃げるアスクビクターモア、追い込むボルドグフーシュ。3000mも走っていながら最後は頸の上げ下げの勝負に競馬場は久しぶりの大歓声に包まれた。着順掲示板に「レコード」の文字が表示されるとまた大歓声。阪神3000mを3分2秒台で勝った馬は過去に2頭しかいない。ナリタトップロード(3分2秒5)とサトノダイヤモンド(3分2秒6)。いずれも名うてのステイヤーである。その2頭を上回るコースレコードで駆けたアスクビクターモアのステイヤーとしての資質は相当なもの。快挙の瞬間を目撃した多くのファンがのちに自慢できるよう、アスクビクターモアの今後の活躍に期待したい。

 

 

***** 2022/10/23 *****

 

 

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2022年10月22日 (土)

残念菊花賞

今年の菊花賞の出馬表にクリストフ・ルメール騎手の名前がない。騎乗予定だったインプレスが8分の3の抽選に漏れたため。サトノダイヤモンドとフィエールマンで菊2勝の名手も抽選には勝てなかった。他のレースには予定通り騎乗するから明日は阪神競馬場で菊花賞をナマ観戦することになる。

馬の方は今日の自己条件で走った。今日の阪神10レース・兵庫特別は2勝クラスによる芝2400m戦。菊花賞を抽選除外になった3歳馬のために用意された条件であることは容易に想像がつく。今年は菊花賞を除外になった5頭のうち4頭が出走。その4頭が1~4人気の支持を集め、結果も1~4着独占だから「残念菊花賞」も甚だしい。

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ちなみに昨年の兵庫特別でも同じことが起きている。菊花賞を抽選で漏れたテーオーロイヤル、マカオンドール、ハギノピウリナが出走し、この3頭が表彰台を独占した。その後、マカオンドールが万葉Sを制し、テーオーロイヤルがダイヤモンドSを圧勝し、春の天皇賞でも3着したことを思えば、彼らが菊花賞に出なかったことに疑問のひとつも抱きたくなる。

2013年の朝日フューチュリティSで、ミッキーアイルやモーリス、タガノグランパらを含む5頭が抽選除外の憂き目を見たことは今も忘れ難い。「はじかれたメンバーの方がレベルが高い」と揶揄されたように、タガノグランパはファルコンSを勝ってダービーでも4着に食い込み、ミッキーアイルは重賞3連勝でNHKマイルCを制した。モーリスについても説明の必要はあるまい。結果、朝日FSの売り上げは阪神JFに届かなかった。目の肥えたファンは、メンバー落ちのGⅠには食いつかない。明日の菊花賞は大丈夫か。

そもそも同じ2勝馬をふるいにかけるにあたり、1着賞金1070万円の特別戦を勝った馬と、1着賞金770万円の一般戦を勝ち上がった馬を同列に扱うことが理解できない。賞金格差を付けているのはJRA本人。ならば、そのレースの格が違うことくらい当然意識しているはずであろう。2勝馬同士でより細かな序列を作ることは、決して難しい作業ではない。

「抽選システムは公平と機会均等の原則に沿ったもの」とJRAは主張する。だが、それは出走させる側から文句の出にくいやり方でもある。抽選だから仕方ない―――。運がなかった―――。それで済む。だが、抽選を行うのはしょせん人間の手ではないか。それで馬の一生が変わることもある。ならばせめて馬にくじを引かせてやりたい。今日の兵庫特別で上位を占めたインプレス、レッドバリエンテ、タイムオブライト、ジェンヌらが、明日の菊花賞上位組と対戦する日を楽しみに待とう。

 

 

***** 2022/10/22 *****

 

 

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2022年10月21日 (金)

初めての国際レース

第1回ジャパンカップは1981年11月22日に行われた。だが、我が国で初めて外国調教馬が走ったのは、実はこのレースではない。

このJCの2週間前、11月8日に行われた東京9Rの4歳上オープン(芝1800m)。のちに「富士ステークス」と呼ばれる国際招待レースに出走してきたインドのオウンオピニオンこそ、本邦初の外国調教馬である。首にコインのネックレス、頭には赤い飾り花、鼻先の流星の先を丸い紅で飾ったオウンオピニオンがパドックに姿を現すと、初めて外国の競走馬を見るファンはどっと沸いた。

調教ではゾウと併せるらしい―――。

そんな笑い話みたいな噂が流れたのは、やはりそれだけ外国の競馬が日本のファンにとって未知の存在であったことの証であろう。オウンオピニオンは5番人気に推されたものの、勝ったタクラマカンから14馬身離されたしんがりに敗れた。ちなみに前述の噂の出所はI崎某氏とも言われている。

このオープンレースは翌年から「富士ステークス」と名付けられ、JCを目指す外国馬のためのステップレースとして実施されたが、実際に出走してくる外国馬が少ないこともあり、1996年を以てその役割を終えた。晩年は毎年のように少頭数のレースが繰り返されたから、1400mへの距離短縮(のちに1600m)は正解だったのであろう。シンコウラブリイ(赤帽)が勝った1992年などは、寂しさも極まる6頭立てだった。

Lovely

ところで、前述した富士ステークスの実質的な第1回優勝馬のタクラマカンは、ミルリーフの従兄弟という良血輸入馬。いわゆるマル外ゆえクラシックに出走は叶わなかったが、3歳2月のバイオレット賞ではカツトップエースを4馬身差で下しており、この馬がクラシックに出ていればカツトップエースの春2冠はどうなっていたか分からない。種牡馬としては東北の雄・メイセイオペラの母の父としてその名を残している。

 

 

***** 2022/10/21 *****

 

 

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2022年10月20日 (木)

五体満足でありながら

今週の菊花賞には2年連続で皐月賞馬もダービー馬も出てこない。菊花賞で皐月賞馬とダービー馬の直接対決が実現したのは2000年が最後。ということは若いファンの中には知らぬ方もいるということになる。一方で追加登録は5頭と異例の多さ。ひと昔前と比較して菊花賞の立ち位置も変わった。

Kikka

長距離戦離れの傾向はダービー馬の秋に表れている。今世紀に入ってから昨年まで21回行われた菊花賞のうちダービー馬が不在だったのは実に14回。しかも、五体満足でありながら菊花賞を袖にするケースが相次いでいる。今年のダービー馬ドウデュースも菊花賞を選ぶことはなかった。

菊花賞を選択した7頭のダービー馬のうち、ネオユニヴァース、ディープインパクト、メイショウサムソン、オルフェーヴル、そしてコントレイルの5頭は、その時点で皐月賞と日本ダービーの2冠を制していた。穿った見方をすれば、菊花賞を選んだというよりは、「クラシック3冠」を選んだとも言える。残る2頭はジャングルポケットとワンアンドオンリーだが、前者に関して言えば菊花賞で秋緒戦を迎えたことからも、目標はジャパンカップあくまでジャパンカップだった可能性もある。

菊花賞を支えてきたのは「出走できるのは生涯一度きり」というギミックと高額賞金の魅惑だ。

古くはフレッシュボイス、近年ではネーハイシーザーやローエングリンに代表されるように、多少距離適性に目を瞑ってでも、「出られるものなら出したい」という考え方が、かつては大勢を占めていた。だが、こうした考え方は既に前世紀の遺物になりつつある。「菊花賞ではなく天皇賞」。若い調教師を中心にこうした声が多く聞かれるようになってきた。

そもそも天皇賞で3歳馬が古馬に勝つのは至難の業である。しかも本賞金では天皇賞の方が5000万円ほど上回っているが、3歳クラシックには3000万近いの付加賞が付くから、大した差はない。相手が同世代だけで、賞金もさほど変わりないとなれば、菊花賞に出た方が明らかにおトクと思える。

それでも、キングカメハメハやディープスカイ、あるいはダービー馬ではないがジェニュイン、バブルガムフェロー、シンボリクリスエス、そしてダイワメジャーといった3歳有力馬たちは、自ら進んで天皇賞を目指した。そして今年のジオグリフやイクイノックスも、そんな彼らに続こうとしている。

彼らが菊花賞を選ばなかった理由は様々あろうが、概ね以下のふたつに大別される。ひとつは「一度でも3000mの遅い流れを経験すると、先々距離が短くなったとき、速い流れに戸惑ってしまう」(藤沢和雄調教師)という懸念。そしていまひとつは、のちの種牡馬としての評価だろう。同じ3歳クラシックでありながら菊花賞というレースは、皐月賞やダービーの路線とは一線を画すことは承知しているつもり。その傾向は21世紀に入ってますます顕著になりつつある。今世紀に行われた過21回の菊花賞馬のうち、半数を超える11頭までが皐月にもダービーにも出走していない新星だったことは忘れないでおこう。

 

 

***** 2022/10/20 *****

 

 

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2022年10月19日 (水)

埼玉新聞栄冠賞の憂鬱

JRAのレース名には季節感を意識したものが多い。秋の代表例は先週の秋華賞であり、今週の菊花賞。日本の競馬が海外のそれと決定的に異なる点をひとつが、競馬に四季の移ろいを感じることができることにあろう。

私がかつて根城にした南関東ではレース名から季節感を感じることはほとんどなかった。重賞ではニューイヤーカップ、桜花賞、スパーキングサマーカップ程度か。秋を思わせるレース名は皆無。秋華賞と菊花賞との間に挟まれた「埼玉新聞栄冠賞」が、そんな現状を象徴しているように思えてならない。

かつて関係者がその辺の事情を説明してくれた。南関東の重賞は構成4場の思惑と相まって、施行時期の変動が珍しくない。そのたびにレース名に変更が生じていては、レース名に愛着が湧かないじゃないですか―――と。

実際、埼玉新聞栄冠賞も、創設当初は5月に行われていたのが、1998年に年末に移動となり、なぜかその1か月後の99年1月にも実施され、「今後は月イチで実施か?」などと騒がれた過去を経て、現在の10月に落ち着いている。これでは季節感を持たせたネーミングなど怖くてできない―――。なるほど。そう言われると「そうですか…」と返すしかない。しかもシレっと距離が2000mに延長されていた。

それでも、重賞以外の特別戦のネーミングは季節感満載なのである。この浦和の開催から拾ってみただけでも、秋麗特別、天秤座特別、金木犀特別、秋陽特別、神無月特別、秋風特別、秋の空特別という具合に、「秋」や「10月」にちなむレース名がズラリ並んだ。秋に関連するワードをネットで検索して、そのまま使ってるのではないかと思わせるほど。ここまで出揃うと逆に“やっつけ感”さえ漂う。

そもそも主催者はレース名にどれくらいの思い入れを持つものだのだろうか。埼玉新聞栄冠賞は、もともと「埼玉新聞杯」として91年に創設された。サクラハイスピードやマキバスナイパーも、その勝ち馬に名を連ねている。

ところが08年、埼玉新聞杯は突如「埼玉栄冠賞」へと名称変更された。同じ年には、テレビ埼玉杯も「オーバルスプリント」に呼び名が変わっている。その背景には、「冠社名+杯」という安易なレース名への反対意見が主催者側にあったとされるが、11年にオーバルスプリントが「テレ玉杯オーバルスプリント」に、12年には埼玉栄冠賞は「埼玉新聞栄冠賞」と変更されたことで、テレビ埼玉と埼玉新聞の名は、再びレース名にその姿を現した。ボランタスは「埼玉栄冠賞」の優勝馬で、ガンマーバーストは「埼玉新聞栄冠賞」の優勝馬。同じレースなのに、あー、ややこしい。

Eikan

浦和に関しては―――ということになるが、どうもレース名に関する一貫性が感じ取れない。そう思うと、前出の関係者が語った「理由」も話半分に聞いておいた方がよさそうだ。次開催の重賞は浦和記念。そういえば、この浦和記念も突然「彩の国浦和記念」と呼び始めたかと思ったら、いつの間にか元に戻っていた経緯がある。理由は知らされていない。レース名への愛着を云々する以前の問題であろう。

 

 

***** 2022/10/19 *****

 

 

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2022年10月18日 (火)

ファミリーヒストリー第5章

修学旅行生て賑わうノーザンホースパークの乗馬厩舎で午後の飼葉を食べているのはウインドインハーヘア。もう31歳になった。だが、彼女に興味を抱く観光客はそれほど多くはない。

Wind1

アイルランド生まれの彼女は1994年のエプソムオークスで2着すると、翌年のアラルポカルではアラジの種を受胎しているにも関わらず優勝するという離れ業を演じる。1999年にデインヒルを受胎した状態で日本に輸入され、2002年に不世出の名馬ディープインパクトを産んだ。そのティープ亡き後もこうしてノーザンホースパークで余生を過ごしている。天気が良ければポニーたちと引き連れて放牧に出ることも。その姿はさながらベテラン保母のようだ。彼女を見ていると、人生(馬生)の数奇を思わずにはいらない。

Wind2

彼女が来日する前年に産んだシーキングザゴールドの牝馬も、日本にやってきて競走馬となった。それがレディブロンド。競走デビューはなんと5歳の夏だから驚く。普通なら繁殖入りしてもおかしくない。しかもデビューの舞台は1000万特別戦である。その格上馬を相手に勝ってしまうのだから、周囲が再び驚いたのも無理はない。そこからわずか3か月の間に怒涛の5連勝。勢いを駆って臨んだスプリンターズSは、デュランダルにコンマ2秒差の4着と初めての敗戦を喫した。しかし、これが重賞初挑戦、デビューから3か月半のキャリアを思えば、むしろ驚くべきであろう。彼女の競走人生は驚きの連続だった。

Lady

その能力の高さを十分に示したレディブロンドは、この一戦を最後に引退。帝王賞馬ゴルトブリッツなどを送り出したが、2009年にアグネスタキオンの牝駒を産んだ後に死んでしまう。結果5頭の産駒しか残せなかった。しかも3番子のゴルトブリッツと4番子の牝馬アフロディーテも若くしてこの世を去っている。レディブロンドの血を後世に伝えるその糸は、この時点で2本のみ。いつ切れてしまっても不思議ではない。

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ラドラーダ(父シンボリクリスエス)はその細い糸を担う1頭。それでも、競走能力の高さや、「黄金の女性」を意味するその馬名には、母レディブロンドの面影を感じた記憶がある。そんな彼女はJRAで4勝の成績を引っ提げて引退・繁殖入りを果たした。

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2014年日本ダービーや15年天皇賞(秋の)を勝ったレイデオロ(父キングカメハメハ)は、そのラドラーダの2番子である。種牡馬になって3シーズン目を無事終えた。自身にディープインパクトを持たない血統ゆえ、ディープインパクト牝馬と配合がしやすい。裏を返せばウインドインハーヘアの4✕3がたくさん誕生するということ。ショウナンパンドラやマリアライト、ヴィルシーナといった名牝たちの1歳たちが来年のデビューにに向けて馴致に入る頃合い。ウインドインハーヘアから始まるファミリーヒストリーの第5章は、もう始まっている。

 

 

***** 2022/10/18 *****

 

  

 

 

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2022年10月17日 (月)

モミジと言えば

例年なら峠道は雪の心配をしなければならない北海道だが、日高は比較的暖かい陽気が続いている。オータムセール初日の今日もクルマの寒暖計は22度。雪どころか紅葉も進んでいない。セール会場には半袖姿も見かけた。

ところが、である。1時間ほどクルマを飛ばしてノーザンホースパークに来てみたら、寒暖計は12度を指している。故障を疑ったが車外に出てみれば確かに寒い。そのおかげか紅葉もピークを迎えつつある。雨あがりのモミジもまた美しい。

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昨日は秋華賞が行われたが、「秋華」という品種のモミジがある。比較的最近発見された新種で、その歴史は25年程度だというから、ひょっとしたら競馬の秋華賞にちなんでの命名ではないかと密かに疑っている。なにせ「秋華」という言葉は、多くの日本人にとって競馬のレース名でしかない

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そんなことを考えつつパーク内を歩いていたら、目の前を小さな馬がサーッと横切って行った。さてはショーに出演しているポニーが逃げ出したか。ノーザンにしてはいただけない。後を追いかけたら、競技馬場に逃げ込んで止まった。

袋のネズミならぬ牧柵の馬。ここなら捕まえるのも簡単だ。さて、どこかにスタッフはいないか。そう思って背後をを振り返ろうとした筆者は、絵に描いたような二度見をしてしまったのである。

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シカじゃねぇか!

モミジには鹿が欠かせない。花札に描かれたもみじと鹿の絵柄を持ち出すまでもなかろう。猿丸太夫は「奥山に紅葉踏み分けなく鹿の 声聞くときぞ秋は悲しき」と詠んだ。鹿肉は別名「もみじ」とも呼ばれる。もみじと鹿の組み合わせは、古くから好まれている日本の秋のイメージそのものだ。

とはいえいま私の目の前いる鹿はモミジにつられてやって来たわけではあるまい。何せ子鹿である。群れからはぐれてしまったのだろうか。そうこうするうち、ゆうに1メートルはある牧柵をピヨーンと飛び越えてどこかに逃げて行った。あのバネなら160センチ障害も余裕で飛べるのではあるまいか。ひょっとしたら障害飛越をやってみたくて、わざわざ山を降りて来たのかもしれない。

 

 

***** 2022/10/17 *****

 

 

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2022年10月16日 (日)

特別な誕生日

1970年生まれの競馬ファンがハイセイコーやセクレタリアトと同い年だと自己紹介するように、1968年10月16日生まれの私はミルリーフと同い年。外国の競馬関係者に年齢を聞かれたらそう答えることにしている。評判も悪くない。ともあれ今日は私の誕生日。ミルリーフも生きていれば54歳になっていた。

とはいえ、このトシになって誕生日と騒いだところで、特に楽しいイベントが私を待ち受けているわけでもない。それで毎年つまらない思いをしている。40歳を過ぎてからの誕生日なんて、だいたいロクなことごない。

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しかし今年は違った。馬に囲まれて誕生日を迎えるのは初めての経験。それだけで十分ではないか。ごちそうもプレゼントもいらない。だから夕食にはセコマでおにぎりとサッポロクラシック。しかし、これらにしても大阪住まいの私にとっては案外特別な一品だったりする。肴はさっき頂いてきた社台の種牡馬カタログ。もう言うことはない。

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さあ、明日からオータムセール。誕生日プレゼントとして誰か私に一頭勝ってくれないものか。喜んで頂戴いたします。

 

 

***** 2022/10/16 *****

 

 

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2022年10月15日 (土)

うどんのような

8月9日付で「丸3年以上『いずみ食堂』の蕎麦を食べてない」と嘆いてから2か月余り。禁断症状が出てからでは遅いとばかりに門別へとやって来た。しかし3年半ぶりに見る店舗は若干のリニューアルが施されて電子マネーにも対応しているではないか。聞けばLINEクーポンも始めているらしい。私が知る「いずみ食堂」はそんなハイテクな一軒ではなかった。よもやまったく違う蕎麦が、それこそ「蕎麦らしい蕎麦」が出されたらどうしよう……。そんな私の心配をあざ笑うかのように、あの懐かしい「うどんのような蕎麦」が目の前に運ばれてきた。

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「うどんのような」の形容詞がピタリとハマるこの太さ。生麺の状態ではストレートなのに、なぜか茹で上がると縮れが入る。そんな不思議な蕎麦を求めて、私自身ように道外からやって来る客も少なくない。ま、私はこれだけのために来たわけではないですけど、とにかく嬉しい。

蕎麦の世界は薀蓄の塊なので、あまり多くを書き連ねると痛い目に遭うのだが、江戸前の蕎麦の特徴と言えば細打ち。「切りべら23本」の言葉にあるように、1本の太さはだいたい1.3ミリ前後が理想と言われる。一方で、蕎麦の産地で食べる蕎麦は麺が太くなる傾向にあるようだ。それを田舎蕎麦と呼んだりもするわけだが、蕎麦粉の美味さをより味わうなら断然こちらであろう。

すなわち、産地から距離のある江戸では、蕎麦の風味は落ちてしまい、濃いつゆで味を補う必要があった。麺を細くしたのも、トータルの表面積を増やして、つゆの絡みを良くするための工夫であろう。だが、新鮮な蕎麦粉が手に入る蕎麦の産地では、必要以上につゆに頼る必要はない。それで自然と麺は太くなった。以上は仮説だが、『いずみ食堂』の蕎麦をもぐもぐ噛みながら食べていると、蕎麦とは本来こうして噛んで食べるものだろうなという気がしてくる。噛んで食べることで、鼻腔から抜けるその芳香が、より鮮やかさを増すのである。

北海道は蕎麦粉の一大産地である。もちろん「いずみ食堂」の蕎麦粉も道内産。その黒ずんだ麺を見て、つなぎを使っていない十割蕎麦だと思われるお客さんも多いようだが、店によれば「色黒なのは蕎麦粉が粗挽きだから。つなぎは使ってますよ」とのこと。しかし、その割合は企業秘密だという。

馬でもツナギは大事。むろんそれは球節と蹄部の間にある「繋」のこと。四肢の負担を和らげるクッションの役目を果たす部位で、これが短すぎると衝撃が緩和されずに脚を痛める可能性が高まり、逆に長過ぎてはクッションが利きすぎてスピードが削がれる恐れもある。社台グループの会報誌で吉川良氏が健筆を振るう名物エッセイのタイトルが「繋」のはダテではない。そういや吉川氏にも3年以上お会いしていないな。

ちなみに「いずみ食堂」は明後日17日の月曜日は臨時休業。その翌日18火曜日から当面の間は、昼のみの営業になるらしい。ご注意を。

 

 

***** 2022/10/15 *****

 

 

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2022年10月14日 (金)

モツ鍋ならぬホルモン鍋

夏日の大阪伊丹を飛び発って新千歳空港に降り立つと冬になってた。

冬だからコートが欲しい。しかしそんなもの持ってきてるはずもない。それでもメシを食べなければ死んでしまうので、シャツに薄手のジャケットという今できる最高レベルの防寒対策を施し、夜の千歳の街に繰り出した。

寒さに凍える私を迎え入れてくれたお店は「千歳屋」さん。外の寒さが嘘のような暖かい店内に入ったらキンキンに冷えたビールが欲しくなるのだから勝手なもの。さて、メシは何を頼もうか。メニューを見れば「ジンギスカン」の文字がひときわ輝いて見える。

道産子のジンギスカン好きは羊肉の輸入量に現れている。オーストラリアやニュージーランドなどからの羊肉輸入量は、大消費地を控える東京、大阪、横浜税関管内を抑えて函館税関内が全国トップ。国内全体の約半分を占める。総務省統計局の家計調査でも札幌市の家庭は牛肉消費が少ない一方、羊肉やホルモンを含む「ほかの生鮮肉」の消費は全国で2位だ。

そのホルモン使った味噌ホルモン鍋がこの店の一番人気らしい。ならばそれを注文。早来産豚のホルモンに北海道産大豆を使った味噌が素晴らしくマッチする。ラーメンでもそうだが、豚骨ではなく味噌というところが北海道らしい。そのせいで博多のモツ鍋とはぜんぜん違う料理に仕上がっている。

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旭川の名物に「塩ホルモン」があるが、道産子は羊肉だけでなくホルモンも好む。肉の匂いを消すのに有効なリンゴや玉ねぎといった食材が身近にあったからかもしれない。「ほかの生鮮肉」の消費量が多いのは、羊肉だけによるものとは言い切れない気がする。

 

 

***** 2202/10/14 *****

 

 

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2022年10月13日 (木)

「秋興」と書いて

秋華賞が誕生して四半世紀余り。3歳牝馬の秋の目標としてすっかり定着した感がある。エアグルーヴを追い掛けて京都へ飛んだあの当時、私もまだ若かった.エリザベス女王杯が3歳限定の2400mだったことを知るファンも少なくなりつつある。

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私のスマホの漢字変換でも「しゅうかしょう」と打てば「秋華賞」とただちに表示されるのだから時代は変わった。ちょっと前まではこうはいかなかった。「あき」⇒(変換)⇒「はな」⇒(変換)⇒「しょう」⇒(変換)と、一文字ずつの変換を余儀なくされていた記憶がある。なにせ26年前までは、「秋華」という言葉を大半の日本人は耳にする機会がなかった。

中国の詩人・杜甫の「泰州雑詩」の中に「秋華危石底 晩景臥鍾邉」と登場する―――。

JRAの最初の説明はそうだった。が、それを聞いて「ああ、あれか!」と膝を打った日本人が果たしてどれだけいただろうか。たしかに格調は高そうに聞こえるが、いかんせん普通の競馬ファンには馴染みが薄すぎた。今でも世間一般にとっては「秋華」という言葉は競馬のレース名でしかない。

本来「秋華」は文字通り「秋の花」の意味を持つ。だが、京都に色づく秋の華と言えば、もみじ(紅葉)を連想する向きも多かろう。実際、「秋華」という品種のもみじもある。黄色地に赤く縁取りしたような色合いが特徴だが、実は最近発見された新種だという。その歴史は20年程度だというから、ひょっとしたら競馬の秋華賞にちなんでの命名ではあるまいか。なにせ「秋華」という言葉は、多くの日本人にとって競馬のレース名でしかない。くどいようだけど。

かつて、秋の東京で「秋興特別」という特別レースが行われたことがある。900万条件の芝2000m戦。4歳(当時表記)のサクラローレルが圧倒的人気を背負って2着に敗れた。

「秋興」と書いて「しゅうきょう」と読むのだが、私のパソコンの漢字変換機能では変換されない。そんな言葉の意味がわかる人が、果たしてどのぐらいいたのだろうか。広辞苑によれば「秋のおもしろさの意」とのこと。大半のファンにしてみれば、決して馴染みある言葉ではあるまい。わずか3年で消えてしまったのも無理からぬ話だった。

 

 

***** 2022/10/13 *****

 

 

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2022年10月12日 (水)

コラボ

先週のこと。知人の友人が「土曜に阪神競馬場に行く」と言い出したのだそうだ。ちなみにその男は名古屋在住。競馬ファンではない。

「ほう。ついに競馬に目覚めたか。いやあ立派な心がけだ。それにしてもいきなり阪神とは凄いな。先週なら中京やってたのにな」

そう言う知人に向かって、その友人という人物は「何を言っているんだ。競馬なんてどうでもいい。阪急電車のイベントがあるんだ! こんな機会をみすみす逃せるか?」と言ってきたという。

その男は競馬ファンではないが、鉄道ファンではあるらしい。

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たしかにこの3連休は「阪神競馬場×阪急電車 鉄道の日こらぼふぇす」というイベントが行われていた。阪急電車のノベルティグッズがもらえたりコラボグッズが当たったりと鉄道ファンが興味を引きそうなイベントだったらしい。現地にいながら「らしい」と書いた私を、その男性は許さないだろうか。そう言えば、土曜日に乗った電車が「秋華賞」のヘッドマーク運転だったのもイベントの一環だったのかもしれない。

Headmark

ともあれ、こうしたイベントだけを目的に競馬ファンでない人もわざわざ名古屋から阪神に出かけるわけだ。そのうちの何人かでも競馬を好きになってくれるかもしれないと思えば、あながちバカにできたものではない。

前々から思っていたんだけど、競馬ファンと鉄道ファンってもっと相互乗り入れがあってもよさそうな気がするんだけど、どうなんでしょうね? 潜在的には「競馬も鉄道も好き」という人は多い。さらにレースに社杯を提供している電鉄会社も少なくない。そう考えれば、鉄道系とのコラボイベントはもっと拡大してみる価値があるように思う。

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そもそも阪急電鉄がこうして頑張ってくれているのに、阪急杯がGⅢというのはいかがなものか。ちなみに他の鉄道会社を見ると、京王はGⅡをふたつ、京成がGⅢをふたつと南関東SⅢをひとつ、京阪がGⅢをひとつ、京急が南関東SⅡをひとつをそれぞれ持っている。あと他にありましたっけ?

重賞ではないが中京競馬場には「名鉄杯」もある。

レース前に流れるファンファーレが名鉄電車の「ミュージックホーン」をアレンジした楽曲であることで有名なレース。しかも名鉄ブラスバンド部の皆さんによる生演奏。GⅠレース以外でファンファーレの生演奏というのは珍しく、テレビ中継で時間の都合などでファンファーレの映像が流れなかったりすると、視聴者から苦情が来るそうだ。場所が中京だけに件の知人の友人氏も苦情を入れた一人かもしれない。

 

 

***** 2022/10/12 *****

 

 

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2022年10月11日 (火)

ぶっかけ三昧

この土日月は3日連続で阪神に通いだった。3日間とも同じ電車の同じ車両に座って、競馬場では3日間とも同じ席に座り、3日間とも同じ銘柄の競馬新聞を睨みつつ、3日間とも同じ赤ペンをクルクル回しながら、3日間と負けて、3日間とも同じ電車の同じ車両に座って梅田に帰った。こうなるともはや「仕事」に近い。

昼食も仁川駅前の「フランケル」で3日連続でうどんを食べた。

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土曜はハモ天ぶっかけ。

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日曜は鶏天おろしぶっかけ。

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そして月曜は温玉肉ぶっかけ。

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怒涛の三連闘。それでも飽くことはない。こちらは店内にグリーンチャンネルを放映するモニタが2つも設置されている。うどんの茹で上がりを待つ間ひとつレースをやり過ごして、フムフムと頷きながらうどんを啜り、やおら競馬場に向かうのがルーティン。これを変えるともっと負けるような気がしてならない。とはいえ決してゲン担ぎで通っているのではなく、美味いからココに来ていることは強調しておこう。うどんを食べるだけで馬券が当たるなら苦労はない。

そもそも私は馬券にゲン・ジンクス・占い・風水の類は持ち込まないようにしている。もちろん、それで馬券を買うことが悪いとは言わない。競馬の楽しみ方は自由であるべき。合理的な理由を見いだせないものに金を出したくないケチな人間であるだけの話だ。

競馬場での席はかつて大きく勝った時と同じ席になるべく座るようにしているが、これも決してゲン担ぎではない。そこで観ることで他からでは見えない「何か」が見えていた可能性がある。それを易々と手放すバカはいない。新聞や赤ペンは競馬場における重要かず数少ない道具である。これをコロコロ変えているようでは大勝利など夢のまた夢であろう。赤ペンなんてどれも同じだろという指摘はもっともだが、手に馴染んでストレスなく使える一本は経験的にインクが無くなるのも早い。つまりそれだけマメに何かを書き込んでいるのだろう。当たりハズレは別にしても集中力アップには役立っているはずだ。

コパノリッキーやラブミーチャンのオーナーで風水の第一人者でもある「Dr.コパ」こと小林祥晃氏は、高松宮記念に出走するコパノリチャードのため、この年のラッキーフードの鶏肉を食べまくったそうだ。レース当日の朝からケンタッキーフライドチキンや唐揚げ弁当など発走までに4食も平らげたというから凄い。結果、コパノリチャードは高松宮記念を見事制した。3日連続でぶっかけうどんを食すこの私でも、朝からフライドチキンはさすがに厳しい。風水を駆使しても、決して楽に勝たせてくれるわけではないということだ。

 

 

***** 2022/10/11 *****

 

 

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2022年10月10日 (月)

ステイゴールドの呪い

東の毎日王冠、西の京都大賞典。10月の東京・京都(今年は阪神)の開幕を飾るGⅡ戦は、GⅠ級のメンバーが揃うことで知られてきた。1998年の毎日王冠はエルコンドルパサーとグラスワンダーという疾風怒濤の外国産馬をサイレンススズカが子ども扱いした伝説のレースだが、同じ日に行われた京都大賞典のメンバーも負けてない。

1着セイウンスカイ、2着メジロブライト、3着シルクジャスティス。逃げ込みを図る皐月賞馬を春の天皇賞馬と有馬記念馬が追い詰める。着差はわずかにクビでも、初の古馬との対戦で天皇賞馬や有馬記念馬を完封したのだから価値は高い。セイウンスカイが次走の菊花賞でスペシャルウィークをちぎり捨てたのも当然だ。それくらい京都大賞典というのは格式が高かった。その証拠にグレード制導入以降2016年までの32年間で、GⅠ馬の参戦が無かったのはわずかに2回。しかもその2回にしても優勝馬はマーベラスクラウンとリンカーンだから京都大賞典の格式を保つことはできている。

ところが、最近になって京都大賞典にGⅠホースが参戦しないケースが目立つようになってきた。2017年と19年がそう。そして今年も、14頭と頭数は揃いながらそこにGⅠホースの名前は見つけられない。しかも毎日王冠に4頭ものGⅠ馬が揃ったことで、京都大賞典の寂寥感がいっそう増した。GⅠ未出走の6歳馬が1番人気を背負うことも、メンバーの凋落ぶりを示している。あくまで今年に限ったものと信じたい。

とはいえ馬券となればレースレベルもクソもない。昔の京都大賞典を懐かしむなら、オルフェーブル産駒とゴールドシップの産駒でどうだ。メジロマックイーンは京都大賞典を2勝しているが、2度目の勝利となった1994年は59キロを背負って2分22秒7のレコードで制覇。次走でJCを勝つことになるレガシーワールドに3馬身半だからすごい。その血がオルフェーヴルやゴールドシップを通してここで爆発するのではないか。アイアンバローズ(オルフェーヴル)、ディアマンミノル(オルフェーヴル)、ウインマイティー(ゴールドシップ)、ついでにステイゴールド産駒のアフリカンゴールドとマイネルファンロンも加えた5頭BOXで完璧だ。

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しかし勝ったのはエイシンフラッシュ産駒のヴェラアズール。レースの上り33.9の流れを4角10番手から差し切ったのだから凄い。いや「差し切った」というより「突き抜けた」と書いた方がよさそうだ。抜け出すときの脚色が一頭だけ違っていた。これが前走でようやく条件戦を勝ち上がった馬の脚だろうか。前走が条件戦の馬が京都大賞典を勝ったという例を私は知らない。おかげで天皇賞(秋)の優先出走権は得たが、ローテや距離を考えればジャパンカップの方が向いていそうだ。ただ、そちらに出走できるかどうかは微妙。優先出走権の在り方についても議論が欲しい。

ちなみに私が買った5頭の着順は上から③⑥⑩⑫⑭。全然ダメだった。芝2400mならステイゴールドの血が合いそうなものだが、意外にも京都大賞典でステイゴールドあるいはステイゴールド系種牡馬の産駒が勝った例はない。2013年には単勝1.2倍のゴールドシップが5着に敗れて3連単360万の大波乱決着が起きている。メジロマックイーンの相性の良さよりも、2001年に1位入線しながら「失格」の憂き目を見たステイゴールドの呪いの方が勝っているのかもしれない。

 

 

***** 2022/10/10 *****

 

 

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2022年10月 9日 (日)

激戦オパールS

オパールSの歴史は意外に古い。重賞でもないのに40年近い歴史を誇る。古くはニホンピロウイナーやマックスビューティが、さらに近年ではビッグアーサーもその優勝馬に名を連ねてきた。我が国におけるサラブレッド最高齢勝利記録(16歳5か月)を持つオースミレパードが、JRAで最後に走ったレースでもある。この年の暮れの東京大賞典を勝つことになるトーヨーシアトルらを相手に完勝だった。

昨年の2着馬にしてもナランフレグだから捨てたものではない。そのナランフレグに勝ったサヴォワールエメが今年も出走してきた。前走キーンライドCを挫石で取り消した影響はなさそう。長いオパールSの歴史の中で連覇はまだ記録されていない。

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昼過ぎから降り始めた雨がオパールSの本馬場入場のあたりから一段と強さを増した。先日の凱旋門賞を彷彿とさせるような激しい雨。馬場も稍重に悪化。そもそもハンデ戦だから厳しい競馬になることは予想されたが、雨が拍車をかけた感がある。実際勝ったのは大外16番ノトウシンマカオ。4コーナーでごちゃつく内を横目に、何の不利もなく大外から豪快に差し切った。朝日杯でジオグリフとハナ差6着だった実績はダテではない。

Toshin

昨年の朝日杯では勝馬から6着馬までがコンマ5秒の範囲でしのぎを削ったが、この6頭はその後の活躍が目立つ。

1着 ドウデュース 日本ダービー優勝
2着 セリフォス 古馬相手の安田記念で4着
3着 ダノンスコーピオン NHKマイルCとアーリントンCを優勝
4着 アルナシーム 昨日の瀬戸内海特別を圧勝
5着 ジオグリフ 皐月賞優勝
6着 トウシンマカオ クロッカスSとオパールSを優勝

GⅠなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、6着と7着との差は3馬身あったことを思えば、ここが一定のラインだとするのはアリだろう。セリフォスとダノンスコーピオンは再来週の富士Sに、ジオグリフはその翌週の天皇賞(秋)に出走予定。菊花賞ではないところは時代の流れ。古馬相手にその実力を見せつければよい。

連覇の期待を寄せたサヴォワールエメは13着。道中は中団内ラチ沿いで脚をためて直線に向いたが、そこから前が壁になって終わってしまった。フルゲートの競馬は競馬は厳しい。雨が降ればなおのこと。凱旋門賞もオパールSも同じだ。

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オーナーのTwitterによれば、サヴォワールエメは今日のレースを最後に繁殖に上がるとのこと。すなわちラストラン。無事に現役を終えることだって簡単ではないことを思えば、負けたとはいえ見事な達成であろう。芝マイルの新馬戦を勝ち、3戦目に芝2000mで2勝目を挙げ、一時的にスランプに陥るも、最終的には芝1200mという舞台に自らの適性を見出して輝きを取り戻した彼女に、お疲れ様と言いたい。

 

 

***** 2022/10/9 *****

 

 

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2022年10月 8日 (土)

58キロに負けるな

秋華賞ヘッドマークの阪急電車に揺られて向かった先はもちろん阪神競馬場。年末まで続く3か月間の阪神ロングラン開催がついに始まった。あれほど楽しみにしていたのに、いざ始まってみれば地獄の3か月間のような気がしないでもない。馬と同じでイレ込みは禁物。初日は敢えて特別戦からの競馬場入である。

Hankyu

9レース瀬戸内特別(2勝クラス・芝1600m)を勝ったのは3歳馬・アルナシーム。昨年の朝日杯でドウデュースの4着の実績が光る。ジオクリフには先着を果たした。その後1800mばかり3回使われてきたが、「決め脚を磨きたい」という陣営の希望もあり、敢えてマイル戦に出走してきたという。終わってみればメンバー最速の33秒4の上りを繰り出して勝ったのだから、陣営の思惑通り。稍重から良に回復したばかりの馬場で1分32秒5は速い。シャフリヤールやアルアインの甥という良血がマイルで覚醒した可能性がある。

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10レース戎橋S(3勝クラス・芝1400m)を勝ったのは4歳牝馬のエルカスティージョ。こちらはこちらで前走のマイル戦では瞬発力勝負で敗れたこともあって、1400mに矛先を向けたのが功を奏した。たった200mでも距離の選択は大事だということがよく分かる。トールポピーやアヴェンチュラの姪だからやはり良血。ゴール入線後、ジョッキーが下馬して戻ってきたから場内が騒然としたが、口取りには馬も参加していたから大丈夫だと思いたい。

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そして11レース大阪スポーツ杯(OP・ダート1200m)は、この舞台を滅法得意にしているデュアリストの完勝だった。これで阪神ダート1200mに限ればオープン3勝を含む5戦4勝。2番人気に甘んじたのはただ一頭58キロを背負わされたせいか。しかし、速いペースを余力十分に追走すると、我慢できないとばかりに早め先頭。そのまま後続を突き放したから強い。なにせ唯一の58キロ。ダートの強豪は斤量をこなすという古い格言を思い出した。

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ここであることに気付く。この特別戦の優勝馬3頭ともノーザンファーム生産馬ではないか。別に珍しいことではないかもしれない。そもそも出走頭数からして違う。それでもここまで強い競馬を続けられると意識せずにはいられない。

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折しも今宵は十三夜。窓の外に浮かぶ月を眺めながら、毎日王冠のダンゴに向き合った。毎日王冠は最近6年でノーザンファームが5度の優勝を誇る得意レースであり、今年の毎日王冠に出走するGⅠ馬4頭はすべてノーザンファーム生産馬。しかし、サリオスもダノンザキッドもレイパパレも連敗の長いトンネルから抜け出せていない。こうなりゃポタジェで勝負か。とはいえ9年前のエイシンフラッシュを最後に58キロでの優勝はない。それでも今日のデュアリストのレースぶりを見て勝手に自信が湧いてきた。6年前の毎日王冠を勝った半姉ルージュバックに続いてほしい。

 

 

***** 2022/10/8 *****

 

 

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2022年10月 7日 (金)

名残の「そのきん」

今朝は全国的に冷え込んだ。東京は15度に届かなかったらしい。大阪も朝から冷たい雨が降って最高気温は18度。日曜が30度超えだったから、たった5日間で一気に夏から晩秋へと季節が進んだ感がある。毎週金曜日の園田はナイター開催。その「そのきんナイター」も来週が今シーズンの最終開催だという。そう聞いて余計寒くなった。競馬に季節の移ろいを感じるのは競馬ファンの性(さが)。しっかり上着を着こんで夜の園田に向かった。

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来週はワケあって行けないので、私にとってはこれが今年のラストナイターとなる。メインはA1・A2クラスによるニッカン菊園特別。その前にスタンド内をぶらぶらしていたら、聞き覚えのある馬名がアナウンスされた。私の所有馬の名前だ。他場発売の大井のモニタから流れるパドック中継。そこに私の馬が映っているではないか。

あら? 今日出走だった?

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ともあれこれは初めてのチャンスだ。何のチャンスか。馬券を買うチャンスなのである。これまでキャリア15戦。1回もナマ観戦する機会に恵まれたことがない、と先日書いたばかりだが、観戦したことがないと言うことは馬券も買ったことがないわけだ。たった百円でも馬券は馬券。自宅のパソコンで見ていたこれまでとは気持ちの入り方が違う。

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レース実況モニタの隣はオッズモニタである。そこに映し出される愛馬のオッズを見て目を疑った。単勝190倍? なら百円で十分。さあ、大番狂わせを起こしてしまえ!―――と心の奥で叫んだ1分16秒後にはスタンドの床に突っ伏してシクシク泣いていた。

気を取り直して園田に向き合おう。重賞5勝のナチュラリーに、園田転入後に無傷の8連勝を飾ったベストオブラックが人気の中心。しかしJRA3勝クラスからの転入緒戦馬が3頭もいるから簡単ではない。それでも私の本命は8歳馬ナチュラリー。私が大阪で暮らし始めたばかりの昨年2月、JRAが無観客開催を続けている中、観客を入れていた姫路競馬場を訪れたその日のメインを勝ったのがナチュラリーだった。ハナさえ切れればまず崩れない。それがナチュラリー。今日のメンバーでハナを譲るとは思えない。

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実際、ナチュラリーは労せずしてハナに立つと、そのままレースを3コーナーでは後続を引き離しにかかった。19勝目は目前。そう思った瞬間、2番手を進んでいたアタミが猛然と追い込んでくる。ナチュラリーも応戦するが休み明けのせいか若干反応が鈍い。しっかりアタマだけ差し切ったアタミが優勝。8歳馬同士のワンツーに3着が9歳馬で3連単53万だから大番狂わせはこちらだった。私にとっての2022年そのきんナイターはこれにて終了。さあ、明日からは待ちに待った秋の阪神開催だ。

 

 

***** 2022/10/7 *****

 

 

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2022年10月 6日 (木)

世は放送禁止用語だらけ

いい加減髪が伸びたので散髪に行きたいのだけど、そのタイミングがなかかな作れない。なぜか。私は競馬場に行くついでに髪を切る。東京にいるときはそれで不便はなかった。JRAが夏のローカル開催に移っても、南関東4場が開催してくれるからである。しかし、大阪ではそのルールが上手く機能しない。大阪で暮らすにあたり、阪神競馬場に行く途中の仁川駅のホームにあるクイックカットで切ることにしたのは良かったが、それでは夏のローカル開催の3か月間は散髪の機会を失ってしまうのである。

正直言って散髪にこだわりはない。敢えて挙げれば早く済む方がありがたい程度か。だからクイックカットのお世話になる。若い時分は男女を問わないユニセックスタイプのカットサロンに長らく通っていたのだが、その店が移転してしまってからは、もうどうでも良いやとばかりに男子専門の床屋に通ってきた。

聞くところによると「床屋」という言葉は放送禁止用語なんだそうで、正しくは「理髪店」と呼ばなければならないらしい。でもそれでは世間とのギャップがあまりに大きいから「床屋さん」という表現なら△くらいでまあよかろうということになっているとのこと。いやはや、言葉の世界はなんとも複雑ですね。ともあれ今では「床屋さん(△)」ですらなく、クイックカットに通う日々である。

実は子供の頃から床屋さんのマッサージが苦手だった。それがためわざわざカットサロンに足を運んでいたという裏事情もある。つまりは肩凝りという症状とは無縁の人生を送ってきたわけだ。ところが、あるときやむなく街中の床屋さんのドアを叩き、椅子に座って、然るべき行程を経ていざ肩を揉まれるとこれがことのほか気持ちいい。たしかアラフォーに差し掛かった頃である。これでようやく人並みに床屋さんに通うことができると喜んだのもつかの間、今度は一転して強烈な肩凝りに悩まされる日々が待ち構えていた。

あまりのひどさに一般のマッサージ店ではとても対処しきれず、やむなく近所のスポーツ整体に通うも一向に改善の兆しは見られない。あちこち当たってみた末に川崎駅近くの古ぼけたマンションの一室で開業する怪しげな整体院に辿り着き、左大腿骨と骨盤とのつなぎ目が弛んでそれがために背骨も曲がり、ひいては肩や首の強烈な“凝り”を引き起こしていることが判明した。

「何か重たい荷物をいつも右の肩に掛けたりしていませんか?」

中年の施術師はこう尋ねたが、その表情は確信に満ちていた。当時の私はいつもカメラ機材を右肩に担いでいた。右肩に加重がかかるとバランスを取ろうと身体は左に傾くから、そこまでの20年間、左脚は相応の負荷にさらされてきたのだろう。いまも左脚に比べ右脚は2センチほど長く、ジーンズの裾上げなどはいつも難儀する。

テレビで見るようなバキバキ音が鳴るような治療ではなく、何カ所かの骨をぐいーーーっと押し込むような感じで施術は終了。その効果はてきめんであった。ただ、それも数か月もするとすぐ元に戻ってしまう。右肩に荷物を担ぐ癖は今も抜けない。

ところで、先述の「床屋」以外にも、普通に使っている放送禁止用語というのは数多あるようで、「馬丁(ばてい)」、「馬喰(ばくろう)」、挙げ句は「あて馬」なんつー言葉までもNGということになっているらしい。やれやれ、世界は放送禁止用語に満ち溢れてますね。もちろん用途や言い回しによっては△になることもあるわけだけど、「あて馬」がダメだというのなら、いったいなんて言えば良いのか? まさか「偵察要員」などと言うわけにはいきませんよね。

 

 

***** 2022/10/6 *****

 

 

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2022年10月 5日 (水)

悲しき毎日王冠

毎日王冠は保田隆芳騎手と岡部幸雄騎手が5勝で歴代トップ。現役では福永祐一騎手が4勝を挙げており、今年はジャスティンカフェで参戦する。偉大な2人の先人に並べるか。

岡部騎手が毎日王冠5勝目をマークした2002年は中山競馬場での実施だった。勝ったのはマグナーテン。スタートから軽快なテンポで飛ばして、追いすがるエイシンプレストン以下を見事なまでに完封している。いかにも中山らしい見事な逃走劇であった。

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中山で行われた毎日王冠で逃げ切り決着と言えば、生前の野平祐二氏からこんなエピソードを聞いたことがある。1970年の毎日王冠も中山開催。出走馬は5頭と少ない。ただ、その中には、前年の凱旋門賞に挑戦したスピードシンボリの名前があった。むろん手綱を握るのは野平祐二騎手である。

発走前から野平騎手はスピードシンボリに異変を感じていたという。それも馬体の故障などではない。パドックでも、かえし馬でも、そして輪乗りの最中にも、どうも牝馬のハクセツに気を取られているような仕草を見せるのである。「こりゃあ、ハクセツに惚れたんじゃないか」。すぐに野平騎手は理解したそうだ。

8歳(当時表記)のスピードシンボリと6歳のハクセツ。両馬が顔を合せたのは、これが初めてだった。言ってみればスピードシンボリの一目惚れである。5頭立てという小頭数も手伝って、ハクセツの芦毛がことのほか彼の目を惹いたのであろうか。

レースは2番人気のクリシバが逃げ、スピードシンボリとハクセツは2番手と3番手という位置取り。それはまるでスピードシンボリがハクセツをエスコートするようだった。結果、レースはクリシバの逃げ切り勝ち。スピードシンボリの敗因がハクセツを気にしたせいかどうかは分からない。8歳を迎えていたスピードシンボリはすでにピークを過ぎたとみられ、決して評価は高くなかった。野平騎手も「逃げ馬にあの脚で上がられてはどうしようもありません」と、勝ったクリシバを讃えている。

スピードシンボリとハクセツは、その後再会の機会を得なかった。同じレースに走ることはおろか、繁殖生活に入ってもなおである。サラブレッドの恋は報われない。「哀しいものですね」と野平氏は話を結んだ。今週日曜はその毎日王冠。紅一点のレイパパレにも注目だ。

 

 

***** 2022/10/6 *****

 

 

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2022年10月 4日 (火)

馬場入場のルール

日本中央競馬会競馬施行規程の「第8章 発走、到達順位、着順等」には、このように明記されている。

第106条
騎手は、馬場に出た馬を、審判台の前を常歩で通過させなければならない。

とはいえ、キャリアの浅い馬などはファンの歓声に驚いて物見をしたり、引っ掛かったりすることがある。騎手もそれを分かっているから、馬場に入るやゴール板とは逆方向に馬を誘導するケースも多い。特に中山の1200mや1600mなどでは、大半の馬がさっさとスタンドから逃げて行ってしまう。

だが、横山典弘騎手は違う。敢えてファンに近い外ラチ沿いをゆっくりと歩く。馬の今後を考え、ファンの歓声やカメラの砲列に慣れさせようとしているのである。物見が激しい馬や引っ掛かり癖のある馬ならなおのこと。こうして彼は騎乗馬一頭一頭に競馬を教えている。

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その息子の和生騎手がフランスギャロから騎乗停止処分を受けた。

凱旋門賞においても、本馬場入場の際には常歩のままゴール板を通過しなければならない。しかも先導馬に続いて一列で歩くことが求められる。これは凱旋門賞では比較的有名なルール。騎手が知らないはずはない。にもかかわらずタイトルホルダーは並んで歩こうとせず、一目散にスタート地点にキャンターで駆けていってしまった。これにはグリーンチャンネルの合田直弘氏も「これは……罰金かもしれませんね」と気まずそうに解説していたが、フランスギャロの裁定はそれより重い5日間の騎乗停止だった。

JRAの競馬に慣れ切った我々には「その程度の違反で」と思うかもしれないが、欧州はこの手のルール違反に敏感だ。競馬における格式や様式美をことさら重視する彼らにしてみれば、横山和生騎手とタイトルホルダーの行動は、顔をしかめたくなるような光景に映ったのだろう。勝負事に様式美を組み合わせるのは相撲でも同じ。日本人にだって理解できないことではない。郷に入っては郷に従う必要がある。

日本の競馬でなぜ本馬場入場の常歩ルールが守られないのか。そんな質問をJRAの元騎手にぶつけてみたことがある。帰ってきた答えは意外なものだった。

「そもそもそういう調教をしていないから」

そのあたりから手を付けないと、凱旋門賞優勝なんて夢のまた夢なのではあるまいか。横山和生尾騎手の騎乗停止処分は、フランスギャロというよりフランス競馬界からの痛烈なメッセージのような気がしてならないのである。

 

 

***** 2022/10/4 *****

 

 

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2022年10月 3日 (月)

完敗の夜

1969年のスピードシンボリに始まった凱旋門賞挑戦の歴史。史上初めて4頭もの日本馬を送り込んだ今回は、4頭それぞれが違ったタイプということもあり、どんな展開になっても誰か1頭は勝ち負けに持ち込めるというこれまでとは一味違った期待を抱かせてくれたが、悲願は達成されぬまま持ち越された。

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特にタイトルホルダーに関して言えば、菊花賞や天皇賞を独走したスタミナと宝塚記念で見せたスピードを兼ね備えた一頭ということで、「ひょっとしたらあっさり逃げ切ってしまうのではないか?」という声もあっただけに、脱力感も大きい。スタッフの準備も、大舞台で手綱を負かされた横山和生騎手の騎乗も完璧だった。「それでも勝てないのが競馬さ」と誰かが言ったが、そんなことは小なりとも競馬に関わる人間なら百も承知している。それでもタイトルホルダーならばならば……と人々は期待を寄せた。私もその一人だ。

4頭の調教師も、そして騎手も「完敗だった」と声を揃えた。深夜のTV画面を覗きこんでいた私としても深く頷く。本当に完敗だった。「おっ!」という瞬間が一度もない。フォルスストレートを過ぎたあたりで、必死に追われるタイトルホルダーに持ったまま並びかけたアルピニスタを見て、思わず「バケモンか……」と独り呟いてしまった。これが5歳牝馬の為せる業か。父は日本で結果を出しているフランケル。母の父はJCに2年連続して出走し4着、3着と好走したエルナンド。アルピニスタにはJC出走のプランもあると聞く。

それにしても、と思う。エルコンドルパサーの2着を観てからしばらくの間は、私自身が凱旋門賞に対して「挑戦」という言葉を使うことに抵抗があった。経験を積めばすぐに勝てるはずだと思ったからである。以後挑戦すること30頭。ディープインパクトでもオルフェーブルでもダメだったと思えば、残念ながらやはり「挑戦」と呼ぶしかあるまい。

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タイトルホルダーの栗田調教師は、「相当別のタイプの馬を連れてこないと」とコメントされていた。おそらく本音であろうとは思う。オルフェーヴルが「相当別のタイプ」だったことは間違いない。だがしかし、今回の結果を「日本競馬の敗北」という悲観的なニュアンスで捉えるのはやめよう。タイトルホルダーやドウデュースが日本競馬のすべてを背負って出走したわけではないし、凱旋門賞が今年で終わるわけでもない。競馬はその日そのレースでいちばん速い馬を決めるだけのゲーム。それが挑戦なら続ければよいだけのことだ。

 

 

***** 2022/10/3 *****

 

 

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2022年10月 2日 (日)

明日香を歩く

先月のこと、東京の知人が明日香を訪問していたと聞かされた。私はセントウルSの中京にいたので会うことはできなかったが、それからというもの私も明日香を歩きたいという衝動に駆られるようになっていたのである。阪神開催開幕前の日曜日で快晴。行くなら今日しかあるまい。近鉄電車に揺られること40分あまり。早朝の橿原神宮前駅に降り立った。

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日曜日ということで混雑を心配したが、橿原神宮前駅から飛鳥寺を目指して歩き始めたのは私ひとり。バス停にも人の姿はない。巷間言われるほど明日香歩きは人気ではないのかもしれないが、もちろん文句はない。石川池と和田池を見ながら進み、推古天皇豊浦宮跡を見物して、飛鳥川のほとりを歩き、蘇我入鹿邸があったとされる甘樫丘を眺めながら、その首塚に手を合わせて飛鳥寺にたどり着いた。

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蘇我馬子の発願で日本最初の本格的な仏教寺院として596年に創建。なにせ「馬子」さんにかかわる寺院である。参拝せぬわけにはいくまい。有名な明日香大仏は609年に大仏が造立された。以来この地を一度も動いていない。目の前で起きた大化の改新をも見守ってきたことになる。きっと聖徳太子もお参りしたことだろう。

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その聖徳太子の生誕の地に建つという橘寺へ。馬小屋で誕生したという伝説を持ち「厩戸皇子」とも呼ばれた太子は馬とも縁が深い。境内を歩くとすぐに太子の愛馬「甲斐の黒駒」の銅像が目に飛び込んでくる。太子は政務のため斑鳩宮から叔母の推古天皇がいた飛鳥の小墾田宮までこの馬で通ったと伝わる。

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それにしても、この明日香村ほど歩いてて楽しい村を私はほかに知らない。周囲をなだらかな山々に囲まれ、のどかな田園風景が広がり、稲穂を揺らす風はどこまでも心地良い。そこかしこに彼岸花が咲き、目にも鮮やか。飛鳥駅までぐるっと12キロ程度の道のりだったが、そこまでの距離を感じなかった。紅葉や桜の季節にまた来よう。さあ、帰って凱旋門賞だ。

 

 

***** 2022/10/2 *****

 

 

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2022年10月 1日 (土)

隔年来日のそのワケは

日本でもお馴染みのクリストフ・スミヨン騎手が、昨日のサンクルー競馬場1レースに騎乗した際、他馬の騎手に肘打ちをして落馬させたとして2か月間の騎乗停止処分を受けた。明日の凱旋門賞は制裁適用前なので予定していたヴァデニへの騎乗は可能。しかし短期免許で騎乗予定だった天皇賞(秋)のジオグリフには騎乗できない。

レース中に相手を肘打ちで落馬させるとはルール違反も甚だしいが、このニュースを聞いて「またか」と思う向きも少なくはなかろう。それだけ彼に関してはこの手の話が列挙に暇がない。

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初めての来日は2001年の初頭だった。短期免許の草分け的存在でもあるオリヴィエ・ペリエ騎手の勧めで来日。前々年の見習い騎手チャンピオンという触れ込みもあり私も注目したのだが、とても突っ込めないような狭いスペースに馬体をぶつけながら割り込んだり、勢いのついた馬を御し切れず外ラチにぶっ飛んだり、上手さよりもとにかくラフプレーばかりが目立った印象がある。免許期間最終盤には阪急杯でラティールに騎乗。ゴール前で派手に斜行し、ジョープロテクター、エリモセントラルの走行を妨害して今日着処分となった。この時点で「彼は危ない」という印象を抱いた関係者は少なくあるまい。

その後、2003、05年、06年と仏リーディングを獲得するまで昇りつめた彼は、2010年に短期免許で再び来日。ブエナビスタの手綱を任されていきなり天皇賞(秋)を勝つと、続くジャパンカップでも1位入線。しかし直線の斜行で2着降着とされた。すると彼は、降着処分は明らかなミスジャッジだとしてJRAの採決に食ってかかり、日本の競馬を卑下する発言をしたのである。これはプロとしていただけない。以来、彼は目を付けられたかのように制裁を受け続ける。

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ブエナビスタで降着となった2012年、短期免許期間だけでスミヨンは39点の制裁点数を積み重ねた。30点を超えると翌年の免許申請資格は剥奪される。2年のブランクを経て2012年の秋に再び来日を果たすと、天皇賞(秋)当日の新馬戦でソロルに騎乗。絶好の手ごたえのまま直線に向いたが、前で馬体を併せて競り合っている2頭の間に猛然と突っ込んだ。煽りを食らったオベレックは内ラチに激突。派手なレースぶりで「スミヨン健在」を大いにアピールするが、当然ながら降着処分を受けている。その後も彼は順調に制裁を積み重ねると、再び翌年の免許申請資格を失った。

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すると翌年には米アーリントンミリオンに遠征。騎乗馬ザアパチーは1位入線を果たすが、最終コーナー後の斜行が制裁対象となり2着降着の憂き目を見る。米国のジャッジも当然のごとく彼の手綱裁きに目を光らせていたに違いない。

レース中に肘打ちや殴打を繰り出す騎手は、かつては日本の競馬でもたまに見かけたが、最近はほとんど見かけない。「ほとんど」と書くのは、そういうことをやっていた騎手がまだ現役でいるから。目に見えない程度にやっている可能性だってある。ただ昨日のスミヨン騎手の一件は、相手騎手が落馬をし、命の危険にさらされたたという点で到底看過できるものではない。

 

 

***** 2022/10/1 *****

 

 

 

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