【追悼抄】エリザベス2世女王を偲ぶ
6日、英国のエリザベス女王がお亡くなりになった。
全世界の競馬関係者そして競馬ファンにとって、女王陛下が特別な存在だったことは間違いない。英国と言えば競馬の宗家。その国家元首が筋金入りの競馬好きだったことは、競馬に関わるすべての人たちの大きな希望であり誇りである。毎年欠かさずエプソム競馬場でダービーを観戦されていた陛下が、、体調がすぐれないことを理由に今年の観戦をキャンセルされた。それを聞いて不安を覚えた向きも多かったと思う。もちろん私もその一人。嫌な予感ほど当たる。
9日、JRAの競馬場では半旗が掲げられた。秋の京都(今年は阪神)で行われるエリザベス女王杯は今年47回目を迎え、「エリザベス女王即位70年記念」の副題を付して実施する予定だったが、その副題の付与も取りやめることになったらしい。
風にはためく日の丸を眺めていると、四半世紀以上前のアスコットの光景が脳裏によみがえってきた。
エリザベス女王の名を冠したレースは世界各地で実施されているように思いがちだが、米国、インド、香港、オーストラリアなど旧大英帝国を宗主国とする「英連邦」以外で行われている我が国のエリザベス女王杯は稀有な存在。女王陛下と日本との結びつきの強さを裏打ちする存在でもある。本家英国では「クイーンエリザベスⅡステークス」にその名を冠す。秋のアスコットで行われるマイルGⅠは過去にドバイミレニアムやフランケルも勝った欧州マイル路線の総決算的レース。ちなみに昨年の優勝馬はバーイードだ。
1996年9月28日のアスコット競馬場。クイーンエリザベスⅡSはこの日の第3レースに組まれている。この日たまたま現地を訪れて、たまたまパドック内に入れるリボンを手にしていた私は出走馬がパドックを周回する様子を眺めていた、アシュカラーニ、ボスラシャム、そしてマークオブエスティーム。さすが欧州のトップマイラー。一頭一頭が醸し出すオーラが凄い。見ているこちらの目がやられてしまいそうだ。
馬を見るのに疲れて、ちょっとだけ視線を逸らしたその先に、そのお方は佇んでいらした。エリザベス女王陛下、その人である。水色のドレス。右手にはレーシングプログラム。大勢の競馬関係者が集まるパドックで、集団からひとり離れた位置に立って、周回する馬たちを熱心にご覧になっている。私との距離は10mほどであろうか。馬道を横切ればすぐの距離だ。だが、むろんそんな勇気はない。
レースはこの年の英1000ギニー馬・ボスラシャムを、同じくこの年の英2000ギニー馬・マクオブエスティームが差し切って優勝。表彰台で女王陛下から優勝カップを手渡されたランフランコ・デットーリは喜びを爆発させたが、自国のクラシックホース2頭によるワンツーフィニッシュに女王陛下も喜んでいらしたようにお見受けした。
この表彰台がまたスタンドから近くて驚く。日本のように柵で隔てることもない。デットーリはともかく女王陛下がお立ちになる場所である。日本ではまずありえない。女王陛下のこの距離感は、競馬を離れたとことでもさほど変わらないのであろう。国民と競馬を愛し、そして国民と競馬に愛された歴史上類のない国家元首の逝去を悼む。
***** 2022/9/13 *****
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