山田騎手の悲劇
帰省を終えて新幹線に乗って大阪に戻ってきた。昨日とおとといの新幹線を止めた台風15号の影響を受けずに済んだことには感謝せねばなるまい。なにせ中山で騎乗予定だったミルコ・デムーロ騎手は土曜の全4鞍をキャンセル。逆に美浦から中京に向かった山田敬士騎手は、夜を徹してタクシーを飛ばしたものの、ついに中京1レースに間に合わなかった。しかも騎乗予定のフェルヴェンテが川田将雅騎手に乗り替わって勝ってしまうのだから切ない。これが阪神ならば空路という選択肢もあっただろうが、中京ではその判断も難しかろう。そう考えると京都改修に伴う開催変更も「山田騎手の悲劇」の遠因だったりする。
東京から大阪に行くにあたり新幹線を使うか、あるいは飛行機を使うか―――。競馬関係者のみならず、一般的にも広く興味のある話題だと思う。
私の自宅は川崎市にあるから新横浜駅にも羽田空港にも比較的アクセスが良いし、近ごろは航空各社の企業努力のおかげか知らんが羽田~伊丹間の航空運賃は新幹線のそれとほとんど差がなくなった。大阪に住む身となってからは、帰省のたびに「どっちで行こうかなぁ…」と、うだうだ悩んでいる。
川崎に住んでいた当時の阪神競馬場への遠征は、往路は新幹線で、帰路は飛行機というパターンが多った。次いで「行きも帰りも飛行機」が多かったように思う。JR東海の関係者には申し訳ないが「新幹線で戻った」という記憶は、少なくともない。
これは私の“せっかちさ”が、多分に影響していると推測する。つまり、無意識のうちに、主たる移動手段に乗り込む場所が近い方を選択しているのではあるまいか? たしかに自宅からは、羽田空港より新横浜駅の方がわずかながらアクセスが良いし、阪神競馬場からだと、新大阪駅よりも伊丹空港の方が若干早い。行きではさほど気にならない新大阪~梅田間のわずかな移動距離が、帰りになるととてつもなく煩わしく感じてしまうのであろう。
当然ながら京都競馬場への行き来は、毎度新幹線のお世話になる。
もう30年以上も前の話になるが、マイルチャンピオンシップを見に行った帰りの新幹線で、自分の座った席と通路を挟んだ隣の席に、岡部幸雄騎手が座っていてひっくり返った。そりゃあ、誰だって驚きますよね。自分の手を思い切り伸ばせば、そこに“名手”の「手」に触れられるほどの距離なんだから。
新幹線がするすると京都を出発すると、岡部さんはプシュッ!と小気味良い音を立てて缶ビールを開け、隣に座る2人の同行者と競馬談義に花を咲かせていた。会話の内容までは分からないが「シャダイソフィアはね……」というフレーズが出てきたことは覚えている。しかし、それにも増して極度の緊張状態を強いられた私は、東京までの3時間弱を固まったまま過ごさざるを得なかった。
何せ隣に座るのは、たった今行われたばかりのマイルチャンピオンシップで、シンコウラブリイの背中にいた人物なのである。私は、ついさっきその姿をスタンドから遠目に眺めてきたばかりなのだ。
しかし、当の岡部さんは2本目の缶ビールを開け、ますますゴキゲンになってゆく。何度か若い女性が―――競馬ファンと考えるのが自然だろう―――やってきて、岡部氏に話し掛けていった。岡部さんも競馬場では絶対に見ることのできないような笑顔でそれに応えている。あれから四半世紀あまりを経た今なら、私も緊張などせずに騎手に話しかけられるだろうか?
いやあ、無理だなぁ。ともあれ、あんなハプニングに遭遇できるならば新幹線も捨てたものではない。今は新大阪に近いところに住んでいるので、行きも帰りも新幹線のお世話になってます。
***** 2022/9/25 *****
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