牛丼8000杯の果てに
おとといのこと、彦根城下の「千成亭」という近江牛専門の精肉店に併設された「牛丼専科」というお店で牛丼を注文してみた。並盛一杯のお値段、なんと1100円。たかが牛丼に、と思われるかもしれない。私とてそう思う。「すき家」なら大盛(550円)を2杯食べることができる。それでも興味の方が勝った。近江牛は高いのである。
一口食べてみた。旨い。当たり前だ。問題は1100円の値段に見合うかどうか。なるほどたしかに肉の旨味が強い。敢えて言えば「脂の味」が濃い気がする。とはいえ肉自体は脂身では決してない。近江牛ならではの霜降り具合が為せる味であろう。それを牛丼に求めるかどうかは人それぞれ。1100円だと思うと「吉野家」や「すき家」のように掻き込めないところが小市民の悩みである。
昨日は中京競馬場内の「吉野家」で大盛弁当を食べた。そして、今日の朝食は近所の「すき家」で、そして夜も近所の「松屋」で済ませた。JRAに行けば「吉野家」で、大井に入りては「松屋」(閉店したらしいけど)で、そして船橋なら「すき家」でという具合に、たいていの競馬場には牛丼店がセットになっている。日々競馬場に出入りしていれば、3度の食事が牛丼に傾くのもやむを得まい。レースとレースの合間にササッと食べられる上、安く、そして美味いとなれば、他のメニューを選ぶ理由などなくなる。
ここ数日のように3日で4食というのは極端な例だろうが、とはいえ2日に1食のペースは守っていると思う。牛丼との付き合いは学生時分からだから、年間180食を45年間続けているとして、ざっと8000杯の牛丼を食べてきた計算だ。私のこの身体は、ほとんど牛丼で出来ていると言っても過言ではない。いや、過言か?(笑)
ともあれ、こうなるともはや「お袋の味」とか「女房の手料理」なども凌駕した領域ではあるまいか。私はもっと牛丼に感謝し、もっと牛丼を大事にすべきなのかもしれない。
牛丼1杯の原価は売価の約3割である。さらに6割が人件費や店舗の賃貸料などの諸経費。企業側の儲けはたった1割でしかない。400円の牛丼を1杯売って得られる利益は40円。それを350円で出せば当然足が出る。多くの牛丼フリークが350円時代を懐かしむ気持ちは分からないでもないが、企業努力にも限度というものがあろう。綱渡りはちょっとしたことでバランスを崩して落下しかねない。
「吉野家」は1980年に一度倒産したことがある。味が落ちて客足が遠のいたことが最大の原因だが、そもそも味が落ちたのは経費削減のために材料費を大幅に削ったからだ。当時、居酒屋チェーンの「養老乃瀧」が牛丼販売を展開し始めていた。その価格、なんと1杯200円。当時としても破格と言える低価格での参入は、巨大な経費削減圧力となって「吉野家」を襲い、結果として味の低下をもたらしてしまったというわけだ。
良い味を守ることは、実は客の役目のひとつでもある。たかが牛丼と笑われるかもしれないが、生涯8000杯の味が消えては生きていけない。あらゆるものが値上げされるこの時代に、牛丼業界は値上げするとなぜか叩かれるだけに、不安が尽きないのである。
***** 2022/9/12 *****
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コメント
tsuyoshiさま
コメントありがとうございます。
不思議なもので「肉うどん」はあまり食べないんですよねぇ。それなら牛丼とかけうどんを1杯ずつ食べる方を選ぶので太る一方です。
投稿: 店主 | 2022年9月15日 (木) 19時29分
まさか年間うどんより牛丼の方を食べていたとは!(笑)
私は牛丼屋行くなら立ち食いそば屋行く派です。
この身体は、ほとんどかき揚げそばで出来ていると言っても過言ではありません(笑)
投稿: tsuyoshi | 2022年9月15日 (木) 15時36分