白馬伝説
昨日の話。桑名駅から国道258号線を北へ7キロほど走ると、やがて左手に白い大きな鳥居が見えてくる。クルマは鳥居をくぐってさらにその先へ。1~2分ほどで多度大社に到着した。
古来より神は馬に乗って降臨すると言われるほど神と馬との関係は深い。とくにここ多度山には幸運をもたらす白馬が住んでいるとされ、その白馬が願いごとを神様に取り次ぎ、人に幸福をもたらすという伝説が受け継がれてきた。
急峻な階段を登ると本物の白馬が目に飛び込んでくる。境内の入り口広場で参拝客を見守っているのは神馬(しんめ)の「錦山号」。目の肥えた競馬ファンならすぐに芦毛のサラブレッドだと気付くに違いない。現役時代の競走名はエイシンオンワード。ヘクタープロテクター産駒の28歳馬である。そこまで高齢に見えないのは、手入れが行き届いている証。氏子の方が毎日欠かさずお世話しているそうだ。とくに参拝に来た子供たちに大人気。あるいは若さの秘訣は子供と接する機会が多いことかもしれない。
神馬舎を後にして本殿へと向かう。蒸し暑い陽気だったが、境内の奥は不思議と涼しい。静寂の中、社殿の裏を流れ落ちる滝の音がだんだん大きくなってきた。本殿の前に足を踏み入れた途端、歴史や伝統という言葉だけでは語り尽くせない、神秘的な空気が広がっていることに気付く。ザーザーという滝の音。そして遠くから聞こえる馬のいななき。このような場所なら白馬伝説が誕生しても不思議ではない気がする。
芦毛馬や白毛馬が競馬ファンのみならず、競馬を知らぬ人々さえをも魅了してしまうことはよく知られた事実。年齢と共に灰色から純白へと変貌する芦毛馬や、その毛色が誕生するメカニズムすら判明していない白毛馬に、我々人間が得も言われぬ神秘性を感じてしまうのは、ある意味当然の帰結であろう。
帰り路にもう一度神馬舎を訪れた。100円のお賽銭を投じるとニンジンをあげることができる。その食いつきぶりはとても28歳とは思えぬほど。しかるのちに手を合わせて「今日の馬券が当たりますように」と唱えた。昨日はこのあと名古屋競馬場に向かったのである。ただ、「もう1日早くここを訪れていれば、函館記念で白毛のハヤヤッコも買えたのにな」などと考えたのは余計だった。そんな邪な人間の願いを、錦山号が神様に取り次いでくれるはずもない。我々競馬ファンは、来月21日に札幌で繰り広げられる新たな白毛伝説に注目しよう。
***** 2022/7/19 *****
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