明太子スパゲティ―を作ろう
今夜は自宅で明太子スパゲティーを作って食べた。「作って」と言っても、パスタを茹でて、できあいのソースで和えただけ。今や市販のパスタソースのレベルはお店にも引けをとらない。刻み海苔だって付いている。最近のは温める必要もない。ボロネーゼ、カルボナーラ、ナストマト、ペペロンチーノ、カニクリームにジェノベーゼと種類も豊富。緊急事態宣言が出ていた頃は文字通り毎晩食べた。折しも新型コロナは第7波の山にさしかかったばかり。再びタラコスパのお世話になる日々が訪れるのだろうか。
タラコや明太子を麺と和えて食べるという発想は我が国独自のものであろうが、そのはじまりが、うどんではなくスパゲティーであったことは正直意外だ。うどん好きとしては若干の出負け感を禁じ得ない。明太子クリームうどんの美味さを思えばなおさらだ。
スパゲティーは昭和30年代に日本の食卓に広まったが、その食べ方はナポリタンかミートソースの二者択一という時代が長く続いた。昭和50年頃になって、その両巨頭に割って入ってきたのが、当時「たらこ和え」と呼ばれたタラコスパゲティー。カルボナーラでもペペロンチーノでもなく、和風の創作メニューが先に流行るあたりは、いかにも日本らしい。
スパゲティー専門店「壁の穴」で常連客の持ち込んだキャビアをパスタに混ぜたら、ことのほか美味しかった。とはいえキャビアをメニューに組み込むにはコストがかかりすぎる。もっと手軽にできるものはないか―――と店のスタッフが追究した結果、タラコに辿り着いたという。
ただ、当時タラコと言えば、焼いて食べるものと相場が決まっていた。それを茹でたスパゲティーに生のまま和えるのだから、最初は客に気持ち悪がられたこともあったに違いない。それでも、ここまで市民権を得たのは、その美味さに普遍性が認められた証拠であろう。ほどよい塩味をまとったタラコの旨味とバターのコク。そのお客のオーダーがなければ、この奇跡のコラボレーションに出会うことはなかったかもしれない。
そして明太子。タラコを唐辛子などに漬け込んだこの商品は、福岡の名物として爆発的にヒットしたが、この味を生み出した川原俊夫氏は製法特許を取らなかったことで知られる。「明太子は総菜。作り方を隠しても仕方ない」と考え、希望者には惜しみなく製法を教えた。そのおかげで、今や日本を代表するご飯の伴である。明太子スパゲティーがメジャーになったのも、キャビアと違って明太子が手軽に手に入るおかげ。明太子スパゲティーのファンを自負するひとりとして、「壁の穴」の常連客氏とそのスタッフ、そして明太子を世に広めた川原俊夫氏には頭が上がらない。
***** 2022/7/14 *****
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