夏の牝馬はいずこ
夏の牝馬はいったいどこに行ってしまったのだろう―――?
尋常ならざる灼熱の太陽に焼かれながら、ふとそう思った。
2006年に始まったサマースプリントシリーズは、11年までの6年間ですべて牝馬がチャンピオンに輝いてきた。その後2年は牡馬にその座を譲ったが、14年からは牝馬が3連覇。11年間で牝馬の9勝2敗の成績は、「夏は牝馬」の格言を見事なまでに具現してきたのである。
風向きが変わったのは17年。この年のアイビスサマーダッシュを制したラインミーティア(牡7)がサマースプリントチャンピオンに輝くと、昨年までの5年間はすべて牡馬がタイトルを制してしまった。
なぜ牝馬が夏に強いとされるのか。よく言われるのが「子どもを産むから」というもの。馬に限らず男より女の方が環境の変化に対する順応力は高い。ほかにも「馬体の大きい方が、熱を放出しにくいから」という説がある。一般的に牝馬の方が牡馬より小さい。太っている方が夏バテしやすいから、体の小さな牝馬が有利になるというもの。私自身夏バテが激しいから、これにはなんとなく説得力を感じる。
しかし、かつては氷柱に扇風機が普通だった厩舎の暑さ対策も、最近はすっかり様変わりした。今はで冷房完備の厩舎は珍しくない。遠征先の馬房にも、こんなポータブルクーラーを持ち込むことができるから、昔のように露骨な夏負け症状を呈している馬を見ることも少なくなった。
折しもJRAでは、福島、新潟、中山、中京、小倉の各競馬場の馬房に冷房を設置することが報じられたばかり。JRAは競走馬への負担を軽減するため暑熱対策に力を入れている。パドックへのミスト装置の設置のほか、パドック周回の短縮や、装鞍所への集合時間を遅らせるなどの対策を取ってきた。牡馬の成績が上がったのは、こうしたJRAの暑熱対策の賜物―――とする仮説は、しかしまだ不十分であろう。それなら、牝馬と牡馬が互角の成績であるはず。夏の牝馬の成績が落ちてきた理由の説明にはならない。
ひょっとしたら「冷え性」ではあるまいか。人間でも女性の方が圧倒的に冷房に弱い。我が家でもエアコンの設定温度で言い争いになることがしばしば。3人の女に言い負かされて我慢を強いられるのは、言うまでもなく家庭内でただ一人の男の私である。だが、「設定温度低すぎ!」と言えない牝馬は、冷房に体調を崩して得意の夏が逆に苦手になってしまっているのかもしれない。
もちろん調教師だって冷房の使い過ぎには注意している。屋外との温度差に警鐘を鳴らす声も少なくない。そう思えば私のように冷え性になるほど設定温度を下げることはあるまい。
***** 2022/7/1 *****
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