隻眼の馬たち
私事であるが、私の右眼の緑内障が判明したのがロンドン五輪の直前だったことを思い出した。この病気と付き合い始めてちょうど10年になる。今日は久しぶりに帰省して、地元の眼科での定期検査を受けた。
幸いにもクスリのおかげで眼圧は一定の値を維持しており視野狭窄の進行は止まっている。だがしかし、いつ進んでも不思議はない。なので主治医はクスリの追加を提案した。これまでは入浴前の一度だけだったのが、朝夕二回のルーチンになる。たかが目薬の点眼とはいえ、3分間目を閉じていなければならないのは意外と面倒くさい。それがこの先一生続くと思うとさすがに堪える。皆さんも緑内障にはくれぐれもご注意いただきたい。
ただちに生活に支障をきたすレベルではない。とはいえ、それでも医者から近い将来の「失明」の可能性を告げられれば、おとなしく従うしかない。発症時は慌ててブルーベリージャムを買い込み、浅草でヤツメウナギを食べたりしたが、目に見えるような効果はなかった。そもそも「目に見える効果」が見えないのは、目が悪くなっていればこそか。
失明について思いを巡らせながら競馬中継を見るうち、かつて隻眼の馬たちが活躍していたことを思い出すようになった。
JRAの規定では、馬名登録前に一眼を失明した馬は登録が認められないが、登録後に片目のみを失明した場合は、平地競走に限り出走できることになっている。古くはキョウエイレアが有名。片目を失いながらもカツラギエースやスズカコバンを相手に1984年の高松宮杯を逃げ切り、「片目の逃亡者」とか「独眼竜」などと呼ばれた。
最近の例ではウインジェネラーレが知られている。馬房で暴れて右目の瞼をひっかけてしまい、ブドウ膜炎を発症して失明。だが、その2年後にはオールカマーでバランスオブゲームから0秒1差の6着と健闘した。手綱をとった勝浦騎手が「乗っていて違和感はなかった。失明していると言われなければ分からない」と話していたことを思い出す。
そのオールカマーには、隻眼の馬が2頭出走していたことで話題になった。そのもう一頭はルーベンスメモリー。3歳春に山元トレセンのウオーキングマシーンの中で右目に外傷を負い、これが原因で失明した。だがそれから5勝を挙げたのだから凄い。しかもそのうち2勝がコーナーが見えにくいはずの右回りだと聞けば頭が下がる。
コーナーを回りつつ全力で走らなければならない馬にとって、失明のハンデは小さくない。馬群の中で右側あるいは左側にいるであろう相手がまったく見えないその恐怖は計り知れぬものがある。それでも隻眼の馬たちが勝利を挙げることができたのは、騎手の巧みな手綱さばきや関係者の尽力があってこそだろう。
グルメサンシャインも放牧中の事故で左目を失明した一頭。だがそのハンデをはねのけて、左回りの東京で2勝を挙げている。眼球を摘出したあとは感染症を発症しないよう、このような「透明半頭面」と呼ばれる馬具で左目を覆い隠してレースに臨んでいた。こういう馬具を付けた馬を見かけたら、みなさんも応援してあげてください。
***** 2022/7/30 *****
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