南関東牝馬3冠の難しさ
第58回関東オークスは、雨の川崎競馬場2100mに地方・中央合わせて13頭の3歳牝馬が集結して行われ、4番人気のグランブリッジが優勝。桜花賞と東京プリンセス賞の優勝馬で、チャームアスリープ以来2頭目となる南関東牝馬クラシック3冠に挑んだスピーディキックは3着に敗れた。
チャームアスリープを知らぬ人のために16年前の南関東牝馬クラシックを振り返ってみる。
まずは浦和の1600mで行われる桜花賞。ある程度前につけなければ厳しい小回りコースにもかかわらず、内田博幸騎手が選択したポジションは11頭中8番手。大丈夫か? 背後からたしかにそんな声を聞いた。
それでも向こう正面から一気に進出すると、3コーナー過ぎには早くも先頭に並びかける。こりゃあ、さすがに無理じゃないかと思いながら、そのまま粘るスターオブジェンヌを競り落とし、1馬身半差を付けてゴールを果たした。馬の力もさることながら、内田博幸騎手の手綱さばきが光った一戦でもある。東京プリンセス賞もさることながら、さらに距離が伸びる関東オークスへの展望が広がった。
だが、その内田博幸騎手は東京プリンセス賞でチャープアスリープに騎乗できない。当時はダーレーへの騎乗を優先しなければならない立場だった。代打に指名されたのは今野忠成騎手である。騎乗依頼を受けた時は思わず「ぼくで良いんですか?」と言ってしまったらしい。
レースは雨水が浮く不良馬場。なのに、チャームアスリープはまたも馬群の後方で泥を浴びている。しかし今野騎手は慌てない。3~4コーナーにかけて1頭また1頭と前を交わしながらじわじわと進出。このあたりは今野騎手ならではの立ち回りの巧さであろう。直線に向けば前を交わすだけ。ゴール寸前できっちり捉えて2冠制覇を達成した。
ちなみに桜花賞で2着に敗れたスターオブジェンヌの手綱を取っていたのは、当時まだ重賞未勝利だった真島大輔騎手。悲願の初タイトルは歴史に名を残す名牝の前に惜しくも先送りとなった。そして、東京プリンセス賞の2着は、当時まだ南関東リーディングのベストテンに名を連ねたことすらなかった戸崎圭太騎手である。つい最近のことだとばかり思っていたが、改めて振り返ると16年の月日は意外に重い。
史上初となる牝馬3冠への期待を背負い、JRA勢を迎え撃つ関東オークスは、この年からGⅡに格上げされ、JRAの出走馬もレベルが上がっていた。中でも筆頭格は前年の全日本2歳優駿を制するなど交流重賞3勝のグレイスティアラ。再びチャームアスリープの背中に戻ってきた内田博幸騎手は、相手をグレイスティアラただ一頭に絞っていたという。グレイスティアラは後続を大きく引き離して直線に向いた。しかしチャームアスリープもこれを猛追。ゴールのわずか手前で差し切ってみせたその姿は、まるで菊花賞のライスシャワーを彷彿とさせるようなシーンだったと記憶する。
南関東でも屈指の難コースとされる浦和1600m。長い長い直線で底力が問われる大井1800m。さらに牡馬3冠でも設定されていない2100mという距離。3冠それぞれのレースが、まったく違った能力を求められるという点で、南関東における牡馬と牝馬の3冠戦線は大きく異なる。そういう意味ではチャームアスリープの牝馬3冠は、もっともっと評価されて良い。2歳時の成績ではチャームアスリープを遥かにしのぐスピーディキックの敗戦はそれを裏打ちするものであろう。とはいえ南関牝馬3冠の①着、①着、③着はじゅうぶん胸を張れる成績。スピーディキックの勝負はこれからだ。
***** 2022/6/15 *****
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