日曜の阪神新馬戦を勝ったのはシルバーステート産駒のカルロヴェローチェ。3番手追走からあっさり抜け出すと、あっという間に2馬身差突き放す完勝だった。先日このブログで紹介した「トウショウフリート~シーイズトウショウ」の系譜を継ぐ貴重な一頭。手綱を取ったルメールは機種が「まだ子供っぽいけど、いい勉強ができました。秋が楽しみです」と伸びしろに期待すれば、須貝調教師は「距離が長くなっても短くなっても対応できると」と万能性を感じている。
このレース、一部では「伝説の新馬戦」と呼ばれているらしい。とはいえ、この一戦だけを指してのことではない。宝塚記念当日に行われる新馬戦の優勝馬は、過去5年のうち4頭が重賞を勝っている。うち2頭はGⅠホース。それをして宝塚記念当日に行われる新馬戦全体が「伝説」と呼ばれているらしいのだが、勝ち馬がのちに活躍するレースであれば「出世レース」とするのが正しい。もともとGⅠ開催日の新馬戦は素質馬が集まることで知られている。陣営にしても有力騎手を確保しやすいし、その強さを多くのファンに見せつけたい。JRAもわざとGⅠ当日に芝1800mとか芝2000mのレースを組んで、多くのファンに名馬誕生の瞬間を見てもらえるよう工夫している。
「伝説の新馬戦」と呼ぶなら、やはり2008年10月26日、オウケンブルースリが勝った菊花賞当日の京都5レース(芝1800m)。この一戦をおいてほかにあるまい。
掲示板に載った5頭すべてがのちの重賞ウイナー。しかも3頭のGⅠホースとダービー2着馬を含むのである。上位4頭が翌年の有馬記念に出走する新馬戦など、そうそうあるまい。驚くことに11頭立ての最下位馬を除く10頭までが翌年の秋までに未勝利を勝ちあがった。
2008年10月26日京都5R 2歳新馬(芝1800)
1着 アンライバルド 岩田康
2着 リーチザクラウン 小牧太
3着 ブエナビスタ 安藤勝
4着 スリーロールス 横山典
5着 エーシンビートロン 内田博
6着 ネオイユドゥレーヌ 武豊
7着 アルティマタレント 四位洋
8着 ヒカリアスティル 幸英明
9着 テイエムシバスキー 和田竜
10着 ダノンイチロー 福永祐
11着 ファーエンドシュア 黒岩悠
ブエナビスタを管理していた松田博資厩舎はゲート試験に合格すると、すぐ新馬に使うことで知られていた。今のようにいったん外厩に出すのではない。馬の調子が優先。相手関係はあまり考えない。一方で吉田勝己オーナーは新馬戦のメンバーが強いことを懸念していたという。ただ、松田調教師はかつて自身が手掛けた名牝ベガに匹敵する能力を感じ取っており、強い相手でも勝負になるだろうと踏んでいた。
レースでは出遅れて後方を追走。ゲート練習をあまりやらない厩舎なので、デビュー戦での出遅れは仕方ない。それでもメンバー最速の33秒5の上がりで3着に食い込んだ。この脚を見て「これは走る」と確信したという。レベルが高いからこそ見える素質の片鱗もある。

ひと昔前は、クラシックの本命馬は師走の阪神でデビューするのが通例だった。クラシックを目指す素質馬ほど本番までに消耗することは避けたい。無理して早期にデビューさせると心身の成長を阻害することもある。そこで意識的に出走を遅らせる手法が取られた。夏の早い時期は無理をせずにじっくりと成長を促して、12月の新馬を確実に勝ち上がり、ホープフルSやラジオたんぱ杯、あるいは年明けの3歳重賞などで賞金を上乗せするのである。ダンスインザダークも、スペシャルウィークも、アグネスタキオンも、そしてディープインパクトも暮れの阪神デビューだった。
しかし昨今は事情が異なる。ドゥデュースは9月、スターズオンアースは8月、そしてジオグリフに至っては6月のデビューだった。こうして見ると伝説の新馬戦が行われた10月のデビューすら遅く感じる。我々はもう来年のクラシックホースを目撃しているのかもしれない。
***** 2022/6/28 *****
最近のコメント