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2022年5月26日 (木)

発走遅れ

先日のオークスで、サウンドビバーチェ放馬の影響で発送時刻が15分遅れたことにより、関西地区の地上波中継がレース途中で打ち切られるという事態になった。テレビ局の関係者は青ざめただろうが、そも発送時刻の遅れは珍しいことでない。たまたまそれがメインレースでよりによってオークスだっただけの話。むしろ今回の「15分」がグレード制導入後では最長の遅れだったことに驚いた。1991年桜花賞の「イソノルーブル事件」はもっと長かった気がする。30余年を経て私自身の時間感覚も変わった。つまりトシを取ったということか。

幸いにも私は競馬場で観ていたから最後まで見届けることができた。輪乗りが始まってしばらく、先に異変に気付いたのは同行の娘である。

「あれウマだよね?」

彼女が指差す方向に目をやると、内ラチ沿いを4コーナーに向かって走る黒い点が見える。間違いない。ウマだ。ゼッケンは5番。ただし、狂騒状態に陥って逃げ出した感じはなく、比較的ゆったりしたキャンターであることがハプニング感を薄めている。場内アナウンスもない。現実感を喪失したかのような、実に静かな放馬が展開されている。

捕まったのは3コーナー入口付近。パニックになった様子もなく比較的簡単に口を取らせた。これなら疲労も少なかろう。ただちに獣医を乗せた車が現場に急行。ただし騎手は乗せてない。

「あそこからゲートまでどれくらいかかるかな?」

娘が訊いてきた。サウンドビバーチェがいるのは800のハロン棒の手前。ゲートが置かれているのは残り300m付近である。500mなら「徒歩5分」と不動産屋は答えるだろう。しかしそんな時間を待っていてはテレビ中継の番組終了時刻に間に合わない。

すると欅の向こうあたりから厩務員とサウンドビバーチェが小走りを時始めた。獣医たちもそれに続く。最初は歩様を確かめるためかと思ったが止まる気配がない。どうやら出走可能と判断した模様だ。

「あんなことをしたら余計に疲れちゃうんじゃないか?」と私。

「いや、あの程度ならウマは大丈夫だけど、ヒトの方が持たないかも」と娘。最近は娘の方が私より馬に詳しいのである。

結局人馬とも小走りのまま4コーナーを回ってゲート地点に戻ってきた。たしかに馬はケロッとしているが、人はあからさまにへばっている。しかしそこからが長かった。騎手の指摘で獣医がサウンドビバーチェの右頬を何度もチェック。傍らに立った石橋騎手は跨ろうとしない。そんな状態がしばらく続いたのち、「競走除外馬」のアナウンスが流れた。時計の針は15時53分を指している。もうテレビ中継には収まるまい。

Jocky

発走遅れには様々な理由がある。前出のイソノルーブルは落鉄。枠入り不良も少なくない。クルミナルが10分近くゲート入りを渋ったのもオークスの舞台だ。2020年8月29日の新潟12Rでは厩舎地区から放馬した馬が馬場内に侵入して6分遅れとなった。しかし致命的なのはやはり出走馬の放馬であろう。2011年スプリンターズSではビービーガルダンの放馬で13分遅れ。2006年ダービーグランプリでもタイセイスーパーの放馬により20分近くも遅れている。そこは言葉の通じぬ相手。上手くいくことの方が奇跡的にも思える。

発走遅れの原因は馬だけに留まらない。ひと昔前は窓口での馬券発売を主催者が締め切らず、発走を遅らせることはザラだった。オールドファンなら「締切1分前」を知らせる音楽が5分以上も延々と流れ続けていたことを覚えている方も多かろう。2006年のフェブラリーSではウイングアローに騎乗した岡部幸雄騎手が馬場入り後に負担重量調整用の鉛板落下に気付き、検量室に戻って5分遅れ。今年の根岸Sでは通行証の不正利用者がいた事由により、やはり5分遅れとなっている。

私自身は行き過ぎた発走時刻の遵守には反対だ。表彰式やテレビを優先するのはなおさら。「馬優先」の大原則を忘れ、杓子定規なレース運営に傾注するから、枠入り時の「追い鞭」のような恥ずかしい姿を世界に晒すことになる。

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アイルランドでは羊の大群が場内に侵入して発走時刻を遅らせることがある。片田舎の小さな競馬場の話ではない。ナショナルトラックのカラ競馬場でそんなシーンに遭遇した。聞けば珍しいことではないらしい。場内アナウンスは「羊たちがどくまで発走を待ちます」と告げるだけ。この寛容さをぜひ見習いたい。

 

 

***** 2022/5/26 *****

 

 

 

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