【訃報】テレグノシス
テレグノシスの訃報が伝えられた。23歳。ということはタニノギムレットを破ったNHKマイルCはもう20年も前のことになる。当時のNHKマイルカップは「マルガイダービー」の異名を持つほど外国産馬が幅を利かせていた。実際、1996年の創設から2001年まで6年続けて外国産馬のワンツーフィニッシュが続いている。その流れにストップをかけたのが2002年の覇者テレグノシス。しかしそれは、なんとも微妙な判定勝ちだった。
ゴール入線はテレグノシス、アグネスソニック、そして人気のタニノギムレットの順。だが、直線でスターエルドラードが外に膨れてタニノギムレットに接触。そのスターエルドラードが膨れた隙間を狙ったテレグノシスが、スターエルドラードの進路までカットしてしまい、そのあおりを受けて再度タニノギムレットの進路が塞がれてしまったのである。
当然ながら審議のランプが灯った。
テレグノシスはもちろんのこと、勝浦騎手も杉浦調教師も、勝てばこれが初めてのGⅠ制覇となる。2月のうぐいす賞で2勝目を挙げると、スプリングSの2着で念願の皐月賞の出走権を手にした。だが、その反動は思いのほか大きく、皐月賞は泣く泣く断念。このNHKマイルCも回避の可能性を匂わせていた。だが、杉浦師自ら調教に跨って体調の回復を確信。結果、大本命のタニノギムレットを破ってみせたのだから、その手腕は讃えられて良い。
審議はまだ続いている。
タニノギムレットを管理する松田国英調教師と武豊騎手には、前年のクロフネに続くこのレース連覇がかかっていた。皐月賞3着からという異例のステップにも関わらず、単勝オッズは1.5倍。ファンの期待も大きい。しかも皐月賞ではその期待を裏切ったばかり。負けられないという思いはことさら強かったに違いない。しかもビデオを見る限り、あれだけの不利を受けながら、そこから猛然と追い上げて3着まで来ているのである。脚が残っていなかったのならまだしも、これでは怒りも収まるまい。
20分もの審議がようやく終わった。失格及び降着馬はないという。
人前であれほど怒りを露わにした武豊騎手を見たのは初めてだ。裁決の見解は、スターエルドラードの斜行とテレグノシスの斜行はまったく別個の事案であり、それぞれの事案は単体では走行妨害には値しないから結果として降着にはならない、というものだった。すなわち「合わせ技一本」にはならないんだよ、ということである。
この勝利は種牡馬トニービンにとっても大きな1勝となった。東京得意として知られたトニービン産駒は、この勝利によって東京競馬場で当時行われていた芝のGⅠ6レース(オークス、ダービー、安田記念、天皇賞・秋、ジャパンC、NHKマイルC)の完全制覇を達成。また、結果的にトニービン産駒によるれが最後のGⅠ勝利となったのである。あの審議の20分間は勝浦騎手と杉浦調教師にとっては永遠と思えるほど長く感じたに違いない。逆にこの20年間はあっと言う間だった。タニノギムレットは元気にしているだろうか。
***** 2022/1/31 *****
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