芦毛は続くよどこまでも
クロノジェネシスが引退した。
彼女は年齢を重ねてもあまり白くはならなかったが、ゴールドシップやエイシンヒカリが引退したあとの「芦毛界」の主役を張るのに十分な活躍をしてくれた。その頑張りに感謝したい。若いファンや女性はたいてい芦毛馬を応援する。それはある意味正しい。その有力な選択肢として活躍してくれた功績は、彼女の偉大な競走成績以上に大きいように思える。
なぜ芦毛は少ないのか。基本的には芦毛馬の父親も、母親も、遺伝の法則によりその産駒に約半分しか芦毛を伝えないことが知られている。隔世遺伝はしないので、仮に地球上から一時期でも芦毛が消えてしまったら、もう二度と復活することはない。絶えず消滅の危険と隣り合わせ。ならば、逆に芦毛はどんどん減っていくかといえばそうでもない。そこが不思議でならない。
かつて芦毛馬はいわれのない迫害を受けてきた。「芦毛は能力に劣る」という迷信はまだ序の口。ナポレオン登場前の欧州では「芦毛が生まれたら悪魔にくれてやれ」とさえ言われたという。
我が国でも江戸時代は「芦毛は悪し毛なり」と武士に嫌われた。その理由は芦毛馬にありがちな弱い白爪にあったとされるが、明治期に入ると今度は敵の標的になりやすいという理由から馬政局は芦毛馬の競馬出走を禁止する命令を出す。芦毛は絶えず消滅の危険にさらされながら、今日まで生き延びてきたのである。
今日の東京大賞典をオメガパフュームが勝ってこのレース4連覇を果たした。同馬はこの勝利を手土産に引退、種牡馬としてその芦毛を後世に伝える役割を担う。クロノジェネシスのグランプリ4連覇はあと一歩のところで幻と消えたが、オメガパフュームの東京大賞典4連覇は素晴らしい偉業だ。オグリキャップの名前を出すまでもなく、ここ一番で芦毛馬が見せる勝負強さには驚かされる。遺伝法則からして、彼らは芦毛を伝えるか否かの両親の1回勝負のジャンケンに、だいたい30回くらい連続して勝ち続けた方の子孫。だから勝負強いのだという説を私は信じたい。
白い馬体が躍動する姿を観るたび、消えそうに思える芦毛馬は、やっぱり途絶えないのだと再認識させられる。それが人が芦毛馬に惹かれるもっとも大きな理由のように思えてならないのである。
***** 2021/12/29 *****
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