師走の燗酒
昨日の大阪の最高気温は20.9度。それから1日経ってカレンダーが12月に変わったとたんに一気に冷え込んだ。陽気も律儀なもの。ただ、あまりに暦に厳格なのも困る。
12月は「師走」とも呼ばれる。そのためか、師走の語源は、お坊さんが走り回るほど忙しいからだと思っている人が少なくないようだ。
しかし、実は師走の語源はよくわかっていない。確かにお坊さんがお経をあげるために走り回る月だからという説もあるが、それ以外にも四季の果てる月で「四果つ」の意味だとか、年の終わりで「トシハツル月」が略されたとかいう説がある。あるいは単に「せわしい」が転じて「せわし」とする説もあって、とにかくコレ!と確定的なものがないのである。
寒さに追い立てられるようにおでん屋の暖簾をくぐった。こういう夜は熱々のおでんに燗酒。これに限る。
外国人から見ると、一年中酒を温めて日本の習慣は奇異に感じるらしい。私の妻は昔から燗酒が好きで、真夏に私がぐびぐびとビールを飲む隣で、ちびちびとお猪口をすすっていた。その時は「この暑いのに」と思ったりしたけれども、最近になってようやく私も燗酒の良さに気づいた。冷やして香りと喉越しを楽しむより、コメの旨味や甘味に重きをおくようになったのである。トシのせいかもしれないが、悪いことではない。
近年の日本酒ブームは「良い酒は冷やで飲むもの」という誤った認識を飲み手に植え付けてしまった感がある。実は私もその一人だった。だが「燗して飲むのは安酒」という認識は、あらぬ誤解である。
もともと日本酒という酒は、温度帯によって味わいが異なる。氷温に近いもの。10度以下の吟醸酒。室温で楽しむ純米酒。そして人肌温度から熱燗までと実に幅が広い。同じラベルでも、温度が違うだけでまるで違う酒に変化するのである。
基本的に生酒以外は燗ができると思って良い。大吟醸酒は香りが飛んでしまうので40度が限度だが、純米、本醸造など、様々な酒と温度の相性を自分で探して見るのも悪くなかろう。燗をつけることで、常温では見えなかった酒の個性が浮かび上がってくることもある。それに気付いた頃には、すっかり出来上がってしまっていることがほとんどだけれど。
千鳥足で店を出た。我々が「師」と言えばお坊さんではなく調教師。とはいえ、調教師の先生が忙しく走るのは年末よりもむしろ春から夏にかけてだから、競馬の12月に「師走」は似つかわしくない。そもそも競馬で走るのは師ではなく馬だ。昔は12月になるとなぜか走る馬がいて、暮れの競馬場に原因不明の波乱をもたらした。今年も「餅つき競馬」が始まる。
***** 2021/12/1 *****
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