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2021年12月31日 (金)

2021年の終わりに

大晦日は朝から都内の馬主宅を巡って挨拶回り。それが済めば大井競馬場へ行き、一年最後の馬券勝負に挑んでは毎年のようにその年最大の惨敗を喫して、泣きたくなるのを我慢しながら記者やカメラマンにも挨拶を済ませて、厩舎にも顔を出して年越しそばをご馳走になってから、麻布の和食店に足を運んでおせちを受け取りつつ店のスタッフとの忘年会に突入して、気がついたら年を越してて慌てて帰宅して、「おもしろ荘」を観ながら寝落ちするのがいつものパターンだった。

特に東京2歳優駿牝馬が大晦日に固定されてからは、このルーチンを欠かしたことがない。変えるのが怖かったというのが正直なところ。毎年、大井のカメラマンだまりでしゃがみながら東京2歳優駿牝馬のファンファーレを聞くと安堵した。今年も色々あったけど、大晦日に自分がここにいるということは大きな問題は起きていないという証拠。自己確認の儀式と言ってもいい。それが昨年から無くなった。大阪移住と新型コロナ。どちらも大きな問題と呼ぶに足る。

今年の大晦日は川崎の自宅で過ごしたが、外出したのは犬の散歩のみ。夜は紅白歌合戦を観ながら、自分で茹でたそばをすすった。薬師丸ひろ子さん、良かったですね。近所のお寺から除夜の鐘が聞こえてくる。

ここまで大晦日感が揃いながら、それでも年越しの実感が湧かないのはなぜだろうか。大井の12レースを終えて検量に引き揚げて騎手を迎えて、「よし!  今年も一年無事に終わった!」という声を聞いて、うまたせとグータッチして別れないと一年が終わるという気がしないのである。せめて「ガキ使」でもやってくれれば年越し感がありそうなものだが、今年はそれもない。

それでも新しい年はきっと明ける。馬たちはまもなく一律に1歳トシを重ねることになる。来るべき2022年が皆さんにとってより良い年となり、競馬場が今年よりも訪れやすくなるようお祈り申し上げます。

良いお年を。

 

 

***** 2021/12/31 *****

 

 

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2021年12月30日 (木)

歳末の景色

東京シンデレラマイルが行われる大井競馬場前を訪れた。

一般入場者は事前の抽選で当選した人に限られている。しかも、めでたく当選してもガラス張りの指定席に入れるわけではない。普段は自由席として使われる屋外席かもしれないし、席のない「立ち見」の可能性もある。

この季節、屋外の競馬観戦は正直キツい。それでも、思ったより大勢のお客さんが寒風に耐えながらレースを見つめている。年末は大井と決めているファンもいるに違いない。数年前までの私もそう。4コーナーの向こうに沈む夕陽を見て、ようやく年の瀬を実感した。

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東京シンデレラマイルは今年の桜花賞馬ケラススヴィアの逃げを、昨年のこのレースの覇者ダノンレジーナが2番手から追いかける展開。直線に向くとダノンレジーナが満を持して前に出た。あとは独走。2着に追い込んだメモリーコウに1馬身1/4の差をつけた。東シンデレラマイルの連覇は同レース創設15年目にして初めて。それを思うと昨日のオメガパフュームの東京大賞典4連覇は気の遠くなる大記録だ。

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レースを終えて帰途につくが、大井町駅や大森駅との無料連絡バスは運行していない。こうなると帰るのもひと苦労。駐車場もメインの一般駐車場は新型コロナワクチン接触者専用になっている。いつもと同じ年の瀬の景色かと思いきや、やっぱりどこか違う。コロナに揺れた2021年も、残すところあと一日だ。

 

 

***** 2021/12/30 *****

 

 

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2021年12月29日 (水)

芦毛は続くよどこまでも

クロノジェネシスが引退した。

彼女は年齢を重ねてもあまり白くはならなかったが、ゴールドシップやエイシンヒカリが引退したあとの「芦毛界」の主役を張るのに十分な活躍をしてくれた。その頑張りに感謝したい。若いファンや女性はたいてい芦毛馬を応援する。それはある意味正しい。その有力な選択肢として活躍してくれた功績は、彼女の偉大な競走成績以上に大きいように思える。

なぜ芦毛は少ないのか。基本的には芦毛馬の父親も、母親も、遺伝の法則によりその産駒に約半分しか芦毛を伝えないことが知られている。隔世遺伝はしないので、仮に地球上から一時期でも芦毛が消えてしまったら、もう二度と復活することはない。絶えず消滅の危険と隣り合わせ。ならば、逆に芦毛はどんどん減っていくかといえばそうでもない。そこが不思議でならない。

かつて芦毛馬はいわれのない迫害を受けてきた。「芦毛は能力に劣る」という迷信はまだ序の口。ナポレオン登場前の欧州では「芦毛が生まれたら悪魔にくれてやれ」とさえ言われたという。

我が国でも江戸時代は「芦毛は悪し毛なり」と武士に嫌われた。その理由は芦毛馬にありがちな弱い白爪にあったとされるが、明治期に入ると今度は敵の標的になりやすいという理由から馬政局は芦毛馬の競馬出走を禁止する命令を出す。芦毛は絶えず消滅の危険にさらされながら、今日まで生き延びてきたのである。

今日の東京大賞典をオメガパフュームが勝ってこのレース4連覇を果たした。同馬はこの勝利を手土産に引退、種牡馬としてその芦毛を後世に伝える役割を担う。クロノジェネシスのグランプリ4連覇はあと一歩のところで幻と消えたが、オメガパフュームの東京大賞典4連覇は素晴らしい偉業だ。オグリキャップの名前を出すまでもなく、ここ一番で芦毛馬が見せる勝負強さには驚かされる。遺伝法則からして、彼らは芦毛を伝えるか否かの両親の1回勝負のジャンケンに、だいたい30回くらい連続して勝ち続けた方の子孫。だから勝負強いのだという説を私は信じたい。

白い馬体が躍動する姿を観るたび、消えそうに思える芦毛馬は、やっぱり途絶えないのだと再認識させられる。それが人が芦毛馬に惹かれるもっとも大きな理由のように思えてならないのである。

 

 

***** 2021/12/29 *****

 

 



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2021年12月28日 (火)

パソコン不調につき

パソコンが動かなくなった。

いや、緊密には動いてはいる。ただし恐ろしく遅い。OS(Windows10)起動に2時間。そこからタスクマネージャーを起動するのにさらに1時間。とてもじゃないが使い物にならない。何もしていないのに、なぜかCドライブへのアクセスが100%に貼りついてしまうという症状で、ネットを見る限りあちこちで起きているようだ。

ネットには対処方法も紹介されているが、パソコンが動くことを前提とした対処ばかり。パソコンが動かないわけだから対処も何もできない。これは時間がかかりそうというわけで、明日以降しばらくスマホからの簡易版投稿とさせていただきます。ご了承ください。

 

 

*****2021/12/28 *****

 

 


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2021年12月27日 (月)

年賀状の苦悩

今年も年賀状に頭を悩ます季節がやってきた。いや、ちょっと遅いか。どうもすみません。

年賀状を作成するにあたり頭を悩ますのが、そのデザイン。かつてはジャパンカップの写真をそのまま使っていた。ポストカード印刷を業者に発注していた当時は、それくらいの時間の猶予が必要だったのである。

だが、昨今のプリンタ事情の発展は目覚ましい。自宅で好きな絵柄を好きな枚数だけ印刷できるとなると、ジャパンカップよりは有馬記念の方ががイイか。いや、どうせなら東京大賞典の写真の方が新鮮だろう、ということで、毎年12月30日になってようやく年賀状の印刷に取り掛かるというドタバタの年末を過ごすことになる。

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ただし、いま私が住まう大阪の家にはプリンターというものがない。とはいえ年賀状のためだけに帰京するの大袈裟に過ぎる。それで早々に業者に印刷を依頼した。あとは住所を書くだけ———そう軽く構えていたのだが、それはそれでまた悩ましい問題に直面するのである。

まず筆。

毎度のことだが、書き味が良くて、疲れなくて、文字にバラツキが出ないものは、そうそう手元にはないものである。良さそうなものを見つけては一枚書いてみて、デキがイマイチだと分かって、次の候補に持ち替えてまた書いてみる。この繰り返し。家中のあらゆるサインペンとボールペンをひっかき集めてようやく決まった「この一本」の下には、数多の「不本意な一枚」が積み重なっている。

筆が決まったところで、今度は「ひと言」をどうすべぇ……と再び考え込むこととなる。

できるだけ相手の目に留まるようなひと言を添えたいと思うのだが、なかなか思い浮かばない。あれこれと思いついたのを書いてみては、「う~む…」と呻ることしきり。「これだ!」というフレーズに行き着いた頃には、残り数枚だったりする。

新年に相応しいひと言ということなら、やはり2022年ダービー馬の予言だろうか。とはいえ「ダービーはドウデュース!」と書いたところで面白くもなんともない。もっと捻りがほしい。とはいえその一頭が決まらない。そりゃあそうだ。ダービー発走の5分前まで決まらないのだから。

そんなわけで、私からの年賀状が届く方におかれましては、しょーもないひと言が添えてあったとしてもお正月に免じて許してやってください。

 

 

***** 2021/12/27 *****

 

 

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2021年12月26日 (日)

裏有馬

数年に一度という寒波が列島を襲っている。昨夜の予報では大阪市内でも雪が降るということだったが、朝起きてカーテンを開けたら晴天だった。大雪の被害に遭われている方には申し訳ないが、雪中競馬を期待していた身としては残念。しかしおかげで出掛けやすくはなった。寒さも心配したほどではない。意気揚々と有馬記念当日の阪神競馬場に向かう。

有馬記念当日の阪神競馬を一部のファンは「裏有馬」と呼んで特別視しているらしい。有馬記念が行われていなくても、一年の締めくくりであることは同じ。12月28日に「9日目」が追加されてからは、厳密な意味での締めくくりではなくなったが、今日を競馬納めとしているファンは少なくあるまい。大事な一日である。だから重賞も行われないのに、指定席は満席の盛況ぶりだ。

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上空は青空。だが向こう正面に見える山には雪が降っているのが見える。7レースの前にその雪が競馬場にも舞った。裏有馬のレースはゆっくりと進んでゆく。

中山ではそうもいかない。競馬場に着いたと思ったらすぐにお昼を食べて、午後の競馬が始まったかと思えばあっという間に有馬記念のパドックに降りてる印象がある。写真を撮っていた時も、そうでない時も同じ。とにかく一日が早い。

中山にいても阪神の馬券は買うし、今日も阪神にいながら中山の馬券を買っていた。ただ有馬当日の中山は何かが決定的に違う。スタンドはどこかザワついているし、装鞍所には重たい空気が漂っているし、パドックは独特の緊張感に支配されている。それが時間を早めているのかもしれない。

かつて中山のターフビジョンに阪神競馬場のスタンドが映し出されるのを見ながら、「阪神にもお客さんが入っているんだなぁ」と不思議に感じたことがある。当たり前の話だし、普段から阪神に足を運んでいらっしゃる方からすれば不快に思われるかもしれない。だが有馬当日の中山にいると他場のことは考えられなくなるのである。

そういう意味で裏有馬の風情は嫌いではない。これほど有馬記念当日に馬券のことを考えたことはなかったように思う。ただ、ターフビジョンに「有馬記念」の文字が映し出された時に、多少の違和感を覚えた。遥か遠く離れた競馬場で有馬記念が行われている。その事実を馴染ませるのに時間がかかるのである。その違和感が臨場感を押し潰したままレースは終了。それでもエフフォーリアの強さは伝わってきた。道中はクロノジェネシスの後ろにいたはずなのに、先に仕掛けて直線入口ではライバルを置き去りにする。天皇賞(秋)でコントレイルを下した戦法が今日も炸裂した。よほど自信がなければできない。

年度代表馬の最有力候補となった3歳馬はデビュー以来6戦がすべて東日本地区での競馬。関西では走ったことがない。普通に考えれば来シーズンの目標は大阪杯と宝塚記念であろうから、ついに関西のファンの前に姿を現すだろうか。裏有馬は楽しい体験だったが、来春はエフフォーリアの競馬も見てみたい。

 

 

***** 2021/12/26 *****

 

 

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2021年12月25日 (土)

輝きを取り戻したチャンピオン

中山ではオジュウチョウサン、阪神ではグレナディアガーズ。東西でかつてのチャンピオンが輝きを取り戻した一日だった。

話は昼前に遡る。昨日も書いた仁川駅前の「讃岐ダイニング&ホースBAR Frankel(フランケル)」に立ち寄り、とろ玉肉ぶっかけうどんを注文。この一杯は見た目が美しい。ためらうことなくグチャグチャに混ぜて、しかるのちに一気に啜る。うーむ。美味い。この爽快なのど越しのごとく、Frankel産駒グレナディアガーズが大外を伸びてくるシーンがイメージできた。満足して店を出て競馬場に向かう。

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実際の阪神カップのレースぶりは、まさに私のイメージ通りだった。これまでの先行のイメージよりも後方からのレースになったのは、ゲートが合わなかったから。結果的にそれが功を奏したのか、1400mのペースが合うのか、あるいはクリスチャン・デムーロ騎手の技術の為せる業か、とにかく前走のように引っ掛かるそぶりは微塵もない。遠目に見てものびのびとリラックスして走っているのがわかる。

直線に向いた時点で先頭とは10馬身。しかも直線の短い内回りコース。しかし、その手応えから私は勝利を確信していた。ゴーグルの下に隠れてその表情は伺いしれないが、鞍上のクリスチャンもほくそ笑んでいたのではあるまいか。

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グレナディアガーズは1年ぶりの重賞勝利。クリスチャンが日本の重賞を勝つのも3年ぶりだという。前回が何かと調べてみたら、今日のレースで3着に下したダノンファンタジーの阪神JFだった。3年ぶりと言いながらあちこちに名前が出るのはさすがだ。

もっとも意外なところでは、これが今年最初のFrankel産駒による重賞勝利だということ。すなわち前回はグレナディアガーズによる朝日杯ということになる。

ミスエルテ、ソウルスターリング、モズアスコット。これまで日本で活躍したFrankel産駒は、いったんスタンプに陥るとなかなか抜け出すことができないことが多かった。グレナディアガーズにもそれを心配したが、この勝利は大きい。このあとはいったん放牧だという。問題はそのあと。目標は高松宮記念か、それとも安田記念か。グレナディアガーズの母ウェイヴェルアベニューは1400mのBCフィリー&メアスプリントの優勝馬。今日のレースを見る限り、日本に1400mのGⅠが無いのがもどかしい。

 

 

***** 2021/12/25 *****

 

 

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2021年12月24日 (金)

フランケルの底力

阪神ロングラン開催も残すところあと3日間。28日の最終日は行けないので、私にとっては今週の土日が最後ということになる。

この3か月間、昼前に家を出て、仁川駅を降りてすぐのうどん屋さんでうどんを啜り、しかるのちに阪神競馬場の入場門をくぐるというルーチンが長く続いた。そんな平和な日々が、一時的とはいえ終わってしまうのが残念でならない。中京に行けば競馬は続いているが、そこには阪神のような美味しいうどんがないのである。

仁川駅近くに暖簾を掲げる「フランケル」はミシュランガイドにも掲載された本格的な一軒。王道の「ぶっかけ」から、「鮭のクリームソースうどん」や「麻婆うどん」など和洋折衷織り交ぜた豊富なメニューはどれも水準をはるかに超えてくるから凄い。おでんや天ぷらなどのサイドメニューも豊富。競馬場の隣でなければ長っ尻必至だが、競馬を観に来たのだと思えば後ろ髪を引かれながらも席を立つしかない。

Frankel

その一風変わった、しかし競馬ファンには馴染みのある店名は、もちろん14戦14勝の名馬にして名種牡馬 Frankel に由来する。

Tetsu

競馬絡みは店名だけに留まらない。店内にはグリーンチャンネルを放映する2台のモニターが大音量でレースを中継しており、お茶は蹄鉄を使ったおしゃれなコースターに置かれ、ソダシのぬいぐるみにはコントレイルの当たり馬券が添えられている。ひと昔前に競馬場の隣で土日だけ営業していた居酒屋の風情。なのにミシュラン。そのギャップが楽しい。

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きりりとエッジの立った太麺は、「冷」なら強いコシが、「温」ならびよーんと粘りのある歯応えがたのしめる。ふわりと鼻腔をくすぐる小麦の香りが消える間もなく駆け上がる心地良い喉越し。麺の美味しさを味わうならやはり「ぶっかけ」がお勧めだ。

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「麻婆うどん」の麻婆は普通に美味い。なんならうどんではなくて白メシでガガーっとかき込みたくほど。一口食べるたび身体中から汗が噴き出す。うどんが強いから、麻婆もこれくらいでないと負けてしまうのかもしれない。

Mabo

豊富なサイドメニューの中でも私は「鶏天」にハマっている。ちょこっと下味が付けられた巨大な鶏天の衣にツユがまとわりつくことで美味さが激増。ただ、こればかり食べると肝心の麺が入らなくなる。そういやおでんも食べたいし、「キタアカリの天ぷら」という悶絶必至のサイドメニューもある。さすがフランケル。底力が違う。

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うどんを茹でるのに15分ほどかかるから、店内は常に満席。外も行列が絶えない。それでも競馬前のひとときを過ごすには、最高の一軒と言い切れる。そんなお店とも今週末を最後にしばしのお別れ。明日の阪神カップは Frankel 産駒のグレナディアガーズで勝負だ。

 

 

***** 2021/12/24 *****

 

 

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2021年12月23日 (木)

避けられぬ事故

19日に住之江で行われた競艇の第36回グランプリの優勝戦は4艇が転覆・失格の大波乱。3連単、3連複が不成立となり、売り上げの約96%にあたる41億1426万3700円が返還されて話題となった。返還額は2002年に宮島で行われたグランドチャンピオン優勝戦の24億3513万3800円を大きく上回る新記録。宮島では2艇がフライング。今回の住之江は1マークの攻防での接触事故。理由は違えど、どちらも大舞台であることは変わりない。一流レーサーがギリギリの勝負を挑んだゆえの顛末であろう。

競馬も舞台が大きくなればなるほど勝負は厳しさを増す。

日本ダービーは過去の88回で1887頭がゲートに入ることを許されたが、うち16頭はゴールにたどり着くことができなかった。1956年は、1コーナーに殺到した馬群が接触して転倒。吉川英治の持ち馬エンメイが予後不良となり、吉川はこのショックが原因で以後競馬から遠ざかってしまう。1969年の1番人気タカツバキもスタート直後に両サイドから挟まれて落馬、競走中止の憂き目を見た。マイネルブルックやエキマエのように単独で故障を発症することも珍しくはない。

ダービーで落馬や競走中止が起こりやすいのは、多頭数も原因のひとつではあるが、やはりレース内容が激しいせいであろう。馬はギリギリの仕上げを施されるし、多少危険を冒してでも騎手は勝負に打って出る。

日本の騎手のフェアプレーぶりには定評がある。それでも事故は避けられない。馬の故障は時間と場所を選ばず、不測の展開も災いの元になる。レースの安全度を落馬という点から見れば、平地の方が安全に映る。しかし、いったん事故が起きると、平地は障害より密集した展開が多いので、大きな連鎖反応を起こしやすい。

香港スプリントで落馬し、その後骨折が判明したピクシーナイトの手術が無事終了したと伝えられた。まずは良かったと安堵したい。術後の経過が順調なら競走馬としての復帰も見込めるとのこと。予断は慎まなければならないが、スプリンターズSで古馬を一蹴した、あの驚愕の脚をもう一度見たいと願うのは私だけではあるまい。そのピクシーナイトの素質を早くから見抜いていた福永祐一騎手も年内に手術の見込み。こちらも早い復帰を祈りたい。

一方、5月の落馬事故から復帰に向けてリハビリ中の北村友一騎手は、まだ背骨にボルトが入った状態だという。復帰まではあと半年ほどかかる見込み。有馬記念に乗れないのは残念などという言葉では足りないだろうが、クロノジェネシスが勝てば復帰への大きな後押しになるはずだ。

Rakuba

勝負事には事故やアクシデントはつきもの。有馬記念とて例外ではない。メリーナイスやサクラホクトオーの例もある。常にそういう覚悟を抱きつつ、今週もいつも通りレースを見届けたい。

 

 

***** 2021/12/23 *****

 

 

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2021年12月22日 (水)

粉もんの街で

先週金曜日に偉い人を交えて忘年会が行われることになっていた。しかし同じ日に東京から知人が来阪。日帰りだという彼をそのまま帰すわけにもいかないから、忘年会の始まる時間まで軽く飲みに行こうと誘うと、「粉もんが食べたい」と言う。

それで天三の「ゆかり」を訪れた。私自身、大阪に来てまる一年が経つけれど、お好み焼き屋さんに入る機会はそれほど多くはない。なぜか。おひとり様だと1種類を食べただけでお腹いっぱいになってしまうのである。できることなら2種類くらい味わいたい。ピザみたいに「ハーフ&ハーフ」を作ってくれないものか。

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しかし二人で入店すれば話は別。めでたく3種類のお好み焼きを完食した。ひとり1.5枚ならどうということはない。満足して忘年会の会場へ。歩くこと3分。指定された「オセロ」という店に入ってみれば、なんとお好み焼き屋さんではないか。えっ? まじか……。

なるほど。焼くときにパタンパタンとひっくり返すから「オセロ」なのか。そんな店名のカラクリに気付いた時はもう遅かった。お好み焼き屋さんのハシゴは正直きつい。粉もんは腹が膨れるのである。とはいえそこは偉い人の集まりだから、「実はたったいまお好み焼きを食べてきたばかりで……」なんて口が裂けても言えない。聞けば関東人の私のためにわざわざお好み焼き屋さんをチョイスしたのだという。うう…(涙)それは嬉しいです。……頂きます。

Osero

なんて言いつつ、終わってみればここでも3種類のお好み焼きをペロリとたいらげてしまった。こちらのお店のお好み焼きは腹にもたれることもなく、サクッと軽い。食べようと思えばいくらでも食べられそうだ。

そして翌土曜も東京からの来客をもてなすというので、指定された店に行ってみれば、案の定お好み焼き屋さんである。もう驚かない。

東梅田の「つる家」さんは創業70年の老舗。こちらのソースはピリリと辛い。これには地元大阪在住の若い奴も驚いていたが、ベテランの大阪人に言わせると「昔はこのソースが普通だった」という。

Tauruya

彼に言わせればマヨネーズの方が邪道らしい。たしかにタコ焼であれ、お好み焼きであれ、「マヨネーズかけますか?」と聞かれるのは日常茶飯事。嫌う人が多いことの裏返しであろう。粉もんの美味しさはソースの香ばしさがあってこそ。マヨネーズはそれを台無しにしてしまうとベテラン氏は力説する。マヨネーズが当たり前と思っていた私は、やはり粉もん素人に違いない。

そもそもこの「粉もん」という言葉自体が間違っているそうだ。「本当の大阪人はそんな言葉使わへん」とベテラン氏は言い切る。「タコ焼き食べに行こか」とか「お好み行こか」と言うことはあっても、「粉もん食べに行こか」とは言わない。でも便利な言葉なのでタイトルに使わせてもらいました。とにかく大阪のお好み焼きはどのお店で食べても美味しい。ただ、それを言うとたいてい「ウチの家で焼いたやつがいちばん美味いけどな」と言われる。なるほど。知らないことはまだたくさんある。

 

 

***** 2021/12/22 *****

 

 

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2021年12月21日 (火)

冬至

古来より冬至の日はことさら重要視された。それは、冬至が太陽の観測に一番適していたから。冬至を特定するには、物の影が一番長くなる日を見つければよい。しかもこの季節は晴天が多いから、観測条件も整っている。ために我が国の季節感に今なお残る二十四節気は、冬至をスタートとして定められた。すなわち季節の「原点」でもある。

だがしかし。暦の上では大事な日であっても、屋外で、動くものを、照明も使わずに撮らねばならないカメラマンにとっては、決して嬉しい日とは言えない。正直、冬至近くの中山開催はなんとなく気が滅入った。有馬記念とて例外ではない。メインレースが近づく頃には、芝コースを照らしていた陽の光は背後のスタンドに遮られ、表彰式の頃になるとあたりはすっかり夕闇に包まれてしまうのだから。

同じことを生前の野平祐二氏もおっしゃっていた。ただし騎手の視点である。有馬記念というと、どうも暗いイメージがある。ゴールを照らす灯りを除けば、あとは真っ暗闇。スタンドも暗かったし、空はいつも曇っていた。そんな印象が強いのだという。「レース中に蹄鉄と蹄鉄がガチンとぶつかって火花が飛ぶんです。周りが暗いから、その光が余計目に焼き付いてしまってね」。そんなこともおっしゃっていた。

たしかに昔の有馬記念は、今よりもっと暗い中で行われていたイメージがある。発走時刻が今より遅かったのだろうか? そう思って調べてみた。スピードシンボリが名手・野平祐二騎手の手綱で有馬記念史上初となる連覇を果たした1970年の発走時刻は、あろうことか15時10分。なんと、今より15分も早いではないか。それでも皆が暗いと感じたのは、競馬自体がそういう暗鬱さを拭い切れぬ時代だったということか。

暗かったのはスタンドのせいかもしれない。現在のスタンドが竣工する前は、名物の大屋根が威容を誇っていた時代。それが空を覆い、わずかな西日をも遮っていた。今のようなガラス張りになる前のスタンドは照明も乏しく、帰途にふと振り返って見たそれはまるで漆黒の貨物船のようであったと記憶する。さらに、馬場の色味も見逃せない。今のように真冬でも緑色に輝く芝生が導入される前は、茶枯れた芝の合間から土が剥き出しになった黒い馬場で有馬記念は行われていた。

1994

そんな中山競馬場では、冬至ステークスとか冬至特別といった「冬至」にちなんだレースも数多く行わてきた。アンバーシャダイが1980年に勝ったのは冬至特別。サクラローレルが94年に勝ったのは冬至ステークス。マツリダゴッホも2006年の冬至ステークスで2着と好走している。競馬の世界における冬至は、のちの有馬記念馬たちの「原点」だったのかもしれない。それを思うと、近年の番組表から「冬至」の名が消えてしまっていたことが少しばかりさびしい思いと感じていたのだが、今年は久しぶりに「冬至特別」として帰ってくる。明日は冬至だ。

 

 

***** 2021/12/21 *****

 

 

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2021年12月20日 (月)

「クロノゼネシス」か「エフホーリア」か

土曜日に「日本人のおなまえ」が再放送されて仕事場でも競走馬のネーミングが話題になった。競馬を知らない人がビックリシタナモーとかオジサンオジサンとかモグモグパクパクなどという馬名を聞くと、やはり新鮮に聞こえるらしい。我々はもはや驚きもしませんけどね。さすがNHK。影響力が違う。

Mogu

1文字馬名の「ヤ」にも驚く人が多かったようだ。ほかにもいるのか?と聞かれたが、残念ながら記録に残る限り1文字馬名は「ヤ」号をおいてほかにない。ヤは1934年4月14日の京都競馬、アラブ系抽選新馬でデビュー戦を迎えた。ところが単勝は1票も売れなかったという。券面に馬名が印刷される現代なら、記念にと購入するファンが窓口に列を為したかもしれない。だが結果は8着に敗れている。

番組の中で杉本清さんがおっしゃっていた通り、馬名にはいくつかの制約がある。まず使用できるのはカタカナだけ。それも9文字以内に限られる。

驚くことに記号もカタカナ1文字として扱っていた時期があった。有名なところでは「ラ・フウドル」という馬が知られている。「ホウシュウ」や「ブゼン」の冠名で知られた上田清次郎氏の所有馬。1954年5月26日の京都で障害戦を勝っている。

馬名がカタカナに統一されたのは1928年に帝国競馬協会が規定を作って以来、また字数の制限は1937年に始まった。したがって、1928年以前の出馬表には漢字馬名が含まれていることになる。血統表には漢字の馬名は珍しくはない。

月日は流れて1968年になると中央競馬(JRA)において、促音、拗音の馬名使用が認める。ただし地方競馬ではこの承認が大きく遅れた。そのタイムラグが、地方から中央に移籍して有馬記念を制した「ヒカリデユール」の違和感を生む。中央移籍に際して馬名変更は認めらない。「ユ」⇒「ュ」のような些細な変更でも同じことだ。

さらに「ヴ」「ァ」「ィ」「ゥ」「ェ」「ォ」の使用は1991年まで待たなければならなかった。つまり最近のことである。昔の馬名が総じて短く感じるのはそのせいであろう。9文字制限緩和論は馬名の外国語化と原音主義の産物だと思える。

クロノゼネシス
エフホーリア
シヤドウデーバ
ステラベローテ

世が世なら、そんな名前の馬たちによる有馬記念が繰り広げられることになっていたのかもしれない。NHK「日本人のおなまえ」でビックリ競走馬ネームSP第二弾が放映される暁には、そのあたりまで深堀りしてもらえないだろうか。

 

 

***** 2021/12/20 *****

 

 

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2021年12月19日 (日)

あとひとつ

武豊騎手がついに勝った。今年の朝日杯フューチュリティSはその一言に尽きる。

3番人気のドウデュースと武豊騎手は好発を決めるとスッと控えて中団を追走。掛かり気味に先行する1番人気セリフォスとは対照的に武豊騎手の拳はピタリと動くことがない。そして直線、外から先行馬を飲み込むセリフォスのさらに外から並びかけると、追い比べを制して1着ゴールを果たした。

Fs

1987年のデビュー以来、数々の記録を打ち立てたレジェンドでありながら、なぜか朝日杯を勝つことができない。21回の挑戦で2着が5回。ジンクスを超えて「呪い」という声まで上がったのも事実。2015年、単勝1.5倍のエアスピネルの手綱を取り直線先頭に立った瞬間は、誰もが「ついに」と思ったではないか。しかし一瞬でリオンディーズに抜き去られた。鞍上のミルコ・デムーロ騎手に対して彼が発した「空気の読めないイタリア人がいた」というコメントは彼一流の冗談であろうが、隠し切れない悔しさも窺い知れる。そういう意味では今日の勝利は悲願達成であるだけでなく、ジンクスや呪いからの解放でもあろう。

JRAのGⅠ24レース完全制覇に向け、残されたタイトルは暮れのホープフルSのみ。だが、アンカツさんもおっしゃるように、その扱いには正直戸惑いがある。ホープフルSは2017年にGⅠに昇格したばかり。まだ4回しか行われていない。仮に今年のホープフルSを勝ったとしても、もし阪神カップがGⅠに昇格したらまた再挑戦を強いられるのか。その一方で、彼がデビューした当時に行われていたGⅠ・阪神3歳Sを彼は勝てていない。それを阪神3歳牝馬Sと同一視できるかどうかは人それぞれ。実は私、阪神で行われる朝日杯を観るのは今日が初めてだったが、同じレース名で同じ2歳限定の同じマイル戦であっても中山の朝日杯とはまったく違う印象を受けた。

Newbiginning

そもそも武豊騎手はホープフルSを既に勝っている。1999年エアシャカールと2006年ニュービギニング。でも当時はオープン特別だった。いや、厳密には現GⅠ・ホープフルSの前身はラジオNIKKEI杯2歳Sだろ!という指摘もあるだろうが、そのラジオNIKKEI杯なら5回も勝っている。合わせて7勝なら十分という気もしないではない。いずれにせよ、こういう問題が起きるのも彼のキャリアの深さの為せる業であろう。

 

 

***** 2021/12/19 *****

 

 

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2021年12月18日 (土)

実は大事なひいらぎ賞

ちょうど1週間前の当欄でエリカ賞を「もっとも有名な500万条件」と書いたところ、とある方から「ひいらぎ賞の方が有名では?」という声をいただいた。

なるほどそうかもしれない。ただ私の中では、朝日杯に抽選で漏れた馬たちの残念レースといった印象がぬぐえないのも事実。それが「もっとも有名な」のフレーズを遠ざけてしまった感がある。

実際、ひいらぎ賞の歴史は朝日杯を除外された馬たちが紡いできたと言っても過言ではない。時代の流れと共に消えてしまうことも珍しくない500万条件戦でありながら、そのレース名は半世紀前から続いている。80年代半ばの一時期を除けば、かつての朝日杯と同じ中山マイルという条件も変わることがない。

Houou

その歴史の長きにわたって、ひいらぎ賞を勝ってGⅠ級のタイトルを獲得した馬を列記してみる。コーネルランサー、カブラヤオー、プレストウコウ、ダイナガリバー、メジロライアン、サクラチトセオー、新堀インディ、アサクサデンエン、マイネルホウオウ、ミッキーアイル、ダノンキングリー、そして昨年のシュネルマイスター。すべてが朝日杯の除外馬というわけではないが、朝日杯のバックアップという役目は十分に果たしている一方で、抽選システムの鋼材にも思いは及ぶ。

Sinko

ひいらぎ賞優勝馬で注目すべきはGⅠホースだけではない。1997年の優勝馬シンコウエドワードは、NHKマイルカップではあのエルコンドルパサーの2着にも好走したスピード馬だが、種牡馬リアファン(Lear Fan)の産駒としては日本における最多獲得賞金を誇る。

Maruta

99年の優勝馬マルターズホークもサザンヘイロー(Southern Halo)の日本における賞金王。同じ日にスプリンターズSを勝ったブラックホークの甥でもある。

メジロライアンは種牡馬アンバーシャダイの賞金王で、シンボリインディは種牡馬エーピーインディ(A.P.Indy)の日本賞金王。マイネルホウオウもスズカフェニックス産駒の中ではいちばん稼いでいる。ひいらぎ賞は出世レースであり、ときに種牡馬の代表産駒を炙り出すレースでもある。昨年のシュネルマイスターもその一端であろう。今年の優勝馬ティーガーデンの今後に注目しよう。

  ~ひいらぎ賞歴代優勝馬~

  2021 ティーガーデン
  2020 シュネルマイスター
  2019 スマイルカナ
  2018 ダノンキングリー
  2017 マイネルキャドー
  2016 アウトライアーズ
  2015 ドーヴァー
  2014 キャットコイン
  2013 ミッキーアイル
  2012 マイネルホウオウ
  2011 チェリーメドゥーサ
  2010 フレンチカクタス
  2009 ギンザボナンザ
  2008 メジロチャンプ
  2007 レオマイスター
  2006 カタマチボタン
  2005 マッチレスバロー
  2004 マチカネオーラ
  2003 マイネルデュプレ
  2002 カフェベネチアン
  2001 アサクサデンエン
  2000 ミヤビリージェント
  1999 マルターズホーク
  1998 シンボリインディ
  1997 シンコウエドワード
  1996 スピードワールド
  1995 ゴールデンカラーズ
  1994 オートマチック
  1993 ヒゼンマサムネ
  1992 サクラチトセオー
  1991 オンエアー
  1990 シンボリダンサー
  1989 メジロライアン
  1988 アンシストリー
  1987 タイガーローザ
  1986 スズラバン
  1985 ダイナガリバー
  1984 ブラックスキー
  1983 ビゼンニシキ
  1982 ウメノシンオー
  1981 ニシノエトランゼ
  1980 トドロキヒホウ
  1979 キタノリキオー
  1978 ホクセーミドリ
  1977 シービークロス
  1976 プレストウコウ
  1975 ザグロス
  1974 カブラヤオー
  1973 コーネルランサー
  1972 (実施せず)
  1971 カネアキバ

 

***** 2021/12/18 *****

 

 

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2021年12月17日 (金)

朝の一杯

土日の朝は近所の喫茶店でモーニングセットを注文してからスポーツ紙を眺めることを日課にしている。昭和9年創業の老舗。自家焙煎のコーヒーが美味いのはもちろん、スポーツ紙が充実しているのが嬉しい。それにしても、こういった昭和の風情が残る喫茶店もずいぶん少なくなりましたな。

Coffee

その日のレースをザっと眺めながら、気になる馬や騎手に付けられた予想の印をチェックする。その過程で思わぬ馬が目に留まることも。最近ではチャンピオンズCのアナザートゥルース。阪神JFのラブリイユアアイズなんかもそうだった。理由は分からないがなんとなく気になる。そういう馬は必ず買うことにしている。むろん痛い思いをすることも少なくない。先週土曜の中日新聞杯は前夜までショウナンバルディから買うと決めていたのに、ここでヤシャマルに目が留まって本命を変えてしまった。さすがにゴールの瞬間は悶絶したが、こうした「ひらめき」は馬券検討の上で大事にしたい。

ほどよい音量でクラシック音楽が流れる落ち着いた空間に朝のフレッシュな頭。それだけでも十分何かをひらめきそうなものだが、私はコーヒーの果たす役割が大きいと感じている。

コーヒーは17世紀になってアラビア半島から欧州に広まった。それが近代競馬の歴史とほぼ重なるのは偶然か。ともあれ当時の人は既にコーヒーに眠気を覚ます効果があることを知っていたようだ。科学的に言えばコーヒーに含まれるカフェインの作用。カフェインは脳を覚醒させ、集中力を高めてくれる。「ひらめき」はそのアウトプットにほかならない。

東京に住んでいた頃は、競馬場に着いてから朝の一杯を嗜むことにしていた。馴染みはフジビュースタンド6階の「ときわ家」。3階の「エクセルシオールカフェ」のコーヒーも美味しいのだけど、「ときわ家」だとコーヒーチケットが使えるというメリットがある。それで通い詰めたら、ここがもっとも落ち着ける店になった。ただ、この店で素晴らしいひらめきを得たという記憶はほとんどない。10時という時間が「朝の一杯」というには遅過ぎたのであろう。

もちろんコーヒーをたくさん飲んだところで、良い結果が得られないことも経験的にわかっている。むしろ気持ち悪くなるだけ。カフェインの過剰摂取は、めまいや心拍数の増加、不眠の原因になりかねない。要はコーヒーには飲むには、相応しい時間と場所があるということ。それを探すのがコーヒー屋さん巡りのだいご味でもある。

 

 

***** 2021/12/17 *****

 

 

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2021年12月16日 (木)

競走馬のおなまえ

NHK総合の番組「日本のおなまえ」をご覧になっただろうか。今日のテーマは「珍名馬!難読馬!ビックリ競走馬ネームSP」。すなわちビックリシタナモーであり、スモモモモモモモモであり、「モチが粘る~」である。小田切有一オーナーへのインタビューや馬名審査会の潜入取材など、ゴールデンタイムのNHKとしてはかなり攻めた内容だった。スタジオゲストの杉本清さんの声を久しぶりに聞けたのも嬉しい。難読馬の1頭として紹介されたシンボリルドルフの映像には思わず観入った。

Mochi

馬名は競走馬に対するイメージを大きく左右する。それを思うと「ディープインパクト」や「アーモンドアイ」という馬名はつくづく素晴らしい。2歳戦が佳境を迎えるこの時期、血統でも馬体でもなく、その馬名に感心させられる機会も増える。

Deep

最近ではペットにも様々な名前を付けるが、ちょっと前までは犬や猫の名前には「シロ」「ポチ」「ブチ」「トラ」「ミケ」などと、毛色をそのまま使っていた。馬も同じで、昔はよほどの名馬でなければ馬に名を付けることはせず、たいていの馬は「アオ」や「クロ」など毛色で呼ばれていたのである。

平家物語「宇治川の先陣争い」のシーンでは、「池月」と「磨墨」という2頭の名馬が登場する。「磨墨」は墨のごとき黒毛馬であるわけだが、「池月」は人でも馬でも誰彼となく噛みつく凶暴な性格から「生食(いけじき)」の名が付き、のちにそれが「いけづき」へと変わったとされる。当時としては例外的な命名からは、その性格の荒さが相当なものであったことが伺い知れる。

近大競馬の祖国イギリスにおいても、馬名はさほど重要視されていなかったようだ。1797年のダービー馬の名前「Colt by Fidget」からもそれは伺える。すなわち「種牡馬フィジェットを父に持つ3歳牡馬」。馬名欄に残るのはそれだけである。イギリスにおいても、よほどの馬でなければ馬に名前を付けるということはしなかったのであろう。

我が国で馬に名前を付けるようになったのは、幕末に洋式競馬が導入されてから。外国人が競走馬に毛色ではない名前を付けているのを見て、それに倣ったようだ。最初は、漢字とカタカナが入り乱れて、字数にも制約はなかったのだが、時代を経て「2文字以上9文字以下のカタカナ」という大原則に辿り着いた。

「日本人のおなまえ」でも紹介されていたが、かつては1文字の名前を持つ馬もいた。1934年4月14日の京都でデビューしたアラブの「ヤ」である。杉本清さんがおっしゃるように「矢」にちなむ命名であろう。だが、残念ながらその後ヤ号が活躍した形跡はない。

ちなみに「日本人のおなまえ」は土曜朝10時05分からNHK総合で再放送される。当日の競馬と重なる時間帯だが、今日の放送を見逃したという方はチェックしておこう。

 

 

***** 2021/12/16 *****

 

 

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2021年12月15日 (水)

競馬場のホルモン

私が住まう大阪・天満界隈は「じゃりんこチエ」に出てくるようなホルモン焼きの人気店が軒を連ねている。店から漂う煙に誘われてついつい入ってしまうこともしばしば。どの店も旨いから、出鱈目に入ってもハズレに遭ったことがない。どこもアタリ。関西ホルモン文化の成熟度合いにはいつも感心させられる。

肉食文化の欧米や中国、朝鮮半島ではホルモンはごく一般的な食材だが、日本でその旨さが広く認識され出したのは比較的最近になってから。私が子供の頃は酒飲みオヤジの食い物というイメージが強かった。それこそ「じゃりんこチエ」の世界である。それが、ビタミンとコラーゲンがたっぷりで美肌効果が期待できるとあって、巷にはホルモン好きの女性が急増。ホルモン焼きに集まる女性は「ホルモンヌ」と呼ぶ風習まで誕生した。

「ホルモン」の語源はドイツの医学用語説が有力とされるが、一方でもともと日本では廃棄していた部位だったことから、「放るもの=ホルモン」と名づけられたという説もある。実際、関西のホルモン文化を目の当たりにした我が身としては、この説を強く支持したい。由来はともあれ、食材として無駄なく利用でき、その上スタミナの源ともなれば万々歳。一報で、かつてホルモン天国だった競馬場からは年々その姿が見えなくなりつつある。

Kanban

そのような中にあって阪神競馬場の「HORUMON人(ホルモン人)」は貴重な一軒と言えよう。阪神開催中の土日の昼メシはココと決めている。ホルモン丼、肉吸いご飯、どて煮。みなことごとく旨い。旨さの秘密は調理にあろう。ホルモン丼も注文を受けてから具在を焼いて、ここしかないという絶妙のタイミングで熱々のご飯の上にザっと載せて出してくれる。だからホルモンの歯応えが違う。

こちらのお店がありがたいのは「今日のご飯」があるところ。日替わりのおかず一皿とお椀に盛られたご飯のセットで300円だから安い。最近は入場時に200円分のグルメクーポンがもらえるから、実質100円で食べられる。写真は「大根とカルビの煮たやつ」。ご覧ください、この巨大な大根を。最初は冗談かと思ったが、中心まで味が染みわたっていて実にうまかった。

Daikon

先週食べたのは「ホルモンステーキ」。もちろん注文を受けてから奥でジューっと焼いてくれる。ホルモンとステーキ? いったいどんな一皿が出てくるのか? ワクワクしながら待つのもまた嬉しい。で、出てきたのはこちら。

Reba   

はい、レバーでした。この焼き加減がまた絶妙。ニンニクと甘辛いタレがまた食欲をそそる。思ったより野菜がたっぷりなのも、独り暮らしのおっさんには嬉しい。

さあ、来週はどんな朝ごはんになるのか。残り2週の阪神開催を満喫しよう。

 

 

***** 2021/12/15 *****

 

 

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2021年12月14日 (火)

朝日と読売の2歳GⅠ

今週末に行われる朝日杯フューチュリティステークスは、数えて第73回目。戦後に制定されたJRA重賞の中では3番目に古い。

第1回は1949年の暮れに行われた。今はなき中山芝1100m戦。レースは1番人気アヅマホマレが1分7秒3のタイムで優勝している。

ちなみにこのレースには翌年のダービーを勝つことになるクモノハナも出走していたが、あろうことかしんがり負けを喫してしまった。さすがに1100mという距離はダービーを占うには短かったのかもしれないが、翌年はトキノミノルが同じ距離の朝日杯を圧勝し、無敗のまま日本ダービーを制している。

朝日杯が始まった翌年には川崎競馬場が開設。さっそくその年の8月に「第1回全日本三才優駿」が実施された。したがってこちらは今年が第72回目。中央地方を問わず2歳重賞の歴史は案外深いのである。

初回のみ中央競馬所属馬を招待して行われたのは今と同じ。ただこちらも今はなき川崎ダート1200mである。勝ったのは、のちに中山の金杯などを勝つサチフサという馬で、8馬身差の圧勝であった。ちなみにこのレースからは、第8回の覇者ダイゴホマレが翌年の日本ダービーを制している。

World

全日本が中央地方全国指定交流競走に指定された1997年には、アグネスワールドが朝日杯と全日本の両方のレースに出走し、全日本を1番人気で制した。この年の全日本は12月29日の実施ということで、朝日杯からある程度の間隔(中21日)が取れたことが大きい。その後、全日本は日程が前倒しになる傾向にあり、逆に朝日杯の方は有馬記念の前週に日程変更されたことで、今では両レースへの参戦はほぼ不可能となっている。2005年にフィールドカイザーが中9日で連戦したのが最後だ。

第1回全日本三才優駿の賞金は中山の朝日杯3歳Sを超えていたというから、当時の盛況ぶりが見てとれる。全日本の方は読売新聞社の後援を受けていたから、読売としては負けられない思いもあったのかもしれない。ともあれ70余年後にこの2つのレースがともにGⅠ(JpnⅠ)の格付けを得ているのは、両者の深い歴史を思えば当然であろう。明日は川崎で全日本2歳優駿だ。

 

 

***** 2021/12/14 *****

 

 

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2021年12月13日 (月)

史上初の2歳GⅠ完全制覇

あらためて昨日の阪神JFについて書く。

3番人気のサークルオブライフが、直線一気の末脚で2歳女王の座をもぎ取った。スタートを決めて中団に待機。「(末脚を)信じていた」というミルコ・デムーロは直線を迎えると鞍上は迷うことなく大外へ持ち出した。その上がり3ハロンは33秒9。しかも徐々に加速度を増していたから凄い。最後は他馬をねじ伏せるように先頭ゴールを果たした。

同距離の重賞を勝っていながら1番人気をクリスチャン・デムーロのナミュールに譲っていたミルコにしてみれば、兄の貫録を示した格好になる。この勝利によって、朝日杯FS(アドマイヤマーズ)、ホープフルS(サートゥルナーリア)、全日本2歳優駿(ルヴァンスレーブ)と合わせ、国内4つの2歳GⅠレース完全制覇を達成した。

これについて「福永祐一騎手に続く2人目の2歳限定のGⅠ完全制覇」と書かれた記事を見かけたが、これは厳密には正しくない。福永騎手は全日本2歳優駿を勝っていない。つまりミルコは史上初の栄誉に預かるべき。しかもその4頭ともが、デビューから全レースの手綱をミルコが取り続けた上での勝利だったことに大きな価値がある。

一流ジョッキーでも乗り替わりと背中合わせのこのご時世。キャリアの浅い2歳戦ですら馬柱の騎手欄に同じ名前が並ぶ馬を探すことは難しい。昨日の阪神JFでもデビュー以来ずっと同じジョッキーが手綱を取り続けていたのは、18頭中5頭だけだった。その5頭のうちの2頭によるワンツーフィニッシュは何かの示唆ではあるまいか。

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「新馬戦から毎回上手に走るようになっています。2戦目は出遅れましたが、それからはスタートが上手くなりました」

「ずっと信じていました」

ミルコのこんなコメントを持ち出すまでもなく、今回の勝利は騎手と馬との絆によってもたらせたように思えてならない。ここ2戦の出遅れを自らの手綱で体感していたミルコと、前走で出遅れたことを知らされていただけのクリスチャンとでは、やはり前者に分があろう。それを承知で多くのファンは後者を支持したわけだが、その明暗はいきなり、そしてあまりにも鮮明に両者を分けた。もちろん偶然の可能性だってある。とはいえ競馬は結果がすべて。近代競馬400年の歴史は偶然と必然とが複雑に絡まりあって紡がれてきた。

しかしその一方で、私が昨日の阪神JFの結果に必然を感じるのは、サークルオブライフが国枝調教師の管理馬であるからだ。アパパネ、アーモンドアイ、そしてアカイトリノムスメの国枝厩舎から、またも牝馬のエース候補が誕生した。こうなるともはや必然としか思えない。冬枯れの仁川に桜の景色が一瞬だけ垣間見えた気がした。

 

 

***** 2021/12/13 *****

 

 

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2021年12月12日 (日)

パソコントラブル中

急にPCのブラウザが動かなくなってしまったたので、とりあえず写真だけでも。

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「阪神ジュベナイルフィリーズはノーザンファームの馬を買っときゃ当たる」

私の周囲からはそういう馬券作戦も聞こえて来たけど、その人たちは今頃瀕死の状態か、もしくは死んでしまっているに違いない。まさかあれほど粒揃いのノーザンファーム生産馬が一頭も馬券に絡まぬとは思わなかったが、もちろんこれが競馬である。

これで今年のノーザンファームの2歳牝馬は2歳重賞未勝利に終わった。これは2014年以来7年ぶりのこと。翌年の桜花賞はレッツゴードンキが逃げ切った。来年の牝馬クラシック戦線も一筋縄では済みそうもない。

  

 

2021/12/12

 

 

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2021年12月11日 (土)

もっとも有名な500万条件

500万条件戦、今で言うところの1勝クラスの条件戦は年間約千鞍が行われているが、その中でも今日の阪神9レースで行われたエリカ賞は、もっとも知られた500万条件戦ではあるまいか。

このレースが芝の2000mで行われるようになった1984年以降33頭の勝ち馬が誕生している。タヤスツヨシ、アドマイヤベガ、キングカメハメハ、エイシンフラッシュ。4頭のダービー馬に加え、クロフネ、アドマイヤグルーヴ、ヴィルシーナだから凄い。名馬ドゥラメンテの両親はどちらもエリカ賞を勝っていた。

さらにはイイデサターン、ノーザンコンダクト、ワコーチカコ、エアダブリン、ヤマニンセラフィム、サクラメガワンダー、アーリーロブスト、スマートロビン、ベルーフがエリカ賞優勝ののちに重賞を勝っている。重賞ウイナーとなる確率は脅威の48.4%。さらにエリカ賞で敗れた馬の中にも、マーベラスクラウンやシュヴァルグラン、ナリタハヤブサといったチャンピオンホースが含まれることを思えば、「エリカ賞」の名を見聞きする機会が増えるのも無理はない。

今年は11頭立て、うち10頭が前走で勝ち上がったばかり。しかも桜花賞馬ジュエラーの産駒や、今年のスプリンターズSを勝ったピクシーナイトの下など素質馬勢揃いで目移りしてしまう。さすがもっともメジャーな500万条件だ。

レースはジャマンが飛ばす流れを5~6番手で追走した3番人気サトノヘリオスが、直線で外から脚を伸ばすとヴェールランスとの追い比べをクビ差制して2勝目を挙げた。勝ち時計1分59秒7はコースレコード。従来の記録が2分00秒4だから、相当速い。10月から10週連続で使われ続けた馬場を思えば相当価値がある。この時季の2歳馬が阪神2000mで2分を切るとは思わなかった。

Erika

サトノヘリオスは前走もレコード勝ちだったから、2戦連続でレコード勝ちを果たしたことになる。とはいえ着差は前走が半馬身、そして今回がクビ。正直評価が難しい。次走でホープフルSあたりを使ってくれないだろうか。

サトノヘリオスの3代母はアイドリームドアドリーム。このファミリーの牡馬はなぜかホープフルSと縁が深い。エアシャカール、エアシェイディ、そしてエアアンセムの3頭が優勝している。だが、サトノヘリオスが今年のホープフルSに出るには実質的に中1週の強行軍をクリアしなければならない。さすがにそれはないか。ならば西の秘密兵器として弥生賞あたりで狙うとしよう。5頭目のダービー制覇はその先にある。

 

 

***** 2021/12/11 *****

 

 

 

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2021年12月10日 (金)

ファンに問う

JRAは昨日、有馬記念のファン投票の最終結果を発表した。

有効投票総数は304万4279票。今年の皐月賞と天皇賞(秋)を制したエフフォーリアが史上最多となる26万742票を獲得して1位に輝いている。2位はグランプリ4連覇がかかるクロノジェネシス。3位が今年の菊花賞馬タイトルホルダー。以下、ソダシ、シャフリヤールと続く。上位5頭のうち4頭が3歳馬とは珍しい。今年の有馬は「ラストランの最強馬クロノジェネシス vs ハイレベルの3歳馬」という構図になりそうだ。

【2021年有馬記念ファン投票結果】
①エフフォーリア   260,742
②クロノジェネシス  240,165
③タイトルホルダー  207,285
④ソダシ       154,889
⑤シャフリヤール   143,842

それにしても26万票はすごい。少し前まで10万票を超えれば「勝ち負け」という時代が長く続いた。もちろん投票スタイルの変化は見逃せない。コロナ禍でネットで競馬を楽しむ人が増えたせいある。しかし一番の要因は豪華プレゼントを用意して、手軽に投票でき、かつ無効票を減らす仕組みを作ったJRAの企業努力であろう。売上に直接結びつかないファン投票に、ここまで力を注ぐ姿には感銘すら覚える。

せっかくなので、過去10年ごとのファン投票の結果を振り返ってた。

【2020年有馬記念ファン投票結果】
①クロノジェネシス  214,742
②ラッキーライラック 212,674
③コントレイル    212,622

【2010年有馬記念ファン投票結果】
①ブエナビスタ    111,323
②ローズキングダム   85,733
③アパパネ       76,197

【2000年有馬記念ファン投票結果】
①テイエムオペラオー 109,140
②ナリタトップロード  89,111
③エアシャカール    85,791

【1990年有馬記念ファン投票結果】
①オグリキャップ   146,738
②ヤエノムテキ    125,717
③スーパークリーク  122,736

【1980年有馬記念ファン投票結果】
①カツラノハイセイコ 154,640
②モンテプリンス   119,601
③カネミノブ     117,265

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かつての有馬記念ではファン投票の順位とオッズが連動しないことが話題のひとつになったりした。カツラノハイセイコもオグリキャップも単勝オッズでは4番人気。それを組織票の弊害と捉える向きがあっことも今となっては懐かしい。近年ではわりと一致する傾向にあるのも、重複投票への監視が厳しくなったせいだろうか。

「ファンが投票によって出走馬を決める」というギミック自体、既に成立しなくなっていることをファンは承知している。ファン投票上位だからと言ってソダシが出てくることはないだろうし、有馬を狙うような馬ならばファン投票のずっと前からローテーションを決めていることが普通になった。

以前から訴えているが、せっかくファン投票を行うなら、年間にもっとも感動したレースを問うてみるのはどうだろうか。サッカーJリーグには「年間最優秀ゴール賞」が存在する。これに倣って「年間最優秀レース賞」を創設して、ファン投票でナンバーワンを決める。それを有馬記念の昼休みに結果を発表。ターフビジョンにレースのビデオを流して、優勝馬の関係者を表彰するのである。有馬記念当日のイベントとしては悪くあるまい。

投票の条件は「感動した」。この一点のみ。GⅠレースに限る必要はない。のちに「伝説」と呼ばれるレースほど実はGⅡ以下であったりする。その感動をなんらかの形で公式記録に残すことは、少なくともファン投票による出走馬選定より意味があると思えてならない。おそらく純度の高い投票結果が得られるはず。ちなみに私はマカヒキが勝った京都大賞典に1票。さて、あなたは?

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***** 2021/12/10 *****

 

 

 

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2021年12月 9日 (木)

【訃報】アグネスデジタル

ソダシの芝・ダートGⅠ制覇が幻に終わり、香港カップを週末に控えたこのタイミングで、元祖二刀流ホースで2001年香港カップの覇者でもあるアグネスデジタルの訃報が飛び込んできた。放牧中の事故で予後不良と診断されたとのこと。24歳だったという。平成の競馬史を彩った名馬がまた一頭この世を去った。

Disital

我が国で芝とダート双方のGⅠレースを勝ったいわゆる「二刀流」のチャンピオンはアグネスデジタルのほかにホクトベガ、イーグルカフェ、クロフネアグネスデジタル、アドマイヤドン、モズアスコットの計6頭。しかし芝、ダートのそれぞれでGⅠを2勝以上しているのは過去にアグネスデジタルしかいない。そういう意味においては真の二刀流であろう。

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もう一つ、アグネスデジタルが他の二刀流チャンピオン5頭と異なのがその過程だ。ホクトベガも、アドマイヤドンも、クロフネも、イーグルカフェも、モズアスコットも芝からダートに矛先を変えて二刀流を為した。芝のGⅠを勝つ能力があれば、そのスピードを生かしてダートをこなすことは珍しくない。だがアグネスデジタルはその逆。先にダートでチャンピオンとなっていながら、13番人気で臨んだマイルチャンピオンシップをいきなり勝ってみせた。しかもレースレコード。地方からの移籍馬を除けば、珍しいケースであろう。

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特筆すべきは2001年秋シーズンからの5連勝。日本テレビ盃、南部杯マイルチャンピオンシップ、天皇賞(秋)、香港カップ、そしてフェブラリーS。こんなぶっ飛んだローテーションで、しかも全部勝ってしまう馬など、もう二度と現れまい。

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天皇賞出走に際してひと悶着あったことを思い出す。当時の天皇賞は外国産馬の出走は2頭までの制限があった。宝塚記念でついにテイエムオペラオーを破ったメイショウドトウは確定。もう一頭は春にNHKマイルカップを勝った3歳馬クロフネが有力視されてファンが盛り上がっていたところに、マイルチャンピオンシップに向かうと思われていたアグネスデジタルが一転参戦を表明する。これに一部のファンは反発。SNS全盛の今ならもっと大騒ぎになっていたかもしrない。

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テイエムオペラオーとクロフネの対決は幻に終わったが、そのアグネスデジタルがテイエムオペラオーを破り、クロフネは天皇賞の代わりに出走した武蔵野Sでダート適性を開花させることになる。結果的にこれがあのJCダートに繋がるのだから捨てたものではない。二刀流が二刀流を生んだのである。

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種牡馬としてはジャパンダートダービーを勝ったカゼノコが代表格であろうが、私の中の最高傑作は札幌記念とシリウスSを勝ったヤマニンキングリー。さすがは元祖二刀流ホース。アグネスデジタルは種牡馬としても二刀流だった。合掌。

 

 

***** 2021/12/9 *****

 

 

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2021年12月 7日 (火)

制限緩和の是非

今日は二十四節気の「大雪」。本格的な雪の時期に入る頃とされるが、大阪の天気は「大雨」だった。気温も比較的暖かめ。明日から週末にかけては最高気温が16~18度に達する予想が出ており、こうなると「大雪」の風情にはほど遠い。

しかし、昨年の今頃は新潟県内の関越道でたいへんなことが起きていた。大雪のため至る所で車の立ち往生が発生。車中泊を強いられるドライバーが続出し、救助のため自衛隊が出動したことは、まだ記憶に新しい。今年はラニーニャの影響で寒い冬になることが予想されている。油断は禁物だ。

地球温暖化が進んでいるはずなのに、年を追うごとに大雪の被害が増えていることを不思議に思う向きもあると聞く。だが、寒波の発生は様々な要因が重なって起こるものなので、温暖化イコール寒波減少という単純な図式には当て嵌まらない。ただ敢えてリンクさせるなら、暑さにせよ、寒さにせよ、雨にせよ、風にせよ、気象現象を極端に増大させるには相応のエネルギーを要する。そういった限定的な視野に立てば大雪も温暖化の産物。ただこの手合いの話は文字通り「ホット」なので、これ以上の言及は避けたい。

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先週の阪神競馬場では、寒いなか屋外で立ち見するファンが大勢いた。それを見て「寒いのに偉いなぁ」と思ったら、今月は試験的に立ち見入場専用の「スタンディングパス」キャンペーンを行っているそうだ。立ち見エリアには1人分のエリアが升目形式で区切られていたり、地面にバミりテープが貼られて「ここに立て」と指示されていたりと、様々な工夫のあとがみられる。

さらに先週からは場内での飲酒も解禁となった。これは大きな一歩に違いない。飲食もこれまではレストラン・フードコートもしくは自席に限られていたのが、「食べ歩きは禁止」という具合に緩和された。そういえば大井競馬場でも今週の開催から5000人の上限はあるものの一般入場が可能になった。口取りの参加人数も制限が撤廃されたと聞く。

中央も地方も徐々に元の姿に戻りつつある―――。

そう思った矢先、今日になって再び「馬主の参加は2人まで」という通達が出された。ファンド出資者の口取り参加も中止だという。理由はオミクロン株の出現。その判断の是非はさておく。とにかくホットな話題は避けるのがこのブログの流儀。いまだコロナの世が続いていることは理解しているつもりでも、再び無観客開催に戻る可能性については考えたくない自分がいる。

先週の阪神競馬場でも、使用禁止席で盛り上がったり、ノーマスクで大きな声で叫んだりする輩もいた。徐々にトラブルも増えているように思う。これを一概に飲酒解禁のせいするわけもいくまいが、感染状況次第では酒の方もどうなるか分からない。制限緩和は三歩進んで二歩下がるといった状況。競馬場にかつての光景が帰ってくる日はいったいいつか。雨空を見上げながら、そう考える。ギリシャ文字の最後の1文字「ω(オメガ)」の登場はご遠慮願いたい。

 

 

***** 2021/12/7 *****

 

 

 

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2021年12月 6日 (月)

大物は暮れの阪神開幕週から

ひと昔前、サンデーサイレンスがクラシックを席捲していた当時のこと。競馬ファンの間には「超大物は暮れの阪神でデビューする」という格言がまことしやかに語られていた。とくに注目すべきは開幕週の新馬戦。1995年から2002年までの間、ここでデビューを果たし、しかも馬券の対象になった馬からのちのGⅠホースを列記するとこのようになる。

1995年 ダンスインザダーク
1996年 キョウエイマーチ、マチカネフクキタル、ステイゴールド
1997年 スペシャルウィーク、ファレノプシス
1998年 ナリタトップロード
1999年 (なし)
2000年 アグネスタキオン
2001年 ファインモーション
2002年 スティルインラブ

理由はもちろんある。クラシックを目指すような素質馬ほど本番までに消耗することは避けたい。無理して早期にデビューさせると心身の成長を阻害することもある。そこで意識的に出走を遅らせる手法が取られた。夏の早い時期は無理をせずにじっくりと成長を促して、12月の新馬を確実に勝ち上がり、ホープフルSやラジオたんぱ杯、あるいは年明けの3歳重賞などで賞金を上乗せするのである。思えば開幕週ではないものの、ディープインパクトも暮れの阪神デビューだった。

しかし昨今は事情が異なる。シャフリヤールは10月、コントレイルは9月、エフフォーリアは8月、ソダシは7月でグランアレグリアに至っては6月のデビューだった。こうして見ると12月のデビューはむしろ遅く感じる。あれほど輝いていた12月阪神開幕週だったのに、この6年間はGⅠホースはおろか重賞ウイナーすら輩出していない。

大物が早期デビューを果たすようになった理由はいくつかある。馴致・育成の技術が向上したこと。2歳重賞が増えたこと。そして2歳戦向き種牡馬が登場してきたこと。これらの要因が重なり、かつてより出走可能な賞金ラインが高くなってトライアルやクラシック本番に出走できない危険が生じた。いくらクラシックに強い血統と言えども、クラシックの出走ゲートに入れないのでは意味はない。

先週土曜の芝1800m戦を勝ったラリュエルは、粗削りなレースぶりながらもダノンプレミアムの弟やジェンティルドンナの娘といった評判馬をまったく寄せ付けなかった。自身の兄ステイフーリッシュにて長く良い脚を使う。父がディープインパクトに替わっているから切れ味勝負にも対応できそうだ。矢作調教師が阪神の芝1800m戦で新馬をおろすのはコントレイル以来のこと。ひとつの伝説が終わった翌週に新たな伝説が始まるかもしれない―――。

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それでも私のようなオールドファンは、12月の阪神開幕週に超大物の出現をどこかで期待してしまうのである。ラリュエルの今後に注目しよう。

 

 

***** 2021/12/6 *****

 

 

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2021年12月 5日 (日)

名残の紅葉

早朝の京都を歩いて名残の紅葉を目に焼き付けることにした。

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ピークを過ぎたモミジは既に色褪せて、落葉している木もほとんど。しかし明け方にひと雨あって落ち葉も鮮やかさが増している。なにより日曜なのに観光客が少ないのが良い。早朝の京都で、モミジの絨毯と化した庭園をひとり眺めれば、誰でも心に平穏が訪れよう。寒さはそれほどでもない。山に響く鹿威しの音。いかん、生まれ変わってしまいそうだ。

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京阪から阪急へと乗り継いで次の紅葉スポットへ向かう。電車に揺られること1時間。たどり着いた先はこちら。

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おお、5Rの新馬戦に間に合ってしまった。勝ったのは牝馬のアル―リングウェイ。芝1200mで強さを発揮するアルーリングアクトの一族だが、父がジャスタウェイであってもその傾向は変わらないようだ。ばらけた展開の3番手を追走。直線でじわじわと逃げ馬に近づくと、ゴール寸前でビュッと伸びてきっちり交わした。着差よりも強さが際立つとはこういうレースを指すのだろう。最後の速い脚にスプリンターの素質の片りんを垣間見た気がする。この印象は忘れないでおきたい。

ところで、ここのどこが紅葉スポットか。いや、ちゃんと紅葉が美しいのである。スタンド2階西のフードコートの窓から六甲の山並みを眺めるとこんな感じ。案外きれいでしょ。

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紅葉を眺めながら食べるホルモン丼がまた美味い。最近すっかりこのホルモン丼にハマっている。注文を受けてから鉄板で焼いたホルモンを白飯の上にザッと載せたあと、特性のタレをかけて青ネギを散らしてできあがり。いろんな部位のホルモンがあって味も歯応えもたまらない。ちょこっと添えてあるコチュジャンを付けるとなお美味い。気取って食べるものでもないので、軽く混ぜてから一気呵成に掻き込む。ああ美味い。

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朝の京都の風情を忘れそうになったので、ここいらで山茶花(さざんか)でも眺めることとしよう。さざんかはツバキ科の常緑小高木。晩秋に白い花をつけ、散るときは花びらが一枚ずつ落ちる。花言葉は「ひたむきな愛」「謙遜」……とJRAの特別レース解説のサイトに書いてある。

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ともあれ阪神9Rさざんか賞は芝1200mの2歳1勝クラスによる一戦。今年は5番人気アルトシュタットが3番手追走から直線での叩き合いを制して優勝した。ノーザンファーム産のロードカナロア牡馬。そう聞くと凄そうだが、印象は正直いまひとつだった。5Rの新馬戦に時計で劣っていたせいもある。どの馬ももう少し距離があった方が良さそうに思えた。芝1400mの頃のさざんか賞の歴代優勝馬にはダイタクヘリオスやファレノプシスといったビッグネームが並ぶが、芝1200になってからはこれといった活躍馬が出ていない。紅葉も気になるが、さざんかの咲き具合も気になるのである。

 

 

***** 2021/12/5 *****

 

 

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2021年12月 4日 (土)

念願のチャレンジカップ

12月最初の土曜日。関東の競馬ファンであれば名物レースのステイヤーズSが行われる日であろうが、今年から関西の競馬ファンになった私にしてみれば「チャレンジCの日」ということになる。

関西で暮らすようになってから間もなく1年。これまで観る機会がなかった関西の重賞を片っ端から観戦してきたが、中でもこのチャレンジCはぜひとも観ておきたいレースのひとつだった。

古馬による芝の2000m。格付けもGⅢでしかない。GⅡ格付けで日本最長距離のステイヤーズSのような興味深さはないが、チャレンジCにはそれに負けぬ歴史の深さがある。創設は戦後間もない1950年。宝塚記念(1960年)や大阪杯(1957年)よりも古い。過去の勝ち馬にシーザー、タニノハローモア、タニノチカラ、ホクトボーイ、ヒカリデュール、ニホンピロウイナー、ワカオライデン、ドウカンヤシマ、マーベラスサンデー、タップダンスシチー、スズカマンボ、ドリームジャーニー、キャプテントゥーレ、そして昨年のレイパパレ。どう考えてもこっちの方が凄いじゃないか。優勝賞品の「チャレンジカップ」そのものも、そのシンプルさゆえに歴史を感じる。

Cup

今年のチャレンジCは11頭立て。道中2番手につけたC・ルメール騎手の1番人気ソーヴァリアントが直線で先頭に立つと、瞬く間に後続を突き放して重賞初勝利を飾った。2着との差は驚愕の3馬身半。最後は手綱を抑えていたから、追えば4馬身以上離していた可能性も高い。歴史の深いチャレンジCでも過去最大着差ではないか。少なくともグレード制導入後に限れば最大着差記録は3馬身だから、それを上回っている。

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お母さんのソーマジックは牝馬3歳三冠に皆勤して3着、8着、7着と健闘したが、重賞タイトルには手が届かなかった。ソーヴァリアント自身もデビュー2戦目の初勝利をカフェイン検出で取り消されたり、勝ちパターンのセントライト記念で人気薄馬の激走に遭うなど不運な印象もあったが、今日の激走でそんな鬱憤は晴らせたに違いない。

Somagic

ルメール騎手は「GⅠでもチャンスがあるでしょう」と振り返った。能力を確認できただけではなく、賞金加算と阪神への輸送に成功したアドバンテージは大きい。目指すは同じコースで行われる来年の大阪杯か。レイパパレの再現を期待したい。ただ個人的には有馬記念に出てもらいたいという思いも。父・オルフェーヴル、母の父・シンボリクリスエスなら、暮れの中山でこそ見てみたいと願うのが東西を問わず競馬ファンの性(さが)であろう。でもそれは来年に取っておくとするか。

 

 

***** 2021/12/4 *****

 

 

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2021年12月 2日 (木)

【訃報】ダイワテキサス

通算11勝、うち重賞5勝の名馬ダイワテキサスが先月28日に亡くなった。現役引退後は種牡馬、乗馬を経て、2015年から功労馬として余生を過ごしていたという。28歳だから、その存在を知らないというファンも多いかもしれない。なにせデビューは1995年7月。「新馬戦がエアグルーヴの2着」と聞けば、我々世代にとっては懐かしいが、若いファンにしてみればもはや昔話であろう。

彼に関しては1998年7月18日に新潟競馬場で行われた日本海ステークス(準OP・芝2000m)でのレースぶりが鮮烈だった。堂々の1番人気で臨んだダイワテキサスはエーピーランドを直線半ばで競り落とすと、瞬く間に7馬身差をつけて圧勝。その勝ち時計1分57秒7に仰天した覚えがある。それまでのコースレコードはサイレントハンターの1分58秒4。それを一気に0.7秒も縮めてみせたから凄い。

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父はリファール系のトロメオ、母はローブデコルテという名前ながら2007年にオークス馬を勝った持込馬のローブデコルテではない。その母カイムラサキはニッポーテイオーの母チヨダマサコの妹で、ニッポーテイオーの父リィフォーはトロメオの父でもあるから、ダイワテキサスとニッポーテイオーはきわめて似た血統背景を持つことになる。ダイワテキサスが日本海Sで見せた強さは、秋の天皇賞馬ニッポーテイオーに通じるものがあった。

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残念ながらGⅠには手が届かななかったが、それでも重賞5勝は立派のひと言であろう。JRAでは珍しい「GⅠ未勝利馬の引退式」が施行されたことがそれを証明している。ちなみにJRAが内規で定める引退式実施の対象馬には「GⅠ競走の勝ち馬」だけでなく、「重賞5勝以上(牝馬、障害馬は4勝以上)」の規定がある。つまり、競走成績の総合評価としてダイワテキサスの戦績はGⅠ勝利になんらひけを取るものではない。

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2000年の有馬記念では13番人気ながら3着に入って話題となったが、その能力からすればGⅠで勝ち負けしてもなんら不思議はなかった。そんなダイワテキサスはオーナー自らが探し出して購入した一頭だったと聞く。決してファッショナブルな血統でもなく、未勝利脱出に6戦を要したこともあり、「有馬記念に出走できるようになるとは思わなかった」と振り返っていらっしゃるが、そのぶん彼への愛情も大きかったに違いない。平成の競馬シーンを彩った名馬の冥福を祈ろう。

 

 

***** 2021/12/2 *****

 

 

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2021年12月 1日 (水)

師走の燗酒

昨日の大阪の最高気温は20.9度。それから1日経ってカレンダーが12月に変わったとたんに一気に冷え込んだ。陽気も律儀なもの。ただ、あまりに暦に厳格なのも困る。

12月は「師走」とも呼ばれる。そのためか、師走の語源は、お坊さんが走り回るほど忙しいからだと思っている人が少なくないようだ。

しかし、実は師走の語源はよくわかっていない。確かにお坊さんがお経をあげるために走り回る月だからという説もあるが、それ以外にも四季の果てる月で「四果つ」の意味だとか、年の終わりで「トシハツル月」が略されたとかいう説がある。あるいは単に「せわしい」が転じて「せわし」とする説もあって、とにかくコレ!と確定的なものがないのである。

寒さに追い立てられるようにおでん屋の暖簾をくぐった。こういう夜は熱々のおでんに燗酒。これに限る。

Osake

外国人から見ると、一年中酒を温めて日本の習慣は奇異に感じるらしい。私の妻は昔から燗酒が好きで、真夏に私がぐびぐびとビールを飲む隣で、ちびちびとお猪口をすすっていた。その時は「この暑いのに」と思ったりしたけれども、最近になってようやく私も燗酒の良さに気づいた。冷やして香りと喉越しを楽しむより、コメの旨味や甘味に重きをおくようになったのである。トシのせいかもしれないが、悪いことではない。

近年の日本酒ブームは「良い酒は冷やで飲むもの」という誤った認識を飲み手に植え付けてしまった感がある。実は私もその一人だった。だが「燗して飲むのは安酒」という認識は、あらぬ誤解である。

もともと日本酒という酒は、温度帯によって味わいが異なる。氷温に近いもの。10度以下の吟醸酒。室温で楽しむ純米酒。そして人肌温度から熱燗までと実に幅が広い。同じラベルでも、温度が違うだけでまるで違う酒に変化するのである。

基本的に生酒以外は燗ができると思って良い。大吟醸酒は香りが飛んでしまうので40度が限度だが、純米、本醸造など、様々な酒と温度の相性を自分で探して見るのも悪くなかろう。燗をつけることで、常温では見えなかった酒の個性が浮かび上がってくることもある。それに気付いた頃には、すっかり出来上がってしまっていることがほとんどだけれど。

千鳥足で店を出た。我々が「師」と言えばお坊さんではなく調教師。とはいえ、調教師の先生が忙しく走るのは年末よりもむしろ春から夏にかけてだから、競馬の12月に「師走」は似つかわしくない。そもそも競馬で走るのは師ではなく馬だ。昔は12月になるとなぜか走る馬がいて、暮れの競馬場に原因不明の波乱をもたらした。今年も「餅つき競馬」が始まる。

 

 

***** 2021/12/1 *****

 

 

 

 

 

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