千人の祭り
昨日の金沢競馬場の入場者数は1023人だった。ちなみに前回のJBC金沢開催では12569人だったから、10分の1以下ということになる。
一般入場が許されたのは事前の抽選で当選した本人のみ。金沢駅のファンバス乗り場でも、競馬場の駐車場でも「当選はがきが無いと競馬場には入場できません」と繰り返し注意喚起されていたが、それでも競馬場で入場を断られている人を見かけた。それも一人や二人ではない。
押し問答になっているのはことごとく年配の男性である。毎日のように競馬場に来ているファンにしてみれば、「昨日が良くてで今日がダメとはどういうことだ?」と言いたくもなろう。競馬場は「すみません。今日はJBCなので」と言うが、正確にはJBCのせいではない。新型コロナのせいだ。
ともあれ、人もまばらなJBCである。この日曜には2734人が入っていた。昨日はその半分も入ってない。2734人がOKなら、昨日にしてももっと入れても良かったんじゃないか? そんなことを思ったりもする。
しかし、こと新型コロナ対策という視点に立てば、地元客だけの2700人と全国から集まる1000人とは全く異なる。実際、東京で馴染みだった馬主やカメラマンとも遭遇したし、北海道の牧場関係者も大勢来ていた。私だって大阪から来ている。それがJBCのコンセプトのひとつなのだから、やはり新型コロナのせいにするしかない。
混雑を避けようと1レース終了後に訪れた食堂もガラガラだった。この店の名物はジャンボチキンフライ。大ぶりのチキンが3個串に刺さっている。今日はJBC仕様で普段よりもさらに大きくしてあるとのことだ。「お祭りだからね」と店主は胸を張る。一本300円。安い。安いが、残念ながら今日の場内はお祭り感には欠ける。
入場の際には、ひとりひとりにお土産が手渡された。これもお祭り演出のひとつ。ペットボトルのお茶が2本。レーシングプログラム。JBCのタオル。それに「ぶどうの木」のバウムクーヘン。その名も「ケイバウム」。
金沢市内の有名洋菓子店「ぶどうの木」では「型抜きバウム」という人気商品が販売されている。「パンダバウム」や「にゃんこのバウム」がSNSで取り上げられ全国的に大ヒット。東京・銀座に「カタヌキヤ」という型抜きバウムの専門店があるが、本店はここ金沢である。その競馬版というわけ。これは凄い。さすがJBC。バウムクーヘンに「お寿司ではありません」の注意書きも初めてみた。さすが金沢。
6レースの直前にひと雨あった。逃げるように飛び込んだ「金澤玉寿司」も空いている。普段なら地元の常連で満席だが、今日は初めてのお客さんばかり。注文に四苦八苦しながら、それでもおかみさんが親切に応対しているのがどこか微笑ましい。GⅠ当日とは思えぬ長閑さ。場内実況はレースが進むたびに「緊張感が高まってきました」と言うが、そんなことはないですよ。
「金沢の馬に頑張ってもらいたいですねぇ」と私。「そりゃあ無理だろうけど、騎手なら勝てるかも知れんな」と大将。いま思えば、ここに大きなヒントが隠されていた。
大将の言葉通りにメインのクラシックを制したのは地元金沢の吉原寛人騎手。ゴールの瞬間に沸き起こった拍手の嵐に観衆千人をしばし忘れる。近くに座るファンは「一矢報いた!」と興奮を隠そうとしない。ここに及んでお祭りムードは一気に最高潮に到達した。金沢のファンにすればこれほどの痛快事はあるまい。入場を門前払いされていたあの年配ファンにも、このお祭り騒ぎに参加してもらいたかった。バウムクーヘンはいらないというかもしれないが。
***** 2021/11/4 *****
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