8年ぶりのJBC
8年ぶりに金沢でJBCが開催される。前回の覇者はメーディア、エスポワールシチー、 ホッコータルマエの3頭だった。果たして今回はどうか。前回同様、1周1200mの小回りコースへの対応が勝負の鍵を握る。
「まるでショートトラックだ」
前回の金沢JBCではそんな敗戦コメントもあったが、今回も新聞紙上には「コースへの対応がカギ」「これからビデオを見て研究する」「内が不利なんですよね?」など、コースに対する不安が並ぶ。逆に言えば、騎手にとっては腕の見せ所であろう。そういうJBCが8年に一度くらいあっても良い。
「内が不利」と聞けば意外に思われるかもしれないが、地方競馬では珍しくない。内側に向かって路盤が低く傾斜しているので、そのぶん砂が深くなっている。内側を走るには余計に力を使わなくてはならない。だから逃げ馬は内ラチから4~5頭分を空けて進路を取る。佐賀競馬場などでもよくみられる光景だ。
水捌け対策の一環ではあるが、外枠救済策と見る向きは少なくない。何もしなければ、小回りコースでは内枠が圧倒的に有利。しかしそれではレースがつまらない。距離の有利不利を砂の深さで帳消しにして公平性を担保しようというのである。
つまり砂の厚さによる不利と距離のロスを最小に抑える最適解を探すことが金沢コース攻略の糸口だ。だが、それは簡単な作業ではない。そもそもコーナーがタイトでうまくコーナリングできない馬もいるほど。馬群も常に密集しており、コース取りはより過酷さを増す。
そんな中、レディスクラシックとスプリントを連勝した川田騎手は凄い。特にスプリントで見せた「イン突き」は見事。逃げるモズスーパーフレアのコース取りがベストより若干外目だったことを見逃さなかった。勝負どころで一瞬だけ内を使うのは地元金沢リーディング達の常套手段。それを大外枠からやってのけるから恐れいる。レコードタイム連発の立役者は川田騎手だ。
ただ、そんな「川田祭り」も、この日のプロローグに過ぎなかったのかもしれない。メインのクラシック、地元吉原騎手のミューチャリーが1着ゴールを果たすと、抽選入場で人もまばらなスタンドから、それでも割れんばかりの拍手が沸き起こった。
地方所属馬によるJBCクラシック初制覇である。JBCが創設されて21年。アジュディミツオーでも、フリオーソでも為し得なかった快挙。殊勲の吉原騎手は「こんな日がくるとは」とコメントしたが、20年間の辛酸を間近で見続けてきた私としてもまったく同じ思いがこみ上げた。
ミューチャリーの頑張りも素晴らしかったが、やはり吉原騎手の好騎乗が光った。3~4コーナーからミューチャリーが選択した進路は、優勝へと続く唯一無二のヴィクトリーロード。吉原騎手にはそのラインがはっきり見えていたに違いない。その進路に沿って巧みに馬を誘導する技術も卓越していた。この舞台を見据えて前走から吉原騎手を配した陣営のファインプレイも賞賛されよう。逃げて7着に敗れたダノンファラオの横山武史騎手が「コーナーが難しい」と言い残したのとは対照的。絶好調の波に乗るJRA騎手をもってしても越えられない壁。「ザ・カナザワ競馬」だった。
***** 2021/11/3 *****
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