定量58キロ
天皇賞を読み解くキーワードといえば、春は3200mの距離、秋なら枠順の有利不利が一般的。さらに春秋共通のファクターとして、牡馬58キロ、牝馬56キロの負担重量があげられよう。写真は2014年秋の天皇賞を勝ったメイショウサムソン。種牡馬引退が報じられましたね。お疲れ様です。彼ももちろん58キロを背負っていた。
一般に負担重量の仕組みは複雑だが、大ざっぱにいえば実績と負担重量は連動しており、勝てばそれだけ重くなる。とはいえ頂上決戦たるGⅠ競走に手加減は相応しくない。だからどの馬も基本的に同じ重量を背負う。
一方で近年は賞金と負担重量の関係は緩やかになり、極端な重量を背負う馬はいなくなった。先週の富士Sにワグネリアンが出ると聞いて、こりゃあいったい何キロ背負うんだ?と思ったら、57キロと聞いて拍子抜けした覚えがある。
20年くらい前まではGⅡでも59キロや60キロは珍しくなかった。1992年マイラーズカップでは60キロのダイタクヘリオスが5馬身差で独走しているし、今や伝説となった1998年の毎日王冠では59キロを背負ったサイレンススズカが57キロのエルコンドルパサー以下を完封している。
ゆえに以前は「天皇賞の58キロが前走より軽い」というケースが珍しくなかった。しかし、最近ではGⅡの重量規定が軽くなった上、有力馬ほど前哨戦を避ける傾向にあることから、毎日王冠や京都大賞典で59キロを見かけることはほとんどない。消耗を避ける意味合いが強いとされるが、重い斤量を背負いたくないという思惑もあろう。しかし、いざ海外挑戦となるとこれが文字通り足枷になることもある。
クロノジェネシスは凱旋門賞で58キロを背負って敗れた。日本国内で一線級の牝馬が58キロを背負う機会はまずない。ディープボンドは59.5キロを背負って馬群に沈んでいる。これを敗因に挙げる声もなくはない。JRAの矢作調教師は「凱旋門賞を勝つためには負担重量を1、2キロ増やさなきゃだめだ」と訴え続けるひとり。そう考えると、初経験となる60.5キロを背負ってあわやの3着に好走したハーツクライのキングジョージは、もっと評価されて良いような気がする。
昭和初期の女傑ヒサトモは、前走から15キロ少ない斤量を背負って1938年秋の天皇賞を制した。前走が71キロ、それが56キロになったのだから羽が生えたようなものか。大差勝ちも当然であろう。昨今の競馬ファンには信じられまい。ちなみに今回の天皇賞のメンバーで前走より負担重量が軽くなる馬はゼロ。人気の一角コントレイルが初めて58キロを背負うというのは、正直意外な気もする。
***** 2021/10/29 *****
| 固定リンク
« 1枠白帽 | トップページ | 1年8か月目の変化 »
「競馬」カテゴリの記事
- 【訃報】スティンガー(2023.09.21)
- オールカマー、いまむかし(2023.09.22)
- クラブ興隆の果てに(2023.09.20)
- 阪神パンステークス(2023.09.19)
- 甦る血(2023.09.18)
コメント