仁淀ブルー
「ニヨドブルー」という言葉を初めて聞いたとき、それを馬の名前と勘違いしたことを思い出した。場所が東京競馬場だったせいもあろう。とあるオーナーが「高知に行ったら仁淀ブルーを見なきゃダメだよ」とおっしゃった。それをてっきり「高知競馬ではニヨドブルーという馬が活躍している」と解釈してしまったのである。もう10年近く昔の話だ。
アンパンマン号に揺られて高知を訪れた先日、ようやくオーナーの言葉を実践することができた。訪れたのは高知市のお隣「いの町」。私の世代なら春の選抜で旋風を巻き起こした伊野商業で有名。眼鏡のエース・渡辺智男投手とPL清原和博との対決は忘れがたい。最近は映画「竜とそばかすの姫」の舞台であろう。町内のあちらこちらに映画のポスターが貼ってある。
仁淀川は西日本最高峰・石鎚山に端を発し、124キロを旅して太平洋に注ぐ。その水は驚くべき清らかさであり、水量は驚くほど豊富だ。車窓から川面を見た瞬間、私は思わず息をのんだ。
車で沈下橋を渡る。「竜とそばかすの姫」にも重要なシーンとして沈下橋が登場するが、ここはそのモデルとなった橋ではない。仁淀川最下流に架かる「名越屋沈下橋」という橋。仁淀川の沈下橋では最も長い全長191mを誇るとのこと。なるほど長い。欄干がないから、ハンドル操作をひとつ間違えれば車ごとドボン。そんな想像が頭から離れない。ハンドルを握る手から汗が吹き出る。
河原に降りると川はまた表情を変えた。川底まで見える透明な水に、ときおり魚影がキラリと光る。聞こえてくるのは水の流れる音だけ。しばし時を忘れる。
「仁淀ブルー」の名付け親は、写真家の高橋宣之さんという方らしい。さすがは光を切り取る専門家だ。実際にこの川を見れば、その「青」が特別な存在であることを痛感する。澄んだ青空と周囲の山々の緑を映し出す仁淀ブルーは、なるほど他の「青」とは明らかに一線を画す。
仁淀川のような美しい川は、かつて全国各地にあったに違いない。だが、そのほとんどは人類の歴史と共に失われた。だからこそ我々はこうした清流に懐かしさや安らぎを覚える。私もすっかり邪念が洗い流されたようだ。ではこれより、失われた邪念を取り戻すべく、高知競馬場に向かうとしよう。仁淀ブルーも準重賞・仁淀川特別も、私としてはどちらも大事にしていきたい。
***** 2021/10/12 *****
| 固定リンク
「競馬」カテゴリの記事
- 【訃報】スティンガー(2023.09.21)
- オールカマー、いまむかし(2023.09.22)
- クラブ興隆の果てに(2023.09.20)
- 阪神パンステークス(2023.09.19)
- 甦る血(2023.09.18)
コメント