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2018年10月 3日 (水)

ステーキの汁

さすがに平取まで行けないので府中にやって来た。

東京競馬場の最寄駅・府中本町から武蔵野線で1駅。北府中駅のほど近くに『カロリーハウス』という知る人ぞ知るステーキハウスがある。使っているのはオージービーフ。霜降り信仰などクソくらえと言わんばかりの赤身肉をしっかりと噛み締めれば、肉本来の味を確かめることができる。

Niku 

ひと昔前、「牛脂注入肉」が世間を騒がせたことがあった。牛脂注入肉を使って「霜降りステーキ」と表示するのは、景品表示法違反の恐れがある。抵触するのは、「実際より著しく良いものに誤解させる」という優良誤認表示。しかし、牛肉を食べる我々日本人の舌にも、実は致命的な誤解が潜んでいるように思えてならない。

「肉汁たっぷり!」

「あふれる肉汁」

「肉汁がジュワーッと」

昨日は肉の柔らかさばかりを褒めるグルメリポーターの話を書いたけど、それだけではなかった。やたらと肉汁をアピールするリポーターも少なくない。では「肉汁」とはいったい何だ? 広辞苑(岩波書店)によれば

 ①牛肉などからしぼりとった液汁。肉漿。
 ②鳥獣の肉を煮出した汁。スープ。
 ③肉を焼くときにじみ出る汁。

とあるが、一般的には③であろう。じゃあ、③そのものがどれだけ旨いのか。ためしに飲んでみるといい。それがステーキの味わいに等しいはずがない。肉汁がステーキの味を構成する大きな要素であることは否定しないし、私自身肉汁にテンションが上がることもある。だが、それがすべてとは思わない。ステーキの美味さというのは、肉片そのものを噛んで得られるすべての感覚によるものである。

すなわちそれは、肉を噛んだ瞬間に押し返される弾力であり、繊維を噛みちぎる時の歯触りであり、程よい油分による滑らかさである。さらに、肉汁に含まれるイノシン酸、アミノ酸といった味覚成分。むろん塩分や香辛料もそこに含まれる。のみならず、ナッツや桃にも似た牛肉特有の香りに加え、それを焼いたことで得られる香ばしさ。ステーキの「美味さ」の正体とは、これらの総合感覚としか考えられない。柔らかさや肉汁だけが美味さの決定的要因ではないはずである。

そもそも、日本独自の霜降り和牛は、すき焼きに代表される日本独自の牛肉料理に合わせて淘汰選別されてきた経緯がある。ステーキにことさら肉汁を求めるのは、TVのレポーターらによってもたらされた誤解がその源流にないか。ステーキの美味さを、その複雑な芳香や舌触りで表現するのは至難この上ない。もっとも手っ取り早いのは、TV画面に流れる肉汁の姿。これなら「ご覧ください、この肉汁!」のひと言でリポーターの仕事は終わる。

さらに誤解は続く。「A5ランク」の肉を最上級のものとしてもてはやす風潮があるが、1桁目のA~Cで示される指標は、一頭の生きた牛から、実際どれだけの肉がとれるかを示す「歩留まり等級」。肉牛業者にとっては重大な指標だが、1人前にカットされた状態でお目にかかる客にとって意味があるものとは思えない。

そんな誤解の集積が牛脂注入肉を生み出したのではあるまいか。もちろん「霜降り牛肉」は日本が世界に誇るべきトップブランド。とはいえ、それを食べる日本人が盲目的であっては、ちと恥ずかしい。

 

***** 2018/10/03 *****

 

 

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