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2017年11月 5日 (日)

国民に愛馬の精神を

映画の話を続ける。

1941年に公開された「馬」という作品をご存知だろうか。監督は「ヤマカジ」こと山本嘉次郎。助監督として撮影を手がけたのは、若き日の黒澤明である。主人公の高峰英子さんが手塩にかけて育てた仔馬が、軍用馬として徴用されてゆく。その別れをテーマに、東北の農村の美しい四季の移り変わりや風俗、その純朴な人柄が描写された写実的作品でありながら、当時の軍用馬の生産・育成・流通についての貴重なドキュメンタリーフィルムでもある。

当時、映画の制作には政府の意向を酌む必要があった。完成してから上映禁止を命じられてはたまったものではない。そこで山本監督自らが陸軍省馬政課に出向き、まずはシナリオを見せて相談してみることにした。すると応対した馬政課長は、あっさりGOサインを出しただけでなく、陸軍大臣名の推薦文まで取り付けてくれたという。ちなみにこの時の陸軍大臣は東条英機。そしてこの馬政課長こそ、映画「硫黄島からの手紙」で渡辺謙さんが演じた栗林忠道騎兵大佐(当時)その人である。

1890年、長野県に生まれた栗林は陸軍騎兵学校、陸軍大学校を優秀な成績で卒業し、恩賜のサーベルを受けている。駐米武官勤務の経験を持つなど、陸軍では珍しい米国通の軍人でもあった。

当然のことながら馬術にも長けており、1937年に大佐に昇格すると当時の日本馬政の責任者である陸軍省馬政課長(のちに馬政局長)に就任。「国民に愛馬の精神を」のスローガンのもと、精力的に馬政施策を実行した。その成果のひとつに「愛馬の日」がある。

「愛馬の日」は戦後も長く続いたが、その主たる目的は「国民の愛馬精神の啓発」ではなく、靖国神社に眠る軍用馬の霊を弔うものに姿を変えてしまった。

しかし1968年にJRA馬事公苑が、

 ・馬への感謝
 ・馬や競馬を愛する人への感謝

という、かつて栗林大佐が抱いた理想に近い精神に基づいて「愛馬の日」というイベントを実施するようになったのである。馬事公苑の年間行事の中では春の「ホースショー」とならぶビッグイベントで、当日は全国各地の伝統馬事芸能の他に、アンダルシアンやポニーの演技、横鞍演技、軽乗演技、各馬術の供覧、ポニー競馬など様々なイベントが目白押しなり、大勢の入苑者で賑わいを見せている。

栗林大佐が目指した「国民に愛馬の精神を」の志は、今も間違いなく受け継がれていることを、我々は忘れないでおきたい。

(明日付に続く)

 

***** 2017/11/05 *****

 

 

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