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2017年10月12日 (木)

芦毛のロマン

今週の秋華賞には3頭の芦毛馬が出走を予定している。アエロリット、タガノヴェローナ、そしてポールヴァンドル。秋華賞の初代優勝馬、ファビラスラフイン以来となる芦毛の女王が誕生するかもしれない。

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原則として両親のどちらか一方が芦毛でなければ、芦毛の子は生まれてこない。芦毛の父親であれ、芦毛の母親であれ、その子に芦毛を伝える確率は50%。むろん隔世遺伝もしない。仮にこの地球上から一度でも芦毛馬が消えてしまったら、二度と復活することはない。

加えて芦毛馬はいわれのない迫害を受けてきた。「芦毛は能力に劣る」という迷信はまだ序の口。ナポレオン登場前の欧州では「芦毛が生まれたら悪魔にくれてやれ」とさえ言われたという。

我が国でも江戸時代は「芦毛は悪し毛なり」と武士に嫌われた。その理由は芦毛馬にありがちな弱い白爪にあったとされるが、明治期に入ると今度は敵の標的になりやすいという理由から馬政局は芦毛馬の競馬出走を禁止する命令を出す。芦毛は絶えず消滅の危険にさらされながら、今日まで生き延びてきたのである。

アエロリットやタガノヴェローナの芦毛は父クロフネ譲り。その母ブルーアヴェニュー、さらにその母エルザブルーと遡ると、6代前には伝説の芦毛馬ネイティブダンサーが登場する。

一方、ポールヴァンドルやファビラスラフインの芦毛はともに母系に流れるカルドゥンから伝わった。その父カロ、その父フォルティと遡れば、近代サラブレッドにおける芦毛中興の祖と言われるグレイソヴリンへとたどり着く。

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昨日付の本稿で、アングロアラブを対象とした血液型による親子判定で不正種付けが疑われる事例が多数指摘されたことを書いた。実は、同時期にサラブレッドを対象に同じ検査が行われている。1973年の検査では3頭の親子関係が否定された。これはいったい何を意味するか。

そう、それはすなわち、サラブレッド300年の歴史の中には事実と異なる血統が存在することを示唆している。アングロアラブの“てんぷら”とは事情が異なるから、すべてが故意ということはあるまい。だが故意であれ偶然であれ結果としては同じこと。国際血統書委員会も、初期の時代に血統の証明は技術的に不可能であったとした上で、「全てのケースを訂正することは不可能である」という見解を示し、不正血統の存在を事実上認めている。

すべてのサラブレッドの父系を遡ればわずか3頭の始祖に辿り付くことから、「血のロマン」が謳われるサラブレッド。だが、その血統表が真実であるという保証は、実はないのである。

だが、芦毛はそんな人間側の都合とは無関係に、その不思議な毛色を細々と伝えてきた。

ネイティブダンサーもグレイソブリンも、いやそれだけでなくすべての芦毛馬の芦毛は、1704年生まれのオルコックアラビアンという芦毛のアラブ馬に到達する。これが真実であることは芦毛の遺伝子が証明済み。「血のロマン」を謳うなら、むしろこちらであろう。

幾度にも及ぶ消滅の危機を乗り越え、何代も何代も一本の糸をつなぐように伝わってきた芦毛には、生命の不思議な力が秘められている気がしてならない。初めて競馬場を訪れたビギナーや女性ファンは無条件に芦毛馬を応援することが多いが、それは自然な流れ。むしろ正解であろう。

 

***** 2017/10/12 *****

 

 

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