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2017年5月31日 (水)

思い込みの恐ろしさ

とある原稿のゲラが送られてきたので、今日は浦和にも行かずゲラ校正に精を出した。実はまだ体調が完全ではない。七分のデキといったところか。

「ゲラ」とは原稿が記事になって印刷される前に、誤りがないかを確認するために使ういわば試し刷り。その特殊な呼び名の語源は、古代の戦争に使われた船「ガレー」にある。

もともと活字を並べて収めておく箱を「ゲラ」と呼んでいた。箱の中にびっしりと並ぶ活字を、狭い船の中でひしめく兵士になぞらえたというわけ。手書き原稿が減り、専門の職人さんが活字を拾うこともなくなった現代でも、確認作業の大切さは変わらない。「ゲラ」という言葉も、そのまま生き続けている。

ともあれゲラを読む。するとそこには編集者の感じた疑問や指摘が書き添えてある。ドラマ「校閲ガール」をご覧になった方ならイメージしやすいかもしれない。

編集者の口調は総じて遠慮がちではあるが、その割に核心部分を一撃でグサリと突き刺してくる。

「○○さん(私の名前)の脳裏に残るレースぶりが書いてある通りなのでしたら、特段修正の必要はないかと存じます。ですが少なくとも私の見たところでは……云々」

私とて人間であるから間違いはある。しかしそれより深刻なのは思い込み。他人に指摘されるまでは「正しい」と思っていたことが、実は間違っていた。そんなエピソードは星の数ほどある。だがしかし、簡単にそれを認めてしまえば、誤った認識に基づいた誤った人生を送ってきたことになってしまうので(大袈裟)、編集者の指摘を簡単に受け入れるわけでもない。あらゆる手段と惜しみない時間を投入して、どちらの言い分が正しいのかを検証するわけだが、これまで私に軍配が上がったことは一度としてない。

恥ずかしながら、思い込みの例をひとつ挙げる。かつて共同所有した一頭の黒鹿毛の牝馬を、私は「芦毛」だとずっと思い込んでいた。父のスウェプトオーヴァーボードが芦毛。母のパルセイトも芦毛。芦毛同士の子でも芦毛に出るとは限らない。それは知っている。ただ、購入を決める前から、どうやら芦毛だと思い込んでいたようだ。カタログで毛色の確認もしなかった。いや、したのかもしれないが、それでも思い込みが勝った。

1歳時に初めて見た彼女は黒っぽかった。黒鹿毛なのだから当然である。だが私は「いかにも芦毛らしいなぁ」と呟いて、牧場スタッフを混乱させた。

Kouma 

2歳時にレースを勝った彼女と一緒に記念写真に収まった時は、調教師に「なかなか白くなりませんね」と口走ってしまった。きっと興奮で頭がおかしくなったと思われたに違いない。

Funabashi 

その年の暮れ、東京2歳優駿牝馬の登録馬一覧を目にした私は「アッ!」と声をあげた。彼女の毛色が「黒鹿毛」と誤記されているではないか。天下の大井競馬がなんたる不始末。それで登録担当に怒鳴り込んで、ようやく自分の誤りに気付いた。まさに汗顔の至り。だが、2年間も白だと信じて疑わなかったものが、急に黒だと言われても簡単に受け入れられるものではありませんよ。だって、「早く白くならないかな~」って、ずっと楽しみにしていたんですからね。とにかく同じ間違いでも、思い込みによる間違いは怖い。

ゲラを読み返す際は、いっさいの偏見や思い込みを頭の中から排除することが求められる。言うは易し。正直簡単ではない。しかし、一方でこの姿勢は実は馬券検討にも通じる。

「スウェプトオーヴァーボード産駒にマイルは長い」

「香港の馬は瞬発力に劣る」

「4週連続GⅠ勝ちなんて、できっこない」

これらは、いずれも偏見や思い込みの類い。どれだけまっさらな目で馬を見ることができるか。それが馬券的中に繋がる……という理念は、決して思い込みではないと信じたいのだが……。

 

***** 2017/05/31 *****

 

 

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