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2017年3月13日 (月)

菊池寛先生の競馬観

明けて10歳のシーズンを迎えたドリームバレンチノが、明日の高知・黒船賞で節目の50戦目を迎える。

もし勝つようなことになれば、ダートグレードレースでは初の10歳馬による勝利。しかし、それは決して夢物語ではない。なにせ昨秋の東京盃を勝ったばかり。黒船賞の1着賞金2100万円を獲得すれば、生涯獲得賞金も5億円に到達する。まさに「無事是名馬」を地で行く存在だ。

Dream 

「無事是名馬」という言葉は、競馬に限らず世間一般に広く使われている。はるか昔の戦国武将が残した言葉と勘違いされることがあるが、これは作家であり、文藝春秋社長であり、そして何より馬主でもあった菊池寛氏が残した金言にほかならない。

もちろん馬券も大いに楽しんだ菊池寛氏は「無事是名馬」のほかにも、

「情報信ずべし、しかもまた信ずべからず」

「馬券は悟りがたし。大損をせざるをもって、念とすべし」

といった数々の名言を残しており、現代にも通じる馬券哲学の祖をなした偉人である。たしか「穴人気」という言葉を最初にメディアで紹介したのも菊池氏だったはずだ。

しかしながら、氏の「馬運」は「文運」に遠く及ばなかった。東京馬主会への入会が認められず、やむなく新潟馬主会の会員となるが、それも“ハイブレッド事件”により退会の憂き目を見る。自身の所有馬ハイブレッドが新馬戦で2着入線を果たすも、騎手がゴール前で故意に手綱を絞ったとして失格となり、その連帯責任を取らされたのだ。競馬を純粋に愛した氏にすれば、まことに心外極まる出来事に違いあるまい。

氏の競馬を愛する気持ちは、馬券発売もなく、観衆わずか200人で行われた日本ダービー(1944年)を観戦していたという有名なエピソードから察することができる。しかし、さらにそれを遡ること14年前。1930年に読売新聞に寄稿された一文からも、氏の競馬にかける思いが読み取れて、非常に興味深い。以下に引用させていただく。

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競馬に対する誤解がこのごろしばらくなくなって、見るためのスポーツとしてラグビー、野球などと等しく男性的で壮快な競技であることが認められてきたことは、たいへんいい事だと思う。勝ち馬馬券を買うということも鑑定の巧拙に依って、勝敗が定まるのだから、単なる投機や賭博とは違うと思う。また一日、日光に浴しながら場内を右往左往することに依ってゴルフに劣らないくらい、健康にもいいと思う。ただ今まで競馬が賭博類似のように見られていたのは、競馬に対する理解がなかったからである。読売新聞が競馬欄を設けたことで真正の競馬趣味がもっと普及されればたいへんいいことだと思う。英国のダービー日に全英国が熱狂するほどでなくとも、せめてナスノとハクショウとの勝負に全東京の市民が関心を持つ程度になればいいと思う。

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いつか競馬をメジャーなスポーツに―――。そう訴え続けた野平祐二氏の言葉に、どこか通ずるものを感じやしないか。この一文は1930年3月20日付読売新聞10頁に、中山競馬場で行われた追い切りの模様を伝える写真入り記事などと共に掲載されているので、興味のある方は図書館で縮刷版をめくってみるといい。

いずれにせよ、これほどの一文を新聞社に寄せるほどの人物が、不正にくみするとは考えにくい。さぞや不本意であったと察する。「無事是名馬」は、こうした不祥事や故障馬に泣かされた菊池氏の実感から自然に生まれた言葉に違いない。それはいつしか競馬の世界を飛び越え、いまや誰もが使う日常の言葉に昇華した。しかしもっともその言葉が似合うのは、やはり競馬においてであろう。明日のドリームバレンチノの走りに注目だ。

 

***** 2017/03/13 *****

 

 

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