« 熱狂、贔屓、そして… | トップページ | 真打はまだか »

2016年11月28日 (月)

サブちゃんのJC

パドックに姿が現れると、周囲を取り囲んだ観客から「おぉ!」という声が上がった。

ジャパンカップ出走の1枠1番キタサンブラック……ではない。そのオーナー、北島三郎氏その人である。

頸椎症性脊髄症と診断されたのは8月下旬のこと。9月に手術を受けたばかり。博多の公演ではイスに座ったまま歌われたとも聞いた。そんなサブちゃんが東京競馬場に駆けつけるという。例年ならタレントや大物スポーツ選手がゲストとして招かれるのが当然のジャパンカップなのに、今年はそれがほとんど話題にならなかった。自前の柔道選手を起用したJRAの対応も意味深長に思える。そういう意味で、サブちゃんは今年のJCの主役だった。パドックで愛馬を見つめるその姿にファンも安心したに違いない。

しかるのちにJC出走馬たちが姿を現した。先頭はキタサンブラック。その姿を見て、今度はサブちゃんが安心したことだろう。530キロの雄大な馬体は明らかに他を圧倒しており、しかも極限まで研ぎ澄まされている。ゴールドアクターの応援にやってきたという関係者でさえ、「(キタサンブラックは)すごいな……」と言ったきり声を失った。

Take 

これまでのキタサンブラックは常に挑戦者という印象だったが、今回は受けて立つ立場である。果たして、これだけのメンバー相手に府中の2400mを押し切れるのか―――。

そんな心配はまったくの杞憂に終わった。楽にハナに導くと、前半1000mは61秒7。早くはないが、かといってスローでもない。まさに絶妙。この時点で勝負あった。直線に向いて、リアルスティール、ゴールドアクター、サウンズオブアースといったライバルたちが次々と襲いかかるが誰も追いつけない。並ばれかけて諦めてしまうような、そんなレベルの逃げ馬ではないのである。いやそもそも「逃げ馬」という呼び方すら、もはやふさわしくはなかろう。ラチに頼らぬレースぶりが何よりの証拠。馬場の真ん中を駆け抜けたその大きくしなやかなストライドは、最後まで乱れることはなかった。

Kita 

レース後、検量前に下りてこられたサブちゃんの涙は忘れがたい。生まれ育った北海道のご実家では、馬、ニワトリ、アヒル、そしてタヌキまで飼われていたという。動物好きが高じて競馬好きになったとご自身はおっしゃるが、馬を見つめるその姿からは、馬を愛してやまないその人柄が溢れ出ていて止まるところがない。それがファンにも伝わるのであろう。ウイナーズサークルに向かう地下馬道で、ファンが歌う「まつり」が聞こえてくると、サブちゃんはまた涙をぬぐった。

実はサブちゃんの体調は万全ではなかったとお察しする。地下馬道ではカートのような乗り物に乗って移動し、パドックにも車椅子が用意されていたほど。しかし、そんなことを微塵も感じさせない足取りで表彰式に登場し、ファンと一緒に「まつり」を熱唱される姿を見て、こちらのほうが涙を禁じえなかった。馬ではなく、かといって騎手でもなく、これほどまでにオーナーが祝福されたジャパンカップはおそらく過去にはあるまい。タレントや歌手などのゲストを呼ばなくて正解。今年のジャパンカップは、間違いなくサブちゃんのレースだった。

 

***** 2016/11/28 *****

 

 

|

« 熱狂、贔屓、そして… | トップページ | 真打はまだか »

競馬」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 熱狂、贔屓、そして… | トップページ | 真打はまだか »